全因解放。
複数個性という通常存在し得ない生物となったオールフォーワンが編み出した、個性の真髄。
膨大な因子を膨らませるのではなく抑し、支配する。個性の簒奪と付与を可能とする個性だからこその暴力。同じ複数個性持ちであっても上手くいかないのは、その特別な力の有無が関わっているのかもしれない。
だが、鹿紫雲一と上鳴電気はその資格を持たないまま──雷神の記憶を頼りにセンスのみでそれを再現していた。
上鳴が変異した身体の調子を探るように肩を回す。
多数の応用を単一の個性と同等以上の出力で実現する為に変異した肉体は異形型のそれだ。身体はプラズマで覆われ、手足の爪は鋭利な物へと置き換わり、額に備わった第三の目が忙しなく辺りを見回している。
そんな上鳴にオールフォーワンが言う。
「倒して見せる………か。いいのかい? 僕を殺さなくて?」
上鳴はキッパリと言い切る。
「テメェを殺すのは司法であるべきだ───だから俺がすべき事は、オールマイトの代わりにお前を断頭台に連れて行くことだ!」
初動、上鳴は宙空に立つオールフォーワンへと肉薄。最も得意とする近接戦闘を仕掛けていく。オールフォーワンは長い時を生きてきたが、徒手での戦闘力は低い。基礎フィジカルによるゴリ押しが精々だ。
「君に付き合う理由はないよ」
故にオールフォーワンは距離を取った。
9本の人面触手に正面戦闘を任せ、自身は後方から大気の衝撃波で上鳴を削りにかかる。上鳴が自ら制限時間を公開している以上、消耗させていなしきるのが1番確実だという判断だ。
それは合理的で正しい。
ただ問題があるとするのなら───黒閃を5発決めた今の上鳴は、既に“最強”を名乗れる領域に足を踏み入れているということだ。
「しゃらくせぇ!」
殴る、殴る、殴る。
9本の触手に9発の打撃。たったそれだけで人面触手が粉微塵に砕かれ、残った部位が力無く垂れ下がる。
「“ゴム”の衝撃吸収を無効化している……いや、拳から微細な振動、音波を放っているのか」
「正ッ解ッ」
オリジナルの“幻獣琥珀”は電気から変換可能なあらゆる現象を実現する為に肉体を作り変える。
上鳴のそれもほぼ同じだ。
今のは打撃を行った手から物体の固有振動数に同調する音波を放つことで、共振を引き起こして対象を破壊。そこに重ねられた打撃は物体の抵抗力で威力が減衰せず、100%の衝撃が通る。
「……参ったね。本当に」
───今のオールマイトとは比較にならない厄介さだ。
懐にまで潜り込んできた上鳴が拳打を放つ。
オールフォーワンはそれを受け、同様の音波を纏う事で共振を無効化しながら敢えて吹き飛ばされることで距離を取った。
「補充してたか」
「当たり前だろ? これがないと周りの様子が分からないんだぜ?」
共振は音波の個性で無効化できる。
だが、そのフィジカルの強さは依然として脅威。
オールフォーワンが触手を再構築しようとした次の瞬間、その視界から上鳴が消え、胸部に打ち据えられた拳によって分厚い鎧に亀裂が走った。
───速いな。背中にある赤い小さな翼、あれを使って身体を押し出しているのか。
2発、3発とオールフォーワンの正中線に抉り込む様な打撃が入る。
だが、鎧は砕けても芯まで届かない。
分厚い鎧の下に張り巡らされた幾層もの“鋲突”、更にマスキュラーの物を複製したのだろう筋繊維の多重展開に“ゴム”の個性を重ねている為だ。更にゴムは打撃のみならず、その際に発生する感電をも防いでいる。
上鳴は思う。
───様子見がてらぶっ叩いては見たが、なるほど。物理攻撃の通りは頗る悪いな。そうなると雷撃、熔断とかが視野に入るんだが………殴った時の感触からして“ゴム”の個性持ってやがる。溜め技でしかダメージを通せない。
オールフォーワンは思う。
───単純な膂力と速力の比べ合いでは勝てない。それはつまり、遠距離攻撃も一定の火力がなければ意味を成さないということだ………つくづく似ているよ、オールマイトに。彼の様に言葉でコントロールできる類の相手でもない。
めんどうくさいな
2人が揃ってゲンナリした顔をする。
心境が一致する中、オールフォーワンの真下から重量鉄骨が猛スピードで突っ込んできた。
鉄骨はそのままオールフォーワンの顎をかち上げ、更に上鳴がそれを掴んでフルスイング。鎧を砕く。
「電磁力による金属の操作……!」
───触れてもいない物にまで効果範囲が広がっているのか!
「来いよオールフォーワン! 魔王を気取りたいんだろうが!」
上鳴が中指を立てるのと同時、半壊滅状態にあった神野区の金属部材を含む廃材が一斉に浮き上がり、オールフォーワンへと殺到する。
一つ一つの攻撃力はオールフォーワンに対してダメージを与えられる程ではないが、積み重なったその重量は比喩なしで街一つ分。
幾らオールフォーワンの膂力が複数個性の掛け合わせでオールマイト並になっていたとしても、そう易々と抜け出せる物ではない。
「磁縛天星!」
地上約20m───瓦礫の月が夜空に浮かぶ。
しかし、それはあくまでもオールフォーワンを一時足止めする為の物に過ぎない。現に星は細かく振動し、内部から破壊せんとする魔王の胎動がはっきりと視認できた。
間髪入れずに上鳴は瓦礫の中から回収しておいた鉄筋を掌で丸めながら、電力を物体の固有振動数に同調する音波に変換。それを微細な粒子にまで破壊し、反転術式で形成した血液と混ぜ合わせながら電圧を掛けていく。
「穿雷───赩御雷!!」
荷電粒子砲の射程と威力は電圧を掛けた分子の重さによって決まる。
上鳴が以前から使っている赩御雷は血液の水分子のみを加速させて撃ち出す物であり、最大射程は10mそこそこ。威力も最大射程に近いほど弱くなる。
それでも人間を殺すのには十分過ぎるほど強力だが、鉄分子を加速させて撃ち出した今回の一撃はそれを優に上回る破壊力を持つ。
両掌を重ねて作った噴射口から甲高い音を響かせ、赤い閃光が月を穿つ。
だが───その程度で魔王が死ぬ筈もなく。
赩御雷によって開けられた風穴から9本の触手が勢いよく上鳴に向かって伸びた。
「今のは効いたよ」
人面が開いた口からオールフォーワンの声と共に光が漏れる。
膨大な熱量を込められた砲門は上鳴からくるりと向きを変え、ヒーロー達や上空で旋回を繰り返すヘリ、それからまだ倒壊しきっていないビル群に照準を合わせた。
「言っただろう? 君たちを否定すると」
腹に空いた孔を超再生で元に戻しながら、オールフォーワンが嗤う。
「アホか───」
上鳴は呆れを隠せない。
「対策してるに決まってんだろッ!」
月の残骸から無数の異形鉄筋を射出。
夜闇を切り裂いて人面へと降り注いだそれは、脳天から顎を貫通する様にしてその口を縫い止める。そして行き場を失った熱は触手の内部に留まり続け、臨界を迎えたタイミングで爆ぜた。
「やるね。だが、これで無意味になった」
月の中からオールフォーワンが手を叩きながら顔を出した。背中には既に再構築を完了した人面触手が備わっている。
上鳴が吼える。
「お前みたいな卑怯者が嫌いだ!」
戦場に降り立った時、先ず目に映ったのは傷付いたプロヒーロー達と崩壊した街並み。そして市民を庇って倒れたオールマイトだった。
戦えば弱い者が淘汰されるのは当たり前。
その事に文句を言いたい訳ではない。
ただ───腹が立って仕方がない。
「どうせ“守る者が多くて大変だなぁ”とか何とか言いながら、人質を狙って有利作ってオールマイト達を追い込んだんだろ!」
「それの何がいけない? 僕はヴィランだぜ!」
オールフォーワンが触手から衝撃波を放つ。
上鳴がそれを拳圧で迎え撃ち、相殺。
「好き嫌いの話してんだよ! 話聞けや、お爺ちゃん!」
オールフォーワンは強い。
魔王を自称するだけの力がある。
だからこそ、上鳴はかつて雷神が相対した“呪いの王”両面宿儺と比べてしまう。
力の強弱を言っている訳ではない。その在り方が、上鳴にこの男を王と呼ぶ事を拒絶させる。
反転術式で生み出した血液に磁性を与えて周囲から鉄屑を回収しながら、上鳴は冷静にオールフォーワンを観察した。
───言ってないだけでちゃんと生命力の類を増強する個性とか、エネルギー効率を上げる個性を積んでやがるな……再生速度がUSJの脳無と比べ、体感で約2割速い。
第三の眼から放ったX線等で読み取った情報が、その直感を補強する。
オールフォーワンは現在、“超再生”、“耐久”、“エネルギー効率”で自身の弱った身体を元の水準に近付けている。超再生にも限度はあるが正攻法で削り切るのは困難を極めるだろう。赩御雷の最大打点を撃ち込んでも平然としているのがその証拠だ。
『だが、脳の負傷をどうこうは出来ない』
不意に聞こえた声に上鳴は笑った。
「サンキューブラザー、おかげで指針が定まった」
「足を止めていていいのかい? 残り3分と少しだよ」
オールフォーワンが“鋲突”を伸ばす。
しかし、上鳴は避けなかった。
避ける必要がない。
鋲突は上鳴の肉体強度に負け、ガラスが割れるような音とともに砕け散った。
「問題ないから止まってんだよ!」
───こいつを戦闘不能に追い込める技は幾つかある。ただ、ちょっとばかし殺傷力が高い。
手加減は不可能。
やる前から諦めるのはらしくないと思い自分を追い込む為に宣言したが、辞める。
「お前、どうせ色々と保険掛けてんだろ? 生け捕りにして吐かそうと思ったけど無理だわ」
上鳴は前言を撤回した。
「だから今日ここで、オールマイトには出来ない手段で───お前を殺す」
宙空に待機させていた鉄屑を右腕に寄せ集め、電熱で溶かして籠手を形成。
先程オールフォーワンに触れた際に移した電荷を元に磁力を起こし、上鳴は籠手とオールフォーワンの身体を引き合わせ始める。
オールマイトやマスキュラーでさえ引き寄せられた磁力だ。オールフォーワンが膂力で抜けられる筈がない。
「あまり舐めるなよ」
故にオールフォーワンは“磁力”を操り、自身に付与された磁極をひっくり返した。
凄まじい反発力に上鳴は慣性を無視して真後ろに吹き飛ばされる。
だが。
「チャージ満タン!」
金紫の稲妻を纏う鋼が赤熱する。
上鳴が触れている以上、磁極の変更は容易い。
吹き飛ばされる直前、上鳴は籠手に付与していた磁極を変更。更に
籠手は膨大な熱量を持ったまま上鳴の腕から飛び立ち、秒速2297m───約マッハ7でオールフォーワンへと引き寄せられた。
「穿雷!」
掛け声と同時、籠手がオールフォーワンの顔面に減り込む。髑髏の面が僅かに欠ける。
「そりゃ硬いよな! 弱点は守らなくちゃ!」
上鳴が人差し指をオールフォーワンへと向けた後、直ぐにそれを自らへと曲げた。
「だから当然、狙い撃つ!」
上鳴は回収した鉄屑の全てを使って籠手を生み出した訳ではない。一部はそのまま残して宙空に待機させていた。
待機していた鉄屑の塊、その核となるのは上鳴の血液であり───そこには当然、十分な電荷が溜まっている。
帰還雷撃
その一直線上にあったオールフォーワンの頭部を通過して、落雷に匹敵する電力の奔流が上鳴へと向かう。
雷速、故に通常の回避は不可能。
更に雷撃はゴムの絶縁耐性を破壊するのに十分な威力が込められていた。
そのまま3秒も通電を維持させれば上鳴の勝ちが決まる。
故に───オールフォーワンは奇策に出た。
首に作り出した人面が自らの身体を食い千切り、頭部をその場から落とした。
通電時間は1秒未満。
致命傷には至らなかった。
「……マジか」
そして、宙を舞う頭部から再び肉体が生え始める。
追撃を仕掛ける上鳴だったが、頭を失った筈の身体が独りでに動いて行手を阻む。蹴散らすのに数秒と掛からないが───それだけあれば再生には十分。
「危ない危ない。死ぬところだったよ!」
「ちっ!」
オールフォーワンの雑な拳打を躱し、上鳴は後方へと飛んだ。
これで状況は振り出しに───とはならなかった。
「うげっ」上鳴が眉を顰める。
オールフォーワンが頭部を失った自身の身体を、触手によって捕食し始めたのだ。
鎧を砕き、肉を噛み切り、咀嚼する。凄惨な光景に思わず上鳴さえ黙り込む中、オールフォーワンの身体に変化が現れる。
腕の数が増え、人面の形相が般若の如く険しくなる。黒い骨鎧に赤い幾何学模様が浮かび上がった。
「個性、自己貪食……オートファジーと言った方が分かりやすいかな?」
それは、飢餓状態に陥った生物が自らの細胞のたんぱく質をアミノ酸に分解し、一時的にエネルギーを得る仕組みのことを指す。
瞬間的なパワーアップの為の個性だったが、オールフォーワンは切り離した身体を捕食しその細胞をエネルギーへと変換することで、大幅に能力を底上げした。
人面の口から光が漏れる。
繰り出された9本の光を、オールフォーワンは“空力”で作り出した大気のレンズを通す事で束ね、心身に一切の負荷を掛けずに出力を9倍に引き上げて上鳴へと向けた。
「おい、あんまりワクワクさせんなよ?」
指先に生成した血液が赤い閃光へと姿を転じ、極光を相殺する。
その次の瞬間、上鳴の眼前にオールフォーワンの姿が現れた。
───速い!
4本の腕から繰り出される打撃。
上鳴は2本までは問題なく捌いた。
しかし、残る2本の対処が間に合わず、拳打は心臓の直上と脇腹を強かに打った。
肺から酸素が抜け、上鳴の視界が明滅する。
───急加速は触手に“筋骨発条化”と“空気を押し出す”を重ねて加速装置にしたからだな? 直線距離の速力は向こうが上だ。
それでも思考は止まらない。
追撃、触手が上鳴に向かって伸びる。
発条化による加速は動きを単調にしていたが、オールフォーワンは複数方向から間断なく突進を行う事でそれをカバーしていた。
その上で、オールフォーワンは使っていない触手で上鳴が自由に動けない様にエリアを狭めて行く。
時折、その役目を攻撃に使っていた触手と入れ替えれば───上鳴を死角から狙い打つことも可能だ。
「お望み通りの白兵戦だ!」
狭い空間。
機動力を削ぎ落とされ、常に複数箇所に意識を割かなければならない状況。
当然、上鳴にショック吸収の様な打撃耐性を引き上げる類の物はない。
打突をまともに受ければ反転術式を使う他なく、消耗が続けば幻獣琥珀の維持を中断せざるを得ない。
───いなせないなら攻めるのみ。攻撃とは即ち、最大の防御!
その上で。
「チッ!」
オールフォーワンは触手の表面にも無数の人面を作り出し、そこから“猛毒”や“礫”をはじめとした遠距離攻撃も交えていく。
上鳴はそれらの遠距離技に対応するため、反転術式で生み出した血液の玉を衛星の様に自身の周りで旋回させ、適宜電磁バリアを展開することで防いだ。
「多芸だね?」
「おかげさまでな」
戦況はオールフォーワンが有利。
だが、それは余裕がある事を意味している訳ではない。
───もう攻撃が読まれ始めた。
四方八方、死角からも迫る触手の打突を上鳴は踊る様に躱し、時に触手の上でステップを踏みながらひらりひらりと避け始める。
上鳴の最大の強みは“雷神”の物を含む戦闘経験。それに裏打ちされた観察眼、予測能力を最大限に引き出す、自身の想像通りに身体を動かせるセンスと練度。
───それでも手を緩める訳にはいかない。彼が僕に通せる有効打には溜めがいる。下手に距離を空けるより、やはり今は詰めるのが得策!
オールフォーワンの果敢な攻勢に上鳴が笑みを深める。
「………有効打は無いと、決めつけちゃったか?」
その油断を上鳴は待っていた。
刹那、上鳴の全身が発光。全方向に電磁波が投射された。
それはマイクロ波───電子レンジの出力を何百倍にも跳ね上げた様な物であり、投射された物体の水分を全て蒸発させる致死の光。
至近距離にまで近付き、上鳴を閉じ込める為に触手で囲っていた事が仇となった。オールフォーワンに、それを避ける手段はない。
「ぐぉっ!?」
直撃。触手が瞬く間に焼き切れて上鳴を縛る物がなくなった。
「初めて声出したなァ!」
咄嗟に腕から出した衝撃波で後方へ退くオールフォーワンを、上鳴が猛追する。
───今のはマズイ! “ゴム”の因子が爛れた!
個性の本体は遺伝子内部にある個性因子である。
肉体に直接作用したり特徴として現れたりする様な個性であれば、因子によって変異した身体的特徴が傷付くと因子にも傷が及ぶ。
傷付いた因子は損耗具合にもよるが酷ければ元には戻らず、その力は激減する。
超再生は個性柄、因子も強い。
しかし、他の物はそうでもない。
そして───オールフォーワンの個性によって奪われたそれらは、あくまでも外付けの個性であり、因子の傷は“超再生”によって回復しない。
「逃す訳ねぇだろ!!」
追いついた上鳴がオールフォーワンに掴み掛かり、そのまま放電を開始。夥しい電流がその身を蹂躙し、焼き尽くす様に広がっていく。
「離れろ!」
オールフォーワンの胸部から一際大きな人面が顔を出し、口腔から熱線を放った。
上鳴はオールフォーワンを蹴って躱し、宙空でくるりと身体を捻転。
大気を蹴って間髪入れずに肉薄する。
そのまま止めを刺さんと、掌から電磁波を放つ用意を進めた。
しかし、次の瞬間。
「最終手段だ………!」
第三の眼がオールフォーワンの体内で爆薬が生成されているのを捉え、上鳴は静止を余儀なくされた。
「TNT換算で15キロトンの破壊力を持った爆薬だ! 下手に殴ったらこの辺りが焦土と化すぜ!?」
その威力はかつて日本に落とされた原子爆弾にも相当する。神野区はおろかその周辺にまで爆発の余波は向かうだろう。
───超再生の時間を稼ぐ! ゴムが焼き切れた今、接近戦は分が悪い! 電流対策のアースを用意し、近づけさせないように戦う他ない! 制限時間は残り1分と少し! 逃げ切る!
普通なら、動きを止める。
自分の一挙一動で全てが灰燼に帰すと言われ、平常通りに動ける方がどうかしている。
「───は?」
上鳴はオールフォーワンの脅し文句を受けた後、直ぐに彼我の距離を詰め始めていた。
オールフォーワンの言葉が単なる脅しではなく、実際にそれが体内にある事を知っていて尚、一切の躊躇なく。
「
反転術式で生成した血液を右腕に纏わせ、電熱の剣を形成。その切先をオールフォーワンへと向ける。
「自爆する、なんて脅しが俺に効くと思ったら大間違いだ───“自爆した”なら使っていい!」
雷光一閃。
オールフォーワンが生成した爆薬を溜め込んでいた器官を、上鳴はその周囲に形成されていた衝撃耐性のある外殻ごと斬り抉った。
そして、上鳴は斬り抜いたそれを右手に収めた。
「これで………死ぬのはテメェ1人だな」
間髪入れずに左の掌でオールフォーワンの顔面を掴む。
もう、逃げられない。
───最低限の目的は果たした。何事も100点とはいかない。だから70点、60点、それよりずっと低い点数であっても………リカバリーが利く様に保険を掛ける。
オールマイトの引退は避けられない。
平和の象徴を欠いた社会には筆舌しがたい不安が渦を巻くだろう。エンデヴァーでは支えきれない。自分を倒した少年をそこに据えようにも、些か若過ぎる。その小さな背中を見ても誰も安心できない。
───裏社会の象徴である僕が死ねば「次は俺だ」と声を上げる者も現れるだろう。頑張れ弔。
「次は、
オールフォーワンの頭部を上鳴が放った電磁波が焼き尽くす。
手の中で炭に変わったそれを上鳴は何の感慨もなく握り潰した。
「蘇る気満々の癖に白々しいったらねーよ……」
それと同時に幻獣琥珀のタイムリミットが訪れ、全因解放を解く。身体を襲う倦怠感にうっかり爆弾を落としかけ、ヒヤリとした汗が背筋を伝った。
そして上鳴がゆっくりと降下しながら、手の中にある爆薬をどう処理するか考えていると「おーい!」と手を振って1人の男が駆け寄ってきた。
「ああ、大丈夫そうでよかったや。
「やっぱり君のおかげか! 今、頗る調子がゲボォアッ!!?」
「暴れんなよ!? 応急手当にしかなってねぇんだから!」
要救助者をヒーロー達に預ける前、上鳴はX線を始めとした各種個性でオールマイトの中身を診断。その情報を元に反転術式のアウトプットで応急処置を施していた。
「ぶっつけ本番だったしな。後でリカバリーガールと相談しながら、できる限り治すよ」
上鳴の“呪力”は“帯電”の電気エネルギーと融合を果たしており、それ故に元が呪力である正のエネルギーの放出も可能になっている。
───もしかすると、
などと益体もない事を上鳴が考えていると、オールマイトがガシッと上鳴を抱きしめた。
「なんでもいい! 私の身体なんて! ただ………ただ! 生きていてくれてありがとう!」
上鳴は頭上からする鼻水を啜る音に、ほにゃりと表情を崩した。
「大袈裟だなぁ、とは言えねぇか。ぶっちゃけマジで死ぬ寸前まで行ったし」
「本当に良かった! さあ! 早く善院くんに顔を見せてあげるんだ、上鳴少年!」
抱擁を止め、手を引こうとするオールマイトから上鳴は優しく手を外して言う。
「上鳴少年じゃねぇ───“ヒーロー活動中”だからな。今はミカヅチだ」
そしてニッと歯を見せ、笑った。
“世の中、笑ってる奴が1番強いからな”
その姿にオールマイトは今は亡き師の姿を重ねた。人が人を思う心は、誰かを助けたいという願いは───決して絶えない。
師の幻影にそう言われた気がした。
オールマイトも笑みを返し、言う。
「なら凱旋と行こうぜ、ヒーロー!」
マッスルフォームになったオールマイトがミカヅチを肩に乗せた。
ミカヅチが「やめろって肩車は!?」と制止の声を投げかけるが、オールマイトは辞めなかった。口の端から僅かに血が垂れるのも構わず「HAHAHAHA!!!」と呵々大笑を上げて走り出す。
ほぼ同時に、東の空が白み始めた。
長い、長い夜が明けて世界が朝を迎える。
「いい天気になりそうだなぁ」
しかし、これがまだ始まりに過ぎない事を上鳴は知っている。
「腕どないしたァァァァァァア!! 説明せぇ! デンキくんッ!!?」
オールマイトの肩に乗ったミカヅチに、禪院が叫ぶ。
「生やした!!」ドヤ顔のミカヅチ。
「生やしたァッ!?」
禪院は顎が外れるくらい口を開いた。
───でも、考えるのは後でいいだろ。そもそもよく知らんし。
ただ今だけは、泣きながら笑う先生やポカンと口を開けて固まっている面子を見て、笑っていたかった。
「あ、テレビじゃん! おおーい! A組、B組! どうにか無事帰れそうだから、学校始まったら覚悟しとけよ! 林間合宿の遅れを取り戻さねぇとな!」
テレビに気付いた上鳴が手を振って声を張り上げた。
それに、叫び疲れた禪院が足の痛みに顔を顰めながら言う。
「何言っとるんや自分は………先ずは検査や……」
「仕方ねぇだろスマホぶっ壊れたんだもん。ちゃんと無事って知らさないと心配するって耳郎たちに怒られたんだよ、前」
ミカヅチの言葉に「そうか。確かに大事やな」と納得しかけた禪院だったが、直ぐにハッと顔を上げた。
「無事と特訓は関係ないやろ!? 趣味全開やないかい!」
「へへっ………バレんのはやっ」
上鳴の年相応の笑顔がカメラに映る。
この日を境に、上鳴電気を危険視する声はパタリと止むことになるのだが───それは完全な余談である。
こうして事件は幕を閉じた。
後に林間合宿襲撃事件と合わせて教科書にも載ることになるこの事件は、こう呼ばれる。
“神野事変”と。
黒閃ボーナスが乗りに乗っていた為、上鳴くん1人?で勝ち切りましたが無かったらかなり苦戦していたでしょう………何はともあれ、遂に神野終わりました!後はエピローグだけです!
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