雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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 いつも拙作を読んでいただいている皆様、誠にありがとうございます!
 因果応報回です!!



ep.85 風の目

 

 ──やっぱ間に合わなかったか。

 

 

 道中で敵連合と出会わなかったこと。

 そして緑谷の曇った顔を見て、上鳴は後頭部を掻いた。

 

 

 セブンを捕らえられなかった事の意味は大きい。五体満足のオールフォーワンを野放しにしている様な物だ。今後、少なくない被害が各地で出るだろう。

 

 

 ──しかも“脳無”を量産される可能性がある……いや、本当にもう……やってくれたな敵連合。“インスタントアッチ側”の相手をさせられる俺らの気持ちを考え……た上だな。反吐が出るぜ。

 

 

 未来の惨劇を想像し、上鳴は眉間へ皺を寄せるがすぐに切り替えた。目下対処すべき問題がある。

 

 

「とりあえず、このデケェ船をどうにかしないとな」

 

 

 上鳴の話を遮る様にファットガムが叫ぶ。

 

 

「どないかする言うたって、どないすんねん!? このサイズの重量物を受け止めるなんて不可能やぞ!!」

 

 

 その言葉は正しい。

 確かにジャンボジェット機の不時着くらいなら身一つでやってのけるヒーローも世界にはいる。オールマイトもそうだが、アメリカで活動中のとある日本人ヒーローはデビュー戦で旅客機の不時着を成功させている。

 

 

 だが、コンテナ船より二回り以上大きい船の着陸など史上例を見ない。

 出来るとすれば。

 

 

「全盛期のオールマイトならできるだろ?」

 

 

 事もなさげに上鳴が言い放つと、ロックロックが噛み付いた。

 

 

「そのオールマイトがもういないんだろうが……!」

 

 

 この絶望的な状況下で、無い物ねだりをして何になる──やはり、プロの言葉は正しい。

 けれど正しいだけだ。上鳴とは話の前提が違う。

 

 

「そうだな。でも、()()()がいる」

 

 

 プロの弱気を切り捨てた勢いで、上鳴は緑谷の背中を力強く叩いた。

 

 

「それは後にしてくれ。流石にこれを俺一人でどうにかするなんて無理だ」

 

 

 上鳴も消耗はしている。それでもやれなくはないが、無茶をするとなると相澤からの信頼を損なうことになるだろう。セブンを捕縛する為なら価値はあるが、緑谷の力を借りれば済む話ならわざわざ危険を犯す必要もない。

 

 

「やろうぜヒーロー。今、俺たちにできる事をさ」

 

 

 緑谷の目に光が戻ったのを確認してから、上鳴は言った。

 

 

「オールマイトはいねぇ。だが、俺と緑谷の馬力ならそれに近い水準で作戦を立てられる。異論あるか?」

 

 

「異論はないが……実際問題、受け止めるなんて荒唐無稽は通らないんだろう? どうするつもりだ」

 

 

 相澤の言葉に上鳴は頷いた。

 

 

「だからやる事はシンプルだ。皆にはこれから、徹底的にこの船をぶっ壊してもらう」

 

 

 全員に動揺が走る。

 

 

「空中に飛散した瓦礫は、リューキュウ事務所と、外で待機中の雄英に細かく砕いてもらって、街へ被害が出ないようホークスが対処する」

 

 

「外で待機中!? もう手筈整えとったんか自分!!」

 

 

「言ったろ。警察やら何やらって」

 

 

「分かるかいな……言葉足らずとかそんなレベルとちゃうで……」

 

 

「そりゃ悪かったっすわ……で、だ。皆でエッホエッホと解体している間、俺と緑谷の二人がかりで、この船を我が校が誇る最大の更地──グラウンド・βまで引っ張る」

 

 

 上鳴の身振り手振りに、雄英BIG3が口々に言う。

 

 

「誇ってはいないんだよね。断じて」

「ねぇねぇ。それ、風評被害って言うんだよ? 知ってた?」

「一年生怖い……」

 

 

「船体をいくら軽くしたとしても軟着陸には間に合わない。なので、最後に俺が残ってる部分を良い感じにぶっ壊す」

 

 

 先輩をガン無視する上鳴に相澤が言う。

 

 

「最後。何でそんな無計画な言い方をするんだ」

 

 

「だって船なんて壊したことねーもん」

 

 

 上鳴は「バスとかはあるけど」と言いそうになった口を慌てて閉じた。

 じっとりした目を全員から向けられた上鳴が咳払いで誤魔化そうとすると同時に、船が大きく揺れる。

 

 

「アカン! もう言うてる場合ちゃうわコレ!」

 

 

 ──耳郎に先んじて船をぶっ壊してもらってる事は、言わないでおこう。

 

 

 バレたらクソガキの謗りは免れない事を考えながら、上鳴はいけしゃあしゃあと手を叩いて注目を集めた。

 

 

「世間に見せてやろうぜ、オールマイトがいなくてもヒーローはやれるって事をよ!!」

 

 

 良い感じに纏めたせいで「裏があるな」と相澤にバレてしまったのは余談である。

 

 

 

 

 

 そうして──上鳴の立てた作戦が始まった。

 

 

 船の破壊はファットガム事務所と耳郎。雄英サポート科が用意した爆破物を用いるなどして担当する。

 

 

 地上に向かって落下する瓦礫を破壊するのがリューキュウ事務所と雄英戦力。

 

 

 雄英が用意した対空戦力は完全武装の0P敵ロボット『エグゼキューター』が六機。

 そこに、たまたまインターンから帰ってきていた爆豪勝己を加えた布陣である。尚、爆豪に関しては船の破壊も業務内容に含まれている。

 

 

 破壊された瓦礫で人的被害が出ない様に輸送するのはホークスの仕事だ。“剛翼”の精密で素早い動きならそれが可能だと判断された。

 

 

 民間人等の避難は援軍として来たヒーローや警察が対応する。

 

 

 そして最後に、沈み行く船を雄英のグラウンド・βへと運ぶのが──

 

 

「んぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」

 

 

「重てぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 緑谷と上鳴の二名である。

 緑谷が船首側で“黒鞭”を使って舵取りをしながら、グラウンド・βへ誘導。上鳴が途中で墜落しない様に船体を支えつつ、船を押し進める。

 

 

「ご覧ください!! 今、雄英に向かって落ちゆく船を二人の英雄が懸命に牽引しながら、ヒーローたちが総力を上げて解体しています!!」

 

 

 ──報道ヘリ邪魔ァッ!!

 

 

 上鳴は叫びそうになったが何とか自制した。爆豪と思わしき人影がそこへ向かってかっ飛んでいくのが見えていたからだ。

 

 

 爆豪に脅されたヘリが離れていくのを尻目に、上鳴はコガネを使って耳郎にコンタクトを取る。

 

 

「そっちいい感じ!?」

 

 

「良い感じ!! あと十分頂戴!!」

 

 

「ねーよそんな時間!!」

 

 

 端的に言って時間が足りない。

 船だけならば良かったのだが、甲板に建造された城や廃墟と化した街、オールマイトの巨像が思いの外、邪魔だった。

 

 

「策士だな、ダークマイト……!」

 

 

 単なる趣味である。

 

 

「ミカヅチィ!! 人を爆弾代わりに使ってンだ!! 適当な所に落としやがったら承知しねーぞ!!」

 

 

「そうは言うがなバクゴー!! 結構きついんだぜコレ! やってみ!?」

 

 

 上鳴が叫び返すと爆豪が言った。

 

 

「バクゴーじゃねェ!! 今の俺ァ、大・爆・殺・神!! ダイナマイトだ!!」

 

 

 その時、上鳴に電流走る。

 

 

「お、おぉ……」

 

 

 爆豪のネーミングセンスは小二と称される。

 子供受けは良いかもしれないが、その子供にさえすぐにダサいと思われるようなセンスである。

 

 

 しかし、それ故に上鳴にはよく刺さった。

 

 

「イイじゃん!! 大爆殺神ダイナマイト!!」

 

 

 コガネで通話を繋ぎっぱなしにしていたせいで、会話が丸聞こえの耳郎が笑い過ぎて悶絶する中、グラウンド・βが上鳴の視界に入る。

 

 

「ラストスパート!!」

 

 

 船体が軽くなるにつれて押し進める速度が上がっていく。

 

 

 速度が上がり過ぎても問題のため、緑谷と上鳴は位置を交代。減速させながら限界まで解体を進める。

 

 

 その最中、一際巨大な爆発が甲板で轟いた。

 爆豪のハウザーインパクト・クラスターだ。壮絶な破壊力に船が軋み、甲板にあった瓦礫が一掃されたことで急激に船体が軽くなる。

 

 

 最後に雄英側から、上鳴と緑谷を除いたヒーローの撤退を伝える信号弾が打ち上がった。

 

 

「ミカヅチ、後は頼んだよ」

 

 

 通信機から入った耳郎の声に、上鳴が笑って応える。

 

 

「任せな。最後にでかい花火を見せてやるよ」

 

 

 上鳴は船首から離れ、一人でグラウンド・βへと着地。

 

 

 再び“超新星”の用意を開始する。

 

 

 力の収束に時間を掛けるため、緑谷が噴流紫煙の最大出力を船の船首から逆噴射。落下速度を遅らせる。

 

 

 程なくして、緑谷に撤退を告げる信号弾が打ち上がり──初撃。

 

 

 

『“超新星(ビックバンアタック)”』

 

 

 

 コガネの合成音声に続いて発射した“超新星”が船体を直撃。鼓膜が破けるような重低音を周囲に響かせながら爆発し、船を全壊させる。

 

 

 大小様々な瓦礫がグラウンドへ雨霰と降り注ぐ中──上鳴は指先に紫電を収束させ、弓を構える様な姿勢をとった。

 

 

「遊聖」

 

 

 上鳴は“超新星”を放つ前に二つの縛りを結んでいた。

 

 

 一つ目は多対一での“超新星”の使用禁止。

 

 

 これにより、“超新星”によって破壊された物体には、上鳴が雷撃を誘導する為に必要な電荷が付与される。塵一つとして例外はない。

 

 

「背反」

 

 

 落雷の際、電流が空中等で複数の枝に分かれ、同時に複数の場所を打つ現象を分岐放電と呼ぶ。

 

 

「金剛の矢」

 

 

 上鳴が構えているのは、“超新星”という大技の直後でしか放てないという縛りによって成り立つ、対象数を飛躍的に拡張した分岐放電。

 

 

 

「“(なるかみ)”」

 

 

 

 呪詞と共に放たれた紫電の矢は、砕かれた船の残骸、その全てへと必中した。

 

 

 稲妻とは摂氏三万度の熱エネルギーであり、それが通り抜けた大気は絶縁破壊を起こすと同時に爆裂。音速を超える衝撃波を撒き散らす。

 

 

 巨大な瓦礫が落雷を間近に受けた衝撃で砕け、飛び散った破片にも新たな雷撃が向かう。

 

 

 天地を震わせる雷鳴が、目を焼くような閃光が、全てを塵に変えるまで絶え間なく空を駆け抜ける。

 

 

 光と音が止んだ後にはもう──何も残らない。

 

 

「さ、流石にキツイな……!」

 

 

 上鳴は成果を見て満足気に頷いた後、重たい身体に鞭を打って敵連合の警戒に向かった。

 

 

 勝利の後ほど気が緩む瞬間などない。

 この隙を敵連合が見逃すとは思えなかった。

 

 

 

 しかし、敵連合の姿はどこにもなく。

 

 

 

 かくして、死穢八斎會・ゴリーニファミリー・敵連合という三つの組織によって引き起こされた大事件は幕を閉じた。

 

 

 ヒーロー側に重軽傷者が多数出たものの命に別状なし。非人道的な実験体として囚われていた壊理、拉致監禁されていたアンナ・シェルビーノも無事に保護された。単なる成果としては大円団と言っていいだろう。

 

 

 しかし、敵連合は誰一人として捕えられず、捕えたヴィランの中には“個性”を失った者が数名見つかっていた。

 

 

 それらを全て公表するリスクの高さから、作戦に参加したヒーローをはじめ、多くの関係者に緘口令が敷かれることになった。

 

 

 更に、この情報統制を誤魔化す為、()()()()()()事件は別の方向で大々的に報道される事となり、大なり小なり関わった人間の運命を変えていくことになる。

 

 

 それぞれの思いを胸に、ヒーローたちは元の日常へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 そして──幕引きの後。

 

 

 死穢八斎會若頭『治崎廻』とゴリーニファミリーボス『バルド・ゴリーニ』は、警察による護送の最中、敵連合による襲撃を受けていた。

 

 

「よお。久しぶりだな、お二人さん」

 

 

 死柄木が警察車両を破壊。その中にいた拘束された治崎とバルドを、マグネとスピナーが道路の上へと引き摺り出す。

 

 

 拘束台の上で目を丸くする二人に死柄木は笑い掛けた。

 

 

「二人揃って護送されるって聞いてワクワクしながら見に来たのにさ……ぷっ。ダークマイトだっけ? どうしたんその面」

 

 

「あらやだ! 男らしくて素敵!」

 

 

 しなを作るマグネに死んだ目を向ける二人。

 死柄木は腹を揺すった。

 

 

「お前は……」

 

 

「どうしたんだよ若頭、もっと喜べよ。俺たちがお前らを助けに来た可能性だってある訳なんだから──さァ!!」

 

 

「ぐぉぇ!?」

 

 

「んがぁ!?」

 

 

 死柄木は治崎の腹の上に勢いよく座り込み、足をバルドの顔に乗せた。

 

 

「あ〜気分いい。最高。こんなに気持ちいいのは、雑魚相手にイージー煽りしてる時くらいだぜ。お前らもちゃんとやってるか? 良いゲーム、楽勝だったぜ(ggez)ってな」

 

 

「カスのマナー講座はやめろよ」

 

 

 スピナーの苦言を死柄木が鼻で笑う。

 

 

「俺たちはヴィランだ。雑魚の通報が怖くて煽り厨なんかやってられるかよ……」

 

 

「ちょっとちょっと! ゲームの話じゃなくて、今は現実の話をしましょ?」

 

 

「それもそうか。じゃあ、先にコイツから」

 

 

 治崎の懐を弄った死柄木は一つのケースを見つけ出し、中身を検めた。

 

 

「おっ、やっぱりな」

 

 

 個性破壊弾の完成系だ。

 

 

「返せ」

 

 

「いいぜ。じゃあ……お前は()()()()()()()()()?」

 

 

「……は?」

 

 

「は? じゃねぇよ。当たり前だろ。立場を考えてくんないとなぁ? ……スピナー、そこのパチマイトも漁れ」

 

 

「えぇ……わかったよ。やるよ。やりゃいいんだろ!」

 

 

 渋々、スピナーがバルドの懐を漁る。

 出てきたのは何でもないロケットだ。

 

 

「何だこれ」

 

 

「やめろ! 触るな!」

 

 

 死柄木は治崎から立ち上がり、辺りを警戒していたマグネと共にスピナーの手元を覗き込んだ。

 そこに映っていたのはオールマイトと初老の男だ。後者は十中八九、先代のボス──バルドの父だろう。

 

 

「ファザコンかよ。笑えるな」と死柄木。

 

 

「お前が顔につけてる手、オヤジさんのじゃなかったっけ?」

 

 

「……やめようか。この話」

 

 

「便利な掌ねぇ」

 

 

 マグネの言葉が死柄木の虚しさを引き立てる。

 それを咳払いで誤魔化しながら、死柄木は改めて治崎に問い掛けた。

 

 

「で、結局お前はさ……我が身可愛さで何まで差し出せる?」

 

 

「……金を」

 

 

「あのさぁ……自分が無理だって思ってる時点で、それが交渉のカードになる訳ないだろ。幼卒だからって馬鹿にすんなよ?」

 

 

「なら、何を……!」

 

 

「ピキんなよ。とにかく全部だ。全部寄越せ。富も力も命も、尊厳も……テメェにはもう握り締める資格なんてねぇんだよ」

 

 

 それは、最悪の最後通牒だった。

 

 

「まあ? 俺だって鬼じゃない。全部くれるってんなら一つだけお前の願いを叶えてやる。そうだな──組長との面談なんてどうだ?」

 

 

 治崎もバルドも軽く見ていた。死柄木弔の底を、彼がオールフォーワンの弟子であることを。

 すなわち、どれだけ死柄木が人が嫌がることをする(ヴィランとしての)才能に満ち溢れているのかを。

 

 

「お前は、どこまでっ」

 

 

「質問に質問で返すなよ。時間がないんだ。早く答えろ」

 

 

 組長は治崎に残った最後の執着だ。それを引き合いに出されればもう、彼は死柄木に屈するしかない。

 

 

 バルド・ゴリーニの時とも異なる完全なる恭順。牙を抜かれた獣はただ、全てを捧げる覚悟で新たな主人に忠誠を誓う。

 

 

「死柄木……なんでもする。俺のことは好きにすればいい……だから、組長に……一言だけでいいから、声を」

 

 

 

 

 

 惜しむべきは、相手が悪かったことだ。

 

 

 

 

 

「そうかそうか。大事なんだな……組長のことが」

 

 

 

 

 

 死柄木に、それを受け止める良心は────ない。

 

 

 

 

 

「断る」

 

 

 

 

 

 治崎の顔から色が抜け落ち、それに比例するように死柄木の口角が吊り上がっていく。

 

 

 そして、死柄木は奪い取った“個性破壊弾”の針を治崎の腕へ突き刺した。

 

 

「いひっ、ひひひっ……アッハッハッハッハッ!!」

 

 

「あ、あぁ? あぐっ」

 

 

 死柄木が腹を揺すりながら治崎の顔面を足で踏み躙り、天を仰ぐ。

 

 

「矜持も未来も!! お前の全てを捧げて!! 俺に寄り縋ろうと!! 何も得られないなんてなぁ!! 惨めだなぁ!! この上なく惨めだぜ!! 若頭!!」

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

「しかも、お前が積み上げてきた成果は、俺の物になっちまった!! “個性”無くそうって言ってるやつがバリバリ使ってんの見た時から、ずっっっとこうするって決めてたんだよ俺は!!」

 

 

 格付けは完全に済んだ。

 

 

 死柄木が何故、出しゃばらなかったのか。

 死柄木が何故、表向きは恭順に近い姿勢を見せたのか。

 

 

 その全てがそこには詰まっていた。

 

 

「これからお前は!! 俺たちが世界をぶっ壊す様を指咥えて見てるだけだ!!」

 

 

 半狂乱のまま叫び続ける治崎を、死柄木たちは嗤い続ける。

 だが、程なくして聞こえてきたパトカーのサイレンによってそれは掻き消されてしまった。

 

 

「何だよ。時間切れか──コイツらにもう用ないし、帰ろうか」

 

 

「連れて行かないのか?」

 

 

「いらん。インテリアにもならんだろ」

 

 

 治崎は涎を垂らしながら、人語を忘れたような唸り声を上げ続けている。

 逆にバルド・ゴリーニは怯え切った様子で死柄木を見ていた。

 

 

「……そういやダークマイト。アンタは“個性”を壊されたくなくて、死穢八斎會と協力したんだっけ?」

 

 

「や、やめてくれ!! 頼む!! それだけは、それだけは!」

 

 

「しないしない。勿体無いもん──俺の“崩壊”で我慢してくれ」

 

 

「え、あがぁっ!!? 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 命だけは、命だけはっ!!」

 

 

 死柄木が掴んだのはバルドの足首。

 “崩壊”が徐々に、上へ上へと侵蝕していく。

 死の恐怖に顔の穴という穴から汁を垂れ流すバルドを、死柄木はただ楽しそうに眺めていた。

 

 

「オールマイトがこの状況で命乞いすると思うか? ほら、頑張れ頑張れ。もしかするとこの土壇場で“個性”が伸びて、逆転できるかもしれないぜ?」

 

 

 足首から広がった崩壊は直ぐに太腿の辺りにまで達し、腰に差し掛かった時点で全身へと広がっていく。

 その速度は遅く、早々に足を切り落としていれば助かった可能性もあったが──もう間に合わない。

 

 

「お前の名前は誰の記憶にも残らない。ネットの玩具にすらなれないまま死んでいくんだ」

 

 

 物理的な死が這い上がってくるのと同時に、死柄木はバルドが最も嫌がることを口にしていく。

 

 

「ダークマイトなんてふざけた名前、メディアは報じない。そもそも知り得ないだろうしな。そして、バルド・ゴリーニの名は空飛ぶ巨大な船を作った()()()()()()()()()()()()としてしか出なかった」

 

 

 憧れとは、理解から最も遠い感情である。

 憧れを憧れのままで終わらせてしまえば、理解も成長もそこで止まる。憧憬の先を目指した時、人は初めてその人へと近付けるのだ。

 

 

 ダークマイトもオーバーホールも、結局は象徴たるポジションが欲しかっただけだ。

 

 

 それがどうやって、彼らを超えんと牙を研ぐ者達に勝とうというのか。

 

 

「最初からこの国に、お前らの居場所なんてないんだよ」

 

 

 塵と化す寸前のバルドにそう囁き、死柄木は踵を返した。

 

 

「次は──俺たちだ」

 

 





 一先ず死穢八斎會本編 -完- ですわ!!
 凄く長くなってしまいましたが、皆様からの感想・ここ好き・評価・誤字脱字報告を励みにやってこれました……いやホンマ長いで……
 文化祭はサクッと終わるので、間話と黒霧とっ捕まえに行った先生サイドなどを書きつつ、早々にB組との対抗戦まで行きたいと思います!
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