雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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ep.82 賽は投げられた

 

 治崎はダークマイトによって窮地を脱した後、態勢を立て直すべくとある場所へと送り込まれていた。

 

 

「医務室か……」

 

 

 場所は城の中層。

 道具や薬に頼らずとも自分の“個性”で治療ができる自分を何故ここに送り込んだのか。治崎が辺りを見回せば、直ぐに答えが分かった。

 ベッドの上でゴリーニファミリーの幹部が横たわっていたのだ。

 

 

「個性……個性が……」

 

 

「化物共め……ボス……私たちはまだ……」

 

 

 治崎が舌打ちを交えながら、譫言を垂れ流す幹部連中の治療を済ませたのも束の間。壮絶な破砕音が城の外から聞こえ、治崎は慌てて窓へと駆け寄った。

 

 

「馬鹿な……」

 

 

 そして、そこから見えた物に対して、治崎はただ呆然と肩を落とす事しか出来なかった。

 自分を曲げ、憎しみを押し留めて、首を垂れた相手が──まだ高校一年生の少年に蹂躙されていた。

 

 

 分かっていたつもりだった。

 

 

 確かに、上鳴電気はオールフォーワンを打倒した新時代の英雄だ。

 だがバルド・ゴリーニ(ダークマイト)とて欧州の覇者。格で言えば遜色はないし、その力が極端に劣っているとは思えなかった。

 

 

「それがこの始末か……笑えてくるなァ、ダークマイト……!」

 

 

 大口を叩いておきながらこの体たらく。上鳴とダークマイトの間には、大人と子供のような瞭然たる差が広がっている。

 治崎の心境は「見誤った」の一言に尽きた。

 だが、それでも──

 

 

「……負けられないんだよ、俺は」

 

 

 治崎は殴り飛ばされたダークマイトがいる方向へ向かって、走り出した。

 

 

 

 

 

 上鳴の拳打はダークマイトの鼻っ柱を捉え、“錬金”の仮面を打ち砕いた。それだけで打撃の威力が収まる訳もなく、ダークマイトは船上に建てられた城の頂上にまで殴り飛ばされていた。

 

 

「派手にやり過ぎたか……」

 

 

 上鳴は拡張した因子を元に戻し、ダークマイトが着弾した地点まで向かう。

 大きく崩れた壁を踏み越え、視界を塞ぐ砂埃を“個性”で無視。そして、近くに耳郎たちがいるのを捉え──叫んだ。

 

 

「イヤホン=ジャック、インビジブルガール! 要救助者は!」

 

 

「ミ、ミカヅチ!? こっちは大丈夫!」

 

 

「何したのミカヅチ!」

 

 

 ジュリオとアンナを連れて駆け寄ってくる二人に、上鳴は歯を見せて笑う。

 

 

「三流マフィアのボスを殴り飛ばしただけだ」

 

 

「さ、三流……」

 

 

「お嬢様。こちらのお方の言うことはあまり真に受けないでください。常識の向こう側から喋られてますので」

 

 

「何かジュリオ……早くも俺の扱いが分かってきたな」

 

 

 鼻の下を指で擦る。

 

 

「何でちょっと誇らしげなのよ」と耳郎。

 

 

「今のはバッチリ悪口だよ上鳴くん!」葉隠が身振り手振りを交えて言う。

 

 

「別にいいんだよそれはな──デボラは?」

 

 

 上鳴が尋ねると葉隠が得意げに胸を張って言った。

 

 

「イヤホン=ジャックの索敵で位置が分かってたので……! ジュリオさんが片目を閉じて義眼だけで突入! “個性”が通じなくてビビってる敵を、私が死角から殴る蹴るの暴行で仕留めました!」

 

 

「言い方が虎さんみてぇだな……よくやった」

 

 

 林間合宿で出会ったワイプシの虎を思い出しつつ、上鳴が葉隠の肩を叩く。

 そして、小さくなってしまったアンナに視線を合わせるため、床に膝を突いて言った。

 

 

「シェルビーノさん。この前は助けられなくって本当に悪かった。ありゃあ、完全に俺の落ち度だった。本当ならもっと早くに……」

 

 

 上鳴の言葉を遮るように、アンナが口を開く。

 

 

「大丈夫よ。こうして助けに来てくれたんだもの。ジュリオにまた会えるなんて思ってなかったから……チャンスを作ってくれた貴方に感謝することはあっても、責めることなんてありませんわ」

 

 

 笑顔で恭しく礼をするアンナに上鳴は敬服する他ない。

 改めて深々と頭を下げて礼を言ってから、本題へと移る。

 

 

「じゃあ、こっからはナイトアイ事務所との合流を……」

 

 

 しかし、そんな和やかな空気をぶち壊すように──男の絶叫が木霊した。

 

 

「あ、あああああああああああ!!? 俺の、俺の顔がああああああ!!」

 

 

 ダークマイトの素顔は人相の悪い中年の男に過ぎない。それがバルド・ゴリーニ、虚飾の象徴の真実だった。

 自分の顔に触れながらのたうち回る男に向かって、上鳴は静かに言った。

 

 

「……ゴリーニ、もうお前らは終わりだ」

 

 

「終わり……? そんな筈が、そんな筈がない! 俺は象徴だ……負けるなんて、あり得るわけが……!」

 

 

「それじゃあ俺らには勝てねぇよ。諦めて大人しく投降しろ」

 

 

「投降? ヨーロッパの支配者たるこの俺が!? あり得んのだよそんな事はッ!」

 

 

 瓦礫を押し除けて立ち上がり、上鳴を見る目に憎悪が燃える。

 しかし、“錬金”のマスクで再びオールマイトの顔を模す姿はひたすらに哀れだった。

 

 

「そうかよ」

 

 

 吐き捨てるように、上鳴はそう一言だけ呟いた。

 それから戦杖に電流を這わせ、澱みない足取りで男の下へ向かった。

 

 

「ああああああ!!」

 

 

 咆哮と共に掴みかかってきた男に、上鳴が戦杖で打突を仕掛ける。

 それを避けさせるのと同時に杖を手放し、身体を捻りながら床へ手をやって──卍蹴りを叩き込んだ。

 タタラを踏む男に上鳴の掌底が突き刺さる。

 

 

「まだ……まだだ……! 俺は象徴に……!」

 

 

 確かに男は強かった。だが、上鳴には決して届かない。

 この一撃で電荷の蓄積は十分になされた──互いを結ぶように青い稲妻が走る。

 

 

「無理だろ。だってお前、弱いもん」

 

 

 刹那、必中の雷撃が“錬金”の鎧を貫いて男の意思を刈り取った。

 

 

 ──お前がもし、真に象徴足る精神を持っていたら……素直に強かったって言えたんだけどな。

 

 

 仰向けになって倒れる男に抱くのは失望にも似た呆れだけだ。

 しかし、男から視線を外す寸前に上鳴は気がついた。

 

 

「お」

 

 

 引き剥がされた鎧から顕になった男の中指が、自分に向かって突き立てられていたのだ。

 

 

 当たってから動いたのではない。先の雷撃はそれを許すほど出力を下げてはいなかった。

 つまり、これは撃たれる前か、撃たれる直前に男が反応していたということで。

 

 

 ──俺はダークマイトじゃなくて、バルド・ゴリーニと戦いたかったよ。

 

 

 馬鹿騒ぎはこれにて閉幕。

 後は敵連合を捕縛し、船と城を雄英の空き地で解体すればケリが付く。

 

 

 

 

 しかし、次の瞬間。

 

 

 

 

「ここからは賭けだな──」

 

 

 油断というにはあまりに小さい間隙。それを縫う様に、ダークマイトが倒れ伏した場所から人間の腕が生えてきた。

 

 

 それは意識を失ったダークマイトの顔を鷲掴み、瞬く間に血霧へ変わるまで()()していく。

 

 

「おい……オーバーホールは緑谷たちの担当だろ……!」

 

 

 “個性”から腕の主に当たりをつけた上鳴は、がりがりと後頭部を掻いた。

 

 

 しかし冷静になって考えると、上鳴には目の前の凶行を行っている人物が、緑谷たちから逃げ切れる程の脅威には思えなかった。十中八九、何かしらの援護を受けたのだろうと推測できた。

 

 

 それが連合かゴリーニかはどうでもいい。

 

 

 ──どちらもあるうる。そんだけだ。

 

 

 問題は治崎の持つ“個性”。

 

 

 ──奴の“力”は物体の分解と再構築。ダークマイトを(バラ)した理由は……分からん! だがこういう時の嫌な予感はよく当たる!

 

 

 上鳴は即座にその場から後退。

 背中に戦杖を担いで声を張り上げる。

 

 

「ジュリオ、ちゃんとお嬢様抱えとけよ!」

 

 

 そう言うや否や、自分は両脇に耳郎と葉隠を抱え込む。そしてジュリオに地下突入後に使用した鎖を投げ渡し、反対側を咥え込んだ。

 

 

一旦(いったん)、引くぞ!」

 

 

 壁の穴から上鳴たちが飛び出したのとほぼ同時、閃光と共に城の頂上が消し飛んだ。

 

 

 上鳴が飛散する瓦礫を電磁バリアで防ぎながら、大気を蹴り上げた衝撃波で砂埃を払い除ける。

 

 

 そうして露わになったのは、夥しい量の血によって赤く染った白亜の塔。そして、その中心に立つ見たことのない異形の怪物だ。

 

 

 怪物は三メートルほどある赤黒い体躯と、頭部にオールマイトを思わせる二本の角を持っていた。裂けた口からは黄ばんだ歯を覗かせており、胸の中央には巨大化した“賢者の石”が妖しい光を瞬かせている。

 

 

 更に、“賢者の石”からは植物の根の様な物が全身へ広がり、石が点滅する度に脈打っていた。

 

 

 ダークマイトと異なる画風に興味は唆られる。だが──

 

 

「何、あのヴィラン!?」

 

 

「なんか頭の角のディティールといい……オールマイトに寄せてるつもり!? 似てないぞー!!」

 

 

「別にファンって訳じゃねぇけどよ……確かにこれは苛つくな」

 

 

 上鳴が耳郎たちと共に顔を顰めていると、怪物が地鳴りのような声を発する。

 

 

「お、俺は……象、徴……違う……死穢八斎會、の……オヤジ……」

 

 

 何もない場所へ向かって取り留めのない言葉を呟き続ける様は、異様の一言に尽きる。

 上鳴が“個性”を使って怪物を診れば、その理由は直ぐに判明した。

 

 

「因子が喧嘩してやがる……なるほど。肉体の制御権を奪い合ってるんだな?」

 

 

 ──オーバーホールがダークマイトの身体を乗っ取ろうとしてんのか……なるほど。身体が欲しいのは“賢者の石”に適応できるからだな? 

 

 

 上鳴は適当な建物の屋根に着地して四人を下ろした。

 それから目を怪物へと向けたまま、更に深くその体躯を観察する。

 

 

「因子はデボラ・ゴリーニと……全く知らんのが、二つ」

 

 

 上鳴の目に映る個性因子の数は六つ。

 

 

 その内の半分には見覚えがあり、残る三つの内の一つがオーバーホールである以上、上鳴たちにとって未知の因子は二つ。

 

 

 ──仲間が取り込まれていないことを祈るしかないな。

 

 

 上鳴が肩を回して戦杖へと手を伸ばす。

 何にせよ、やるべき事は変わらない。ヒーローとしての役割を全うするだけなのだから。

 

 

「作戦会議だ。アレが動きを止めてる間に、色々済ますぞ」

 

 

 

 

 

 上鳴たちが異形の怪物と化した治崎らと相対する一方で、船内での戦いも激化の一途を辿っていた。

 

 

 ──船内上層。

 

 

「皆さん、落ち着いてください!」

 

 

「大丈夫です! 我々が必ず、安全な場所までお連れします!」

 

 

 リューキュウ事務所をはじめ、死穢八斎會邸宅の外にいたヒーローと警察は軒並み上層で固まっていた。

 彼らは地下から迫り上がってきた何かが周囲を巻き込む様を目撃しており、いち早く一般人の保護に努めていた。

 

 

「リューキュウ! この階は皆で一通り見たけど、もう誰もいないと思う!」

 

 

 波動からの報告を受け、ヒーロー側の陣頭指揮を担当していたリューキュウが情報を整理する。

 

 

「保護した民間人は三十人。外の状況はウラビティとフロッピーからの報告だと空の上。しかもかなりのスピードで移動中……けど、この場には救助に向いた“個性”の持ち主も多い……」

 

 

 リューキュー事務所は比較的、空中機動に定評のある面子が揃っている。何よりウラビティ、麗日お茶子の“ゼログラビティ”は正にこの場においてうってつけの“個性”。使わない手はない。

 

 

「これより我々は民間人の避難を第一に動きます!」

 

 

 無論、仲間の安否や当初の目的は気になる。

 しかし、ヒーローとして成すべきことを放り出してまで追求することではない。仲間として信頼しているなら、尚更に。

 

 

「ねじれ、壁を破壊して頂戴! 私とウラビティで何回かに分けて彼らを安全な場所へ降ろします!」

 

 

 そうする事が仲間の背中を守り、悪を討つことに繋がると信じて。

 

 

 

 

 

 ──船内中層。

 

 

「だぁぁぁぁぁ!? くそっ! 数多すぎやろ!!」

 

 

「ファット! あっちにも敵が!」

 

 

「アホ抜かせ、サンイーター! どこ向いたら敵おらんっちゅーねん! もう脂肪が半分なくなった、柔らか軽戦車ファットさんにはちとキツいで!!」

 

 

 赤い宝石──“賢者の石”を片手に迫り来るヤクザとマフィアの連合部隊に対し、ファットガムはサンイーターこと天喰を中心に対応していた。

 その背後には重傷を負った切島が倒れている。

 

 

「ファット……先輩……俺も……!」

 

 

「大丈夫や!! ここはファットさんと雄英三年最強の男に任せとき!!」

 

 

「……最強になったのはミリオだ」

 

 

「だまらっしゃい!! 100%の力で親友と戦ってからしか、その台詞は吐いたらアカン!!」

 

 

 この状況になる前に彼らが戦っていたのは、死穢八斎會・鉄砲玉“八斎衆”だ。

 

 

 正史においては、窃野、宝生、多部の三人組を天喰が、乱波と天蓋をファットガムと切島の二人で撃破している。

 

 

 しかし、歴史は既に乱れている。天蓋はこの作戦が始まる前に上鳴によって捕縛されており、地下はダークマイトらの手で改築された。

 

 

 その結果が、乱波と三人組との同時戦闘だった。

 

 

 ファットガム事務所は決して弱くはないが、その四人との相性が良くなかった。

 

 

 多部、窃野は天喰に対して優位に立てる手合いであり、乱波の攻撃速度と打撃力はファットガムの対応可能範囲を超えていた。単純なマッチアップとして、“硬化”の切島に“結晶”を持つ宝生を当てるだけで、ヒーロー側は苦戦を強いられる。

 

 

 しかし、切島が乱波からのヘイトを稼ぎながら、天喰と致命的に相性が悪い多部にインファイトを仕掛けるファインプレーにより、状況は一変した。数的不利と相性不利の同時解決により、天喰が活躍できる場を整えたのである。

 

 

 そうやってどうにか撃破したものの──混乱の最中にある現状で、切島は唯一身動きが取れなくなる程の怪我を負ってしまっていた。

 

 

 既に肉体は満身創痍。

 

 

 全身に打撲と咬傷。機動力も攻撃力も全てが格上の二人に対し、味方が敵を撃破するまでの十分を稼ぐという値千金の活躍を果たした。

 もう休んでもいいと、誰もがそう言うだろう。

 

 

 だが、切島は立ち上がった。

 

 

 傷口を、折れた骨を、噛みちぎられた脇腹を──“硬化”で無理矢理塞ぎ、床を破る勢いで四股を踏んだ。

 

 

「レッド!?」

 

 

 思い出すのはかつての自分。

 恐怖の前に足を止めた原点(オリジン)

 変わりたかった。強くなりたかった。守れるヒーローになりたかった。

 

 

 ──なれなかった。

 

 

 あの夜、友達が自分たちを助けるために、血反吐を吐いて戦っていたのに──アイツは強いからと楽観した。

 

 

 だから今度こそ、友の背中を守れるように。誰かを守れるヒーローになるために。

 

 

「なんやこの音は!?」

 

 

「金属が擦れ合うような……!」

 

 

 切島の身体から火花が散る。

 壮絶な異音と共に、肉体がより鋭く、より硬く、際限なく硬度を増していく。

 

 

「守れ……殉じろ……」

 

 

 幽鬼の如き声に、“賢者の石”でハイになったヴィランたちが立ち止まる。

 

 

 かつて、オールマイトは言った。思想犯の目は静かに燃ゆる物だと。

 

 

 時にその眼差しは人を惹きつけ、畏怖を抱かせる。“ヒーロー殺し”のステインなどがそうだった。

 

 

「甘く見とった……俺も、お前らも」

 

 

 しかし、それはヴィランだけの特権ではない。

 真の英雄と呼ばれる者は一瞥だけで悪を怯ませ、その眼差しで誰かの心を照らす。

 

 

 そこに“個性”の強弱など関係ない。

 必要なのは何者をも凌駕する意志の力。

 

 

 それだけが人を、限界の一歩先へと連れていく。

 

 

 絶体絶命の窮地。満身創痍の身体。

 死の淵にあって尚、褪せることのない“守り抜く”という強い信念。

 

 

烈怒頼雄斗(レッドライオット)っちゅうヒーローの、漢気を……!」

 

 

 切島の目にはもう、綺羅星の如き光が宿っている。

 

 

「来いよ、ヴィランども──」

 

 

 かつて、ファットガムは切島に教えた。

 敵退治とは、如何に素早く戦意を消失させるかだと。

 

 

 一歩、また一歩と歩き出す切島の動きに合わせて敵の波が退いていく。

 

 

 ファットガムと天喰を背にした切島が咆える。

 

 

「俺が相手だ!! 全身全霊で掛かってこい!!」

 

 

 烈怒頼雄斗(レッドライオット)の眼光に、ヴィランたちは震え上がった。

 

 

 

 

 

 ──船内()()

 

 

「さて……厄介なのは。イレイザーヘッドだね」

 

 

 そこは戦場だった。

 

 

「敵連合!!」

 

 

 額に縫い目のある女、セブンが率いるのは連合屈指の癖者であるトゥワイスと渡我。

 ヒーロー側の戦力に不足はないが──相手が悪いという他なかった。

 

 

「やったれ脳無ども!!」

 

 

 手軽にトップヒーロー級のネームドヴィランを量産できるトゥワイス。

 

 

 彼の手で生み出されたのは、よりにもよってUSJで上鳴が倒した対オールマイト用サンドバッグ。データとイメージさえあれば二倍にできるトゥワイスにとって、規格化された怪人“脳無”を増やす事は造作もない。

 

 

「出久くんもお茶子ちゃんもいない……電気くんにも会いたかったのになぁ」

 

 

 タイプは血塗れの男女──可愛ければ尚、良し。そう公言する渡我は、本人の戦闘力こそまだ常識的な範囲だが、こと混戦においてその気配遮断能力は脅威である。

 

 

 血を抜かれ、そのまま変身されでもしたら手が付けられない。仲間さえも警戒し、常に背後からの一撃に気を配らなくてはならない状況は、人間の精神を著しく消耗させる。

 

 

「ナイトアイ、イレイザーヘッド、そして核の子供……うん。より取り見取りだ」

 

 

 得体の知れない空気を醸すセブンは渡我からシャツを借りて羽織っていたが、豊満かつ鍛え抜かれた肢体を隠すには全く足りていなかった。

 

 

「痴女だ──ッ!?」と通形。

 

 

 彼は叫びながら壊理の目を隠している。

 ナイトアイが眼鏡を押し上げて言う。

 

 

「エリちゃんはともかく……私とイレイザーヘッドもだと?」

 

 

「ああ。“抹消”は十年以上欲しかったんだけど、中々いい機会に恵まれなくてね──それは君の“予知”に関しても同じか。だって彼、強過ぎたんだもん」

 

 

 セブンが言う彼が誰なのかは問うまでもない。

 

 

「オールフォーワンの関係者か……なるほど。趣味の悪さにも頷ける」

 

 

「この格好は趣味じゃない。ミカヅチに燃やされてね。不可抗力ってやつさ」

 

 

「私の服の問題じゃないと思うんですけど??」

 

 

 頬を膨らませる渡我を尻目に、セブンがナイトアイたちへ手を翳す。

 

 

 “怪物召還”によって虚空から一体の怪物が姿を現した。四本の腕に象の頭部を持った異形の存在を見たヒーローたちに緊張が走る。

 

 

「それは、ゴリーニファミリーの!?」

 

 

「まあね。稚拙ながら色々と手は加えさせて貰ってるけど」

 

 

 セブンは怪物に触れて、笑った。

 

 

「そういう訳だから──君たちの“個性”もくれないか?」

 

 

 能力が未知数のセブン。

 耐久性に難があっても、それらをカバーする“個性”を持った脳無を生み出すトゥワイス。

 背後にチラつく渡我の影。

 

 

 ヒーローたちの不安を感じ取った壊理が通形のコスチュームの裾を掴んだ。

 

 

「大丈夫だよ、エリちゃん。今度こそ、俺たちが必ず守って見せる」

 

 

 だが、ここにはダークマイトとは違う本物の輝きを持つ男──ルミリオンがいる。

 

 

「カッコいいねヒーロー……それじゃあ、お手並み拝見といこうか」

 

 

 死戦の幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 そして再び──甲板。

 作戦会議を終えた上鳴たちに援軍が到着する。

 

 

「お、来た来た」

 

 

「ミカヅチ!」

 

 

 城の入り口を閉ざしていた門扉をこじ開けて、緑谷が上鳴たちに合流した。

 上鳴は自分に駆け寄ってくる緑谷に言った。

 

 

「ナイスタイミングだデク! でもお前は帰れ!」

 

 

「え、ええええ!?」

 

 

 耳を疑うような上鳴の言葉に、緑谷が靴底を擦り減らしながら急停止する。

 上鳴はそれに構わず理由を言った。

 

 

「詳細はちと省くが……ナイトアイと保護対象が危ない。こっちは俺らで何とかなるから、下に戻ってくれ」

 

 

 通信手段が有れば良かったのだが──残念ながらなかった。資源は有限。葉隠とジュリオの分だけで手一杯である。

 上鳴に緑谷が言う。

 

 

「無茶は無しだからね」

 

 

「デク、お前もか。心配せんで良いよ……いざという時は猫の手借りるから」

 

 

 その視線の先にはジュリオとアンナがいる。

 首を傾げるアンナと、嫌な予感に冷や汗を垂らすジュリオ。緑谷は二人を見ていると何故か圧縮訓練の地獄を思い出しそうになって、かぶりを振った。

 

 

「敵の脅威は()()()()()()()()()()筈だ──行け。そっちは任せた」

 

 

 上鳴はそんな緑谷の様子を無視し、最低限の内容で話を締めた。

 

 

「……分かった。また後で!」

 

 

 それが信頼の証である事はわざわざ口にしなくても良い。

 緑谷がここに来た時以上の速度で駆けていく。その背中に上鳴が言う。

 

 

「の前に」

 

 

 緑谷が顔面から転けた。

 

 

「あれの中にオーバーホールとダークマイト以外の個性因子がある……心当たりないか? お前んとこ担当だろ、オバホは」

 

 

「オ、オバホ……多分、若頭補佐の玄野と八斎衆の音本だと思う。僕らが戦った時に分解して取り込んでたから」

 

 

 ──やってることエグいな。気色悪過ぎてドン引きだぜ。

 

 

 上鳴だけでなく耳郎たちも頬を引き攣らせながら、今度こそ緑谷を送り出した。

 何とも言えない空気だけが場に残るが、それを打ち破るようにジュリオが叫ぶ。

 

 

「ヴィランの様子が……!」

 

 

 上鳴の目にもう個性因子の衝突は見えなかった。それはつまり、敵の用意が整ったということだ。

 

 

「ねぇ、何で身動き取れなかった間に攻撃しなかったの?」と葉隠。

 

 

「下手に突いて変な暴走したら堪らんだろ……どうすんだ、この船を爆弾に再構築とかされたら。雄英どころか静岡県が消し飛ぶし、それで富士山が爆発してみろ。日本は終わりだ」

 

 

 ダークマイトの肉体を取り込んだ治崎に、アンナ・シェルビーノの“過剰変容”が適応されるとしたらあり得ない話ではない。

 “錬金”と“オーバーホール”の融合が常軌を逸した力を生むことは、誰にだって容易に想像が付く。

 

 

 だが、ある程度の理性があればそんな真似はしない。支配する土地と人がいなければ、支配者は支配者足り得ない。

 世界を壊すだけを目的とするような狂気も信念も、死穢八斎會とゴリーニファミリーには無い。

 

 

 ──その理性があるかどうか分からんのが懸念点だが。

 

 

「さァ……勝負を始めようぜ」

 

 

 上鳴が呟いたのと同時、ヴィランの咆哮が天地を揺るがした。

 

 

 雄英に船が落ちるまで──あと二十分。

 





 ようやく終盤戦に入りました! もう暫しお付き合いください!

 
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