雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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雄英体育祭ラストバトル回です!


ep.35 デザート

例年通りならば雄英体育祭のプログラムは1年生ステージが最初に終わる。学年を追うごとに競技が複雑化し、生徒のレベルの向上に伴い一戦当たりに掛かる時間が伸びる為だ。

 

 

しかし、今年は例外中の例外だった。

 

 

『えー、1年生プログラムが現競技場では続行不可となったため……最も広く頑丈な競技場を使っている3年生ステージの終了に合わせて、そちらの方で決勝戦を執り行います! 指定席をご購入いただいている観客の皆様にはチケット購入時にご登録頂いたメールアドレス宛に新しいチケットを送付させていただいております! 決勝戦は諸々の用意を整えて17時からの開始になりますので、その時間までに会場入り口にあります受付の方で入場手続きのほどお願い致します!』

 

 

観客の避難誘導が始まる中、場内にプレゼント・マイクのアナウンスが響いた。

 

 

上鳴と轟の技の衝突により、競技場に深刻なダメージが刻まれてしまったのだ。

 

 

武舞台どころか競技場その物が大きく傾き、更に深いところでは1mほど地面に沈むという異常事態。被害の程がそれだけで済んでいる保証もなく、そんな場所に一般観客と学生を置いておける筈が無かった。

 

 

『あと同業者リスナーの諸君! 悪いが少し手伝ってくれ!』

 

 

避難経路の確保。

観客の誘導。

瓦礫の撤去。

 

やるべき事は他にもまだまだある。とてもではないが雄英の1年生ステージ担当のヒーローやスタッフだけでは手が足りない。

 

 

会場はどよめきに包まれながらも、淀みなく着々と事を進めていた───その一方。

 

 

観客席から少し離れた場所に設置されたトイレの個室で、1人の男が唸り声を上げて便器に向かって胃の中の物を吐き出していた。

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 

轟炎司、エンデヴァーを名乗る男である。

 

 

だが、今の男の姿を見て誰もヒーローなどとは思わないだろう。

 

 

土気色の顔。

焦点の定まらない目。

目尻に滲む涙。

身体を震わせながら奥歯でカチカチと音を立てるその姿は、ヒーローと呼ぶにはあまりにも弱々しい物だ。

 

 

「おぉ……ぇえっ」

 

 

息の仕方が分からない。そんな状態だった。

最早、理由を語る必要すらない。エンデヴァーは完全に折れていた。最後の一瞬、自分を上回る力を見せた息子が放った技を真正面から打ち破られた。それもオールマイトの様な超パワーを個性の”応用”で身に付けた強個性の少年に。

 

 

───自分の力を最大限に活かせる存在がいたら、オールマイトをも超える最強の存在になると思っていた。

 

 

エンデヴァーは上鳴の事を知らない。

その超パワーが人類には再現できない奇跡と狂気によって形造られた物である事を知る由もない。

 

 

だからこそ合理的に事実だけを見てしまった。

 

 

───だが……違った。 俺の個性ではどう足掻いても勝てなかったんだ。

 

 

エンデヴァーの持つ個性”ヘルフレイム”は炎熱系個性の中で最強と言われるほどの物だ。氷結系個性と組み合わせて生まれた半冷半燃ならば、ヘルフレイムにあった弱点を踏み倒しながら更なる火力の向上にも繋げられる。

 

 

しかし、その程度では超えられない壁があった。

 

 

全く違う系統の力の強弱は比較するのはそれこそ合理的ではないが、単なる個性の強さで言えば上鳴と轟に明確な差はない。

 

 

明確に違う点があるとすれば、それはフィジカル。即ち、長時間の戦闘を可能とするスタミナであり、多少の無茶なら物ともしない肉体強度。

 

 

それを心底から理解してしまった。

 

 

「あぁ………」

 

 

───無駄だった。

 

 

「ぁぁぁぁあ」

 

 

───無駄だった。この25年は。

 

 

 

「ぁぁぁああああああっ!!!」

 

 

 

───俺の行いも、アイツの死も、全て無駄だった……!

 

 

「俺がっ……俺が殺した! 俺が壊したっ……! 全部、全部……! 俺のせいじゃないか!」

 

 

己が罪を理解した男の慟哭が誰もいなくなった競技場にまで木霊した。

 

 

 

 

 

「……で、言うことは?」

 

 

「「すみませんでした」」

 

 

「まったく……競技場、建て直しだよ。俺たちは暫く減俸だ」

 

 

2年生ステージが行われている競技場の保健室で、上鳴と轟は相澤から折檻を受けていた。

捕縛布で簀巻きにされて床に正座させられている2人を見て、まさか競技場を沈め掛けたとは思うまい。

 

 

「怪我は……上鳴、お前上限を超過したな?」

 

 

「轟の自爆技を相殺する時だけっすよ相澤先生。そんな怖い顔せんでも」

 

 

「あ?」

 

 

赤い眼光が上鳴を捉えた。

 

 

「すみません……」

 

 

上鳴は基本的に相澤に弱い。

相澤には便宜を図ってもらった恩義があり、これからも色々と我儘を聞いて欲しいという欲目があるからだ。上鳴はイカれているが、その辺りだけはしっかりしていた、否、ちゃっかりしていた。

 

 

「で、17時からの決勝だが」

 

 

「無しは無しっすよ先生───大丈夫っしょ。俺、頑丈だし」

 

 

「黙れ。失血死寸前だった馬鹿が何を言ってる」

 

 

轟が「失血死……?」と顔を青くするが、これに関しては上鳴の自業自得である。

険しい轟とは裏腹に、上鳴は死に近付いたとは思えない気軽さで相澤に言う。

 

 

「でもさ、でもさ。もう平気だぜ?」

 

 

「リカバリーガール?」

 

 

相澤がギロリとリカバリーガールを見る。

 

 

「私が聞きたいよぉ! 何なんだいこの子は! 現代医学に喧嘩売るんじゃないよ!」

 

 

「あ、そういや最近気付いたんすけど! 俺、電気信号弄れてんじゃん? 多分ガバった身体のリミッターの代わりに再生力を強化するように脳が勝手に信号送ってんじゃねぇかなって」

 

 

傷その物の治りも早いが、上鳴は血の戻りも異常に早かった。普通の人間は失血死寸前までいった後に正座しながら軽口を叩く事などできない。その理由の一端が電気信号による自然治療力の増進───というのが上鳴の予想だった。

 

当たりである。

 

 

リカバリーガールは上鳴の後頭部に歩行杖をフルスイングして言った。

 

 

「早く言いな! というかアンタそれノーリスクな訳がないだろう! 早死にするよ!」

 

 

「はっはーっ! 長生き興味ねぇー!」

 

 

「泣くよ! ご両親と善院が!」

 

 

「ゔっ! ……前向きに検討して善処はします。善処は」

 

 

「政治家かお前は」

 

 

上鳴は約束を守る。

そして、出来ない約束はしないタイプだった。

 

 

轟が上鳴に尋ねる。

 

 

「本当に、大丈夫なのか? あと頭……」

 

 

リカバリーガールに叩かれた上鳴の後頭部を見る轟の顔には「自分のせいで」と書いてあった。

上鳴は笑って答えた。

 

 

「おお! 大丈夫、ダイジョーブ! 先生達が大袈裟なだけだって! 轟の方こそ大丈夫なのかよ?」

 

「俺は大した怪我してねぇよ。お前が殆どの衝撃と熱を散らしてくれたから」

 

 

「じゃあこの話はこれで終わりな。あー、楽しかった! またやろうぜ、ガチンコ勝負!」

 

 

「そう簡単にやらせる訳ないだろ。雄英を破産させる気か」

 

 

上鳴の言葉に相澤は溜息を吐いた。教師としては学生の高め合いを推奨したい所ではあったが、あまりにも周囲の被害を考えない上鳴(アホ)をヒーローとしての相澤は止めざるを得なかった。

そして上鳴もそうだが、轟も熱くなるとかなり見境がない人柄をしているのが今回で分かってしまった。次があればその時も加減を忘れた戦いになるのは目に見えていた。

 

 

轟が言う。

 

 

「悪い上鳴。多分アレはもう使えねぇ……いや、使わないつもりだ」

 

 

「なんで?」

 

 

「身体への負荷が大き過ぎるし、アレだとヴィランを殺しかねない。それに俺は右の力(コッチ)をメインに使っていきたい」

 

 

右手を握ったり開いたりしながらそう言う轟に、上鳴は眉尻を少し下げた。

 

 

「炎はサブってことか?」

 

 

「いや、そこまで極端にするつもりはねぇ。どちらか片方を鍛えても行き詰まりそうだしな。だけど、俺がなりたいヒーローとは違う気がするんだ」

 

 

これは理想とするヒーロー像に近づく為の選択だ。父が憎いからではない。なりたい物になる為の決意表明。

それに水を差すような真似は上鳴もしない。

 

 

「……そっか。まあ”冷気”も使い方次第だかんな。応用も広いし」

 

 

「悪い。色々迷惑かけたのに」

 

 

「だから謝んなよ───俺はただ戦いたかっただけだって何度も言ってんだろ」

 

 

「それでも俺は助けられた」

 

 

「だったら、尚更ごめんじゃねぇだろ」

 

 

「……っ! そうだな。ありがとう上鳴」

 

 

「だから礼なんていらねーよ。俺はただ戦いたかっただけだ」

 

 

「?????」

 

 

相澤は背景に宇宙を背負って固まる轟の肩に手を置いて、言った。

 

 

「轟、深く考えるな。そういう奴なんだよコイツは」

 

 

それは教育者相澤の事実上の敗北宣言だった。

尤も、それで投げ出す様な無責任な男ではないが───相澤は考えるのを辞めていた。

 

 

「ウッス」

 

 

轟もそれに倣うことにした。

 

 

 

 

 

───雄英体育祭3年生の最終競技が終了。メダルの授与も予定通り終わり、1年生最強を決める準備は粛々と進められた。

 

 

日も傾き始め、仄かに暗くなり始めたステージを四方に設置されたライトが照らす中、実況席のマイクの電源が入った。

 

 

『前代未聞の事態にも拘らず観客席は満員御礼! 追加チケットまで即完売! リスナー諸君、サンキューな! それじゃあ今年度の雄英体育祭の最後を飾る選手の入場だァ!』

 

 

『東コーナーァ! 障害物競争ぶっちぎりの1位! 第二競技騎馬戦もぶっちぎりの1位! 続くトーナメントでは挑戦者たちの120%を引き出しながら、その尽くを真正面から捻じ伏せてきたこの男! ”雷神”、上鳴電気ィ!』

 

 

『西コーナーァ! 最強の挑戦権を手にしたのは全競技でハイスコアを叩き出し、騎馬戦では雷神にも挑んだ人間爆撃機! 宙空を自在に飛び回り、掌から放たれる”爆破”をまともに受ければ瞬く間に爆殺K.O! 今、雪辱を果たし頂点を目指す───”Mr.ダイナマイト”、爆豪勝己!』

 

 

上鳴は武舞台へ登ってきた爆豪を見て一瞬だけ口を半開きにして呆けた後、獣じみた形相を浮かべて言った。

 

 

「おい、あんまワクワクさせんなよ?」

 

 

爆豪がジャージを脱ぎ去り、黒いタンクトップ一枚になった。その身体から闘気が如く湯気が立ち昇る。

爆豪がギラつく目で上鳴を睨みながら言う。

 

「お前を相手にチンタラやっても勝てやしねぇのは分かってる───だから、殺るからには速攻。持てる力の全てを”1分”に集約させる」

 

 

その為に爆豪は限界まで走り込んで身体を温めてきた。身体から滴る汗と僅かに乱れた呼吸から体力的な限界が見え始める程に。

上鳴は敢えて尋ねた。

 

 

「本末転倒じゃね? 大博打にも程があんだろ」

 

 

「ハッ! ここ一番で博打打たずにいつ打つってんだよ! そんな適度に楽しむ人生なんざクソ喰らえだろ!?」

 

 

その答えに上鳴はより一層笑みを深めた。

 

 

「立派だよ───」

 

 

上鳴はそう嘆息してから飢えた獣の様な形相を浮かべ、吼えた。

 

 

「負けても同じセリフが吐ければな!!」

 

 

試合開始前から上鳴と爆豪のボルテージは最高潮。既に上鳴は全身から電光を奔らせ始めており、爆豪も掌から落ちた汗の一部が小さな爆発を起こしていた。

 

 

『どうやら観客以上に選手が待ちきれねーみたいだ!』

 

 

『早よ合図しろ』

 

 

『オーケーオーケー! 実況は俺、プレゼント・マイク! 解説はイレイザーヘッド! レフェリーはミッドナイトでお届けするぜ!』

 

 

『そんじゃあ───試合開始!』

 

 

刹那、武舞台の両端が爆発と共に消し飛んだ。

 

 

上鳴は脚力による踏み込み、爆豪は両掌の許容限界を超過した特大の爆破である。

 

 

接敵まで0.1秒にも満たない。

爆豪が爆破の勢いを利用して独楽のように回転しながら蹴りを放つ。

 

 

上鳴はそれを抱え込むようにして受け止めて、爆豪の回転を利用して斜め前にぶん投げた。

 

 

「しょーもねぇ落ち方すんなよ爆豪ォ!」

 

 

「この程度で俺がくたばる訳ねぇだろ舐めんなァ!」

 

 

爆破で慣性を相殺───否、更に細やかな爆破の威力調整で弧を描きながら、爆豪はブーメランの様に上鳴の元へ戻っていく。

 

 

榴弾砲(ハウザー)───着弾(インパクト)!」

 

 

そして物間戦で見せた必殺の一撃を放った。

 

 

武舞台全域を爆炎が舐めるように広がっていく。

 

 

───楽しい。

 

 

「く、はは」

 

 

───面白い。

 

 

「はははははははは!」

 

 

上鳴は呵呵大笑しながら雷撃を放った。

紫電は爆炎を突き抜けて爆豪へと直撃。轟が受けた物とは比較にならない夥しい電流がその全身を駆け抜けていく。

 

 

生身の人間相応の身体強度の爆豪にとってそれは一撃で戦闘不能になって然るべき物だ。

 

 

しかし、爆豪は。

 

 

「気付けにゃ丁度いいなぁ! この静電気がよオッ!」

 

 

それを根性で耐え切っていた。

 

 

口角を吊り上げながら向かってくる爆豪を見て、上鳴は思う。

 

 

───ありがとう、爆豪。やっぱお前が最後の相手で良かったよ!

 

 

こればかりは譲れない。

期待値が爆豪より高い人間は何人もいる。しかし、爆豪より決勝で戦いたい相手はいなかった。

 

 

その理由は単純にして明快。

 

 

爆豪は強敵を前にした時、必ず笑う。

 

 

緑谷達とは違う闘争への充足。産まれながらの強者と戦った時にしか味わえない感覚。

 

 

───口の中が”甘い”。

 

 

今の上鳴に味覚はない。

だが、知識としては知っている。4歳までの実体験と前世の自分(青年)の経験が、戦いの中でそれを上鳴に思い出させた。

 

 

「オラァ!」

 

 

「甘いんだよ爆発三太郎が!」

 

 

上鳴は爆破を直接叩きつけようと右手を大きく振るった爆豪の腕を掴み、胴に足を添えながら巴投げで地面に投げ付ける。

 

 

爆豪は投げられる刹那、咄嗟に片手で汗を圧縮し、握り拳の隙間から同時に複数発のAPショットを発射。それが散弾が如く上鳴を強襲した。

 

 

上鳴は避けられなかった。

身体に突き刺さる弾丸を無視し、両手で大気を押し出して加速。両足の裏を落下中の爆豪に向け───

 

 

「ハァッ!」

 

 

武舞台の床付近で爆破による慣性の相殺を試みる爆豪の腹部に、追い討ちのドロップキックを叩き込んだ。

 

 

「カハッ!?」

 

 

爆豪が床に叩きつけられた衝撃で武舞台が割れる。内臓が爆発したと錯覚するような筆舌し難い激痛に襲われながらも、しかし、爆豪は諦めない。

 

 

上鳴の足を掴み───爆破。

 

 

幾度も繰り返される爆発で武舞台の上が黒煙で覆われていく。

 

 

「効かねーよ!」

 

 

上鳴の足は爆撃によってジャージが消し飛び、露出した部分も血で真っ赤に染まっていた。その状態で上鳴は足を振り上げて、黒煙ごと爆豪の拘束を力尽くで解いた。

 

 

爆豪は勢いよく武舞台を転がりながら体勢を立て直し、跳ね起きた。

 

 

「ハァッ……ハァッ……ゴホッ」

 

 

立ち上がった爆豪が口からビチャリと血塊を吐き出し、それを腕で乱暴に拭う。

 

 

ダメージは深刻だ。

 

 

その一方で、上鳴は事もなさげに言った。

 

 

「どうだ爆豪? まだやれるか? 俺は全然構わないぜ」

 

 

首を鳴らす上鳴に爆豪は頬を引き攣らせた。

その心情を代弁するように、実況席のマイクが入る。

 

 

『上鳴余裕の表情! まだまだ余力たっぷりだァ!?』

 

 

 

 

『いや───違う』

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 

上鳴の目尻についた稲妻のような罅から涙のように血が流れ落ちる。それが合図になったかのように、鼻と口の端からも血が流れ始めた。

 

 

───俺の攻撃だけじゃねぇのが腹立つな……!

 

 

悔しさから爆豪は固く拳を握りしめた。

これはツケだ。熱を感じる為に敢えて攻撃を受けるような真似をしてきた反動。リカバリーガールの治癒と自己再生で表面上は治ったように見えた物が、爆撃によって開いただけだ。

 

 

故に、爆豪はキレ散らかしながら言った。

 

 

「しっかり効いてたんじゃねぇか!」

 

 

「たはーっ! 参っちゃうなァ!」

 

 

それでも上鳴は依然変わりない力強い踏み込みで爆豪を肉薄し、拳を振るった。

 

 

『これがボロボロの人間の出せるスピードかよ!』

 

 

「ブレーキとか無いんかテメェは!」

 

 

「んなもん10年以上前にぶっ壊れちまったよッ!」

 

 

拳打が爆豪の肩を捉え、ゴキリと嫌な音を立てながら関節を外した。

 

 

爆豪は肩に走った激痛に下唇を噛みながら、外れた腕を振り回した。そこから汗粒が飛び散り、爆発。無数の汗玉が誘爆され連鎖的に広がっていく。

 

 

上鳴は蹴りで起こした風圧でその爆風を相殺し、距離を取ろうとした爆豪を猛追した。

 

 

近接攻撃を想定して身構える爆豪に対し、2度目の紫電が奔る。

 

 

加減された出力ではあるが今の爆豪には刺激が強い。一瞬、視界が黒く染まる。その間隙を上鳴が見逃すはずもない。肩が外れていない方の腕を掴み、自身へと引き寄せながら爆豪の首根っこに逆の手を添え制圧しに掛かる。

 

 

閃音弾(スタングレネード)!」

 

 

「やべっ!?」

 

 

その寸前で意識を戻した爆豪が片手で閃光と爆音を生み出して上鳴の目を眩ませながら離脱。自分で外れた肩をはめ直す。

 

 

 

 

───まずった。見えねーし聞こえねぇ。

 

 

 

 

耳郎戦でも受けた三半規管への攻撃に加え、視覚まで一時的に潰された。

 

 

上鳴が電気信号による熱感知へと意識を切り替えた、その瞬間。

 

 

 

 

───マジか爆豪……! すげぇ熱量だ!

 

 

 

 

今大会で初めて上鳴に緊張が走った。

 

 

『おおっと爆豪その構えはッ!』

 

 

爆豪が両掌を重ね合わせ、その指先を上鳴へと向けて叫ぶ。

 

 

 

 

「APショット、ストライクシフト───ッ!」

 

 

 

 

幾度も見た上鳴の必殺技を模した構え。

 

 

掌の内側で爆縮された、これまでとは異なる粒だった汗が指先の隙間から一塊になって放出された。

 

 

まだ回復し切っていない上鳴では反応できない速度で伸びる熱線がその脇腹を抉り取った。

 

 

 

 

致命傷だ。

 

 

 

 

上鳴であっても例外ではない。

 

 

 

 

予想外の決着。

急いで保健室まで。

実況席と主審のヒーローのみならず、待機していたヒーロー達も慌ただしく動き出した。

 

 

 

 

だが、ここで予想できない動きがあった。

 

 

 

 

───当たってねぇ!

 

 

 

 

爆豪は既に限界を迎えていた。

 

 

視界は霞み、意識は既に定かではない。攻撃が当たったかどうかなど分からない。脇腹を抉るだけで終わったのもそれが理由だ。

 

 

ただ、爆豪はまだ上鳴が立っているという事だけを理解していた。この時点で倒れてもおかしくない。しかし、それでも尚止まらない勝利への執念が限界を超えている爆豪の身体を動かした。

 

 

 

 

「もう一回」

 

 

 

 

だが、先の一撃は爆豪の掌まで反動で焼いてしまう諸刃の剣。

 

 

次弾を放てばその時点で汗腺は焼き切れ、爆豪の個性は完全に死ぬ。

 

 

 

 

『やめろ爆豪!』

 

 

 

 

相澤は個性を使おうとしたが運悪く西陽が実況席を直撃し、思わず目を閉じてしまった。

 

 

 

 

「もう、一発……!」

 

 

 

 

『ミッドナイト!』

 

 

 

 

プレゼント・マイクの余裕のない声が響く。

既にミッドナイトは前腕のタイツを破き、個性を使い始めていた。

 

 

 

 

だが、眠香が届くよりも爆豪が技を撃つ方が僅かに早い。

 

 

 

 

重ねられた掌が最後の爆縮を開始し始める。

 

 

 

 

観客席から悲鳴が上がった。

 

 

 

 

A組の生徒たちが席から身を乗り出して叫んだ。

 

 

 

 

爆豪は止まらない。重ねられた掌の隙間から爆縮の光が漏れ始める。

 

 

 

 

その刹那。

 

 

 

 

 

 

 

「───いいんじゃない?」

 

 

青白い電光が爆ぜる。

 

3度目の放電。

 

 

上鳴の身体から迸る眩い光が爆豪を直撃し、瞬く間にその意識を刈り取った。

ゲホゲホと気管に詰まりそうな血の塊を吐き出した上鳴は言った。

 

 

「あぶねぇマジで。死ぬかと思った」

 

 

それから上鳴は倒れ伏す爆豪に近寄った。

そして、眉間に皺を寄せながらその掌を確認する。

 

 

───ギリギリ間に合ったか。

 

 

多少掌は焼けてはいたがそれだけだ。

上鳴が放った雷撃は爆豪が致命的な怪我を負う前に届いていた。

 

上鳴は「ふぅ」と安堵の息を吐いてから言った。

 

 

「ありがとう爆豪……満腹だ!!」

 

 

致命傷を受けて朦朧とする意識の中、それでも上鳴は笑っていた。

 

 




これにて雄英体育祭編はほぼ完となります!

クッッッソ長くなってしまいましたわ。

皆様から頂いた感想、お気に入り、評価、そしてあらすじにも記載させていただいております素敵なイラストを励みに、何とか書き上げる事が出来ました。本当にありがとうございます!

次回はエピローグと職場体験に向けての回になります。職場体験は劇場版一作目と絡む独自要素の強い物になってしまうかも……どうしても最終章でやりたい事の説得力を高める為に必要な回になるので大らかな目で頂けると幸いです。

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