雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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お気に入り、感想、評価、誤字報告本当にありがとうございます。
感想で「中学生って仮免取れるの?」という趣旨の質問いただいたので先に話をさせていただきたく。
原作では1年生が仮免を受けていたので受験資格は「15歳になっていること」「ヒーロー科の生徒であること」などが条件に絡んでくるかなと考えました。ただ資格の取得が現役高校生にのみ限られるとは思えなかったので「活動歴5年以上のヒーロー3名以上からの推薦」という項目に後者を変更しています。


ep.06 で、どこだよ教室

 

上鳴電気は高校デビューマンである。

というのも、彼のこれまでの人生は学園生活とは縁遠い所にあった。

 

 

幼少期の個性暴発を皮切りに長期入院を余儀なくされ、小学校には一度も通うことなく卒業。中学校もほぼ同様であり、2年まではまともに通えず3年から漸く保健室通いになった。

 

 

そんな上鳴が学校の構造を理解している筈がなく、まして一般的な学校と異なる様相を呈している雄英で迷わない筈がなかった。

 

 

「で、どこだよ教室」

 

 

パンフレットの上下の向きを変えながら首を捻るその姿、正しく方向音痴。

 

 

「……時間ねーな」

 

 

スマホの時計を見れば集合の時刻の10分前に差し掛かろうとしていた。瞬間、上鳴は入試の時でさえ感じなかった激しい焦りに苛まれた。何せ、善院から聞いていたのだ───

 

 

『ええかデンキくん。友達作りはファーストインプレッションで全てが決まるんや』

 

 

初対面の印象が今後の付き合いを左右するというのは人付き合いにおける常識である。

 

 

雄英高校ヒーロー科1年は総勢40名。年次を経る毎にクラス替えがあるにしても、大半は見知った人間になる。何なら他クラスであっても授業で顔を合わせることが多い。

 

 

つまり、初対面の印象で今後3年間を共にする仲間全員からの印象が決まると言っても過言ではないということ!*1

 

 

「残り10分。それまでに必ず1-Aの教室にたどり着いて見せる……!」

 

 

「職員室の前で何を意気込んでるんだお前は」

 

 

上鳴の決意に水を差したのは見るからに怪しい風体の男だった。

手入れのされていないボサボサの髪と無精髭、薄汚れた包帯めいた布をマフラーのように巻いている。

 

 

「誰……?」

 

 

110番を押して構える上鳴に男は「落ち着け。早まるな」と手で制した。

 

 

「俺は相澤消太。1-Aの担任だよ」

 

 

「アンタみたいな小汚いおじさんが……?」

 

 

男───相澤は小汚いと言われても気にする素振りすら見せない。言われ慣れているからだ。

 

 

「うーん。強いのは分かるんだけどな」

 

 

相澤の立ち振る舞いと重心の取り方などから鍛え込んでいるのは分かる。しかし、如何せん見目が悪過ぎた。ヒーローと言われてもまるで説得力がない。

上鳴の疑念を察したのだろう相澤が言う。

 

 

「ま、疑う気持ちは分かるよ。じゃあどうする? このまま辺りをうろついて遅刻するか? 残念だが今職員室には誰もいない。入学式の用意で出払っているからな」

 

 

ほら、と言葉を続けながら相澤は職員室の扉に手を掛けた。鍵は閉まっていた。

上鳴に最早選択肢はなかった。

 

 

「………よろしくお願いします。先生」

 

 

「渋柿でも食ったか? ……これ以上の問答は合理性を欠くな。こっちだ」

 

 

上鳴は渋々、相澤に付いて行った。

 

 

 

 

 

「友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 

───え、ヒーロー科って友達作ったらダメな感じなの……?

 

 

教室前でアオハルをする少年少女を叱責する相澤の背中に、上鳴は「嘘だろ」という視線を投げた。

10年前に見た”存在しない記憶”には文化祭を楽しむ自分やクラスメイトの姿もあった。

 

 

───まさかアレ、全部演技なのか!?

 

 

だとしたらほぼ他人同然の奴らとその内共同生活もしなくちゃなんないのか? 地獄じゃね? と上鳴の脳内を疑問が埋め尽くしていく。

 

 

「上鳴、席につけ。遅刻にするぞ」

 

 

「オ、オッス!」

 

 

気が付けば上鳴を除く全員が席に着いていた。

上鳴がいそいそと唯一空いている席に座ったタイミングで、教壇に立つ相澤が口を開いた。

 

 

「はい。皆さんが席について静かになるまで9秒掛かりました。合理性に欠くね。君たちは今日から高校生。いつまでも中学生気分でいてもらっては困る」

 

 

そもそも中学生気分ってなに? な上鳴に死角はない*2

 

 

「俺は相澤消太、君たちの担任だ。よろしくね。それじゃあ早速だが……体操服(これ)着てグラウンドに出ろ」

 

 

───これが学校かぁ。なんて呑気に構える上鳴だったが、他の生徒はそうではなかった。

 

 

「これより、個性把握テストを行う」

 

 

「個性把握テストォ!?」

 

 

「ガイダンスと入学式は!?」

 

 

「ヒーロー科にそんなこと悠長にやっている時間はないよ。雄英は”自由”が売り文句。それは俺たち(先生側)もまた然り」

 

 

相澤はコスチュームに備わったポケットから端末を取り出し、ホログラムを投影した。

そこに映っていたのはこれから生徒達が行うテストの内容である。

 

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈……中学時代から個性禁止の体力テストはやっていた筈だ。まったく、国は未だ画一的な記録を取って平均を作り出している。非合理的な……おっと、これは単なる愚痴だ。気にしなくていい」

 

 

それから相澤は2人の生徒を指差した。

 

 

「爆豪、上鳴。ソフトボール投げの最高記録は?」

 

 

「67m」

 

 

鋭く跳ねた燻んだ金髪と鋭い目つきが特徴的な少年、爆豪が答えた。

中学生男子の平均記録は超常発現前で40m前後、発現後で55m前後。異形型の個性により平均は大きく伸びたものの、それでも爆豪の成績は平均を超えた好成績である。

 

「180……いくらだっけ……」

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

 

善院によって研ぎ澄まされた上鳴電気の特異体質は彼に人間離れした膂力を与えた。それを最大限生かせばソフトボール投げで3桁を超えることも容易い。何せソフトボールより遥かに重い金属の塊である仮想敵を10数メートル先まで投げつけられるのだから。

 

 

「個性を使えば?」

 

 

「腕使って投げた時は300ちょいっス」

 

 

「やってみろ」

 

 

上鳴は投げ渡された計測用の球体を受け取り、所定の位置へ。

 

 

「あー、電子機器かこれ……あんまり無茶できないな………参考記録取るんだろうし。しゃーない。普通に強化してぶん投げるか」

 

 

「はよ」

 

 

「ウッス………よっと」

 

 

────軽い。

 

 

生徒達の心が一つになった。

 

 

理想的な投球フォームと人外の強肩から放たれた計測器が、銀色の尾を引きながら飛んでいった。

 

 

「420m………お前の先生からもらったデータより飛距離が伸びてるんだが」

 

 

「成長期だから、っていうか」

 

 

今なんて? と上鳴が聞き返すよりも先にその背後から歓声が湧いた。

 

 

「なんだこれ! すげー面白そう!」

 

 

「420mか! やるな!」

 

 

「個性思い切り使えるんだ!」

 

 

「ヒーロー科は違うね!」

 

 

上鳴の一投を見た生徒たちがワイワイと話をし始めた。

 

 

その光景に混ざろうとした上鳴だったが、相澤が大きく溜息を吐いたことで空気が180度変わってしまいタイミングを逃した。

 

 

「面白そう、か。ヒーローになる為の3年間をそんな温い精神で過ごすつもりか?」

 

 

そして、相澤の冷たい眼差しが全員に向けられ───

 

 

「なら、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

 

そんなとんでもない話が飛び出てきた。

 

 

普通の学校であるならば妄言として切り捨てられるだろう。しかし、ここは雄英高校ヒーロー科。生徒に受難を、それを乗り越えた生徒には更なる受難を与える教育機関。受験という試練を乗り越えた生徒たちには、当然次の試練が与えられるのだ。

 

 

「いや、やり過ぎじゃね……?」

 

 

上鳴の疑問に首がへし折れんばかりに縦に振る生徒が2人。同意者がいるのも当然だ。あまりにも理不尽な壁を用意されても納得できる者の方が少ない。

 

 

「どうしよー!? 私ただ透明になるだけの個性なのにー!」

 

 

「オイラなんて髪の毛が超くっ付くだけなんだぞ! こんな手札でどう戦えって言うんだ!」

 

 

「へー、面白い個性だな。やり方くらい幾らでもありそうだけど。それなら」

 

 

何気なく話しかけようとする上鳴の肩に相澤は手を置いた。

 

 

「上鳴……テストで他の生徒に答え教える奴がいて、それが教師に見つかったらどうなると思う?」

 

 

相澤は笑っていた。

しかし、目は死んだ魚のようだった。

上鳴は頬を引き攣らせながら両手を上げ、言った。

 

 

「や、やだなぁ先生。大袈裟過ぎるぜ。ちょっとアドバイスするだけだろ?」

 

 

「駄目だ。あとお前、今から体育館な」

 

 

「えっ」

 

 

それ、不良に呼び出されるヤツですか? と上鳴の漫画脳は一瞬で幾つかのヤンキー漫画を脳内にピックアップした。

 

 

「お前のデータは大体揃ってる。入試が終わってからも研鑽を止めてないのも今ので分かった。これ以上は時間の無駄だ。合理性を欠く。だからお前は体育館行って新入生代表の挨拶してこい」

 

 

「い、今から1人で!? 人の心とかないのかよ!?」

 

 

───いや、待て! そんな事よりこれマズくねぇか!?

 

 

上鳴は気付いた。周囲から「何でこいつだけ?」という目を向けられていることに。特に自分と一緒に名指しされた少年の爆豪が「あぁ?」と、最初の”あ”に濁点を付けながら人を殺せそうな熱視線を投げていた。

 

 

『ファーストインプレッションが重要なんや』

 

 

善院の言葉がフラッシュバックする。

上鳴電気の高校デビューは重大な局面を迎えていた。

 

 

 

 

結局、上鳴は体育館に向かった。

級友から向けられる視線の全てが針のように鋭くても、己の役割を遂行する───この時、上鳴は「俺は入学式を円滑に進めるのための歯車だ」と何度も自分に言い聞かせていた。

 

 

とはいえ、流石にそれだけでは終われない。

 

 

例え、1-Aだけ上鳴を除いて全て空席というイカれた状況に投げ入れられても。

 

 

在学生、新入生、教員、来賓の全てから奇異の目を向けられ、雄英の歴史に名を残すレベルの晒し者になっても。

 

 

上鳴はへこたれなかった。

 

 

堂々とした立ち振る舞いで先生に添削してもらった挨拶を読み上げ、万雷の喝采を浴びながら壇上から降りた。

 

 

ついでに体育館からも退場した。

 

 

そのあまりにも威風堂々とした姿に、その場の全員がまだ式の途中であることを忘れてしまったくらいだった。

 

 

雄英高校は自由が売り。それは生徒側もまた然りである。

 

 

体育館を出た後、上鳴は制服をその場に脱ぎ捨てて体操服姿となり、10年前から使用しているスカウターを装着。電源を入れた。

 

 

「バイタル良好。グラウンドの方角は……あっちか」

 

 

軽く屈伸をして垂直に飛び上がり体育館の壁を登って屋根の上へと辿り着いた。

そこで上鳴は大きく息を吸ってから、ゆっくりと吐き出し───

 

 

「閃電疾駆、3倍速」

 

 

入試の時の2倍の出力で強化を行う。

正真正銘の全力全開。髪の細胞が青白い電光を発し、静電気で僅かに逆立った。

 

 

今この瞬間の上鳴の身体能力は一挙一動が強い風圧を発するほどになっている。

 

 

「最高速度でブチ抜いてやるッ!」

 

 

体育館から飛び降りた上鳴は大気を蹴り上げ、宙空に青い光の軌跡を残してグラウンドへと向かった。

 

 

これならまだ間に合うかもしれない。そんな淡い思いがあった。

 

 

しかし、その願いは一瞬の内に崩れ去った。

 

 

「除籍云々は君たちの全力を引き出すための合理的虚偽だ」

 

 

「だぁぁぁっ!? 終わるの早過ぎだろッ!」

 

 

雷鳴にも似た音を立てながらグラウンドに着地し、相澤がホログラムで成績発表をしているのを見た上鳴は頭を抱えて叫んだ。

 

 

「早かったな。まだ入学式中の筈だが?」と相澤。

 

 

「やってられるか……あんなの自分の仕事だけ済ませて速攻抜けるに決まってる。雄英は自由が売りなんだろ?」

 

 

眉尻を下げて溜息交じりに上鳴は言った。

 

 

「それは無法を許す免罪符じゃない」

 

 

「どの口が言ってんだ」

 

 

上鳴の言葉に4人の生徒が強く頷いた。

 

 

耳たぶがイヤホンジャックになっている女子。

透明女子。

髪の毛が4つの玉になっている小柄な男子。

緑のもじゃげ男子。

 

 

成績下位4名である。

 

 

「まあ一理あるか。省みるよ」

 

 

そう言う相澤の表情は無に近かった。

本当かよというのが生徒大半の気持ちであるのは言うまでもない。

 

「とりあえず成績下位者のペナルティの話をしようか」と相澤は話を変えた。

 

 

「成績下位4名、耳郎、葉隠、峰田、緑谷。お前たちにはフィジカル強化訓練を明日から夏休みまで行ってもらう」

 

 

「仕方ないか」

「うぇ〜くそぅ」

「マジかよ……ヒーロー科って土曜も6限まであるんだろ? 死んじまうよ……」

「はいっ」

 

 

前向きなのは緑谷だけで残る3人は少し不服そうだった。だが相澤がギロリと目を向ければすぐに「承知しました!」と背筋を立たせた。

 

 

「で、その補助監督に上鳴」

 

 

「だからおかしいだろっ!?」

 

 

上鳴は叫んだ。

 

 

そして必ずや、かの邪智暴虐の担任を戒めなければならぬと決意した。上鳴は学校生活が分からぬ。上鳴は病院で全身の骨を砕かれ*3、筋繊維を引き千切り*4、致死レベル高圧電流を浴びて*5、医師免許とヒーロー免許の2つを持つ成人男性にボコボコにされながら*6暮らしてきた。

 

 

しかし、漫画が大好きな上鳴は人一倍アオハルに敏感であった。

 

 

「俺学生! コイツら皆タメ! 普通嫌だろ! 同級生からアレしろコレしろって言われんの!」

 

 

自ら進んで同級生からの好感度をドブに捨てられるほど、上鳴の人間性は大人ではない。

 

 

「個性把握テスト免除してやったんだからいいだろ」

 

 

「関係ねーし誰も頼んでねーよ……!」

 

 

上鳴の額に青筋が浮かび始めた。むしろここまでよく耐えたというべきか。

ボルテージを上げる上鳴に対して、相澤はまるで駄々っ子に手を焼く母のように、呆れた眼差しを向けて言った。

 

 

「そこまで言うなら1から10まで説明してやる。いいか。お前は先ずヒーロー活動許可証の仮免許を持ってる。これは本来、来年度の秋頃に取得する物だ。お前は現時点で実技に関してだけ言えばウチの2年、いや、お前の活動歴を鑑みれば3年に匹敵する実力がある。分かるか上鳴。お前に今必要なのは自分の力をひけらかすことじゃない。自分がどれだけの力を持っているかを自覚し、次のステップに上がるにはどうするかを考えることだ。自分の中にある知識や技を纏めるのに1番手っ取り早いのは、他人にそれを教えることだ。誰にでも分かるように教えるには自身の経験と知識を整理して言語化することが何よりも重要になってくる。お前の先生もよく言ってたよ。『俺がお前らを鍛えているのは自分の為でもある』ってな……まあアレに関しちゃ若干照れ隠しっぽかったが……とにかく、お前に普通のカリキュラムを施しても意味がない。受難を越えた者には更なる受難を───だ。

 

 

これでもう、分かったな?

 

 

「生意気言ってすみませんでした」

 

 

上鳴(メロス)相澤()に負けた。完膚なきまでの敗北である。もっとも、セリヌンティウスのいない上鳴に最初から勝ち目などなかったのだが。

 

 

「だが、お前の言うことも分からんでもない」

 

 

「先生……?」

 

 

「そうだな……50m走、握力測定、立ち幅跳び。これくらいなら直ぐできる。時間も残ったことだ」

 

 

「先生っ!」

 

 

「個性なしでサクッとやってみろ。誰に教えられるのかも、学ぶ側としては重要だからな」

 

 

「先生ッ!?……いやもうやれるだけいいっ! 仲間はずれよりかマシだっ」

 

 

そこ気にするんだ、と主に補習組の面々が気にする中で上鳴の測定は始まった。

 

 

───50m走。

 

 

『上鳴電気、3秒09』

 

 

「僕とほぼ同じっ!?」

 

 

───握力測定。

 

 

『1.4t』

 

 

「ゴリラより強い!!」

「トランプの束引千切れるんじゃないか?」

 

 

───立ち幅跳び。

 

 

「やっべ、上に跳び過ぎたっ!?」

 

 

「あの……彼、今4階くらいの高さまで飛んでいませんでしたか?」

 

 

「人間か? アレ」

 

 

黒髪ポニーテールの少女と髪色が赤と白の少年が呟いたのと同時に測定は終わった。

相澤が口を開いた。

 

 

「今日から訓練すれば君たち4人もあれくらいできるようになる」

 

 

「「「「無理でしょ!!!!」」」」

 

 

「俺と同じ事やったら2時間で発狂しちまうよ……」

 

 

「何やってきたんだお前……」

「恐ろしいこと言うなよ。ちょっと気になるだろ逆に」

「クソがぁっ!」

「……何で今叫んだん?」

 

 

その後、教室で軽いガイダンスを受け*7た後、初日は解散となった。

 

 

そして個性把握テストで怪我をしていた緑谷が保健室から出てくるのを、上鳴を含む6人の生徒が待っていた。

 

 

補習組とガタイのいいメガネの少年、それから赤いほっぺのショートボブ女子である。

 

 

補習組は簡単に言えば明日から始まる補習についての打ち合わせ*8をするため、残る2人は友達と途中まで一緒に帰る為だった。

 

 

そんなこんなで待ち始めた訳だが、10秒も経たない内に待っているだけでは暇だと葉隠が言い出したのを機に、自己紹介が始まった。そして簡単に好きな物を言い合ったりした後は、直ぐに個性把握テストに話題が変わった。

 

 

「しかし、まさか虚偽で鼓舞されるとはな」

 

 

「ほんとだよー! 私めちゃめちゃ焦ったもん!」

 

 

「考えればすぐ分かる……って言ってた子もいるけどさ。ちょっと雰囲気がマジ過ぎたよね」

 

 

「オイラ、緑谷いなかったら泣いてた」

 

 

「それを口にすんのはどうなんやろ峰田くん……」

 

 

終わりよければ全て良しではないが、一先ず全員で壁を乗り越えられたことを喜ぶ面々に上鳴は思ったことを率直に口に出した。

 

 

「いや、マジだぞあれ」

 

 

「上鳴君、先生は合理的虚偽だと言っていたじゃないか。疑うのは良くないぞ?」

 

 

飯田がビシっと腕を振りながら上鳴を窘める。

 

 

「でも入学式の時によ。在学生の席から『うわ。今年は何人ここで除籍されるんだろ』って話し声が聞こえたんだよ」

 

 

たちまち5人は石化したように動かなくなった。

 

 

「あの人、『見込みがないのに夢を追わせるのは合理的じゃない』……とか言いそうじゃね?」

 

 

ちょっと相澤の真似をしながら言う上鳴に耳郎が「ぷっ」と吹き出して空気が緩むも、表情には影が生まれている。自分がそうなっていたかもしれないという考えが脳裏を過ったのだ。

 

 

「ま、そうならないように明日から頑張ろうぜって話だよな!」

 

 

「上鳴アンタ……良いこと言うじゃん」

 

 

「まあ俺に任せとけって! 一緒に頑張ろうぜ!」

 

 

「「おぉー!」」

「おー」

 

 

熱く拳を突き上げる上鳴に葉隠と峰田が乗り、少し気恥ずかしいのか頬を朱に染めた耳郎が小さく手を挙げる。

 

 

「ぼっ、俺も頑張らねば!」

「私も頑張らないと……!」

 

 

「アンタら保健室の前でやかましい」

 

 

「「「「「ごめんなさい!」」」」」

 

 

「素直でよろしい。ほら待ち人だよ」

 

 

「どうしたの皆……?」

 

 

「大丈夫か緑谷! 指腫れたんだってな!」

 

 

出てきた緑谷の肩に上鳴が腕を回しながら話しかける。両者の見た目が嫌な方向に噛み合いカツアゲの現場に見えなくもなかった。

 

 

「まあまあ! 積もる話は駅前のマックにでも入ってしようぜ! な、緑谷。ちょっとくらいは時間あんだろ? 補習とか個性の話とかしようぜ」

 

 

「さんせー!」

 

 

「やっぱこっちはマクド*9ちゃうんか……」

 

 

この後、めちゃくちゃ雑談して電車を逃した上鳴は走って帰った。

 

 

 

*1
上鳴の感想です

*2
全部急所

*3
治療行為です

*4
例)ベンチプレス200kgなど

*5
個性制御訓練です

*6
格闘訓練

*7
結局やった

*8
相澤がトレーニングルームの使用許可を既に取っていた

*9
三重の人は地域差がある(当社比)




《小話》
上鳴がコーラを麦茶のように飲む姿を見て耳郎がツボった。
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