あつ────い!!(説明不要)
皆様、熱中症対策は万全ですか? 私は電気代を捧げてクーラーをガン回しにし、麦茶をアホみたいに飲む事で生きながらえています。
上鳴は緑谷の観察眼に絶対の信頼を寄せている。
「いつもみたいに分析してくれよ」
この無茶振りもその信頼に由来する物だ。
それが何となく分かるから、緑谷も無碍に断れない。
「て、適当だね……でも分かったよ。ちょっと待ってね」
緑谷は八百万が丁寧に纏めた意見書を見ながら、自分のノートにペンを走らせた。
「先ずは系統別に分けるべきだ。飲食、体験型、分類不明、実現不可……単なるジャンルじゃ分けきれないから、もっと大きな……そうだな。受け手にどういう反応をしてもらいたいか、とか? でもそれだと似たり寄ったりだな……いや。それでいいのか。似てる物を集めることで何か新しいアイデアが湧き出すかも……」
それを尻目に上鳴は砂藤に尋ねる。
「何か甘い物ない? 皆疲れてるだろうし、晩飯前だけど軽く食べてリフレッシュしようぜ」
「それなら生チョコがあるぜ。一口、二口くらいなら晩飯にも響かないだろ」
砂藤が私室に向かうと同時に常闇が言った。
「ペットボトルだが未開封のコーヒーが山程ある。合わせるには少々物足りないだろうが……無いよりはマシだろう。取ってくる」
「助かる」
──山ほど?
常闇の言葉に違和感を覚えながらも、上鳴はソファに腰掛けて砂藤の帰りを待つことにした。
その隣に葉隠と峰田が座る。
「上鳴、校長室には何で呼ばれたんだよ?」と峰田。
「接待」
「せった……」
その瞬間、峰田実の脳内に溢れ出した──桃色の妄想。
「Rは?」
「……お子様厳禁って感じではあったな」
「ずりぃぞ上鳴ィ! オイラに聞かせろよ、お子様厳禁の桃色接待をよォ!」
「お前が好きな話ではねぇよ。グランドセフトオートって感じだったからな」
「なんだよ暴力の方かよ……いや、それはそれでちょいと気になるけど。程々にしとけよ……? オイラ、お前が何かの拍子にやらかさないか心配しちまうよ……」
「俺もお前にだけは言われたくねぇよ」
そう言って峰田はソファから降り、未だ熱い議論を交わしているクラスメイトたちの下へ戻って行った。
「また面倒ごと? 無茶したらダメだからね」
入れ替わるようにやって来たのは耳郎だ。
上鳴は口元を緩めて言葉を返した。
「無茶はしねぇよ」
「ああ言えばこう言うよね。上鳴って」
耳郎の言葉に上鳴が肩を竦めていると砂藤と常闇が戻ってくる。
更に緑谷も情報を纏め終えたようで、早くも人集りができていた。
「で、どうよ。上手いこと組み合わせられそうな奴を合わせていったら良い感じになんないかね」
上鳴がそう言うと瀬呂が目を見開いた。
「ダンス、合唱、ビックリハウス、仮装、宴……何かそれっぽくね? クラブハウス的な?」
「でもお前が散々言ったんだぞ。素人芸ほど──ってやつ」
「確かに」
ダメかと思われたが、芦戸が声を上げる。
「私! ダンスなら教えられるよ!」
「芦戸のダンスは確かだぜ! 同じ中学だった俺が保証する!」
即興でブレイクダンスを披露する芦戸に切島が重ねてそう言った。
「ビックリハウス……はよく分からないが、観客を驚かせるような仕組みのある空間という解釈で良いのか?」と障子。
「そう! そんな感じ!」葉隠が大仰な手振りでそれを肯定する。
「なら、体育館を使ったホール型の催しという事になりそうですわね」
「後は音楽だな」
「音楽なら──!」
「「「耳郎(ちゃん)!!」」」
「えっ。ウチ?」
わぁぁぁ! と声を上げながら女子陣が耳郎を囲い、揉みくちゃにしていく。荒波に飲まれた耳郎の手が、隙間から掴む物を探して空を掻いた。
「アレ全部使えるんだもんね!」
「演奏上手い!」
「教えるのも完璧!」
「待って待って!? ひゃぁ!? ちょっと、どこ触ってんの!! 上鳴っ、助けて!」
「峰田」
「あそこに混じるなんて羨ま……けしからん!!」
「ダメっぽい」
「逆手に取られた!?」
いつもは峰田の行為の是非を問う天秤に使われる耳郎だったが、今回は逆になった。
上鳴は両手を合わせて揉みくちゃになる耳郎に謝る。
「ホント待って! ウチのは只の趣味! 素人芸に毛が生えたようなもんだから! 皆の趣味ほど、ヒーロー活動にも根ざして無いっていうか……!」
「謙虚も過ぎれば只の嫌味よ。響香ちゃん」
本音を隠さない蛙吹の刀の如き言葉の一閃が耳郎を袈裟懸けに切り裂いた。
蛙吹の一刀に「そうだそうだ!」と麗日と葉隠が拳を突き上げて賛同する。
上鳴は耳郎の演奏を聴いたことがある訳ではないが、煮え切らない態度に「らしくないな」と感じて口火を切る。
「お前程の奴が何を小さく纏まってるんだ?」
やるかやらないかは、好きにすればいいと思う。本当にやりたくないなら無理強いはしない。だが、そう思っているのは上鳴だけでなく他のクラスメイトにしても同じことだ。
「部屋王の時にも言ったけどな……好きにすれば良い。やるかやらない、どっちを本音にするかはお前に任せる。俺はお前に付いてくよ」
耳郎は暫し黙り込み、深い呼吸の後に言った。
「……ここまで言われてやらないのは、ロックじゃないね」
それが鶴の一声になったのは言うまでもなく。
A組の出し物は「バンドとダンス」に決まったのだった。
そして、翌日の放課後──上鳴は軽やかなスキップで廊下を渡り、隣の教室の扉を開けた。
「もーのーまーくーん! あーそーぼー!」
目的はB組のトリックスター、雄英の負の面こと物間寧人だ。
「来たな悪魔め!! 悪霊退散!! 悪霊退散!!」
物間は“伯方辺りの塩”と書かれた袋を開けて、それを掴んで躊躇なく上鳴へ投げ付けた。悪魔も裸足で逃げ出す形相とキレのある投塩ではあったが、致命的に相手が悪い。
「残念でしたァ! 呪霊になる予定は今のところありませんッ! 一名様ご案内!!」
そんな抵抗が通じる筈もなく。
全身に塩を浴びた上鳴は全霊の呪力強化で物間を引っ掴み、窓から飛び出した。
「お助けぇぇぇぇぇえ!!?」
物間の絶叫が雄英の空に木霊する。
上鳴が着地したのとほぼ同時に、拳藤が窓から身を乗り出す。そして、教科書を筒状にしたメガホンを使って声を張り上げた。
「文化祭の話し合いもあるから、夕飯までには帰ってくるんだよ──!」
「お母さんか君はァァァァァァア!!」
遠ざかる物間にB組の面々が敬礼する。この光景は体育祭が終わってから度々発生しており、B組の面々からするとお馴染みの物だった。
下手に関わると、物間水準に合わせた上鳴ブートキャンプに巻き込まれるため、誰も止めようとはしなくなった。*1
その代わりに緑谷がよく巻き込まれていたのだが──彼らがそれを知るのはもう少し先の話。
閑話休題。
上鳴が向かったのはお馴染みの更地兼修練場と化したグラウンド・βだ。
「物間をグラウンドにシュ──ッ!!」
そこで力強く物間を地面目掛けて投げ捨てた。
「危なっ! 扱いが粗雑過ぎるだろ!!」
身を捩って慣性を相殺しながら綺麗に着地する物間を見て、上鳴の口角が吊り上がる。
「今のを咄嗟に出来んのは、A組で緑谷と爆豪だけだ」
「……予告ありなら対応できるのがいるのかい?」
「耳郎と尾白は途中で察して準備するだろうからなぁ……切島、万理ありなら八百万、常闇、轟……峰田もいけるかな? まあ、そんな所だ」
「もう少し仲間を労るべきだよ、君は」
「別にトレーニングの強制なんてしてねぇよ……お前にもな」
舌打ちする物間の影から白い肌の異形がゆらりと姿を見せる。
『
「いつ聞いても可愛らしい名前だな?」
「何でそんな皮肉めいた言い方をするんだい? ネルは可愛いだろう。普通に」
白い肌の異形“ネル”。
それは上鳴の知る特級呪術師の一人、乙骨憂太に憑いていた呪霊と瓜二つであり、何の因果か似たような力を有していた。
──物間がコピーした“個性”を
仮免試験前の圧縮訓練でも上鳴はB組に顔を出していたのだが、その時に異形に付ける名前をクラス総出で出し合い、多数決で決めていたことを思い出す。
その光景を見た上鳴が思わず「クラスで生き物飼育する時の奴か?」と口走り、ネルから怒りの“ツインインパクト”を食らわされたのは余談である。
「可愛いかはさておき、お前の可能性を広げてくれる優秀な助手だとは思ってるよ」
その名前の由来の通り、ネルは物間がコピーしてきた“個性”の中で条件を満たしている物を自在に引き出せる。
物間自身の“個性”の制限が緩和された訳ではないが、記憶媒体でもあるネルに触れることで、効果時間が切れても再度使用できるようになるのが最大のメリットだ。
『ねる、べつに上鳴のこときらいじゃないかも』
「手首に回原を仕込むのはやめなさいっていつも言ってるでしょう!?」
『ごめんねパパ』
「パパやめてね???」
『ママにそうだんするね?』
「ダークシャドウとマスキュラーに君の悩みが解決できるとは思えないかなァ!?」
ネルの愉快な性格は物間の影だったからか、それとも元になった個性因子の影響なのかは定かではない。
そもそも、ネルの誕生は死の窮地を乗り越える為に物間の個性因子が起こしたバグのような物だ。ダークシャドウという異質な“個性”が、“ストレス”という“呪力”に近しいエネルギーの影響で意図しない挙動を起こしているのだろう、というのが上鳴の見解である。
そういった類似例で言えば、葉隠の任意の透明化もバグにあたる。葉隠はバグを頻発させて感覚を掴み、任意で使えるようにしている。謂わば個性のグリッチだ。
物間も葉隠も、それを上手く使いこなしている。これがゲームなら非難を受けるのだろうが、現実ではそれが反則技なのか、正規技なのかなど判断できない。
──まあ、何でもいいか。強くなるなら。
そして、上鳴は「なら、いいように考えようぜ」という側の人間。バグ、グリッチ、チートは大歓迎の戦闘狂だった。
そんな戦闘狂がワクワクした様子で物間に尋ねる。
「個性の習得条件は分かったのか?」
「推定にはなるけど……コピーした個性を十時間以上使うこと、かな。例外や差はあるかもしれないけど、試しにブラキン先生のを習得させてもらった時にはそうだった」
ネルに触れた後、物間は爪先で腕を引っ掻いて微かな傷を作り、そこから血を取り出して手元に血球を作り出して見せた。
上鳴は更に尋ねた。
「常闇とマスキュラーの“個性”なんかは例外だもんな。一回のコピーで今も使い放題なんだろ?」
「そうだね。“ストレス”と“筋骨発条化”まで使えた時には空いた口が塞がらなかったけど」
視界の端でネルがモストマスキュラーをキメているのを無視して、上鳴は頷く。
「なるほどねぇ……にしても、お互い良いクラスメイトに恵まれたな」
「それは全面的に同意だねェ」
上鳴は自分の体質と気質に理解がある友を。
物間はアイデンティティの簒奪とも捉えられかねない“コピー”を受け入れてくれる友を得た。
もしも受け入れて貰えなければ上鳴はヴィランになっていたかもしれないし、物間は今とは違う形でヒーローを目指していただろう。
「ま、流石にタダではないけど。応用とか圧縮訓練では組手や相談、普通に学食奢らされたし……」
「別にそんくらい良いだろ」
「だから僕も困ってるんだよねェ!? アッハッハッハッハッ! B組の皆に足を向けて寝られないから、A組寮に足を向けられるようベッドの位置を変えさせてもらったくらいさ!」
「ちっちぇえな」
『ねいとはちっちゃくない。B組ではへいきんより少し上』
「へぇ」
「どこ見てるんだい君はッ!?」
「ちんちんだ」
「品がない!」
「ち○ち○だ」
「そうそう伏字で……って、そういう事じゃないんだよねェ!!?」
──やっぱコイツ、めちゃくちゃ面白いよな。
上鳴が真顔でそんな事を考えていると、息を切らした物間が言う。
「はぁ……はぁ……もういいかい? 僕はここで失礼させてもらうよ」
「おい待て。勝手に失礼すんじゃねぇ。本題が済んじゃいないだろうが」
「本題……?」
首を傾げる物間に上鳴は白い歯を見せて言った。
「文化祭が終わったらあんだろ。AB対抗試合がよ」
「……まさか、それを君から聞けるとは思ってなかったよ」
毎年恒例の物だが、上鳴が気にしているとは思っていなかった。物間はまるでそう言わんばかりに目を見開いていた。
しかし、実際は真逆である。
「何で? むしろ俺が一番楽しみにしてんだからさ──魅せてくれよ。お前らを」
「宣戦布告ってことかい」
「それは違う。前にも一回言ったけど、そっちが
上鳴は体育祭に勝るとも劣らない“熱”を期待しているだけだ。特に物間に関しては不完全燃焼だった。それを燃やし尽くすには、更に強い炎がいる。
「お前とネルに幾つか
「とんだ無茶振りだな──だけどいいのかい? 敵に塩を送っちゃってさ」
「俺は退屈したくないんだ。あと、アンナ・シェルビーノの“過剰変容”も物にしておけよ」
「そう言えば君の推薦だったね。これから忙しくなるというのに……」
挑発する上鳴に物間がニヒルな笑みを返す。
「負けても吠え面かくなよ。最強」
「抜かせ。俺に勝とうなんざ百年早いわ」
二人は拳を合わせた後、距離を取り──組手系式の稽古を始めるのだった。
尚、熱中し過ぎて時間を忘れた二人は、日が暮れると同時に焦って寮へと帰り、そこで待ち受けていた耳郎と拳藤にしこたま叱られたのだった。
上鳴への説教が終わってすぐ、八百万が司会を務める会議が始まった。
「それではこれより、バンド隊、演出隊、ダンス隊によるドラフト会議を始めたいと思います」
誰が何を担当するのか──そういう話である。
端的に言えば、個人希望だけで判断できない稀有な才能の持ち主たちを、それぞれの代表が取り合うという話だ。
「おい。俺はこんなくだらねーのやらねぇって……」
「逃げんだ?」
「逃げじゃねぇよ!! くだらねぇつってンだ!!」
「おい。まともな意見出しもしねぇで決まったことを腐すなよ」
「テメェは引っ込んでろ舐めプ半分野郎!」
「もう舐めプ半分野郎じゃねぇ。皆が気づかせてくれたからな。今は──」
「そう言う話をしてんじゃねンだよ……! めでてぇのは頭の色だけにしとけ!」
「まあまあ……落ち着いてよ二人とも」
その才能というのが、上鳴、爆豪、轟、緑谷の四人だった。
「俺はそもそも、他科のストレス発散なんつーお題目が気に入らなねンだよ!! 何でご機嫌伺いなんかしなくちゃなんねぇんだ! つーか、こんなもん気にくわねぇ奴らが素直に受け取る訳ねぇだろ!!」
「お前がそういうタイプだもんな」
「……類友って奴か。悪りぃ、爆豪」
「フォローのしようがないや」
「三人揃ってごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!!」
言わずと知れた才能マンである爆豪。
世界レベルの個性の幅、身体能力がずば抜けている上鳴。
上鳴ほどではないにしろ多才な緑谷。
とにかく顔が良い轟。
平たく言えばどこでも活躍出来るだろうという理由で選ばれている。
苛立ちが最高潮に達している爆豪を無視して耳郎が言う。
「あの……本当にゴメンなんだけどさ。ドラムだけ先に決めさせてくんない? ここ決まらないとウチら何も出来ないんだよね」
耳郎の言葉に上鳴が頷き、爆豪に目配せした。
「……ンだよ」
「お前やれ」
「死ね」
「シンプルな暴言」
「よくねぇぞ爆豪」
「すっこんでろ紅白もじゃ毛」
「融合しちゃった」
眉を下げる緑谷と轟の横から切島が言う。
「でもオメー、ちっさい時に音楽教室に入れられてたって言ってたじゃねぇか。ちょっとやってみてくれよ」
「あ?」
「懐かしいな〜! かっちゃん、先生から『勝己ちゃんはワタクシとヴァイオリーンで世界を目指すのよ!!』*2とか言われてて……!」
「何でお前はそんな事まで覚えとんだ距離を取れェ!!?」
「ドラム、結構難しいらしいぜ?」
「あァッ!?」
ヒートアップし続ける爆豪にこっそり瀬呂が耳打ちすると、耳郎がドラフト前に持って降りてきていたドラムセットに全員の目が向かった。
「確かに……やっぱ初心者には難しいよな?」何も考えずに上鳴が耳郎に問う。
「絶対無理だよ……ヴァイオ、リーンもっ……ぷふっ……難しいけど、ジャンルが違うし……」
緑谷の物真似にツボを突かれていた耳郎が意図せず煽ったように口にした言葉は、爆豪の負けず嫌いに火をつけた。
爆豪が大股で肩を怒らせながらドラムセットへと向かい、行儀良くスローン*3に腰掛ける。
そして、何度か音を確かめるように叩いた後、爆豪は完璧なビートを刻んで見せた。
「す、すっご……!! 本当に天才じゃん!! アンタがやってくれたら良い物にできるよ!!」
「あぁ? さっきの話、聞いてなかったんか耳ィ……俺はそんな生温いことやる気ねンだよ」
間髪入れずに上鳴が切島に向かって言った。
「翻訳してくれ」
「つまりアレだろ? やるならガチで──相手がどう受け取るとかじゃなくて、叩き付ける!! ストレスが粉々になっちまうくらい!! だよな爆豪!!」
「……最初っからそう言ってんだろうが!!」
「言ってはないよな」
「そういう間だった」
「言葉全部取られて拗ねてるのかしら」
「悪い爆豪!!」
「煽ってんのか切島ァッ!」
爆豪は切島の翻訳を否定はしなかった。
「ご機嫌取りじゃねぇ、殴り合いだッ!! 雄英全員、音で殺るぞ!!」
全員が改めて気合いを入れ直し、拳を突き上げて雄叫びを上げた所で──
「で、ドラフト会議の方なんだけど」
芦戸が話を戻した。
「では第一順だな。希望の生徒を紙に書いて八百万くんへ渡してくれ!」
「もう書き終わってるぜ」
「ウチも」
「ワタシもー!」
演出隊リーダーの切島。
バンド隊リーダーの耳郎。
ダンス隊リーダーの芦戸。
三人が同時に八百万へ紙を渡す。
そして八百万は内容を確認し「まあ、そうなりますわよね」という顔で、誰の名前が書かれていたか口にした。
「上鳴さんですわ」
「「「そりゃね」」」
出来ることが余りにも多い。
演出やダンスは言わずもがな。どちらであっても個性の幅と身体能力の高さを十全に活かせるだろう。
楽器に関しては「リコーダーすら怪しい」というのが本人の弁ではあるが、それは上鳴に限った話ではない。
重要なのは息を合わせられるかどうか。
ベース、耳郎。
ギター、常闇。
ドラム、爆豪。
キーボード、八百万。
四人のうち三人は体育祭で騎馬戦を共にし、耳郎は言わずもがな、爆豪とも仲がいいとなると──上鳴以外に選択肢はない。
「絶対に他意あるよね☆」
青山の言葉を耳郎は聞かなかった事にした。
「飯田、眼鏡貸して」
「別に構わないが……目が悪いのか?」
「いや。雰囲気作りだ」
選ばれた上鳴は飯田から眼鏡を借りて椅子に腰掛けた。
「それでは弊社を志望した動機をお聞かせください」
「就職面接?」と瀬呂。
轟が口を開く。
「ドラフトってこんな感じなのか?」
「さあ?」
クラスメイトの疑問を置き去りに、上鳴の面接が始まった。
一番手は耳郎だ。耳郎は上鳴の目を見て、手を取って言う。
「ウチらと一緒にバンドやろ」
「採用で」
その一瞬で勝敗は決した。
「「こんなん出来レースだろ!!?」」
カッと目を見開いた芦戸と切島の声が綺麗にハモる。
「親友に願われれば、応えるのもまた親友ってことだ……」
そう言って上鳴は照れくさそうに鼻の下を擦った。
「ずりぃな!! いや、友情を理由にされちゃあ仕方ねぇか……!」
「はいはーい! 耳郎が上鳴を選んだのは友情だけじゃないと思いまーす!」
芦戸の言葉にムッと顔を顰めた上鳴が返す。
「んな訳ねぇだろ。これはマウント富士よりも高く、それでいてマリアナ海溝よりも深い友情だ……そうだよな、耳郎!」
「ソウダヨ」
「ほら」
上鳴の言葉に真っ先に峰田が噛み付く。
「ほら、じゃねぇよ……! 助っ人外国人みたいなカタコトが出てただろうが!?」
血涙を流しながら肩を攀じ登ってくる峰田をソファに投げ捨て、上鳴は耳郎に尋ねた。
「楽器は?」
「ギターかな。もう一本欲しかったんだよね」
「了解。俺はド素人だからな、よろしく頼むぜ耳郎先生」
「任せなさい」
緑谷と轟に関しては競合することなく、それぞれダンス隊と演出隊に引き取られ──そして。
「正直、時間はないので……バンド隊の皆には悪いけど、ゆっくり寝てられる時間は無いと思って欲しいんだよね」
A組の文化祭が本格的に始まった。
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まだまだ暑い日が続きますが、無理せず程々に頑張って生きましょう……!