雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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 連休最後の更新ですわ〜!


ep.79 悪意

 

「……おい。どういうつもりだ」

 

 

 声を低くしたオーバーホールがダークマイトに詰め寄る。

 理由は言わずもがな──先のヒーローに対する演説だった。

 

 

「逃げるつもりはないだと? 勝手な事を……! 今がどれだけ大事な時期か、いくらお前がイカれた病人であっても理解できていると思っていたんだがなァ……!」

 

 

 事業はまだ始まってすらいない。個性破壊弾も賢者の石の数も、未完成品ですら十分とは言えない。上鳴によってバイヤーが潰れたのが痛手となっていた。完成系に至っては前者が五つ、後者に至っては一つしかない。

 戦力にしても、ヒーローと全面戦争を行うにはやや物足りない。いくらゴリーニの“錬金”で生み出された兵士や“怪物召喚”があっても、圧倒的な質の前にはあまりにも無力だった。

 

 

「FUFUFU……君こそ、何をそんなに怯えている? 象徴なきこの国のヒーローに、我々を止められる逸材がいるとでも?」

 

 

「その脅威については最初の会食で確認したはずだ。記憶力までイカれたのか!?」

 

 

「その脅威が敗北した男を、俺は君の目の前で圧倒して見せた筈だが?」

 

 

 ダークマイトの言葉にオーバーホールは黙り込んだ。

 決して言い負かされた訳ではない。ただ、呆れと怒りでどうにかなりそうなのを抑えるために耐えているだけ。

 

 

 ──確かにコイツは強い。あの場でも全力は出していなかったはずだ。賢者の石を使えば、圧倒できるというのも分からないではない。だが……!

 

 

「お前はオールフォーワンを、ひいてはオールマイトさえ過小評価している!!」

 

 

 オールフォーワンはほぼ都市伝説扱いだったが、オールマイトは違う。

 その綺羅星の如き武威、敬愛する組長を日陰に追いやった光を、オーバーホールは憎んでいたからこそよく知っている。

 

 

 ──アレを満身創痍にまで追い込み、生き残った。そして神野事変では互いに死に体でありながらあの惨状……直接見ていなくとも断言できる。アレらは生物としての格が違う、正真正銘の怪物だ。

 

 

 ダークマイトはそこに届かない。

 苦戦はさせるだろう。だが、勝つか負けるか分からないという領域にまでは達していない。自分の物ではない力に頼ってイキがっているだけの小物が──勝てる道理などない。

 

 

 そういう意味ではオーバーホールは自分の力量を正確に把握していた。生半可なプロなら一蹴できるが、しかし、ランキングトップのヒーローを相手に確実に勝てるとは言い切れない。そういうレベルである事を自覚している。

 だから、闇に潜み、社会の根幹に入った罅を広げ、国家権力の力を削いでから崩そうとしているのだ。

 

 

 ダークマイトの行動は死穢八斎會の行動方針から大きく逸脱している。

 しかし、提携相手がそれを()()とするかは話が変わってくる。

 

 

「ま、言っちゃった事は仕方ないですよねぇ」

 

 

「面白かったぜ」

「しょーもねーな」

 

 

「なぜ突っかかるんだい? 彼の策は上手だよ」

 

 

 ──お前らは何なんだ……!

 

 

 オーバーホールの額に青筋が浮かぶ。悩みのタネはダークマイトだけにあらず、同盟相手の出向ヴィランたちもそうだった。

 

 

「セブンちゃんはどう思います?」

 

 

「私かい? そうだね……まず単純な戦力の比べ合いなら五分だ。彼もそれは分かっている。地形の有利まで考慮すれば有利でさえある」

 

 

「なら、どうしてあんなにヒスってるんですか?」

 

 

「簡単だよ。この戦いには先がない。我々が戦っていられる体力と時間に対し、ヒーローは時間経過と共に幾らでも数を増やせる。こちらが派手に動けば動くほど、早期解決のために近隣からヒーローが集まってくるだろう。下手するとランキング上位のヒーローもね」

 

 

「ヤバいな! ピンチじゃん!?」

「ヤバくねーよ! 余裕だ!」

 

 

 渡我、トゥワイスは許容範囲。

 しかし、噂の一つも転がっていない五条袈裟と額の縫い目が目立つセブンという男が、不協和音を奏でている。

 

 

 ──コイツは他と違い過ぎる。

 

 

 纏う空気も、頭のキレも、明らかに上に立つ側の人間。否、自分やダークマイトよりも多くの人間を従えていたのではないかと錯覚する。

 オーバーホールは荒く息を吐き出し、言った。

 

 

「……まあいい。徹底抗戦も好きにすれば良いさ。こっちはこっちで退避の用意も進めるだけだ」

 

 

「冷静だな。それでいいとも……ただ、何もせずに利益だけを貪ろうというなら話は別だ」

 

 

「そこまでビビってるつもりはない。八斎衆は残す。連れていくのはクロノと音本、それからエリと組長だけだ」

 

 

「賢明だね……さて、俺もそろそろ行くとしよう」

 

 

 ダークマイトはマントを翻し、オーバーホールに背を向けた。

 

 

「旧態にしがみつく者共に、新たな象徴の力を分からせ──己の脆弱さを理解させねばなァ」

 

 

 去っていくダークマイトを見送り、オーバーホールは敵連合に向かって言った。

 

 

「お前らもそろそろ働け……こちらから報酬金は出してるんだ。払った金額分くらいは動いて貰おうか」

 

 

「はーい」

 

 

「俺もう既に働いてるけど?」

 

 

「では、私はミカヅチがいる方を担当しようかな……彼の力にはとても興味がある」

 

 

「好きにしろ。仕事をするなら文句はない」

 

 

 敵連合は自由に、軽やかに、ダークマイトが消えて行った方向へ歩き出した。

 

 

「……病人共め」

 

 

 苛立つオーバーホールの耳に壮絶な掘削音が入ったのは、それから十分後のことだった。

 

 

 

 

 

 上鳴たちは長いトンネルを滑り降り、開けた空間へ飛び出した。

 そこにあったのは──遊園地だった。アトラクションの数こそ少なく、稼働している物は大人が遊ぶには些か小さい。総じて幼児向けだ。超常黎明期以前、大型商業施設の屋上に作られた遊園地くらいの規模である。

 

 

「懐かしいな。俺がガキの頃はまだギリあったんだよなぁ………」

 

 

 鹿紫雲一の記憶だろう。

 しかし、実感としてある郷愁に浸る。

 

 

「上鳴、アンタ何歳なの」

「おじいちゃんってレベルじゃないよ」

 

 

「気を緩めすぎでは?」

 

 

 ジュリオは訝しんだ。

 気を取り直し、耳郎が索敵に移る。

 

 

「……分かっちゃいたけど逃げられてるね」

 

 

「こんだけ派手に穴開けりゃあ、そりゃな」

 

 

 上鳴は懐から細い鎖を取り出し、無言のままそれを耳郎たち三人の腰へ巻いていく。

 そして余った部分を手に巻きつけ。

 

 

「ヨシッ」

 

 

「何がよ!?」

 

 

 説明! と耳郎の張り手が上鳴の後頭部へと炸裂した。

 

 

「めっちゃ簡単に言うとリードだよ」

 

 

「つまり私たちは……飼い犬ってこと?」

 

 

「ワン!」

 

 

 耳郎とジュリオが頬を引き攣らせ、葉隠が犬の鳴き真似をすると上鳴は首を横へ振った。

 

 

「どっちかって言うと、飼い犬は俺だな」

 

 

 上鳴の言葉は三人に嫌な予感を抱かせるには十分過ぎた。

 徐々に浮遊感を覚え、それは確信へと変わる。

 

 

「まさか、このまま……!?」

 

 

「福岡みたいに“個性”で飛ぶんだよね!? そうだよねぇ!!」

 

 

「やだよ。消耗するし、スピードあんま出ないし」

 

 

 躾のなっていない犬の散歩は激務である。小型犬であっても、引っ張る力はかなり強い。それが大型犬、ましてや上鳴ともなれば──飼い主は濁流に弄ばれる葦の如く、右往左往する羽目になるだろう。

 

 

「こんな所で時間食ってらんねーからな! 舌噛まない様に気を付けろよ──飛ばすぜ!」

 

 

 浮遊感、風、高速で流れていく景色。

 

 

 

 

 その瞬間、ジュリオ・ガンディーニの脳内に溢れ出した──存在する記憶。

 

 

 

 

『ねえ、ジュリオ。私……犬を飼いたいわ』

 

 

『はぁ。犬ですか。良いのではないでしょうか。旦那様にご相談されてみては?』

 

 

『……断られたの。ジュリオくんが世話をする事になるのが目に見えてるって。彼の負担を増やしてはいけないよって』

 

 

『お嬢様……私なら大丈夫ですよ。犬の散歩やお世話くらい、お手伝い致しますから』

 

 

『本当!? 飼いたいのは、この子なんだけど!』

 

 

『写真まで用意し、て……お嬢様、無理です。大き過ぎます。ナポリタン・マスティフなんて、とてもではありませんが無理です』

 

 

『大きいのは嫌い?』

 

 

『いえ、そういう話では──』

 

 

 

 

「どうしたジュリオ」

 

 

「いや、昔の事を思い出してなァァァァ!?」

 

 

 ドップラー効果で語尾と共に思い出を遥か後ろに置き去りにしながら、ジュリオは飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めた。

 上鳴は「変なやつ」と言って前を向いたが、自分が高速飛行でジュリオたちを引っ張っているのが原因だとは気付いていない。女子二人が完全に沈黙している事にも気づいていないのだから、ある意味当然である。

 

 

 何せその意識は視線の先にしかない。

 

 

「見えてきたな……!」

 

 

 長い通路を抜けた先にあった円形の広場で、標的を視界に捉えた。敵はもう逃がさない。上鳴は更に加速してその正面へと回り込み、動きを止めた。

 しかし、動いていた物体は急に止まれない。慣性を電磁力操作で打ち消している上鳴とは違い、付属品と化していた三人は強風で乱れる鯉のぼりの様になっていた。

 

 

「いっけね」

 

 

 上鳴が引っ張ると「ぐぇぇ」と蛙が潰れたような声の三重奏が響く。

 完全に目を回した三人を床へ下ろし、上鳴は「すまん」と一言だけ謝ってから、視線を眼前の敵へと向けた。

 

 

「ヒィィィ!? ば、化物め!」

 

 

 老年の男が尻餅をついた状態で後ずさる。

 勝負は既に着いたも同然だが──みっともない足掻きは続いていた。男から繰り出される無数の怪物達に、上鳴は眉間へ皺を寄せる。

 

 

「セオリー通りかよ。つまんないの」

 

 

 統計的に、式神使いの様な『何かを使役して戦う呪術師』は近接戦闘を苦手としている。それは呪術界における一般常識だが、この世界でも有効だった。

 震脚で床を踏み破りながら、上鳴が男へと肉薄する。

 

 

「ゴリーニ・ファミリーの幹部、サイモンだな」

 

 

 突き出した戦杖でその腹部を捉え、そのまま真上に向かって弾き飛ばす。

 

 

「ぐぇっ、はぁ!?」

 

 

 天井に叩きつけられたサイモンは肺の中身が空っぽになる様な衝撃に襲われ、白目を剥いて悶絶した。

 そして反射的に酸素を求めて息を吸うと、今度は腹から迫り上がってきた物が一本の管の中で鬩ぎ合った。嘔吐と口呼吸は同時に行えない。男は吐瀉物を喉に詰まらせ、もがきながら落ち始めた。

 

 

 そして上鳴は吐瀉物に溺れながら墜落してきた男の顔面へ、容赦なく拳を突き入れた。

 

 

「はい、お疲れさん」

 

 

 床に殴り倒された男の息が止まる。

 

 

 ──怪物召還(モンスターサモン)ね……勿体ないな。なんでそんな良い“個性”持ってて、こんなに弱いんだよ。

 

 

 サイモンに電撃を浴びせて、喉を詰まらせていた物を無理やり吐かせる。

 そして、救助用に持っていた人工呼吸器も兼ねる酸素スプレーを使いつつ、ワイヤーで縛り上げた。

 

 

「さて……ごめんて。急いでたからさ。な? 許してよ……」

 

 

 一仕事終えた上鳴は背後から感じた殺気に両手を挙げた。

 

 

「今度、駅前のカフェで奢って」

 

 

「私はパフェ食べたい。別の店の」

 

 

 この逆らえない迫力を上鳴は知っている。

 そう──母親である。相澤や善院なら「すんまうぇい」で済ませられる場面だったが*1、それが出来ない空気を出せるのは母親だけ。

 男とは、そういう女性に弱いのである。カカロットもベジータもそうなのだから、上鳴がそうなってもおかしくはない。

 

 

「せめて、同じ店になったりは……」

 

 

 どうにか一気に済ませようと懇願するも、二人の怒りを更に滾らせる。

 

 

「「や」」

 

 

 可愛らしい反応だが、耳郎のプラグが首筋を、葉隠のシャドーが上鳴の股下の空気を切り裂いていた。

 

 

「や、じゃなくてェ……はい。謹んで奢らせて頂きます……」

 

 

 上鳴は暴力に屈した。

 

 

「まったく……せめて一声かけてからにしてくんない?」

 

 

「私たちが伸びてる間に人質にされたら、困るの上鳴くんだよ!?」

 

 

「なんで仮免に怒られてるんですか? アホなんですか? いいや、アホでしたね。この短い付き合いでも分かりますよ。アナタが相当なアホ様でいらっしゃる事は」

 

 

「ぐっ、ぐぅぅぅ……!」

 

 

 ぐうの音しか出ない。事実陳列罪である。三人の言葉は正当性と事実に基づく感想でしかない。

 上鳴は改めることを誓わされた。

 

 

「クソッ! こうなりゃ、そこのオッサンを無理やり起こして情報を吐かせてやるぜ!」

 

 

 情報を引き出す気があるなら、無闇に痛めつけて気絶させるなよという話ではあるのだが、現場を途中からしか見ていなかった三人は言わなかった。

 

 

 上鳴が足元に視線を落とす。

 しかし、そこに縛り上げたサイモンの姿はない。

 

 

「いやぁ……丁度よかった。欲しかったんだよね、彼の“個性”」

 

 

 声がした方へ驚愕に顔を染めながら振り返る。そこに居たのは既視感のある男。

 老呪術師の記憶。鹿紫雲一としての記憶と重なり、言葉が口を衝いた。

 

 

「誰だテメェは!」

 

 

「私かい? 今はセブンと名乗っているよ。広義的には……君の先輩だ」

 

 

 帽子を脱いで挨拶する様にセブンが額の縫合糸を引き抜き、頭蓋の上半分を取って柔かに笑う。顕になった脳を見て過ぎるのは──熱なき怪物、脳無である。しかし、流暢に喋るその姿と、USJのそれとは結びつかない。

 上鳴が“個性”による診断を行うのとほぼ同時に、ジュリオが腰のホルスターから引き抜いた回転式拳銃『スタームルガー・ブラックホーク』の引き金を引いた。

 

 

「おっと」

 

 

 しかし、銃弾はセブンへ到達する前に地面へと叩きつけられてしまう。

 更に銃撃を続けようとするジュリオを手で制して上鳴が言う。

 

 

「にわかに信じ難いがよ……ありゃ、動く死体──脳無だ。銃で倒せるなら困らねぇ。無駄打ちになるからやめとけ」

 

 

「バレてしまったか……つくづく思うよ。何故、“僕”は君の首を刎ね飛ばさなかったのか、とね」

 

 

 セブンの手から青白いオーラが奔り、サイモンの身体から何かを抜き取る。

 投げ捨てられたサイモンを診れば、個性因子が抜け落ちていた。

 

 

 ──喋る脳無ってだけでバカげてる。なのにコイツ、サイモンから“個性”を引き抜いた!? しかもこれは……!

 

 

 セブンの身体から立ち昇る荒々しい熱に、上鳴が目を見開く。

 

 

「これ、“ストレス”の亜種だと聞いていたんだが……中々どうして。慣れれば使い勝手が良いね!」

 

 

 セブンの手から人間大の百足が無数に現れ、上鳴たちに向かって波濤の如く押し寄せた。

 第一波を戦杖で叩き伏せながら思う。

 

 

 ──しかも“呪力”で強化して使ってやがる!? 今までの奴より数倍硬い!

 

 

 他人の空似ではある。けれど嫌に過去を想起させる存在の登場で上鳴に動揺が走る。

 

 

「ミカヅチ、しっかりしろ!」

 

 

「これ今の私の攻撃力じゃ無理! ミカヅチお願い!」

 

 

 しかし、頼れるサイドキック(相棒)たちの声が、それをピタリと止めた。

 正気を根刮ぎ奪ってくる百足の波濤を前に、上鳴は深い呼吸をしてから指先を向けた。

 

 

「ぶっ飛べ!」

 

 

 血液による荷電粒子砲が波濤を穿つ。

 セブンはそれを跳躍して回避。“怪物召還”で生成した、空を飛ぶマンタの怪物の背に着地した。

 

 

「やるねぇ……流石、弱っているとはいえど“僕”を殺した男だ」

 

 

 男の言葉に上鳴は苦い顔で声を絞り出した。

 

 

「……おいおい。死体使って復活か? 魔王じゃなくてワイトキング名乗った方がいいんじゃない?」

 

 

「骨ならオーバーロードの方を名乗りたいかな」

 

 

「何でちょっと詳しいんだよ」

 

 

「長生きすれば知見も増えるさ」

 

 

 次の瞬間、セブンの顔が変わった。目つきの鋭い男から女の顔へと。

 

 

 その瞬間。上鳴電気の脳内に溢れ出した──存在しない記憶

 

 

 鹿紫雲が読んだ漫画の断片的な記憶が、上鳴の頭の中で想起されていく。

 それは初めてオールマイトを見た時にも思い出した、ワンフォーオールの歴史。

 

 

「お前、趣味悪過ぎだろ……!」

 

 

 その女は既に死んでいる。遥か過去。オールマイトに力を託し、未来へ希望を逃す為に。

 殺したのは全盛期のオールフォーワン。なるほど、確かに奴が考えそうなことではあるが──虫唾が走る邪悪さに、上鳴のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

 

「キッショ、何で分かるんだよ」

 

 

 悪辣に笑うその動く屍を、野放しにしてはいけない。

 上鳴が呪力を全身に行き渡らせる。今、ここで目の前の存在を痕跡一つ残さずに消し去る。でなければ必ず禍根を残す。最悪なタイミングで緑谷やオールマイト、グラントリノの前に現れ──致命傷を与えてくるだろう。

 

 

「コガネ、帳の用意だ! ドローンを飛ばせ!」

 

 

 これは無茶ではない──だから、無茶だと判断されても断固として抵抗する。そう決意して上鳴が動き出す。

 

 

「いいのかい? 君がここで足踏みをしている間にも、アンナ・シェルビーノやエリという少女は、痛くて怖くて泣いているかもしれない……私の様な死体に構っていて、君は後悔しないかな?」

 

 

 ヒーローである以上は逃れられない取捨選択。

 上鳴の思考が一瞬だけ澱む。

 

 

「あーあ……君は獣のままの方が強かったんじゃない? だからこんな、子供騙しにも気づかない」

 

 

 マンタの上にいたセブンの身体が風船の様に膨らみ──弾けた。

 

 

「偽物っ!?」

 

 

 弾けた肉体から黒い煙の如く羽虫が飛び出し、辺り一体に広がっていく。

 “個性”でサーチしようにも羽虫がチャフの役割を果たしており、視界は一向に良くならない。

 

 

 ──呪力で強化したら呼び出す化物に能力を与えられんのか!? ふざけんなよ犯罪者が持ってていい“個性”じゃねぇだろ!

 

 

 思考を巡らせる。見えないなら動きを読むしかない。

 視界を遮ったのは逃げるためか、不意を突くためか。はたまた、他の誰かを狙うためか。最悪は三つ目だ。だから上鳴はそれを阻止する為に思考を巡らせる。

 

 

 ──誰だ。誰が狙われる……!

 

 

 セブンには他人の“個性”を奪う力がある。

 更にその言動から、志村奈々の身体を元に作られた脳無を操っているのは、オールフォーワンだと直ぐに分かった。強過ぎる“個性”故に因子その物に意思が宿るという、その特異性で死柄木弔を乗っ取ったのと同じ理屈だ。

 

 

 ──奪った“個性”を他人に与えることだってできるはずだ。連合のメンバーに与えるなら、どの“個性”が最も狙われやすい?

 

 

「わっ……分かるかァッ!?」

 

 

 この場にいる人間だけで見てもそうだが、死穢八斎會邸宅地下にある“個性”で弱い物を探す方が難しい。セブンからすれば宝船も同義だ。特にナイトアイ、エリ、アンナは絶対に欲しい所だろう。

 

 

 であれば──思考を変える必要がある。

 例えば、どうすればより効率的に動けるかを。

 

 

「もしそうなら、狙いは……葉隠ッ」

 

 

『瞬迅雷火』

 

 

 自分の周囲にいる羽虫を一掃する為の広域放電。それは有効な手段ではあったが、仲間の位置を把握しきれていなかったことで最大限には発揮できなかった。

 だから、届かなかった。

 

 

「良い“個性”だ。私がそれを、然るべき人間に渡してあげよう」

 

 

 セブンの手が伸びた先にいたのは、やはり葉隠だった。

 “透明化”の個性は悪用が利きやすい。見えないというのはそれだけで脅威となる。

 

 

 例えばそれが、渡我被身子の手に渡ったら。

 例えばそれが、Mr.コンプレスの手に渡ったら。

 例えばそれが──黒霧の手に渡ったら。

 

 

 例えそれを他人に与えなくとも、“個性”を奪う手が見えないというのは極めて悪質だ。

 考えうる最悪は幾らでも思い浮かぶ。

 

 

 だが、それ以上に。

 

 

「おい」

 

 

 コガネによって操作されたドローンが葉隠とセブンに割って入る。

 上鳴がドローンに込めた呪力を使って電磁バリアを張って、魔の手を弾く。

 

 

「腐り掛けの汚え手で、ウチの葉隠に触れようとしてんじゃねぇよ」

 

 

 転瞬、紫電がセブンの身体を貫いた。

 閃光と共に上半身を大きく抉り、傷口を焼き付ける。

 

 

 そして、コガネに指示して飛ばしていたドローンが全機──セブンの周りを取り囲む。

 

 

「今度は目が覚めないように……きっちり火葬してやるよッ!」

 

 

 稲妻が轟く。

 ドローンが呼び込んだ閃電が互いを結び、その中心にいたセブンへ落雷に匹敵するエネルギーを絶え間なく浴びせ続ける。

 

 

 ドローンが焼け落ちるまで続く怒涛の雷撃。

 後に残ったのは膝立ちになって天を仰ぐ炭化した身体。セブンが放った羽虫も使用者がこうなってしまえば力を失い、空気に溶ける様に消えていった。

 

 

「葉隠っ! 無事か!?」

 

 

 声を荒らげた上鳴が葉隠へ駆け寄る。

 肩を掴んで異常がないか確かめてくる上鳴に、葉隠はぼーっとした様子で小さく頷いた。

 

 

「よかった……本当に……」

 

 

 上鳴がホッと胸を撫で下ろそうとした、その時だった。

 

 

 その背後で()()()()()()()が動き出した。

 

*1
すませるな





 ここまで読んで下さっている皆様に最大限の感謝を……!
 気が付けば合計1500件を超える感想をいただいておりました! 圧倒的な感謝……!

 誤解を招かないように“脳無”セブンについて軽く補足を。
 持っている“個性”の数や詳細な能力やオールフォーワンがコレを作った理由については後々。

 申し訳ないですが、メロンパンは関係ありません。

 善院先生と同じ“既視感のあるオリキャラ”です。ただ夏油のシルエットと、TSお師匠が似てそうだな……とか思っていたら脳みそから出ていたんだ……誰だお前は!!(プロットに書かれた名前の詳細をフォルダの中から探す作業)
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