という訳で今日から林間編-宵祭り-のスタートでございます。
木椰区ショッピングモールで生徒がヴィラン連合の死柄木と接触した事もあり、林間合宿の行き先は急遽変更。当日まで生徒にも秘匿された。
そして林間合宿当日─── 雄英敷地内に停まる観光バスの前で、上鳴は物間と談笑をしていた。
「どうやらA組でも補習は出なかったようだね」
「そっちはどうだった?」
「居るわけないだろう? 僕たちだって日々成長している。体育祭の頃と同じだとは思わないことだ」
腕を組んで鼻を鳴らす物間に、上鳴は笑みを深めながら話題を変えた。
「で、コピーした個性の併用はできる様になったのかよ」
「……簡単に言わないでくれ。僕のコピーは写し取った個性に適応するように、自分の因子を変化させることで使える様にしている。複合となると話が変わってくるんだ」
個性“コピー”のメカニズムは常人のそれより格段に柔らかい物間の個性因子にある。
皮膚の接触だけで触れた対象の因子と同じ形に変質する因子は、変化する回数が増える度に徐々にその性質を失っていく。そして丁度3つの個性への適応が完了した段階で、一定時間それらの因子にしか変化しなくなるのだ。
因子の切り替えは物間の意思で行うことが出来るものの、併用となるとこれまで物間が培ってきたノウハウは全く役に立たない。
苦い顔をする物間へ、上鳴は事もなさげに言葉を投げる。
「お前自身がバブになるんだよ」
「頭おかしいのか君は?」
コピーの併用が出来たら実質そのコピー元になった2人の赤ちゃんじゃね? という上鳴の話を聞き、鉄哲と宍田を足して2で割った様な赤子が脳裏を過った物間は勢いよく首を振ってそれを掻き消した。
「そう言えば、緑谷くんは大丈夫かい?」と今度は物間が話題を変える。
上鳴は眉間に皺を寄せた。
「………変な物でも食ったか?」
「どういう意味かなァ!? 僕がせっかく心配してあげているというのに!!!」
「そうそう、それそれ。やっぱ物間はこうでなくっちゃな」
「おちょくるのも大概に、かっ!?」
ヒートアップ仕掛けた物間の背後を取ったのは、B組の姉貴分である拳藤。鮮やかな橙色の髪を靡かせながら、風を切る音すら耳に届かない見事な手刀を放って瞬く間に物間の意識を奪っていく。
───俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
常人ならば見落としてしまうだろう高い技量に上鳴は思わず「ほう」と声を漏らす。
そうして上鳴が感心している間に、拳藤は米を担ぐ様にして物間を肩に乗せた。
「悪いね上鳴。物間の相手してもらっちゃって」
見かけによらずかなりのパワータイプである。
「いいや。いい暇潰しになった………あと、物間が起きたら緑谷は大丈夫だって伝えといてくれ」
「ん、分かった。じゃあまた合宿先でね」
「おお」
軽く手を上げてB組のバスへ向かう拳藤を見送る上鳴の背中に、殺気が突き刺さる。
振り返らずともわかる。
「何だよ峰田……」
「いつの間にB組女子と仲良さげに!!!」
「物間と喋ろうと思ってB組に何度か行っただけだ」
「いつの間にB組に!? その手管も伝授してください先生!!!」
こいつ無敵か? と上鳴は首を傾げていると、いつの間にか近くまで来ていた耳郎が言う。
「どんだけ戦いたいんだよ」
「いや、だってアイツのコピーって面白いしさ。気になって仕方なくてよ」
上鳴からすると物間は最強の原石だ。個性の解釈を広げ、限界を越えることさえ出来ればやれる事は多い。
それには死に瀕する様な苦境が待ち受けているだろうが、少なくとも上鳴は物間ならやれると思っているし、轟やそれに匹敵する生徒たち位にはなるだろうと予想していた。
───何か外付けのアイテムとかで解決できたら良いんだけどな。
そんな物はない。
今の所は。
物間の未来に思いを馳せている上鳴の膝を峰田は軽く叩きながら言う。
「んなこたぁどうでもいい! オイラにB組女子を紹介してください!!」
「何でだよ。自分で話しかけろよ……そもそも拳藤以外とそんな喋ったことねぇよ」
その拳藤も物間を回収しにきた時に軽く世間話をする程度。顔見知り以上の関係性はない。
「ふぅん……どうだか」
「何でちょっと不機嫌なんだよ」
「別にっ」
「そこの3人! そろそろ出発だ! 席につきたまえ!」
飯田に呼ばれて、上鳴達は自分が乗るバスへと歩を進めた。
何はともあれ───林間合宿の始まりである。
雄英からバスが発車して、暫く。
相澤が今後の予定について軽く話そうと生徒たちがいる後方の座席に顔を向けた。
「1時間後にバスが止まる。その後は暫く……」
「音楽流そうぜ! 夏っぽいの!」
「ポッキーちょうだい」
「夏といやキャロルの夏の終わりだぜ!」
「終わるのかよ……生足が魅惑なマーメイドの曲にしようぜ」
「席は立つべからず! べからずなんだ皆!」
「立ってるの飯田くんだけだよ」
「耳郎、いっつも何の曲聞いてんの?」
「………意外だね上鳴。興味あんの? 聞いてみる?」
「しりとりのり!」
「りそな銀行! う!」
「ウン十万円!」
「ンジャメナ!*1」
「ねえ。ポッキーをちょうだいよ」
「好きすぎでしょ。はい」
「わーい! ……って、トッポじゃんこれ!!!」
「いいじゃん。最後までチョコたっぷりだよ?」
「くっ………! 異教徒め!」
「思想が強い」
───高校生うるさ過ぎる。
相澤はゲンナリした顔で前を向いた。
1時間後。
山道の途中に置かれた見晴らしの良い場所にバスが停留し、生徒たちは一旦そこで降ろされた。
「ここパーキングじゃなくね?」
「ねぇB組は?」
「お、おしっこ……トイレ……」
騒つくクラスメイトを尻目に上鳴は何となく相澤の意図を察した。
「よ───う! イレイザー!」
そんな折だ、元気の良い女性の声で相澤が呼ばれた。
「ご無沙汰してます」
そう言って相澤が腰を90度に曲げた先に居たのは、フリルのあしらわれた可愛らしいコスチュームに身を包んだ妙齢の女性2人。
ヒーローオタクの緑谷が目を光らせる中、2人が決めポーズと共に口上を高らかに叫ぶ。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」」
「うわキツ」
「デリカシー!?」
本音が思わず漏れ出た上鳴の口を耳郎が抑える。
二人組の片方、青系の衣装にブロンドヘアが映える女性が頬を引き攣らせながら言った。
「い、いい感じに生意気なキティが居るわね」
彼女はプッシーキャッツのピクシーボブ(31)
最近、自分の婚期を気にしている事もあってか、上鳴の無遠慮極まる言葉はボディブロウの様に重たい衝撃となってピクシーボブを打ち据えていた。
自覚は多少ある。
しかし、一度大衆から認知されたキャラは中々変え難い。ヒーローが人気商売と揶揄される悲しい点ではあるのだが、ヒーローだって人間だ。霞を食って生きている訳ではない。どれだけ人助けに邁進しようとも必ず黒字になる訳ではない。消耗品の補充やデバイス、コスチュームのメンテナンスはコストカットで犠牲にできない。何よりヒーローは準公務員で、消防士や自衛隊の様に訓練まで仕事という訳にはいかない。やらねば飯を食えぬというのなら、やるしか道はないのだ。
ピクシーボブが背中に修羅を背負い始めたタイミングで相澤が手を叩き、注目を集める。
「そういう訳でワイプシの皆さんだ。今日から一週間お世話になる。失礼のないように」
もう失礼されたけど? という視線が相澤に突き刺さるが、相澤は見事なスルースキルでそれを受け流していく。
ピクシーボブの額に青筋が浮かぶ。
「ねぇ。早速行っちゃおっか?」とピクシーボブが相方のマンダレイに問う。
「まあまあ、説明だけはしないとね?」
マンダレイのウインクが宙を飛ぶが、生徒らにはそれが怒れる獣の威嚇行為にしか見えなかった。
気を取り直したマンダレイが猫の手を模したグローブで遥か遠くにある山々を指差しながら言う。
「ここら一帯は私らの所有地! あんたらの宿泊施設は───あの山の麓!」
「遠っ!?」
「何でこんな半端な場所に?」
「いやいやいや。戻ろうぜ? バスに……な?」
「今はAM9:30、早ければ……12時前後かしらね。それまでに辿り着けなかったキティはお昼抜きね!」
「早く戻れぇ!」
「雄英のこういうとこは正直どうかと思うなー!?」
「受難は容量用法を守らなくちゃダメだぜ!!?」
「悪いね諸君、合宿はもう始まっている」
相澤の言葉と共に地面が隆起し、生徒たちを山道の下へ突き落とさんと流れ出す。ピクシーボブの個性“土流”。大地に触れることで自在に操るという極めて強力な個性によるものだ。
爆豪を始め反応が間に合った生徒もいたが、相澤の抹消で個性を消されて瞬く間に撃ち落とされてしまう。
絶叫と共に土石流に飲み込まれていく若人達に、マンダレイが声を弾ませながら言った。
「さあ自分の足で施設までおいでませ! この───魔獣の森を抜けて!」
ただ、1人だけそれから免れた者がいた。
「これ、俺も行ったほうがいいやつ?」
個性を使わずにバスの上へと避難していた上鳴が相澤にそう尋ねた。
理外の身のこなしにマンダレイらが戦慄する中、相澤は溜息混じりに「行け」とハンドサインを送った。
「うぇーい」
相澤がバスから素直に飛び降りて斜面を滑っていく上鳴を見届け、プッシーキャッツの2人を見ると。
「うっそぉ」とピクシーボブ。
マンダレイは眉を顰めて。
「イレイザー、彼がそうなんだよね?」
「……ええ。2年前にマスキュラーを撃退したのはアイツです」
「そう───あの子が」
噛み締める様に言うマンダレイの肩にピクシーボブが手を置いて言う。
「信乃……わかってると思うけど」
「うん、大丈夫。大丈夫だから」
心を落ち着けるように何度も深呼吸してマンダレイ、否、送崎信乃は優しくピクシーボブの手を払った。
「……ウォーターホースの件は」と相澤が切り出すと送崎はゆっくりと首を横に振った。
「しかたなかった───それでこの話は終わりだ。終わりにしないといけないんだよ、イレイザーヘッド」
「おーい。大丈夫か」
「1人だけ逃げてんじゃねぇよ!!!」
「いいじゃん。無意味に制服汚れんの嫌だし……っと」
爆豪に噛みつかれても上鳴は気にせず、その間に自分へ向かってきた土塊の猪をデコピンで粉砕した。
「今のは?」
「ピクシーボブが個性で作った物だと思う。魔獣の森って言っていたし、今みたいなのがゴールまでに沢山いるんじゃないかな」
緑谷の考察に「ふーん」と頷き上鳴は言う。
「雄英はさ………受難をくれるって話だったろ」
上鳴は空から自分目掛けて急降下してきた鳥型の魔獣を掌で軽く打払って破壊しながら舌打ちした。
「脆い。弱い。何だこれは。俺たちを舐め過ぎだろ………試験で何を見てきたんだよ。なぁ?」
相手が自分をナメていて、自分がナメられていると感じるその瞬間───ゴングは鳴る。
誰よりもストイックに自らを追い込んできたからこその怒り。そして、この場にいる者達の力量を知るからこその不満。
青筋を浮かべる上鳴に爆豪が「……全くだ。天下の雄英様が聞いて呆れるぜ」と鼻白む。
「これで試してる気になってんのが一番ムカつくぜ」
何度だって言おう。ここにいる生徒はただの1年生ではない。
入学から程なくしてトップオブトップとの差を痛感し、本物の悪意に触れると共に実戦を経験してきた孵化目前の卵たちだ。
今更、土塊の仮想敵など歯牙にもかけない。
苛立ちを隠さない上鳴に耳郎が言う。
「上鳴、また出てくるよ」
転瞬、一際大きな象程の体躯を持った土塊の四足獣が藪を掻き分け姿を見せる。どこからか歩いてきた訳ではない。ゲームさながら地面から生えてきたそれに、上鳴が溜息を吐く。
「やるからには完膚なきまでに見せつけなきゃ気が済まねぇ」
しかし、上鳴が何をするまでもなく真っ先に飛び出した爆豪の一撃がそれを粉微塵に変えた。
「12時半? 馬鹿言えよ───こんだけ頭数が揃ってて3時間も掛かる訳ねぇだろうが」
「よく言った爆豪! 皆! 先生達に目に物見せてやろうぜ!」
切島の一声で話し合いが始まった。
「じゃあ班分けしちゃいましょうか」
「索敵できるのは響香ちゃん、口田くん、障子くん、上鳴くんの4人やろ」
「いや、上鳴は遊撃にすべきだ」
「爆豪も遊撃だよなぁ」
「勝手に決めてンじゃねぇよ切島ァ!」
「でもお前チームワークとかない感じだろ」
「あるわ!!! 連携し殺したろか!!?」
「機動力と戦闘力高い奴は全員遊撃でも良いだろ。不意打ちさえ防げればあんなの誰でも壊せるんだから」
「その辺りも加味してチーム分けをしましょうか」
「そんだけじゃつまんねーし競争しようぜ!」
「賛成! 景品もつけよ!」
「宿泊施設に自販機くらいあんだろ。割り勘で優勝チームにジュース1本ずつとかでいんじゃないか?」
「それならよ! 遊撃に回る上鳴、爆豪、緑谷、轟、常闇を軸に5チームに分けようぜ! オイラは上鳴!」
「上鳴は裁定者であるべきだ」
「参考タイム的なやつ……ってこと!?」
「何だ? 勝てねぇ勝負はしない奴ばっかか?」
「そんな腰抜けがここにいるわけないでしょ………ね?」
「何だかんだ響香ちゃんって負けず嫌いやね」
「上鳴さん限定ですけどね」
「ヒュ〜!」
「じゃあ、ウチは上鳴と組むから。ヤオモモも組もっか」
「待て待て待て───死ね」
「シンプルに口が悪過ぎるよかっちゃん!?」
「オフロードのバイクに耳のサポートアイテムまで出されたらダメだろうが!!!」
「君が“ダメ”とか言うなよ!!!」*2
「どこにキレとんだテメーは!?」*3
話は幾つもの脱線を経て、索敵、迎撃、遊撃、補助───ざっくりと4つの役割分担を元に出来るだけ戦力が偏らないようなメンバー割振りが完成した。
上鳴を軸に青山、葉隠、芦戸とやや色物感が強いメンバーが集まったチーム“ガンガン行こうぜ”。
爆豪を主軸に迎撃力に長けた切島と尾白、索敵から戦闘まで幅広くこなす耳郎を加えたチーム“爆殺卿”。
中・近距離において無類の強さを発揮する緑谷と機動力に長けた飯田の2人をメインに、麗日と峰田がサポートするチーム“デク”。
轟、瀬呂、口田、八百万と遠距離攻撃が得意なメンバーが集まったチーム“推薦ツインズ”。尚、移動系アイテムはレギュレーション違反となった。
最後は常闇、障子、蛙吹、砂藤のあらゆる距離に対応できる最もバランスが良いチーム“堕天使”。
この5チームが鎬を削る。
ルールは至ってシンプル。
妨害は無し。
上鳴が持ち込んだドローンが各チーム一機ずつ配備され、倒した魔獣の数だけポイントが加算されていく。
最初にゴールである施設に辿り着けば25P、2位以降はそこから5Pずつ下がり、12時半を過ぎればそこから5分ごとに合計得点から1P減点される。この合計点を競う。
「時刻は10時8分! キリよく10時15分からスタートな!」
切島がスマホのアラームを設定してポケットへ仕舞う。各チーム1人がアラームを設定し、適当に決めたスタートラインへ着いた。
その間も魔獣は襲いかかってきたが、上鳴が体育祭でも見せた蹴りによる空気の斬撃により全て破壊した。これは勿論、取得点に含まれない。
「そうだ。最下位のチームは罰ゲームにしようぜ」
何体目かを破壊したタイミングで上鳴が思い付きで口にすると「賛成!」と声が多数上がる。
「内容はどうする?」
「合宿中のどっかのタイミングで相澤先生に一発ギャグとか?」
「空気ヤバそう」
「先生の笑う顔が想像できないわ」
そして時間が経ち───各チームのアラームが鳴り響いたタイミングで、生徒たちは一斉に森の中へ突入した。
「イレイザー」
「何ですかマンダレイ」
「生徒たちがめちゃめちゃふざけてるけどいいの? ってラグドールから連絡来てるけど」
「ああ……そこまで想定して予定組んでるので問題ないです」
「ホッ! ヤッ! ハァッ! セイッ!」
「ところでマンダレイ、アレは?」
「かなり忙しなく魔獣を動かしてるわね………一体どんなおふざけしてるのかしら?」
「標的発見! 青山やれ!」
「キラッ☆」
上鳴が背後から飛んでくる青山のネビルレーザーを身を屈めて避けると、真正面にいた魔獣を青い閃光が貫いていく。
更にその先で葉隠が自らの身体を使いレーザーの方向を歪め───
「葉隠、2時の方向!」
「りょーかい!」
軌道を捻じ曲げて別の魔獣を破壊する。
「コガネ、今ので何P?」
『18Pです』
「一番ポイントが多いのは?」
『チーム“爆殺卿”の23Pです』
「やっぱ耳郎が強いな ───芦戸! 後ろにいるぞ!」
掘り起こされた土の匂い、草木が揺れる音、目で感じる風の流れから敵の位置を割り出しながら上鳴は適宜チームメイトに指示を送る。
「ACショット!」
芦戸が爆豪のAPショットに類似した技、
「いい収束だ。出せる酸の量さえ増えりゃ、もっと高圧力で飛ばせそうだな」
「目標は爆豪が体育祭の決勝でやったアレね!」
「上鳴くんの技パクられまくってない?」
「ノンノン。オマージュ☆」
「青山良いこと言うじゃん!」
「強くなってくれるなら何でもいいや。幾らでも真似してくれ」
───そもそも俺がオリジナルって訳でもなさそうだけどな。
霞がかった前世の記憶がそう告げているが、実際の所は上鳴自身にもよく分かっていない。
───発想自体は簡単な物だ。今世で見たものにデジャブを覚えているだけの可能性だってある………が、どうでもいい。どちらもありうる。そんだけだ。
「もっとペース上げるぞ!」
「オッケー!」
「任せてよ!」
「お腹、結構限界☆」
「耳ィ! 魔獣は!?」
「3時に2体、7時に1体、前方にいるのはかなり近い! 3体! 接敵まで6秒」
「前から来んのは尻尾とクソ髪でやれ! 7時は耳だ! 俺は右手の奴らからぶっ壊す!」
破竹の勢いでポイントを稼ぐのはチーム爆殺卿。
職場体験で索敵範囲と精度を高めた耳郎が広大な森の中から魔獣を見つけ出し、爆豪が担当を割り振る。
機動力に長けた爆豪が距離の離れた個体を倒し、現在地から近い敵を尾白と切島、単体で動く敵は耳郎が担当する。
「コガネェ! ポイント!」
『現在23P。首位です』
「テメェら気ぃ抜くんじゃねェぞ……!」
般若が如き形相で爆豪は飛ぶ。
目指すは完膚なきまでの1位。
その目標は未だ変わらず、野心に燃ゆる目はただ先だけを睨んでいた。
視点は変わって“推薦ツインズ”。
上鳴や爆豪チームの様にポイントを稼ぐ事にはあまり注力せず、最初は距離を稼ぐ事に重点を置いていた。
「今回の勝負の肝は1着ゴールを取れるか否かですわ」
そう語るのは、“参謀”八百万百。
最近はめっきり「拳でぶっ飛ばせば勝ちですの」と上鳴の思想に染まった脳筋お嬢様と化していたが、その本領は頭脳勝負。
「魔獣を生み出して操っているのは結局のところピクシーボブのみ。我々が競う様に破壊に回れば、キャパシティをオーバーするのは目に見えています」
「だけどこれでいいのか? 他の奴らは軒並み15P以上取ってる。ウチはまだ8Pだ」
八百万の言葉に疑問を投げたのはリーダーである轟だ。
そして「その考えはごもっともですわ」と八百万は前置きした上で言う。
「幸いにも口田さんの索敵範囲はA組で1番広い。呼び寄せた野鳥にカメラを付けてこちらでその映像を確認すれば、かなりの範囲をカバーできます。そして、映像を元に算出した位置目掛けて攻撃を叩き込めば簡単にポイントは稼げます。何より───」
「前方から2体くるよ!」
「任せな!」
話の途中で魔獣が現れたが、瀬呂が一纏めにして轟が炎で焼き払った。
「ピクシーボブの役目は施設に向かう私たちの妨害。近づけば勝手に向こうからやってきますわ。ですので先頭に立てば然程苦労する事なく最低限のポイントは稼ぐことができます」
「なるほどな……」
「そして───私と轟さんなら簡単に機動力も確保可能です」
「またやるのか?」
「やらない手がありますか? ………というより、そうしないと負けるのは私たちです」
昆虫から着想を得た肉の筋電位義肢『
しかし、1ヶ月間みっちりと訓練した今の八百万はその製造に掛かる時間を約10分にまで短縮する事に成功していた。
「行きますわよ皆様、全速力ですわ!」
全員を抱えて余りあるパワー。
そして全く衰えないスピード。
それを維持する為の
八百万の勝利の方程式は完成しつつあった。
しかし、その方程式を乱すチームがあった。
「もし、もう一度騎馬戦をやるなら………僕はこのチームで上鳴くんに挑みたい」
森を駆け抜け、魔獣を破壊しながら緑谷はチームメイトにそう話す。
「麗日さんのサポートがあれば飯田くんのスピードを最大限活かしつつ、峰田くんの個性で騎馬の妨害が出来る」
「そしたら空中でも動けるデクくんが総取りするって訳か」
「理想論だけどね」
「何でもいいけどよ………オイラたちガン不利じゃん!? 何で索敵係が1人もいねーんだよォ!」
「遊撃手主体での班分けだからな。どこか1班がそうなるのは仕方のない事だ」
「何でよりにもよってその1班を引いちまうかなァ!」
現在、緑谷たちは全速力でゴールを目指していた。理由は単純。索敵できる人材がいないからである。
「大丈夫だよ、峰田くん! ポイントは僕らが3位! 1着になれば十分優勝を狙えるよ!」
緑谷は八百万と同様に魔獣の湧き方を把握している。それ故にどのチームよりポイントを稼ぎにくい欠点を補うため、とにかく前へと突き進んでいた。
そして、麗日の個性で峰田と麗日自身の重さを0にし、飯田と緑谷で2人を牽引することで機動力に関しては他のチームの追随を許さない物にまで高め───
「がんがん行こう皆!」
「ああ!」
「うん!」
「おー!」
森を爆走。目の前に現れる魔獣を轢き潰しながらゴールを目指す。
「丁度いい───この暗さなら練習になるだろう」
しかし、彼らはまだ知らない。
「やるぞダークシャドウ」
常闇踏陰とダークシャドウの真の力を。
次回は来週中にまた投稿したいと思います。