夏休み前、最後の登校日。
そのHRが終わった直後のことだった。
「あ、そうだ。耳郎にこれやるよ!」
唐突に声を上げた上鳴が、軽い調子で耳郎に何かを差し出した。
「それ、何のチケット?」
「Iエキスポ。行くだろ?」
耳郎の視線が上鳴の手にある2枚の紙と上鳴の顔を交互に移動する。
「ウ、ウチと……アンタで?」
顔の前でプラグの先端を突き合わせる耳郎を見て、葉隠が言った。
「ほう。デートのお誘いですか………大した物ですね」
「どうした葉隠、声震えてるぞ?」と瀬呂。
なるほど、デートかぁ。
教室の窓が生徒たちの咆哮で揺れるまで、時間は掛からなかった。
しかし、三度の飯や5時間目の居眠りよりも戦うことが好きな上鳴に、そんな気がある筈もなく。
「紛らわしい……いや別に期待してたとかそういう訳じゃないけど」と耳郎は顔を顰めた。
「これ俺が悪いの?」
「悪い!!!」と芦戸。
「これはね、ちょっと世間は許してはくれません」目の据わった麗日が芦戸に続いた。
「まあ、もう少し言葉と行動を選ぶべきだったのかもしれませんわね……」
苦笑いする八百万が2人を落ち着かせる中、上鳴は「うぇい……」と眉尻を下げた。乙女の心は秋の空より読み難い。
耳郎が咳払いして空気を変えつつ、上鳴に尋ねた。
「そもそも、何でこんな高い物をウチに?」
Iエキスポ─── 世界中のヒーロー関連企業が出資し、個性の研究やヒーローアイテムの発明などを行うために作られた学術研究都市『Iアイランド』で行われる博覧会である。
Iアイランドは研究成果や発明品を狙うヴィランから科学者とその家族たちを守るため、移動可能な人工島になっている。直径約14kmの大きな円形の内部に中央の六角形のブロックを取り囲むように3つのブロックが浮かんでおり、複数の橋で連結。島への移動手段は飛行機のみという事もあり、そもそも行くだけで大変だ。
そのIエキスポ、それもプレオープンのチケットとなると、まともな手段で手に入れるのは極めて困難。高額なチケットを雄英入試ばりの抽選倍率で引き当てなくてはならない。単なる値段よりも遥かに希少価値がある。
だが、上鳴にとっては然程気にする様な物ではなかった。
「貰ったんだよ。俺、体育祭で優勝したろ。その関係で招待が来てたんだよ。ただ俺は別口で入る予定があったからな。いつも世話になってるし耳郎に渡そうと思って」
「そんな世話した気ないけどね……」
上鳴は学校という場所をよく知らない。
そして、人が生活の中で自然と身に付ける常識や経験に乏しいため、分からない事があったら必然的に近場の人間に尋ねることになる。上鳴の近くにいる事が多い耳郎は、本人が思っている以上に上鳴に頼られていた。
「というか補習見てもらってる時点でチャラでしょ」
「アレは相澤先生の指示でもあるからなぁ」
で、要らないの? と上鳴が言うと耳郎は。
「……貰えるなら欲しい」
「おう。無くすなよ」
1枚うん万円の紙が2枚、耳郎の手に収まった。
「耳郎様!」
「うわなに」
是非お供を───と芦戸と葉隠が言いかけた時、「実は」と八百万が恐る恐る手を挙げる。
「私もお父様から2枚、チケットを頂いておりまして……」
余っているチケットは合計3枚。
女子の人数は合計6人で耳郎と八百万を除けば4人。
「1人行けなくない?」
残酷な現実が姿を見せた。
チケットを貰えないのが2人なら恨みっこなしのジャンケンバトルも辞さなかったろうが、行けないのが1人となると話は別だ。
───めちゃくちゃ行きたいけど……めちゃくちゃ行きたいけど!
気まず過ぎる! 女子達は頭を抱えた。
耳郎は手に持ったチケットと「何でオイラ達に声かけてくんねーんだよ!」と峰田筆頭に男子達からダル絡みされている上鳴を交互に見た。
「これ、上鳴に返してジャンケンする……?」
「いやいや耳郎ちゃん! それは無し!」
「気を遣わなくてオッケー! これは私たちの問題!」
麗日と葉隠が否定すると、蛙吹が言う。
「じゃあ私が残るわ。チケットの期間的に一般入場しても合流できそうだし」
「梅雨ちゃん……! でも!」
「いいのよ三奈ちゃん。皆が笑ってくれる方が嬉しいわ」
儚げな笑みを浮かべる蛙吹に「梅雨ちゃん……!」と女子陣が抱きつく。
ここで「じゃあお言葉に甘えて」と言えないのはヒーロー科故か。
「ウチ、やっぱ上鳴に返してくるよ」
「何だ? 呼んだ?」
話が巻き戻る中、ひょっこり顔を出した上鳴に耳郎がチケットを渡す。
「今回は……」
「待って待って響香ちゃん!」
「まだ話し合える! あみだ! あみだくじで決めよ!?」
「……八百万、説明してくれ」
「端的に言いますと、私の2枚と耳郎さんが余らせるチケット1枚だと1人だけお留守番になってしまいまして………」
何が問題なんだ? とは流石に上鳴も言わなかった。
「そんなに行きたいのか。じゃあ耳郎だけなら何とかなるかもだから聞いてみるわ」
へ? と女子陣が揃って気の抜けた声を出す中、上鳴はおもむろにどこかへ電話し始めた。
「あ、もしもし教官? ───え、先生の電話番号を教えろ? 何度やっても繋がらない? 前渡したヤツ以外知らねーよ俺。タイミング悪かったんじゃないの?」
上鳴が電話してるのが珍しいのと、教官というワードに釣られて男子生徒も寄ってくる。
それに心当たりがある耳郎は事態を何となく理解した。
「んな事はどうでもよくて……あ、すんません切らないで! Iエキスポプレオープンのチケットもう1枚融通してくれ! 先生のSNSアカウント全部教えるから! ……1枚と言わず何枚でもいい? ちょっと待ってくれ」
上鳴は教室を見渡した。
教室に残っていた生徒たちの腕が聳り立つ。
「じゃあ13枚で………え、流石に多過ぎ? 遠慮しろ? うーん。参ったなぁ………じゃあ1枚で良いや」
上鳴様!
そこをどうにか!
「なら3枚は? ……それくらいなら大丈夫? オッケー、交渉成立だな教官。サンキュー! じゃ!」
「今電話されていたのは……?」と八百万。
「スターアンドストライプ」
2度目の絶叫が上鳴の鼓膜を劈く。
相澤が「何の騒ぎだ」と引き返してくるまで、あと30秒と言った所だった。
チケットの1枚は蛙吹に贈呈され、残る2枚を男子達が争う結果になった。勝った奴が総取りで残る1枚の行方は勝者が決める。
壮絶なジャンケン合戦を制したのは切島で、男子達の自己PR合戦は完全下校時間のギリギリまで続いた。
その日の内に採用されたクラスメイトに連絡が回った。
「爆豪! Iエキスポのプレオープンチケットあるんだけど行かねーか!」
「いつだ」
選ばれたのはHR後に爆速で帰宅し、自主錬に没頭していた爆豪だった。
そうして時は流れ───プレオープン初日。
上鳴はスター経由でチケットを手に入れた蛙吹、切島、爆豪の3人と共にIアイランドを訪れた。
「こっからは自由行動だ。帰りの飛行機もスターが手配済みだから、また空港に集合な」
「ファーストクラスやべぇ」と切島。
「…………」言葉すら出ない爆豪。
「上鳴ちゃん、スターアンドストライプにお礼を言っておいて欲しいわ。無理をしてもらった上にあんな歓待まで受けてしまうと……」
恐縮し過ぎで物理的に身体が一回り縮んだ様にも見える蛙吹が締めた。
「ちゃんと言っとくわ………あ、コスチュームに着替えるならそこに更衣室あっから。そんじゃ3人とも楽しんで来いよー」
上鳴は3人に別れを告げ、1人で歩き出した。
他の面々とは異なり既に上鳴はコスチュームを纏い、飛行機から降りた段階でコガネの機内モードも解いて戦杖を手にしている。
「じゃあ───仕事と行くか」
上鳴が此処に来た理由。
それはスターアンドストライプの名代。USAのプロヒーロー代行として、職場体験の最中に発覚したテロリストの計画を阻止する為である。
そして件のテロリストはオールフォーワンと繋がりがある事が既に明らかになっている。この世界秩序を破壊する個性の持主の存在を世間に秘匿しつつ、そこに繋がる可能性のあるヴィランを確保するには、これらの事情を知っていてかつ警戒されにくい強いヒーローを送り込む必要があった。そうなれば、仮免ヒーローの上鳴に白羽の矢が立つのは自明。
───なんかデジャブだな。
職場体験の焼き回しの様だが、今回は逃す訳にはいかない。
上鳴はコガネにスターへ通信を繋ぐ様に指示した。
「あー、あー、マイクテスマイクテス。スター、聞こえるか?」
『こちらスターアンドストライプ。聞こえてるぞミカヅチ。調子はどうだ?』
「最高だね………で、犯行の予定とか分かってんの?」
『当たり前だ。舐めるなよCIAを。先ずお浚いだが、今回の捕縛対象の名はウォルフラム。金属操作の個性を持つ我が国の汚点だ。目的はIアイランドに保管されている個性数値*1増幅装置、世界をひっくり返せるチートアイテムの奪取だ。ウォルフラムには既に国際指名手配を掛けている。ミカヅチ、私が送ったバッヂは付けてるな?』
「ああ。一時的にアメリカプロヒーローと同等の権限を与えるってやつだろ? ちゃんと付けてるよ」
右肩に付けた星条旗のエンブレムを確認しながら上鳴が答える。
『それがある限りお前にはアメリカのヒーローとしてヴィランを捕縛する権限が与えられる………様にIアイランド側に働きかけた。効力はIエキスポの間だけだが、十分だろう』
「まあな。犯行予想時間は?」
『プレオープン初日に行われるレセプションパーティー。つまり夜だな』
「夜か───めっちゃ時間あるじゃん。暇だな」
『そっちはまだ昼前か……ただ、あまり動いて怪しまれる事は避けたい。パトロールついでにエキスポを見て回るといい。
「いや、アイツら絶対食いついてくるからダメだ。まだ免許持ってねーし」
『HAHAHA!!! 細かいことは気にするな! Iアイランドは個性行使を制限していない。何かあったら正当防衛でゴリ押せるだろう!』
「普通止めねーか? でもまあ、確かにそうか。経験を積ませる───スター、それはありだ」
『だろう? まあバレたらデンキの仮免剥奪されるかもだが』
「ちょっと考えたくなったな………というかさ、教官。Iアイランドの警備システムってタルタロスと同等なんだよな?」
『らしいな』
「それを通過するってことはよ───Iアイランド側に内通者がいるってことだよな」
Iアイランドのセキュリティは冥府の名を冠する監獄“タルタロス”と同等の物が採用されている。タルタロスは個性社会が始まって以来、一度も破られた事がない難攻不落の刑務所だ。それを崩す術があるとすれば、内側から鍵を開けるかオールマイトクラスのヴィランが正面突破するかの2択となるだろう。
『だが、そこまで調べるのは難しい。デンキはウォルフラムの捕縛だけ考えておけ』
「了解」
上鳴はそこでスターとの通信を一度切って、Iエキスポの散策を始めた。
そして直ぐに。
「あれ、緑谷じゃん。そこで何してんの?」
「上鳴くん!」
経験を積ませたい勇者の卵を発見した。
緑谷が居たのはIアイランド内にある飲食店。緑谷はそこのオープンテラス席で両手に華どころかハーレム状態になっていた。
その面々は上鳴もよく知る1-A女子陣ともう1人。上鳴たちと然程変わらない年の頃の女性だ。
「だれ?」
「メリッサ・シールドです。アナタが噂の上鳴くん?」
「そうッスけど……噂?」
耳郎と葉隠が慌てた様子でメリッサと肩を組みに行くのを見送りながら、それ以上に聞き覚えのある姓に上鳴は首を傾げた。
麗日がジュースを飲みながら言う。
「シールド博士の娘さんなんやって」
「ああ、なるほどな」
“天才”デヴィッド・シールド博士。
オールマイトのコスチュームを手掛け、若くして幾つもの特許を取得したアメリカが誇る偉人の1人だ。公表されている年齢的にも上鳴たちと同世代の子供が1人や2人いてもおかしくない。
───まあ、だから何だって話か。
デヴィッドもそうだがメリッサも戦う者ではない。故に上鳴の興味の対象から少し外れていた。
「それより、何でここで屯ってんだ?」
「メリッサさんにパビリオンを案内して貰ってる時に麗日さん達と会って………」
「楽しそうにしていたから声を掛けたのよ。ここには自己紹介と休憩を兼ねてね。これからまた見て回るし、夜は一緒にレセプションパーティーにも出る予定よ」
「へぇ」
「自分で聞いたのに興味なさげね」
実際、特別興味があった訳ではない。
ここに居たのが単なる休憩と交流である事は上鳴にも察しが付いていた。そして行動方針がある程度定まっているのなら、無理に引っ張っていく理由もない。
───免許剥奪とか嫌だしな。
リスクとメリットを天秤にかけ、前者を取った。それだけの話だ。
───上手いこと巻き込めそうなら巻き込むが。
どちらもありうる。そんだけだ。
「じゃあ、俺はそろそろ行くわ」
「待って、せっかくだし」
上鳴が手を振って散策に戻ろうとした時だ。
メリッサが声を掛けた。
「君も一緒に回らない?」
「いや、俺は」
「まあまあ」
「ちょっと散歩に」
「まあまあまあまあ」
笑顔でにじり寄ってくるメリッサを指差しながら上鳴が緑谷に尋ねる。
「何でこんな圧強い感じ?」
緑谷は首を横に振った。
皆目見当も付かなかった。
───面倒だな。でも断る理由も大してない。それに他の奴らに怪しまれても怠いし……
「いいっスよ。行きます」
「決まりね! あ、もっと砕けた喋り方でいいよ。年変わらないんだから!」
メリッサは上鳴にそう言って微笑んだ。
「ボス、オールマイトが来ているそうですが、準備の方はいかがしますか?」
「手筈通りに進めろ。先方から『オールマイトは問題ない』と連絡が来ている。幾ら象徴とは言え、あのお方との戦いの傷や老いには勝てないらしい」
「ボス! 大変です! USAからヒーローが……!」
「問題ない。この島の警備は世界最高峰、逆を言えば外からの救援さえ拒む孤島だ。スターはアメリカから出られない。あのレベルの怪物が来ない限り、計画が全部筒抜けでもビジネスは成功する。構わずやれ」
「了解しました!」
上鳴たちが最初に案内されたのは『ヴィランアタック』という個性を駆使して的を全て壊すまでのタイムを競うアトラクションが楽しめるエリアだ。
円形のステージの中央にある岩山に見覚えのある敵ロボに酷似したデザインの的が幾つも設置されている。
観客席はステージを取り囲む様に建てられており、2階から挑戦者たちを見下ろす様な形になっていた。
そうして挑戦者が次々と的を破壊し、そのタイムと順位が空中のホログラムに投影される中───見覚えのある挑戦者が現れた。
「切島じゃん!」
真っ先に芦戸が反応して観客席から身を乗り出す。切島の個性はこの手の競技には向かないが、果たしてどうするのか。解決策はあるのか。上鳴も「へぇ」と口角を僅かに上げ、様子を伺う。
「行くぜ!」
気合い十分───しかし、クリアタイムは31秒。ギリギリ7位という微妙な結果に終わった。切島に解決策などなく、ひたすら気合いでどうにかしようとしていた。
「頑張ったじゃん!」
「お疲れ切島ー!」
「ん? おお! サンキューな!」
───まあ、オチは読めてた。
基礎能力は体育祭から比べても伸びている。
今後に期待したい。上鳴はそう内心で切島に点を付け、続くチャレンジャーの登場に胸を躍らせた。
「かっちゃん!?」
「切島、爆豪誘ったんだ」
「アピールしてた男子たちかわいそ……」
「誘った理由は何となく分かりますが」
スタート位置に着いた爆豪の顔はお遊びを楽しむという雰囲気ではなかった。目はターゲットを如何に効率よく破壊するかを見定めるために忙しなく動き、ゆっくりと吐き出された呼気から集中力を高めようとしているのが見て取れた。
「緑谷の成長速度に焦ってるな」
「え……?」
爆豪は期末試験でオールマイトと戦った。
その時は緑谷とタッグを組まされた訳だが、意思疎通は勿論のこと相澤が試験前に懸念していたことは大体払拭されていた。
しかし───爆豪個人としては試験の結果にはまるで納得がいっていなかった。
爆豪が試験で出来た事は徹頭徹尾、オールマイトの妨害。最初は2人で攻勢に出たものの、爆豪はリスクを許容した大技以外で殆どオールマイトにダメージを与えられなかった。
結果、メインアタッカーはフルカウルの出力を肉体がひび割れる寸前まで引き上げた緑谷になり、爆豪はその補助に回らざるを得なくなった。
最終的には正面戦闘すら困難になり、閃光と音響攻撃で爆豪がオールマイトの五感を潰し、緑谷が痛烈な打撃を見舞うというヒットアンドアウェイ戦法を選択。緑谷が捕まりそうになったら爆豪が大技で“牽制”して一時撤退。ゴールの位置を把握しながらそこに向かい、妨害に来たオールマイトに同じことを繰り返した。
そして熱が入りすぎたオールマイトに2人揃ってボコボコにされながらも、どうにか命からがら逃げ切った訳である。
───個性の成長曲線は一定じゃない。爆豪が掴んできたのは個性の使い方だ。出力その物を上げる訓練は放課後にちょろっとやっただけ……出力の上げ方を学んでる緑谷とは成長の仕方が違う。
それを理解出来ても納得はできない───男児というのはそういう生き物である。
『ヴィランアタック、レディ……GO!』
爆豪が空を駆ける。
APショットによる中・遠距離からの爆撃。
ゲーム開始までに射撃ポイントを探っていた事もあり、次々とターゲットを撃破していく。
『クリア! タイム11秒! 現在2位の挑戦者に6秒も差を付けました!』
「……あぁ?」
そして着地した瞬間、爆豪の視界に緑谷が映った。
転瞬、爆発。
個性で観客席まで舞い上がった爆豪が、緑谷の眼前に着地。目をこれでもかというほど吊り上げながら。
「何でテメェがここにいんだァ!?」
爆豪節を炸裂させる。
慌てる緑谷。
それを見て更にキレる爆豪。
普段から度々目にする光景ではあったが、メリッサの目には新鮮に映ったのかクスリと笑いながら近くにいた麗日に「いつもこんな感じなの?」と尋ねていた。それに「男の因縁ってやつです!」と答える麗日も大概だが、「インネン!」と目を輝かせるメリッサもアレだった。
「緑谷もやってみれば?」
その流れを汲んだ芦戸の言葉にメリッサが名案だと言わんばかりに声を弾ませる。
「見たい!」
更にそこへ上鳴が「緑谷の! ちょっといいとこ見てみたい!」 と乗れば、いつの間にか観客席まで上がってきていた切島が「イッキ! イッキ!」と合いの手を入れる。
「い………行ってきます」
「頑張れデクくん!」
麗日の純粋な声援に背中を押され、緑谷はステージに向かった。
幸い次の挑戦者はまだ現れておらず爆豪の次の番が緑谷に回ってきた。
緊張した面持ちで開始の合図を待つ緑谷を見ながら、上鳴は顎に手をやった。
───今の出力はデメリット無しで15%、瞬間的に25%前後、後先を考えなければ30%くらいか。順調だ。順調だが……何か足りない。
緑谷は強くなった。
彼がこの境地に辿り着くまで、本来ならまだ半年近い月日を要する筈だった。しかし、上鳴というトレーナーを得たこと、そして着実に強くなっているという実感、大物ヴィランとの命のやり取りが成長を加速させていた。
───まだ足りないのか?
それはそれで……と上鳴が目をギラつかせていると緑谷が動き出す。
出力は最も安定する15%を基本に爆豪の射撃ポイントを参考に、指を弾いて繰り出すエアフォースによる遠距離攻撃も織り交ぜていく。
『クリア! タイムは───11秒! トップタイです!』
「デクくん凄いわね」とメリッサがはしゃぐ横で爆豪が唸る。それを尻目に上鳴は言った。
「楽しそうだな爆豪」
「別に楽しくねぇンだよ!!! ただただ不快だわ!!!」
がなる爆豪を「どうどう」と切島が宥め始めたので上鳴は視線を切り、戻ってきた緑谷に目を向けた。
「お疲れ。もうちょい工夫したら爆豪に勝てたぞ」
「うん……確かに課題が残る感じだった」
「何“勝てる”の部分に頷いてんだデクてめぇ!」
「ええ!? 違うよかっちゃん! 頷いたのは工夫の部分で」
「大して変わんねーだろクソナード!」
がなる爆豪の相手をしている間に、次の挑戦者が現れた。
ゲーム開始と同時───岩山を冷気の津波が飲み込んでいく。
『9秒! 現在トップに躍り出ました!』
「轟くん!」と緑谷。
「彼もクラスメイト?」
メリッサの問いに八百万が頷く。
「雄英生って凄いのね〜」
感嘆の声を上げるメリッサに一部を除いて表情を緩める中、その一部に含まれる爆豪がわなわなと肩を震わせながら言った。
「何でテメェがここにいやがる!!?」
「招待を受けた親父の代理だ」
プロヒーローが日本から出国するにはそれなりの手順を踏む必要がある。プライベートであっても例外ではなく、エンデヴァークラスともなれば複雑かつ大量の手続きを求められる。名代を用意するのはそう珍しい話ではない。
───そういや、緑谷は誰と来たんだろ。
上鳴がぼーっとそんな事を考えていると、メリッサが「あっ」と声を上げた。
「上鳴くんはやらないの?」
メリッサがそう問い掛けると、上鳴は。
「んー? 別に興味ないしな」と返した。
しかしそれにA組が食いつかない筈もなく。
「やれや!!!」
「確かに。参考にさせて欲しいかな」
「上鳴の! ちょっといいとこ見てみたい!」
「イッキ! イッキ!」
「えぇ……」
「いいじゃん。減るもんでもないでしょ」
耳郎がそう言えば「……まあいいか」と上鳴は渋々ながら頷いた。
───バッヂは外しとくか。落としたら面倒だ。
それから上鳴は観客席から飛び降り、司会を務めていた女性キャストに飛び入り参加を申し入れた。運良く挑戦者待ちだった為、そのまま開始の合図を待つ。
そして。
『スタート』
刹那の出来事だった。
上鳴が岩山まで移動して無差別放電を放つ。
それで終わりだ。
『クリアタイム、2秒………!』
岩山までの移動時間で1秒。
岩山全域を対象とした電流の出力に掛かった時間が約1秒。
唖然とするクラスメイト達に上鳴が言う。
「早くここまで来てくれよ。じゃあな」
足早にその場から離れ、上鳴は散策という名のパトロールを再開した。
「皆凄かったけど、上鳴くんって本当に凄いのね〜!」
「………まあ、ウチらの中じゃ頭が1つも2つも抜けてるのは間違いないっス」
「でも───」
「絶対に追い付く」
「青春ね!」
オマケ
メリッサの上鳴に対する所感
・JさんとHさんの会話にやたら出てくる
・へーすごくつよいんだ(小並感)
・よく分からない人だ
・凄く強かった(確定)