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《前回のあらすじ》
治崎マイト「なんだ……これは」(五人分の走馬灯)
上鳴「敵連合と船、どうしよっかな……まあ緑谷おるし、先輩もおる! とりあえず船!」
「なるほど……流石は継承者といったところか。これだけの戦力差でよく粘る」
そう言って嘲笑うセブンの前に立つ緑谷には少なくない怪我があった。
額から血を流し、拳に付けていたガントレットも砕けている。
スーツもあちこちが破けており、そこから見える肌には赤黒い痣や裂傷が刻まれていた。
「いくら“二倍”で増やした物とは言え、対オールマイト用の脳無をこうもあっさり破壊してのけるとは」
緑谷が戦っていたのは、USJで上鳴が対峙した“脳無”が二体。
それらはトゥワイスの“個性”と極めて相性が良い、衝撃への強い耐性を持った個体だ。
動きが規則的で読み易いとは言え、意思なき怪物であるが故に“危機感知”が反応しないのも痛手だった。
「君が来るまではイレイザーヘッドとルミリオンにとことん時間を稼がれた……流石に焦ったよ。何一つ取れないで帰ったら私も心が痛む」
イレイザーヘッドとルミリオンは、今も息を荒らげながらセブンが繰り出した怪物を相手に戦っている。
百足に烏賊、牛頭の魔人にペリカンめいた怪鳥──その他、多数。
緑谷が来るまではそこに“脳無”まで加わる窮地。その上で二人はエリを庇いながらも戦い続けていた。
他の連合メンバーに関しては、ナイトアイが渡我の“未来”を見た上で行動を制限するように動き、ロックロックと警官隊がトゥワイスの本体と交戦。
しかし、ルミリオンたちがセブンの物量を捌き切れずに怪物の援軍を許したことで、ナイトアイを除いて戦闘不能に陥っていた。
緑谷が来なければとうに壊滅していただろうが、現在も戦況は最悪に近い。
──どうする?
緑谷は考える。
己が今、何をすべきなのかを。
「早くイレイザーヘッドとルミリオンに加勢するべきだ。エリちゃんにこれ以上、怖い目にあって欲しくない」
その胸中をセブンがピタリと言い当てる。
「ナイトアイの援護に回る方がいいんじゃないか。渡我被身子を無力化すれば、背後からの奇襲を気にする必要がなくなる。立ち回りの幅が広がる」
お前の考えていることなど手に取るように分かる。そう言いたげなセブンの顔を見て、緑谷の手に力が入った。
「いや、それより先ずはトゥワイスを抑えて戦力の均衡を取り戻さないと。もしもマスキュラーや他のヴィランを呼び出されたりしたら、大変な事になる」
しかし、戦況を覆すための思考は掻き立てられた生理的嫌悪によって塗り潰されてしまう。
「……めろ」
「なんだい?」
「やめろ! その顔で、声で……! それ以上、口を利くな!」
青筋を浮かべてがなるように叫ぶ緑谷に、セブンは口角を上げた。
「師匠からこの身体の持ち主について聞いているんだね? 良い弟子だ。師の気持ちになって怒っている……オールマイトも誇らしいだろうね、っと、喋っている最中に攻撃かい!」
緑谷が放った“黒鞭”をセブンが喋りながら飄々と躱す。
「動きが素直だ」
『奴に喋らせるな、九代目!!』
二代目、駆藤の幻影が告げる。
他の継承者たちも同意するかの如く姿を見せた。その目にあるのは、例えようのない嫌悪。何せ今のセブンの姿は、ワンフォーオール七代目継承者である志村奈々の生前の姿。彼女をよく知る者達が憤らない筈がない。
『頼む、緑谷くん。あれがオールマイトの……俊典の前に現れる前に、跡形もなく消し去ってくれ……!』
そう言う志村の声は震えていた。
怒り、悲しみ、そして業を背負わせるようなことを頼み込む情けなさが、彼女を追い込んでいた。
緑谷の身体から溢れ出した“黒鞭”がイレイザーヘッドの捕縛布の様に首に巻かれ、ワンフォーオールの力が青緑のオーラとなって髪を逆立てる。
綺羅星の如き威容を瞳に宿し、緑谷は吼えた。
「お前らは何で、こんな人の死と尊厳を弄ぶような真似ができるんだッ!!」
「ワイン作りと一緒さ。踏み躙り、絞り出したそれを飲む時……この上ない幸福を覚えるんだよ。特に上手く出来上がった時は格別でね」
近づいて来る緑谷を嫌うように、男の姿になったセブンが“浮遊・反転”で圧力を掛ける。
押し付けられた超重量は力の極致たるワンフォーオールを縛りつけるには少し足りない。
しかし、動きを阻害するだけなら十分だった。緑谷がもたついている間に、セブンが悠々と距離を取る。
『近づけない!』
『……厄介だな』
六代目と三代目の言葉に緑谷も歯噛みする。
“個性”反転──それは実質的な手数の増大を実現しており、副次的な効果による肉体の変容は間合い・重心の変化をさせ、緑谷を惑わしている。
「実戦経験が少ないね。ミカヅチならこの程度、簡単に対応してくるよ?」
緑谷の唯一の欠点。
それは実戦経験の不足である。
入学してから今に至るまで、上鳴との鍛錬を始め多くの強敵と戦ってはきたものの──それは指で数えられる程の物でしかない。
「少年、ただの大きな力では私を捕まえられない」
女の姿に戻ったセブンが虚空から白い龍を呼び出した。
光の加減によっては七色にも見える鱗を持ったその龍は、床を砕きながら雄叫びを上げ、緑谷に向かって突撃していく。
「くっ!?」
鋭い牙が緑谷の肩口を掠めた。
それだけで肉が弾け飛び、鮮血が舞う。
「だけ、ど──!」
耐えられない程ではない。
緑谷はこれまで、腕が爆散するような痛みに耐えながら戦ってきた。この程度で足を止めていたら、マスキュラーに殺されている。
身を捩らせて進路を変え、龍が咆える。
二度目の突進。
龍の牙が身体に触れるか、触れないかの紙一重の所で──緑谷は真上へ跳んでそれを避けた。
同時に“浮遊”で空中での制動を補助しながら“黒鞭”で龍の口を縛り上げ、無理矢理塞ぐ。
「マンチェスタースマッシュ!!」
その状態で“黒鞭”を引き寄せ、渾身の踵落としで龍の頭部を破壊した。
「硬度に拘って作ってみたんだが……少し甘かったかな? じゃあ、今度はこれだ」
息つく暇も与えない。
セブンを中心に青緑の力場が広がり始める。
『避けろ九代目!!』
四代目の声を受けた緑谷がエアフォースを推進力にして力場から逃れると、力場は程なくして拡大を止めた。
そこに飲み込まれた物体の動きが極端に緩慢になっていくのを見て、緑谷の背筋を冷たい汗が伝う。
「これも、ゴリーニファミリー幹部の“個性”……!」
「ご名答だ。孫弟子くん」
「お前は七代目じゃない!!」
否定と共に、緑谷が震脚で砕いた床材を殴り付けて打ち出した。上鳴から教わった即席の遠距離攻撃手段である。
一切の加減無しに放たれた礫は鉄板だろうが簡単に貫く。常人に当たれば怪我では済まない。
「それは上鳴くんが見せてくれたからね。対処方法は用意している」
“ドレインスポット”
それは力場の範囲内に入った生物・無機物の時間を遅延する“個性”。
ただし、“個性”の使用者、使用者が触れた任意の存在はその効果を受けない。
セブンはこれによって速度を落とした礫を避けようとした。
しかし──
「
ワンフォーオールによって強化された“変速”の加速力と、緑谷がそれを打ち出した力をセブンは甘く見積もっていた。
遅延を受けて尚、それは弾丸の如く“ドレインスポット”を突っ切り、セブンの胸部を貫通。
風穴を開けると共に“ドレインスポット”の効果を中断させた。
“反転”の起動と“ドレインスポット”の再行使。
これらは同時には行えず若干のタイムラグがある。
その間隙を縫う様に、緑谷が一気にセブンとの彼我の距離を縮めた。
「君にこの身体を壊せるかい?」
『もうアレは私じゃない!! 今ここで!! やるんだ!!』
志村の声が緑谷の背を押した。
「っ……! ごめんなさい、七代目!!」
3rd“発勁”+ 5th“黒鞭”+ 6th“煙幕”──因子解放『噴流紫煙』
「デトロイトJETスマッシュ!!」
赤紫の煙を推進力に変え、極限まで加速した緑谷の拳がセブンの腹部を捉える。
脊椎を砕き、肉を千切る嫌な感触。確実に獲ったと思わせるだけの手応え。
「君の敗因は──その拳で私の頭を砕かなかったことだ」
しかし、打ちどころが悪かった。
“反転”が間に合う。セブンは男に変化しながら壊れた肉体を再生し、それを終えると同時に女に戻った。
吐息が掛かるほどの距離でセブンは緑谷に言う。
「ストレスの下位互換……上鳴くんが“呪力”と呼ぶこれは、精神に由来する力だ」
床を砕いて現れた百足の怪異が緑谷に絡み付き、拘束する。振り解こうにも体勢が悪い。
「何故か分からないがこの身でもちゃんと使えてね……因子を強化すれば“個性”その物を飛躍的に伸ばすこともできる。今の私なら、
緑谷の頬にセブンの手が伸びる。
ゴリーニファミリー幹部の“個性”をひけらかすように使うセブンを見ていれば、それが何を意味するのか分かりきっていた。
「やめろ!!」
相澤が叫んだ。
しかし、“抹消”の効果は脳無が身を挺して防いだことでセブンには届かない。
「させるか!!」
ナイトアイが超質量印を投げた。
別の脳無がそれを打ち落とし、返す刀でナイトアイを殴り飛ばした。
通形が、倒れていたロックロックが、警察が──緑谷に伸びる魔の手を叩き落とさんと躍動する。
しかし、その道を塞ぐ様に連合の面々が動いていた。
「させませんよ」
「やらせねーよ!」
「やるならどうぞ!」
敵連合の目的は最初から一つ。
ゴリーニファミリーの“個性”も、ヒーローの“個性”も──セブンが緑谷の存在に気付いた時点で、全てサブプランに落ちた。
本命は仲間を守るために現れた“ワンフォーオール”を奪うこと。
オールフォーワンは特殊過ぎて、それその物の出力を他の“個性”によって引き上げられなかったが──“呪力”によって強化された簒奪の力であれば、大器を育てるまでもなく。
「返してもらうよ。“ワンフォーオール”を」
その力に手が届く。
──筈だった。
「……何?」
しかし、他者の“個性”を奪う手は緑谷に届かなかった。
「これは驚いたな……」
邪魔をしたのは他でもない、
緑谷へ触れようとしたセブンの腕は、逆側の手によって掴み上げられていた。
それだけではない。
セブンの意思に反して独りでに口が開かれた。
「少年……逃げろっ……この手が、君の未来をっ……奪う前にッ!!」
その今にも泣き出しそうな顔を見た瞬間、緑谷の頭は真っ白になった。
上手く言葉が出ない。
話し方を忘れてしまったのではないかと、そう錯覚してしまう。
──脳無の最上位存在、ハイエンドと称されるランクの個体は生前の人格を元に“個”を形成する。
死体である上に投薬によって変質したそれは、元人格が抱いていた執着以外の原型を失う。
しかし、セブンは最初から
脳無という存在を生み出す前に試された、オールフォーワンの体細胞を生物に移植するという実験の成れの果て。
その成果物の殆どは既に破棄されたか、試験運用中に破壊された。しかし、肉体の貴重性とオールマイトへの嫌がらせだけを理由に、セブンは研究室の奥で眠らされていた。
起動のきっかけはオールフォーワンの死。
用意周到な男は神野での戦いで死ぬことを想定しており、その後の動きも段取りをつけていたのである。
それが、オールフォーワンに代わって死柄木の完成を目指す存在──
起動する前に損壊していた肉体を志村奈々自身の細胞から作り出した生体義肢で補い、更に脳無ハイエンドに近しくなるよう施術を行った。
稼働期間は長くて一年。膂力等はハイエンドらに比べるまでもなく劣る。あくまでも、腐り落ちないようにする為に加工した。
見目を保つことの方が切れる札が多かったから、志村奈々としての形が残っていることを何より重要視した。
唯一の誤算は元の素材を活かすために志村奈々としての部分を残し過ぎたこと。
これにより、本来ならば消えてなくなる筈だった志村奈々の人格が残ってしまっていた。
「ボサっとするな、少年……! 私がこうして表に出ていられる時間は、そう長くない!」
『九代目!!』
二人の志村奈々から別々の言葉が届く。
「逃げろ!!」
『君に頼むことが、どれだけ酷いことかは分かってるッ! それでも……お願いだ、殺してくれ……!』
緑谷は拳を振り抜いた。
否、振り抜きはした、というのが正しいか。
躊躇いながら放たれた拳で捉えられる筈もなく、セブンは後方へ宙返りして緑谷の拳を避けていた。
「甘いねぇヒーロー。それが人を不幸にすると知りながら、どうして出来ない? ああ、可哀想な名も知らぬ誰か──君のせいでまた一人、誰かが不幸になるよ」
セブンに志村の面影はもう無い。
『耳を貸すな。緑谷くん……』
「初代……っ! でも!」
志村はオールマイトの大切な人だ。そのオールマイトが緑谷の母を見て「私の師匠に似ている」と話していたこともあった。
緑谷自身、優しく“個性”にアドバイスをくれる志村の姿に、母と重ねてしまう部分が全くなかったなんて口が裂けても言えない。
──頭では分かっている。分かってる、けど……!
誇り高き女傑の尊厳を踏み躙る蛮行を止めるには、その身体を破壊する以外にない。
だからと言って「もう本人は死んでいるのだから、目の前の志村奈々は殺していい」だなんて──緑谷に言える筈がなかった。
そんな緑谷の葛藤さえ嘲笑うように。
「それにしても………くくく、くはっ! ダメだもう我慢できない!! あ───っはっはっはっ!!」
狂ったように身を捩ってセブンが笑い出した。
「こんなに笑ったのは生まれて初めてかもしれない!! “呪力”のおかげかな!? それともこの身体のおかげか、あるいはその両方か!!」
その姿を見て、緑谷は治崎を相手にした時のように怒ることさえ出来なかった。
ただ唖然と見ていることしか出来ないでいた。
「こんな愉快なことがあるかい!? “呪力”の出所が分からなくて困っていたら……たっはーっ!! まさかこの身体で、まだあの女が生きていたとは!!」
目の前で笑い転げるそれを見て覚えたのは、生まれて初めて知る激情。
──何なんだ……何なんだ、お前は!!
緑谷が喉を乱暴に掻きむしる。今は言葉が出ないことが、救いにすら感じられる。
「そりゃあ不愉快だろうさ! 憎いだろうさ! 自分の夫を殺した憎き仇が、我が物顔で身体をめちゃくちゃにし、他人の尊厳を陵辱しているのだから!!」
己の不甲斐なさに腹が立つなどということは、今までの人生で何度もあった。
『アレはもう兄さんですらない。もっと悍ましい何かだ……!』
初代の戦慄さえ、もう聞こえない。
「何か言ったらどうだい?」
だが、今は──
「いいよ。何を言われても許すよ。私はすこぶる機嫌が良いから……何せ、世界の見え方が変わった!! 負の感情を知る前と知ったあとじゃあ、その解像度が違う!! なるほど、この一点において私は“僕”を超えた!!」
ただ、ひたすらに。
この現実を突きつけてくる諸悪を。
ただひたすらに──
「ナメやがって」
その瞬間、緑谷の腹の底から溢れた物が全てを凌駕した。
「何だって? 聞こえな───ガッ、はあっ!?」
黒鞭でセブンの背後にあった瓦礫を掴み、腕を引いて加速。緑谷は黒鞭の張力を十全に生かしたドロップキックを、セブンの顔面に見舞った。
「おいお、ブベッ!? 師匠の師匠だぜ、私はっ!? 人の心とかっ」
──逃げられない! 何だこの異様に粘着質な戦い方は!?
セブンとの彼我の距離を常に縮めるように動きながら、無数のジャブと渾身のストレートを放ち続ける。
言葉にするのは簡単だが、その実現は困難を極める。熟練のボクサーであっても余程の実力差がなければ成立しないような状況。
だが、緑谷はやってのけた。
逃げ回るセブンを圧倒的な膂力とスピードで追い詰める。
セブンに、否、その主たる人格を占めるオールフォーワンに、六年ぶりの緊張が走る。
「いいね!! いくらこの身体が白兵戦に向いていないとは言え、呪力で強化すれば多少やれるし、
セブンが拙い呪力操作で拳を強化したその瞬間だった。
「下手くそがッ!!」
緑谷の口が悪くなる時は、いつもその脳裏を幼馴染が過っている。鮮烈な勝利のイメージを爆豪と重ねているからだ。
絶対に負けられない戦いにおいて、それの有無は事の明暗を分ける。だからこその無意識下でのトレースだった。
セブンの拳が振り抜かれるよりも
一拍遅れで拳が振り抜かれた時には、緑谷はエアフォースで背後を取り、自らの拳に力を込めていた。
「私の初動を……読んだのか!?」
呪力とほぼ同じ性質を持つ“ストレス”のエネルギーや、“帯電”と混ざった“呪力”が視認可能なのと同様に、この世界では呪力を持たない人間であってもその力を認識することができる。
呪術師の格を決めるのは術式の強さや汎用的な術の引き出しではない。
呪力操作だ。どれだけ術式が優れていようとも、乙骨憂太のような外れ値を除き、何をするのかが丸わかりになっている相手に負けることの方が難しい。
そして、この世界で最も“呪力”の扱いに長けた男と戦い続けていた緑谷の目は──人よりも少しばかり鋭い。
「見え見えなんだよ!!」
セブンのそれは上鳴とは比較にならないほど大味だ。だからこそ、呪力強化を始めたセブンの動きの全てが手に取るように分かった。
緑谷が回避に移るセブンに向かって一歩、力強く踏み込む。
「ワンフォーオール・フルカウル、100%──!」
“黒鞭”で筋骨を直接補強した右腕に“発勁”の力を上乗せした渾身の一撃。
「デトロイトスマッシュ!!」
セブンの顔面に緑谷の拳が捩じ込まれた。
その衝撃波で、船体が激しく揺れる。
──力の責任を果たせ……! 僕は誰に力を託された! 誰にこの場を任された! 懺悔なら後で幾らでもできる!
「お前がぶっ壊れるまで……!! 殴るのを、やめない!!」
全身を“黒鞭”で内側から補強。
許容上限を超過した力に肉体が軋む。
痛みを無視して放たれた拳は、しかし、セブンの“怪物召還”によって呼び出された怪物によって防がれてしまう。
セブンは先程までの高揚が嘘のような平坦な声音で返した。
「付き合ってあげてもいいんだけどね……もう時間みたいだ」
刹那、天地がひっくり返る様な衝撃が下層全域を走り抜けた。
その間隙を縫う様にしてセブンが下がる。
入れ替わる様に現れた二体の脳無の内、一体が緑谷へ組みつき、もう一体は両腕を床へ向かって振り下ろした。
蜘蛛の巣状に亀裂が走り、船底まで続く穴が抉じ開けられる。
「お先です! またね出久くん! 今度はゆっくりお喋りしたいなぁ!」
「じゃあなヒーローども!」
敵連合の二人が次々に飛び込んでいく。
それに続く様にセブンも穴へ向かって足を向けた。
「待てッ!!」
緑谷の手から伸びた“黒鞭”がセブンの左腕へと巻き付く。
しかし、それはセブンが腕を力任せに引き千切ったことで意味を失った。
「覚悟が遅かったね」
そう言い残したセブンが穴から落ちていく。
落下途中に空を飛ぶマンタの怪物を作り出し、連合の面々を連れて逃げていく。
「行くな緑谷ッ!!」
相澤の制止を振り切って、緑谷は穴へ飛び込んだ。今の緑谷なら“浮遊”と拳圧だけでも十分な機動力がある。噴流紫煙を使えば、短時間ではあるが上鳴や爆豪に比肩する空中機動も可能だ。多少空が飛べる程度では、緑谷からは逃げられない。
「まあ、そうくるよね」
セブンは理解していた。
理解していた上で逃げたのだ。
「君には選択肢がある。私たちを逃さなくてもいいが──」
船底を抜けたそこから見えるのは、緑谷にとって覚えのある街並み。
「その時は、雄英の下に広がるこの街が滅ぶだろうね」
それは最悪と最悪の二択問題。
突き付けられたそれに、緑谷は迷うことなく。
「帰ろうか」
セブンの声を背に下唇を噛んだ。赤い雫が顎を伝う。しかし、それを拭う時間はない。船体の高度がガクンと落ち始めたのだ。墜落まで、もう幾ばくの時間が残されているか分からない。
緑谷が急いで来た道を引き返すと、そこには上層や中層で戦っていたヒーローたちが集結していた。
真っ先に緑谷に気付いたのは麗日だ。
「デクくん!!」
「ウラビティ! それにプロヒーローの皆さんも! 丁度よかった……! 大変です! 雄英がもうすぐそこまで!!」
緑谷の言葉に「やはり」という空気が広がる。
船とは名ばかりの空飛ぶ要塞が墜落した時の被害状況など、想定したくもない。
ただの破壊規模だけで比較しても神野事変に次ぐ物となるだろう。
これを止められる可能性があるのは、規格外の力である“ワンフォーオール”。
「悪い!! ヴィランの拘束やらシェルビーノさんの保護とかそのほか諸々、警察やらと連携してたら遅れた!!」
そして──“
捕らえたヴィランを警察に引き渡し、雄英に保護対象であるアンナを預けてきた上鳴が合流した。
はい。という訳でセブンの正体が明らかになりました。石を投げるのはやめてください……どうしても書きたかったんです……頭が取れたトンボ……自我あるけど……
次回で完全に死穢八斎會編は終わりです!