雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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感想貰えるとパワーが出ますわ……という訳で今日の投稿になります。


ep.45 四方山話

峰田が相澤に縛り上げられ、幾つものペナルティを科された翌日のホームルーム。

 

 

「夏休み、林間合宿に行きます」

 

 

「知ってたよぉ!!! やった───!」

 

 

教壇に立った相澤の一言が生徒らのテンションを高めていた。

浮き足立つ学生を見て相澤は溜息を吐くが、それ以上はない。眼前にいる生徒達はヒーロー候補生として学ぶこと以上に、高校生として学ばなければならない事が山の様に存在する学生だ。

合宿が普段の授業だけでは鍛えきれない部分を短期集中で一気に底上げするのが目的の物であっても、若人にとっては大した問題ではない。大勢の友達と一緒に普段とは違う場所で泊まり込んで何かをするというのは、高校1年生くらいだと学校行事くらいしかないのだ。

 

 

「肝ためそー!」

「風呂!」

「花火!」

「風呂!」

「カレーだな!」

「行水!」

「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」

「湯浴み!」

「如何なる環境でも正しい選択を……か。面白い」

 

 

そんな風に口々に喋り出すクラスメイトを尻目に、上鳴は頷いた。

 

 

───なるほど、これが青春か。

 

 

林間合宿は初めての経験である。

小学校、中学校で一度や二度は経験するが上鳴にその手の思い出はない。

 

 

───たまにはゆっくり……この青春を噛み締めたいもんだな。

 

 

何だかんだ戦ってばかりな高校生活。

その事に不満は一切ない。

しかし、それはそれとして学生らしい事の1つや2つやってみたいという気持ちが上鳴にもあった。

 

 

「だがその前に」

 

 

ワイワイする教室の空気に水を差したのは相澤だ。

 

 

「学期末だからな……試験がある。ここで赤点を取った奴は学校で地獄の補習漬けだ」

 

 

「皆頑張ろうぜ!!!」

 

 

切島が声を張り上げ、爆豪を除く全員が神妙な面持ちで同意した。

 

 

ホームルームとそれに続く1限目の授業が終わった後の休み時間。

 

 

「上鳴頼む!」

 

 

瀬呂が両手を顔の前で合わせて上鳴に頭を下げて言った。

 

 

「期末まで実技の面倒見てくんね!?」

 

「構わないぜ」

 

 

即答である。

 

 

「俺もいいかな、上鳴」

 

 

「尾白もか。構わないぜ」

 

 

またしても、即答である。

理由は特段ない。強いて言えば。

 

 

───緑谷にもっと戦闘経験を積ませたい。

 

 

救助レースで確かな成長を見せつけた緑谷ではあるが、上鳴の要求ラインは全盛期オールマイトである。基礎トレもそうだが戦闘時の柔軟な思考は一朝一夕では身につかない上、経験が物を言う。A組の多彩な個性をどう対応するかを考える事は得難い経験値となる。

 

 

「他に放課後の補習に混ざりたい奴は───ほぼ全員か………爆豪は?」

 

 

上鳴が教室を見回せば爆豪以外が反応を見せていた。

名指しされた爆豪はゆっくりと身体の正面を上鳴へと向け、口を開いた。

 

 

「テメェをぶっ飛ばせるなら」

 

 

「挑戦はいつでも受け入れるぜ」

 

 

爆豪が向けてくる鋭い殺気に上鳴が目を細め、気持ち良さそうに伸びをした。

まるで気にした様子がない。

それどころか上鳴は舌打ちをする爆豪に近づき、肩を組みながら意気揚々と拳を突き上げる。

 

 

「じゃ、実技合格目指して頑張ろうぜ!」

 

 

 

 

 

そして───放課後。

上鳴は入学当初から補習に使っているトレーニングルームが人数の増加と共にやや手狭になった為、相澤に直談判して広い場所を確保した。それから期末試験に向けて、一先ず補習組から現在の最大値を引き出すべくトレーニングの調整を行う事に。

 

 

「八百万、遮光率が限りなく100%に近いサングラスを19個作ってくれ」

 

 

「構いませんが……何をしますの?」

 

 

「葉隠の個性限界を調べる」

 

 

「個性限界、ですか?」

 

 

「おう。葉隠の個性は光を透過する肉体だが、それをレンズみたいに屈折させて肉体を通過している光量を調整できる。肉体が物体である以上、限界はある筈だ。そして今の限界を知らないまま強くはなれない」

 

 

「なるほど。少々お待ち下さいな……んっ」

 

 

ぽこんぽこんと八百万の細腕から真っ黒なサングラスが作り出され、程なくして全員に行き渡る。

上鳴は葉隠の正面に立って軽く肩を回してから、腰を低くし両手を額の前へと持ってきた。

 

 

「その構えは───!」

 

 

少年達には一目で分かるあまりにも有名な構え。そこから繰り出される技の名は。

 

 

「いくぞ葉隠」

 

 

「え、あ、うん」

 

 

「ふぅ…………雷光拳ッ!」

 

 

刹那、太陽が地上に落ちてきたと錯覚するような閃光がトレーニングルームを白く染め上げた。

 

 

「お、見えてる見えてる」

 

 

光が止んだ後、上鳴は個性を使わずともハッキリと認識できる様になった葉隠の姿を見て、自身の考えが正しかった事に確かな満足を得た。

 

 

───後は任意で切り替えれるように鍛えるのと、ついでに体細胞からコスチュームを作らせれば……体術はそこそこ出来る方だし、かなり面白くなりそうだな。

 

 

そうやって腕を組んで葉隠の今後の成長に思いを馳せていると本人から。

 

 

「ねぇ、上鳴くん」

 

 

「何だよ葉隠」

 

 

「後ろから凄い寒気がするの、なぁぜなぁぜ?」

 

 

「………………………なんでやろなぁ」

 

 

「か」

 

 

サングラスを外した女子陣が目を光らせながらにじり寄る姿が見えた上鳴は、そっと視線を切って速やかにその場から移動した。

 

 

「かわいいぃぃぃぃぃ〜!!?」

 

 

似顔絵そのまんまじゃん!? と女子陣に揉みくちゃにされる葉隠を尻目に、上鳴が男子達に合流しようと移動すると峰田が血涙を流しながら吠え立てた。

 

 

「ざけんなよ上鳴ィ……! 話が違うじゃねぇか!」

 

 

「何の話だ」

 

 

「あのレベルの美少女の全裸を見て無反応って不能かよ!!?」

 

 

ピタリ───と男子高校生の動きが止まって視線が泳ぎ、葉隠へと向かう。女子陣から「サイテー!」という声が上がるが、こればかりは最早致し方ないことだろう。

 

「お前の過去にいったい何があったんだ上鳴! どんな業を受けて癖を歪められた!?」

 

 

「何もねぇよそんなイベント」

 

 

「んな訳ねぇだろ!!!」

 

 

食い気味な峰田に一歩後ずさる上鳴。

異様な圧力を受け、薄らと額に冷や汗が浮かぶ。

 

 

───この気迫をもうちょい普段から出してくれ。

 

 

峰田の実力はA組で上から数えた方が早い。

それが上鳴の見解なのだが、如何ともし難いムラっけが結果を著しく損ねていた。思わず自分がたじろぐ程の圧を出せるなら、普段からもっと頑張って欲しい。

 

 

「でも実際どうなん? 葉隠、すっげー美人じゃん」と瀬呂。

 

 

「確かに……全く見向きもしないってのは無理だよな」砂藤が瀬呂の言葉に頷く。

 

 

小声で上鳴に尋ねる2人に、飯田が声を張り上げる。

 

 

「デリカシーに欠けた発言はよしたまえ! それは彼女の尊厳のみならず、君達の品位も貶める愚言だぞ!」

 

 

「でも『お前なんか興味ねーから』って言うのもそれはそれで失礼だろ……」

「声がデカいよ飯田。そっちの方がやべぇって」

 

 

───何でそんな事を気にするんだ? というかそろそろ訓練しようぜ。

 

 

上鳴に性欲はない。そういった情緒は知識としては理解できても、感覚を共有する事ができなかった。

何の為に集まったんだと上鳴がため息を吐きそうになった瞬間。トレーニングルームの壁の花と化していた問題児その2の堪忍袋が切れた。

 

 

「どうでもいいことでさっきからワチャワチャしやがって……」

 

 

爆豪は掌から鳴る爆発音で視線を集めながら言葉を続けた。

 

 

「さっさと始めろやァ! 何の為にここまで来てんだァ!? お喋りしたいならマックでもどこでも行ってこい!」

 

 

爆豪の正論パンチに騒いでいた生徒はピタリと動きを止めた。

 

 

そして上鳴が爆豪の言葉に拍手を送り、漸く放課後の特訓は幕を上げた。

 

 

先ず補習組。

上鳴はノートを手渡し一気に説明する。

 

 

「緑谷は全身に錘付けた状態で個性の発動を維持してパルクール。これメニューな」

「峰田、耳郎は足にだけ錘付けて途中まで緑谷と同じメニュー。途中から内容変わるから適宜ノート見て練習」

「葉隠は基礎の前に個性のオンオフの練習な。それさえ出来ればやれる事がこれまでとは比較にならんから」

 

 

そして残りは───

 

 

「取り敢えず爆豪と轟以外は峰田と耳郎のメニューを錘なしで……尾白と砂藤は緑谷と同じ錘を付けてもいい。障子と飯田は試してもいいが無理すんなよ。切島は手足だけつけてくれ。メニュー終わったら緑谷のノートに組手の組み合わせ書いといたからやるように」

 

 

除外された轟が「俺たちは?」と上鳴に尋ねる。

上鳴は喜色満面の笑みを見せながら言った。

 

 

「お前たちは俺と個性なしの組手。2人掛かりでいいからな」

 

 

「舐めやがって」

「……怪我しても知らないからな」

 

 

「やれるもんならやってみな。俺に一撃でも良いの当てれたらコーラ奢ってやるよ………それから全員聞け! これからするのはウォーミングアップだからな! 期末試験対策としてこれまでの授業とかから“救助訓練”、“対人戦闘”、“障害物競争”まで対策する練習を組んでる! 死ぬ程辛いが死ぬんじゃねぇぞ!」

 

 

 

 

 

それから更に時は流れ───試験1週間前。

 

 

「なーんも勉強してなーい!!?」

 

 

芦戸の叫びに何人かが同意している側で上鳴は耳郎が机の上に広げた数学の教科書を見ていた。二次関数が分からないという耳郎に解説を入れるためだ。

 

 

「躓いてんのは応用か」

 

 

数学は暗記科目である。

必要なのは公式の知識と、どの公式を使えば問題が解けるのかを見抜く為の経験。これらは数をこなせば自然と身につく物で時間さえ割ければ最も点を伸ばしやすいとされる。

上鳴は幼少期より中学卒業の年齢までに雄英高校ヒーロー科の入試、そして高等教育の範囲を網羅する事を目標に勉強させられてきたのもあって、勉学にはかなり余裕があった。

耳郎は目の前でルーズリーフにスラスラと公式を書きながら、式のどこを見れば必要な公式が分かるのかを澱みなく解説する上鳴を見て、息を漏らす様に言った。

 

 

「上鳴ってさ……意外と頭いいよね」

 

 

「失礼だな。努力の結果だよ。頭が良いってのは爆豪みたいな奴の事で、勉強に関しちゃ俺は凡人だ」

 

 

頭が良いと勉強が出来るは同列の様に語られる事も多いが事実は異なる。

勉強はやれば誰でも出来る。ただ習得するまでにどれだけの時間を費やすのかに個人差があるだけだ。その個人差が頭の良し悪しであり、そういう意味では、勉強は時間さえ掛ければ生まれ持った才能の差を埋められる最も公平な分野であると言える。

 

 

「時間だけはあったからなぁ。病院ってクソ暇なんだよ。ずっと鍛えたりアニメ見たりしてても飽きるし」

 

 

「………なんか、ごめん」

 

 

「謝る必要はねーよ。それより続きだ」

 

 

肩を落とす耳郎に上鳴が笑い掛けていると横から葉隠が姿を見せた。

 

 

「え、上鳴くん入院したことあるの?」

 

 

葉隠の声が大きく、教室が静まり返った。教室にいた全員が上鳴の方を見て目を見開いたり口を半開きにしている。

然もありなん───入学時からの上鳴しか知らない人間からすれば、この世で最も入院とは無縁な男にも見えるだろう。

しまった、という顔をしている耳郎を見て上鳴は小首を傾げながら葉隠に言葉を返す。

 

 

「おお。4歳からつい最近まで俺は病院暮らしだったぜ」

 

 

教室は騒然となった。あの爆豪ですら鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まっている。

こうなる事が予想できていた耳郎は天を仰いだ。あまりにもセンシティブな話題だ。どう考えても聞いた人間は気を遣う。普通なら時と場合を考慮して慎重に話すだろう。

だが、上鳴にその様な思慮などない。聞かれたら大体何でも答えてしまうのは悪癖と言っても良い。

葉隠が声を震わせながら上鳴に尋ねた。

 

 

「ちなみに、何で……?」

 

 

「個性が発現した時に出力ミスってマル焦げになっちまってな───」

 

 

上鳴はざっくり自分の人生を掻い摘んで話した。

最強の一年生がどの様に生きてきたか。話の流れ的にも、上鳴が体質についてある程度話すのも当然だった。

そしてそれはごく普通の健康的な生活を送ってきたA組生徒にとって衝撃その物だった。

 

 

「───で、2年前にヴィランと戦って死に掛けた後に仮免取ったんだわ」

 

 

痛いほどの沈黙が教室を支配する。

軽い口調で上鳴は話していたが、かえってそれが聞き手には上鳴の「強がり」の様に聞こえてしまった。

上鳴にそんな気はないのだが、聞き手の善性の高さが裏目に出ていた。

 

 

「どしたん?」

 

 

「どしたん? じゃないよ……」と耳郎。

 

 

それから、聞かれたからって全部答えなくても良いんだよとコッソリ耳打ちをするが、上鳴は首を傾げるだけだ。

 

 

「だってこの体質で別に困ったことねーしな」

 

 

「ピザ食べて涙浮かべてたの何処の誰よ」

 

 

「……それ言うのは野暮だろ」

 

困ったことはあった。

味のしない食べ物を口に入れて飲み込む作業ほど辛いことはない。鋭い嗅覚と前世の記憶があるせいで余計にしんどい。

 

 

思わず眉間に皺を寄せる上鳴。

 

 

その上鳴の耳に───緑谷の癖に似た何かが入ってきた。

 

 

「無痛症、アドレナリンの過剰放出、JKの裸体を見ても無反応。思春期にあるまじき言動の数々……

 

 

そうか。そうだったのか!

 

 

次の瞬間、静まり返っていた教室に雷鳴の如き峰田の叫びが響き渡った。

 

 

「何だよ峰田……今そういう空気じゃねぇだろ……」

 

 

瀬呂が峰田を止めようとした時だった。

静かに涙を流し始めた峰田に瀬呂はギョッとした。そして峰田は勢いよく上鳴の方に滑り込みながら、額を床に付けるほど深く頭を下げた。

 

 

「ごめん上鳴! オイラ今までお前に酷いこと一杯言っちまった……!」

 

 

「どうしたんだお前……流石の俺も気持ち悪いぞ」とドン引きする上鳴。そもそも謝る相手は上鳴以外にも多い。

 

 

しかし、今の峰田の胸中にあったのは“男として死んでいる”上鳴に対してあまりにも無体な自身の言動の数々に対する罪悪感だけだった。

 

 

尤も、情緒が小学生並みの上鳴に思春期男子の様な感覚が通じるかは疑問ではあるが───異様とも言える峰田の雰囲気に、上鳴はいつもの「礼とか謝罪とかいらねーよ」というスタンスを貫けなかった。

 

 

「ま、まぁ何に謝ってるか知らねーけど………今後は気を付けろ、よ?」

 

 

「ありがとう上鳴……ありがとう……!」

 

 

───何だろうこの敗北感。

 

 

いつもの自分を曲げてしまった上鳴は謎の敗北感と共に、話を切り上げる為に謝罪を受け取るという事を学んだ。

 




補足───上鳴のリハビリ内容をA組で知っているのは耳郎だけです。掻い摘んで話したので、その辺りはほぼ全カットしています。ヴィランに襲われた下りを話したのも、その時に一時的に別の病院に入院したからです。

そんな感じの期末試験前の小話詰め合わせセットでした。
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