雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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前回のあらすじ
「1つ問おう! 艱難辛苦を乗り越えた若人には何が必要だと思うかね? ───そう、青春だ!」


ep.67 四方山話 -弐-

 

「取り敢えず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上! 解散!」

 

 

何やかんやあったものの───相澤からの寮生活や今後の方針についての説明も終わった。

A組の面々は各々に割り当てられた新たな自室へと向かい、荷解きを始めた。

 

 

「とは言え………俺の荷解きって直ぐ終わるんだよな」

 

 

私物を大して持たない上鳴は幾つかの家具を電動ドライバーで組み立て、収納スペースにお気に入りの漫画や参考書の類、少ない私服を収めるだけで部屋作りはほぼ終了する。

 

 

仮免を取得してからこなした捕物で得た給料で購入した、拘りの大画面テレビの配線を済ませば───完成だ。

 

 

「部屋作りの手伝いに行ってもいいけど……流石に嫌がられるか? まあ溜め込んだアニメも消化してぇ……メカ丸の新作は名作と聞くしな!」

 

 

上鳴は持ち込んだタブレットでサブスク契約している動画配信サイトを開き、ミラーリング機能でテレビ画面に映す。

 

 

「まあ、2時間もすりゃあ皆片付け終わるだろ」

 

 

そして新作を4話ほど見た上鳴は、部屋を出て一階の共同スペースに向かった。

 

 

「まだ障子だけか?」

 

 

「上鳴か。ああ、まだ皆頑張っているようだ」

 

 

上鳴は「そっか」と頷きながら、ソファに腰を掛けてニュースを見ていた障子の隣に座って同じ画面を見る。

 

 

「そういや障子は常闇と物間と一緒にマスキュラーと()ったんだろ? どうだった?」

 

 

「そうだな───恐ろしかったが、掴んだ物もある」

 

 

障子は複製腕を幾重にも重ねて上鳴に丸太の様な腕を形成して見せた。

 

 

ほう、と上鳴は瞳に金色の輝きを灯しながらそれを見る。特定の因子の力を少しだけ引き出すくらいは然程難しくない。X線等の個性を視界に適応させて解析していく。

 

 

「複製した腕を30本重ね合わせてパワーを増強したのか……いいな。元のパワーも高いし、攻撃力は確保出来た訳か。あとは機動力も欲しいが……複製腕で脚力の増強は………複製できる節の部分を足まで伸ばせば出来るのか?」

 

 

「出来なくは無いだろうが腕の可動域が狭まるだろうな」

 

 

「本末転倒。論外だなぁ───でもいいな。ピンチをチャンスに変えられたか」

 

 

「ああ………だが、生き残れたのは物間のおかげだ」

 

 

「詳しく」

 

 

「食い気味だな」と障子は苦笑を浮かべながら当時の事を語る。

 

 

物間がダークシャドウをコピーし、そのダークシャドウがB組の個性をメインに次々に個性を発現させ、マスキュラーを倒したことを。

 

 

「おい、あんまりワクワクさせんなよ?」

 

 

「俺じゃなくて物間に言うべきだろう」

 

 

「それはそう………でも腕が沢山あるってのはアドだよなぁ……俺も頑張ったら生やせねぇかな」

 

 

「どうだろうな」

 

 

そんな風に談笑しつつ2人でニュースを眺めること更に1時間。小腹が減った上鳴が持ち込んだポテトチップスとコーラに舌鼓を打っていると、片付けを終わらせたクラスメイト達が徐々に増え始めた。

 

 

そんな時だ。

目敏く上鳴の間食に気付いた葉隠が顔を輝かせながら言う。

 

 

「あー! 上鳴くんポテチ食べてる! どこの!?」

 

 

「カルビー」

 

 

「同志! 頂戴!」

 

 

勢いよく葉隠が上鳴の背中に飛び付く。

上鳴はふわりと花のような甘い香りと共に、柔らかい感触が背中に当たるのを感じた。

自分の真横にある顔に向かって、上鳴は言う。

 

 

「葉隠」

 

 

「なに?」

 

 

葉隠は上鳴ごしに袋に手を入れてポテチを取り、そのままの体勢でパリポリと食べ始めていた。

 

 

「俺さ。脳機能治ったんだよ。痛覚と触覚って結構近い感じでさ……いいのか? 立派なのが当たってるの丸わかりだけど、女の子ってそういうの気にすんじゃねぇの?」

 

 

「ぶふぅっ!?」

 

 

「きったね。ほら、ハンカチ」

 

 

「ありがと、じゃなぁぁぁい!?」

 

 

葉隠が“きゅうりを見た猫”の様に真後ろへ跳ねる。「いい身のこなしだな」と呟く上鳴に、葉隠は両手で胸を隠すようにしながら赤面して言う。

 

 

「そういうのは早く言ってよ!?」

 

 

「何で俺が悪いみたいに……先ず自分で気を付けてくれ」

 

 

上鳴の正論パンチがボディブローの様に葉隠を打ち、そのまま葉隠は透明になった。

 

 

葉隠は透明だったが故に羞恥心を感じるポイントが人とはかなりズレていた。しかし、さすがに面と向かって“当たってる”と言われれば恥ずかしい。

 

 

だが、透明になっていても見える上鳴には関係ない。耳まで真っ赤にしている所を見て上鳴は無慈悲にも言葉を続ける。

 

 

「そんなに恥ずかしいならやんなきゃいいのに。耳まで真っ赤じゃんか………まあ、オンオフが綺麗に出来るようになってるのは感心だな。林間が中止になっても家で頑張ってたのは偉い───で、お前は何だよ峰田」

 

 

「感触を教えグハァッ!?」

 

 

上鳴が自分に飛びかかってきていた峰田をソファに置かれていたクッションで叩き落とす。

床にべちゃりと叩きつけられた峰田は拳で床を殴りながら言った。

 

 

「どゔじで、お前ばっがり………!」

 

 

「葉隠が無警戒過ぎただけじゃね?」

 

 

「お前が時たま見せる屈託ない笑みが! そのラインを下げてんだよ!」

 

 

「何をそんなキレてんだよ」

 

 

コーラをグビグビと呑みながら上鳴は峰田に呆れた。脳機能を取り戻しても、上鳴は未だ情緒が思春期に到達していないお子様な節があった。葉隠に胸を押し当てられても「やらかいな」としか思っていない。それと精々「これを付けたまま動き回るのダルそうだな」くらいか。

 

 

体育座りで床に“の”の字を書く葉隠の背中を蛙吹と麗日が摩り、険しい目つきの耳郎が上鳴を諭す。

 

 

「上鳴、こういうのはね。皆がいる様な場所じゃなくてあとでコソッと教えてあげるんだよ」

 

 

「えっ、そうなの?」

 

 

「そう。誰かに何かを注意する時ってのは人前であんまやっちゃいけないの。勿論、時と場合にもよるけど………恥ずかしいって思わせる内容の時は特に注意しないと」

 

 

「難しいな。ごめん葉隠。気が回らなくて」

 

 

「………いいよ。油断してた私が悪いし。でも、忘れてね?」

 

 

「暫くしたら忘れる」

 

 

「う、ゔぅぅ〜!」

 

 

「そこは“はい”だけでいいんだよ一言余計!」

 

 

「ごめんて」

 

 

上鳴は再びポテトチップスの袋へと手を伸ばした。そして、床を転げ回っている葉隠に袋を差し出して尋ねる。

 

 

「食べるか?」

 

 

「もらう!」

 

 

「手は洗ってこいよ」

 

 

スリッパをパタパタと鳴らしながら葉隠が台所に向かうのを見送って上鳴は袋から取り出したそれを食べた。

 

 

「耳郎も食う?」

 

 

「夕飯前に食べないよ。アンタも、味覚戻ったからってばくばく食べてたら太るよ」

 

 

「気をつける」

 

 

───親友、何かすっごい微妙な顔してないか? また俺なんかやった? でもさっきみたいな空気じゃないし……いいか。

 

 

 

 

 

そして全員で夕飯を食べた後。

 

 

「あのね! 今話しててね、提案なんだけど………お部屋披露大会しませんか!?」

 

 

芦戸を中心にした女子陣からの提案に押し切られる形でそれは始まった。

 

 

「うわぁぁぁぁぁあああ!!? ちょっ待っ」

 

 

最初の犠牲者は2階の住人、緑谷出久。

ガチャリと捻られたドアノブは部屋主の叫びも気にせず、与えられた役割を果たした。

開け放たれた部屋へ勝手知ったる自室の様に踏み入った女子陣が明かりを付けると、彼女たちを筋骨隆々の男たち───様々なオールマイトグッズが迎え入れる。

 

 

「オールマイトだらけだ! オタク部屋だ!」

 

 

忌憚のない麗日の言葉に緑谷は撃沈した。

悪意が微塵も感じられないが、ナードとは白日に晒されると陽光に耐え切れず死ぬ生き物だ。*1

 

「予想通りではあったかな! 次!」と芦戸が部屋から出る。

 

 

「くだらん」

 

 

そして部屋の外で自室の扉に背中を預けていた常闇を芦戸が押しのけていく。

 

 

「暗い! 黒い!」

「このストラップ中学ん時修学旅行で買ったわ」

「剣だ………!」

「でけぇ! 常闇、これ振ってみてもいいか!?」

 

 

「出ていけ!!」

 

 

2階に割り当てられた男子は峰田、緑谷、常闇、青山の4人。緑谷、常闇とくれば当然残る2人の部屋も見る流れになるのだが───

 

 

「青山、体調悪いってよ」と上鳴。

 

体調不良を訴える学友の部屋に押し入る様な真似はしない。峰田は猥褻物を見せびらかす可能性があるとして無視され、生徒たちは3階に移った。

 

 

3階は尾白、飯田、上鳴、口田の4人がいるフロアだ。尾白はあまりにも普通な部屋でオーディエンスを沸かし、飯田は山積みになった参考書と大量の眼鏡で麗日の腹筋にデトロイトスマッシュを炸裂させたものの───やはり、どちらも想像の範疇を出ず。

 

 

「次俺か?」

 

 

部屋鑑賞は上鳴電気の私室へと移ろうとしていた。

 

 

「上鳴の部屋だ……」

 

 

「上鳴くんの部屋だね……」

 

 

そう言ってごくりと生唾を飲み込んだのは、耳郎と葉隠。しかし他の生徒たちも似た様な物だ。

 

 

───間違いなくプロ含め最もNo.1に近い上鳴さんの部屋!

 

 

───どんな物が置かれているのか! 私生活の話を聞かないからぶっちゃけめちゃくちゃ気になる!

 

 

分析力に長けた八百万と緑谷が拳を握り、息を巻く。

 

 

「つっても皆とそんな変わらないぜ? ソファベッドとテレビが………」

 

 

「わぁぁぁあ!? ネタバレやめて!」

「こういうのはビックリ感が大事なんだよっ!」

 

 

芦戸と瀬呂が上鳴の両脇を固めて肩を組み、それとは逆の手で口を塞いだ。ネタバレ厳禁。注意書きのないそれは、場合によっては死にも等しい罰が与えられる。

 

 

「そんなもんか? まあいいや───ほれ」

 

 

上鳴が2人の腕を優しく解いて扉を開けた。

 

 

先頭にいた芦戸と瀬呂の目に先ず入ったのはモノトーン調のシンプルながら統一感のあるインテリアだ。特に目を引くのはスリムなデザインの黒色のオープンラック。そこには上鳴によって厳選された漫画、フィギュア、オーディオ機器などが綺麗に並べられている。

 

 

床にはモノクロのカーペットが敷かれ、その上にはガラス天板のローテーブル。ソファベッドと向かい合う位置には大画面のテレビが設置されていた。

 

 

「おお………」と誰かが唸った。

意外だ、というのが本音な所だろう。

何だかんだ戦う事以外に興味を見出さない様な印象ばかりが先行し、てっきり部屋はトレーニング器具ばかりが置かれているのではと思っている者も少なからずいた。

 

 

「カラーリングと家具のデザインで空間を広く見せていらっしゃいますわね」と八百万。

 

 

「モデルルームみてぇ」瀬呂が率直な感想を口にした。

 

 

そうやって何人かが真剣にレイアウトなどを気にして部屋を見る中。

 

 

「テレビでかぁぁぁぁあ!?」

「漫画! BLEACH完全版!」

「これオールマイトが主人公のモデルになってるアニメ映画のDVD!? しかも初回購入特典付き!」

「温故知新」

「美少女フィギュアじゃねぇか! 何だよ上鳴! お前もちゃんと男の子だったんだな! まあ、低露出のカッコいい系だけど………」

「上鳴もこの先生の本持ってたのか。いいよなこれ。体捌きを分かりやすく言語化してくれてるからイメージしやすくて」

「参考書もあるわね。どれもよく使い込まれてるわ」

「お菓子ボックスだ! ポッキーもある!」

「あ、このCD。林間のバスで……」

 

 

「この部屋をあの短時間で作ったのか?」障子が恐々と言った言葉に、上鳴が目尻から電光を奔らせた。

 

 

「まあ、電動工具と個性を併用すればな」

 

 

体育祭が終わった頃に葉隠の似顔絵を書いた時と同じだ───生体電流の増幅による敏捷性の向上。通常の3倍のスピードで作業をこなせば、常識離れした速度での部屋作りも可能だ。

 

 

しかし、それもアキタの電動工具あってこそ。

 

 

上鳴はクローゼット側の壁面に取り付けたメッシュパネルに引っ掛けた工具を指差してから、サムズアップ。

緑を基調としたデザインの電動ドライバーは障子が遠めから見てもよく使い込まれているのが分かった。

 

 

「とーちゃんの趣味がDIYでよ。たまの外出許可で家に帰った時に色々作ってたらこうなった。先生がさ“常に個性の使用を維持して細かい作業をするのが1番練習になるんや”って言ってたのもデカいな」

 

 

「………この家具、全部自分で作ったのか?」

 

 

「テレビとか以外はな。ホームセンターに行けば大体何でも揃うし。病室とか実家と部屋のサイズ感変わらなくて助かったよ」

 

 

障子と上鳴の話を聞いていた峰田が、ぐりんと頭を本棚から2人がいる方へと顔を向ける。

 

 

「一体お前は何が出来ねぇんだよ上鳴ィ……」

 

 

「意外な一面過ぎる」と瀬呂が続く。

 

 

「ま、気になるならまた今度遊びに来いよ。口田の部屋行こうぜ」

 

 

隣室、口田の部屋。

部屋自体はシンプルだがペットのウサギが出迎えたことで女子から黄色い声が上がる。

 

 

「名前は?」と上鳴が口田に問う。

 

 

(ゆわい)って言うんだ。オスだよ」

 

 

「可愛いじゃん」

 

 

おいでーと上鳴が腰を屈めて手を広げると、結は恐る恐る上鳴がいる方へと寄っていった。

人慣れしてるなぁなんて上鳴は思っていたが、結は上鳴の手が届かない所でくるりと方向転換。女子達の背に隠れるかの様に部屋の奥まで戻っていく。

上鳴のテンションが下がった所で「どんまい」コールが響いた。

 

 

「なあ、釈然としなくね?」

 

 

肩を落とした上鳴を慰めながら、峰田がそんな事を言い始めると常闇と尾白が頷く。2人とも女子陣から容赦ない批評を浴びていた事もあってか、少し表情が硬い。

 

 

「緑谷は?」

 

 

「え? ぼ、僕は別に……オタクなのは事実だし」

 

 

緑谷は本心から気にしていなかったが、吃ったせいで少し思うところがある様に見えてしまった。

峰田が大仰な所作を交え、演説する。

 

 

「男子だけが言われっぱなしってのは変だよな? お部屋、()()()()つったよなぁ?……なら当然? 女子の部屋も見て決めるべきじゃねぇのか!? 誰がクラス一のインテリアセンスの持ち主か、全員で! 決めるべきじゃないのか!?」

 

 

僅かな静寂の後、芦戸が手を合わせて言った。

 

 

「いいよ!」

 

 

こうして、第1回A組ベストセンス決定戦“部屋王“が始まった。

 

 

だが、寮は男子と女子で棟が分かれているため一先ず男子棟から見ていく事には変わらない。

続く4階。爆豪、切島、障子が暮らすことになる階だ。

 

 

「ばーくーごーいーれーてー!」

 

 

「上鳴くんが小学生みたいになっとる!」

 

 

「眠いんだよアイツ。職場体験でもお腹いっぱいになったり、この時間になるとあんな感じだったし」

 

 

耳郎の話を聞いた蛙吹は「お母さんみたいね」というのを堪えた。何でも正直に話してしまう自分を乗り越えたプルスウルトラにより、耳郎のメンタルが人知れず保たれる。

 

 

「母ちゃんみてぇ」

 

 

しかし、瀬呂がボソリと漏らした言葉がそれを無に帰した。

 

 

「デリカシー!」葉隠の格闘訓練の成果でちょっと硬くなってきた平手が瀬呂の頬に炸裂。快音を響かせる。

 

 

そんな風に騒いでいたからか、部屋の扉が勢いよく開け放たれ、肩を怒らせた爆豪が口角泡を飛ばしながら出てきた。

 

 

「うるせぇんだよ明日にしろッ!」

 

 

───明日ならいいんだ。

 

 

素直に「じゃあ明日」と言い出す上鳴を他所に、その場にいた青山を除く全員の心境が合致した。

バタン! と力任せに閉められた扉から視線を外し、葉隠が拳を天井に向かって突き上げる。

 

 

「気を取り直して切島部屋! ガンガン行こうぜ!」

 

 

「どーでもいいけど多分女子にはわかんねぇぞ……この男らしさは!」

 

 

壁に掛けられた“大漁”、“必勝”などのタペストリー。炎の意匠が猛々しいカーテン。床に置かれたダンベル。

 

 

「うん。熱苦しい」

 

 

目につく情報を瞬時に把握した芦戸が一刀両断。

女子陣が申し訳なさ気に頷き、切島は薄ら涙を滲ませながら「ほらな」と鼻を擦った。

 

 

続いて障子───が、部屋の中は恐ろしいほど殺風景。かつ上鳴が障子の背中によじ登って寝始めた為、最早鑑賞どころではなかった。

 

 

「障子ぬくい………一家に一人テンタコル………」

 

 

「駄目ですわ。完全に溶けてますわ」八百万が慄く。

 

 

「最強の意外な弱点」常闇がそれに頷いた。

 

 

「上鳴くんは前まで脳の異常でアドレナリンが大量に出てたって話だし、そうなると交感神経が活発になって活動時間が伸びるはずなんだけど………もしかすると無意識のうちに身体を休ませるよう電気信号を弄ってたりしたのかな?」

 

 

「なるほど。これはその名残か」

 

 

緑谷の考察に轟が相槌を打つ。

そして障子が上鳴を背負ったまま5階へ移動。

轟の部屋のドアノブに芦戸が手を掛ける。

 

 

「オープン! ………うわっ!? 和室だ!」

 

 

轟の部屋はそもそも造りからして違っていた。

何でもフローリングの部屋が落ち着かず、難儀していた所を発目に遭遇。紆余曲折を経てリカバリーガールから廃棄予定だった畳等を譲ってもらったという。

 

 

話を聞いた瀬呂は頬を引き攣らせた。

 

 

「紆余曲折過ぎんだろ」*2

 

轟の部屋を鑑賞している最中、障子におんぶされていた上鳴の鼻が動いた。

 

 

「……なんかあまいにおいがする」

 

 

味覚を取り戻したせいか食い意地が張り始めた上鳴の嗅覚は、部屋を跨いでいても直ぐに匂いを嗅ぎ付ける。

 

 

「砂藤だな?」

 

 

「寝ぼけてんのによく分かるな。シフォンケーキ焼いてるんだよ。食うか?」

 

 

「食う」

 

 

砂藤の部屋でシフォンケーキを食べた上鳴は障子に礼を言って降りた。

 

 

「大丈夫なの?」

 

 

「目、冴えてきたから」

 

 

伸びをしながら上鳴は耳郎とそんな会話をしつつ、瀬呂の部屋を見学してから再び一階へ。

共同のエリアから向かうのは女子棟である。

上鳴は迷わず峰田を抱え上げた。

 

 

「何すんだよ上鳴ぃ!」

 

 

「お前、()()()()()今度こそ除籍だぞ」

 

 

「し、しねぇよ!」

 

 

「嘘つけ。風呂覗こうとした奴が言っても説得力ねぇよ……やだぞ俺、お前が除籍されたら」

 

 

「純度100%の心配で心が痛い!」

 

 

「上鳴が押さえてるから大丈夫でしょ」

「お願いしますわ上鳴さん」

「頼んだよ上鳴!」

「頼りにしてるわ上鳴ちゃん」

「ガードよろしく!」

「ごめんね上鳴くん、ありがとう!」

 

 

芦戸、八百万、耳郎、蛙吹、葉隠、麗日───満場一致である。上鳴は「おー」と気の抜けた返事をしながらも峰田を持ち上げ右肩に乗せ、ガッチリと足を掴んだ。

 

 

「分かった! 分かったって! ちゃんと大人しくしてればいいんだろ? だからな上鳴。ちょっとくらいは力緩めてくれても」

 

 

「じろー」

 

 

「だめ」

 

 

「だってよ」

 

 

「最近の若者!」

 

 

自分って物がねぇ! と峰田は嘆いた。

セクハラよりはマシだろう、という無数の視線が峰田に突き刺さるが本人は素知らぬ顔をして流した。

 

何はともあれ、部屋巡りは再開。

栄えある女子トップバッターに葉隠が選ばれた。

 

 

「じゃーん!どうだ!?」

 

 

葉隠が扉を開けると、先頭にいた上鳴の目に真っ先に入ったのは音符の意匠が可愛らしいピンクのカーテンだった。メインとなるインテリアは全てカーテンと同系色で揃えられており、パステルカラーの小物や沢山のぬいぐるみが何ら違和感なく存在している。

 

 

正に男子が想像する女子の部屋を絵に描いたような、そんな空間が広がっていた。

 

 

「ふふん! どうやら声も出ない様だね!」

 

 

そう言って胸を張る葉隠に部屋の中に入った男子達は思わず半歩下がった。

 

 

───何だろうこの、見てはならない物を見てしまったような……!

 

 

イメージ通りであるが故に刺さる物もある。

誰にでも分け隔てない*3天真爛漫な少女像がそのまま反映されている部屋は、男子達にとって少し刺激が強かった。

 

 

「へー、葉隠らしいいい部屋じゃんか」

 

 

「詳しくないから確かな事は言えねえけど、色のバランスもいいんじゃねぇか」

 

 

「ぬいぐるみもよく手入れされている」

 

 

ただし、この3人の男を除いて。

上鳴電気、轟焦凍、障子目蔵。

小学生低学年、天然、大人。三者三様の精神性が見事に現れていた。

 

褒められてご満悦の葉隠の次は、少し嫌そうな顔をした耳郎の部屋だ。

 

 

「まぁ………ウチだけ見せないってのもだし」

 

 

開け放たれた扉、上鳴達を迎え入れたのはギターを始めとしたバンド活動に必要な一通りの楽器の数々。カラーボックスに収納されたレコードやギターコードだ。

私室というか楽器屋。素人にはそんな印象を与えるレイアウトである。

 

 

「「「「すげ〜!!!」」」」

 

 

上鳴、葉隠、瀬呂、切島が声をハモらせる。

 

 

「耳郎! これ全部弾けんの!?」と上鳴。

 

 

「一通りは」耳郎がプラグの先端を突き合わせながら答える。

 

 

クラスメイト達が楽器とそれを弾きこなす耳郎のカッコ良さに目を向ける中、「女っ気ないな」と峰田が言う。

 

 

「……悪かったね」

 

 

耳郎がムスッとしていると、上鳴が「気にすんなよ」と肩を叩く。

 

 

「好きにやればいい───それが1番だろ?」

 

 

「言われなくたってそうするよ」

 

 

ニッと笑い合う2人に峰田が血の涙を流して声を捻り出す。

 

 

「オイラを挟んでイチャつくな……!」

 

 

「次───!」

 

 

葉隠に背中を押される様な形で上の階へ。

芦戸、麗日の部屋へ向かう。

芦戸はショッキングピンクという派手な色をメインにした部屋。麗日はシンプルで特徴はないが、既に生活感が出ていて別の意味で男子達をドギマギさせた。*4

 

 

そして4階、蛙吹の部屋。

 

 

「皆からするとちょっと蒸し暑いかしら」

 

 

扉から感じたのは湿気。

 

 

「可愛いカエルの加湿器が!」

「合唱しとる!」

「ごめん梅雨ちゃん! ちょっと暑い!」

 

 

部屋にはカエルモチーフの小物や青と緑をベースにしたカラーリングのインテリアが並び、水玉模様のカーテンなど随所に蛙吹らしさが盛り込まれていた。

ただ、加湿器の数が一般的な感覚より多く、更に言うと空調がやや高めの温度に設定されている為、蒸し暑い部屋になっていた。

 

 

「蛙吹らしい良い部屋だな」上鳴がそう褒めると。

 

 

「梅雨ちゃんと呼んで」と蛙吹が返す。

 

 

そんなお決まりのやり取りを終え、早々に八百万の部屋へと向かった。

 

 

「私室というか───寝室だな」と障子。

 

 

「お恥ずかしい………まさかお部屋の広さがこれだけとは思わず………」

 

 

八百万の部屋は彼女の私物である天蓋付きベッドが約8割を占拠しており、部屋がどうのという議論が挟まる余地は残されていなかった。

クラスメイトがベッドに夢中になっている傍で、上鳴は壁面に追いやられた化粧台に目を向けた。

 

 

───めっちゃ細かいレリーフだ。良い家具使ってんな八百万………あれ?

 

 

「なあ、これさ。もしかしてスパニッシュマホガニー製か?」上鳴が恐々と尋ねる。

 

 

「そうですが、それがどうかなさいました?」

 

 

「学寮に持ってきていいやつ?」

 

 

「………?」八百万は心底何を聞かれているか分かっていない顔をしている。

 

 

「年代は?」

 

 

「16世紀のフランスで作られた物をリメイクする形で」

 

 

「分かった。俺は先に部屋を出るぜ」

 

 

上鳴は真っ先に部屋から退出した。

スパニッシュマホガニー。現代においては絶滅した樹種。それ故に家具になるような物は全て年代物か再加工品であり、超常黎明期前であってもその価格は極めて高い。天然物で現存する物となれば、値段が付けられない可能性があった。

 

 

部屋を出た上鳴に釣られる形で他の者達も部屋を離れ、かくして───“部屋王”なるインテリアセンスを比べる催しは終わりを告げる。

 

 

最後に一階の共有スペースで厳正なる投票が行われ、最終的にシフォンケーキを振る舞った砂藤が女子陣と上鳴から票を集めて優勝するという部屋要素皆無の決着を迎えた。

 

 

尚、上鳴の部屋は「漫画貸してくれ!」「映画見ようぜ!」と言った声が多数あり、幾つか票を集めたことで2位に選ばれた。

 

 

「部屋あんま関係なくね? 俺、耳郎とか瀬呂の部屋も好きだけどなぁ……」

 

 

「いや、結構部屋も良かったよ。モノトーンのインテリアで統一感あったし」

 

 

耳郎は自身も上鳴の部屋を褒めつつ、耳のプラグを揺らした。

 

 

「テレビおっきかった! 今度皆で上鳴くんの部屋に集まって映画鑑賞会やろ!」と葉隠。

 

 

「俺も入れてくれよ。皆に見て欲しい映画あんだよね」そこに瀬呂が続く。

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

上鳴は「ポップコーンとコーラを用意しないとな」と未来に思いを馳せ、その日は泥の様に眠った。

 

 

 

 

そして翌日───登校日。

 

 

「昨日少し話したが、諸君らの当面の目標は仮免取得だ。仮免と言えどヒーロー免許は人命に直結する責任重大な資格……当然、取得難度は高い。合格率は例年5割を切る」

 

 

教壇に立つ相澤の言葉に生徒たちが黙って頷く。

覚悟は既に決まっている。

相澤の言葉を受けても揺るぎない眼差しには、どんな困難が待ち受けようともそれを粉微塵に砕いて先へ進むという強い意志で満ちていた。

相澤は生徒等の目を見て笑みを溢す。

 

 

「そこで今日から君たちには最低でも2つ、必殺技を作ってもらう」

 

 

必殺技───それ即ち、放てば必ず対象の息の根を止める技。

ただし、現代社会におけるヒーローの必殺技はあくまでもそのヒーローを象徴する技であり、必ずしも殺傷力を求められている訳ではない。

 

 

「必勝の型、己がどういった存在であるかを示す技。それを見て助けられた人が何を思うのか……多角的に判断しろ。今回の演習は重要度が高い。教員が常に2〜3人つく事になるから、悩んだら直ぐに相談しろ」

 

 

「俺に聞いてくれてもいいぜ? な、相澤先生」

 

 

「ああ。上鳴には悪いが今回もクラスメイトのサポートに回ってもらう事になるだろう……尤も、それだけじゃないが」

 

 

相澤の言葉に上鳴は「どういうことっすか?」と首を傾げた。

 

 

「お前宛にチームアップ要請が来てる」

 

 

「何で雄英に?」

 

 

「雄英がお前の事務所代わりになってる。扱いとしちゃ俺たち教員とほぼ同じだ。報酬に関してはこちらで経費諸々を差っ引いた物を口座に振り込む形になる」

 

 

「そこは別に心配してないけどね、俺。誰からっすか?」

 

 

「公安だよ………ったく。幾らプロ免許持たせたからって普通のカリキュラムだってあんのに……調整する上鳴と俺らの負担も考えろ」

 

 

ぼやく相澤に上鳴は「ごめんな相澤先生」と両手を合わせて苦笑いする。

だが、態々上鳴を呼び出す程だ。

案件としてはかなり重いのだろう事が伺えた。

それこそ、尋常なヒーローでは手に負えないほどに。

 

 

───まあ、オールマイトが居なくなるって事はそういうことだ。

 

 

日に日に犯罪件数が伸び、組織犯罪が増え始めている。

 

 

“次は君だ”

 

 

オールフォーワンが言い放ったその言葉を聞いていたのは上鳴だけだが、裏世界に生きる者たちはまるで“次は俺たちだ”と言わんばかりに動き出していた。

 

 

そしてこれは、国内に限った話ではない。

 

 

まるで示し合わせた様に緩やかに犯罪件数が伸び始めている。唯一例外となったのは6月前後から大規模な捕物を複数回行っていたアメリカだけだ。

 

 

───オールフォーワンの死も影響してんだろうな………気分悪いぜ。考えれば考えるほど、結局アイツの思い通りになりやがる。

 

 

今の日本は防波堤を失っている。

日向にも日陰にも支配者がいないという事はそういうことだ。

敵対組織(ヒーロー)競合相手(ヴィラン)も弱くなった今、他国から見て日本はブルーオーシャンになっている。

 

 

───厄介な事になる前に、ケジメはつけなきゃならねえ。

 

 

上鳴が決意を新たにする中、相澤は着々と話を進めていた。

 

 

「それじゃあ各自、コスチュームに着替えて体育館γに集合しろ」

 

 

「はい!」

 

 

聞きそびれた事を切島と爆豪に聞きつつ、上鳴はコスチュームに着替える為に男子達と更衣室に向かった。

 

*1
諸説あり

*2
詳しくは雄英白書

*3
ただし峰田のみ日頃の行いが悪いのでやや塩対応

*4
特に緑谷





蝦蟇様よりファンアートいただきました!

【挿絵表示】

ありがとうございます!

仮免はA組中心で進みますがちょくちょく別の視点が挟まります。
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