雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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いよいよタイマンバトルのゴングを鳴らせそうです。テンション上がってきました。


ep.26 それでも

 

 

 

「上鳴ぃ〜! 頼むよー! お前にしか頼めねぇんだよぉ!」

 

 

「えぇ………やだよ面倒くさい。着て貰いたいなら自分で頼めよ。俺関係ないじゃん」

 

 

善院と話を終え、会場を散策していた上鳴は半べそ状態の峰田に捕まっていた。

どうにも上鳴に協力してもらい、八百万を上手く誘導してA組女子にチアリーダーのコスプレをさせたいという話だった。

 

 

───分からん。マジで分からん。そもそも会場で何人か踊ってるだろう。それで満足しとけよ。

 

 

「ほら………お前も見たいだろ? 耳郎のチア姿。素直になれよ上鳴ィ」

 

 

「別に」

 

 

「何て透き通った目で否定するんだ……八百万は? 八百万なら?」

 

 

「別に」

 

 

「芦戸! 蛙吹! 麗日! 葉隠!」

 

 

「だから興味ねぇって。別に誰が着てようが一緒だろ。しつこいぞお前。そんなんだからあのルールで負けるんだよ」

 

 

「あぁぁぁぁ!!? 事実陳列罪だぞヤメロよな!」

 

 

峰田の個性には騎馬戦で無双できるだけのポテンシャルがあった。彼のモギモギで騎馬の動きを止めてもう1人の騎手である蛙吹でハチマキを確保。死角の存在しない障子の圧倒的な機動力で自分達を狙う騎馬から逃れつつ、峰田が足止めを担当すれば先ず負けない。

 

 

───峰田達を倒した瀬呂チームには芦戸が居たからな。アイツの酸で溶かして取りに行ったんだろうが、それにしたって負けるとは思わなかった。

 

 

上鳴の峰田への評価はそれなりに高い。

峰田は補習で文句を垂れることも多いが手を抜いたことはなく、自己分析能力が高いのか個性の扱いが上手い。他者の能力と自分の能力の擦り合わせもA組の中では高い部類になる。

 

 

───単体ならともかく、誰かと組めばそれなりに面白くなる奴だと思ってたんだがなぁ……

 

 

「そ、そんな冷たい目で見んなよ……オイラだって手ぇ抜いた訳じゃねぇんだよぉ……」

 

 

「明後日からの補習は覚悟しろよ」

 

 

「あああああ! 慈悲を! 上鳴様慈悲を!」

 

 

「そんな物は、ないっ!」

 

 

カッと目を開き言い切る上鳴に峰田は崩れ落ちた。

 

 

そのタイミングで会場全体にアナウンスが掛かった。

 

 

『1年生の部最終競技にて参加者の1人から辞退の申し入れがあったため、既に最終競技の参加が決まっている生徒以外の騎馬戦出場者は競技場までお集まりください。繰り返します───』

 

 

「上鳴! オイラ行ってくるよ! だからトーナメントに出られたらいつも通りに」

 

 

「ならない」

 

 

「チクショウメ───ッ!」

 

 

 

 

 

「何でだよ庄田……!」

 

 

鉄哲が困惑を滲ませながら参加辞退を表明した庄田に言った。

口に出したのは鉄哲だけだったが、内心ではこの場にいた全員がそう思っていた。

庄田は一文字に固く結んでいた口を開け、その疑問に答えた。

 

 

「騎馬戦の記憶が僕にはないんだ……皆んなが力を出して競い合って勝ち取った座を、実力如何以前に何もしていない者が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反すると思う」

 

 

「でもよ……!」

 

 

「この選択が愚の骨頂である事は百も承知だ。しかし僕は、それでも悔いを残したくない」

 

 

庄田の言葉に誰も何も言えない。

このまま戦えば悔いが残ると言い切ったその覚悟の強さに硬く拳を握るだけだ。そして、主審であるミッドナイトが庄田の申し入れを受け入れたからこの場が用意されている。決意に水を差すような真似はできなかった。

 

 

「という訳で、普通なら順位の高いチームから1人繰り上げるところなんだけど……全員同じなのよね。そこで何だけど、くじを引くか自分達で誰を本選に送り込むか話し合うか、どっちがいい? 時間はあまりあげられないけど、悔いが残らない方を自分たちで選んでほしいの」

 

 

ミッドナイトの言葉に集まった生徒たちは騒めいた。くじは無難な選択肢ではある。じゃんけんの勝者を選ぶのも良いだろう。しかし、B組の1人である骨抜が一歩前へ出て頭を下げながら言った。

 

 

「A組の皆には申し訳ないんだけど、ウチの物間を繰り上げさせて欲しい」

 

 

「何を言ってるんだ骨抜!」

 

 

真っ先に声を荒げたのは物間だ。

焦りだけでなく困惑すら混じる物間の表情を見たB組の他の生徒たちもまた、揃ってA組に頭を下げた。

 

 

「コイツ、自分のせいでB組が負けたって気にしてんだ」

「勝ち目が薄い上鳴達の足止めを買って出たのもそれが理由だった」

「私たちは物間にお膳立てしてもらったのに勝てなかった……A組は強い。今は経験と意識の差が出て歯が立たなかった……けど」

「頼む! 物間に、俺たちにチャンスをくれ!」

 

 

物間は口を開けたり閉めたりしながら、何を言えば良いか分からず肩を震えさせるだけだ。

 

 

御涙頂戴で物間を繰り上げようだなんてB組の生徒らも思っていない。無理だと言われれば当然、引き下がるつもりである。

 

 

しかし、その光景を目の当たりにして何も思わないほどA組の面子は冷たくない。

 

 

何より最強へと挑み10分弱も耐える難しさというのは、上鳴電気と彼のチームメイトである3人の実力をこの場の誰よりも知っているからこそ分かっていた。

 

いの一番に口を開いたのは峰田だ。

 

 

「いいんじゃね。なあ?」

 

 

全員に同意を得るように、峰田はクラスメイトへと顔を向けた。

 

 

それに葉隠が頷きながら「じゃあ、私も物間くんを推薦しちゃおっかな?」と明るく言った。

 

 

「……峰田と葉隠が言うならいいか」

「う〜! 悔しい気持ちはある! けど、透ちゃんが言うなら仕方ない!」

 

 

残るA組の面子も「いいよ!」と声を揃えた。

 

 

「駄目だろう、それは」

 

 

しかし推薦を受けている本人が苦虫を噛み潰したかのような面で否定する。

 

 

「これはクジかジャンケンで決めるべき案件だ。僕たちの敗北に優劣なんてない。何なら僕は勝てると思って拳藤達を巻き込んで、負けたんだ。責を負って辞退するのが筋だ」

 

 

そう言って奥歯を強く噛み締める物間の手は硬く握り込まれ、拳は真っ白になっていた。

気持ちは分からないでもない───その様子を見ていた生徒らはそう思った。同情で繰り上げられるのはプライドが許さず、責任を感じているからこそ、その座を受け入れられない。

 

 

このまま話は膠着するかに思われたが、拳藤が勢いよく物間の背中を叩いて、言う。

 

 

「だからアンタが行かなくちゃいけないんだよ、物間」

 

 

「……拳藤」

 

 

「戦って、勝って、勝ち進んで───証明しろ。私たちがここに居たってことを」

 

 

物間は拳藤の言葉に目を伏せ、そして。

 

 

「───分かった」

 

 

ただ一言、そう口にした。

 

 

 

 

 

そして時間は流れ───最終競技。

 

 

第一試合、緑谷対心操。

そして続く第二試合、轟対瀬呂。

 

 

緑谷は心操の個性”洗脳”により一時窮地に陥るが、リングアウト寸前で個性を暴発させることで意識を取り戻し、フルカウル5%による打撃で心操を一発K.O

 

 

轟も試合開始直後に瀬呂から急襲されるが、返す一撃として放った最大出力の大氷結により瀬呂が戦闘不能となったことで決着した。

 

 

2試合で僅か5分。

 

 

時間だけを見るなら雄英体育祭史上でも稀な瞬殺劇だった。

 

 

───早過ぎでしょ……ってのは言ってたらダメだね。ウチも似たり寄ったりになりそうだし。でもちょっとくらい心の準備をさせてよ

 

 

耳郎は選手入場口へと続く廊下で、身体の震えを抑えようとストレッチをしている最中だった。

 

 

「……こんなんじゃ駄目だ」

 

 

緊張、不安、何より上鳴に対して感じた違和感。それが耳郎から落ち着きを奪い、試合開始までもう幾許も無いのに焦燥感だけを募らせていく。

 

 

───上鳴の、あの言葉の意味は。

 

 

聞くつもりは無かった。

いや、その事を聞き出そうと探し回っている時に聞いてしまった。

だが、その場で全容を知る事は叶わなかったが、耳に入った言葉を調べることくらいはできた。一つずつ丁寧に調べていく内に、嫌な汗が止まらなくなっていった。

 

 

───俺、来てみたかったんだよなマック。

 

 

補習が始まる前日に、皆んなで行った場所でそう言ってぎこちない所作で注文をする上鳴を、耳郎はハッキリと覚えている。

 

 

コーラを飲んでいるとは思えない早飲みを見た麗日が「麦茶みたいに飲むやん」と言ってツボに入ったことも、昨日のことのように思い出せる。

 

 

上鳴は指で突こうがプラグを差し込もうが反応しないから、いつも最後は耳郎が折れて声をかける。それには直ぐに反応するから、耳郎も違和感を覚えていた。

 

 

その真相が───味覚の異常。調べてみれば痛みを感じない可能性まで突きつけられた。

 

 

───お昼ご飯はいつも焼きそばとサプリだった。だから飽きないの? って何気なく聞いたこともあった。本当は嫌だったかもしれない。

 

 

『さァ! 気を取り直して第三試合! 東コーナー! ここまで全競技1位! 雄英入学前から仮免許を持ち、何ならインターンまでこなしていた実績を持つ史上最強の1年生! ヴィラン襲撃の際はネームドヴィランを複数名叩きのめした超新星! お前のような新入生がいるかッ───上鳴電気ィ!』

 

 

観客のボルテージが増す。

次に呼ばれるのは耳郎だ。

 

 

「あっ………行かなくちゃ……」

 

 

ふらふらとした足取りで青白い顔のまま向かおうとする耳郎の背後から、コツン、コツンと靴音が聞こえてくる。

 

 

「誰っ!?」

 

 

ここは特段の事情が無い限り、原則は選手と雄英関係者しか立ち入れない。

 

 

突然現れた気配に耳郎が振り向くと、そこには和装にブーツを併せた金髪の軽薄そうな男──善院が立っていた。

 

 

「君が耳郎さんやね」

 

 

「貴方は、上鳴と居た………」

 

 

「そうそう、僕は善院言います。よろしゅうな。デンキくんの先生やってました。ヒーローとしても、お医者さん的な意味でもな」

 

 

あ、お医者さんの方はまだ引退してないでと善院は笑って言うが、耳郎には届いていない。また一段と早くなった心臓の音がそれを掻き消してしまったからだ。

 

 

「実況席の2人は後輩でな。ちょっとだけ時間稼いでくれって頼んどいた」

 

 

『───え? カメラの調子が悪い? おいおいしっかりしてくれよなァ! 観客とテレビの前のリスナー諸君! どうも機材トラブルがあったみたいだ! 選手入場は少し待ってくれよな!』

 

 

「………デンキくんから聞いてた話とエライ違いや。今の君をあの子の前に送るわけにはいかん。とっとと棄権し」

 

 

善院は冷たくそう吐き捨てるように言った。

言い返そうにも耳郎の口から言葉は出てこない。少ししてから絞り出せたのは「盗み聞きしてしまってごめんなさい」という謝罪の言葉だけ。

それが少し意外だったのか善院は何度か間断なく瞬きした後、言った。

 

 

「君、僕らの会話聞いとったやろ? デンキくんからは見えんかったやろうけど、僕の位置からはよう見えとった。それは別にかまへんのや。別に本人も隠しとらんし───ただ、あの子の体質を理由に戦えへんならアカン」

 

 

善院は教え子を諭すように、優しい声音で言葉を続けていく。

 

 

「あの子は個性事故で脳機能が狂ってもうた。そのせいで20歳までしか生きられへん身体になって、4歳から5歳くらいまではほぼ寝た切り。それをどうにかする為に人類には真似できん拷問みたいな治療を受けてきたんや。やった俺が言うのもほんまアレやねんけど……頭おかしいんよ、デンキくんは」

 

 

上鳴の異常な身体能力と個性出力を思い出し、耳郎は口を固く結ぶ。何も言えない。言えるはずもない。人間の感性は経験によって形作られる。耳郎の想像を絶する艱難辛苦の道のりを駆け抜けてきた上鳴に言える事など無かった。

 

 

「あの子にとって戦いは何よりも楽しい娯楽や。痛みを感じられへん肉体でも戦いの熱だけは分かるらしいわ。昔から片鱗はあったけど酷うなったんは2年前くらいやったか───まあ、あの子なりのルールとか基準とかがあるんやろうけど、その辺りは割愛しとくで。今関係あらへんし」

 

 

善院は目を細めた。

 

 

「デンキくんは今が一番不安定なんや。そんなタイミングで、期待しとった子が情けない面で出てきたら……取り返しが付かんことになるかも分からん。君には悪いけど、ここで何もせずに降りてくれ。元から人の後ろに付いてまわって得た順位や、然程影響はあらへんやろ」

 

 

───分かってた。分かってたことだ。今言われたことも。この場に居られるのだって、私の実力じゃないことも。

 

 

耳郎は拳を握りしめた。それから両目から零れ落ちそうになる熱を落とさないように必死に堪えた。

 

 

「……泣けば楽になれるで。そらしゃーない。悔しいのも悲しいのも分からんでもない。俺かて折れて諦めた人間や。ホンマは君にこんな事を言う資格なんてない」

 

 

善院とて本当はそんな事を言いたくはない。

出来ることなら気持ちよく戦って欲しいという気持ちがある。

 

 

───けど、あの子をヴィランに堕とす訳にはいかんのや。

 

 

もしそうなった時、上鳴を止められるのは手の内を知り尽くした自分か平和の象徴くらいだということを理解している。電気系の個性は厄介で、それを操る上鳴自身は殊更に凶悪だ。

 

 

だから可能性は潰しておきたい。

 

 

例えそれが将来有望なヒーローの卵の人生に影を落とすことになったとしても───

 

 

「「それでも」」

 

 

善院と耳郎の声が重なった。

目を見開く善院に、目元を拭った耳郎が言う。

 

 

「……ううん、だからこそウチは、行かなくちゃいけないんです」

 

 

「……何でや?」

 

 

「アイツには助けられてばっかりで、ウチはまだ何にも返せてない。見せられてないから」

 

 

耳郎は両手で自分の頬を叩いた。

 

 

───シャンとしろ、耳郎響香。私が今すべきことはウジウジ悩むことじゃないだろ。私がしなくちゃいけないことは、私がしたいことは何も変わらない。

 

 

「それに……人を前菜(オードブル)呼ばわりした後に帰られても困るんスよ。絶対爆豪とか荒れるし。そうなったらウチに飛び火するんで」

 

 

その言葉に善院は「ぷ、何やそら」と吹き出した。しかし、耳郎を否定する事も止める事もしなかった。

 

 

「だから行きます。今だけは───もう、迷わない」

 

 

そう言って、耳郎は善院に背を向けて光が差し込む入口に向かって歩き出した。

 

 

その背中に善院が問い掛ける。

 

 

「デンキくんは子供や。楽しなったら力加減をよくミスる。騎馬戦かて火傷までさすつもりは無かったやろう───あんだけで済む保証はないで」

 

 

最後通牒だ。

耳郎はそれに笑って答えた。

 

 

「怪我が怖くてヒーローは務まらないでしょ」

 

 

「そうか。ならもう俺から言う事はもうあらへんな───強い、ええ目になった。君にならデンキくんを任せられる」

 

 

善院はスマホからメッセージを送り、それを合図にマイクへ音が入る。

 

 

『大変長らくお待たせしちまいソーリーだぜリスナー諸君! 満を持してこの子の登場だ! どの競技も連携が光るロックンローラー! その音で俺たちをもっと痺れさせてくれ───A組、耳郎響香ァ! 俺はこちらを応援してぇ!』

 

 

『おい』

 

 

大歓声に打たれながら耳郎は武舞台へと足を踏み入れる。

 

 

既に武舞台の上にいた上鳴が自分を見て嬉しそうに頬を綻ばせる姿に、耳郎もまた自然と笑みを浮かべた。

 

 

「待たせてごめん」

 

 

コース料理におけるオードブルの役割は食欲を駆り立てること。上鳴はただ戦う順番にそれを当て嵌めていっただけ。それは耳郎も分かっている。

 

 

───まだアンタにはこれっぽっちも追いついてない。100回やっても1000回やっても結果が変わらないのは分かってる。でも……万に一つの勝ち目も怪しい。だけど。

 

 

「噛み締めなよ───私を」

 

 

負けるつもりで戦いの場に赴くヒーローなんていないのだから。

 

 

 





組合せが原作と同じで変化の付けようが無い組合せに関しましては申し訳ないですが短縮させていただきたく思います(苦渋)
耳郎ちゃんを曇らせたまま戦わせると上鳴が露骨にヴィラン堕ちルートに入ってしまうため一旦晴れてもらいました。まだまだ曇るよって言うと最悪の天気の子みたいで嫌やな……


次回───”実力で運を掴むんだよ”
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