今日は言葉に表せない喜びを改めて感じました。拙作を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。仕事始まったのでちょいとペースが落ちてしまうかもですが、最後まで書き切りたいと思います。
───なあなあ先生。先生より強いヒーローってオールマイト以外にいるの?
───あん? そらおるわ。アメリカのスターとかな。それ以外やと……エンデヴァーはちとキツイなあの人本気出したら人が生きていけへんくらいの熱撒き散らすから対策も無くはないけど触れられんのは圧倒的不利や言うて負ける気もないけどな。
───途中から凄い早口だな……エンデヴァーだけ?
───だけや。というよりビルボードに載っとる奴やと袴田さんとエンデヴァー以外に負け筋がない。その袴田さんも別に近接戦闘に特化しとる訳やないし、まあ後は条件次第やな。
───袴田さんが誰か分かんねぇよ俺……じゃあさじゃあさ! 先生にとって最強のヒーローは?
───んなもん決まっとるやろ……
個性把握テスト、翌日。
「んじゃ、次の英文のうち間違っているのは?」
プレゼント・マイクが教壇に立ち英語の授業をする中、上鳴はノートを開いて板書を写す……こともなく放課後のトレーニングメニューについての調整案を纏めていた。
『これ、4人にやらせるトレーニングメニューな。お前の判断で多少増やしたり減らしたりしてもいい。あと緑谷の入試映像と、それから4人全員の個性把握テストの様子。編集してあるから休み時間の間にでも見ておけ』
相澤から貰ったメニューと映像については頭に入っていたが、だからこそ内容に納得がいかなかった。
───葉隠と峰田は別にいい。先ず葉隠は身軽に動くことが前提になるから、筋肉が付きすぎるとかえって身動きが鈍る。
透明化という個性が活躍する場面は夜間の奇襲、ヴィランの潜伏先への潜入、立て籠り事件での隠密行動など”どれだけ相手の情報を取れるか”が鍵になるような案件だ。軽やかかつしなやかな動きが葉隠には求められる。
───葉隠は近接戦になっても殆どの奴は間合いが掴めない。それを利用すれば体格差や筋肉量の差は埋められる。最悪、足止めに徹してもいい。間合いを掴める奴はその手の特化した個性か、複合的な力を持つ異形型だ。後者の場合、肉体を限界まで鍛えても最初から勝ち目が薄い。だから反射神経や瞬発力を高めるトレーニングを中心に、全体的な基礎身体能力を高めていくメニュー。
───で、峰田はそもそもキツイトレーニングが無理。下手に筋トレばかりをすると関節に負担が掛かり過ぎて身長が伸びる可能性を潰しかねない。タッパはリーチと筋肉量に直結する。だから今アイツが覚えるべきは個性の扱い方……だけどトレーニングメニューにそれがないってことは、まだ早いってのが相澤先生の判断……かな。ある意味合理的ではあるか。だから峰田も葉隠と同じようなトレーニングを積めって話になる訳か。
基礎は大事だ。
だが何事も最終的な到達点を定めずに基礎を鍛えようとしても意味がない。地味で過酷な訓練にどのような効果があり、何をする為に必要なのか。それを明らかにすることが大切なのだ。
───だったらもっと走り込みを増やすべきだ。足が止まったら死ぬんだから。耳郎の方もそうだ。むしろ心音なんて有酸素運動増やさねーと強くなんねーよ……後は、耳郎の個性は索敵中心だけど奇襲性のある攻撃ができる訳だし、それを決め技にするなら相手の意識を耳から外せる部位での体術を会得すべきだ。
「……耳郎は脚だな」
「っ! 何言ってんだよバカっ」
後ろの座席に独り言が聞こえてしまい、上鳴は耳郎の個性であるイヤホンジャックを背中に刺された。
「別に変な意味じゃない」
「……次言ったら承知しないから」
痛がらない上鳴を不審に思いながらも、耳郎は頬を赤らめながら引き下がった。
「へいへいへーい! そこの黒メッシュがイカしてる金髪のリスナー! 随分いい感じに青春してるねー! この問題の答えは?」
「④っす」
「何でか説明できるか?」
「関係詞の場所が違う」
「正解だァ! ちくしょう!」
「何で悔しがられてんの俺……」
「その分厚い胸板に手を当てて考えろよ上鳴ィ……!」
「峰田ちゃん、両目から血が流れてるわよ」
無視してんじゃねぇと血の涙を流す峰田のことなど気にも留めず、上鳴は黒板から視線をノートへと落とした。
葉隠、峰田、耳郎は有酸素運動を重視。基礎トレーニングも増やせると判断し、相澤のメニューを調整する。
───これ、もしかして意図的に穴があるように組んでるのか? だとしたら流石に駄目だろ。俺の受難に4人の人生を巻き込むんじゃないよ。
相澤のメニューが4人の体力を省みて翌日に響かないであろうラインの三歩手前くらいで意図的に調整されていることに、上鳴は気づいていなかった。
高校生活に慣れていない学生で、日々の授業もこれまでの比にならない忙しい物になっている。幾つかの些細な要因が重なるだけで人は疲弊し、体力を奪われる。
メニューは様子を見て増やせばいいと考えていた相澤に対し、上鳴は。
───緑谷以外は相澤先生の指示の1.5倍くらいになってるけど大丈夫だろ。
翌日に響きはしないが下手すると暫くその場から一歩も動けなくなるレベルの運動量へとメニューを昇華させていた。
───で、緑谷は相澤先生案の4倍。
そして緑谷の場合、今の体力だとトレーニング中に2回ほど気絶する可能性があった。それというのも、緑谷の身体と個性が噛み合っていないことに原因がある。
───何でコイツの個性はこんな不細工なんだ……同時並行で個性の調整だな。早い段階で個性の調整を覚えさせて、個性を使いながら筋トレさせないと伸びないだろ。
尚、本人はこの4人の隣で緑谷の2倍のトレーニングをこなすつもりでいるのだが、これは完全なる余談である。
昼休み、食堂で補習組に飯田と麗日を加えたメンバーで食事を取っている最中。
「上鳴くん、ニコニコだね」と緑谷。
「ああ、緑谷良い食いっぷりだしな。お前らも見習っていっぱい食べろよ。食べたエネルギーが血肉に変わるんだから」
「えー! 食べ過ぎたら太っちゃうよ! それにこれから実技の授業でしょ? お腹痛くなっちゃう……」
お腹を摩る葉隠と、同じく少し気にした様子の耳郎が頷く。
「そんなもん気合いで捩じ伏せろ……それに心配なんていらねーよ! 放課後にキッチリ、今日食った分のエネルギーを血肉に変えてやるぜ!」
尚、上鳴は4人に吐くほどしんどいトレーニングを強いるつもりである。
「ほんとかなー? デザート食べても大丈夫?」
「ああ、沢山食べていいぞ」*1
「うぉー! チートデーだ!」
そんな昼休み後、ヒーロー科生徒が待ち望んだヒーロー基礎学が始まった。
「わーたーしーがー!!」
「普通にドアから来た!!」
ドアを開けて入ってきたのは身長が2mを優に越す巨漢。鍛え抜かれた身体は鋼が如き威容を誇っている。
マントを靡かせるその男こそが最強無敵のNo.1ヒーロー。
「オールマイト」
間違いなく本物だ。
他の生徒もオールマイトのオーラを”画風が違う”と表現したり、身に纏うコスチュームについて話をしていた。
だが───上鳴は違和感が拭えなかった。
「……小さくなったか?」
上鳴が昔映像で見たオールマイトとの差異。
そして先生から聞いて作り上げたイメージとのズレ。現物と記憶の僅かな違いが上鳴の中で不協和音を起こした。
その瞬間───上鳴の脳内に再び溢れ出した、存在しない記憶。
どこかのビルの屋上で骸骨のような男と話をする緑谷の姿。
場面が変わる。
巨大な怪物の影。白いマントを翻し、傷付いた女ヒーローが「あとは頼んだ」と若かりし頃のオールマイトを指差す姿。
そして───
「どしたん上鳴。いきなり立ち上がって」
「HAHAHA! 上鳴少年、一旦座りなさい! サインなら後で書いてあげよう」
「は………いや」
「オールマイト先生! 私も!」
「俺も欲しいっス!」
「いいとも! だが先ずは授業の説明だ───」
我に返った上鳴は席に着き、眉間を揉んだ。
そして耳郎がイヤホンジャックで肩を突きながら言った。
「もしかして調子悪い? 保健室行っとく?」
「大丈夫、心配かけて悪いな」
「ウチは別に……って言うのも変か。気を付けてね」
「ああ」
会話を切り上げた上鳴は直ぐに思考の渦へ囚われた。
個性が発現してすぐの頃に見た”存在しない記憶”。上鳴はこれを今までの人生の中で何度も見てきた訳ではない。
人は一度覚えたことを忘れない。ただ思い出せなくなるだけだ。情報を引き出せないだけで脳に情報は残り続けている。
染みついた癖や言動が出てくる事はたまにある。無意識のうちに経験をもとに考える事もある。だが、青年の記憶は些細なことがふと思い浮かぶことはあれど、意識的に引き出せたことは無かった。自我が芽生えてから混ざったからだ。青年が心から愛した格闘技でさえ、上鳴が先生と行っていた訓練で自分を追い込むうちに思い出した部分の方が多い。
───あの時はたまたま
壇上で
どちらもありうる。そんだけだ。
この世界が夢か現かなど今の上鳴からすれば最早どうでもいい。その悩みは10年前に捨てた。
自分がやりたいことを、成すべきことをするだけ。
それは即ち”最強を超えること”であり、1番最初に見た無秩序な世界に蔓延る悪党を倒すことだ。
上鳴は思考を整理して意識を切り替えた。
「上鳴ー! 着替えにいくぞー」
「おう!」
それから赤い髪の少年、切島鋭次郎に呼ばれて上鳴は席を立った。
そして場所は変わり戦闘訓練を行うために1-Aの面々は入試にも使われた演習場へと集まっていた。
「良いじゃないか皆、カッコいいぜ!」
それぞれの個性に合わせて誂えたコスチュームを纏う面々を見て、オールマイトは白い歯を輝かせた。
「先生! 今日は市街地演習を行うのでしょうか!」
そうフルアーマー飯田が尋ねると、オールマイトは首を横に振った。
「いいや、その先へ一歩踏み込む! 今からするのは屋内での対人訓練さ!」
それからオールマイトは懐から取り出したカンペを元に、演習のルールと設定について話していく。
「核兵器の奪取、もしくは防衛か」
「スケールがハリウッド映画だな」
「制限時間は10分。短い……と捉えるべきか」
と上から黒い鳥のような顔をしている少年常闇、瀬呂、障子が言った。
「コンビ及び対戦相手はくじで決める!」
オールマイトが次々に箱に入った玉を引いていき、コンビが出来上がっていく。
「頼りにしてるよ」
「程々にな。どうせハンデ付くし」
上鳴は耳郎とペアになった。
互いの個性については先日簡単に話している。後はコスチュームの機能などについて聞いておこうと上鳴が口を開きかけたタイミングで、オールマイトが言った。
「それじゃあ早速、戦闘訓練を───と! 言いたいがその前に! 今からヒーローとヴィランのお手本を君たちに見せたいと思う!」
それはある意味、当然の話だった。
ヒーロー科に入ってまだ2日目。基礎のきの字も知らない
「ただ、時間掛けちゃうと皆んなの演習時間が減ってしまうので、制限時間は5分! 序盤は特に動きや基礎的な話について解説を入れながら実演するから、瞬き厳禁だ!」
故に、流れを見せる。
そしてその中で幾つかの知識を与えることで、イメージを作らせようという目論見である。でなければ前半に対戦するペアと後半に対戦するペアとで経験値の差が大きくなってしまう可能性が高いためだ。
「ヒーロー役は解説が多いから私が! そしてヴィラン役は………君にお願いするよ、上鳴少年」
そうなれば───選ばれる人間は必然的に決まってくる。
「ヴィラン側押し付けちゃってごめんね。でも、今は敢えてヒーローネームの方で呼ぼうか! ”ミカヅチ”! 君の力を見せてくれ!」
───幼い頃の記憶、無邪気に先生に尋ねた問いを思い出す。
「最強のヒーロー? そんなもん決まっとるやろ。オールマイト一択や」
先生は苦虫を噛み潰したような面でその名を口にした。
何度戦っても勝てなかった猛者の心を折った傑物。
上鳴はその降って湧いた史上最強への挑戦権に───
「そいつは上がるなァ……!」
さっき見た物など綺麗さっぱり忘れて、飢えた獣が如き形相を見せた。
上鳴の昼飯
・インスタントのソース焼きそば(マヨネーズ七味マシマシ)
・両手で収まりきらないサプリメント
・薬
次回───『無敵のお前を倒して見せる』