雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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ep.38 飛んでアメリカ

「さあて、エコノミーでロスまで行ったら向こうで最初にする事が休憩になるからね。2人ともこっちだ。特別なシートを用意してる」

 

 

搭乗口から背を向けて歩き出したスターの後ろを2人は駆け足で追いかけていく。スターの身長は193cmあり2人とは歩幅が違う。

ずんずんと迷いなく突き進んでいくスターが、正面を向いたまま問いかける。

 

 

「私は2人のこと何て呼べばいい?」

 

 

突然の問い掛けに2人は顔を見合わせ、首を傾げた。好きに呼べばいいじゃないかというのが顔に書いてあった。

それでも言葉を待つスターに、2人は言った。

 

 

「俺は名前に拘りないし、何でも」

「ウチも、拘りはないです」

 

 

「はっはっはっ!謙虚だな、日本の学生は! ここはヒーロー志望なら迷わずコードネームを言う所なんだが?」

 

 

「そんなもんなん?」

「……ウチに聞かれても分かんないよ」

 

 

「ま、アッチでその辺りの気構えも教えてやるさ。とりあえず好きに呼ばせてもらうよ」

 

 

スターはオールマイトの様に豪快な笑みを見せた。

 

 

───おかしい。

 

 

上鳴は思う。

これだけスターアンドストライプが大騒ぎしているのに何故誰も気付かないのか、と。

耳郎もその事に気が付き辺りをキョロキョロと見回して訝しんだ。

オールマイトがこれだけ騒いでいれば瞬く間に囲い込まれて身動きが取れなくなる。スターを知らない人類がいる地域など、情報社会とは縁遠い途上国くらいだ。

 

 

「勘付くのが早いな。流石、ナオヤの弟子と師匠(マスター)の教え子だ」

 

 

「ナオヤ……?」

 

 

「善院先生だよ。耳郎も会ったことあるだろう」

 

 

「あ………うん。え、待って? それと何が関係あんの?」

 

 

「ナオヤは私が唯一ライバルと認めた男で、いつかサイドキックになる予定のヒーローだからな」

 

 

胸を張って自慢げに言うスターに、上鳴は真顔のまま思った事を口にした。

 

 

「先生が聞いたら凄い嫌な顔しそう」

 

 

「……されたよ。傷つくぜ、流石に」

 

 

画風を一般人に戻したスターが拗ねた様に唇を尖らせて言うのを見て、2人は肩を組みスターから背を向けた。

 

 

「ねぇ。スターさんめっちゃ乙女なんだけど!? 何やったのアンタの先生!」

「知らねぇよ! 俺そういうの興味ねぇから聞いたことねぇし! そもそもスターと面識があるのは知ってたけど、こんなズブズブだとは思わなかったぜ……!」

 

 

「聞こえてるからな?……思ったより情緒が育ってそうで良かったよ」

 

 

スターは頬を引き攣らせながらそう言って、廊下の角を曲がった。

 

 

「スター、そっち外……」

 

 

「いいんだよ。こっちが近道だから」

 

 

困惑しながらも2人はスターの背中を追いかけ、一時空港の外へ。関係者以外立ち入り禁止の札を無視して突き進むスターに恐々と付いていく。

 

 

そして。

 

 

「着いたぞ、特別シートだ」

 

 

そこにあったのは2機の超音速機だった。

 

 

「「は???」」

 

 

「こっちが本当のサプラーイズ! 今からこのナオヤより速い戦闘機で私のホームまでひとっ飛びだ!」

 

 

開いた口が塞がらない2人をスターは超音速機に投げ込んだ。

それから戦闘機の上に乗り、身体強化を掛けて叫ぶ。

 

 

「さあ行くよお兄ちゃん(ブロス)たち! 新しい弟くんと妹ちゃんにいいとこ見せてくれよ!」

 

 

『キャシー、カッコつけてるところ悪いんだが……司令からの通信が止まないんだ。どうにかしてくれ』

 

 

「今から帰るから待っといてって言っといて!」

 

 

死んだ(クビになった)ら恨むぜスター』

 

 

「そん時は私も一緒に死んで(辞めて)やるさ!」

 

 

物騒な会話をするスターとパイロットに耳郎がおずおずと尋ねる。

 

 

「あの……何で普通に待てなかったんですか?」

 

 

「俺たちも待とうって言ったさ───あの規格外(最強)が言うこと聞くようなタマに見えるか?」

 

 

更に通信機から別機体のパイロットの音声が入る。

 

 

「イーサンがそう言ったらスターは何て返したと思う? 『どうせ来るんだから迎えにいってもいいだろう?』 だぜ? 意味がわからん」

 

 

「全くだ」

 

 

「「HAHAHA!!」」

 

 

無論笑い事ではない。

だが、世の中には笑っていないと己を保てなくなる時がある。人はそういう時間を幾度も経験し、大人になっていくのだ。

 

 

2人はされるがままに装備を付けられ、後部席に座った。

 

 

「さァ───出発!」

 

 

おそらく最も迷惑を被っているのはこの空港の人なんだろうな、と上鳴と耳郎は漠然と思いながら日本から飛び立った。

 

 

 

 

 

「え? 上鳴と耳郎がスターが乗ってきた戦闘機でアメリカに向かった? 何を言ってるんですか? 冗談ならもう少し面白い物を用意して………本当なんですか? 証拠もある?」

 

 

職員室で事後報告を受けた相澤が寝袋でふて寝したのは完全なる余談である。

 

 

 

 

 

戦闘機が音の壁を突き破って飛行すること2時間。2人とスターを乗せたそれはアメリカ西海岸にある空軍基地に着陸した。

 

 

───そういや……入国手続きとかどうすんだろ。

 

 

流石に違法入国で捕縛されたり、前科が付く可能性が出てくると上鳴の中にも不安感が芽吹く。

耳郎など上鳴の比ではない。真っ青な顔で辺りを見回しながら肩を振るわせていた。

 

 

「ビビり過ぎだ。流石に私もその辺りはちゃんとするさ」

 

 

「よ、よかった」

 

 

「サプライズが過ぎたなスター」

 

 

「私はちょっと怒られてくるから……お兄ちゃん達、2人をよろしくね」

 

 

スマホを取り出して電話し始めたスターを置いて、2人は空軍基地で入国手続きを済ませた。

今回の送迎を担当したパイロットの1人、アフリカ系アメリカ人のイーサン・ドライブが2人にカードを手渡しながら言う。

 

 

「来賓者用のIDを発行しておいたが、基地内を勝手に出歩くのはナシだ。もしも知らない内に立ち入り禁止エリアに入っちまったら……スターでも庇えないぞ」

 

 

「どうなるんだろ……」と顔を青くする耳郎に上鳴がボソリと告げた。

 

 

「撃ち殺されんじゃね」

 

 

「撃ちころ……!?」

 

 

耳郎は口に手を当てながら後ずさった。

 

 

アメリカ合衆国と日本の関係は深い───その所以は超常以前の歴史まで遡るが、それ以上にオールマイトの存在が大きい。

 

 

全盛期のオールマイトの移動速度は超音速機を優に超える。助けを求める声あれば、オールマイトは国境を跨いで救いの手を差し伸べてきた。もし仮に日本がオールマイトの名の下に救援を求めれば、それは各国の首脳陣が無視出来ないほどの影響力を持つだろう。

 

 

しかし、2人が幾ら雄英高校の生徒でオールマイトの教え子だったとしても他国の人間である事に変わりはない。基地内に入って来賓扱いを受けられるだけでも十分凄いことなのである。

 

 

そんな中、上鳴がそわそわしながら口を開いた。

 

 

「身体動かしてぇっす」

 

 

イーサンはニッと笑い上鳴の頭を乱暴に撫でてから言った。

 

 

「元気があっていいじゃねぇの。じゃ、早速訓練を始めるか」

 

 

「「……訓練?」」

 

 

「ああ。お前たちが職場体験の本番に行く前に、ここでみっちり鍛えてやろうって話さ。現場に出て死なない様にな」

 

 

イーサンの言葉にもう1人のパイロット、ウェッジが付け加える。

 

 

「そうさ! ここは日本みたいに平和じゃねぇぞ? 街に出たら普通にヴィランがうろついてるし、1時間も散策すりゃあ一件は返り血に塗れた強盗に出くわすからな」

 

 

「楽しそうっすね」

 

 

「どこが……」

 

 

上鳴と耳郎の正反対な反応にイーサンとウェッジは顔を見合わせた。

 

 

「思ったより妹ちゃん(シス)は常識人だな」

 

 

「どういう意味ですか?」

 

 

「いや、雄英体育祭だよ。エレキボーイとお熱い戦いを繰り広げてたから、てっきり───」

 

 

「ああああああ!!? やめてください! セクハラっスよ!!!」

 

 

顔を真っ赤にしてプラグを揺らす耳郎にイーサン達は笑った。

ひとしきり笑った後、イーサンは2人に言った。

 

 

「そんじゃあ向こうで兄弟たちを紹介する。お前たちにも自己紹介してもらうから、とびっきりのスピーチを考えといてくれよ?」

 

 

 

 

 

簡単な自己紹介を済ませて始まった訓練だが、上鳴はともかく耳郎にとっては過酷を極めた。

 

 

イーサン達、"スターズ分隊”は所属こそ空軍ではあるが、スターとチームを組む関係上極めて特殊な立ち位置にある。それ故に彼らが取り組む訓練内容は空軍従来の物から、陸軍や海軍の物までを包括した幅広い物になっていた。当然だが、雄英で2人が行っている基礎トレや放課後の補習よりも重く、濃い。

 

 

「結構、キツいね……!」

 

 

膝に手をつきながら耳郎は荒い息を整えようとして大きく咽せた。

上鳴は肩を回しながらそれを見て言った。

 

 

「流石にしんどいか」

 

 

「何でそんな余裕なの……アンタ……」

 

 

「年季」

 

 

そんな会話を繰り広げるティーンズにイーサン達もまた戦慄していた。

 

 

「……何で膝に手を置くだけで済んでるんだ?」

 

 

「俺たちがアレくらいの歳の頃はもう………」

 

 

「思い出すなよ! お前この前それで連鎖的に思い出した失恋の記憶でゲロったろ!?」

 

 

俺が先に好きだったのに、と声を漏らす中年の兵士。膝から崩れ落ちるその男を無視してイーサンが言う。

 

 

「まだジャックはいい。イカれてるのはミカヅチだ。殆ど汗かいてねぇぞ」

 

 

「ナオヤはどんな訓練を課したんだ? 実はサタンの生まれ変わりか何かだったか、アイツは」とウェッジ。

 

 

2人の脳裏にはまだ若い善院の姿が残っている。

スターと喧嘩をする善院。

スターにダル絡みされる善院。

戦闘機を追い抜いてドヤ顔を浮かべる善院を追い抜くスターズ。

色褪せない記憶というのは確かにある。会話をしたことだって一度や二度ではない。その人柄だってよく知っている。

だが、上鳴の能力が並の努力では手に入らない事も彼らは理解している。善院がそれを上鳴に身に付けさせる為に課しただろう訓練を想像し、思わず身を強張らせるのも無理はない。

 

 

兵士の2人が上鳴の肩を叩いて、尋ねた。

 

 

「なあ、ミカヅチ。大丈夫か? ナオヤに酷いことされてないか?」

 

 

「No.1を超えるのはお前の義務だ、とか何とか言って虐められてないか?」

 

 

スターズ分隊の平均年齢は40歳前後。

中には上鳴や耳郎に近い歳の子供を持つ親もいる。上鳴に声を掛けたのはその2人だ。

上鳴は「何でそんな事を?」と首を傾げながらも答えた。

 

 

「いや、俺はそんな事言われてねぇっすよ。轟……エンデヴァーの息子は言われてそうだったけど」

 

 

「マジかよ最低だなエンデヴァー」

 

 

「俺、エンデヴァーのファン辞めるわ」

 

 

海外でエンデヴァーの株価が急落する中、「おーい!」とスターの声が聞こえてくる。説教を乗り越えたスターがタンクトップと迷彩柄のズボンに着替えて帰ってきたのだ。

スターは全員の顔を見て、イーサンに尋ねた。

 

 

「もう始めたのか。最初に案内をと思ったんだが───どれくらい動いた?」

 

 

「一通りはこなしたよ」とイーサン。

 

 

スターは「一通りやってこれ?」と耳郎に目をやって言った。イーサンは頷き、言った。

 

 

「ああ。想像以上だろ?」

 

 

「違いない───これなら今すぐ圧縮訓練と意識拡張に移っても良い。進み具合によってはアレにも参加させよう」

 

 

「索敵係は貴重だ。慎重かつ丁寧にな」

 

 

スターとイーサンが話しているのを見ながら上鳴は「2人は何の話してんの」とウェッジに問い掛けた。

 

 

「スターは今、国際指名手配されてるテロリストを追っててな。スターズ(俺たち)もチームアップしてる他ヒーローに付いてるデカいヤマなんだが……ナオヤからそれにデンキボーイを同行させろって連絡があったんだよ」

 

 

「ああ、今回の職場体験に(かこつ)けて……ってことか」

 

 

「そうそう。で、それは雄英体育祭見てから決めようって話になり、見たら見たでじゃあこの子も取ろうと話が飛躍して………最終的に鍛えてから現場に連れて行こうかって所で落ち着いたわけ」

 

 

「で、思ったより動けたから……」

 

 

「訓練を前倒しして現場に行こうぜって感じ。だよなスター、イーサン!」

 

 

「その通りだ。デンキが動けるのは分かっていたが、まさかキョウカがここまで動けるとは思っていなかったな」

 

 

耳郎は体育祭でフィジカルの強さより動きの器用さの方が目立っていた。身体の線も入学時よりはマシになったがまだ細く、動けるとは思えなくても無理はない。

 

 

───ま、無駄に線が太くならない様に鍛えてたからな。どう頑張ってもフィジカルエリートにはなれないし。

 

 

上鳴は耳郎が目指すべきは相澤のようなテクニックに重きを置くヒーローだと思っている。状況に合わせてアイテムで個性を補強しながら、俊敏に動く。それが耳郎の持つ強みを最も活かせる戦い方なのだと。

 

 

しかし、褒められている筈の耳郎は不服そうに言った。

 

 

「はぁ………はぁっ………こんな状態でOKサイン貰っても……あんまり嬉しくないというか」

 

 

プライドからくる否定ではない。

現状に満足出来ていないからこその否定だ。

スターは不満げな耳郎を見て破顔した。

 

 

「良い心掛けだ───安心しな。この数日で私たちがきっちりヒーローにしてやる。だが、焦っちゃいけない。それは時としてどんなに優秀な人間であったとしても身を滅ぼす毒になるからね」

 

 

スターが二度手を叩くとスターズが整列し、敬礼を取った。

先程までの緩い空気が一気に引き締まるのを肌で感じた2人も、見様見真似で腕を構えた。

スターはそれを見て頷きヒーローとしての顔付きで声を張った。

 

 

「それじゃあ先ずは一つ目の戦場に向かう! 付いてきな野郎ども!」

 

 

踵を翻すスターに、2人はスターズと共に付いて行った。

 

 

 

 

 

スターを先頭に基地内の建物に入り、無言のまま突き進むこと5分───

 

 

「という訳で!」

 

 

「ようこそアメリカへ!」

 

 

宴会場(戦場)と化した食堂に案内された2人はガクンと肩を落とした。

 

 

「今日からここで食事をとってもらう訳だが───2人とも線が細い! もっとよく食べないと大きくなれないぞ!?」

 

 

「いや、人種的に無理……」と耳郎。

 

 

「超常以前、日本から来たベースボールプレイヤー達は皆この国で身体を大きくしたと聞く! 特に現代にまで語り継がれるベースボールミソロジー、キョタニショーヘーの変貌は今でも語り草となっているくらいだ!」

 

 

「多分なんだけどその人の名前違うぞ」と上鳴。

 

 

超常以前の歴史は断絶とまではいかないにしろ失われている部分も多い───特にスポーツは人類が個性を獲得し、規格が狂ったが為に今では殆ど廃れてしまっている。語り継ぐ者がいなければ人の歴史は容易く捻じ曲がり、消えてしまうものだ。

 

 

スターは否定的な近頃の若い者2人にムスッとした顔を見せ、それから机の上に置かれた一枚のクソデカいピザを筒状に丸めながら言った。

 

 

「イーサン! ウェッジ! デンキを抑えてくれ! 洗礼の時間だ!」

 

 

「「了解!」」とオールマイト風の画風になった2人が上鳴の両脇から押さえつける。

 

 

「うわっ! 何だ力強っ!!?」

 

 

「HAHAHA! スターの手に掛かればこんな物さ!」

「大人しくしろよ末弟(ブラザー)!」

 

 

「何でそんな全力なんだ!!?」

 

 

「腹が減ったら何とやら───! 先ずはその生意気な口に美味いピザを突っ込んでやるぜ!」

 

 

「むごぉ!?」

 

 

スターは上鳴の口にピザを突っ込んだ。

そしてイーサンとウェッジの画風が元に戻るのと同時に小さな声で言った。

 

 

「上鳴電気は常人並の味覚を得る」

 

 

「………っ! 先生から聞いてたのか(フェンフェハラヒイヘハノハ)!」

 

 

「まあね、それに折角なんだ。楽しんで欲しいじゃないか。な?」

 

 

───スターの個性、新秩序は対象に新たなルールを付与できる。俺の状態を彼女なら上書き出来る……のか?

 

 

上鳴はもごもごと口を動かした。

刹那、口の中にケチャップソースとチーズの味が広がる。それは味覚を失う前に食べた物よりずっと大味で、青年の記憶にある知識よりずっと適当だった。だが、それでも───涙が出そうになるほど美味しかった。

 

 

「……うめぇ」

 

 

上鳴は最初から味覚が無かった訳ではない。味覚を失った人間であり、それなのに普通の味覚を持ったまま死んだ青年の記憶を有している。

 

 

嗅覚が鋭いのも良くなかった。人は感情で物事を記憶している側面があり、特に五感を交えた記憶というのは鮮烈に残る物だ。美味しそうな匂いを嗅ぐ度に否が応でも思い出す記憶に、幼少期はそれなりに苦しめられた事もあった。

 

 

今、一時的ではあるがそれから解放された。

 

 

上鳴は堪えきれなくなった物を両目からポロポロと溢しながら、机の上で湯気を立たせている出来たての料理へと手を伸ばした。

 

 

その姿を見てスターズが笑いながら集まってくる。

 

 

「何だ大袈裟だな!」

「まだまだ美味いのはあるぞ! もっと食え!」

「ラザニアもポテトもあるぞ!」

「肉! 酒!」

「酒はダメだろ」

「アレルギーは大丈夫か? SUSHI もあるぞ」

「俺タコ無理!」

「お前にゃ聞いてねえよサム!」

 

 

「全部食べる」

 

 

「上鳴、大丈夫?」

 

 

耳郎が上鳴の顔を覗き込んで尋ねた。

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

歓迎会は夜中まで続いた。

 

 

上鳴は普段より食べ過ぎた影響か途中で眠ってしまった。

 

 

耳郎も色々あった疲労で船を漕ぎ始めており、子供達だけ先に解散して大人が騒ぐという本末転倒な光景が作り出されていた。

 

 

そして耳郎は上鳴を担いだスターから案内を受け、宿泊する予定の部屋の前へとやってきた。

 

 

「それじゃあ明日は6時に起床、6時半から訓練を始めるからそのつもりでいてくれ。隣の部屋にデンキを寝かせておくから、起きたら起こしてやってくれ」

 

 

「はい……あの、ちょっと良いですか」

 

 

「何だい?」

 

 

「何で私を選んだんですか?」

 

 

耳郎は真っ直ぐスターの目を見て、ここに来る前からの疑問をぶつけた。

スターは「そうだな」と言ってから考える素振りを見せ、間を置いてから答えた。

 

 

「気に入ったからさ。個人的な気持ちで言うと、デンキの方がオマケだ」

 

 

キョトンとする耳郎にスターは微笑み言葉を続ける。

 

 

「君と同じ目をしていた人間を知っている。憧れを憧れだけで終わらせず、そこにたどり着くために足掻く人間の目を。まあ、ありきたりな話さ───そいつと君を重ねた」

 

 

「…………それは」

 

 

「……いつからだったか。追いかける立場から追われる立場になって初めて気が付いた。夢を追いかける事の難しさと、その残酷さ。昔の私は知らなかったんだ。追いかける事が楽しかったから。だからアイツもそうだと思い込んでいた。それを飲めるだけの度量があるかどうかを気にしなかった」

 

 

スターの独白に耳郎は黙り込み拳を固く握った。思い当たる人物が居たからだ。

 

 

───善院先生が諦めたって言ってたのは、きっとこの人に追いつく事をだ。

 

 

「君はどうなんだ? まだ追いつけると思ってるのか?」

 

 

「追いつきます」

 

 

口を突いて出た言葉だった。

もっと言い方はあったと耳郎も思う。

だが、嘘偽りない本音である事に違いはない。

 

 

「私だけじゃない。皆、そう思ってます」

 

 

オールマイトとの戦いを見た。

USJで誰よりも早く動き出し、何人ものヴィランを倒す姿を見た。

その一方で戦う度にボロボロになる姿を見て、思った。

 

 

「……放っておいたら死にそうなんで」

 

 

───笑いながら戦うアンタの背中が、私には凄く寂しそうに見えた。

 

 

「友達として、私は……私達は必ず上鳴の隣に立ちます」

 

 

耳郎の宣言にスターは破顔する。

 

 

「OK、君の覚悟は伝わった………明日からは死ぬほど辛い訓練だ。くれぐれも死ぬんじゃないぜ?」

 

 

「───望むところ! っス!」

 

 

「HAHA、口調は崩してくれて構わない。大事なのは言葉じゃなくて心だ」

 

 

「はいっ!」

 

 

「いい返事だ、末妹(シス)。それじゃあ良い夜を」

 

 

 

 

 

耳郎の部屋から出たスターは上鳴の頭を小突いて言った。

 

 

「……盗み聞きは良くないぞ末弟(ブロス)

 

 

その言葉に一切反省の色を見せずに上鳴は言葉を返す。

 

 

「いいのいいの。一回、いや二回は俺も聞かれてっから。それよりおメガネには適ったかよ、No.1」

 

 

「バッチリだ。カッコいいじゃないか」

 

 

「だろう? 俺の自慢の……友達なんだ」

 

 

「含むねぇ! ガールフレンドじゃなかったんだ」

 

 

「いや、友達ってどっからかわかんねーからさ……」

 

 

スターはその言葉に肩をすくめながら「コミュ障だな」と呆れた。

上鳴は特に気にした様子もなく笑い、スターから降りて口を開く。

 

 

「ま、耳郎が友達だって言ってんなら友達でいいだろ」

 

 

「適当なヤツめ……それじゃよく寝ろよ? 泣き虫ボーイ」

 

 

「へーい。お休みスター教官。明日からよろしくな」

 

 

「……教官?」

 

 

「嫌だった? 嫌なら変えっけど」

 

 

「別にいいさ。そうか、教官か………先生より強そうな良い響きだ。気に入ったよ」

 

 

「基準そこかぁ」

 

 

───先生、スターに何したんだろう?

 

 

上鳴はそんな事を考えながらスターと分かれ、早々に身支度を整えてベッドに潜り込んだのだった。

 





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これからも皆様に面白いと思ってもらえるように頑張って書いていきますので、応援してもらえると嬉しいです。
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