雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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ここから映画第4作目のネタバレが入ってきます。
まだ見ていない方、これから見る予定がある方は一旦ストップお願いします。


ep.68 揺らぎ

体育館γ、通称トレーニングの台所ランド(T D L)。セメントスの個性で様々な地形や障害物を形成し、個人に応じた訓練を行う為の施設である。

 

 

TDLに集まったA組の必殺技開発を監督するのは相澤、セメントス、エクトプラズムの3人。

 

 

基本はエクトプラズムが個性で分身しマンツーマンで必殺技を形にする為の指導を行う。

必殺技の骨子が固まった者は上鳴との組手でそれを実戦で使用できる様に慣らしつつ、上鳴の所感やプロヒーローからのアドバイスを受けて改良を重ねる。そういう流れだ。

 

 

「時間は有限。さあ、散れ!」

 

 

相澤の言葉を受け生徒たちは散開、それぞれの必殺技を形にすべく練習を始めた。

 

 

それを横目に上鳴は呪力を練り上げて跳躍。イオノクラフトを使い浮遊しながら、全員の身体の状態をつぶさに観察していく。

 

 

───緑谷の身体はかなり出来上がってきたな。耳郎は……何だろあの()()から胸の辺りまで覆ってるサポートアイテム。葉隠も細胞から作ったコスチュームが届いたか。しかも透明化の可変式。他の皆も随分といい具合に高まってきたな。

 

 

だが、林間からの伸び代で言えば一歩抜きん出ている少女が居た。

 

 

訓練開始から20分が経過し、宙空でクラスメイトを観察する上鳴にその少女が話しかける。

 

 

「上鳴さん、ご指導のほどお願い致しますわ」

 

 

八百万だ。

エクトプラズムの分身を()()とする近接主体の戦い方で既に10体撃破した彼女は次の相手に上鳴を選んだ。

剥き出しになった戦意を向けられた上鳴は獰猛な笑みを浮かべ、それに応えるべく八百万の前に着地し戦杖を構えた。

 

 

「自宅待機中、頑張ってたんだってな」

 

 

「………ただ己の弱さを、噛み締めていただけですわ」

 

 

八百万はそう言うがその瞳には強い意志だけが宿っている。もう乗り越えたのだと上鳴でも一目で分かった。故に、破顔して叫ぶ様に言った。

 

 

「魅せてみろ、八百万百!」

 

 

実戦形式での練習。

開始の合図は相対する2人ではなく、セメントスだ。戦いの気配を察知したセメントスが瞬時に2人の足場、体育館の一角を個性で変化させ、武舞台を作り上げて見せる。

 

 

「サンキューセメントス!」

 

 

舞台が出来上がるのと同時に上鳴が床を踏み締め、亀裂を走らせながら八百万へと迫る。

 

 

「簡易創造!」

 

 

掬い上げる様に振り抜かれた戦杖に八百万は真っ向から挑んだ。

 

 

右腕に展開した“万理”でそれを抑え込み、瞬時に“万理”から上鳴に向かって鎖を射出して拘束を試みる。

 

 

上鳴は鎖を電磁力で絡め取ろうと右手を向けるが、しかし個性が働かず目を点にした。

 

 

「あなた相手に金属を使う訳ないでしょう!」

 

 

「簡単だが良い手だ!」

 

 

───力業より電熱を使う方が早いか。

 

 

上鳴は右手に絡みついた鎖を瞬時に電熱で破壊しようと試みたが、失敗。それは金属に見える様に塗装された八百万製強化プラスチックで出来ており、カーボン、ガラス繊維等を混ぜ合わせることで強度を、フェノール樹脂をはじめとした複数の耐火素材を混ぜ合わせる事で耐熱性を大幅に上げていた。

僅かばかり足を止めた上鳴に、八百万が喜悦を滲ませる。

 

 

「まだまだ行きますわよ!」

 

 

右腕だけでなく脚部を“万理”が覆う。

八百万が鎖を引き寄せ、上鳴の腹部に痛烈な膝蹴りを叩き込む。

しかし、その感触に先程感じた喜悦は消し飛んだ。

 

 

───何て硬さと重さ! 私は今、本当に人を蹴ったのですか!?

 

 

驚愕で目を見開きながらも八百万は思考を止めることなく、残る左腕に“万理”を纏い追撃の構えを取る。

 

 

「液体燃料を手足の“万理”の内部に作り出した内燃機関に体内から直接流し、エネルギーを生成。それを噴射口から勢いよく吐き出して推進力を確保───なるほどな。半機械化か、悪くはない」

 

 

だが、些か遅い。

目尻から金の電光を奔らせた上鳴が分析を口にしながら動き出す。

 

 

「が、良くもない」

 

 

刹那、上鳴が左手で放った打撃が八百万の腕の“万理”を砕いた。

 

 

「見えなっ」

 

 

「耐久性が低い。作成スピードの向上はつまるところ、設計の簡易さによるものか───八百万、お前に言うのは酷だけどさ………道具は限界を超えられねぇぞ。だから」

 

 

“その先を”

 

 

話を遮るように上鳴の顔面に拳が叩きつけられ、壮絶な打撃音が体育館に響いた。

上鳴が半歩だけ後ずさる。そして、鼻から流れて唇についた血をぺろりと舐め取った。

 

 

───呪力強化を抜いてきたか。それに。

 

 

「……さっきまでのは()()を形成する為の繋ぎですわ」

 

 

先程までのは研究の過程で出来た失敗作。

しかし、単体でもそれなりに優秀でコスパも悪くなく、繋ぎにはなるという理由で採用しただけの粗悪品。

 

 

八百万が作り出す肉の鎧、“万理”はその性質上極めて複雑な造りをしており、創造までに10分もの時間を要するほどの代物である。

 

 

自宅待機の間、八百万が考えたのは如何に性能を落とさずに構造を簡略化するか。この一点の為に解剖学やロボット工学、医学書など使えそうな内容の物は片っ端から頭に入れた。

 

 

それでも“万理”の構造を簡略化するのは不可能だった。Iアイランドで得たメリッサ・シールドとのコネクションを頼って尚、現状打つ手は無しというのが結論。

 

 

だが、知の研鑽は無為ではなかった。

設計図への理解が創造の練度を底上げしていたのだ。

 

 

その時、八百万は確信した。

 

 

 

否、初心へと立ち直った。

 

 

「自宅待機中───寝る間も惜しんで、ずっと作っていましたの。千を超えてからは数えてませんわ」

 

 

作成時間約1分半。

八百万は“万理”を技として概ね完成させた。

それはつまり、体育祭で上鳴が八百万に寄せた期待が形になったということ。

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

「行きますわよ、上鳴さん!」

 

 

“万理”を纏う八百万の剛拳と上鳴の拳がぶつかり合う。それと同時に2人を中心に吹き荒れた凄まじい風が衝撃の強さを物語る。

 

 

「もっと(りき)出せ!」

 

 

「はいっ!」

 

 

パワーは上鳴の方が圧倒的に上。

それ故に八百万が引き上げた膂力に合わせて自身の力を引き上げていく。

 

 

「15、20、25……27、28ね、限界か!?」

 

 

「ですわ、ねっ! ところで上鳴さんっ! それは一体、なんの!」

 

 

「弱体化したオールマイト換算で約3割! 出力は体育祭から変わってないが、安定度は段違いだな! 少なくとも力にムラが、ないっ!」

 

 

ぶつけ合わせていた拳から力を抜き、上鳴が一歩踏み込む。

 

 

「きゃあ!?」と剛体からは想像だにしない可憐な悲鳴が上がり、上鳴はつんのめった八百万の腕を掴み、勢いを利用して投げ飛ばした。

 

 

上鳴の背負い投げが綺麗に決まり、八百万は武舞台に叩きつけられた。床が大きく割れてコンクリートが捲れ上がる。

 

 

「ダメージは?」上鳴が尋ねた。

 

 

「さほどありませんわ……」

 

 

「耐久力も高いな。だが、力が増したからと言ってそれ一辺倒というのは良くないぞ。そもそも、“万理”は単なるパワーアップアイテムじゃなくて、創造を行える肌面積を増やす目的もあんだろ。俺が限界か? って聞いたタイミングで何かしらアクションを起こせないと地力で負ける相手に一生勝てないぞ」

 

 

「………はい」

 

 

「背中から武器を生やす。さっきの内燃機関を積む。やれる事はまだまだある。先ずは近接に慣れるところからだな。余裕がねぇと創造に頭回せないだろ? 俺も付き合ってやるから」

 

 

「はいっ!」

 

 

「よし! じゃあ次は…………順番は爆豪、耳郎、尾白、緑谷、芦戸、葉隠、峰田ね。あ、切島はまだダメだ。お前、技のイメージ固まり切ってないだろ。俺はちゃんと2つ以上技用意してる奴としかやんねぇよ」

 

 

「くぅっ! 俺もやりたかったぜ!」

 

 

「技ができたらやろう。だから早く作ってくれ。お前なら………っと。アドバイスしたそうにしてる人がいるし、譲るか」

 

 

上鳴が入口に目をやると、そこに長身痩躯の男が立っていた。窪んだ目の奥にある青い輝きは肉体の衰えとは違い一切の翳りを感じさせない。

 

 

「私がアドバイスに来た!」

 

 

現在活動を休止しているNo.1ヒーロー、オールマイトだ。

クラスメイトが手を止めて「オールマイト!」と叫び手を振る。それにオールマイトも応じ、微笑みを浮かべた。

 

 

上鳴は爆豪に「すまん。ちょっと待って」とハンドサインを送り、怒号を背に受けながらオールマイトの側に寄る。どうしても確認したい事があったからだ。

 

 

「怪我の具合は?」

 

 

「君とリカバリーガールのおかげでかなり良くなったよ。中長期的な治療になるとは言え失った臓器の回復まで目処が立てば、俄然やる気も出る!」

 

 

オールマイトは5年前のオールフォーワンとの戦いで主要臓器を失う大怪我を負っている。

 

 

しかし、上鳴が反転術式を会得したことで治療の状況が大きく変わった。失った臓器までも再生させる治癒能力により、オールマイトの肉体はかつての活力を戻しつつある。

 

 

とは言え、これはオールマイトにも上鳴にも負担が大きい治療だ。主治医であるリカバリーガールを始めとした医師団の「様子を見ながら使っていこう」という判断もあり、長丁場と化す事は確定していた。

 

 

「残火は?」と小声の上鳴。

 

 

「全力での戦闘なら3分。しかも出力はどうにか5割に達するか否かだろう。それで完全に尽きる」

 

 

「そっか………なら手合わせはもう無理だな」

 

 

「すまないね、上鳴少年」

 

 

「いいんだ。俺はもうアンタから十分貰ったからさ」

 

 

しんみりとした空気が漂う中、それを消し炭にせんと爆発音が轟く。

 

 

「おい上鳴ィ! 早く俺のサンドバッグになれ!」

 

 

「じゃあ、俺はあっち戻るよ」

 

 

上鳴が踵を返したその時、校内放送が掛かった。

 

 

『1年A組、上鳴電気くん。1年A組上鳴電気くん。至急職員室まで来てください』

 

 

爆豪の吊り目が限界を超える。

上鳴の機嫌が急落する。

 

 

「「タイミング悪いんだよッ、クソが!」」

 

 

2人は声をハモらせて地団駄を踏んだ。

 

 

 

 

 

上鳴は猛スピードで一直線に職員室へと向かった。空を飛んで窓から階に侵入。荒々しい手付きでドアを開ける。

ドアの側に居たミッドナイトから絹を裂く様な悲鳴が上がった。

 

 

「ちょっと上鳴くん! 乱暴は」

 

 

「すんません。で、誰っすか。俺呼んだの」

 

 

苛立ちはある。

しかし、努めて冷静に言葉を選ぶ上鳴の視界で赤い羽が揺れた。

 

 

「悪いね、授業中に」

 

 

「……ホークスさんか」

 

 

髪色に近い輝度の高い黄土色のジャケットを纏ったヒーロー、“ホークス”が気さくに右手を挙げる。

 

 

「覚えててくれて嬉しいよ、ミカヅチ」

 

 

「………なるほど、アレだな。チームアップの話だな? てっきり放課後かと思ってたぜ」

 

 

「本当はその予定だったんだけど、色々あってね。話が早くて助かるよ。会議室は借りられなかったけど仮眠室を借りておいた。そっちで話そうか」

 

 

「なら最初からそっちに呼んでくれよ」

 

 

「いやいや、授業中に仮眠室に呼ばれたら意味分からんでしょ」

 

 

「それはそう」

 

 

そこから2人はたわいもない話をしながら仮眠室へと向かった。

入室して直ぐにホークスが“剛翼”を使ってポットでお湯を沸かし、そのまま急須でお茶を入れ始めるのを見た上鳴は「頑張ればやれるか?」と反転で生成した血液を宙に浮かしてみる。

 

 

───いや、汚いな。

 

 

上鳴は瞬時に世迷言を切り捨てて柔らかいソファに身体を預け、ホークスと向かい合った。

 

 

「で、本題は?」

 

 

「切り替えが凄いね」とホークスが苦笑する。

 

 

ホークスは一度湯呑みに口を付けてから、上着の内側から数枚の写真を取り出して机の上に並べた。

上鳴は写真を手元に引き寄せたその瞬間、ピタリと動きを止めた。

 

 

「だれ? この、オールマイトのコスプレおじさん」

 

 

「まあ、そんな反応になるわ。俺も最初に見た時同じ顔してたと思う………その男の名はバルド・ゴリーニ。欧州最大の犯罪組織(マフィア)、ゴリーニファミリーの頭だ」

 

 

「???」

 

 

何故、マフィアのボスがオールマイトのコスプレをしているのか。顔まで似ている理由は。邪悪そうな笑みを浮かべるとこんな風になるのか。筋肉は自前なのか。このタイミングでマフィアのボスを教えられた意味は。

 

 

───ダメだ、情報が、情報が完結しない……! 何なんだコイツは! コイツの顔を見ていると次から次へと疑問が湧いてきやがる……! というか、チームアップで呼ばれてコイツを出されたってことはつまり!

 

 

頼む、後にしてくれ………! 今さ、俺の友達が仮免取るために頑張ってんの!? 分かるか、ホークスさん! 大事な時期なんだよ、力になりたいんだよ! こんな訳分からんアクの強い奴の相手なんか俺したくねぇよ!?」

 

 

「この男が下手するとオールマイトやオールフォーワンレベルの力を持っていたとしても?」

 

 

「いやいや! こんなコスプレおじさんが強いわけ……………嘘だろ? マジで強いの? これが?」

 

 

真剣な眼差しで頷くホークスに、上鳴は開いた口を閉じることが出来なくなった。

 

「オールマイトの活動休止とオールフォーワンの死。この2つが重なり、日本は今世界中の悪党から標的にされている。で、つい先日。長崎の港にある倉庫で大規模な戦闘が発生した」

 

 

ホークスは大きく抉られた港の一角を切り撮った写真の1枚を指差した。

 

 

「中国マフィアとゴリーニファミリーの小競り合いの結果、だそうだ」

 

 

「………小競り合いね」

 

 

「個性“錬金”。対価を支払うことで物体の構成を組み替え、別物に変えてしまう個性。調べた限りではここまでの事ができる個性じゃなかった筈だが、何の手品か大幅に強化されてる」

 

 

「薬か? 何かあったろ、イデオロギーみたいな名前の」

 

 

「イディオトリガーの類をどれ程キツくキメてもこうはならないよ。個性を強化する個性………そういった物もあるし、その線を考えてる」

 

 

「はぁ………分かったよ。俺が倒せば丸く収まるってんなら」

 

 

気乗りしない。

顔に書かれた言葉にホークスは表情を変えずに言う。

 

 

「悪いね。ただ長丁場になるのが実はもう確定しててね」

 

 

「うげっ、何でまた」

 

 

「指定敵団体………いわゆるヤクザだね、どうもそれと接触してる節がある。綺麗に雲隠れしとって現状探すのも難しい。その上、敵連合の件にも動きがあるしで手が足りない」

 

 

上鳴は湯呑みに入ったお茶を一気に飲み干し、お茶請けの煎餅に手を伸ばしながらホークスに尋ねた。

 

 

「つまるところ俺はどうすればいい?」

 

 

「とにかく前線へ───週に1日から2日、こちらが指定した場所あたりを探して欲しい。君ならここから2時間も掛からずに行ける場所だ」

 

 

「了解。取り敢えず怪しい奴はぶっ飛ばしていくわ」

 

 

 

 

 

四季によって顔を変える日本庭園が一望できる格式ある料亭。その一室で風変わりな男が2人、顔を突き合わせていた。

 

 

「1つ問おう。新時代を作るには何が必要だと思うかね? そう───破壊だ」

 

 

金髪で2本の触角を作り、オールマイトによく似た顔で庭園を眺めているのは、ゴリーニファミリーのボスであるバルド。

 

 

その対面で「言わんとする事は分かる」と頷いたのは、黒いスーツとマスクを身に纏う鋭い目付きの男だ。

 

 

男は出された料理などには一切手をつけず、マスクを取る素振りすら見せない。バルドを警戒しているのは明らかだった。

 

 

「そう硬くなるな。我々は1つの目標を共有するファミリーになれる」

 

 

「………その面でよくもまあ、いけしゃあしゃあとそんな事が言える」

 

 

「確かに君たちは彼に負けた側の人間だ。だが、そう自分を悲観する必要はない。仕方ないんだ。何故って? 相手にしたのがオールマイト(先代)で、この世で最も強い存在()()()()()()

 

 

バルドはお猪口に注がれた清酒を呷り、笑う。

 

 

「だが今、象徴はいない。彼の引退会見を見て思ったよ………次は私なのだと」

 

 

───何を言っているんだコイツは。

 

 

男は絶句した。

だが、それを馬鹿に出来ない程に目の前の男は危険な力を持っていた。

 

 

「この国には、世界には! 新たな象徴が必要なのだ! 表と裏、光と影、オールマイトとオールフォーワンの様な!」

 

 

「新たな価値観、新たな経済価値、新たな秩序───そう言った物を作りたいと」

 

 

「FUFUFU……君は話が早い。頭が良いんだろう。だからこそ、私は君を選んだ。巷で噂になっていたよ。何でも、個性を破壊する銃弾があると。アレは君の所が流してるんだろう?」

 

 

胸ポケットに挿した薔薇の花を確認するバルドに男が鼻を鳴らす。

 

 

「それを知っていて、俺が指定した場所にのこのこ1人でやってくるとはな」

 

 

「誠意だよ。力尽くで屈服させるよりも互いの利を示し、協力し合う。これはビジネスさ。特に我々には共通の敵がいるだろう」

 

 

それは───次代の芽。

 

 

「オールフォーワンを終わらせたガキ」

「オールマイトを終わらせた少年」

 

 

「「上鳴電気」」

 

 

声が重なり合い、バルドが笑う。

 

 

「そちらがコチラに提示するメリットは?」

 

 

「5000の兵隊と多額の資金援助。その代わりこちらには」

 

 

「個性消失弾を格安で………か」

 

 

「それもあるがもう1つ。双方にメリットがある案件がある」

 

 

バルドは懐から取り出したスマホで1つの動画を再生した。

そこに映るのは()()()()()()()()()。それを見た男は目の色を変え、思わず身を乗り出した。

 

 

「これは……!」

 

 

「個性消失弾、だったかな? ウチの者がたまたま粗悪品を回収できたからね、成分を分析させてもらった………まあ中身の予想はついていたが。だからこその提案だよ───君には“賢者の石”を製造してもらいたい」

 

 

バルド・ゴリーニ。

 

 

この男が日本に上陸するのは本来、もっと先の未来の話だった。

 

 

だが、来てしまった。

 

 

オールマイトを失い、オールフォーワンが消えた支配者なき日本に───来る筈ではなかった男が。

 

 

そもそも本来の彼が最終決戦前という傍迷惑なタイミングで日本を訪れたのは、スターアンドストライプという最強を魔王が下した事に起因する。

 

 

彼の行動原理は単純明快。最強を下して次代の“象徴”となること。

オールマイトの言葉や理念など、()()()()()()。バルドにとって重要なのは力であり、精神性など論ずるに値しない。

 

 

そして、この世界で魔王を退けたのはオールマイトではなく上鳴だ。正史における魔王の代役として現時点で成立してしまっている。

 

 

だからバルド・ゴリーニは来た。正面から上鳴電気(宿敵)を捩じ伏せ、己が力を世界に示し支配する為に。

 

 

だが、バルドには1つだけ無視できない不確定要素があった。

 

 

それが───

 

 

「これはトップシークレット。君が共に歩むに足りる男であると思ったからこそ話している、オーバーホール」

 

 

死穢八斎會若頭、治崎廻。

ヴィラン名をオーバーホール。個性因子を人体から抽出し、幅のある効果をただ一点に絞り込める程の才能を持つ男だ。

 

 

この男が生み出した個性消失弾は超人社会を根底から崩し得る力であり、バルドはそれを疎ましく思っていた。

 

 

故に自分が次の象徴になるまでの間は、その流通元とは少なくとも敵対したくない。同時に支配力の強化とビジネスに使えるそれを手中に収めたいとも思っていた。

 

 

バルドが笑みを浮かべる中、オーバーホールは目から一切の感情を消した。

 

 

───浅い考えだ。思惑が透けて見える。こちらのメリットに対して向こうのメリットが薄い。罠が張られているのは明白だ。だが………無視はできない。奴は既にそれだけの力を示している。

 

 

天秤が揺らぐ。

しかし、決断に然程時間は掛からなかった。

 

 

「よろしく頼むよ」

 

 

───お前がどんな力を持っていようとも無駄だ。あれさえ使えば一瞬で無に帰せる。

 

 

オーバーホールから滲む自信を見ても、バルドは笑みを崩さない。

 

 

「ならマスクを外してくれてもいいんじゃないか?」戯けた調子でそう言い放つ。

 

 

「悪いな。潔癖症で、これだけは外せない」

 

 

「シャイボーイめ。だがいいだろう! ビジネスの話はこの辺りで終わりにし、私はこのSUSHIを堪能させてもらうとしよう!」

 

 

口を大きく開けて寿司を頬張るバルドにオーバーホールは冷めた目を向けた。

 

 

「まだ被験体の移送や諸々の段取りがあるだろう」

 

 

「それはボスである我々がする仕事ではない。FUSUMA越しに控える君の腹心の誰かと、私の部下がする事だ」

 

 

「………ウチはそちらと違って人員がまだ少なくてね」

 

 

「おっと嫌味に聞こえてしまったかな? そんなつもりはないんだがね」

 

 

「そうか。なら此方としてももう話すことはない。代金はすでに払っている。ゆっくりしていくといい。先にお暇させてもらう」

 

 

「悪いね」

 

 

退席するオーバーホールの背中を見送り、バルドは自分の顎を撫でた。

 

 

「強いな。それに底が知れない。だが───」

 

 

 

 

 

「いいんですかい? 勝手なことばかり言わせて」

 

 

「構わない。密会にあんな目立つ格好でくるような、重病者以前に気が触れた輩と同じ空間にいる方が不愉快だ。何より───」

 

 

 

 

 

「「次は俺だ」」

 

 

既に新たな悪意は芽を伸ばしていた。

 

 

 





Q.この世で1番アンナさんの個性を手に入れてはいけない人間だーれだ

A.オーバーホール(諸説あり。オーバーホールなら兵器化、薬物化してばら撒く可能性が高いため、オールフォーワンが雑に持つより陰湿で惨そうという理由)

次回から仮免試験編が本格スタートです。
それと並行して時系列改変されて死穢八斎會編と悪魔合体したユアネクストがじわじわ進行していきますわ。

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