雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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 ヒロアカアニメを見て情緒が狂う→死滅回游のPVを見る→整う→もう一回アニメ見るのループを繰り返していたら一週間が経ちました。
 


ep.94 クラス交流戦-壱-

 

「つー訳で、大将戦は俺一人な」

 

 

「チョロ過ぎんだろうがッ……戦う相手の言葉をホイホイ信用してんじゃねぇ……! 出てこなかったらどうすンだ!?」

 

 

 上鳴の発言に間髪入れずに爆豪がキレた。

 

 

「何だ? 俺が居ないと勝てないのか?」

 

 

「ア゛ァッ!? お前が居なくても百戦百勝に決まってンだろ!?」

 

 

「なら良いよな──異論は?」

 

 

 爆豪の性格を利用したポジショントークだ。誰も口を挟めない。挟む理由もない。ただ一つ言えるとすれば、それは。

 

 

「楽しめなくても、文句言わないでよね」

 

 

 耳郎の言葉に上鳴は「当たり前だな」と頷く。

 

 

「文句は言わねぇ……まぁ、そうなった時は二度とB組と連むことねぇだろうが」

 

 

 上鳴はそう口にしておきながら、頭の中ではあり得ないと思っていた。

 単なる授業ならいざ知らず、全世界に向けて配信されている以上、自分に挑まない事の方がリスクだ。もし勝負を避けたなら、腰抜けの謗りは免れない。

 

 

「ま、後はいい感じに決めてくれ」

 

 

 それらの理由を抜きにしても、そんなつまらない真似をして謀ってくる様な奴らではない。

 上鳴は大将戦に向けて軽く体を動かしながら、他の試合から関心を外した。

 

 

 

 

 

 A組のやり取りを遠巻きに見ながら、取蔭が難しい顔をして言う。

 

 

「……とまぁ、上鳴を最終戦に幽閉する事に成功したっぽい訳だけど」

 

 

 上鳴の出現位置を固定させる事は出来た。

 しかし、依然、劣勢に変わりはない。

 

 

「どうする? 緑谷とか、多分手に負えないよ?」

 

 

 A組の中で飛び抜けて強いのは上鳴と緑谷だ。この二人が普通に暴れると、それだけでB組の勝率は小数点以下に落ち込んでしまう。

 唯一、対抗馬になり得る物間が挑発することで、上鳴を最終戦に誘導。実質的な得点競争の範囲を十九点にすることで、辛うじて勝負の体裁を整えただけ。強力な個の力に試合を破壊される可能性が残っているのに変わりはない。

 

 

「……捨て試合にしたい所ではあるけど、ルール上抗えない程ではないよ。緑谷以外を捕らえて潜伏する。彼の索敵能力は能動的な物じゃないからね。試合が終わるまで、嫌がらせに徹すれば良い」

 

 

 物間は冷静にそう返答すると、取蔭は肩をすくめた。

 

 

「物間は最終戦にしか出る気ないんでしょ?」

 

 

「ま、後が怖いからねェ」

 

 

『嘘吐きだ』

 

 

 ぬるっと物間の影から出てきたネルの言葉に、物間を除いた全員が「ほんとだね」と手を叩いて笑う。

 B組で最も上鳴を意識し、追いかけてきたのは物間だ。後が怖いからなんてのは方便に過ぎない。

 

 

「物間」

 

 

 拳藤が真っ直ぐ、物間の目を見る。

 口にしなくても何を言わんとしているか分かる。次は勝てるんだな? そう訴えていた。

 

 

「今度は勝つさ。二度も同じ相手に遅れを取る気はない。君たちもそうだろう?」

 

 

 この戦いは互いのエースがどれだけ仲間を信頼できるかを問う戦いだと、物間は考えていた。

 最終戦のポイントが勝敗を動かす可能性はほぼ無い。つまる所、勝負は先鋒から副将まででケリがつく。

 

 

「緑谷と爆豪が中堅と副将。その二人のチームに、おそらく轟や常闇……八百万は出してこない。過剰戦力だからね」

 

 

 爆豪の索敵能力を埋めるなら、爆音で動物が怯える可能性のある口田はチームに入れられない。耳郎か障子を入れてくるだろう。

 

 

「何だかんだ、セオリー通りの構成で教科書通りの攻め方してきそうだよな」と鱗。

 

 

「彼らはそれで勝てるからね。奇を衒う必要がない……だが、僕らは彼らの主力メンバーに対する明確なアンサーを持ってる」

 

 

 勝負の鍵は──二人。

 

 

「鉄哲を轟に、黒色を常闇にぶつけられれば……勝算はある」

 

 

「爆豪氏と緑谷氏はどうするおつもりですかな?」

 

 

 宍田の問いに物間は「フッ」とニヒルに笑った。

 

 

「超頑張る」

 

 

「超頑張る」 

 

 

 そうしてチーム構成を考えていき──プレゼントマイクの声が響いた。

 

 

『タイムアーップ!! クラス委員長はチーム分けの結果をコチラまで頼むぜ!!』

 

 

 作戦会議の時間が終わり、それから直ぐに第一試合の組み合わせが発表された。

 

 

 A組からは轟、飯田、障子、尾白。

 B組からは鉄哲、骨抜、回原、角取。

 

 

 組み合わせを見た瞬間、物間が高笑いを上げる。

 

 

「勝ったァ!! 最初は無難なメンバーで構成されたチームを出してくると思ったんだよねェ!!」

 

 

「戦う前から随分と調子がいいなァ猿真似野郎……!」

 

 

 爆豪が苛立ちを顕にしていると、物間は高笑いで返す。

 

 

「この相性有利なら笑いたくもなるさ!」

 

 

 鉄哲なら轟の炎にも氷結にも対抗できる。

 飯田の速力も骨抜が足場を崩せば半減、回原の個性は素手による白兵戦に滅法強い。尾白相手なら十全に力を発揮できる。

 索敵に関しては障子を有するA組に軍配が上がるだろうが、空から索敵できる角取がいる以上、一方的な物にはならない。

 

 

「さて……どうなるかなぁ」

 

 

 上鳴は期待を込めて、轟を見ていた。

 

 

 

 

 

『試合に出るメンバーが所定の位置に着いたところで……第一試合、AB交流戦──START!!』

 

 

 轟はプレゼントマイクの言葉を合図に、流れる様に個性を発動。心臓を機転に炎と氷の力を循環させ、赫灼熱拳の最高到達点である“燐”へと移行する。

 正史においては最終決戦前に漸く物にした技だが、職場体験の頃から赫灼の習得や、炎熱の制御訓練に明け暮れていた事もあり、その精度は既に未来の轟をも超えていた。

 

 

「大氷海嘯」

 

 

 開幕と同時に放たれた冷気が、瞬く間にグラウンドを銀世界へと変貌させる。

 想起されるのは最初の戦闘訓練。待機場所で葉隠が「ワ、ワンパンされたやつ〜!!」と叫びながら上鳴を揺すっている事などお構いなしに、それは工業地帯を模して作られたグラウンドを丸ごと氷で閉ざしてしまった。

 

 

『きょ、強烈〜!? イカれた出力だなァオイ!! 轟の凄まじい範囲攻撃!! コイツがその気になれば街一つがクーラー要らずの夏を過ごせるぜェ!?』

 

 

『褒めるな。これは明確なミスだ』とイレイザーヘッド。

 

 

『全くだ……氷ではウチの生徒は止まらんぞ』ブラドキングも腕を組んだまま頷いた。

 

 

 その理由は──鉄哲と骨抜にある。

 

 

「ハッハー!! 鉄哲が、キンキンだぜ!!」

 

 

 鉄哲は物間が轟にぶつけられる人材として選んだ男だ。個性上、低温にも高温にも強い。赫灼で高めた炎の直撃以外で、鉄哲がダウンする事はまずない。

 

 

「範囲と速度が凄いな……小森のブッパを知らなかったら即死だった」

 

 

 骨抜は地面を柔化させて、回原をそこへ引き摺り込むことで氷結を回避。

 

 

「冷たい空気は下に留まりマース!! 上空ならノープロブレム!!」

 

 

 角取は飛ばした角を足場にして飛行することで躱していた。

 至近距離以外でなら、どうとでもいなせる布陣である。

 

 

『B組無傷ゥ!!』

 

 

 これには実況も驚愕の声を上げた。

 だが、渾身の一撃を凌がれた筈の轟は何処か楽し気だった。

 

 

「これくらいは、防いでもらわなきゃ困る」

 

 

 何せ今の一撃は攻撃目的ではない。

 轟は燐を維持したまま、障子へ目配せした。

 

 

「冷気の広がり、それに対する敵チームの反応……おおよその位置は掴めた」

 

 

 障子の複製腕もこれまでよりずっと精度を高めている。林間合宿での敗北が、障子をずっと強くした。

 そしてそれは、他の者も同じ。

 

 

「上空の角取から仕留めるか?」

 

 

 尾白の言葉に飯田が頷く。

 

 

「ああ。やろう」

 

 

 尾白が尻尾の力と体捌きで壁を駆け上がり、飯田が脹脛のマフラーから膨大な熱量を排出しながら飛び上がる。

 

 

「尾剣──」

 

 

 かつて、上鳴は極致を示した。

 

 

「レシプロターボ……!」

 

 

 それは、一定水準以上の身体能力、もしくはそれに相当する運動エネルギーを生み出す技量さえあれば、人間は衝撃波による遠距離攻撃を繰り出せるということ。

 

 

 尾白は技と尾。

 飯田はエンジンによる推進力。

 

 

 それぞれ異なる原理で──大気を裂く。

 

 

「厄降鳥!!」

 

 

「エアフォース!!」

 

 

 尾白が放った大気の牙の射程は精々二〇メートル程だ。しかし、飯田のエアフォースが追い風となり、その射程を一気に引き伸ばす。

 目標は障子によって示された方角にいる、角取ポニー。

 

 

「What!?」

 

 

 角取は旋回して直撃を避けた。

 背筋を駆ける冷やりとした汗。

 薄皮が裂け、一筋の赤が頬を伝っていく。

 衝撃波は轟音と共に、背後にあった給水塔を斬り飛ばし──アスファルトの大地へと沈めた。

 

 

「oh……crazy」

 

 

「ボサっと見てたら駄目だよ!! 直ぐに次が来るから!!」

 

 

 骨抜は分かっていた。A組を倒すには轟と鉄哲の一対一を作る必要があり、その為には自分が飯田の足止めを、そして、回原に尾白を止めて貰わなくてはならない事を。

 しかし──A組はそれに付き合う必要がない。

 

 

『おおっと!? B組がいるポイントに向かって、氷のアーチが伸びていくぞ!!』

 

 

 グラウンドを横断する氷のアーチが掛かる。

 飯田を先頭にし、尾白と障子を引っ掴んだ轟が階を爆走──その視界にB組チームを捉える。

 

 

「骨抜、崩せ!!」と鉄哲。

 

 

「駄目だ!! 間に合わない!!」

 

 

 四人が空から降ってくる。

 その途中で、障子が複製腕を無数に編み広げてグライダーの様にして滑空。角取を強襲する。これでB組は、角取の援護が期待できなくなった。

 

 

「鉄哲くんは轟くん、尾白くんのペアで対処を! 骨抜くん達は俺が引き付ける!」

 

 

 骨抜の予想通りだった。

 A組は混戦を望み、鉄哲か自分を真っ先に潰しにくるだろうと。だからこうなる事を見越して、割り振りも事前に決めていた。

 

 

「やっと出番だ!!」

 

 

 回原が嬉々として尾白に向かう。近接戦闘に長けた男だ。まず、瞬殺されるという事はない。

 だが──骨抜の柔軟な思考回路は、尾白の尻尾に装着されたアイテムを警戒していた。

 

 

「不用意に近づいたら……!」

 

 

 次の瞬間、骨抜は息を忘れて硬直した。

 それは、回原や鉄哲達も同じだった。

 尾白の尻尾を覆っていた黒い鎧が、駆動音と共に展開され始めたのだ。

 

 

「ごめん。さっきはこれ、使ってなかったんだ」

 

 

 尾白はヒーロー科の中でも個性による恩恵が極めて少ない、ほぼ拳法のみの異例(アウトロー)

 

 

「入念にウォーミングアップしておかないと、体が負荷に耐えられなくてさ」

 

 

 故に四人が気圧されたのは個性ではなく、発目によって作られた武装を展開したことで表面化した───圧倒的な殺傷能力

 

 

「本気で振り抜くけど、死なないでくれよ」

 

 

 尾白が尻尾を振るった瞬間、そこに取り付けられた制動エネルギー回収機構が0-100-0の運動を補助。内部のギアが超速で駆動し、エネルギーを飛躍的に増大させる。

 そうして放たれたのは、先の一撃とは比較にならない斬撃。軌跡に沿って大気が裂け、機構が餓狼の遠吠えの如く重低音を奏でる。

 

 

「マジか……!?」

 

 

 相対していた回原は、死物狂いで個性を使った。

 

 

 旋回は身体の部位をドリルの如く回転させられる。それを使った打撃と、ノーモーションのスリッピングアウェーが回原の得意技。

 

 

 斬撃の軌道に沿って身体を旋回させ、撫でる様にそれを避ける。

 

 

 転瞬、回原の背後にあった建物が袈裟斬りにされた。緩慢な動きで滑落したそれは、地に叩きつけられたことで初めて音を立てた。

 

 

「……何それ」

 

 

 回原の言葉に、尾白は拳を構えた。

 

 

「俺の牙だ」

 

 

 端的な答えだ。

 回原は笑った。笑うしか、なかった。

 

 

「こいつは俺がやる!! いいよな骨抜!?」

 

 

 それでも足を前に踏み出せたのは、回原のメンタルの高さ故か。

 形は変わってしまったが、骨抜の想定通りに事が運んでいく。

 

 

 骨抜は瞬時に飯田を狙って地面を柔化させ、同時に鉄哲が飯田と尾白に背を向けた状態で轟と相対する。

 

 

「これで派手な技は使えねぇなァッ、轟ィィィ!!」

 

 

「そうだな」

 

 

 迫る鋼の拳を、炎を纏った打撃で迎え打つ。

 

 

「熱いなァ、オイ!! 鉄哲がチンチンだぜ!!」

 

 

「下ネタは、良くねぇと思うぞ」

 

 

「あぁ!? ……方言だよ、東海のなァッ!!」

 

 

 

 

 

 白熱する戦いをモニタリングしていた上鳴は、物間に向かって言った。

 

 

「相性が良いって……初手で潰されないって意味か? 随分と甘い想定だな」

 

 

「おいおいおい。ウチの骨抜を甘く見て貰っちゃ困るよ? 飯田のスピードも彼の柔らかな対応の前には形無しさ」

 

 

「轟と飯田を注意すんのは間違ってない。対応を誤れば、一瞬で食い破られるからな。尾白に回原をぶつけんのも合理的だ。だがな、障子を舐め過ぎだ」

 

 

 上鳴の言葉に、物間は口を尖らせて言う。

 

 

「舐め過ぎ? 彼の索敵能力と白兵戦力を過小評価したつもりは無いけどねェ」

 

 

 モニターに映る障子を見て、上鳴は言い放った。

 

 

「障子の最大攻撃範囲は半径三〇メートル」

 

 

「……は?」

 

 

「角取、ちょっと高度低くないか?」

 

 

 物間が首を傾げた直後、障子が複製腕を数珠繋ぎにして作った網を振り回し、角取を地面に叩き落とした。

 

 

「そぉら。均衡なんて直ぐに崩れだすぞ」

 

 

 

 

 

「角取、確保!」

 

 

 障子が角取を確保した。

 その報せはB組チームにとって、小さくない衝撃となって波及した。

 

 

 角取の個性はこの場において最も小回りが利く力だ。遠距離攻撃のみならず、移動にも使え、更には拘束した敵を牢屋まで遠隔で移送する事もできる。

 だから、安全策を講じたつもりだった。戦場となる場所からつかず離れずの距離を保ち、状況に応じてサポートする。しかし、障子に中・遠距離の攻撃手段はないと判断した結果、角取は近づき過ぎてしまっていたのだった。

 

 

「まずいデース!?」

 

 

 複製腕──障子から伸びたそれは、節目で更に分岐し、角取に関節技を使いながら身動きを封じている。

 

 

「このまま、牢まで一気に……!」

 

 

「させないよ」

 

 

 ぬるり、と骨抜が地中から顔を出した。

 飯田を無視して障子の足元まで来た骨抜が、障子ごと辺り一帯を柔化で沈め、固めていく。

 

 

「しばらく大人しく──」

 

 

「逃がさないぞ、マッドマン!!」

 

 

「早いな本当に」

 

 

 地面へ潜り、骨抜が飯田の蹴りを避ける。

 着地すれば足を取られる所を、レシプロターボによって強化した脚力で宙を蹴り上げる事で、飯田は宙空へ逃げた。

 

 

「飯田! 角取を牢屋へ!」

 

 

「了解した!」

 

 

 障子が角取の顎に打撃を入れてから、その身柄を飯田に投げ渡す。

 追撃は困難。脳震盪で身動きを取れなくなった角取を確保したことで、牢屋まで連れていけばA組に一ポイントが入る。

 

 

 しかし、これはB組にとって窮地であるのと同時に、チャンスでもあった。

 飯田が移送を行なっている間、障子の身動きを封じている今、戦場の数的有利はB組にある。

 

 

「一気に足場を崩す!! 速攻で行こう!!」

 

 

「応よ!!」

 

 

 だが、逆境を覆してこそのヒーロー。

 英雄の真価は常に、苦境に立たされた時にこそ輝く物だ。

 

 

「轟!!」と尾白が叫ぶ。

 

 

 目を合わせただけで、轟は自分が何をすべきか理解した。

 回原を無視して飛び上がった尾白に向かって、轟が左手を伸ばす。

 

 

「何企んでるか知らねェけどよォ!!」

 

 

「俺たちを無視すんじゃねぇ!!」

 

 

 鉄哲と回原が向かう。

 しかし、二人は無視を貫いた。

 

 

 尾白が身体を回転させ、周囲を薙ぎ払う様に尻尾を振り回す。そこに取り付けられた機構が再び唸りを上げ──風を生む。

 

 

「尾拳・沼田打旋風!!」

 

 

 人の形をした竜巻と化した尾白に、轟が熱を焚べた。

 

 

「「光炎万丈!!」」

 

 

 火災旋風が鉄哲と回原を飲み込む。

 炎熱と空力の嵐を前に、二人は成す術なく吹き飛ばされ、建造物に叩き付けられた。

 

 

『尾白と轟の合体技が炸裂ゥゥ!! これはもう、勝負あったか!?』

 

「まだ、だァァァァア!!」

 

 しかし、鋼鉄の戦士は炎の嵐でも倒れない。

 気合いと共に咆哮し、轟へと肉薄。

 そのまま掴みかかった。

 

 

「尾白を相手に殴り合いをしても、勝てるヴィジョンが全く見えねぇ! 何なんだアイツはよォ!」

 

 

「離れろ……!」

 

 

「放して欲しけりゃ、そのマッチみてぇな炎を一五〇〇度まで上げるんだなァッ!!」

 

 

 鋼の爪を轟の肩に食い込ませ、鉄哲が頭突きを食らわせる。

 

 

「ぐっ、ぁっ!?」

 

 

「テメェに死ぬ覚悟はあるか!? 俺にはある!! 訓練でタマァ懸けれん奴は、実戦でもかけらんねぇ!! なぜなら訓練は!! 本番で動く為にやるからだ!!」

 

 

 二度、三度──鋼の頭突きが轟を襲う。

 

 

「撃ってみろ轟ィ!! 俺はお前を超えて、お前たちに勝つぞ!!」

 

 

 鋼のインファイター、鉄哲徹鐵。

 圧倒的な強度を支えるのは個性だけに非ず、その心にある。

 轟の窮地に尾白が向かう。

 

 

「どこに行こうってんだよ、尾白……!」

 

 

 額から血を流した回原が割り込む。

 しかし、回原も万全ではない。

 旋回では熱と衝撃をいなし切れなかった。

 足が震え、視界も揺れている。

 

 

「俺を倒してからいくんだな、ヒーロー!」

 

 

 それでも──回原は鉄哲が轟を倒すと信じて、気合いで意識を繋ぎ止めていた。

 

 

「なら、押し通すまでだ!!」

 

 

 尾白が回原との戦いを再開する。

 その前で、轟はギアを一段階上げた。

 

 

「燃え尽きても、知らねぇぞ……!」

 

 

 目の前の好敵手は──肉体を焼き尽くす覚悟で力を使わなければ、勝てない。

 轟にその覚悟を決めさせる凄味が、今の鉄哲には備わっていた。

 

 

「やってみろ! 限界は超える為にある! 更に向こうへ!」

 

 

 額を突き合わせる。

 

 

「「Plus Ultra!!」」

 

 

 転瞬、アスファルトが融けた。

 尋常ならざる熱量が配信機材にまで影響を及ぼし始める。

 

 

『一戦目からかなりヤバァァァァイ!?』

 

 

 プレゼントマイクの絶叫。脳裏を過ぎる、体育祭の会場を傾かせた異次元の戦闘。

 しかし、そうはならない。この男がいる限りは。

 

 

「盛り上がってるところ悪いけど、鉄哲を熔かす訳にはいかないよ」

 

 

 骨抜が轟の足場を柔化させ、バランスを崩した。

 

 

「チクショウ、ナイスだ骨抜!! 悪いな轟!! 勝負はお前の勝ちでいいけどよォ……試合には勝たせてもらうぜ!!」

 

 

 何度目かになる頭突き。

 轟の意識が飛ぶ。

 

 

「骨抜、轟の回収……!?」

 

 

 刹那、限界が近付き個性が緩んだ鉄哲の視界に、白いアーマーが映った。

 

 

「飯田!」

 

 

「轟くんを返してもらうぞ!!」

 

 

 目で追えないほどの速度。

 それに裏打ちされた、凄まじい破壊力を持った蹴り技。

 今の鉄哲では太刀打ち出来ない。

 

 

 絶体絶命の窮地──再び、回原が割り込む。

 

 

「させねぇ、よ!」

 

 

 回原は飯田の蹴り技を旋回でいなしつつ、そのまま組み付いた。そして、骨抜が柔化させた地面に、自分の身体ごと飯田を押し込んでいく。

 

 

「尾白くんが負けたのか!?」

 

 

「いいや!? 骨抜が固めてくんなきゃ俺が負けてたよ!!」

 

 

 骨抜の戦闘力では、鉄哲たちの戦いに割って入れない。

 だから彼は待っていた。一手で勝てる瞬間を。飯田が戻ってくるギリギリの時間まで。

 

 

「勝負に負けても、試合にまで負ける気はない!!」

 

 

 回原は細かい瓦礫を飯田の脹脛から伸びるマフラーに詰め込んだ。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!? やらしいぞ回原くん!」

 

 

「こうでもしないと止まらねーだろお前!」

 

 

 排熱が正常に出来なくなったことで、エンジンが止まる。レシプロターボの負荷も相俟ってエンストを引き起こした飯田の個性は、完全に機能停止に陥った。

 

 

「俺たちの、勝ちだ……!」

 

 

 回原は勝利宣言の後、意識を失った。

 

 

 それから骨抜と鉄哲がどうにか飯田、尾白、轟を牢屋に放り込み──試合はそこでタイムアップとなった。

 

 

 

 

 

 所変わって待機所。

 プレゼントマイクがコメント欄を見ながら、現在の状況を整理する。

 

 

『第一試合!! 現在、B組四ポイント、A組が一ポイントでB組有利の展開に! これは予想外の展開だと、コメント欄は大盛り上がりだ!!』

 

 

 轟──“ショート”がエンデヴァーの息子である事は、体育祭や先のセレモニーで判明している。

 現役ヒーロー番付四位の上鳴も認めるスーパールーキーが、無名の学生に敗北したというのは、大番狂せと言って差し支えないだろう。

 

 

 しかし、解説の教員二人は、世情に流されず淡々と試合についての見解を述べた。

 

 

『先ずは良くやった! 俺はお前たちを誇りに思う! だが、ポイント差はあるものの、実力は伯仲していた……いや。悔しいが! A組の方が上回っていた! 轟、尾白の二人は、間違いなくトッププロ層に食い込む戦闘力。組み合わせの良さがあっての辛勝だ……お前たち! 決して驕るんじゃないぞ!』

 

 

 ブラドキングが疲弊し切ったメンバーにエールを送りつつ、A組の能力の高さを評価するその一方。

 イレイザーヘッドは淡々と事実だけを口にする。

 

 

『単なる実力で勝敗は決まらない。これは実戦においても同じ事が言える。反省点も多々あるだろうが……敢えて口にはしない。既に分かっているだろうからな。訓練のいい所は、失敗を次に繋げられる所だ。実戦ではそうはいかない。その事を忘れず、励む様に』

 

 

 教員のコメントが終わるや否や、上鳴は叫んだ。

 

 

「次行こうぜ! 次!」

 

 

『早く戦いたいからか、ミカヅチがめちゃくちゃ急かしてくるぞ! 今、雄英ロボットがグラウンドの点検してるから、ちょっと待ってな!』

 

 

 破損箇所の簡易修理を雄英のロボットが行なっている間、思い立ったようにプレゼントマイクが言う。

 

 

『そんじゃぁ待ち時間があるのもアレだし……リスナー諸君のコメントを改めて見ていくぜ!』

 

 

 ラジオのお便りを読むかの様に、プレゼントマイクがタブレットに目を落とす。

 しかし、あまりにも数が多過ぎて目が滑ってしまうため、AIアシスタント“コガネ”がランダムでピックアップした物だけ軽く触れていくことに。

 

 

【ミカヅチの言葉が本当だったかはまだ分からない】

【結局負けてんじゃんwwwやっぱ学生なんて大したことないってwww】

【何で全身鋼鉄の人間に何発もぶん殴られて生きてんだよ……】

【ショートTUEEE……? 顔が良いだけの男じゃない?】

【マッドマンかなり良くないですか?】

 

 

 最初のピックアップから、既にアンチコメントが目立っている。

 渦中の轟が「仕方ない」と割り切る一方で、逆に対峙していたB組メンバーは額に薄らと青筋を浮かべていた。

 声を荒らげても仕方ないので、飲み込もうとして──耐えられなかった鉄哲だけが弾けた。

 

 

「おうおうおう!! よくグラウンドを氷漬けにした男に“顔だけ”なんて言えるなァッ!! 俺はめちゃくちゃビビったぜ、一歩ミスったら即全滅だったからな!!」

 

 

「……ありがとな、鉄哲」

 

 

「礼なんていらねぇぜ轟!! 俺たちはライバルであって、敵じゃねぇ……次戦う時、俺ぁタングステンばりの耐熱性を手に入れておくからよ。最初からガチで来いよな!!」

 

 

「分かった。もっと赫灼を使いこなせるようにしておく」

 

 

『アンチコメントサンキューリスナー諸君! おかげでヒーロー科の結束が更に高まったぜ! それじゃあ次のコメントコーナーだ、コガネ! ピックアッププリーズ!』

 

 

 プレゼントマイクがフォローしながら、次のコメントを要求する。

 コガネが選んだのは尾白についてのコメントだ。

 

 

【テイルマンとかいう没個性の星。お前は中途半端個性界隈の柱になれ】

【あのアイテムさえあれば誰でも同じことできんじゃねぇの?】

【あのマッシブと異様な筋肉の柔軟性を両立させてから言ってくれ】

【ワイ、フィットネスクラブの広報。テイルマンにCMのオファーを出すことを決意】

【ガチの広報おって草】

【テイルマン、ミカヅチは名前出してたっけ?】

【出てねぇんだよな。ミカヅチ評価適当過ぎだろ】

【私は今、猛烈に感動している……! 頑張ろう皆! 私も頑張る!】

【クラストもよう見とる】

 

 

 トッププロも注目しているという事で、学生たちがより一層身を引き締める中、上鳴は首を傾げて呟いた。

 

 

「……何か俺、ディスられてる?」

 

 

 一応、尾白の名前を出さなかったのには理由がある。

 

 

「仕方ないじゃん。まだ牙撃てる回数に制限あんだから。アレをジャブ感覚で撃てないと」

 

 

 上鳴の言葉に尾白を除いた全員が絶句した。

 建物を膾切りにする一撃を、一日に何発撃てればコイツは満足するんだろうか。

 それを聞いたとしても「こんなんなんぼ撃ってもええですからね」と上鳴が答えるのは火を見るより明らかだったので、教員も生徒も口を挟まなかった。

 

 

 当人である尾白だけは例外だ。

 

 

「とりあえず、一日に十回は撃てる様に頑張るよ」

 

 

「お前なら出来る。楽しみにしてるからな、マジで」

 

 

 上鳴が歯を見せて笑っていると──次の試合の準備が整った。

 

 

 第二試合、次鋒。

 

 

 A組からは八百万、常闇、葉隠、青山、口田。

 B組は拳藤、吹出、黒色、小森、宍田。

 

 

「天は僕らを味方しているようだねぇ……!」

 

 

 物間の言葉に、上鳴は返事をしなかった。

 

 

「実際どうなの?」

 

 

 耳郎に小突かれ、唸りながら答えた。

 

 

「黒色にダークシャドウを捕まえられると、かなり不味い」

 

 

「……そんなに?」

 

 

「葉隠と青山が上手く打開できなかった場合、八百万の負担が尋常じゃなくなる」

 

 

「八百万とダークシャドウを押さえたら勝てるってことだろう?」と物間が話に混ざってくる。

 

 

 上鳴は腕組みをして答えた。

 

 

「言うは易しだ」

 

 

「どうかな? 言っておくけど、拳藤はやる奴だぜ?」

 

 

 上鳴が耳郎や緑谷に絶対の信頼を置くように、物間も拳藤一佳という少女を高く評価していた。それは、物間以外のB組生徒も同じ。

 

 

 

 

 

 そして、拳藤は仲間の信頼を裏切らない。

 

 

『B組黒色、ダークシャドウを乗っ取り……そんなんありぃ!?』

 

 

『考えたな』

 

 

 試合開始から数分と待たず、黒色がダークシャドウを乗っ取った。

 それだけなら良かったが。

 

 

『ダークシャドウを纏ったか』

 

 

 深淵闇躯(ブラックアンク)──常闇が苦手を克服する為に編み出した必殺技を、黒色の支配下にあるダークシャドウを利用して、拳藤が使っていた。

 





 B組もちゃんと強くなってますよ回・前編でした。
 相性ゲーというのもかなり大きいですが、A組の油断と驕りも無くはないです。もっと丁寧に負け筋を潰していったら勝てました。
 ただ、その作戦を提案できる頭脳担当(八百万、蛙吹、緑谷など)が居なかったのでこの結果に。

 最後になりますが、皆様からの感想、お気に入り、高評価、大変励みになっております。感謝感謝ですわ。
 
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