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レセプションパーティの開始時刻。
会場はIアイランドの警備システムを制御し、島内で最も巨大な建築物であるセントラルタワー。地上200階、1km近い高さにもなるその威容は凄まじく、まさしく現代のバベルの塔と言っても良いだろう。
上鳴がいるのはそのセントラルタワーの外壁。
足裏に仕込んだ鉄板とタワーに使われている鋼材に付与した電磁力で直立し、内部に潜入させた小型ドローンで様子を探っていた。
「……今んとこ問題ないな」
───早いところ捕まえて、Iアイランド側に引き渡す前に情報を吐かせたい。
『マスター、ご友人がドローンに気付いて手を振っていますよ』
「要らん報告はするなコガネ」
『しかし、上鳴くんも早く来たまえと飯田天哉から伝言が……』
「何でだよ」
というかお前も来てたのかと上鳴が飯田の顔を思い出していると、事態が動き出した。
レセプションパーティーに鉄の仮面を付けたヴィラン、ウォルフラムがアサルトライフルを装備した部下を引き連れてパーティーに侵入。
同時に警備システムが制圧され、システムに登録されていたオールマイトを含む警備のヒーロー達が最新鋭の拘束具によって囚われてしまう。
「人質は島にいる人間全員ね。最新設備も逆手に取られるなら考え物だな……コガネ、アイツらを映してるドローンのマイクをONにしろ」
『承知致しました───接続中────接続完了致しました』
「あー、あー。お前ら聞こえてるか?」
『上鳴か! ヤベェぞ!オールマイトが』
「はしゃぐな切島。こっちでも確認してる。俺が奴さんらを片付けてくる。お前らは慌てずにタワーから出ろ」
『でも上鳴くん! 相手は人質も取ってる! 1人でなんて』
「お前ら資格ねーだろ。筋が通らないから駄目だ。今回は諦めて大人しくしとけ………ああでも、脱出中に襲われたら撃退しろよ。それは正当防衛だから大丈夫だ。じゃあな」
上鳴は一方的に捲し立て、通信を切った。
「スターへの通信は?」
『妨害されています』
「そりゃそうか───まあいいや」
上鳴は外壁を登りながらドローンから送られてくる映像を確認する。
ウォルフラムはデヴィット・シールドとその助手のサムを人質にエレベーターで最上階を目指していた。
「先回りして諸々ぶっ飛ばすか」
行動方針を固めた上鳴は自分の右肩にスターから貰ったバッヂが付いているのを確認してから、外壁を駆け上がっていった。
「それでも僕は……行こうと思う」
「俺も行く」
上鳴との通信が途絶した後、真っ先に動き出そうとしたのは緑谷と轟だった。
「行かせませんわ。感情的にならないでください」
「流石に駄目だよ。今回ばかりは」
「我々の軽率な行動が彼に迷惑をかける可能性は高い! 慎みたまえ!」
八百万、葉隠、飯田が止めるが2人は揃って首を振る。
「幾ら上鳴くんでも人質を取られたら不利だ。僕らでヴィランの気を少しでも逸らせたら……って」
「数の不利や状況だけじゃねぇ。あの装備、USJの時にいたヴィランと同じだった。上鳴の個性に耐性がある奴だっているかもしれねぇし、盤外からの一手がないとも限らねぇ」
緑谷と轟は冷静に状況を把握した上で「自分たちなら力になれる」と判断していた。
それは概ね正しい。並のプロ程度の実力はこの場にいる生徒らに備わりつつある。頭一つ抜け出している2人の実力は既にプロ相当と言ってもいい。
その2人の分析を聞き、麗日が拳を握り締めて言う。
「行こうよ! 必要やろ!」
「ああ! 俺たちで上鳴の手助けをしようぜ!」と切島も麗日に同調する。
「僕らだって真正面から戦う気は無いよ。上鳴くんが戦いに集中できる様に敵の意識を分散させて、その上でシステムの権限を奪取する。索敵に長けた耳郎さんや葉隠さんが協力してくれれば、出来ない話じゃない」
緑谷の尤もらしい言葉に全員が閉口した。
ヒーロー志望だ。この状況で何もせずにいられる様な人間はいない。
だからこそ───耳郎は声を低くして言った。
「戦いになったら、向こうはコッチを殺そうとしてくるよ」
「それはUSJの時も同じだったろうが」と爆豪。
耳郎は首を振った。
「アイツらはプロだ。目的達成の為なら仲間だって見殺しにする………ウチはアメリカで、それを見たんだ」
耳郎の声は震えていた。
今でもたまに夢に見る───あの黒い悪魔の所業を。
恐怖で動けない訳ではない。
これは覚悟の問題だ。
ここから先は戦場で、やり取りは命を賭けた物になるぞという最後通牒。
「だったら尚更行かなくちゃ」
それでも、緑谷は折れなかった。
誰よりも早く力強い声で耳郎の言葉にそう返し、拳を握り締める。
「行こう───皆を助けるんだ」
クラスメイトが動き出すかなど露ほども考えず、上鳴が先ず向かったのは屋上だった。
───Iアイランドは周囲を海で囲まれた孤島だ。脱出には当然空か海を経由する必要がある訳だが……
正規の入国ルートが空路に絞られている関係上、民間船の発着場はこの島には存在しない。貨物の類を入れる為の港はあるが、タワーからかなり距離がある。目的の品を奪った後にわざわざそこまで移動するとは考えにくかった。
───何より、タワーの最上階にはヘリポートがある。セントラルタワーの高さからして、登る手段を掌握してしまえばそこをヒーロー側に抑えられるとは思わない。
「当たりだな」
上鳴の推測通り屋上には大型のヘリが1機、用意されていた。更にそこには操縦士と思われる男と万が一に備えての護衛が3人。護衛は例の如くアサルトライフルで武装していた。
ヴィランの1人が上鳴に気付き、銃口を向けた。
「何でガキ、があっ!?」
「先ず1人」
上鳴は瞬時に銃を奪い、首筋に手刀を当てて気絶させる。崩れ落ちる肉体はそのまま。物音を聞きつけ他の護衛も現れるが、今度は戦杖による殴打で瞬く間に意識を刈り取る。
ものの数秒で屋上を制圧した上鳴は「つまらん」と眉尻を下げながらヘリを破壊。その足で階下へと向かった。
階段と廊下にいたヴィランを速やかに殴り倒し、管制室の扉を蹴破って中に入ると、そこは既にヴィランの巣窟となっていた。
「何だこのガキ!?」
「どっから沸いてきた!」
「階下の監視はどうした!」
「コガネ、警備システムの奪取ってできるか?」
『当機にハッキングやそれに類似した機能は搭載されておりません』
「そっか………じゃあ、“お話”しないとな」
ゴキリと首を鳴らした上鳴が閃電を纏い駆ける。銃を構えた何人かが発砲するが弾丸は残像を掠めるだけに終わってしまう。
「化物め!」
「よせよ。まだオールマイトほどじゃない」
1人、また1人。
上鳴が触れるだけでヴィランは床に倒れ、陸に打ち上げられた魚の様に痙攣した。
───つまんないなぁ。
「こんなもんか」
制圧に時間は然程掛からなかった。
管制室直通のエレベーターが150階から190階に到達したくらいだ。
上鳴はエレベーターの扉の直ぐ傍に移動し、そこの壁へと背中を預けた。
扉が開いたと同時に戦杖を突きつければそれで終わる。オールフォーワンの情報を絞れるだけ絞って、後は司法に投げるだけ。
そうして到着を告げるベルが鳴り、扉が開いた。
先ず人質のデヴィット、サムが両手を上げた状態で降ろされた。そこに続いて背後から銃を突きつける鉄仮面の男、ウォルフラムがエレベーターから降りた。
そして視界に入った惨状に3人は目を見開いた。
「……これは」
「ハイ、お疲れ」
そう言って上鳴はウォルフラムの脇腹に戦杖を突き入れ、壁まで吹き飛ばした。
頑丈なタワーの内壁に減り込む程の威力だ。ウォルフラムは訳がわからないまま激痛に悶えた。
壁からずり落ち床に倒れたウォルフラムに近付き、上鳴が問い掛ける。
「お前がウォルフラムで間違いないよな?」
「人違いだ、と言ったら、どうする?」
「私がウォルフラムですと言うまでコイツでお前のドタマを叩く羽目になるな」
戦杖をくるりと回してから、上鳴は石突の部分で床を叩いた。
「……いい性格してるぜ」
「よく褒められるよ。ヴィランみたいだってな───オールフォーワンについて知ってる事を吐け」
「……知らんな」
「今のは知ってる間だなぁ。吐けよ。殴らないでやるから」
「さあ? 確か叔父さんがそんな名前だったかな」
次の瞬間上鳴は、脂汗を浮かべながら軽口を叩くウォルフラムの腹部に蹴りを入れて管制室の中央まで転がした。
「ま、待ってくれ君! 彼は私が雇った劇団員で、本物のヴィランじゃないんだ!」
デヴィットが慌てた様子で駆け寄ってきたのを見て、上鳴は腰に手を当て溜息を吐いた。
「よりにもよってアンタが共犯か……大スキャンダルにも程があんだろ」
「何の話だ……?」
「恍けるなよシールド博士。コイツは正真正銘のヴィランだ。ちゃんとUSAが指名手配もしてる───コガネ、手配書を見せてやれ」
『かしこまりました』
空中に投影された手配書の情報を見て顔を青くするデヴィッドに上鳴が違和感を覚えた、その刹那。
2つの銃声が管制室に木霊した。
1つは床に倒れたウォルフラムが上鳴を狙った物。もう1つは人質として連れてこられていたサムがデヴィットを狙った物だ。
上鳴は銃弾を掴み取り、無傷。
しかし常人のデヴィットは腹部に弾丸を受けその場に崩れ落ちた。
「サム! どういうつもりだ……!」
「博士が………博士が悪いんですよ!」
サムは長きに渡り助手としてデヴィットを支えてきた。デヴィットの天才的な発想力とカリスマ性に敬意を抱かなかったと言えば嘘になるが、それでもサムは人並みに名誉や金に執着する人間だった。
「アナタの研究が凍結された時、これまでの苦労は水の泡になった! お金くらい貰わなければ割に合わない!」
───装置を盗み出すのは博士の案で、ウォルフラムと繋げたのはこのオッサンか……
上鳴はデヴィットの“劇団員”発言とサムの行動から推察しつつ、サムが自分とウォルフラムの横を走り抜けて管制室の奥へと向かうのを見送った。
「少年、彼を止めてくれ……! あの装置を、オールマイト以外に、使わせる訳には……!」
「個性数値増幅器だったか? それを使ったらオールマイトは全盛期に返り咲けるのか?」
「理論上は……しかし悪の手に落ちれば、大変なことに」
「へぇ───興味あるな」
悪癖が出た。
上鳴は呆然とするデヴィットの服を剥き、弾丸を受けた腹部に応急手当てを施し、部屋の壁際にまで運んだ。
そして、装置が入っていると思われるトランクケースを抱きかかえるサムに言った。
「屋上のヘリは破壊した。テメェらがここから脱出するには空港のセスナを強奪するしかない訳だが………どうやって俺を倒す?」
「クククッ、とんだイカれ野郎だ………どうやらお前の本質はこっち側の様だな」
ウォルフラムの言葉に上鳴は飢えた獣の様な形相で返した。
「何だって構わねーよ。さァ、それを使って俺と闘え。でなきゃここでゲームオーバーだ!」
「何だ? 敵の数が少なすぎる」
「妨害が無いのは流石に怪しいな」
「………戦闘の跡すらねぇ。上鳴の野郎がやった訳でもねぇってんなら、余程の少人数か、もっと上の階しか監視してないかのどっちかだ」
刹那、轟音と共に塔が激しく揺れ出した。
ウォルフラムの個性は金属操作。あらゆる金属を意のままに操れるその個性は、大量の金属素材を使っているセントラルタワーでは無類の強さを発揮する。
「素晴らしい! これが天才デヴィット・シールドが生み出した装置の力かッ!」
それを装置で増幅させた結果───塔の190階から200階は瞬く間に崩壊した。
途方もない質量が瞬きの内に四散し、上鳴を含む全員が塔の頂上付近から空に置き去りにされてしまう。
「いいんじゃない?」
『身体許容上限100%───
舌舐めずりをしながら、上鳴は身体能力を強化。ウォルフラムへと向かう金属片を足場に宙空を移動していく。
───博士は……回収されてるか。まあ人質なのもあるだろうが、脳みそ目当てか。
そんな中、裏切り者のサムは手足をばたつかせながら落下していた。
上鳴は戦杖を投げ、はためいていたサムのスーツと辺りを浮かんでいた瓦礫とを縫い付ける。
「お優しいことだなァ!」
同時、ウォルフラムの雄叫びと共に、タワーの素材で作られた家屋ほどある金属の立方体が凄まじい勢いで上鳴へと放たれた。
力とは質量×スピードだ。速度に関してはそれ程であってもその質量は桁違い。
二階建て、延床面積が30坪ほどの家屋であっても約80t。それと同サイズの鉄の塊があった場合、30坪は約100平米*1となる。高さを約9mとし体積を算出。そこに鉄の比重を掛けてやれば大凡の重量が分かる。この場合、導き出される質量は約7065tにも及ぶ。
上鳴に向かう金属の塊はそれよりも更に重い。
当たれば即死は間違いない。
「ハッ───!」
絶体絶命の状況であっても上鳴は笑みを崩さない。稲妻を拳に込めて迫り来る超質量に向けて振り抜く。
轟音。
金属塊に亀裂が走り、砕け散った。
「やるじゃないか。だが、何発耐えられるかな?」
デヴィットを抱えて金属の箱の上に立つウォルフラムの背後には、今しがた上鳴が破壊した物と同程度の金属塊が3つある。そして、それはウォルフラムがその気になればタワーが尽きるまで数を増すことができる物だ。
対する上鳴の腕は1発で限界を迎えつつあった。
「まあ、使うまでもないか」
上鳴によって破壊され、宙空に漂っていた金属片が動き出す。四方八方から拳大の金属片が猛スピードで上鳴に向かって直進する。
「帰れ」
しかし、上鳴が触れたという事はその時点で個性の対象になったということ。
上鳴は打撃のインパクトと共に磁極を付与し、それと同極を自身に付与することで向かってくる金属片の動きを止めた。
更に、最も近い位置にあった金属片にもう一度触れて磁極を変更。そちらに金属片の動きを誘導する。
「何の個性だ?」
「帯電だよ」
「おちょくりやがって……いつまでその余裕を保てるか見物だな!」
ウォルフラムの背に浮かんでいた金属塊が動き出す。上鳴の笑みはそれでも崩れない。大気を蹴り上げ、金属塊を避けてウォルフラムへと肉薄する。
「掛かったなガキ!」
刹那───上鳴が躱した金属塊から無数の電線が伸びる。被膜素材は様々だがその芯は金属であり、ウォルフラムの個性の対象となる。
「ええい鬱陶しい!」
上鳴は手刀で電線を斬り落としていくが、その隙を見逃す様なヴィランではない。
「潰れちまえ!」
逃げ道を塞ぐように金属塊が放たれる。
迫り来る超質量を前に、上鳴はそれでも冷静だった。
「コガネ、ドローンは!」
『配置済みです』
「臨界駆動させろ!」
タワー内部の調査に回していた数機が、パーツの限界を超えて駆動する。数秒で自壊する代償に瞬間的に時速200kmまで加速したそれが金属塊の裏を取る。
『
稲妻がドローンに向かって奔る。
雷撃が金属塊を突き抜けてドローンに直撃。しかし躯体は直ぐに燃え尽きず、空を駆ける。その間も絶え間なく放電が続き、流れ星の様に闇を奔るドローンと上鳴を結ぶ閃光が、その間にあった金属塊を細切りにした。
『ドローン全機、撃墜』
「もう打つ手ないんじゃないか?」
ウォルフラムは個性を使えば同じ物を用意出来るが、上鳴はそうではない。ドローンの数には限りがある。同じ手段は2度使えない。
───いけね。
だが。
「……何が面白い?」
「全部だよ!」
『身体許容上限1000%───
紫電が軌跡を描く。
ウォルフラムの反応速度を超え、彼我の距離を瞬く間に潰した上鳴の拳打がその顔面へと突き刺さる。
しかし、手応えは上鳴の想定よりもずっと軽い。
「そうだよなそうだよなァ! 貰ってるよな力!」
ウォルフラムの肌が赤熱する鉄の様に変化し、筋肉が膨張していく。オールフォーワンとの繋がりを証明する第二の個性。
「いつまで触ってやがる!」
───中々のパワー! これはもっと楽しめそうだな!
腕を振り回すだけで突風が生じた。
単なる膂力増強だが、装置により増幅された力は上鳴に熱を覚えさせる程の出力を見せる。
「第2ラウンドと行こうぜッ」
「減らず口を……叩くなァ!」
タワーが、否、Iアイランドが揺れる。
ウォルフラムの個性により島全域から金属が吸い寄せられ、その身を覆う。
一見、無造作にも見えたが───徐々に規則性が見え始め、確かな造形が成されていく。
そうしてタワーが更に40階ほど消失し、下半身が蜘蛛の様になっている鋼の巨人が完成する。
「もう面倒だ。この島ごと海の藻屑にしてやる!」
そう言ってウォルフラムが巨人の掌を上鳴へと向ける。そこにはびっしりと赤い水晶体の様な物が並んでおり、それぞれが光を灯し始めた。元になったのはタワーの警備ロボットに備え付けられた光線銃。有事の際に用いることを想定しているため、当然だが殺傷力は高い。
「死ねェ!」
それが光の雨となって上鳴がいる空間に降り注いだ。上鳴と言えども回避は不可能。
万事休すかと思われた───その時。
「穿天氷壁!」
巨大な氷の壁が光の雨を遮った。
「やっと来たか」
細氷が星明かりを受けて幻想的な輝きを放つ中、現れたのは。
「やっと来たか、じゃねぇよ。何だアレは」
轟を先頭にした、レセプションパーティーに参加する予定だった雄英高校ヒーロー科1年A組のメンバー。
そして───
「DETROIT SMASH!!!」
「ぐおっ!?」
オールマイトだ。
最強の英雄は戦場に駆けつけるや否や、その剛拳を巨体めがけて振り抜き、一撃で横転させた。
───オールマイトまで来たらアイツらの経験値が……まあ、こればっかりはしゃーないか。
事態はかなり深刻だ。
既に少なくない被害が島に出ている。
普通に考えて顔を顰める理由などないが、上鳴は頭がイカれている*2ため普通に顔を顰めた。
「まだ1人でやる気?」
「私たちにも手伝わせてよ上鳴くん!」
耳郎と葉隠がそう言って上鳴に並ぶ。
更に上を通って爆豪と緑谷が揃って前へ。
「ごめん上鳴くん! 言いつけを破って! でも───」
「いや、別にいい。何か上手い事して巻き込もうとは思ってた」
「助けに、いや、巻き込もっ、えぇ!!?」
「だって経験積ませたかったし」
「相変わらずだな上鳴少年! 今なんて言ったのかな!?」
「別に何も………ああ、そうだオールマイト。あのデカブツの中に博士がいるから」
「それは早く言って欲しかったかな!?」
「言う前に殴ったのアンタだろ」
デーイヴ! と叫ぶオールマイトに上鳴はやれやれと肩をすくめる。
巨人は身体の構造を歪めながらも平然と立ち上がる。
今助けるからな、と気炎万丈のオールマイトの背中を上鳴が眺めていると、息を切らしながらメリッサが声を上げる。
「あのっ! サムは!?」
「運が良かったらその辺に転がってるだろうな」
「う、運って……貴方ヒーロー志望なんでしょ!?」
「ヴィランにまで気を配ってらんねぇよ」
話は後でパパから聞け───上鳴はメリッサの言葉をバッサリと切り捨て、声を張り上げる。
「オールマイトと緑谷! 本体がいる場所の邪魔な装甲をひっぺがしてくれ! 俺が雷撃で仕留める! 爆豪と轟は両サイドからデカブツの動きの足止め! 耳郎、葉隠、麗日、芦戸は助手の捜索! 飯田、八百万、蛙吹、切島は一般人の護衛! しくじんなよ!」
上鳴がそう言うと爆豪は。
「俺に命令すんじゃねぇ!」
「作戦開始だ!」
「話聞けや!!!」
そう叫びながらも爆豪は上鳴に言われた通り、巨人の右側から痛烈な爆破を浴びせて動きを止める様に立ち回る。
更に逆サイドから轟による制限なしの大氷壁が何度も放たれ、その場に縫い止める様に足場を凍りつかせていく。
「チイッ!」
「
右手から光の雨を放とうと身を捩らせるが、爆豪の十八番が砲身となる腕をずらしたことで照準がブレる。
四方八方へ飛び散る光線銃の弾丸を掻い潜り、破壊の跡を足場に飛び出すのは───2人の英雄。
巨人が自らの体積を削りながら、敵を迎撃する為に鋼柱を飛ばす。しかし2人はそれを単純な膂力で粉砕し、破片を足場に加速していく。
上鳴はそこで僅かに違和感を覚えた。
「何だ? 緑谷の奴の出力が上がってるのか?」
目を凝らすと、緑谷の右腕を見慣れない赤い籠手が覆っている。
「サポートアイテムによる負荷の低減か………良いもの見つけたな、緑谷」
「メリッサさんの発明なんよ!」と麗日が上鳴の背後から言う。振り返れば、そこには
更に耳郎が上鳴に戦杖を投げ渡しながら言う。
「なーにが運が良ければだよ。ちゃんと助ける為に動いてんじゃん。それがスーツと瓦礫にブッ刺さってたから
「ご、ごめんなさい! 私ったら!」と何度も頭を下げるメリッサに、上鳴は。
「いや、それはどうでもいい……んな事より緑谷の腕にあるアレは増産できるヤツか? アレで全身を覆う鎧を作ることは?」
「え、えぇっと……技術的には出来るけど予算が現実的じゃない、かな……」*3
「そっか。フルパワーの緑谷が見れると思ったんだが」
「上鳴! 2人が巨人の心臓部殴り始めたよ!」
「まあ、積もる話は後にしよう───丁度いい頃合いだな」
緑谷とオールマイトの拳打が巨人の装甲を抉じ開ける。その瞬間、上鳴の指先に紫電が灯った。
「馬鹿騒ぎはしまいだ」
オールマイトがデヴィットを抱えて跳ぶのを見た上鳴は、装甲が閉じ切られる前にウォルフラムへ稲妻を直撃させる。
必中必殺の一撃。
幾ら装置で個性を強化していようとも関係ない。電流に人間が耐え切れる筈もなく、ウォルフラムの意識は焼き切られた。
その後───オールマイトに救出されたデヴィットの罪の告白とサムの自供により、事件は終息した。
上鳴は他の者達がデヴィットとサムの話を聞く中、こっそりウォルフラムに接触してオールフォーワンの話を聞き出そうとしたものの、やはりというべきか大した情報は引き出せなかった。
そして翌日、クラスメイト達がIエキスポを満喫する中で上鳴は早々に帰国。スターに着払いでバッヂを返送しつつ、空港内にある喫茶店で師である善院に結果を報告していた。
「ご苦労さんやったな。しっかし、やっぱ情報は無しか………こっちも虱潰しに探してはいるが、奴さん上手いこと隠れてはるわ。影も形もありゃせーへん」
コーヒーカップを片手にげんなりした様子の善院に、上鳴は自分の前に置かれたコーラフロートのフロート部分を丸呑みしてから尋ねた。
「スターと連絡は?」
「必要ないからしてへんなぁ。スターには向こうのパイプさえ潰して貰えたらそんでええねん」
「世界最強をパシリにすんなよな先生……」
「かまへんかまへん。元はと言えばアイツが悪いんや*4………っと話が逸れたか。とにかく最悪の事態に陥った時、USAさえこっちに付いてくれたらそれで勝ちや───そもそもそうならんのにこした事はないけどな」
善院の目的はオールフォーワンへの嫌がらせだ。
どうせ潜伏場所など分からないと割り切り、他勢力との微かな繋がりからオールフォーワンと通じるパイプを割り出して破壊する。
「それでいいのか?」
「ええんや。例えばやけど、100円ライターってあったら便利でええけど別に無くても困らへんねん」
「そりゃまあ、そうだろうな」
「それでいて予備とか用意し易くて、全部に使い道がある───けどな。もし使おうと思った時に1個も使えんかったら腹立つやろ?」
俺がしてるのはそういう事や、善院はそう言って笑った。
「奴さんは信じられへん数の保険を掛けとる。でもな、そんな緩いこと考えてる奴は策士気取りで自分の策に溺れんのが相場。溺れたら苦しなって息吸うやろ? そこをやな」
「しばく訳か」
「そゆこと───で、話は変わるんやけどこれは何やろか」
「何って………」
善院が上鳴に見せたスマホの画面。
てっきり
見出しはこうだ───“次代の最強! スターアンドストライプの弟子!? 若き英雄、Iアイランドにて大活躍!”
内容を軽く読むと、記事にはまるで上鳴がアメリカのヒーローであるかのような文体で、Iアイランドで起きた事件の顛末について書かれていた。
「へー」と興味なさげに頷く上鳴に善院が続けて言う。
「見てみこの文末を。『ミカヅチが日本での学生生活を終えてアメリカに帰ってくるのが待ち遠しい』て書いてあるわ。不思議やな、デンキくん純度100%の日本人やねんけどな。因みに何でや思う?」
「俺がスターを教官って呼んでるから?」
「そんだけな訳ないやろ。自分、Iアイランドで何を付けてヒーロー活動しとった?」
「え………アレ、そういうヤツだったの?」
「よく知りもせん徽章を何の疑問も抱かず付けんなや……と言いたいがこればっかりはあのアホが汚いか。この右肩のバッヂはスターアンドストライプの栄誉を讃える為に作られた世界に一つしかない物や。ンなもん付けて目立ったらそら“スターの後継”や思われるに決まっとる」
そう言って善院は頭を抱えた。
彼が悩んでいるのが上鳴の素行か、それともスターの無体か、あるいはその両方か。上鳴はコーラを一気に飲み干してから口を開いた。
「ふーん。まあ別にいいよ。それでも。アメリカでヒーローしようが日本でヒーローしようが、俺からすれば同じことだし」
「また君はそんな事を……ええんか? せっかく出来た友達とも会えんくなるで?」
上鳴は善院の言葉を受け、暫し考え込んでから言った。
「じゃあ───卒業までに目一杯戦っとくよ」
口角を上げる上鳴に善院は「まあもう今はそんでええわ……」と肩を落とすのだった。
何度掛けても繋がらない電話に「ふむ」と声を漏らした後、巨悪が静かに笑う。
「太平洋の向こう側にいる何人かの友達と連絡が付かなくなっているね」
「最近ちょろちょろと嗅ぎ回っとる鼠の仕業か? 扱い難い個性でようやるわい」
「……まあ、それはいいじゃないかドクター。そんな事より、今筋君の調整はどうなってる?」
「全く問題ないのう。いや、今以上の個性付与を断られておる点が不服ではあるがな」
「それは仕方ないだろうね。彼はシリアルキラーであるのと同時にバトルジャンキーだ………好敵手を一方的に殺したいと思いながら、同時に命が脅かされるような闘争を楽しみたいという矛盾を抱えている……2度目の敗北を経験するまでは今のままだろうね」
「甘いのう。ワシらの若い頃ならそんな甘えた事を言っとったら直ぐに殺されとったぞ」
「はっはっはっ。違いない。しかし歳の話はよそう。昔は昔、今は今。そうだろう?」
未だ悪の牙城は揺るがず。されど雨垂れが石を穿つ様にゆっくりとその壁は削れている。悪意はそれを知って尚、無視している。その程度ならまだ動く時ではないと。己が用意に絶対の自信を有しているからこその余裕。
何より興味の対象はそこではなく。
「来るべき日、彼らは世界への宣戦布告となる事件を起こす───戦いは憎しみと怒りを醸造させ、両者に消えない呪いを残すことだろう」
───思う存分、呪い合おうじゃないか。
次回、宵祭
ようやく林間合宿編に辿り着きました………完成の目処がたったらまた更新していきます。現在進捗は30%くらいです。
ここまで書き続けられているのはお気に入り、感想や評価をくださっている皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
以下、事件終息後の本編に入らなかったヤツ
耳郎&葉隠───エキスポ散策に改めて上鳴を誘おうと思っていたが、電話が繋がらない。やっと繋がったかと思ったらアイツ日本にいやがった。
緑谷───メリッサからフルガントレッドを貰った。外し方を聞きそびれ続けていて、帰国後にメールで聞いてもよく分からなかった。今度会った時に教えると言われている。今は青山のベルト同様に個性補助の名目で身に付けており、麗日が凄い目で見てくる。