雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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ep.36 幕引きと始まり

 

決勝戦終了から40分。

太陽は完全に沈み、競技場は夜の帷に包まれた。ステージの中央に向けられた照明の数が増える中、実況席からのアナウンスが始まった。

 

 

『過去最長を記録した雄英体育祭もこれにて閉幕! 最後にとびっきりやらかした1年生ボーイズのメダル授与式を行うぜ! アーユーレディ!!』

 

 

───え、あの怪我で?

 

 

プレゼント・マイクの言葉を聞いた観客達の心の声が一致する。

 

 

今回は雄英体育祭は3位決定戦を行う時間的な余裕が無かったため、メダルの授与を受けるのは準決勝まで勝ち進んだ4名が対象となる。

 

 

爆豪と戦った物間でさえそこそこの怪我をしている。上鳴と戦った2人に関しては重症と重症一歩手前。上鳴に至っては死に掛けていた訳である。

 

 

───物間だけしかいないんじゃないか……?

 

そう思う人間が大半だった。

 

『さあ選手たちの入場だぜ!』

 

 

しかし、予想を裏切るように全員が一つの入り口から一斉に場内へと入った。

 

 

先導は物間。

 

 

物間は『最強のバカ1位〜3位』と書かれたプラカードを掲げ、腹を抱えながら笑っていた。

 

 

騒つく場内の視線が物間の後ろにいた轟に映る。轟は首から2枚のプラカードを提げていた。1枚目は正面、『私が競技場を破壊しました』と書かれたカード。2枚目は背中に『もう2度としません』と記されたカードがぶら下がっていた。

 

 

そして最も目を引いたのは車椅子に乗ったミイラ状態の爆豪と、それを押す上鳴である。

 

 

爆豪の顔を含めた全身に巻かれた包帯には、A組からの寄せ書きが書かれていた。

 

 

『やり過ぎ』

『バカ』

『2位おめでとう!』

『反省してください』

『修羅』

『問題児その2』

 

 

他にも色々と書かれているが、罵倒なのか賞賛なのかよく分からない物ばかり。

 

 

一方、上鳴は背中に『もう2度と体育祭でやり過ぎません』と書かれた看板を貼り付けられていた。

 

 

珍妙な出で立ちの3人にプレゼント・マイクは噴き出し、言った。

 

 

『何だアレ!!!』

 

 

『ウチの生徒が手作りした反省プラカードだ。マジで反省しろよ。特に上鳴。それから轟、爆豪……あと観客席で笑ってる耳郎緑谷尾白! それから常闇と八百万! お前らも無関係じゃないからな! 今名前を挙げた8人は振替休日明けに反省文を提出するように。出来によっちゃあ除籍処分だからな』

 

 

「名指しだ。クソおもろいな」と上鳴。

 

 

それに対し、目を吊り上げた爆豪が包帯に血を滲ませながら叫ぶ。

 

 

何もおもんねぇわざっけんなクソがぁ(フンフォオゴンナァアバッヘンファンボバァ)!!!」

 

 

「アハハハハハ! 問題児ばかりで相澤先生が可哀想だねェ! ……いや、煽りも冗談も抜きでさ。顧みなよ。君らに負けた僕らの身にもなれよ」

 

 

「へーいすんまうぇ〜い」

 

 

アホ面で返した上鳴に、物間は激怒した。

 

 

必ずやこの無茶苦茶の塊をのしてやると決意した。物間には戦闘狂の感覚など分からない。B組メンバーと共に、普通のカリキュラムを一生懸命こなしてきた。

 

 

しかし、仲間への侮辱には人一倍敏感であった。

 

 

額に青筋を浮かべながら笑う物間に轟と爆豪が言う。

 

 

「気にしたら負けだぞ物間。コイツはお前を怒らせて戦う口実を作ろうとしてるだけだ」

 

 

「ンフェマフェイヌニハイフォヒナヒャナンフェーンバァ!? ァア!」

 

 

「相澤先生に同情を禁じ得ないよ……それから君は何て言ってるか分かんないなァ! えェ!? ちょっと自分に有利なルールで勝っただけで随分と強気じゃないか! 次負けた時に恥ずかしいよそれは!」

 

 

俺がお前に負ける訳ねーだろ(オフェガオファヘニマヘルファヘネーアロ)何べんでもぶっ殺してやるよ(ハンブェンヘモブッフォフォヒヘハフヨ)……!」

 

 

「あんまり強い言葉を使うなよ───弱く見えるぞ?」

 

 

「ァア!?」

 

 

その瞬間、上鳴は物間の言葉に食ってかかる爆豪の両肩に手を置いて、身を乗り出すようにして話に割り込んだ。

 

 

「お! BLEACHじゃん。なになに、物間好きなん?」

 

 

意外な食い付きに物間はたじろぎながらも言った。

 

 

「……リメイクされたアニメも黎明期前のアニメも一通り見たよ」*1

 

 

「マジ!? 俺も結構漫画とかアニメ好きなんだけどA組で語れる奴少なくてさぁ」

 

 

「へぇ……どれくらい喋れる口だい?」

 

 

「黎明前の漫画から最近の漫画まで。少年誌なら一通りいけるぜ」

 

 

「僕は君を単なる野蛮な男だと勘違いしていたかもしれない……B組は君を歓迎しよう」

 

 

爆豪の頭上で握手を交わす上鳴と物間。

当然それを爆豪が笑って許すはずもなく、腕を振り回して融和の邪魔をしながら言った。

 

 

なぁにさらっと握手しとるんだ(ハァニハラッフォハフフュヒホルンバ)上鳴テメェ(ハフィファリヘヘェ)!」

 

 

「意外だな……漫画とか好きだったのか?」

 

 

その横から轟に言われ、上鳴が頷く。

 

 

「言ってなかったっけ?*2 ……よく考えたら聞かれてねーもんな」

 

 

「語れる奴がいないって言っていたけど、それもう君のコミュ力の問題なんじゃないかい? 緑谷くんとか結構喋れそうな顔してるよ」

 

 

「え、マジ? ならもうちょい話振った方がいいのかな?」

 

 

聞き手によってはギリギリ悪口になりそうな会話が繰り広げられているが、誰も悪気はない。

そんな教室前の廊下で行われていそうな会話を4人がしていると、ミッドナイトが鞭で地面を叩いて笑顔で言った。

 

 

「そろそろメダルの授与……始めてもいいかしら」

 

 

「「「「ウッス」」」」」

 

 

男子高校生4人はいそいそと表彰台に登った。

 

 

 

 

 

そして、振替休日も含めた連休明けの登校日。

上鳴はしとしと降る雨が柔らかく傘に跳ねる音を聞きながら、鼻歌混じりに登校していた。

 

 

上機嫌の訳は他でもない、体育祭の余韻である。何だかんだ楽しんだ上鳴は今日から再開する補習で緑谷の成長を見つつ、全員の個性の圧縮訓練も行うつもりでいた。

 

 

───緑谷は予定通り個性使わせながら筋トレと水泳させて、その後気を失うまで殴り合い(組手)だろ。耳郎は基礎トレに個性伸ばし組み込んで……葉隠はそろそろ個性の限界値調べといた方がいいな。峰田は……千本ノックでいいか。

 

 

若干1名が野球選手の道を走らされそうになっているが、やる事は体育祭とあまり変わらない。基本に忠実に。先ずは身体能力を満遍なく高め、特にこれから伸ばしたい能力は重点的にケアしながら鍛えていくだけだ。

 

 

そうして上鳴が歩いていると、その背後から「おーい! 上鳴ィ!」と聞き覚えのある声に呼ばれた。

 

 

「オッス! 機嫌良さそうだな!」

 

 

上鳴に声を掛けたのは赤い髪をトサカのように立てた少年、切島だ。

 

 

「はよっす! そういう切島も元気良さげじゃん」

 

 

「応よ! 体育祭じゃあんま良いとこ無かったからな……! 今日からまた気張って行こうと思ってよ!」

 

 

硬化で固めた拳を打ち鳴らしながら気炎を吐く切島に、上鳴は「いい心掛けだな!」と相槌を打った。

 

 

「そこでなんだけどよ……上鳴。俺も補習に入れてくんねーか!?」

 

 

「いいぞ。丁度いいや。緑谷虐めようぜ」

 

 

「緑谷虐めようぜ!?」

 

 

切島がオウムの様に言葉を反復していると、その声を聞きつけたのか軽快な足音と共に芦戸がやってきた。

 

 

「なになに何の話?」

 

 

芦戸に尋ねられ、上鳴は言った。

 

 

「芦戸か。いやな、切島と放課後に緑谷を虐めようぜって話をだな」

 

 

転瞬、芦戸の2人を見る目が不快害虫を見る様な目に変わった。

最低な相談をヒーローを育成する学校の通学路で堂々と行っていた由々しき事態。それを目の当たりにした芦戸の眉間に、段々と皺が寄っていく。

焦った切島が手をわちゃわちゃさせながら言う。

 

 

「誤解を招く言い方はやめろ!? それとちゃんと説明してくれ!」

 

 

「説明っつてもよ。そのままだぜ? 緑谷の個性上限を上げる為に実戦的な訓練増やしていくって話だろ」

 

 

「全然違う!」

 

 

切島は上鳴の言葉不足を嘆いた。

合点がいった芦戸が手をポンと叩き言った。

 

 

「放課後のアレね!」

 

 

「そうそう放課後のやつ」

 

 

「それ私も行っていい? 耳郎とか見てたらさ、やっぱ私も今のままじゃダメだって思って……」

 

 

「いいぜ。丁度いいや。耳郎と葉隠虐めようぜ」

 

 

「ケロ……何の話をしてるのかしら」

 

 

「何かすっげーデジャブを感じるぜ!」

 

 

「こういう流れだったんだ……!」

 

 

「梅雨ちゃんじゃん。いやな、芦戸と放課後に……」

 

 

「フリじゃねぇよ!? 2回目に入るな!」

「誤解を招く言い方はやめろー!」

 

 

「何となく上鳴ちゃんの言葉が足りていないのは分かったわ」

 

 

梅雨ちゃんは聡明な女の子である。

切島と芦戸の様子を見て察した彼女は、上鳴に話の続きを促した。

 

 

「梅雨ちゃんはこの前俺がした個性の解釈の話、覚えてる?」

 

 

「ええ。この連休で色々と試してみたら、体色を周囲の景色に同化させる事ができたわ」

 

 

「え、すご!」

「やるなぁ梅雨ちゃん!」

 

 

「優秀だな」

 

 

上鳴は舌なめずりしそうになるのを堪えた。

 

 

「なら話は早いや。芦戸には耳郎達の限界を引き出して解釈を広げる手伝いをして貰おうと思ってな。本当は死戦が一番良いんだが、まあ訓練だしストレス掛ける程度にしておこうと思って」

 

 

「はいはい! 具体的には何をするんですか!」

 

 

「良い質問だな芦戸くん。君には服だけを溶かす酸を用意してもらい、それを避けなかったら全裸になるという恐怖で2人には安全にプルスウルトラしてもらおうって算段だ」

 

 

「それ失敗したらよ……」と切島が僅かに頬を赤くしながら尋ねた。

 

 

上鳴は素面のままキッパリと言った。

 

 

「全裸だな」

 

 

「人の個性をエロスライムか何かだと思ってるの??? というか普通に虐めじゃん! 絶対やらないからね!?」

 

 

「最低よ上鳴ちゃん。見損なったわ」

 

 

ゴミを見る目でそう言う蛙吹に上鳴は眉尻を下げながら反論した。

 

 

「だって俺がやると紐なしバンジーだし……それは意味ねぇって体育祭で分かってるしよ」

 

 

「0か100かしかねぇのかよオメェは……」

 

 

恐々と言った切島に2人は首が折れそうな勢いで頷く。人の尊厳を無視した畜生同然のメニューに3人はドン引きした。

上鳴が唇を尖らせながら言った。

 

 

「というか別に女子が女子の裸見ても無問題なんだからいいだろ。相澤先生に相談して別の訓練施設借りれないか聞くつもりだし」

 

 

「最低限の配慮はあるのね……というかその理屈だとあまり恐怖はないんじゃないかしら?」

 

 

「それでも嫌だよ。体操服だってタダじゃないんだし」

 

 

「嫌か……ならまあしゃーないか。良い案だと思ったんだけどなぁ」

 

 

「おい上鳴───今、何の話をしてた? オイラも同行しよう」

 

 

芦戸が出来ないというならまあ仕方ないか。それぐらいの感覚で引き下がろうとした上鳴の後ろから、登校途中の峰田が声を掛ける。

 

 

荒い鼻息から話を聞かれていた事を察した上鳴は3秒ほど間を置いてから言った。

 

 

「この話は無しだな」

 

 

「おい! 良い子ぶるなよ上鳴ィ! お前だって2人のあられもない姿見たかったんだろ!? オイラに隠す必要なんてないんだぜ!」

 

 

「峰田が興奮する事は致命的に駄目なことだって耳郎が言ってた。そんなにヤバかったのか」

 

 

「響香ちゃんに判定を預けてるのね……」と蛙吹。

 

 

「妥当っちゃ妥当か」切島が腕を組んで頷く。

 

 

「耳郎もう上鳴係だもんねー」芦戸は切島の真似をしながら頷いた。

 

 

上鳴は3人の言葉を否定も肯定もしなかった。

ただ、身を震わせて。

 

 

「耳郎に聞かれたら何言われるか……踏みとどまれてよかったぜ」

 

 

「ウチに聞かれたら、なに?」

 

 

「───ジーザス!」

 

 

上鳴は駆け出した。

しかし、出だしが圧倒的に早かった耳郎によって回り込まれてしまった。

 

 

 

 

 

何やかんやあった登校風景から暫く時間が経ち、朝のホームルームが始まった。

教壇に立つ相澤は全員が着席しているのを確認し、口を開いた。

 

 

「今日のヒーロー情報学は少々特別だ───コードネームを決めてもらう」

 

 

「胸膨らむやつきたぁぁぁぁあ!!」

 

 

コードネームとは所謂ヒーロー名である。

ヒーロー活動をする上で必須の物であり、トップヒーローにもなればその名前が一種の抑止力にもなり得る。

 

 

相澤は盛り上がる生徒らに一瞥を投げて静かにさせ、言葉を続ける。

 

 

「というのも、君たちには来週から職場体験に行ってもらう。その際、必然的にプロヒーローに着いて現場にも出ることになる訳だが、その時に仮でも名前は必要になってくる」

 

 

「仮とは言っても下手な名前付けらんねぇな」

「テレビ出ちゃってるしね、そのまま覚えられちゃったらアレだもんね」

 

 

「その通り。そして職場体験だが雄英体育祭を見たヒーローから指名が入る。指名をもらえなかった生徒にはこちらで用意した受け入れ先から選んでもらう形になるな。因みに、指名の集計結果はこうだ」

 

 

相澤が手元の端末を起動させ、黒板をスクリーン代わりにしてデータを投影した。

 

 

 

轟───2123

 

爆豪───1856

 

尾白───1020

 

常闇───880

 

八百万───660

 

耳郎───251(1)

 

緑谷───196

 

切島───38

 

瀬呂───14

 

飯田───12

 

上鳴───8(6)

 

 

 

「上鳴くん最下位じゃん」と葉隠。

 

 

「むしろ指名入れる方がすげーよ。剛毅が過ぎる」と瀬呂。

 

 

上鳴の戦闘力は既に学生レベルを逸脱し、トップヒーローにも匹敵する。更にはあの血みどろファイトである。ネットでは非難轟々。大炎上の様相を呈しており、各メディアでも賛否を呼んでいる。半端なヒーローが上鳴を受け入れても「話題性ありきだろ」と炎上するのが目に見えている。だからこそ、”それでも良い”と言えるだけの人間しか上鳴に指名を入れていなかった。

 

 

「あの、気になるんスけど。ウチと上鳴の指名の後ろにあるカッコって何ですか?」

 

 

耳郎が手を上げて相澤に問うと、全員が確かにと頷いた。

相澤は「いい質問だな」と言ってから画面を切り替えた。

 

 

「お前たち2人には海外ヒーローからの指名が入っている」

 

 

黒板に映ったのはヒーローの国籍だ。

耳郎はアメリカから1人。

上鳴はアメリカから2人。スーダン、イギリス、ギリシャ、エジプト、シンガポールからそれぞれ1人ずつの計7人から指名が入っている。

 

 

突然生えてきた海外ヒーローに一同は騒然となった。

 

 

「海外!?」

「ワールドデビュー、マ!!?」

「ざっけんな上鳴はともかく何で耳郎が……!」

「お前よかあるだろ。問題児その2」

「その1が呼ばれてんの見えてねぇのか眼科行けや!!!」

 

 

「煩い」

 

 

相澤の一喝で静まり返るクラス。

はぁ、と溜息を吐いてから相澤は言った。

 

 

「そして2人には悪いが先方から強過ぎる要望があってな……君たちには今週中にアメリカへ飛んでもらう。ご両親には既に説明済みだ」

 

 

「選択肢なしかよ。俺先生のとこ行きたいんだけど」

「うちもありがたいんスけど、二百も選択肢あるなら考えたいというか……」

 

 

「───その先方がアメリカのNo.1ヒーロー、スターアンドストライプでもか?」

 

 

刹那、A組の教室が絶叫で満ちて窓ガラスが割れた。

 

*1
B組メンバーはアニメが好きという公式設定があったりする

*2
前世と長引いた病院生活の影響。ep.3




ゆるーい回になりました。これにて体育祭編は完全に終了となります。
改めて拙作を読んでくださっている皆様に感謝を。ありがとうございます!

次回からアメリカ編が始まります。
職場体験の予想が当たった方はいらっしゃいましたでしょうか? 何故2人がスターから呼ばれたのか、その理由は次回かその次くらいに出せると思います。

以下、上鳴を指名した剛毅なるヒーロー達。

[日本]
・No.3 ベストジーニスト
・No.5 ミルコ

[海外]
・アメリカ:スターアンドストライプ
・アメリカ:カウレディ
・スーダン:ニイカング
・イギリス:エレクプラント
・ギリシャ:パンクラチオン
・エジプト:サラーム
・シンガポール:ビッグレッドドット

海外勢は劇場版から引っ張ってきました。
キャラデザはニイカング、エレクプラント、パンクラチオンの3人が好きです。強そう。
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