雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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 お久しぶりです。大変お待たせ致しました……! 今日からまたボチボチ更新していきます!



ep.72 雄英BIG3

 

 爆豪と緑谷の激闘から一夜明けた日の朝、グラウンドに雄英の全校生徒が集められていた。

 根津校長のありがたい話(子守唄)でサポート科の発目明が立ったまま気絶するように居眠りをする一方、ヒーロー科の生徒たちは興味深い話を耳にした。

 

 

 それが“ヒーローインターン”である。

 

 

 ヒーローインターンとは、仮免を持ったヒーロー科の生徒がプロヒーローの下で公的な記録にも残る活動を行う事を言う。

 名のあるヒーローは学生時代から逸話を残しているというジンクスは、大抵がこのヒーローインターンでの活躍を指す。

 

 

 雄英をはじめ多くのヒーロー科で行われる職場体験とは異なり、仮でも資格を求められるだけあって、仕事には常に責任がついて回る。その分報酬もある訳だが──それを目当てにインターン活動をする者は少ない。

 

 

 例えば上鳴は、中学3年の秋に仮免許を取得してから、善院尚哉の下で実戦経験を積んできた。

 そこで得た物が上鳴のヒーローとしての下地になっている事は言うまでもない。

 

 

 つまり、これもより高みへと至る為の下積みであるということだ。

 単なる演習気分で赴いていい現場はないが、かと言って仕事と割り切って働くのも趣旨に反する。

 

 

 そして上鳴は──プロヒーローと同等の資格、権限を有する稀有な学生。

 上鳴がインターン生を迎え入れる事を阻止する法律は、現状存在しない。

 

 

 それに思い至り、真っ先に上鳴へ自分を売り込んだのが、耳郎と葉隠だった。

 

 

 ──上鳴電気に近付くなら、そこに1番近い場所に居るのが最も効率がいい。

 

 

 そして、時系列は前話のラストへと戻る。

 

 

「抜け駆けなしだからね、響香ちゃん!」

 

 

「何の話かな……!」

 

 

 やや含みのある会話をする葉隠と耳郎の2人を見て、峰田が血涙を流しながら上鳴の頭にへばりつく。

 

 

「上鳴お前明日の朝刊載ったぞテメェ!」

 

 

「昭和のヤンキーかよお前……」

 

 

 ポコポコと擬音が付きそうな峰田の小さな拳を上鳴は受け入れた。

 

 

 ──書類って雄英に言ったら融通してもらえんのかな? 

 

 

 正確には眼中にないとも言う。峰田の強みは拘束力であり白兵戦闘力ではないからだ。

 そんな上鳴達のやり取りを見ていた相澤が、教室から出る前に「あのなあ……」と声を掛けた。

 

 

「駄目に決まってるだろ。上鳴にはインターンの受け入れ実績が無いんだから」

 

 

 昨今のヴィランの動向を顧みて、雄英1年生のインターン活動は学生の受入実績が多いヒーローに限られていた。

 当然、上鳴に実績はない。経験の浅い他のヒーローを弾きつつ、上鳴に集まる生徒も弾く。実に合理的な判断だった。

 

 

 しかし、完璧なルールはこの世に存在しない。

 

 

 上鳴は仲間の成長の為なら多少の無茶は許容する──オールマイトの減俸が許容範囲だったように、*1その無茶の範囲はとても広く、そして他人の迷惑を考慮しない。

 

 

「大丈夫だ。俺に良い考えがある」

 

 

 上鳴の言葉に耳郎と葉隠が揃って首を傾げた。

 

 

 遠い九州の空で赤い翼のヒーローが3回くしゃみをしたのは余談である。

 

 

 

 

 

 更に2日が過ぎた。

 

 

 上鳴の秘策は暫定新No.2と評判の赤い翼のヒーローが胃を痛める形で丸く収まった。もっとも、そこにはヒーロー公安委員会の思惑も絡んではいたが。

 

 

 放課後の訓練も苛烈さを増し、上鳴は緑谷と爆豪のA組最強タッグを相手にしながら新技の練度向上に勤しむ充実した時間を過ごせていた。

 

 

 ──流石に一筋縄にはいかねぇな。じーさんは結界術にも長けてたし、帳がすんなり使えたから直ぐに会得できるかと思ったけど……ままならねぇな。

 

 

 ヒーロー基礎学が始まる前に上鳴がそんな事を考えているとドアが開いた。

 入ってきたのは相澤と3人の生徒だ。抜ける様な青い長髪に整った目鼻立ちが特徴的な女子生徒と、鋭い目つきをしている黒髪の男子生徒。この2人は上鳴にとって初対面だが、3人目の生徒は違った。

 

 

 ──プロヒーローと遜色ない覇気は以前よりずっと濃く、強い物へと変わっているが……間違いない。あのつぶらな瞳の先輩は!

 

 

「久しぶりだね上鳴くん。俺のこと覚えてる?」

 

 

「ウッス! 入学当初はお世話になりました! あの時は名前も聞けず……」

 

 

 話は上鳴がオールマイトと戦った戦闘訓練の翌日、雄英にマスメディアが押し寄せてきた日にまで遡る。

 マスメディアを避けていつもと異なる道を通った上鳴は見事道に迷い、右往左往している所をつぶらな瞳の先輩に助けてもらった事があったのだ。*2

 

 

「いやいや、そう畏まらんで欲しいね。俺もカッコつけちゃって『名乗るほどの者でもない』つってすぐ立ち去ったしね!」

 

 

「……先輩、『名乗るほ』まで言ったタイミングで通路の真下に消えてきましたけどね。俺、ドラクエの新しい魔法かと思っちまった。ラリホー的な」

 

 

 上鳴が入学から間もない頃を思い出していると、黒髪の男子生徒がボソボソと話し出した。

 

 

「ミリオが教室に全裸で降ってきたのはそういう経緯だったのか……」

 

 

「私、知ってるよ! 通形がハウンドドック先生にすっごい怒られてたの!」

 

 

 3年生には周知の事件だった様で、つぶらな瞳の男子生徒は額に手を当てて笑った。

 

 

「そうだっけ! たっはー! 参っちゃうね!」

 

 

「それ多分先輩の台詞じゃねぇっすよ」

 

 

 A組生徒が3年生と仲良さげに話す上鳴を見てポカンと口を開ける中、相澤が咳払いをして話を止める。

 

 

「……さて、今日ここに彼らを呼んだのは他でもない。お前たちも気になっているだろうヒーローインターンについて、より詳しく説明してもらう為だ」

 

 

 相澤はそう言ってから3人を壇上へ上げた。

 

 

「それじゃあ……天喰。頼んだ」

 

 

 相澤に指名されたのは黒髪の男子生徒、天喰環。顔を少し伏せた状態で他の2人よりも一歩前へ足を踏み出し、一呼吸を入れ──目を見開いた。

 その瞬間、眼光と共に大気が震える様な威圧感がA組に浴びせられる。

 

 

「……天喰、波動、通形は3年ではトップの成績を収めている」

 

 

 相澤の言葉を聞いて上鳴は思った。

 

 

 今のはフォローだな、と。

 

 

 そして周囲を見て確信を深めた。

 普段から上鳴にビシバシと扱かれているA組一同にとって、天喰の威圧感は見慣れた物の範疇を出ない。寧ろ天喰の場合は少し意味合いが違う。

 

 

「ダメだ……ジャガイモだと思ってみても、頭部以外が依然として人間のまま……これではどう足掻いても人間にしか見えないッ」

 

 

 上鳴の威圧感が獅子なら、天喰のそれは完全なる草食動物のそれだ。決して馬鹿には出来ないが些か状況が悪い。

 

 

「これがNo.1を追いかける1年生……B組に行った時よりも怖いっ……特に、そこの彼が……」

 

 

「アァ!? ビビってんじゃねーよ先輩がよォ!」

 

 

「帰りたい……」

 

 

 B組1の気が触れた男に次ぐ、A組の歩く火薬庫──爆豪勝己。人知れず「目には目を」していた爆豪に、天喰は狼狽えていた。

 天喰の人間性が小心者である事が分かった以上、上鳴をはじめA組生徒らには同情と猜疑心が芽生えていた。

 

 

「ね、ね、天喰くん。そういうのノミの心臓って言うんだよ。人間なのにね。不思議〜!」

 

 

 青髪の女子が何も知らない子供の様な屈託ない笑顔を見せながら、天喰を煽り出した。悪意がない分だけタチが悪い。

 そして、それがトドメとなって撃沈した天喰に代わって、女子生徒が話し始めた。

 

 

「波動ねじれです。こっちはノミの天喰環」

 

 

 ──紹介それでいいのか?

 

 

 上鳴の疑問を置き去りにして、波動は粛々とインターン活動の概要を解説していく。

 とは言え、その内容は殆どがおさらいだ。実際に活動を通して得た経験が交えられているとかもない。

 

 

 何より、波動節の方が問題だった。

 

 

「ねえ上鳴くん! 放出する電気の強さって電圧? 電流? どっちが強いの?」

 

 

「ねえねえ芦戸さんだよね! その角って感覚あるの?」

 

 

「ねえねえねえ! 轟くんはさ──」

 

 

「ねえねえねえねえ!! 障子くんのマスクの下って」

 

 

 ──幼稚園児かこの人!?

 

 

 興味が移ろい続ける波動。そんな状態で話が進む訳もなく。

 相澤が額に青筋を浮かべて凄んだ。

 

 

「……おい」

 

 

「だ、大丈夫なんだよね! 最後は俺なんだよね!」

 

 

 真打、通形が腕を振ってアピールしながら前へ出ると、A組の生徒はその一挙一動に注目した。何せ通形のオーラは他の2人とは少し違う。上鳴も期待を隠せない。

 全員の注目を集めた通形は、大きく息を吸い込んでから声を張り上げた。

 

 

「前途───!?」

 

 

 静まり返る教室。

 通形はたっぷり沈黙を味わってから切り替えた。

 

 

「多難! つってね! よーし掴みは大失敗だ!」

 

 

 上鳴は失望を隠せなかった。

 後輩からの冷めた目に晒されながらも、通形はこれまでの態度を崩さずにハキハキと告げる。

 

 

「ヒーローインターンに関して言える事は多々あるんだけど──習うより慣れろっていうよね! そういうわけで、君たち全員! 俺と戦ってみないかい!?」

 

 

 立ち上がろうとした爆豪が緑谷に肩を押さえられて座らされているのを尻目に、上鳴は言った。

 

 

「妙案過ぎる。やりましょう」

 

 

「上鳴くんには必要ないんだよね! 強いから!」

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 不貞腐れた上鳴はダークシャドウに引き摺られながら移動。せめてもの抵抗で体操服には着替え、体育館へと向かった。

 体育館では、先に着替え終わっていた通形がおり、他の二人と談笑しながら軽い準備運動を行っていた。

 

 

 ──強いな。

 

 

 青白い電光を放つ上鳴の目は、通形の肉体の全てを見抜いている。

 

 

 ──“個性”が何かまでは分からねーけど、基礎力が高いってのはそれだけで脅威。それに、単に筋トレだけして鍛えたっていう筋肉の付き方じゃない……いい経験を積んでるな。

 

 

 完成度はトッププロと比較しても何ら遜色がない。むしろ基礎フィジカルという面では、上鳴が実際に見たプロヒーローの殆どより優れているだろう。

 そしてそれは、雄英教師でさえ例外ではない。

 

 

 弛まぬ基礎トレーニング。

 実戦によって磨かれた戦闘に適した肉体。

 どの様な鍛え方、戦い方をしてきたのかが分かれば実力も透けて見える。

 

 

 ──戦えないなんて酷い仕打ちだ。

 

 

 上鳴は肩を落としながらとぼとぼと相澤の側に向かった。

 

 

「上鳴、合理的に行こう」

 

 

「うぇーい……」

 

 

「返事は“はい”だ」

 

 

 そんなやり取りをしてから、しばらく。

 

 

「よしっ! 早速始めようか!」と通形。

 

 

「……先輩、その前にいっすか」上鳴は準備運動を終えた通形に声をかけた。

 

 

「何だい上鳴くん」

 

 

「緑谷と爆豪は見学で」

 

 

 その言葉に爆豪が「ンデダァ!」と瞬時に奇声を発した。

 

 

「落ち着けよ爆豪」

「切れたナイフかよ」

「ジャックナイフ爆豪」

「ヒーローネームこれにしねぇか?」

「芸名みたいだな」

 

 

「黙って聞いてりゃぁ……!」

 

 

 キャー! と言って爆豪から逃げ始める一部の男子生徒。

 その横をすり抜けるようにして現れた緑谷が上鳴に言う。

 

 

「理由はあるんだよね?」

 

 

「俺がやれないのに狡いから……ってのは半分嘘だ」

 

 

「半分は本当なんだ」

 

 

 戦いが生きる喜びである上鳴にとって、未知の強敵というのはそれだけで唆られる。

 上鳴は溜息を入れてから、話し出した。

 

 

「まぁ、真面目な話をするとだな……爆豪は先輩が伝えたいことを、感覚と反射神経だけでこなせるからダメだ。他の奴の成長の機会を奪う。お前は論外」

 

 

「論外!?」と目を丸くする緑谷に、上鳴は微笑んだ。

 

 

「誇れ──お前は強い」

 

 

 腕組み師匠面の上鳴に対し、緑谷は。

 

 

「答えになってなくないかな……」

 

 

 俯きがちに苦笑いを浮かべていた。

 その自己肯定感の低さに、上鳴の眉間へ皺が寄った。

 

 

「自信は後からついてくるとして──爆豪! いつまでウォーミングアップに付き合う気だァ! まだやるなら俺も混ぜてくれ!」

 

 

 上鳴は背後で「は?」と相澤が目を光らせた事に気が付かなかった。

 捕縛布でミイラになった上鳴を一頻り笑った通形は、緑谷と爆豪を除いた残る生徒たちを集め、こう言い放った。

 

 

「ルールは簡単! 全員で掛かっておいでよ!」

 

 

 舐められている。A組の心が一つになった瞬間だった。

 爆豪さえ閉口していた。仮に自分が通形の立場だった時、同じ台詞が吐けるかどうか自信がなかったからだ。緑谷は言わずもがなだ。

 

 

「俺ら、そんな弱そうに見えますかね」

 

 

 切島が硬化した拳を打ち鳴らしながら口にした。それに、通形は首を横に振って答えた。

 

 

「気に障ったのなら謝る! ごめんね! でも、逆なんだよね! 初見に限っては全員まとめて相手にした方がいいって話なだけ。俺たちが伝えたかった事を、実感として得られない子がいたらいけないからね!」

 

 

 侮っている訳ではない。

 三年の二人も黙って頷いていた。

 

 

「ついでだから先に言っておくと、インターンでは仮免でも一人前のヒーローとして扱われる。研修中のアルバイトでも客側からしたら関係ないのと同じなんだよね」

 

 

 肩を大きく回しながら、通形は話を続ける。

 

 

「だからこそ──君たちは知らなくちゃならない。現場にヒーローとして出た人間と、そうでない自分との差を。今日得た学びをどう生かすかは、これが終わってから考えるといいよ!」

 

 

「そういう事なら……まぁ」

「そもそも胸を借りる側だしな」

「上鳴が何も言わないってことは、先輩クソ強だから大丈夫ってことだよね!?」

「三年最強と差がどんくらいあんのか……それを知るには丁度いいだろ」

 

 

 砂藤、瀬呂、芦戸、轟が口々に言う中、辛抱たまらず爆豪が地団駄を踏んで言った。

 

 

「俺にもやらせろや……!」

 

 

「ダメだ。お前がやるなら、俺がやる」と上鳴。

 

 

 どんだけ戦いたいんだ──という気持ちがその場の全員に湧くが、しかし、それは同時に通形の実力を保証しているも同義。

 

 

 A組生徒が瞬時に意識を切り替える。

 

 

 そして、先頭に出た切島が代表して声を張り上げた。

 

 

「そんじゃ先輩! ご指導のほど、お願いします!」

 

 

「よし! それじゃあ──行くよ!」

 

 

 刹那、通形の服が地面に落ち、一拍遅れて耳郎の悲鳴が体育館に木霊した。

 そして、上鳴は耳郎の悲鳴を聞いた瞬間、反射的に捕縛布を引き千切っていた。

 

 

 そのまま右手を通形に向けて、呪力強化で因子を励起させる。指先から肘のあたりまでが瞬く間に異形の物へと変異。そこから紫電が迸り始め──

 

 

「上鳴くんストップ!!」

 

 

 紫電が放たれるまで間もなくといった所で、緑谷の黒鞭が上鳴の右腕を床へ叩きつけた。

 

 

「……あっぶね。事件性のある悲鳴だったから、つい」

 

 

「通形先輩に敵意はないよ……敵意は……」

 

 

「ごめ───ん! 個性の調整、普通の服だと難しくてね!」

 

 

 いそいそとズボンを履きなおそうとする通形だったが、犯罪的に嫌な物を見せられた耳郎は既に反射的に攻撃を仕掛けていた。

 

 

 通形がズボンを履き終わるのと同時、その足下、グラウンドの床から凄まじい勢いで耳郎のプラグが飛び出していく。

 圧縮訓練により伸ばせるようになったその長さは十メートル。先端から放った音撃で掘削機の如く地中を掘り進み、死角から一突きという技である。

 

 

 プラグは通形を百舌の早贄にするが如く、股下から脳天まで貫通する勢いだった。

 しかし──

 

 

「おっと」

 

 

 通形の肉体をプラグがすり抜けていく。

 

 

「詳細は不明! 物体のすり抜け!」

 

 

 耳郎は既に切り替えを終え、情報を速やかに伝達。それを聞いた轟が炎熱による範囲攻撃を試みる。

 

 

「燃え散れ」

 

 

「散ったら君がまずいんだよね」

 

 

 効果はなし。

 殺到する酸、もぎもぎ、テープ、八百万製の手榴弾なども同じだった。その全てが通形をすり抜けていく。

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

 爆風を背に通形が慄いているように、今戦っている生徒らは勿論、上鳴にも戦慄が走っていた。

 

 

 転瞬、通形の身体が床下へと消える。

 

 

 間髪入れずに耳郎が床へプラグを、障子が複製腕を天井に向かって伸ばす。閉所における索敵の構えだ。

 しかし、二人は直ぐに驚愕で目を見開いた。

 

 

「音がしない……!?」

 

 

「君ら、厄介過ぎるんだよね!」

 

 

 地面から飛び出してきた通形が耳郎に向かって拳を振り抜く。

 

 

「ダークシャドウ!」

 

 

 フォローに入る常闇とダークシャドウをすり抜け、通形の拳は耳郎の腹部へと打ち据えられた。その痛烈な一撃に耳郎は身体をくの字に曲げ、膝をつきかける。

 

 

 だが。

 

 

「まだ、立て……る!」

 

 

 耳郎は堪えた。目を血走らせ、息を荒らげながら。真っ先に落ちるなんてあり得ない──通形を怯ませるほどの気迫。

 その隙を突き、耳郎が自分を殴りつけてきた拳にプラグを絡ませて捕縛を試みる。

 

 

「マジか!」

 

 

 通形が驚く中、ダークシャドウを纏った常闇と、人型昆虫パワードスーツである万理を装備した八百万が拳を構えて接近。

 

 

「耳郎さん!」

 

 

「おのれ!」

 

 

「おおっと!?」

 

 

 振り抜かれた攻撃はまたも通形の身体をすり抜け、体育館の床を叩くだけに終わった。

 

 

「ひとまず君らは後にしようか……他の遠距離持ちから対処してくよ!」

 

 

 通形の姿が床へ消え、次の瞬間には誰かの背後を取る。

 一人、また一人と意識外から飛んでくる拳を腹に受けて悶絶、倒れていく。

 

 

「チッ!」

 

 

 次の標的にされた轟が舌打ち混じりに炎の防御膜を張った。

 大気を焦がす灼熱の渦を前に、通形は白い歯を見せる。

 

 

「右がガラ空きだよ!」

 

 

「かかった……!」

 

 

 拳が振り抜かれるのと同時、轟の肉体から冷気が溢れ出る。

 通形は地面に潜ってそれを回避。轟は「案の定だ」と呟いた。

 

 

「当たり前だが、攻撃の最中は実体化してる! 狙うならそこだ!」

 

 

 常時無敵なら回避なんてしない。

 轟の背後で姿を見せた通形が不敵に笑う。

 

 

「分かっててどうにか出来る程度なら、全員を相手にするなんて言わないんだよね!」

 

 

 風を切り裂く通形の鋭い拳打に、轟は反応できなかった。

 しかし、轟は心臓の直上に拳を撃ち込まれ、息を詰まらせながらも──次の策を講じていた。

 

 

「だろう、な!」

 

 

 通形の打撃を受け止めた轟の胸の上を、青白い炎が交差するように燃え上がる。

 

 

「全員伏せて!!」

 

 

 危機感知が反応したことで緑谷が咄嗟に叫んだ、その刹那。

 

 

「大氷海嘯……!」

 

 

 轟の身体から放たれた膨大な冷気により、体育館が銀に染まった。

 空気中の水分という水分が急速に熱を奪われ、軋む様な音と共に世界が凍り付いていく。

 

 

「い、いいんじゃない……?」

 

 

 ──思ったより出力が低いな。まだ上に行けると見たぜ。

 

 

 内心でしっかりと評価しつつ、腕を組んで仁王立ちしていた上鳴の声は寒さから震えていた。

 電熱と反転術式で肉体を正常に戻し、辺りを見回す。

 

 

「轟ィ! 私たちまで巻き込まないでよぉ!」

 

 

「殺す気か!?」

 

 

「ドンマイってレベルじゃねーぞ!!」

 

 

「けろぉ……」

 

 

「梅雨ちゃんが冬眠しかけとる!?」

 

 

「……わりぃ」

 

 

 芦戸の防壁で直撃を免れた生徒から非難の声が集まっていた。

 しかし、その男は平然と轟の肩に手を回して笑顔を見せた。

 

 

「回避、ちょっと間に合わなかったよ! 足先凍っちゃったんだよね!」

 

 

「……嘘だろ」

 

 

「でも──人間一人を止めるのに、ここまで過剰な力は要らないんだよね!!」

 

 

 強烈無比な拳を腹へ叩きつけられ、轟はその場でくずおれた。

 

 

「さて、これで残ってるのは近接組と……」

 

 

 辺りを見回した通形は気が付いた。

 

 

「一人いなっ、ぴょぉ°!?」

 

 

 しかし、次の瞬間だった。めきょ、という嫌な音が鳴った。

 

 

 通形の顔がみるみると青くなっていく。

 膝が震え出し、瞳孔が開き、内股になってその場に倒れ伏した。

 

 

 男子たちはこのタイミングで何が起こったのかを理解し、あまりの恐ろしさに震えた。上鳴でさえ例外ではない。

 そして、通形が口から泡を吹いて気絶している隣から声が響いた。

 

 

「さむ────い!」

 

 

 個性による透明化を解いた葉隠が、寒さから肩を抱いて震えていた。

 

 

 葉隠の体細胞から作られた白とライムグリーンのボディスーツは、身体のラインがくっきりと顕になるようなデザインだ。交差した腕に押さえつけられたたわわな胸がぐにゅりと歪んでいる。

 それは一見すると扇情的にも見えた。しかし、先の一撃の恐ろしさはそんな感慨を帳消しにして余りある。

 

 

 それでも決着は決着。

 実に締まらない形ではあるが、勝者と敗者の構図は変わらない。

 

 

「……上鳴」

 

 

 額に手を当てた相澤が上鳴に通形の治療を促す。

 

 

「先輩、ドンマイっす」

 

 

「死ぬかと思ったんだよね」

 

 

「俺が葉隠にキンタマクラッシュを教えたばっかりに……」

 

 

「ちょっとキレそうなんだよね。いや、上鳴くんも葉隠さんも悪くないんだけどね」

 

 

 反転術式を股間に掛ける虚しさと、教え子に金的を教えてしまった罪悪感。

 後輩にちんちんの治療をさせる申し訳なさと、何を教えてるんだという憤り。

 

 

 二人は自分達の気持ちに何とか折り合いをつけた。

 そして上鳴が治療を終えた後──通形は手合わせ前と変わらないテンションで言った。

 

 

「まさか負けるとは思ってなかったんだけど、俺の能力に関しては少しくらい見てもらえたかな!?」

 

 

 その理不尽さは生徒たちに伝わっていた。

 口々に通形へ「強靭」「無敵」「最強」と言い出した。

 

 

「そう思ってくれるのは嬉しいんだけどね。これ、透過ね。最強のカードって訳じゃないんだよね」

 

 

 そう前置きしてから、通形は己の“個性”について語った。

 

 

 “個性”透過は、あらゆる物をすり抜ける。一度全身に効果を発揮すれば、網膜は光を、鼓膜は音を、肌は風を切る感触さえもすり抜ける。

 そのくせ重力などの影響はキッチリ受けるのだからタチが悪い。地面に落ちれば、光も音もない世界で自由落下する感触だけ。一見すれば簡単に見える動作にも複数の工程がいる。

 

 

「この“個性”で上に行くには予測する力が必要だった」

 

 

 障害物がある場所を走り抜けるには、接触の瞬間に透過のオンオフを切り替える必要がある。

 戦闘時にはそれ以上に細かく、それでいて瞬時に状況に応じた判断を下さなくてはならず、見てから動いているのではあまりにも遅い。

 

 

「周囲より早く! 時に欺く! この予測を可能にするのに必要なのが経験なんだよね!」

 

 

 それが手合わせの理由だ。

 口だけでなく、実際に見て、感じることでしか得られない感覚を伝えるためにこの手段を通形は選んだ。

 

 

「上鳴くんを参加させなかったのは、彼が実践経験に基づく予測能力を持っていたからなんだよね! ……緑谷くんと爆豪くんもそうなのかな?」

 

 

 上鳴は首を横に振って答えた。

 

 

「緑谷は危機感知で予測を補強できて、爆豪は瞬発力と直感で対応しかねないからな。今回の趣旨的に邪魔になると思った」

 

 

 上鳴は「分かったか?」と爆豪に向かって言った。不服そうな顔をして頷くのを見て、通形に話の続きを促す。

 

 

「最初に言ったけど、インターンは職場体験とは違う! 俺たちは客ではなくてサイドキック! プロとして扱われる!」

 

 

 その言葉の重みは手合わせ前とは異なる。

 

 

「これが喫茶店のバイトで、相手がお客様なら話せば分かってもらえるかもしれない! まだ新人だからと大目に見てもらえるかもね! でも……ヒーローは違う。ヴィランも災害も決して俺たちを待ってくれない! もたつけば人の死が結果として現れる!」

 

 

 A組の生徒は皆、人の死を意識したことがあった。

 

 

 それでも──否、だからこそ。

 

 

「顔を見れば分かるよ……君たちの答えはもう、決まってるんだよね!? なら、俺が最後に言えるのはこれだけさ! それではご唱和ください──更に向こうへ!」

 

 

「Plus Ultra!!」

 

 

「ご清聴、ありがとうございました! ……ってな感じでね、どうです? 相澤先生!」

 

 

「よかったよ。最初からお前に話を振れば合理的だったな」

 

 

 通形による模擬戦を通した説明会は幕を閉じた。

 

*1
爆豪と緑谷の喧嘩を見ていながら止めなかった監督不行届

*2
ep.11




 
 いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!

 気が付いたらもう5月目前になってましたね。驚きしかねぇや。仕事して仕事して仕事してモンハンして寝てたらこれですわよ。年取ると時間の流れが早くていけねぇ……
 ヴィジランテのアニメも始まりました。私はopが好きです。ポップちゃん可愛い。飛ばせねぇよ俺。

 GW終わるまで毎日投稿しつつ、隙間時間に書き溜めていくつもりなので暫く更新が増えます! しばしお付き合いいただければ幸いです!
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