雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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飽き性の自分が30話も話を書けたのは皆様のおかげです。ありがとうございます!


ep.30 Braver

───母は俺の左側が醜いと、煮湯を浴びせた。

 

 

正直、あまりの衝撃で言葉を失った。

まるで創作の主人公のような過去を聞いて、気の利いた言葉を掛けられるほど僕は人生経験が豊富ではない。

 

 

───お前がNo.1の何なのかは、興味がない。だが俺は……この力を否定する為に、1番にならなくちゃいけない。

 

 

ただ───憎しみで前が見えなくなっている彼の瞳の奥に、助けを求める幼い頃の彼が見えた気がした。

 

 

 

 

 

武舞台へと続く廊下で緑谷は意外な人物に会った。

 

 

「瀬呂くんどうしたの?」

 

 

「や、何つーかさ……ちょっと言葉にしにくいんだけどさ」

 

 

瀬呂は恥ずかしそうに笑い、頬を指で掻きながら言う。

 

 

「俺……上鳴とか見てて思うわけ。やっぱ全力で個性出し切って戦うってのは大事だよなって。個性ってアイデンティティだろ?」

 

 

「……うん」

 

 

「アイツが何抱えて、何で左使わねぇのか知らねぇけど……そのせいで負けて欲しくねぇっていうか……って駄目だなコレは! 悪い緑谷! 邪魔しちまった!」

 

 

「大丈夫。僕も瀬呂くんと同じ気持ちだと思う。だから───見ていて欲しい」

 

 

 

 

 

緑谷出久は取り立てて個性のない───否、個性を持たない少年だった。

 

 

彼の運命が劇的に変わったのは僅か1年前。地元で起こった個性犯罪に巻き込まれ、オールマイトに助けられてからだった。

 

 

それからは忙しい日々を過ごした。

 

 

これまでの遅れを取り戻す為、用意されたトレーニングメニュー以外も独自のリサーチを重ねて積み上げた。

 

 

その事に何も思わなかった訳じゃない。

 

 

どうして自分は何もしてこなかったんだろうと何度も過去を悔いた。

 

 

鏡の前に立ち、ヒーローになりたいと嘯きながら筋トレの一つもしてこなかった細い身体を眺める度に唇を噛んだ。

 

 

ヒーローになれないと思っていたのは他ならぬ自分自身だと突き付けられた。

 

 

だからこそ緑谷は思う。

 

 

───僕はいつも誰かに支えられて、導かれてここまで来た。

 

 

ヒーローになれると言って力を託してくれたオールマイト。

力を扱えないという事がどういう事かを示してくれた相澤。

誰よりも親身に力の扱い方を教えてくれた上鳴。

幼少期に付けられて今尚根深く残る”虐め”の象徴でもある蔑称の意味を変えてくれた麗日。

 

 

大歓声に打たれながらこの一年近くの日々を思い返し、グッと拳に力を入れた。

 

 

それを見ていた轟が恐ろしく冷たい声で言う。

 

 

「来ないのか?───なら、こっちから行くぞ」

 

 

大気から熱が奪われていく。真夏ほどではないにしろ、熱気の立ちこめる会場が瞬く間に冬の到来を感じさせる程に冷え込む。

 

 

そして、氷が爆ぜるように伸びた。

 

 

轟の十八番。

 

 

大氷結による超質量の押し付け。瀬呂が一撃でK.Oに追い込まれたそれが、緑谷へと迫る。

 

 

───8%の速力なら十分に避けられる。消耗を避けて、轟くんの身体が鈍るのを待って倒しに行けば消耗もない。

 

 

『おおっと緑谷動かない!?』

 

 

『何を考えている?』

 

 

轟の大氷結に対し、緑谷が見せたのは指を弾く構えだった。

 

 

それがどういう意味か───分からないA組ではない。

 

 

「おいアレって!」

 

 

「何で何で!? 今の緑谷なら避けれるじゃん!」

 

 

観客席から身を乗り出すように、切島と芦戸が悲鳴にも似た声を上げた。

 

 

その次の瞬間、砲撃の音にも似た爆音が氷を打ち砕く。

 

 

緑谷の指は赤紫色に変色しており、その過負荷の程度を物語っていた。

 

 

轟は眉を顰めて言った。

 

 

「舐めてんのか、緑谷」

 

 

「どっちがだよ」

 

 

緑谷の声は震えていた。

それは痛み故の物ではない───身を焼く程の憤りからくるものだ。

 

 

轟が次発の用意をしたタイミングで緑谷が足を前へと踏み出した。力強い踏み込みは武舞台の一部を叩き割り、その反作用が緑谷を弾くように押し出す。

 

 

瞬く間に轟との彼我の距離をゼロにした緑谷は硬く握りしめた拳を轟の心臓の直上へと叩き込んだ。

 

 

打撃の衝撃で無理矢理呼吸を止められた轟が、大きく吹き飛ばされて武舞台の縁まで転がっていく。

 

 

轟はその途中で意識を戻し、呼吸を整えながら立ち上がった。

 

 

───見えはした。次は避ける。

 

 

───やっぱり凄いな、轟くんは。打撃を受けた直後に後ろに飛びながら力を抜いたのか。途中から感触がしなかったや。

 

 

轟の戦闘センスはずば抜けている。

幼少期より轟が父エンデヴァーから受け続けた教導は、個性のみならず単純な身体操作技術をもプロヒーローに近しい水準にまで引き上げていた。

 

 

轟が本来のポテンシャルを最大限に発揮できれば、今の緑谷では無理をしても勝てる可能性は僅かだろう。

 

 

「何で指ぶっ壊したのかは知らねぇ」

 

 

だが。

 

 

「それじゃあ俺には勝てねぇよ」

 

 

左側を使わずに右側で勝つ事に拘るあまり、轟の持つ能力は著しく下がっている。

 

 

2度目の氷結が奔る。

 

 

緑谷は変わらず指を弾いてそれを粉砕した。

 

 

『何で避けねー緑谷!?』

 

 

『……山田、黙って見てろ』

 

 

───痛いモノは痛い。僕だってやりたい訳じゃない。こんなやり方じゃきっと皆を不安にさせるだけなのも分かってる。

 

 

USJで上鳴が命を賭けて戦う姿を見て、自分が他人からどう見えていたのかを緑谷は知った。相澤が何故自分に除籍をチラつかせたのかも分かった。

 

 

───それでも。

 

 

「チッ、またそれかよ緑谷」

 

 

轟が氷を放つ。

緑谷がそれを粉砕する。

 

 

「いい加減にしたらどうだ?」

 

 

轟が氷を放つ。

緑谷がそれを粉砕する。

 

 

「………おい、聞いてんのか」

 

 

轟が氷を放つ。

最初よりずっと勢いが落ちているそれを、緑谷は右腕の一振りで消し飛ばした。

 

 

轟は凄まじい風圧を全身で受け、危うく場外になるところを背に作り出した氷を支えに耐えた。

 

 

身体に霜が降り、吐息が白く染まった轟に緑谷は言う。

 

 

「君こそどうしたんだ? 震えてるじゃないか」

 

 

「……黙れ」

 

 

弱々しい氷結だった。

緑谷はそれを8%のフルカウルで轢き潰しながら轟へと肉薄。出力をリスクのない5%に落としてから、その腹部へ痛烈な拳打を食らわせた。

 

 

痛みを堪えながら距離を取る為に轟が使ったのは、またも氷結の右。幾ら追い込まれても頑なに左側の力を使わない轟に、次第に観客も疑問を抱き始める。

 

 

緑谷は言った。

 

 

「それ、左側を使えば解決できるんじゃないのか?」

 

 

「……っ! お前もそれか! 親父に金でも握らされたか!?」

 

 

「エンデヴァーなんて関係ないだろ! 君こそどこ見て戦ってるんだ、轟焦凍!」

 

 

『緑谷の上段蹴りが轟を強襲! どうにか腕を挟み込んでガードしたは良いが、あまりのパワーに踏ん張りが効かない! 堪らず吹っ飛んだぁ!』

 

 

『違う。身体が冷えて踏ん張れないんだ』

 

 

尻餅をついた状態から身体を震わせながら立ち上がる轟を見て、緑谷は眉を顰める。

 

 

「トーナメントが始まる前に君と話した時、僕は何も言えなかった。何を言っても単なる同情になってしまう気がしたから。でも───今は違う。例えどんな事情があったとしても、巫山戯るなって言える」

 

 

緑谷は指が折れた方の手を固く握り込んで言う。

 

 

「雄英体育祭はただのお祭りじゃない。皆色んな想いを抱いて戦って! 目標に近づく為に、1番になる為に死ぬ気でやってる……!」

 

 

「仲良しこよしじゃねぇって事をごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ! これは蹴落とし合いだろうが!」

 

 

「違う! 確かに勝った負けたはあるけど! 僕たちはライバルであっても敵じゃない! 勝った人は負けた誰かの想いを受け取って次に向かわなくちゃいけないんだよ!」

 

 

───期待に応えたい。オールマイトの、上鳴くんの、応援してくれてるお母さんの、ここまで戦った皆の分も。

 

 

「だったら何だ!」

 

 

「まだ分からないのかっ、分からず屋!」

 

 

緑谷は個性を使わずに轟に殴り掛かった。

 

 

───でも! 例えここで力尽きる事になったとしても……!

 

 

「俺はっ! アイツを否定できれば、それで……!」

 

 

声を荒らげながら抵抗する轟は迷子のようだった。行き場が分からず、支えになる物もない。真っ暗闇で1人泣いている迷子の子供。

 

 

その轟の額をゴンッ! と緑谷の頭突きが強かに打った。

 

 

「───っ!?」

 

 

「もう一度言う! どこを見てるんだ、君は!」

 

 

よろける轟に緑谷が叫ぶ。

 

 

「余所見してる余裕なんてどこにもないだろ!? 僕はまだ君から一発だって貰っちゃいないぞ! なりふり構わず掛かってこい!」

 

 

───泣いている君を、見なかった事にはしない。

 

 

 

 

 

控え室から武舞台に真っ直ぐ伸びる廊下から戦いを見ながら、上鳴が呟く。

 

 

「……そうか。やっぱりアレはお前だったのか、緑谷」

 

 

それは個性を発現させた日、溢れ出した存在しない記憶の一端───秩序と悪の戦いで先頭を行く1人のヒーローの背中を思い出した。

 

「まだ終わっちゃいないよな、緑谷。魅せてくれ───お前の力を」

 

 

 

 

 

轟の眉間に深い皺が刻まれ、目尻が少し下がった。

 

 

「何で、そこまで……!」

 

 

轟が発した。言葉は震えていた。

緑谷は既に右の腕を丸々潰し、左手の指まで破壊している。リカバリーガールならばそれでもほぼ完璧に治癒できるが、治るからといって躊躇いなく手足をぶっ壊せる精神は異常という他ない。

 

 

”一体何が緑谷を突き動かしてる?”

 

 

戦っている轟だけでなく、実況席にいる相澤や観客席の生徒たちも困惑していた。

それに応える様に緑谷は吼えた。

 

 

「本気の君と戦わなくちゃ意味がないんだッ!」

 

 

緑谷は個性を使わずに轟を殴り飛ばした。

その衝撃で轟の身体に降りていた霜が剥がれ落ちる。

たたらを踏みながらも轟は持ち堪えた。個性無しの打撃なら耐えられる。

轟も吼え返す。

 

 

「ふざけんな! 俺は親父の力なんか───ッ!」

 

 

「誰が何て言ったって! 君の左側に宿った炎の力はエンデヴァーの力じゃない!」

 

 

───ずっと個性を持っている人が羨ましかった。自分にはないそれが輝いて見えて、望む所に自分の足で歩いていける事が羨ましかった!

 

 

同じようにヒーローを目指しながらも個性が個性故に偏見に晒された一回戦の対戦相手、心操の顔が緑谷の脳裏を過った。

 

 

フルカウル8%

 

 

緑谷が肉体の悲鳴を無視して肉体を強化し、蹴りを放った。

轟は右腕でそれを防御。体勢を崩しながらも反撃として氷結と打撃を打ち込もうとする。

 

 

「くそっ!」

 

 

『しかあし! 轟の氷と拳打をステップ&スウェーで華麗に回避した緑谷! それから───轟の顎にアッパーカット炸裂ゥ! 轟いよいよ膝が笑ってきたか!?』

 

 

『緑谷の奴、個性使ってないな。使ってたら決まってたぞ』

 

 

「早く炎を使えよ! もう君自身が冷気に耐え切れなくなってる! このままじゃ右半身が壊死するぞ!」

 

 

元無個性だからこそ、緑谷は誰よりも個性に対して造詣が深い。それは彼が無個性の頃に唯一積み上げてきた物であり、知識量は1年生で群を抜いている。

 

 

緑谷は冷静に状況を見ながら、思考を巡らせた。

 

 

───個性はその人を現す。かつて名前が人を表すと言われた様に、個性が齎す人格形成への影響は計り知れないとされている! でも、個性で人生が決まる訳じゃない……!

 

 

他人を操る個性を人の為に使いたいと言った少年を、緑谷は知っている。

 

 

そのルーツが例え闇の中にあったとしても、力を持った人間の心次第で”平和の象徴”となる事を緑谷は知っている。

 

 

個性に善も悪もないように、個性によって生き方が縛られる事などあってはならない。

 

 

結局はそれを手にした人間の気持ち次第で変わるのだから。

 

 

───そうだとしても、個性を否定してしまったら君が辛いだけだ。君の苦悩は何も持ってなかった僕には分からない、けど!

 

 

「緑、谷ぁ!」

 

 

轟がふらつく足で緑谷に殴り掛かる。

繰り出された拳を緑谷は避けなかった。

緑谷はそれを顔面で受け止め、轟の目を見て叫んだ。

 

 

「君の! 力じゃないか!!」

 

 

言葉と共に拳を放つ。

轟は緑谷の中心線を的確に抉る様な腰の入った右ストレートをもろに受け、膝をついた。痛みと衝撃で意識が混濁する。気を抜けば意識を失ってしまいそうになる状況にまで追い込まれた。

 

 

ミッドナイトが轟の様子を確認しようとするよりも先に、緑谷は轟の胸ぐらを掴み上げて言った。

 

 

「君は何になりたくてここに来た!!」

 

 

風が吹く。

 

 

肌を撫でるそれに、かつて母に抱かれていた頃を轟は思い出した。

 

 

”いいのよ、お前は。血に囚われることなんてない。なりたい自分に───なっていいんだよ"

 

 

風に乗って、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

「あ……」

 

 

それはずっと忘れていた遠い日の記憶。

まだ母が家にいた頃、最後に見た笑顔だった。

 

 

「本当に、何なんだよお前は。自分だって勝ちたい癖に、人の中にズケズケと……!」

 

 

轟の固く閉ざされた心に隙間が生まれた。

緑谷の言葉と行動が轟の中にあった”原点"を叩き起こし、内側で燻っていた物に風を送り込んだのだ。

 

 

転瞬───青天へ火柱が昇る。

 

 

『うぉ! 熱ぅ!?』

 

 

轟の左半身から噴き出た熱が凍てついた身体を温め、内側に巣食う蟠りを焼き尽くさんと温度を高めていく。

 

 

泣きそうな顔でそれでも笑みを浮かべた轟は言った。

 

 

「俺だって、ヒーローに……!」

 

 

「やっとこっちを見てくれたね、轟くん───!」

 

 

緑谷が四角形の武舞台で円を描くように駆け出した。

 

 

それに合わせて轟も動き出す。

 

 

自身の足元から連続で氷を生成し、さらに左の炎の力を推進力に加速していく。

 

 

そのスピードは───”互角”。

 

 

緑谷は笑って言った。

 

 

「さすが!」

 

 

「何で俺に塩を贈るような真似した!?」

 

 

「余計なお節介はヒーローの本質!……ごめん! 見栄張った! 嫌だっただけだ! 本気じゃない君を倒して、彼に挑みたくなかった!」

 

 

緑谷が繰り出した拳打をいなし、轟は左手から火炎を放射する。緑谷は真っ向からそれを受け、自身の左手を炎に突き入れて轟の手を掴み、握り潰した。

 

 

『やってることエグい! モザイク塗れになっちゃう!?』

『五月蝿い』

『イレイザー! 食い入るように見過ぎだぞオメー!』

 

 

緑谷はそのまま轟にインファイトを仕掛けた。

火傷も骨折もないかのように、血濡れの身体で轟に打撃を加えていく。

 

 

「舐めんな!」と轟は緑谷にカウンターを捩じ込んだ。

 

 

「調子出てきたんじゃないか!?」

 

 

緑谷も負けじと応戦。

 

 

轟の胴体に拳打を3発叩き込む。

 

 

 

 

───この距離じゃ緑谷に勝てねぇ。基本的な速力は互角でも俺のは小回りが利かねぇ。間合いを離してもキープすんのは難しい。

 

 

 

 

───今ここで遠距離に徹されると正直言ってかなりキツイ! このまま僕の間合いで押し切って勝つ!

 

 

 

 

「……ありがとう、緑谷」

 

 

 

 

会場の空気は度重なる氷結で冷え切っていた。多少炎熱を使った所で効果がない程に。

 

 

 

 

───だから、これで全部ぶっ飛ばす。

 

 

 

 

しかし、轟が最大出力で個性を使えば話は別だ。

 

 

 

 

轟の潰れた左手を中心に熱が噴き出る。

 

 

 

 

緑谷は咄嗟に背後へ飛び、そして自らの失策を悟った。

 

 

 

 

冷やされた空気は熱された時、膨張する。

小学四年生の理科で学ぶ常識だ。

 

 

 

 

「……マジか」

 

 

 

 

緑谷は頬を引き攣らせて小さくそう呟いた。

轟は自身の体を真空多層構造の氷で補助しながら最大出力の炎を解き放った。

 

 

 

 

つまるところ───自爆である。

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

「まだ、だ───ッ!」

 

 

 

 

緑谷の身体にはオールマイトの力が宿っている。

 

 

 

 

それは常識を越える理外の力。

 

 

 

 

腕の一振りで天候さえも変えるその力で、全てを押し除け吹き飛ばそうとする大気の塊を、緑谷は力一杯殴りつけた。

 

 

 

 

激突と同時に世界から音が消え、武舞台を形作るコンクリートが弾け飛ぶ。

 

 

 

 

爆風に乗って瓦礫が宙を舞い観客席にまで届いたが、何人かのプロヒーローが咄嗟に撃ち落としたことで人的被害は無かった。

 

 

 

 

ただ───

 

 

 

 

「えー、マイクテス、マイクテス………だめだイカれちまってる。すぅ………『緑谷と轟、ミッナイ先生無事か!?』

 

 

 

 

実況席の機材にまで被害が及ぶ衝撃である。

立ち込めていた砂埃で選手と審判の状況が分からない。プレゼント・マイクは機械ではなく個性で安否を確認した。

 

 

 

 

「み、ミッドナイト無事です……」

 

 

 

 

瓦礫の山から這い出たミッドナイトが手を上げる。

 

 

 

 

次第に砂埃も収まり、被害の全貌が明らかになった。

 

 

 

 

『ウワァオ……武舞台消し飛んでんじゃん』

 

 

 

 

八百万と常闇の戦いより尚、凄惨な破壊の痕。たった一撃で轟が立っていた場所より後ろの武舞台以外が消えてなくなった。

 

 

 

 

緑谷も立ってはいたが───足元に武舞台はない。

 

 

 

 

緑谷は轟に歩み寄り、手を差し出した。

 

 

 

轟はそれに目を見開いた後、優しい手つきで添える様に緑谷の手を取った。

 

 

 

緑谷が言う。

 

 

 

 

「轟くん───後は任せたよ」

 

 

 

 

「緑谷くん場外! よって勝者───轟くん!」

 

 

 

 

 

「よ、緑谷。負けたなお前」

 

 

ボロボロの緑谷を出迎えた上鳴は手を挙げて気さくに声をかけた。

緑谷は顔を伏せ、言った。

 

 

「上鳴くん……ごめん。期待してくれてたのに」

 

 

謝罪の言葉だった。

上鳴はキョトンとした顔を作り、緑谷の背中を叩いた。

 

 

「お前はアレでいいんだよ、緑谷。テメェを曲げる必要はねーよ。だからちゃんと貫けよ。最後まで」

 

 

「上鳴くん……?」

 

 

「にしても派手にぶっ壊したなァ! これじゃあ尾白と試合できねぇじゃんかよ。ま、お前の治療時間くらいにはなるか。早く保健室行ってこい」

 

 

緑谷は上鳴の様子に少し違和感を覚えながらも、試合を見過ごさないようにするために保健室へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

同時刻。

場所は変わり、轟側の廊下───武舞台へと続く廊下。

 

 

「焦凍……! 漸く使ったな、俺の力を!」

 

 

独り言を漏らしながら勇足でそこを歩いていたのはNo.2”エンデヴァー"その人だ。

緑谷は上鳴ほどでないにしろ膂力の強さで目立っていた生徒だ。その上、自損した際の力はオールマイトにも匹敵するとなると、否が応でもNo.1を意識させられた。

その緑谷を末の倅(最高傑作)が倒した───エンデヴァーの心に一時の平穏が訪れた訳である。

 

 

「見つけた。焦凍───ッ! ようやくお前は」

 

 

しかし、それは束の間だった。

エンデヴァーの顔を見た轟は驚愕のあまり口を半開きにし、数秒固まった後に言った。

 

 

「何だその情けねぇ面は」

 

 

普段は猛々しく燃える炎の髭は見る影もなく消え、血走った目をした年相応に草臥れた中年の男が息子の瞳に映り、エンデヴァーもまた愕然とした。

黙り込むエンデヴァーに轟が言う。

 

 

「何を言いに来たかは想像がつくから言うが───炎を使ったのはあの一瞬、お前を忘れられたからだ」

 

 

そして、硬直するエンデヴァー()の横を通り抜けた。

 

 

「そもそも捨てられる訳ねぇだろ。だけど、俺は考えなくちゃいけない。アイツが……緑谷が身体張って教えてくれたから」

 

 

「待て、焦凍! 話はまだ!」

 

 

エンデヴァーの言葉に轟は振り返らなかった。

 

 

「俺は、何のために」

 

 

膝を折る1人の夢破れた男だけが、そこに残った。

 

 





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上鳴vs緑谷を書きたかったんだけど取っておきたい気持ちが勝ってしまった + デクくんが勝つ為だけに轟をメタってボコす姿がまっっったく思いつかなかったどころか真正面から助けに行く姿しか見えなかった……

という訳で緑谷vs轟は轟くんの勝利となりました。実際、8%くらいじゃ膨冷熱波耐え切れないし、風圧移動もできないので空中で吹き飛ばし技食らったら耐えられないし……妥当な範囲ではあるかなと思います。

次回は上鳴vs尾白の天下一武闘会決勝になります。
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