雷神、上鳴電気   作:一般通過呪術師

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 ヒロアカ原画展に行ってきました。クソデカ黒デクとか先生の制作小話とか無限に見所があったんですけど、最後の最後に現れた大人葉隠さんのスケベピクチャーが全てを掻っ攫っていきました。



ep.96 クラス交流戦-参-

 

 鼻を鳴らす爆豪が早速グラウンドに移動しようとすると、イレイザーヘッドが待ったをかけた。

 

 

『グラウンドを整備する。もう暫く待て』

 

 

『そしてその間は──コメントチェックのコーナーだ! 早速、今一番ホットな話題からチェックしていくぜぇ! アーユーレディ!?』

 

 

 待機場で芦戸を始めとしたノリの良い連中が「イェーイ!!」とレスポンスを返す中、コガネの無機質な電子音声が待機場に流れていく。

 

 

【バトルフィストちゃんキタァァァアアア!!】

【CMからファンです! お突き合いを前提にお付き合いしてください!】

【クリエティのクリエティッパイがボインボインで草ァ】

【インビジブルガールの露出プレイが見れるのはここですか!?】

【ほな、シーメイジは貰っていきますね……】

【助けてくださぁぁぁい!! コメント欄が変態に襲われてまぁぁぁす!?】

 

 

 男子陣が呆然とし、女子陣が一様に不快感を示した。

 

 

 女性ヒーローに対するセクハラはよくある話だ。しかし、いざ目の当たりにすると色々酷い。日頃から峰田のハラスメントをいなし続けている八百万と葉隠でさえ苦い顔をしているし、拳藤もこめかみのあたりをひくつかせていた。小森はサッと黒色や宍田の背後に隠れ、宙空に留まるドローンのカメラから逃れることで、落ち着きを取り戻そうとしている。

 

 

 イレイザーヘッドとブラドキングが教師の顔で立ち上がる中、更に電子音声が垂れ流される。

 

 

【雄英バリアの実装が待たれる】

【ブロックワードの設定くらいしておけよ】

【いや、今配信サイト自体がサイバー攻撃受けててその辺りが機能してない】

【異能の解放(笑)を叫んでる連中か】

【お前らが敵連合や。はよミカヅチにぶっ飛ばされろ】

【一緒にすんな】

【死柄木弔さん!?】

【名乗るの不謹慎過ぎて草】

 

 

『待て待て待てブラドもイレイザーも落ち着けピックアップしたのは俺じゃ』

 

 

【プレゼントマイク最低】

【プレゼントマイクのファンやめます】

【畜生AIのせいでマイクが非難されててワロタ】

【ホットな話題とかいうから、手動で殺し切れない変態のコメントを拾う羽目になるんやで】

 

 

 教師二人がコガネに「Fワードやそれに類似する物を含むコメントをピックアップしないように」と新たなルーチンを口頭で吹き込み、コメントチェックを再開する。

 

 

【インビジブルガールちゃんとかいうクソ強美少女】

【雷神の影がずっとチラチラしてて鬱】

【一体お前は何を持ち得ないんだ、上鳴電気】

 

 

「なぁ……試合に関するコメントに限定した方が良くね?」と瀬呂。

 

 

 上鳴は首がへし折れそうな勢いで縦に振って言う。

 

 

「俺の話なんて興味ねぇよ」

 

 

 物間が肩をすくめて言った。

 

 

「まあ、君のビッグマウスがもたらしたコメントがかなり多いからね」

 

 

【実際、ミカヅチ一推しのツクヨミとクリエティが影薄くてダメ】

【黒いのなんかフィストちゃんの強化パーツにしかなってなかったぞ】

【ミカヅチ、適当なことばっか言ってて草】

【Ms.ジョークに次ぐ現代のホラ吹き】

 

 

 見たかった物と違う。そういう意志がコメントから透けて見えた。

 その一方で、B組メンバーを称賛する声もチラホラと出始めていた。

 

 

【アレはどう考えてもB組側の連携と相性有利と作戦勝ち】

【ダークシャドウの能力の高さは伝わった訳だしな】

【どちらもナイスファイト! 私も頑張る!】

【クラストもよう見とる。ほんまによう見とる。仕事してくれ】

【プロヒーローさんはこんな所で学生のお遊戯見てないで働いてください】

【クラスト、さっき銀行強盗捕まえてたぞ】

【生意気言ってすみませんでした。開示請求だけは勘弁してください】

 

 

 否定、肯定、変態──数多のコメントが入り乱れる交流戦配信は、いよいよ折り返し地点を迎える。

 

 

 第三試合、中堅。

 A組からは爆豪、耳郎、瀬呂、砂藤、蛙吹。

 B組は取蔭、泡瀬、鎌切、凡戸、円場。

 

 

 ミカヅチの言葉が嘘か真か、世間は遂にその答えを知ることになる。

 

 

 

 

 

 ──戦況は数字だけで見ればB組(ウチ)の圧勝。絶対的な優位に立っている様に見えてはいる。

 

 

 しかし、実際のところ取蔭達にその認識はない。

 

 

 第一試合。鉄哲は最大火力を出せない轟を相手に短期決着を決められず、回原は尾白に終始押されていた。戦線から離脱するという飯田の判断ミスがなければ、骨抜も自由に動けず、地力の差で削り切られていただろう。

 第二試合は特に運が絡んでいた。八百万の行動方針もそうだが、あと少し拳藤の合流が遅れていて、宍田と小森が落とされていたら。万全の態勢を取り戻した口田による妨害、青山の遠距離火力を掻い潜って葉隠を倒す事は困難を極めていた。良くて痛み分け。悪ければ黒色を残して全滅だった。

 

 

 轟焦凍、尾白猿夫、飯田天哉、八百万百、常闇踏陰、葉隠透──相性の有利、現場での運、頂点しか見ていなかった事で生じた油断と慢心。それらに付け込まなければ決して勝てなかった“個の力”を持った者達。

 この結果をもたらしたのは個性の有利と、A組とB組の基本方針の差異だろう。

 

 

「さて、体育祭のリベンジ達成まであと三戦だけど」

 

 

 A()()()()()

 

 

 上鳴電気に関しては一旦物間に丸投げする。他のメンバーは先ずこの中期目標達成の為に、交流戦に焦点をあて、努力を積み重ねてきた。

 

 

 上鳴と親交*1がある物間はよく個性の使い方について助言を受けていた。それを元に物間が個性を鍛えるという事はつまり、B組の個性について理解を深めるという事でもある。

 一人よりも二人。二人よりも三人。物間が上鳴から教わり、習熟した事をそれぞれにフィードバックする。そこから更に個性について調べ、研鑽を重ねた。

 

 

 取蔭は試合開始の合図をグラウンドで待ちながら、B組屈指の戦闘力を持つ鎌切尖に声を掛けた。

 

 

「鎌切、爆豪を地面に叩き落とせたら……勝てる?」

 

 

 鎌切は身体から鉄すら両断する斬れ味の刃物を生やす個性“刃鋭”を持った少年である。異形型も含んでおり、身体能力も極めて高い。上鳴、緑谷、砂藤の様な腕力自慢でもない限り遅れを取る事はない。

 しかし、鎌切は歯を食い縛り、声を絞り出すようにして答えた。

 

 

「厳しい」

 

 

「……そっか。アンタが言うなら、まぁ、そうなんだろうね」

 

 

 爆豪勝己。対戦相手の最大戦力。体育祭の時点で既に才覚を示していた少年。高い機動力とオールレンジで発揮される破壊力抜群の個性。頭はキレるが口の悪さと、協調性に欠けた性格から、コミュニケーションエラーが発生する可能性は高い。

 だが、その弱点は長所を潰すほどの物ではない。で、あるならば。

 

 

「爆豪は避ける。狙いは耳郎と瀬呂。これで決まりだ」

 

 

 ──私たちだけが勝てば良いってもんじゃない。

 

 

 ここから先の戦いは点を取る事を目的には出来ない。ミスを減らして点差を守りつつ、小さい点を狙う。

 爆豪一人に蹂躙される可能性も視野に入れ、搦手主体で立ち回る。元よりそういう構成のメンバーだ。鎌切の出番が少し減るだけ。

 

 

「先ずは私が身体を分割して周囲に散開。空から位置を特定する。多分だけど、爆豪なら動いてこっちの隙を作ろうとするから、特定に時間は掛からないはず……見つけたら、こちらも姿を見せて釣る」

 

 

 囮を用意して目標ポイントまで誘導して一網打尽。得意を押し付ける形での強みであり、シンプル故に緑谷以外なら有効。だから中堅チームに取蔭達は選ばれた。

 

 

「耳郎の索敵は私が音を立てて潰す。位置が特定できなくなった段階で、爆豪が先行してたら浮くから──凡戸の個性で足止めと分断。砂藤と蛙吹を円場と泡瀬。瀬呂と耳郎を鎌切と私で捕獲。一気に退散。時間まで逃げちゃおう」

 

 

 この中堅戦で耳郎と瀬呂を、次の副将戦で麗日と峰田を狙う。合計四ポイント。これさえ取れれば、物間の出番は必要ない。B組は最大戦力を温存した状態でA組に勝利できる。

 

 

「ここが分水嶺だな、頑張ろうぜ」

 

 

 泡瀬の言葉に全員が頷いた。

 勝てない試合じゃない。

 後は、最善を尽くすだけ。

 

 

 取蔭達は試合開始の合図と同時に行動を開始。想定通りの動きを取る爆豪を見つけ、直ぐに仲間内で合図を送り合う。

 誘導には凡戸と泡瀬。直ぐに身を隠して爆豪たちをポイントに誘い込む。

 

 

 ──いける。

 

 

 動きは完璧だった。

 作戦は全てスムーズに、そして的確にA組中堅チームに刺さっていた。

 だが。

 

 

「爆豪、十時の方向に凡戸!」

 

 

「APショット!」

 

 

 歯車が狂い出した。

 

 

「なんで……!?」

 

 

 取蔭は身体を八十個に分割して音を鳴らし続けていた。耳郎の索敵は工場地帯特有の金属部材に反響する異音で封じられていたはず。

 その疑問の答えは直ぐに分かった。いや、取蔭は思い至った。

 

 

 耳郎響香がグラウンドで発生している音を全て聞き分けている事に。

 

 

 そこから導き出される答えは──

 

 

「作戦を利用された……!?」

 

 

「邪魔だァ!!」

 

 

 工場の一角が轟音と共に崩落した。

 

 

「瀬呂ォ! そこの接着野郎を簀巻きにして吊るしとけ! 牢屋に叩き込むのは後回しだ!」

 

 

「了解!」

 

 

 ──まずいまずいまずい!?

 

 

 取蔭の索敵は切り分けたパーツを飛ばし、そこから得た情報をリアルタイムで口パーツから伝達するという物だ。基本的には視覚情報に頼った物であり、仲間と共に行動していなければ意味がない。

 今回は鎌切と行動し、得た情報は刃鋭で作り出した刃で太陽光を反射してモールス信号を送ることで、リアルタイムでやり取りをしている。

 

 

「耳郎、敵は!!」

 

 

「取蔭の本体が西に百メートル。鎌切も一緒。泡瀬、円場は今ダッシュでここから離れてる。東に円場、泡瀬は取蔭達に合流……かな」

 

 

 文字通り目を飛ばして情報を得ている取蔭に対し、耳郎は音で全てを詳らかにしていた。纏まって動いているため共有も早い。

 

 

 ──何て言ってるのか分からないけど、作戦が全部バレるなら引いて態勢を立て直せない!

 

 

 作戦内容は分からなくても、位置と地形さえ把握できれば自然と意図は読める。敵の出方が分かれば、どうすればいいのかも自ずと決まる。

 次の手も、その次の手も同じようにバレるとしたら、地力で劣る取蔭達には打つ手がない。

 

 

 戦いのイニシアチブはA組が完全に掌握した。

 

 

 そこから選ぶ戦法は迎撃か?

 

 

 否、殲滅(SMASH)である。

 

 

「詰めるぞお前ら! 砂藤と蛙吹! 丸目*2を追え! 耳郎と瀬呂は俺と来い! トカゲ女共を潰す!」

 

 

「「了解!」」

 

 

 ──爆豪と、耳郎に瀬呂!? 何で砂藤と蛙吹じゃないの?

 

 

 何も分からない。取蔭の想定を遥かに超える事態だ。

 瀬呂だけ、耳郎だけなら分かる。何故、戦闘力に長けた砂藤や万能の蛙吹を差し置いて、爆豪はサポート二人を追撃メンバーに加えたのか。

 

 

 B組メンバーは耳郎の戦闘力を把握し切っていなかった。

 

 

「……チャンスだ」

 

 

 ここがターニングポイントなのだと、取蔭は確信した。それが間違いだとは気付けなかった。

 

 

「鎌切、泡瀬なら一瞬だけチャンスを作ってくれる。一撃で爆豪を仕留めて」

 

 

 泡瀬ならやれる。

 追いかけてくる爆豪の裏をかいて、狭小な道と身体を溶接できれば、ほんの一瞬の隙が生まれる。

 

 

「──任せろ!」

 

 

 引くだけでは勝つどころか逃げ切れない。どうせどこかで勝負を仕掛ける必要がある。であれば、まだ四人残っている今がベスト。

 爆豪さえ止められれば、瀬呂と耳郎を纏めて仕留められる。爆豪の分も含めれば三ポイント。逃げに徹してガス欠した砂藤を仕留められれば四ポイント。自分達の勝ちだ。

 

 

「待てやゴラァァァァア!!」

 

 

 取蔭は耳パーツを回収。それと同時に、爆豪の声が耳朶を打った。

 少し遅れて、泡瀬が爆豪の背中と建物の壁を溶接した姿が視界に映った。

 

 

「鎌切頼んだぁぁぁ!」

 

 

 泡瀬の声に導かれ、鎌切が鉄とコンクリートのジャングルを疾駆する。両手から生やした刃を構え、残像が見える程の速度で、彼我の距離を踏破した。刃を煌めかせながら、爆豪目掛けて一息で振り抜く。

 

 

 ──獲った!!

 

 

 取蔭はガッツポーズした。

 しかし、刃が目標へ到達するよりも先に。

 

 

心音撃掌(ドラミングビート)!」

 

 

 鎌切を上回る速度で、耳郎の拳が爆豪を拘束していた石柱を粉砕。間髪入れずに瀬呂が耳郎を抱え、予め伸ばしていたテープを高速で巻き取ってその場から離脱した。

 転瞬、爆豪の掌で光が爆ぜる。

 

 

「カァッ!?」

 

 

 スタングレネード。光と音が鎌切の五感を飛ばした。その上で、爆豪は容赦なく鎌切の身体を掴み、爆破で勢いを付けてその場で旋回──投げ飛ばした。

 錐揉み回転しながら宙を飛んだ鎌切は、建物の壁に減り込み、そこで完全に意識を失った。

 

 

「瀬呂、もっかい!」

 

 

「はいよ!」

 

 

 重量に従い落ちていく鎌切を瀬呂が回収。簀巻きにして転がす。

 取蔭は舌打ちを抑えきれなかった。

 

 

 ──耳郎があんなパワープレイしてくるなんて想像できるか!? アレ、体育祭では影も形も無かったでしょ!?

 

 

 凡戸と鎌切が取られた。

 泡瀬はまだ逃げてる。

 円場は不明。

 自分が捕捉されるまで時間の問題。

 

 

「取蔭はさ。頭、良いんだろうね」

 

 

 真下から声がした。

 声の主は耳郎だ。

 

 

「でも、熟考は時に短慮以上の愚行を招く。ウチはそれを……林間で嫌ってくらい学んだよ」

 

 

 トラッシュ・トーク。

 取蔭は気にしなかった。自分もそうだが、物間もよく使う手だ。冷静さを欠いた方が負ける。まだ負けた訳じゃない。

 だが、致命的に判断が遅かった。

 

 

『泡瀬ダァァァウン!! 爆豪、瀬呂に向かって投げつけるゥ!!』

 

 

『合理的だな』

 

 

『人の心とかないのか?』

 

 

 B組の勝利を何よりも優先するのなら、取蔭は鎌切が敗北した瞬間に逃げるべきだった。恥も外聞もなく、全てをかなぐり捨てて。

 爆豪は緑谷出久に対する己の罪を認め、これまでに積み上げてきた敗北を糧とした。彼の辞書からは──油断の二文字は破り捨てられている。

 

 

「いいの? 来ちゃうけど」

 

 

 耳郎が得た情報を爆豪が聞いた瞬間から、この結末は決まっていた。

 

 

「いや、もうさァ……!」

 

 

 背後から爆風。泡瀬がやられてからまだ十秒も経っていない。

 自身に迫る影に向かって、取蔭は叫んだ。

 

 

「どうしろってのよ……!」

 

 

「テメェの負けだトカゲ女」

 

 

 爆炎に飲まれ、取蔭の身体は地上に向かって落ちていった。

 

 

「円場……アンタ、だけでも……」

 

 

 そして──意識を失う直前。

 取蔭は、基礎から無理矢理引き抜かれた様な建物が宙を舞う、あり得ざる光景を目の当たりにした。

 

 

『砂藤、円場が逃げ込んだ建物を引っこ抜いて空に投げたァッ!?』

 

 

『蛙吹が円場抱えて抜け出したな』

 

 

『異次元の脳筋プレイ炸裂ゥ!!』

 

 

「ふざけんなよ……私が逃げ切れるわけないだろ……」

 

 

 夢みたいな光景が現実であると裏付ける、プレゼントマイクの実況を最後に、取蔭の意識はプツリと切れた。

 

 

 

 

 

『試合終了ー! ここに来てA組が完全勝利! 交流戦の行方はまだまだ分からなくなってきた!』

 

 

 総評するなら、耳郎と爆豪が強過ぎた。圧倒的な索敵範囲とヒーロー科トップレベルの機動力・制圧力。それを支える三人も、それぞれが優れた力を持つ精鋭。

 チーム力を比べた場合、爆豪率いるこのチームは間違いなく最強だった。

 

 

「……流石と言わざるを得ないよ」

 

 

 モニターを見ながら静かにそう言う物間の前で、上鳴はふよふよと空中浮遊して言った。

 

 

「どうよ? 耳郎良かっただろ。爆豪なんかまだ本気出せてないぜ? なぁなぁ凄くね?」

 

 

「絡み方が鬱陶しいよ君」

 

 

「お前に言われたらおしまいだよ」

 

 

「……それでも、まだ僕らが三ポイント上回っている」

 

 

 物間は視線を上鳴から、待機場所まで帰ってきた取蔭たちに向けた。

 

 

「そう落ち込む必要はないさ。君たちが僕らの為に勝ち筋を残そうとして逃げたのは、分かってるからね」

 

 

「……本当ごめん! 塩崎たち、後は任せた!」

 

 

 物間が真面目な顔をして、改めて上鳴を見る。

 

 

「緑谷くんから逃げながら、他の面々を()()捕らえる。それで僕たちの勝ちだ」

 

 

 B組で唯一緑谷と対等に渡り合える物間を欠いた状態で、抵抗してくる面子を押さえ込み、緑谷の目と追手を掻い潜って牢屋まで運ぶ。

 上鳴は思った。それは無理だと。

 

 

「いや、二点取れたらそっちの勝ちでいいぞ」

 

 

「……おやおや? 算数が出来なくなっちゃったのかい? それだと、仮にA組が塩崎達を全員牢に入れたとしても十一ポイント。同点だよ?」

 

 

「俺に勝敗が委ねられた時点で負けだろ。普通に」

 

 

 少なくとも世間はそう見るし、クラスメイトもそう判断するだろう。何せ上鳴は『No.4ヒーロー』だ。単なる学生とは訳が違う。勝って当たり前なのだから。

 

 

 ──にしても……しれっと俺に勝つことを前提にしてんのな。いい熱量だ。

 

 

 物間の熱は横に置き、上鳴は緑谷に発破をかけた。

 

 

「爆豪はやったぞ」

 

 

「……うん。大丈夫、勝つよ。誰も奪わせない」

 

 

 緑谷は既にトップヒーロー級を超えている。

 負ける事はまず無い。

 

 

 ──セブンとの会敵の影響か、インターンが終わってからは日々の訓練の気合いの入り方も違ったしな。

 

 

 上鳴から見て、セブンは必ず殺さなくてはいけないヴィランの一人だ。

 可能なら緑谷の手でケリを付けて欲しいというのが歴代の率直な思いでもあるはず。

 

 

「楽しみだな。早く始まんねーかな。な!!」

 

 

『ミカヅチが急かしてくるのをスルー!! 懲りずにコメントチェックのコーナー!!』

 

 

【マジで懲りないな】

【また叱られちゃうよマイクが】

【変態共の通報にご協力ください!】

 

 

 垂れ流しになったコメントが漸く落ち着いて来た。コガネのピックアップ機能の精度が増しているのだろう。

 早くしてくんないかな、と上鳴が腕を組みながら考えていると──爆豪についてのコメントが読み上げられ始めた。

 

 

【名前の出オチ感に反比例するガチ強者なの草】

「誰が出オチだぶっ飛ばすぞ!!」

【破壊力と機動力が凄い】

【一瞬でグラウンドがごっそり無くなったな】

【これにはミカヅチもニッコリ】

「それはそう」

【多分他の面子も暴れられたらこうなるんやろね……】

「そうだよマジで」

【ダイナマとミカヅチの相槌が混ざってて草】

 

 

 口を挟まずにはいられなかった二人への和やかな笑いが場を包む。

 上鳴は常闇、八百万、轟から申し訳なさそうな眼差しを向けられたが、軽く手を振ってあしらった。反省点が分かっていたら幾らでも強くなれる。

 

 

 次にピックアップされたのはMVPの耳郎だ。

 

 

【ミカヅチの()()()優秀過ぎん?】

【近接良し、索敵良し、面良し】

【ダイナマイトの活躍もあって全貌が把握し切れん】

【戦える索敵役は貴重】

【ここにきてミカヅチ慧眼説が高まってきたの熱い】

 

 

 元カノ扱いに耳郎が心底不機嫌になっているのを見た峰田が、上鳴を睨んで血涙を流している間も、A組に対するコメントが続く。

 

 

【セロファンの仕事人っぷり好き】

【フロッピー可愛い。出番は少なかったけど】

【シュガーマンが建物引っこ抜いて投げ始めて顔ないなった】

【何でミカヅチはコイツの名前出さなかったんだ???】

【暫くしたら息切れしてたからじゃね?】

【ハードルが高いて】

 

 

 ここで、大人しく聞いていた物間が遂に弾けた。

 

 

「何かA組だけ評価高くないかい!? サクラでも雇っちゃったのかな!? かな!?」

 

 

「ハッハー! これが格の差だ物真似野郎!」

 

 

 物間と爆豪がいつものやり取りを加速させる前に、上鳴がピシャリと言い放つ。

 

 

「絵面が派手なだけだ。B組も言うほど悪くなかった」

 

 

 上鳴が言及したからか、物間が騒いだからかは分からないが、B組に対してのコメントが幾つか読み上げられていく。

 

 

【第三試合は全然ダメ】

【ドンマイすぎる】

【逃げてばっかでダサいと言う奴は二流。ミカヅチのデク評価がマジなら、この試合はA組に点を取らせたくないからな】

 

 

 A組の絵面が強過ぎたからこそ、同情的なコメントが多い。逃げの一手を選んだことに対する批判的なコメントがさほど無かったのもその為だ。

 

 

『そんじゃあこの辺りで切り上げて……片付けも済んだ所で副将戦、第四試合!!』

 

 

 A組は緑谷、麗日、芦戸、峰田、切島。

 B組からは小大、庄田、柳、塩崎、鱗。

 

 

『大将まで繋げるか!? STARTだ!!』

 

 

 

 

 

「皆……わがまま言ってごめん」

 

 

 試合開始直前、頭を下げた緑谷の背中を切島が叩いた。

 

 

「謝んなよ緑谷! 思う存分やってくれ、必要だろ!」

 

 

 芦戸も切島の言葉に「そうそう!」と頷く。

 

 

「それに……何にも知らない人たちだから仕方ないとはいえ、上鳴の目が節穴とか言われるのも腹立つしね! ここで一発かましちゃお!」

 

 

 作戦はシンプル──開幕から緑谷が全力で相手を叩く。それだけだ。

 

 

「きっちり戦って負ける気もないけどよ、負け筋が一番少ないのがコレだろ。オイラも文句ねぇ! 目立つのお前らばっかで狡いとは思ってるけどな!」

 

 

 峰田が言った通り一番負け筋が少ない作戦だ。無理に仲間の見せ場を作ろうとするとそれが隙になり得る。

 緑谷だけが目立つ事になるが、ここで確実に勝たなければならない以上、文句はない。

 

 

 だが──麗日は思う。

 

 

「デクくん……任せたぜ!」

 

 

「……? ありがとう。勝ってくるね」

 

 

 たった一人に背負わせるこの状況を許容していい筈がないと。

 そうせざるを得ない自分の弱さを、麗日は緑谷の背中を見ながら、呪った。

 

 

 

 

 

 緑谷出久が強い事は分かっていた。それはA組、B組、雄英教師のみならず死穢八斎會の一件で共闘したヒーローたちもそう。

 しかし、本気の緑谷出久がどれだけの物なのか、その全貌を知る者は少ない。

 

 

「二十秒だ」

 

 

 上鳴の言葉に全員が首を傾げた。

 

 

「いや、もう結構経ってるな……あと十秒で試合が終わるぞ。見逃すなよ」

 

 

 十

 

 

 画面の端で緑谷が黒鞭で補強した拳を振り抜いた。

 その瞬間、グラウンドが真っ二つに割れるような衝撃波が走る。それは建物の窓を割り、アスファルトを捲り上げながら吹き飛ばしていく。

 一応、爆豪の破壊痕に被せる様に放ってはいるため被害は最小限になっていた。もっとも、大した差はないが。

 

 

 ──塩崎の個性発動を誘発させる為にわざとらしく脅威を演出……やるじゃんか。インターン前の緑谷なら絶対に出てこない発想だ。

 

 

 上鳴は緑谷の成長に口角を上げた。

 

 

 九

 

 

 緑谷が全身から黒鞭を伸ばしながら飛んだ。

 踏み切った地点にクレーターが生じ、遅れて待機場所にまで衝撃音が届く。

 

 

 八

 

 

 シフトレバーを切り替える様な所作。

 緑谷が二代目の個性“変速”を使う時のルーティーンだ。それを知るのは上鳴と爆豪、それからオールマイトのみ。

 

 

 七

 

 

 黒鞭を適当な建造物に引っ掛かけ、宙空で超高速の屈伸運動。赤い光が緑谷の両足に灯る。何だアレは──コメント欄と待機場が騒つく。

 

 

 六

 

 

 上鳴の発言から一四秒が経過したタイミングでB組の塩崎が動いた。ほんの僅かな時間でツルを編み込み、巨大な城壁を作り上げて見せる。

 しかし、それが緑谷の目論見通りである事に気付いているのは上鳴と爆豪、そしてプロヒーローの三人だけだ。

 

 

 五

 

 

 緑谷が限界まで赤い光──発勁を溜め込んだ。

 その力を分配し、脚を覆う黒鞭を飯田のエンジンの様な形状へと変化させる。

 

 

 四

 

 

 そこから噴き出すのは赤紫色の煙幕。

 発勁とワンフォーオールによる過剰噴出で、加速装置へと姿を変えた六代目の個性。全因解放を目指し、緑谷が編み出した技『噴流紫煙(ジェットフォース)*3だ。

 

 

 三

 

 

 カメラがA組チームに切り替わる。

 麗日と峰田が瓦礫で即席のバリケードを組み上げ、切島と芦戸が体をほぐしていた。緑谷の一撃、その余波に備える為だ。

 

 

 二

 

 

 B組陣地から柳の個性と思われる廃材の礫が緑谷へと向かう。

 緑谷は無視した。

 全弾命中しても、顔色一つ変えない。

 痛みも衝撃も全て飲み込む。

 

 

 一

 

 

 黒鞭の張力が限界に達した。

 

 

「セントルイスJETスマッシュ……“五重奏(クインティプル)”」

 

 

 零

 

 

 刹那、緑谷が荊の城壁に着弾し──カメラの映像が途絶えた。

 遅れてインパクト音が五発分、待機場所にまで届く。グラウンドのある方向から吹き込む強い風に、上鳴の前髪もバサバサと動いた。

 

 

「な?」

 

 

 笑顔の上鳴に誰も口を利けなかった。

 オールマイト級のパワーが五発炸裂したというのを否が応でも理解させられる。普通に考えて、塩崎たちはミンチになっていてもおかしくない状況だった。

 

 

『な、じゃねぇよやり過ぎだって!? 俺たちは親御さんと世界になんて説明すりゃいい!?』

 

 

 プレゼントマイクが口にした最悪の事態を上鳴は否定する。

 

 

「着弾地点をズラしてたし、塩崎達もそこまで柔じゃねぇ……暫くの間は緑谷を見たら身体が震えるかも知んないけど、ちゃんと無事だろうよ」

 

 

『トラウマになってんじゃねーかYO!!』

 

 

『上鳴、ドローンで安否確認できるか?』

 

 

「うーっす」

 

 

 ポケットから取り出した超小型ドローンを飛ばし、コガネを介して映像を配信に載せる。

 砂塵の立ち込めるグラウンドはまだ原型を残してはいた。しかし、建物の四割が倒壊。瓦礫の山を築き上げている。

 

 

『い、いた! 緑谷と……oh』

 

 

 B組メンバーは白目を剥いて気絶。黒鞭によって縛り上げられていた。

 その身柄を切島たちが粛々と緑谷から受け取り、優しく牢屋に寝かしていく。

 

 

『無傷なのは……何でだ? 塩崎が上手く衝撃をいなしたのか? 緑谷が超頑張ったからか?』

 

 

 ブラドキングが首を傾げる隣で上鳴が言う。

 

 

『どちらもありうる……そんだけだ』

 

 

「俺のマイク返せ!?」

 

 

 山田が上鳴からマイクを取り返す。

 イレイザーヘッドは瞼を痙攣させ、言った。

 

 

『……上鳴、大人しく待機していろ』

 

 

「すんまうぇーい」

 

 

 試合時間、僅か二十秒。

 副将戦は塩崎たちに深いトラウマを刻み付けて終わった。

 これでA組は十一ポイント。対するB組は九ポイントから変わらず。大将戦の結果に関係なく、A組の勝利が確定した。

 

 

 

 

 

【デク最強!! デク最強!! お前たちもデク最強と叫びなさい!!】

【敢えて言おう、瞬殺であると!!】

【やってること無茶苦茶で草】

【嘘みたいにB組がボロ負けした】

【やり過ぎってレベルじゃねぇぞ】

【ダイナマも大概だったけど、デクは物壊しすぎだろ。着弾地点の周りほぼ瓦礫やんけ】

【まぁ落ち着けよ……今年の一年は体育祭の会場を一個、解体処分にしたんだぜ!?】

 

 

【これでA組の勝ち確か】

【組み合わせ変えたらA組全勝やろこれ】

【第四試合のB組が分からん過ぎて何も言えん】

【ドラマだねぇ】

 

 

【で、最後がミカヅチってわけ】

【ファントムシーフ……名前はミカヅチが出してたけど】

【こんなんミカヅチファンしか見やんやろ】

【勝ったな。風呂入ってくる】

【この流れで勝ってることあるんや】

 

 

 

 

 

 コメント欄の盛り上がりに一度も触れないまま、上鳴と物間はグラウンドへと向かった。

 

 

 緑谷による蹂躙のショックから塩崎達が抜け出して尚、嵐の前触れかのような静けさに包まれ始めた待機場で、全員が固唾を飲んでモニターを見る。

 

 

 そこに映し出されているのは、雄英の工業用ロボットが教員からの指示を無視して瓦礫の撤去と簡易修復を諦め、いそいそと退散し始めている光景。

 そして、大将に選ばれた二人が互いの陣地で目を閉じ、開戦の合図を待っている姿だった。

 

 

 画面越しでも分かる異様な空気が──グラウンドに漂い始めていた。

 

*1
上鳴から絡むことの方が多い

*2
円場のこと

*3
初出ep.71





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 第三試合、第四試合は考えれば考えるほど「あれ、瞬殺なのでは?」だったので纏めました。かっちゃんはクラスター溜めるまで温めなくても耳郎ちゃん達がいるので勝ててしまいますし、デクくんは仲間の見せ場を作る事が舐めプになるレベルの能力値と状況なので初手から全力で潰しに行くだろうと。
 という訳で次回から上鳴vs物間です。やっとここまできました……長かった……
 
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