雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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全然投稿出来なくてすみませんでした!!!
もっと時間あると思ってたんですけどありませんでした!!!



ep.70 実るほど

 

仮免試験当日──試験会場の多古場国立競技場に上鳴の姿はなく、A組は普段の喧騒が嘘の様に静まり返っていた。

緊張はある。だがそれは身体を強張らせる物ではなく、適度に集中力を上げるスパイスに過ぎない。約半年間A組の成長を見てきた相澤はその完成度に舌を巻く思いだった。

 

 

「俺はここまでだ」

 

 

競技場の中と観客席とを別つ廊下で相澤は笑った。普段はあまり見せない柔らかい表情に、A組一同鳩が豆鉄砲を食ったような様子を見せる。

更に続けて言う。

 

 

「上鳴からの伝言だ──“上で待ってる。とっとと此処まで来い”……以上。気張っていこう」

 

 

廊下が揺れるほど威勢よく返事をした生徒たちがその奥へと進んでいく。

そして不意に、生徒たちの背中を見る相澤の肩が叩かれた。

振り返った相澤の頬に嫋やかな指が突き刺さる。

 

 

「……おい」

 

 

「たはーっ! 何浸ってんだよイレイザー! カッコいいな、結婚しようぜ!」

 

 

「しない──相変わらずだな。何の用だジョーク」

 

 

「用が無かったら話しかけちゃ駄目なのか? ケチ臭いこと言うなよ。私とお前の仲だろう?」

 

 

「ただの同業だろ」

 

 

にべもない相澤の態度に女ヒーロー、Ms.ジョークは腹を抱えて笑った。

相澤の態度はお世辞にも良いとは言えないが、その人柄を知る者から見れば夫婦漫才に近い。ここまで相澤がツンケンするのは旧友の山田か、仕事をミスったオールマイトくらいである。

 

 

「実はさ──」

 

 

Ms.ジョークが笑い過ぎて出てきた涙を拭いながら言う。

 

 

「さっきうちの子たちが雄英の子に話しかけようと思って出来なかったって言っててさ、どんなもんかと試験前にイレイザーに挨拶するついでに見にきたんだけど……ヤバいね。どうやったら半年でああなるの?」

 

 

体育祭から見違えた生徒らの様子にMs.ジョークは驚嘆を隠せない。

 

 

「……さあな」

 

 

「勿体ぶらずに教えろよ〜普通に気になるんだよ。教育のノウハウってやつがさ」

 

 

「ノウハウね……じゃあ一つだけ。スカウトでも何でも良いから、ランキングトップ10に入る実力を持った学生を連れてきて切磋琢磨させてみろ。ああなるぞ」

 

 

「おいおい何の冗談──って訳でもないか」

 

 

魔王と戦う一人の少年の姿がMs.ジョークの脳裏を過る。

確かにアレへ追いつこうというなら尋常ではない修練を求められる。妙な説得力だった。

 

 

「悪いな。俺が……俺たちがアイツらにしてやれた事なんて数えられるくらいしかない」

 

 

それは明確な自虐ではあったが、悲壮感はない。

相澤は教え子の成長を誇るように笑っていた。

 

 

「アイツらは最高のヒーローになる──オールマイトが居なくても、世界は何とか回っていくよ」

 

 

「キッショ……ベタ惚れじゃん」

 

 

 

 

 

相澤の期待を背負いA組が試験に臨む。

 

 

仮免試験は一次と二次で試験が分かれているが、一次試験に落ちた時点で不合格となる。

 

 

一次試験の内容は至って単純な勝ち抜き戦。

 

 

受験生は3つのターゲットと6個のボールを支給される。ターゲットにはセンサーが仕込まれており、体の好きな場所にそれを付ける。

ターゲットはボールを当てられると発光し、それぞれ一回、合計で三回当てられた者は失格となる。

逆に合格するにはターゲットに当てる必要がある訳だが、これが少し複雑だ。3つ目のターゲットにボールを当てた者が倒した事になり、二人倒した者から合格となる。

 

 

肝になるのは──条件達成者先着100名のみが通過できるということ。

 

 

分かりやすい点取合戦の様式で、一見すると何の変哲もないバトルロワイヤルめいた個人戦にも見える。

しかし、その実態はまるで異なる。誰がどんな個性を持っているか分からない以上、互いの個性を把握している同校の面子と協力して事にあたる方が効率が良い為だ。

 

 

そして、試験に臨む者達のほとんどが一次試験をチーム戦であると認識していた。

 

 

「……あいつらの動き、よく見ておけよ」

 

 

「分かってる。狙い目だからな」

 

 

待合室では既に獲物を定めて虎視眈々と用意を進める者達もいた。

その獲物はこの試験において唯一、個性が割れている受験生──雄英高校1年A組である。

 

 

「ラッキーだな、俺たち」

 

 

「ああ。タメならともかく後輩がいるなんてよ」

 

 

受験生の多くが二年生以上。

高校生にとっての一年は字面以上に大きい差だ。

 

 

──雄英生に勝てるかもしれない。

 

 

功名心が狩人気取りの受験生達の脳裏を過ぎる。

ヒーローとしての在り方が揺らいだ現代、その手の輩は掃いて捨てるほど存在する。

例えそれが年下の経験不足が相手だったとしても、雄英生に勝ったというのは喧伝に値する価値があるのだ。

 

 

「でも、雄英生だってそれは分かってんだろ」

 

 

「そうだな。けどよ……アイツらを狙う受験生が何人居ると思ってんだ?」

 

 

雄英潰し──今年度に限らず毎年の恒例であった。

 

 

A組は全て理解している。

そしてその上で単独行動を選択した。

 

 

待合室の壁が開き、試験会場となる地形が露わになった。

 

 

中央正面に岩場。

西側にビル群。

東側に工業地帯。

南に滝。

 

 

無駄に大掛かりで凝っている。

 

 

A組は誰も位置が被らないようにそれぞれ分散。

試験開始まで呼吸を整え──開始の合図を待つ。

 

 

その行動を“強者の傲慢”と捉えた者達の末路は悲惨の一言に尽きた。

 

 

 

 

 

試験会場中央──“岩場エリア”

 

 

最も受験生が多いそのエリアには、緑色のフードを被り歯を見せる様な笑顔を思わせるフェイスガードを装着した少年、緑谷出久が立っていた。

 

 

「悪いな一年坊!」

「一人は流石に舐めすぎでしょ!」

「来年また頑張ってよね!」

 

 

無数のボールが篠突く雨の様に緑谷へと降り注ぐ。

しかし、それを前にしても焦りや緊張は一切ない。自然体のままゆっくりと腰を落として拳を作った。

 

 

「因子解放──5th」

 

 

緑谷が誰にも聞こえないように小さな声でそう呟くと、全身から黒いエネルギーが放出される。

 

 

5代目継承者の個性である“黒鞭”だ。

この個性の習熟度が発現した五つの個性の中で最も高い。黒鞭は歴代個性の中で最も汎用性に長け、かつ解釈の余地が大きい物だったが故に緑谷はこの個性の習熟を最優先とした。

 

 

そして、黒鞭を極めんとする為に行われた上鳴との鍛錬(しとう)を、緑谷はこう懐古する。

 

 

──地獄を見た。

 

 

夜闇の様な不可解な壁に仕切られた空間で、幻獣琥珀を使った上鳴が容赦なく攻め立ててくる。

 

 

鳴り止まない危機感知(4th)を制御しながら黒鞭の精度を高める日々を過ごし、たまに上鳴の「やべっ」という声と共に意識が途絶え、オールマイトの幻影に決死の形相で肩を揺られて目を覚ました。

 

 

正直言って恐ろしかった──もう少し加減して欲しいと口から出そうになった。

 

 

しかし、上鳴は起き上がった緑谷を見ていつも小さく呟くのだ。

 

 

──オールマイトならなぁ。

 

 

それを聞いたら緑谷は引き下がれなかった。

 

 

自分が目指しているのは最高のヒーロー。

その到達点はオールマイトの背中ではなく、その向こう側にある。

 

 

そうして歯を食いしばりながら上鳴との鍛錬を続けた緑谷は今際の際に立たされ続け、一つ目の個性の核心を掴んだ。

 

 

「黒鞭、オーバーレイ!」

 

 

黒鞭は純粋なエネルギーの塊である。

それを体内に血管の如く張り巡らせれば、筋繊維や骨の補強を行うことができた。それは丁度、常闇がダークシャドウをエネルギー体として解釈を深め、身体の内側から膂力を増強させる為に使っていたのに近い。

 

 

「3rd──発勁!」

 

 

そしてここに三代目の個性、“発勁”を組み合わせる。

 

 

発勁は身体を動かし力を溜めて一気に解き放つ個性。通常ならば屈伸やシャドーボクシング、戦闘中に個性を使って力を溜める所を、体内に張り巡らせた黒鞭を伸縮させることで瞬時に最大値まで溜める。

 

 

「なんかヤバくね?」

「は? 何が!」

「ボサッとするな、雄英生は取り合いなんだから!」

 

 

そして、この溜め込まれた力を放つその一瞬だけ──緑谷の力は全盛期のオールマイトに並ぶ。

 

 

「テキサススマッシュ!」

 

 

振り抜かれた拳が受験生達の視界を割った。

 

 

尋常ならざる拳圧に身体を打たれ、受験生らが白目を剥いて気絶する。

 

 

遅れて──大気が獣の様に吠え立て、嵐となって岩場エリアを抉り飛ばした。

 

 

この場に他の雄英生徒が居ないのは緑谷が生み出す破壊旋風に巻き込まれないため。

 

 

何も知らずにやってきた哀れな受験生が人の形をした台風に飲み込まれ、氾濫した川に弄ばれる塵芥の如く宙を舞う。

 

 

同時に緑谷は宙空で踊る受験生へ向かって、無数に枝分かれした黒鞭を伸ばした。回収と試験の条件を達成する為だ。

 

 

そして適当な二人にボールを三回ずつ当てて、一次試験を速やかに終わらせた。

 

 

「早くも脱落者二名……いや、二百余名!? 合格者は二人です! これは早くも終わりそうな予感!」

 

 

そして──緑谷と同じく開始早々に合格した雄英生がもう一人。

 

 

 

 

 

試験会場──西側。

 

 

爆豪勝己が選んだのはビルと高架道路が入り組んだ高低差のあるフィールドだった。

空中での機動力がずば抜けて高い爆豪にとって絶好の狩場となる。

しかし、そこには先客が居た。

軍服調の黒いコスチュームを纏い、足元に転がる奇怪な肉塊を見下ろす不遜な男だ。

 

 

「我々は活動時、制帽の着用を義務付けられている」

 

 

男の名前は肉倉精児。

 

 

「これは示威である。就学時より責務と矜持を涵養する我々と、粗野で徒者のままヒーローを志す諸君らとの水準差だ」

 

 

士傑高校二年。

個性も対人能力が高く、自信に見合うだけの力があると言っていい受験生だった。

 

 

口振は爆豪が嫌いなタイプではあったが、開始早々戦闘不能になっている受験生の数からして、油断ならない相手である事は分かっていた。

 

 

「雄英は我が校と並び、ヒーロー社会の根幹にも強く結び付いている伝統ある学校だが──貴君にその自覚はあるか?」

 

 

肉倉の問いに爆豪は「あン?」と鋭い眼光を返した。そんな問答をする気はない。身体は既に十分温まっている。早く始めようと言わんばかりに掌から溢れた汗を誘爆させた。

 

 

しかし、肉倉は口を閉じなかった。

 

「体育祭は見させてもらった。全くもって嘆かわしい。同じヒーロー志望とは思えない戦いっぷりだった。しかし、それでも御校と伍する事に誇りすら感じていたのだ。それを諸君らは品位を貶めてばかり……特にあの上鳴電気という男は」

 

 

「ペラペラペラペラとよく喋るな。遺言かよ、それは」

 

 

「……貴様もだよ、爆豪!」

 

 

肉倉の身体から肉が分離して空を飛ぶ。

 

 

個性“精肉”。

揉んだ肉体を変化させられるその個性は触れた相手を丸め、物言わぬ肉塊にまで貶められる。

触れられたら負けという意味では、爆豪が見てきた個性の中でも上位に入る。

 

 

──遅ぇ。

 

 

しかし、それは爆豪にとって止まって見える程度の速度でしかなかった。

 

 

彼が仮想敵として選んだのは“ミカヅチ”上鳴電気。パワーもスピードも学生レベルから大きく乖離したトップオブトップ(あっち側)

 

 

そんな上鳴に対抗するべく磨き上げた今の爆豪の戦闘速度は、ワンフォーオールの出力30%に匹敵する。

 

 

それは正史における約半年後の爆豪勝己と同等の物であり──

 

 

「は?」

 

今の肉倉では対応できない。

 

 

「オラオラオラオラオラオラァッ!」

 

 

APショットの絨毯爆撃が肉倉を蹂躙する。

それは丸められた他の受験生達にも及び、僅か数秒の間に地形ごと壊滅した。

 

 

「ケッ──出直してきやがれ」

 

 

 

 

 

一方その頃、上鳴はというと。

 

 

A組が299秒で一次試験を突破し、続く二次試験で派手に転け掛けている*1なんて微塵も考えてはいなかった。

 

 

ただ──上鳴は激怒していた。

 

 

必ずやあの邪智暴虐のNo.3(前回チャート)の羽を毟り取って、ヤンニョムチキンにしてやると決意した。

 

 

上鳴に政治は分からぬ。

 

 

日本の情勢とかにはぶっちゃけ興味がない。ヴィランが増えて困ってはいるが、戦う回数が増えるのは悪くないと思っている。

 

 

しかし、友の成長を目にする機会が減る事に関しては敏感であった──

 

 

「ったくよぉ〜! 俺はさぁ! 皆が頑張ってる所を間近で見たかったのにさぁ!」

 

 

上鳴が文句を垂れながしながらコンクリートの床をこれでもかと踏みつける。絵に描いたような地団駄だった。

 

 

場所は愛知県名古屋市のとある湾港。

 

 

上鳴はそこで海外マフィアゴリーニファミリーと国内指定ヴィラン団体死穢八斎會の取引があるという情報を元に、現場へと急行した。

 

 

「悪さしてんじゃねぇっての!」

 

 

そして現在、そこに集結していた戦闘員約千人に襲われていた。

 

 

「馬鹿も揃えば壮観だなぁ!」

 

 

だが、オールマイトが千人やそこらのヴィランに怯むだろうか。

 

 

否、断じて否である。

 

 

全力を尽くすまでもない。

放電しながら駆け回るだけでヴィラン達は黒焦げになり、意識を奪われる。

電撃耐性がある者には鉄拳制裁を下すまで。

問題など起きる筈もない。

 

 

しかし、それを分かっていないヴィラン達ではない。

 

 

当然ながら秘策が用意されていた。

 

 

「久しぶりだなァ! 上鳴ィ! 会いたかったぜッ!」

「どっちから遊ぶ? 俺か、それとも俺か!?」

「いいや俺だァ!」

 

 

血狂いマスキュラー×2

濃ゆい絵面に上鳴はうんざりした顔で言った。

 

 

「一目で分かる偽物やめてね」

 

 

偽物である。どちらかが本物、とかでもない。二体とも偽物だった。

 

 

ヴィラン達の秘策、分倍河原の個性によって生み出された個体が二体。1000人のヴィランに先んじて上鳴へと襲い掛かっていく。

 

 

筋肉増強+ストレス+筋骨発条化。

 

 

三つの個性を解放した黒い巨人が音を置き去りにして上鳴へと肉薄する。

 

『身体許容上限100%──閃電疾駆(ドライブIII)

 

 

コガネの合成音声が響く。

上鳴は生体電流の増幅による身体強化に呪力強化を上乗せし──二人のマスキュラーを迎え撃った。

 

 

「そぉ──れ!」

 

 

自身を挟み込む様に放たれた二人の拳打をしっかり両腕で防ぎ、そのまま独楽の様に回転して衝撃を受け流す。

 

 

「マジか!?」

「ハハッ、楽しくなってきたなァ!」

 

 

──ちょっと強くなってるな。

 

 

まだ全因解放の領域には達していない。

これはただ、力を闇雲に発散しているだけ。

全因解放は膨れ上がる力を抑し、より先鋭化させる事によって生み出される進化の力。こんな物ではない。

だが、微かに感じたその片鱗に。

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

上鳴は笑った。

 

 

二撃目として放たれたマスキュラーの打突を掴み、地面へ逸らす。

同時にコガネを遠隔操作して小型ドローンをその背後へと誘導。そこへ予めチャージしておいた電気エネルギーを自身に向かって放電し、帰還雷撃を二倍マスキュラーに命中させて破壊する。

 

 

「ガアッ!?」

「ちくしょぉ!」

 

 

泥になって消えるマスキュラーを上鳴が見届けると、間髪入れずに他のヴィラン達が雄叫びを上げて突撃してきた。

 

 

「連合も噛んでる割に学習しねぇなぁ! 俺の多対一戦闘力はこの国の五指に入るんだけど!?」

 

 

瞬迅雷火(フラッシュオーバー)

 

 

上鳴の全身から放たれた青い電光がヴィラン達の意識を奪う。

しかし、同時に上鳴は違和感を覚えた。

 

 

──何でマスキュラーに時間稼ぎさせて逃げなかった?

 

 

敵の考えが分からない。

ここに上鳴を呼び込み袋叩きにしようという魂胆にしては戦力が少ない。

 

 

上鳴が眉を顰めていたその時だ。

 

「パウロ殿」

 

 

「ああ。そちらも頼むぞ」

 

 

突如として上鳴の“個性”が消えた。

 

 

瞠目する上鳴の目に、ペストマスクを被った着流し姿の男と、黒いハット帽を被った鳥の嘴にも似た異形の顔を持つ異形の男が映る。

 

 

──相澤先生と同じ、他人の個性に干渉して阻害するヤツか。どっちが使ったかは知らんけど。

 

 

「悪くない」

 

 

「その余裕がどこまで持つか見物だな! 撃て!」

 

 

パウロの命令を受けて生き残っていたヴィラン達が一斉に銃を構え、その引き金を引く。

 

 

個性が使えないという事は当然、“呪力”も使えない。異形型ではない上鳴は超人社会における無個性へと変わってしまった。

常人は銃弾など受ければひとたまりも無い。

 

 

だが──

 

 

「……は?」

 

 

硝煙弾雨の中で獣は笑っていた。

 

 

戦杖を振り回して銃弾を弾き、人間とは思えない速度で疾走。手近な敵へと肉薄した。

 

 

「驚いたぜ──」

 

 

「パウロさん! こいつヤバいって!」

「こんなんできるなんて聞いてなっ!?」

「バケモノがッ」

 

 

「この程度で俺に勝てると思ってる脳みそによォ!」

 

 

鎧袖一触。

撃退速度は多少遅くなったものの、依然その快進撃は止まらない。

素の身体能力でワンフォーオール換算8%前後の膂力を有する上鳴は、そこらの異形型よりもずっと力が強い。

 

「ボサッとするな!」

 

 

パウロが側近の男に檄を飛ばす。

男の身体に生えたミサイルポッドから小型の誘導弾が雨霰と放たれる。

宙空に白い尾を引きながら自身へと向かってくるそれを、上鳴は鷲掴みにして──

 

 

「遅いッ!」

 

 

敵陣に向かって投げ捨てた。

豪速球が着弾した場所は炎に包まれ黒服達が宙を舞った。

 

 

──辛気臭いな。

 

 

倒す事は難しくないが些か面倒くさいというのが上鳴の本音。縛りプレイを強要されている様な不快感に舌打ちをする。

 

 

──抹消系の個性が使われ始めてから、ミサイルマン以外誰も個性を使わない……相澤先生みたいな視界に起因する発動型じゃないのか? しかし、こんなに強い個性なら何で最初から使わなかった?

 

 

マスキュラーがただのマッチョに成り下がるから?

少なからずそれもある。

しかし、マスキュラーが消えてから直ぐに個性を使用していれば、より多くの人間で上鳴を襲えたということだ。

 

 

──使えなかった。あるいは……使ってしまうと不都合があったということ。

 

 

そうしなかったと考えるより出来なかったと考えるのが自然。

そこから導き出される答えは……

 

 

「陽動か」

 

 

パウロと着流しの男が息を呑む。

上鳴は瞬時にコガネを通してホークスへと連絡を入れた。

 

 

「ホークスさん。こっちは陽動で本命が別にあるっぽい」

 

 

「そっちは俺の方で対応中。だから適当にやっちゃって」

 

 

通信は直ぐに切れた。

 

 

「……こんなに腹が立ったのは、芦戸からドラマのネタバレを食らった時以来だよ!」

 

 

──ストレス耐久チェックでもされてんのかな!

 

 

額に青筋を浮かべた上鳴は近くにあったコンテナを掴み上げ、顔を真っ赤にしながら持ち上げた。

 

 

「何で個性なしでっ……そんな物を持ち上げられるんだよ!?」

 

 

「プルスウルトラだクソッタレッ!」

 

 

上鳴がパウロ達にコンテナを投げつける。

着流しの男が半球状の障壁を展開し、それを防いだ。

轟音と共に地面へ落ちたコンテナを見て上鳴が言う。

 

「一定範囲内の個性無効。その代わり、自身の半径数メートルにはその効果が及ばないって所か」

 

 

個性を無効化している人間はパウロだと当たりをつけ、上鳴が一気に距離を詰める。

 

 

「天蓋殿!」

 

 

「分かっている!」

 

 

着流しの男、天蓋が再び半球状の障壁を展開する。上鳴は力一杯障壁に拳を叩き付けたが、多少揺れはしたもののその役割を果たしていた。

 

 

「素手で鋼鉄は砕けまい!」

 

 

天蓋の言葉を上鳴は無視する。

殴った感触の他に──個性の脈動を感じていたからだ。

再び拳を障壁へと叩きつけて感触を確かめる。

 

 

「何をしても無駄だ!」

 

 

今度は感じない。

上鳴は障壁の周りを走りながら、今度は戦杖で打突を放った。

 

 

──読めてきたな。

 

 

個性無効化エリアと個性使用可能エリアの狭間に障壁は展開されている。

 

 

しかし、パウロや天蓋の立ち位置によってその範囲は絶妙に重ならず、拳一個分ほどの個性使用可能エリアが生まれていた。

 

 

それが分かれば十分だった。

 

 

「ここだッ」

 

 

寸頸──ワンインチパンチ等と呼ばれる技で、瞬時に最高速度に達した拳へ呪力強化を乗せる。

 

 

「あら?」

 

 

しかし、上手くいかなった。

拳速に呪力強化が間に合わなかったのだ。

 

 

だが、たまたま打撃の後に障壁へと衝突した呪力が壁を叩き割り、ヴィランに続く道を作り出した。

 

 

──今の、確か宿儺の器が修行中に使ってたな……おもろ。こんな感じで打つのか。やろうと思っても中々できそうにないけど*2

 

 

上鳴は鹿紫雲の記憶から引き出した情報を噛み締めながら一直線にヴィランまで駆け抜け、放電。瞬く間にパウロ達の意識を刈り取った。

 

 

「よし! 仕事おーわり! コガネ、警察の方々は?」

 

 

『もう到着済みです。周りで伸びてる構成員を回収中とのこと』

 

 

「おっけ。なら──ヴィランにぶっ壊されたあのコンテナを再利用するか」

 

 

『訂正。アレを壊したのはマスターです』

 

 

「コガネ、良い感じにコイツらのせいにしといて。俺は今からこれでコイツらを簀巻きにして……多古場国立競技場まで飛ぶ」

 

 

上鳴はコンテナを素手で引っぺがし、紙でも千切るように細く形を整えながら、いけしゃあしゃあとそんな世迷言を宣った。

 

 

「聞こえてるぞミカヅチ」

 

 

しかし、防刃チョッキを着た警察官がじとっとした眼差しを上鳴へと向けながらやってきた事で、計画は御破算となった。

 

 

「ジョークっすわ。ミカヅチジョーク。はっはっはっ」

 

 

上鳴は涙を堪えて後処理に奔走した。

 

 

 

 

その後、上鳴は途中で警察から「もう帰っても大丈夫だよ」と言われたものの試験には間に合わなかった。

既に日も暮れていて、スマホにはクラスメイトから「全員合格」と報告メッセージが入っており、道すがら上鳴は「おめでとう」と返事を送信。

そうしてクラスメイトが寝静まった頃に雄英へと帰ってきたのだが──

 

 

「緑谷と爆豪? 何してんだ?」

 

 

グラウンド・βへと向かう二人の姿を目撃してしまう。

 

 

その時、上鳴に電流が走る。

 

──これはつまり、そういうことだな!?

 

 

そういうこととはどういうことか。

要するに、青春である。

上鳴のバトルIQ53万、日常IQ53のヘビーギャップ脳内CPUは煙を上げながら最適解を導き出した。

 

 

「ヘイ、コガネ。電波妨害すっからよろしく」

 

 

『怒られる程度で済めばいいですね』

 

 

「大丈夫だ──俺に良い考えがある」

 

 

上鳴はスマホの画面をスワイプし、連絡先に登録していたある人物に電話を掛けた。

 

 

「あ、もしもしオールマイト?──ちょっと俺の我儘に付き合ってくれよ」

何人たりとも若人の青春を邪魔してはならない。

 

 

もとい。

 

 

「何故って? ──緑谷と爆豪がもっと強くなるには避けて通れないイベントだろうがよ。ほら、あったろ」

 

 

上鳴は「えーっと」と頭を捻り、言った。

 

 

「実るほど、美味しくなるよ、稲穂はな……あぁ、これ絶対違うわ」

 

 

しかし、戦いが気になり過ぎて頭が回らなくなってきた上鳴はそれだけ言って電話を切った。

 

 

そして近場のビルに降り立って、耳をそば立てたのだった。

 

*1
戦闘訓練を頑張りすぎて救助のレベルが若干低い

*2
独自設定





・独自設定:鹿紫雲が修行に混じってたら良いなぁ(妄想)
・緑谷:経験値の差で黒デクに負ける程度。カタログスペックは同等以上
・爆豪:全面戦争(第一次)と同等以上。キッカケさえあれば……
・仮免合格:爆豪、真面目にやる 轟、夜嵐の相手をしない
・ヤンニョムチキン:食べた事はない

本当は耳郎ちゃんや尾白くん、葉隠ちゃん辺りも書きたかったのですが時間と尺の都合上全カット。B組との対決に持ち越しですわね……
敵連合の動向やヤクザ連合が港で何してたのかはまた次回以降となります。
年内は多分恐らく更新できません……かなり早いですが、皆様よいお年をお迎えください!
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