雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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いつも拙作を読んでいただいている皆様、誠にありがとうございます。
支援絵を書いて下さったはなみ様から掲載許可をいただきました。
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ep.09 猛れ、稲妻

───おいおい。聞いてた話より大分強いな、上鳴少年は………

 

 

最強のヒーローと呼ばれるようになって数十年。オールマイトに油断が無かったと言えば嘘になる。しかしむしろそれは当然で、仮免を持っているだけの学生に最初から全力を出すなんて大人気ない真似はできなかったというだけのこと。

 

 

だからこそ、オールマイトはたちまち上鳴の評価を限りなく上へと修正した。

 

 

───私は今から君をエンデヴァークラスのヴィランだと思うことにする。何せ先の拳打は私の80%に迫る一撃……それが君の特異体質と狂気的な修練の果てに身に付けた切札である事は分かっている。そう何度も撃てるような代物ではないことは、分かっているんだが………

 

 

それを何度も打ち込んでくるのではないか? とオールマイトに思わせる程の凄みが今の上鳴にはあった。

 

 

だが、何より。

 

 

「……超えてみせる、か」

 

 

オールマイトはその言葉を嬉しく思った。

 

 

いつか役目を終え、走り切った先にどんな悲惨な未来が待ち受けようとも───もう大丈夫だと、そう思えるような次代のヒーローが着々と育っていることを確信できたからだ。

 

 

故に。

 

 

「まだ───私にしか教えられないこともあるだろう」

 

 

オールマイトの鋭い眼光が上鳴を捉える。

平和の象徴として、犯罪の抑止力になるまでに高められた力の極致が今───上鳴を敵足り得ると認識した。

 

 

「……ははっ、すげー圧」

 

 

───来るッ!

 

 

上鳴は軽口を叩きながらもオールマイトの初動を完璧に読み切り、防御体勢に入った。

 

 

「WYOMING SMASH!!!」

 

 

No.1、全力の一撃。

 

 

手刀を真下へと撃ち下ろすだけの単純な攻撃ではあるが、オールマイトが放てばそれは戦車さえなます斬りにする一撃と化す。

 

 

しかし上鳴は両手を交差させ、敢えてそれを受けた。

 

「んがぁぁぁぁ! 重てぇぇぇぇぇ!?」

 

 

直撃を受けた左腕がゴキリ、下から支えるように添えられた右腕からはミシリと不協和音を奏でる。まさか受けるとは思っていなかったオールマイトが思わず「なぜ」と口にした。

 

 

上鳴は年相応の笑みを見せ、言った。

 

 

「これで不意打ちチャラな……! 負けても絶対につまんねぇ言い訳すんじゃねぇぞ!」

 

 

「おいおい……! 今はヒーローとヴィランなんだぜ! 幾ら何でもそれはカッコ良すぎるだろ!」

 

 

───死んでも同じ言葉言えっかなァ!? これ!!!*1

 

 

明らかに不利を被っているのは上鳴だ。だが、その漢気に水を差すほどオールマイトも無粋ではない。言葉とは裏腹にそのまま地面に埋めてしまえと言わんばかりに、追い討ち体勢へと移った。

 

 

再度オールマイトが腕を振り上げる。

だがそれよりも速く。

 

 

「10秒前に自分がどうやって雷に打たれたか忘れたかッ!?」

 

 

再び、青い稲妻が再びオールマイトを強襲。その動きが止まった隙をついて、上鳴は300%の出力で右ストレートを追撃として放つ。

 

 

『マスター、そろそろ自滅しますよ』

 

 

「馬鹿がッ! 死ぬのが怖くてヴィランが務まる訳ねーだろうがッ!」

 

 

オールマイトに打ち込まれた反撃の拳を受け、血反吐を撒き散らしながらも上鳴は笑みを絶やさない。

 

 

『まだ(それ)続行するんですね───委細承知致しました。サポートの続行、及び戦後処理の用意を開始します』

 

 

「いい奴だなコガネ! オールマイトも! お前ら最高だ!」

 

 

コガネの忠告を無視し、再び1000%にまで引き上げた理外の膂力でオールマイトの横っ腹を蹴り付ける。

 

 

「ぐぅぉ!? そこはマジで痛いから……なーんて言わないぞ……ヴィラン!」

 

 

ぐわしっ! と蹴りを受け止め、オールマイトはガッチリと身体と上鳴の脚を固定。

 

 

そこから導き出される答えは────ジャイアントスイングである。

 

 

「そらそらそらそら!」

 

 

無論、ただのジャイアントスイングではない。オールマイトが人智を軽く凌駕した膂力で行う弩級のジャイアントスイングである。

 

 

それは正しく人間台風だった。

 

 

中心部であるオールマイトを取り囲む暴風は次第に強さを増して周囲の瓦礫を巻き上げ、周囲のビルの外壁を破壊し、更に瓦礫を産む破壊の循環を作り出していく。

 

 

風を生み出す要因になっている上鳴に掛かる負荷は尋常ではない。普通なら、オールマイトが振り回した時点で脚が千切れ飛んでいる。

 

 

だが、上鳴の肉体強度は風に舞う瓦礫を受けて尚、小さな痣が出来る程度で済んでしまう。

 

 

「飛んでけ!」

 

 

投げられた肉体は瞬時にマッハ0.75にまで到達。これは上鳴の師である善院尚哉が大学在学時、スターアンドストライプが率いる戦闘機部隊と張り合って空を走った際の瞬間最高速度に匹敵する。

 

 

上鳴と言えど純粋な力での抵抗は難しい。

 

 

上鳴はビルの屋上にあった給水タンクに頭から突っ込み、そこで個性の応用を使うことで無理矢理肉体に掛かる慣性を殺した。

 

 

「お、おお?」

 

 

オールマイトの肉体が浮かび、上鳴が突き刺さった給水タンクの方へと引き寄せられる。

 

 

「おおおっ!? これは電磁石的なアレかい!?」

 

 

「正ッ解ッ!」

 

 

本来電磁石は磁性材料の芯のまわりに電線を巻き、通電することによって磁力を発生させる磁石である。しかし上鳴はそれを血中に含まれる鉄分に電荷を付与することで成立させていた*2

 

 

そして付与されている磁気は発生源が上鳴の個性によるものであるためか、電荷移動と同様のプロセスを経れば磁場その物を別の対象へと付与できた。

 

 

頭から血を流した上鳴が両手で給水タンクを掴み、強化された腕力でそれを丸めていく。

 

 

そして掌に収まるほど小さくなったそれを宙に投げ、目の前に落ちてきたタイミングで、両手の指先がオールマイトの方向を向く形で合掌するようにして受け止めた。

 

 

転瞬、掌の内側で個性により磁場を形成。その中を奔る電気エネルギーが廃材を加速させ───

 

 

穿雷(レールガン)!」

 

 

「マジか……!」

 

 

上鳴の掌から射線上にある全てを穿つ雷弾が射出される。

 

 

オールマイトはこれを避けるために空気を殴りつけ、風圧で飛んだ。

 

 

しかし、弾丸にはオールマイトに付与された磁場とは逆の磁極を付与されており、その挙動に合わせて不自然にその軌道を曲げた。

 

 

「落下中に攻撃! エグいなッ! ならばッ! CAROLINA SMASH!!!」

 

 

避けられない。

ならば、逡巡はない。オールマイトのクロスチョップが穿雷の弾頭を捉えた。

 

 

力と力がぶつかり合い、その余波で周囲にあったビル群の窓が全て割れ、フレームが歪みながら弾け飛んだ。

 

 

「はあっ!」

 

 

打ち勝ったのはオールマイト。

しかし、上鳴は次弾の装填を終えていた。

 

 

「手も足も速すぎるなぁ上鳴少年!?」

 

 

手に持つのは最初に捨てた戦杖。オールマイトが雷弾を迎え撃っている間に回収したそれに、上鳴は持てる電気エネルギーの大半を注ぎ込んで投擲体勢へと移った。

 

 

『許容上限1000%───閃電駆動(オーバードライブ)

 

 

「よい、しょぉ!」

 

 

時代が時代なら、人外の膂力を持たずとも世界の頂点に辿り着けたかもしれない───そんな完璧な槍投げの構えで放たれた戦杖が、オールマイトに迫る。

 

 

「甘い!」

 

 

空中で身を捩り、迫るそれを上空へと蹴り上げる。先の一撃と比較にならないほど弱く、対処するのは簡単だった。

しかし、それ故に。

 

 

───いや、誘われたかっ!

 

 

オールマイトが次の手を打つよりも速く。

 

 

「もう遅い……!」

 

 

オールマイトの真下に移動していた上鳴が天に向かって手を伸ばした。

 

 

「俺が勝つ!」

 

 

雷撃には2種類ある。

1つは上鳴が戦闘の初めに見せた一撃。そしてもう1つは───先程とは真逆のプロセスで放たれる雷撃。

 

 

オールマイトの頭上で戦杖が青白い電光を放った。

 

 

「還ってこい!」

 

 

帰還雷撃

 

 

戦杖と上鳴を結ぶラインを稲妻が駆け抜け、その射線上にいたオールマイトの肉体を三度目の落雷が打つ。それにより全身の筋肉が痙攣し、オールマイトは受け身もまともに取れないままアスファルトに叩きつけられた。

 

 

───これで落とせなかったらもう無理だ。

 

 

上鳴の肉体は既に限界を超えていた。

全身の骨は軋み、腕の骨に至っては折れている。筋肉で無理矢理動かしているだけに過ぎない。身体中の筋細胞が過剰放電に耐え切れず破裂し、内出血が外にまで滲み出していた。

 

 

痛みこそ体質の問題で感じないが、力はもう残っていない。

 

 

しかし───英雄は。

 

 

「───ヴィランよ。こんな言葉を知っているか?」

 

 

立てない筈だ。そんな甘えた思考を踏み潰す、英雄のスタンディングに上鳴は心を震わせた。

 

 

───そうだ。そうでなくっちゃ超える意味がないッ!

 

 

頬を叩いて気合いを入れ直す。

 

 

───許容上限? 肉体の限界? 知ったことか。今ここで最強よりも先に倒れたら、俺は自分を生涯呪い続けるだろうぜ……!

 

 

今日の分の力が無くなったなら、明日の分を捻り出せばいい。

 

 

英雄の英雄たる所以はその身に宿した力でも、ましてや積み上げてきた輝かしい功績などでは断じてない。

 

 

全てを出し切った後にまだ心の内に残る、何としてでも貫き通したいという強い意思───原点。それだけが英雄を英雄足らしめるのだ。

 

 

上鳴が拳を構える。

 

 

オールマイトは白い歯を見せ、上鳴もまた年相応の笑みを浮かべた。

 

 

「更に───」

 

 

「───向こうへ!」

 

 

2人は示し合わせたようにそう言った後、駆け出した。

 

 

その速度は戦闘訓練が始まった時から依然、変わらない。

 

 

そして言葉を交わさずとも2人は直感していた。

 

 

ただ一撃。

 

 

この一撃を決めた者が勝者であると───!

 

 

「DETROIT……!」

 

 

オールマイトの拳に七色の炎が宿るのを上鳴は幻視した。

 

 

「引き出せる力の全てを、アンタにぶつけるッ!」

 

 

───稲妻は放電した地点や稲妻との距離によってその色を変える。空気中で放電した場合は赤や紫に。稲妻との距離が近ければ青く見える。

 

 

それは常識から照らし合わせればあり得ないことである。しかし、個性という超常が人間の規格を破壊したように、超常は時に自然の摂理すらも捻じ曲げる。

 

 

両者は同時に拳を振り翳し、そして。

 

 

「SMASH!!!」

 

 

「だぁぁぁぁっ!」

 

 

激突と同時、常軌を逸した力の衝突によって空間は歪み、稲妻が黒く光る。

 

 

転瞬、世界から音が消え────雷鳴。

2人を中心に広がる衝撃波が辺り一帯を薙ぎ払った。

 

 

 

 

 

最後に立っていたのは。

 

 

 

 

 

 

「あー、しんど」

 

 

 

 

 

”ミカヅチ”、上鳴電気。

しかし。

 

 

 

 

「アンタ強すぎるぜ………」

 

 

 

「誇りなさい───君は強い」

 

 

オールマイトは立ち上がり、上鳴は仰向けになって倒れた。

 

 

勝者、オールマイト。

 

 

 

 

 

そして───時間は少し遡り、モニタールームへと移る。

 

*1
上鳴「でもコレ多分死んでも満足して逝けるわ」

*2
普通はならない




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