雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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───最強への挑戦権を得た少年を前に、彼のクラスメイト達は何を思うのか。




ep.08 無敵のアンタを超えて見せる

殺気───普通の人間が生きていく中でそれを明確に感じる機会は極めて少ない。武器を持った人間が目の前に現れ、それを振り翳しでもしない限り中々実感できる物ではない。

 

 

だが、1-Aにはそれに近い経験をした者が少なからずいた。

 

 

上鳴が飢えた獣が如き形相をする傍ら、緑谷と爆豪は瞬時に身構え、ピンク肌の異形型個性の少女、芦戸三奈は過去のトラウマを刺激されて一歩後ろへと下がっていた。

 

 

「どうしたんだい緑谷くん」

「デクくん?」

 

 

「あ、いや……なんでもない。大丈夫」

 

 

緑谷の側にいた飯田と麗日が不思議そうに尋ねる。緑谷はやや挙動不審になりながら否定するが、目は上鳴に向けられたままだった。

 

 

一方、爆豪。

 

 

「爆豪目付きえぐっ」と肘にテープのような器官がある少年瀬呂範太が。

「羨ましいのは分かるけどな」と、たらこ唇の少年砂藤力道が言った。

 

 

「……違ぇよモブ共」

 

 

緑谷と爆豪は1年前にヴィランに襲われている。その時に感じた───否、自分に向けられている訳でもないのにそれを遥かに凌ぐ重厚な圧を今、2人は感じていた。

 

 

『おめでとう爆豪くん! 君の実技は総合2位!例年通りなら1位でもおかしくない好成績だったのさ!』

 

 

「クソが」

 

 

校長を名乗るネズミに似た生物に言われた言葉を思い出した爆豪は、舌打ちと共にそう吐き捨てた。

 

 

爆豪はプライドが高い。自らが1番だと疑わず、そして頂上にいても尚向上心を失わないストイックさも持ち合わせている。

 

 

しかし、幼少期から今に至るまで挫折らしい挫折を実感した事がないからこそ、気圧されたことに苛立ちを隠せないでいた。

 

 

「上鳴くん顔すごいね!」

「ね、もう役入ってんのかな? 案外役者だったり?」

「オイラちょっとこえーよ。爆豪もだけどチンピラじゃねーか」

 

 

補習組が上鳴の豹変に「ほえー」と感心したりビビったりしている横で、顔をマスクで隠した大柄な異形の少年障子目蔵と同じく異形の少年口田が臨戦態勢に近い動きを見せていた。

 

 

「……凄まじいな」と障子。口田は首を何度も縦に振って同意した。

 

 

田舎では異形型は差別の対象になる。

謂れのない誹謗中傷はおろか、人命救助を行っても助けた者に石を投げられることさえ珍しくない。悪意や敵意を浴びてきたからこそ、2人は上鳴の変化に気づくことができていた。

 

そして個性把握テストで1位と2位を飾った八百万百と轟焦凍(2人)

 

 

「凄まじい戦意ですわね」

 

 

「……そうだな」

 

 

少し違うニュアンスでそれを感じていた。

経験値の不足があるものの、幼少期からヒーローになる為の訓練を積んできた賜物だ。それこそ1度でも現場に出れば上鳴の放つ威圧感の正体に辿り着けるだろう。

 

 

2人は他の者とは違い推薦入試で入学した、ある意味この場に残った生徒とは別格の存在。それは単純なる戦闘技能ではなく総合力においてではあるが、高い実力を持っているのは先のテストで上位2名を占めていることからも明らかだった。

 

 

それぞれが反応を示す中、上鳴は授業の為のセットアップを開始した。

 

 

「起きろ、コガネ」

 

 

『stand by ready, set up』

 

 

「カッケェ!」

「興味深い」

上鳴の右耳に装備されていた高性能AIを搭載したデバイスを見て、男子たちが沸く*1

 

 

このデバイスは上鳴が10年前から普段使いしているスカウターの発展型である。一々戦闘中に画面気にしてらんねーよという願いを叶えてくれる便利アイテムだ。

 

 

音声認識機能を搭載しており、上鳴の言葉1つでチームアップ時の連携などを考慮した幾つかのサポートアイテムをスタンドアローンに切り替えたりできる。

 

 

「ドローン展開。コガネ、自立機動をオンにしろ」

 

 

上鳴はポケットから取り出したミニカーサイズのカメラ付きの小型ドローンを飛ばした。

 

 

「びっくりドッキリメカかよ!」

「何でもできるなお前」

「個性の補助をするサポートアイテムというより、上鳴くんの個性で動くサポートアイテムなのかな。ドローンは偵察と情報共有が目的と見ていいはず。行動範囲にもよるだろうけどチームアップ時なら凄い便利な能力だ。それ単体で個性として成り立つレベルだぞ……」

「デクくん、オタクやね」

 

 

「ミカヅチ、前準備はOKかな?」

 

 

「ああ。待たせて悪いなオールマイト」

 

 

上鳴は自身の身の丈を越える長さの戦杖を携え、オールマイトと共にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

『あー、あー、マイクテスト。マイクテスト』

 

暫くして、モニタールームに上鳴の声が響く。

 

『マスター、こちら録音した物を流すだけなのでそれを言う意味はないです』

 

 

『そうなの? マジかよ恥かいたな……まあいいか。簡潔にヴィラン側の動きを説明するぞ。先ずヴィランにはいくつかタイプがある。1、力を使いたくて暴れる奴。2、欲を満たす為に罪を犯す奴。3、犯罪が目的の為の手段だと割り切ってる奴。4、自分のことを犯罪者じゃなくて別の何かだと思ってる奴。大体この4つのどれかに当たるか、混ざった奴が大半の個性犯罪者だ』

 

 

『コールドリーディングみたいですね』

 

 

『やかましいぞコガネ……さて。今回俺は1と2の複合を見せる。多分ヴィランとしてはかなりテンプレートな部類だ。強さはピンキリ。ゴロツキからトップヒーローレベルまでいるから、言動が三下みたいでも油断すんなよ。……あとはオールマイトの動きを誘導する為に……3つ……やりたくねーけど……本当に不本意でつまんねーけど卑怯な手を使う。今軽く例に挙げた奴らがどんな卑怯な手を使ってくるかを考えながら、今回のデモンストレーションを見ておいてくれ』

 

 

上鳴がドローンに軽く手を振り、表情を変える。

 

 

『じゃあ───スタートだ』

 

 

 

 

 

 

オールマイトはコスチュームにつけたマイクがギリギリ拾えるくらいの小声で、今回の対人訓練の舞台である廃ビルを模した建物へと入った。

 

 

オールマイトが伝えるのは基礎の基礎。クリアリングから情報共有の仕方、そしてアジトの様子からヴィランの性格を推測するポイントなどだ。

 

 

その上で、最強は話をこう結ぶ。

 

 

「ただ、今の話は絶対じゃない。真に賢しいヴィランに常識は通じない! 奴等の行動や理念は私たちが立てられる推測の域から飛び出ているからね! 大捕り物なら警察との連携もあるし、その辺りの行動分析に長けたプロヒーローも多い……っと! 早速ヴィランが仕掛けてきたな!」

 

 

話を終え「声震えてなかったかな?」と新米教師らしい不安を抱えたオールマイトに迫る、小型のドローン。スピードはそれなりだが、ライフル弾よりも速く動くオールマイトの目には止まって見えた。

 

 

しかし、それを何なく叩き潰した次の瞬間───オールマイトの目にジグザグに動く閃光が映った。

 

 

段階型先行放電(ステップドリーダー)と呼ばれる現象がある。

 

 

落雷は一見すると一息で地上に到達しているように見える。だが実際は雲の下から出た雷放電が、進んではいったん止まるというのを繰り返しながら前進している。それがステップを刻むように見えたことからこの名前が付いた。

 

 

先行放電が地表付近までたどりつくと、今度は地上から先行放電の先端に向かって放電が始まり、それらが結びつくことで出来上がった放電経路を通って雷は落ちる。

 

 

つまるところ、これは前触れだ。

 

 

「shit!」

 

 

先程オールマイトがドローンを叩き潰した右腕から、先行放電を迎える為の光が走った。

 

 

この瞬間、オールマイトに6年ぶりの緊張が走る。

 

 

何せ彼が今から受けるのは、音の440倍の速度で大気を引き裂き、時に1億ボルト以上の電圧と1ギガジュールにも及ぶエネルギーを有する、必殺の一撃。

 

 

即ち───雷である。

 

 

「ぬ、ぐぅぅぅっ!?」

 

 

オールマイトは体内を高電圧による膨大な熱量に蹂躙されくぐもった声を上げた。同時に身体の至る所から黒煙が昇る。

 

 

当然、上鳴も雷撃の出力を落としてはいた。

それでも受けた者が常人ならば、血液が全て沸騰して気化してもおかしくないだけの熱量をぶつけた筈だった。

 

 

それだけで済んだのは偏に───

 

 

「ヴィランよ! 随分な歓迎だなっ、私じゃなければ死んでいたぞ!」

 

 

───彼がオールマイトだからである。

 

 

弾丸よりも速く空を跳び、天候すらも捻じ曲げてしまう次元違いの膂力。それに耐え得る肉体もまた常識の外側にあった。

 

 

オールマイトの進行方向の曲がり角から姿を見せた上鳴が笑いを噛み殺しながら言う。

 

 

「キッショ……何で死なないんだよ」

 

 

上鳴は10年にも及ぶ血を吐くような厳しい訓練の末、自らの意思で電荷分離を行い、触れた箇所に任意の電荷を移動できるようになった。

 

 

打撃と共に対象へプラス電荷を移動させ、蓄電細胞を働かせることで地面方向への放電をキャンセルしつつ、自身に蓄えたマイナス電荷を対象へと誘導する───上鳴の十八番である。

 

 

そしてそれは、先程繰り出した専用のドローンを介することで”対象が接触した別のモノへと電荷を移す”という現象を任意で引き起こすことができる領域に昇華されていた。

 

 

この場合、ドローンは使い切りになってしまうがそれは別に構わなかった。上鳴はサポートアイテムの力に頼り切るつもりなど毛頭ない。

 

 

師、曰く───得物を持ったヒーローはダサい。

 

 

そこまで極端な考えを上鳴は持っていない。だが、唆る戦いに無粋な物を積極的に使うつもりもなかった。

 

 

上鳴は背後に浮かぶドローンに向かって指を1本立てた。そして、その動作に警戒を見せるオールマイトに向かって言った。

 

 

「まあ冗談はさておき……オールマイト。お前は俺の個性を知っているな?」

 

 

「ああ勿論だとも。個性”帯電”。文字通り、体表に電気エネルギーを纏う能力だろう? 弛まぬ努力で様々な応用を身につけてはいるようだがな」

 

 

「正解だ……ただ今見てもらっている通り、俺はその力を使ってドローンを操作している。遠隔での機械の操作だ。この意味がわかるか?」

 

 

「……まさか!」

 

 

「そう。俺は今すぐにでも遠隔で核兵器を起動できるってことだ」

 

 

ドローンに向かって上鳴が2本目の指を立てた。

 

 

「でも、そんなつまらん真似をするつもりはねぇ。俺はなオールマイト。この鍛えた力をアンタに……最強にぶつけて試す為だけに核兵器を奪ったんだよ!」

 

 

「自らの私欲のためにっ、人々を巻き込むのか!」

 

 

「そうだ! それがヴィランだ! ……気づいているか? 今アンタの後ろを一機のドローンが飛んでいることを」

 

 

「ああ、勿論だとも!」

「おおっと壊すなよ! そいつを壊したら核兵器が爆発するぞ!」

 

 

上鳴の言葉にオールマイトはピタリと動きを止めた。

 

 

『これはメタ発言になりますが本機にそのような能力はございません。本機はモニタールームへの映像中継を行なっております。だから壊さないでください』

 

 

「…………厄介な!」

 

 

「…………そういう訳だ!」

 

 

気勢を削がれた2人は揃って咳払いをした。絶妙に締まらない。

 

 

「そもそも俺はアンタと戦えるなら核兵器なんざどうでもいい………なあ分かるだろ? 俺を倒せば全部丸く収まるってことだ! ………なあ、これ位でもういいか?」

 

 

「何?」

 

 

上鳴はドローンに指を3本立てた。

誘導はこれで終わりだということをモニタールームにアピールしているのだ。

 

 

───これは授業を円滑に進める為のデモンストレーションだけど、オールマイトはこうも言ってた。「お前の力を見せてみろ」と。つまりこれは単なるお手本なんかじゃなくて、俺に課せられた受難でもあるということだ………本当に有り難い。こんな機会が残りの学生生活で何度あるか分からないからな。だからこそ。

 

 

「これで、義理立ては出来たかな」

 

 

この場を用意してくれた雄英への義理を果たすため、上鳴は授業の体裁を整える意に沿わない手段を使い、無駄な会話*2をしたのだ。

 

 

言葉の意味に気付いたオールマイトが目を見開き、言った。

 

 

「HAHAHA! 本当にやんちゃボーイだな、上鳴少年! だが構わないよ! ここからは遠慮なく、マジで来なさい!」

 

 

「あぁ………行くぞ最強」

 

 

オールマイトの側を飛んでいたドローンは上鳴の顔を映さないように飛行した。とてもヒーローの卵には見せられないような、それこそ本物のヴィランのような顔をしていたからだ。

 

 

上鳴が戦杖を構える。

 

 

オールマイトも上鳴に合わせて拳を構えた。

 

 

そうして両者が睨み合うことで生まれた僅かな静寂。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを破ったのは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『身体許容上限1000%───閃電疾駆(オーバードライブ)

 

 

コガネの合成音声だった。

 

 

刹那、オールマイトの視界から上鳴が消えた。

 

 

閃電疾駆の許容上限は基本100%である。

この数値は上鳴が入学式会場からグラウンドまでを風圧による飛行で移動した”3倍速”に相当し、その名前の通り素の身体能力と比較すると3倍の力を発揮できる技だ。

 

 

この許容上限というのは強化された膂力に肉体が付いていけるかではなく、身体能力を強化する為に使う電気エネルギーに肉体が耐え切れるかどうかを意味している。

 

 

3倍速は肉体に一切負荷が掛かっていない状態で出せる最高出力。これを100%とし、それ以上の状態を部分的かつ段階的に引き出していくのが通常の戦闘方法───しかし、上鳴はそれがオールマイトに通じないことを初手のダメージから覚っていた。

 

 

故に上鳴は『確実に当てられるという確信のある初撃』に、限界を大きく超えた力を乗せることを決めた。

 

 

オールマイトの目が上鳴を捉える。

 

 

「来いッ! 少年!」

 

 

上鳴の身体から肉体の限界を無視したエネルギーが奔る。オールマイトが先程受けた電撃にも匹敵するそれを纏えば、電気系の個性を持っていてもただではすまない。

 

 

だが上鳴はそのリスクを気合いで凌駕していた。

 

 

オールマイトは上鳴の戦杖の間合いに自分が入り、攻撃の初動が見えたタイミングで得物をへし折る為のカウンターを放つ体勢へと移った。

 

 

程なくしてオールマイトは上鳴の間合いに入った。

ここまで、1秒にも満たない。

 

 

そして上鳴が動きを見せると同時にオールマイトも動いた。

 

 

交差する視線。互いの意図を読み合い、どちらが予想を裏切りファーストアタックを奪うのか。

 

 

上鳴が戦杖を振るう───オールマイトは予定通り、それをへし折るべく拳を放った。

 

 

しかし。

 

 

カランと音を立てて杖が床に転がり、オールマイトのカウンターが空を切った。

 

 

「なっ!?」

 

 

戦杖を振るう動作はフェイントだった。

 

 

そして、得物による一撃を警戒していたオールマイトは得物を捨てた上鳴の動きに対応できない。

 

 

更に一歩───上鳴が強く足を前へと踏み込んで、拳を硬く握り締めた。

 

 

───届かせる。俺が積み上げてきた物を全て、この一撃に乗せるッ!

 

 

PlusUltra(ぶっ飛べ)!!」

 

 

上鳴が放った拳がオールマイトの分厚い腹筋を捉え、その巨躯をくの字に曲げながらビルの外まで弾き飛ばした。

 

 

オールマイトは空中で体勢を整えることができず、三棟のビルを貫通。四棟目のビルが崩落したことで瓦礫の山に沈み、止まった。

 

 

辺りに立ちこめる砂埃を払い上鳴が言う。

 

 

「アンタも人間だ。光や音を使えば隙を作るのだって容易い。電磁波で内臓を焼くのもいいだろう。授業の内容に沿えばヴィラン側は取れる手段も多いし、幾らでも戦いを優位に進められる。そのまま制限時間までいなしてしまえば、俺の勝ちだ。だが───

 

 

それは雑魚の思考だ

 

 

瓦礫を吹き飛ばして立ち上がる最強の前で、上鳴は牙を剥き出しにする獣の様に笑った。

 

 

「これでもう油断はないか? 最強」

 

 

そして、口元を拭う仕草をするオールマイトに向かって叫ぶ。

 

 

「この3分弱の間に、無敵のアンタを超えて見せるッ!」

 

 

───自分への勝利宣言に、オールマイトもまた不敵な笑みを返すのだった。

 

 

 

 

*1
男の子はいつの時代も喋るアイテムが好き

*2
本人的には





キリいいとこで文字数が増えてきたので切ります。色々と苦渋の決断が多々ありますが、これで行くことにします。
というか1話に収まんないよこれ。
あと雷のプロセスが合ってるか分からないんですけど。調べた参考文献の単語が違うのはなぜ? 先駆放電なの? 先行放電なの? どっちなんだい!? ヤー! パワー!(ヤケクソ)



次回 ───「猛れ、稲妻」
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