雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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 そして、感想、高評価、ここ好き、誤字脱字訂正をくださる皆様……今はただ感謝を……




ep.78 カチコミ

 

 ──本拠地に保護対象が二名ともいる。

 

 

 その情報はヒーロー達にとって肩透かしでもあった。しかも、最終的にナイトアイが予知を使ったとあれば尚更だ。

 

 

「……あくまでもダメ押しに使うだけです。それに、敵に使わないとまでは言っていません」

 

 

 その言葉に溜息を吐きそうになった者も多いが、調査自体は決して無駄にはならない。今回の一件の後、死穢八斎會は完全に解体される。その際には今回の調査結果が十全に生かされるだろう。

 

 

 そして決行日当日──午前八時。

 

 

 上鳴が戦杖を背に精神統一を行っている所へ、耳郎がやってきて尋ねた。

 

 

「ホークスは?」

 

 

「訳あって此処には出てこれないんだと……ま、ゴリーニの援軍が集まらない様に牽制すんだろ。プラス、逃げられないように包囲網を敷くとかな」

 

 

 ──先生とグラントリノもいない。敵連合にも動きがあったか。ったく、示し合わせた様に動きやがって。

 

 

 敵側に情報が漏れているのではと疑いたくなってしまうのを堪え、上鳴は戦杖で肩を叩いた。

 

 

「さて、改めて俺たちの作戦を確認するぞ」

 

 

 上鳴たちはエリを助ける為に動く本隊とは異なり、少数精鋭によるアンナの奪還を目指す。

 エリが軟禁されている部屋については判明したものの、アンナに関しては詳細不明。ただ、エリの部屋について情報を探った構成員の視界に、デボラとアンナの姿があった事から居ることだけは確かだろうという話だった。

 

 

「先ず、索敵はイヤホン=ジャック。地下の地図は頭に入ってるか?」

 

 

「ん、大丈夫」

 

 

「よし。それを元に先行するのがインビジブルガールだ」

 

 

「はーい!」

 

 

「俺はイヤホン=ジャックから受けた情報を元に追加で索敵、インビジブルガールに指示を行い、場合によっては前線に出る。で、俺の補助にジュリオ」

 

 

「かしこまりました」

 

 

「ジュリオは基本的に俺のサポートだけを考えてくれりゃあいい……アイテムは持ってるな?」

 

 

「問題ありません」

 

 

 ジュリオの腰には二丁の拳銃がある。一つは銃の所持が許されている国では市販されている物だが、もう一つは上鳴をサポートする為の特殊な弾を込めるために改造されたサポートアイテムだ。

 義眼と義足にも戦闘の補助をはじめ、素人のジュリオをサポートする為の機能が幾つも搭載されている。

 

 

「アンナ・シェルビーノ奪還後はイヤホン=ジャックとインビジブルガールが護衛のメイン。俺は見敵必殺で動き回る……ぶっつけ本番になっちまったのが、ちと残念だな」

 

 

 突入の日が決まるまでに予行練習がてらパトロールを行いたかったのが上鳴の本音だったが、ジュリオの身柄を自由にする事が出来なかったため断念した。

 そもそも、彼に関してはこの場にいることが奇跡に近い──贅沢は言っていられない。

 

 

「……不安だ」

 

 

「ま、プロいないからな」

 

 

「そうではなく、私にヒーローの真似事など務まるとお思いですか? 素人ですよ?」

 

 

 ジュリオのボヤキに上鳴は笑って答えた。

 

 

「心配すんな。ウチの頼れるサポーターが補助してくれっから……な、コガネ」

 

 

『我々は常にユーザーの快適さを追求します。お任せください』

 

 

 コガネはジュリオの義眼にも搭載されている。葉隠も上鳴が耳につけているデバイスのサブ機を持っている為、これを使ってやり取りする形となる。

 

 

 だが、そこまで説明を受けても、ジュリオの顔色は優れなかった。

 人員が少な過ぎるのだ。

 

 

 ただ、こればかりは仕方がない。集まったヒーローも相当な数だが、相手の戦力は少なく見積もってもその数倍。質が違うと言えど限界がある。既に実力を世界に示している上鳴が担当する部分の人員が削られるのは仕方がなかった。

 

 

「次は負けねぇよ。秘策もある」

 

 

 ──秘策が上手くいかなかったら、まあ、そん時は……なあ、言ったもんなブラザー。二度はないってよ。

 

 

 策が失敗した時は、デボラの“個性”によって引き摺り出された鹿紫雲に何とかしてもらおう。

 生得領域の底で鹿紫雲が口元をひくつかせている事など露知らず、上鳴はジュリオに自信を見せつける。ジュリオはそんな上鳴を見て、微かに口元を緩めた。

 

 

「ま、一旦アンタはお嬢様のことだけ考えてりゃいいよ。なぁ?」

 

 

 上鳴が二人に同意を求める。

 

 

「そうそう! こう見えて私たち、優秀ですから!」

 

 

「絶対助けましょうね」

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

「んだよテレちゃってさ。このこの。素直じゃねーな」

 

 

 上鳴が小突くとジュリオの額に青筋が浮かんだ。

 そうして緊張を解していると──ナイトアイ事務所と動く予定の緑谷がやって来た。

 

 

「かみな……ミカヅチ、ごめん。ちょっといいかな?」

 

 

「んだよデク。どうした」

 

 

「実は、さっきから“危機感知”が反応してて。多分なんだけど……勘付かれてる」

 

 

「ほほーう……ナイトアイたちには?」

 

 

「伝えた。作戦を前倒しにするって」

 

 

 ──なら、俺がすべき事は。

 

 

「三人とも! 仕事だ、行くぞ!……あ、その前に緑谷。ちょっと耳貸して」

 

 

「鳴るね、腕が!」

 

 

「コガネ、音量チェック……オッケー。いつでも行けるよ」

 

 

「手早く済ませましょう」

 

 

 緑谷に頼み事を終えた上鳴は先陣を切って歩き出し、そこに耳郎達が続く。

 そして、警察とヒーローの波を押し分けて八斎會邸宅の玄関前に立った。

 

 

「……なるほどね」

 

 

 青白い電光を放つ上鳴の瞳には建物の内部が見えている。

 慌ただしく動く構成員に加え、八斎衆と呼ばれる幹部格の一人がすぐそこまで来ているのが分かった。

 

 

 ──ペストマスクを着けた巨漢。資料にあったが、まあ、何だっていい。

 

 

 男は緩慢な動きで、血管が浮かぶ丸太の如き剛腕を弓の弦の様に引き絞り、力を溜めてから門扉へ向かって勢いよく振り抜いた。

 

 

「いいんじゃない?」

 

 

 拳のインパクトと同時に、上鳴も打突を放つ。

 門扉越しに衝突した打撃の余波により、拳の接触箇所以外が綺麗に弾け飛んだ。

 

 

「な、んなんですかァッ!?」

 

 

 巨漢、活瓶の驚愕を無視して、耳郎が上鳴の隣に立つ。

 

 

「ミカヅチ、行くよ──!」

 

 

 耳郎がデバイスで覆った左手を前へ突き出して叫ぶ。

 その手に自分の右手を重ね、上鳴も応えた。

 

 

「音量上げろ、生前葬だッ!」

 

 

 刹那、上鳴の手が異形への変貌を遂げた。

 

 

 それと同時に放たれたのは不可視の砲撃。雷が轟くような爆音と共に大気が歪み、門扉の端材諸共、射線上にある物体を粉々に吹き飛ばしていく。

 活瓶は防御の姿勢を取ったが、それでは耐えられない。放たれた衝撃波は耳郎の“個性”をデバイスと上鳴が増幅した音響攻撃。直撃した瞬間、活瓶の意識は瓦礫諸共吹っ飛んだ。

 

 

 背後で警察隊やプロヒーローが騒つく中、耳郎が不敵に笑って上鳴に問う。

 

 

「それ、怒られないやつ?」

 

 

「どちらもありうる……そんだけだ」

 

 

 瞬時に腕を元に戻して上鳴は笑って見せた。

 今のは因子の限定開放。呪術師風に言うなら拡張術式である。肉体への負荷、周辺への被害、どちらも許容範囲内に収まるように意識して編み出している。怒られる謂れはない。

 

 

 ──まあ、先生はお医者さんだからな。

 

 

 得体の知れん力をポンポン使うなアホ! と善院に叱られる可能性はあった。だが、上鳴はアホになることでそれを無視していた。

 気を取り直し、上鳴が声を張り上げる。

 

 

「警部さん、令状読み上げながら走って! 邪魔する奴ァ、俺らが全部ブッ飛ばす!」

 

 

 パンチパーマの警部が頷き、拡声器と令状を片手に走り出した。ヒーローと警察も続く。

 そして、それを出迎える様に構成員がわらわらと顔出した。

 

 

「おいおい何じゃワレゴラァ!」

「勝手に上がり込んでんじゃね──よ!」

「武器なんて捨ててかかって来いよ!」

「やろうぶっ殺してやぁぁぁぁ!」

 

 

「ヒーローと警察だ! 違法薬物製造・販売の容疑で捜索令状が出ている!」

 

 

 戦火の口火は切られた──松の木が一人でに動き出し、針のような葉が機関銃の如く警部目掛け殺到する。

 

 

「テキサススマッシュ!」

 

 

 緑谷が横から針の弾幕を拳圧で薙ぎ払った。

 間隙を縫うように前へ出た完全透明状態の葉隠が、上鳴にだけわかる合図を送る。

 

 

「デク、変速付与した“煙幕”でカーテン!」

 

 

「……! 分かった!」

 

 

 上鳴の意図を察したデクによる煙幕が味方の視界を一瞬だけ遮る。

 

 

「隠れやがった!?」

「バカが! 見えないから何だってんだ!」

「避けられるもんなら避けてみやがれ!」

 

 

 遠距離攻撃持ちの構成員が気炎を吐く。

 しかし、やはり遅い。言葉よりも早く行動に移すべきだった。何せこれから飛んでくる攻撃は威力こそないが、先の一撃の約百万倍のスピードを誇る。

 

 

「集光屈折!」

 

 

「雷光拳!」

 

 

 上鳴の全身から溢れた目を焼く様な光が、葉隠によって正面広範囲に向かって収束。構成員の視界を一度に白く染め上げた。

 

 

「上手くいったね!」

 

 

「さっきもこれも、ぶっつけ本番だったけどな!」

 

 

 光の拡散を葉隠というレンズを通すことで最小限に抑える、広範囲目潰し攻撃。煙幕によるカーテンはあくまでも保険。耳郎の時とは違い、失敗する可能性とリスクが高かった。

 

 

「デクもナイス!」

 

 

「助かったよ!」

 

 

 煙幕を散らして緑谷が親指を立てる。

 

 

「じゃ、あとは……」

 

 

「POWER!!!」

 

 

 転瞬、地中から敵陣のど真ん中に飛び出した通形による蹂躙が幕を開けた。

 視界を奪われて狼狽えている構成員達が、通形の痛烈な打撃を受けて瞬く間に意識を断たれていく。

 

 

「んだよ、やるじゃねぇか!」ロックロックが嫌味なく破顔した。

 

 

「俺らも負けてられへんで!」ファットガムが腹を叩いて気合いを入れる。

 

 

「ええ……続きましょう!」リューキュウの一声が、他のヒーロー達の士気を更に押し上げた。

 

 

 全ては──助けを求める少女たちを助け、眼前の悪を挫くため。

 学生達の目にも止まらぬ連携、瞬殺劇に警察とプロヒーロー達のボルテージが上がる。

 

 

 そして、それ以上に。

 

 

「こんな所で時間なんて掛けてらんないんだよね!」

 

 

「目的地まで最短距離を!」

 

 

「全速力だ。邪魔すんなァッ!」

 

 

 通形、緑谷、上鳴が先陣を切る。

 ナイトアイ事務所、そして上鳴のサイドキックである三人が追い掛ける。

 

 

 

 快進撃は、止まらない──かのように見えた。

 

 

 

「なっ」

 

 

 誰が声を漏らしたのか定かではない。

 だが一つ言えるとすれば、彼らは死穢八斎會を、ゴリーニ・ファミリーを見誤った。

 

 

 デフォルメされた怪獣とスーツを着用した異形の巨人が、死穢八斎會邸宅の扉から溢れ出した。

 それは河川の氾濫が如く広がり、美しい日本庭園を踏み荒らしながら膨張していく。単純な物量だけで言えば、国家権力側の総数を優に上回っている。

 

 

「っ! ゴリーニ側の“個性”! “怪物召還(モンスターサモン)”と“錬金”で作られた兵隊です!」

 

 

 ジュリオの言葉に上鳴が唇を噛んだ。

 

 

 ──これが時間稼ぎなのは明白。

 

 

 戦力を更に割く必要が生まれた。

 野放しにして住宅地を荒らされても問題だ。そしてこの物量を捌ける人間は限られている。上鳴は自分が残るべきだと瞬時に判断し、行動しようとした。

 

 

 だが、ここには他にも頼れるヒーローがいる。

 

 

「アレは私たちリューキュウ事務所に任せて貰おうかしら」

 

 

 転瞬、上鳴はその姿を見て目を輝かせた。

 

 

「ド、ド………ドラゴンだぁぁぁぁ!!

 

 

 リューキュウの“個性”である。

 全長10メートル近い白亜の竜への転身は、上鳴の心を鷲掴みにしていた。

 

 

「意外と男の子だね」

 

 

 意外な一面を見た。リューキュウが微笑みながら翼を広げる。

 力強い羽ばたきが暴風となって怪物たちを巻き上げ、動きを遮り、その場に押さえつける。

 

 

「ねじれちゃん!」

 

 

「出力最大、チャージ満タン!」

 

 

 波動の“個性”ねじれる波動は生命力をエネルギーとして放出する力。力を込めれば込めるほど遅く、そして軌道が捻れてしまうというデメリットを持つが──その破壊力は極めて高い。

 

 

ねじれる波動(グリングウェイブ)!」

 

 

 弧を描く黄金の破壊光線が怪物を一掃。

 更に麗日が瓦礫を浮かして、蛙吹がそれを敵陣に叩きつける連携で続く。

 

 

「行って!」

 

 

 リューキュウの一喝にナイトアイが応える。

 

 

「デク! ミカヅチ! 道を切り開いてくれ!」

 

 

「了解!」

 

 

「いっちょやってやろうぜ!」

 

 

 ワンフォーオールフルカウル 50%

 

 

 閃電疾駆 出力 100%

 

 

「デトロイト──!」

 

 

「「スマッシュ!」」

 

 

 二人が同時に拳を振り抜き、敵軍に風穴を開ける。

 オールマイト級のパワーが二人いることが、どれだけ心強いのかを背中で示す。

 

 

「これは負けてられないね……!」

 

 

 邸宅に踏み入るなり通形の姿が消える。

 困惑する構成員。標的を見失って挙動が鈍る怪物たち。それらを側面から、高速で移動する通形が仕留めていく。

 

 

 それを尻目に自分も雷撃で敵を仕留めながら、上鳴は緑谷に言った。

 

 

「ゴリーニの方は俺らで止める。しくじんなよ」

 

 

「ミカヅチも気を付けて!」

 

 

「応よ」

 

 

 二人は腕を突き合わせてから別れた。

 

 

 

 

 

「三人はこっちだ!」

 

 

 上鳴がそう言うと、耳郎と葉隠が口々に言った。

 

 

「地下に行くんじゃないの!?」

 

 

「途中まで一緒だと思ってた!」

 

 

「んなまどろっこしい事してられっかよ。どの道、早めに潰すつもりだった相手がハッスルしてんだ……イヤホン=ジャック、地下の索敵を頼む。断続的に物を作ってる様な音があったら教えてくれ」

 

 

 何をするか察した二人が苦笑いを浮かべる中、ジュリオが尋ねる。

 

 

「……見つけて、どうするんですか?」

 

 

「決まってらぁ──そこまで届く穴をぶち開けるんだよ」

 

 

 その言葉にジュリオは口元を引き攣らせた。

 

 

「イカれてるよお前」

 

 

「そりゃあ、それが必須条件みたいなとこあるからな」

 

 

 ヒーローも呪術師も、求められる資質の違いはあれど、頭のネジが外れてなければ出来ない職であるという共通点がある。

 

 

「そういう意味じゃお前もなれるさ。ヒーローに」

 

 

「俺が?」

 

 

「ただ恩があるってだけでさ、手足に目玉無くなっても戦う事を選べる人間がどんだけいんだよ」

 

 

「……それは」

 

 

 何か返そうとして開いた口は、ゆっくりと閉じられた。上鳴でも彼が何を言いたいかはなんとなく分かる。

 まだ葛藤があるのだろう。助けられるのか分からないから、それならいっそ人間のまま死なせてやりたいと──過去の約束がジュリオに呪いの如くこびりついている。

 

 

 上鳴はそれを否定しない。

 

 

「苦しまずに逝かせてやるのも一つの手だった。少なくともお前視点では最善手だ。俺でもそうするよ」

 

 

 自分の身近な誰かがそうなったとしたら、上鳴は取り乱す自信しか無かった。みっともなく泣き喚き、どうにかならないかと駆けずり回るだろう。そして、その果てにどうしようもないという結論に至ったら、その時は自分の手で終わらせる事を望んだはずだ。

 昔はどうだったか。ああ、残念だな。くらいにしか思わなかったかもしれない。親しくない人間の、大切な誰かが別の何かに変わろうが──共感を覚えることも無かったはずだ。

 

 

「でもな……それすると、多分めっちゃ怒られるんだ」

 

 

 当たり前でしょ、という視線が耳郎と葉隠から向けられていて、上鳴は柔らかい笑みを浮かべた。

 分かっている──そして、これがただ、怒られたくないからそう思っている訳ではない事も。

 

 

「俺たちはヒーローだ。ヒーローはな、助けて欲しいって言ってる人間を助けることだけが仕事じゃない……身勝手に手を掴んで、力尽くで引っ張り上げるのが仕事なんだよ」

 

 

 その言葉の真意を、上鳴はあえて口にしなかった。

 

 

「そうか……そうですか。では、私もそうします」

 

 

 言わずともジュリオには伝わっていたから。

 そうこうしている間に耳郎が敵の位置を割り出した。

 

 

「ミカヅチ、敵見つけた! こっから北東方向に二十メートル進んで、真下に70m!」

 

 

「どんだけ掘ったんだよ。モグラかってんだ」

 

 

「実際はもっと深いよこれ……! 構造も聞いてた話と違う! ウチじゃ探し切れない!」

 

 

「創造系はこういうとこ強いよな──まァ、無駄な努力ご苦労様ってことで」

 

 

 上鳴が両腕を異形のそれへと変貌させる。

 

 

「味方の進路に重なるか?」

 

 

「大丈夫、全然重ならない!」

 

 

「よし」

 

 

 呪力の収束と共に両腕から紫電が迸る。

 上鳴は三人が後退し、自分から数メートル離れたタイミングで反転術式を発動。宙空に生成した血液を、両掌を合わせる虚心合掌の印相を結んだ状態で加圧していく。

 

 

 更にそこへ──

 

 

「炎駒、変生、燃ゆる雷霆」

 

 

 呪詞の詠唱を行った。

 

 

 本来なら省略できる物、必要ない物をあえて混ぜることは“縛り”に該当する。

 それにより向上するのは本来なら足りない射程、反転術式で生み出す血液の量、単純な出力の向上。

 

 

 そうして放たれるのが、呪詞の詠唱、掌印を省略しない150%の──

 

 

「穿雷・赩御雷」

 

 

 転瞬、赤い極光が地面を抉る。衝撃波と閃光が三人を襲うが、耳郎が上手くカバーに入って事なきを得る。

 

 

「それにしたって、力業過ぎでしょ……!」

 

 

 荷電粒子砲で掘削しようなどと真顔で言う人間は、世界中を探しても此処にしかいないだろう。

 手段を選ばなかった甲斐はあり、壮絶な火力で押し切る工事はほんの十秒程度で終わった。

 

 

「行くぞ!」

 

 

 上鳴たちは地下へと続く大穴に突入した。

 

 

 

 

 

 そして、先に地下に入っていた緑谷たちは──

 

 

「な」

 

 

「なんじゃこりゃぁぁぁ!?」

 

 

 ナイトアイから聞いていた話と全く違う様相を呈している地下に度肝を抜かれていた。

 

 

「コナンのアイキャッチみてぇになってる!?」

 

 

 切島に既視感の正体を言い当てられた何人かが思わず「ああ、それ!」と口にする中、ナイトアイが冷や汗を流しながら言った。

 

 

「私が見た時は打ちっぱなしのコンクリート同然だった……!」

 

 

「劇的ビフォーアフター過ぎるやろ!?」

 

 

 ファットガムのツッコミに言葉を返す余裕すらない。予知で見えていた光景が誤っていたとは考えにくく、そこから導き出される答えは一つ。

 

 

「まさか、この短期間で工事を……!?」

 

 

「劇的ビフォーアフター過ぎるやろ!?」

 

 

 あり得ない──それは超人社会における死語に等しい。

 “オーバーホール”と“錬金”ならば一夜で城を築き上げることも不可能ではない。この程度のリフォームなど序の口だろう。

 

 

「ナイトアイ、問題はそこじゃなくて道だ!」

 

 

 足を止めたヒーローの背中を押す様にロックロックが言う。

 

 

「そんな直ぐに新築物件に慣れるか!? んな訳ねー! こんな広い空間なら尚更な! 見た目に迷わされるな、道そのものは変わってない可能性の方が高い!」

 

 

 相澤が頷きながら案を出した。

 

 

「ただ、変わっていないとも言い切れない。ここは二手に分かれましょう。ナイトアイ事務所は予定通りに、ファットガム事務所は別のルートを。警官隊は半々で」

 

 

 合理的な判断に否を唱える者はいない。

 瞬時に二手に分かれて、ヒーロー達は捜索へと乗り出そうとした。

 

 

 その時だ。

 

 

「あー、マイクテストマイクテスト」

 

 

 ヒーロー達の行手を遮るようにホログラムが投影された。

 そこに立っていたのは、金髪を触角の如く立てた巨漢。その容貌を知らない者は世界という広い目で見ても少ない、異次元の知名度を持つ男──と瓜二つ。

 

 

「俺が投影された!」

 

 

 死穢八斎會邸宅の地下が、突如として迷宮(ラビリンス)と化しただけでも驚きだったというのに──緑谷たちの前に、見た目はオールマイトにそっくりだが真逆の雰囲気を醸す男が立ちはだかったことで、情報が完結しない状態になってしまった。

 

 

「な、なんだお前!?」

 

 

 切島が端的に全員の気持ちを代弁する。

 男はオールマイトがしないようなギラついた目つきで、嫌に白い歯を見せびらかすように笑って答えた。

 

 

「よくぞ聞いてくれた……俺は次代の象徴となるべく、この地に降り立った存在──人呼んで*1、ダークマイト!」

 

 

「おい、これどっからツッコめばええ……!」

 

 

 ふざけた男、ダークマイトの登場にファットガムが青筋を浮かべて苛立ちを露わにする。

 だが、それ以上に──

 

 

「「オールマイトを、馬鹿にしているのか?」」

 

 

 ナイトアイと緑谷がブチギレていた。

 

 

「大陸産の模造品にも劣る品性なき顔。解釈違いなコスチューム。あり得ない。0点だ。消費者庁に垂れ込んでやる」

 

 

 ホログラムに向かってコンクリートブロックほどの重さがある印鑑を投げつけるナイトアイ。

 当然、それは映像を乱すだけで、壁にめり込んで止まった。

 

 

「その公式にリスペクトの欠片もないコスチュームは何なんだ!? お前は……お前はオールマイトなんかじゃない!!」

 

 

 緑谷の剣幕に切島は怯えた。

 普段、大人しい人間ほど“逆鱗”に触れた時の反動が大きいとは言うが、緑谷のそれは歩く火薬庫である爆豪を彷彿とさせる。むしろ、ギャップの差を考慮すれば火力は爆豪以上だった。

 

 

 しかし、散々な言われようのダークマイトはどこ吹く風で。

 

 

「うーん……理解して貰えなくて悲しいよ。君たちは俺にもっとリスペクトを抱くべきだ。絶対的な力で象徴となり、新たなる秩序をもたらすこのダークマイトに」

 

 

「アカン。話になってへん」

「酔っ払いの類だ。耳を貸すな、デク」

「サー! 耳塞いでください! 怒りで我を忘れる前に!」

 

 

「FUFUFU……好き勝手に言えるのは今だけだ。何せ君たちは、我々に到達することさえできない」

 

 

「何だと……! その目は節穴かよ、ここに来てるヒーローの数が分かんねーのか!」

 

 

「だからだよ。数でどうにかできるという思考が、取るに足りない愚物の証明だと何故分からない?」

 

 

 大仰な手振りを交え、ダークマイトは言う。

 

 

「そこは表層だ。俺が改築してある。今、この邸宅は真下に二キロ弱くらいまで広がってるが──君たちは我々がどこにいるのかも分からない。先代ならば一瞬で駆け回れる範囲に過ぎんが、君らにそれが出来るのか?」

 

 

「その間に逃げるつもりか……!」

 

 

 緑谷の言葉に、ダークマイトは表情を消して答えた。

 

 

「逃げる気など最初からないよ。我々は諸君を迎え撃ち、滅ぼし、次へと向かう。これはプレゼンも兼ねてるからね」

 

 

 高笑いと共にホログラムが消え──入れ替わる様に、天井から開いた穴から怪物達が降ってくる。

 その中には連合の一人、荼毘の姿があった。

 

 

「敵連合!?」

 

 

「面倒くせぇな……ったく。イレイザーヘッドがいるんだからさ、俺じゃなくて別のを用意しろよな」

 

 

 荼毘は怪物を壁にして相澤の視界から逃れ、間髪入れずに通路を蒼炎で満たした。

 逃げ場のない灼熱地獄が怪物諸共、ヒーローたちを焼き払わんと唸りをあげる。

 

 

「セントルイススマッシュ、エアフォース!」

 

 

 緑谷の蹴りによって放たれた風圧が、焔を斬り裂く大気の刃となって炎の海を割った。

 

 

「ファントムメナス!」

 

 

 透過で全てを無視した通形の一撃が荼毘を捉え、その肉体を泥に変える。

 

 

「本人じゃない……! トゥワイス、分倍河原の“二倍”で作られたコピーだ!」

 

 

 相澤の言葉にヒーロー達が一段と警戒心を高める。

 トゥワイスがいるという事はつまり、敵連合の持つ最高戦力が型落ちであっても複数存在するということ。林間合宿での凶行が嫌でも思い出される。

 

 

「厄介なことになったが……私たちがすべき事は変わりません」

 

 

 ナイトアイが眼鏡を押し上げ、言った。

 

 

「行きましょう。エリちゃんとアンナさんを助けに。ダークマイトはゴリーニの人間だ……彼らに任せます」

 

 

 それは事実上の丸投げであったが──誰も異を唱えなかった。

 

 

「すまん。何とかしてくれ」

 

 

 ファットガムの言葉が全てだった。

 

*1
自称





 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 どうしても作中で書けなかった補足を幾つか。

①ナイトアイが予知で改築を見れなかった理由
予知の対象にしたエリちゃんの世話役だった男がオーバーホールに殺された後で改築されたため。

②呪詞と掌印、因子拡張
基本的に全部緑谷少年を鍛えながら身につけた物。
無くても使えていた物を呪詞と掌印ありきの呪術に改造した上で、普段は省略して使っている。
呪詞をどうするかは常闇くんに相談した。というのがメモに書いてあったのでいつか書きたい(願望)

③リューキュウ事務所とダークマイト
突如として閑静な住宅地に響くダークマイトの声。
呆れ過ぎて手を止めるヒーロー、警察、そして何も聞かされていない死穢八斎會の末端構成員。
そんな中、誰かが言った──「あとにしてくれ」と。
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