ガンダムSEED オーブ連合首長国強化パッチ   作:sunplane

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思いついた話をとりあえず投げておきます。


オーブ編 1話

C.E70年 5月10日 L3 ヘリオポリス カトウゼミ研究室。

 

 

 「失礼、カトウ教授のゼミ室はこちらであっているかな?」

 

その日、ゼミの仲間とともにパワードスーツの動作系の調整を行っていた学生たちのもとに訪問者が現れた。

 そういえばカトウ教授からそんな話があったとキラは思い出す。それほどキーボードへの打ち込みと試行錯誤に熱中していた。

 

 「サイ・アーガイルです。教授が言っていた来客というのは貴方ですか」

 

 

 率先して声をかけたのはゼミ内のリーダー格であるサイだ。その声に若い軍人はゼミ室内を見回しながら返答した。その目は一瞬、キラを捉えていたように感じられた。

尉官

 

 「いかにも。私はオーブ宇宙軍二等尉官、オボロ・ハズ・アワギという」

 

 (なんだろう、僕はこの人をどこかで……?)

 

 

目の前の人物とは間違いなく初対面だ。にもかかわらず、キラは謎の既視感を拭えなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 若い将校が持ってきたオノゴロ島の温泉饅頭(朝日を背にしたイズモ級軍艦の焼き印が捺されている)をトールが手際よくゼミ生たちに配り、ミリアリアがキラと軍人に緑茶を差し出す。キラとしても食べ物に恨みはないので、包みをはがし噛り付く。

 

 

 「いただいたお茶に合えばいいんだけど。どうかな」

 

 

「ええまあ」

 

 

「オーブのお婆さんの家にはいつもこれが置いてあってね。私の好物だからとこればっかり出てきたんだ。AFC(エイプリルフールクライシス)直後は販売中止になってたんだけど、先週販売が再開されたんだよ」

 

 

 一体この男は何をしに来たのだろう。ゼミの仲間たち皆に用があるという雰囲気だったが、間違いなく一番の目的は自分だろうという状況はキラにあまりいい予感をさせなかった。自分がコーディネイターであることをキラは特に隠してはいなかったが、プラントと地球連合での戦争が始まってしまった状況で、オーブ軍の士官がやってくるということは、何かしら軍に協力させられると勘繰るのも普通だろう。

 ところが目の前の男ときたらいかにもどうでもいい話しかしないのだ。

 

 

 「ほんのり塩味の効いた粒あんにかりんとう味の生地。渋い緑茶がよく合うね。再構築戦争を乗り越えて茶畑や小豆を守ってくれた人たちに感謝だよ」

 

 

 「あの、」

 

 

意を決してキラは軍人に真意を問う。

 

 

 「貴方は僕を、いえ僕たちをどうするために来たんですか?モルゲンレーテで働かせるため?それとも」

 

 

 銃をもって敵を撃たせるため?と言いかけたキラ。オーブは中立なのだ。そんなことはない、とは彼自身言い切れなかった。キラの両親は戦乱を避けるため、ヘリオポリス市への移住を決めた。プラントに行けばキラはほぼ間違いなくZ.A.F.Tに勧誘されたであろうし、地球連合所属国家では何をされるか分かったものではなかった。しかし、戦争はいつだって理不尽だ。流れ弾が飛んできて命が奪われるかもしれない。それにNJ(ニュートロンジャマ-)が地球全体にばら撒かれてしまっている現状はある意味オーブですら戦場になっていると言えなくもなかった。

 

 そういえば月の幼年学校で別れたきりの幼馴染はどうしているだろう。彼は自分に似ず生真面目だったから、もしかしたらZ.A.F.Tに志願して、もう戦場に出ているかもしれない。便りがないのはいい便りというが。親友は人を撃ったのだろうか、人に撃たれて死んでしまったのだろうか。どちらであってもキラにとっては悪夢だ。

 

 「怖がらせてしまって済まない」

 

 キラの思考が恐怖に沈んだ様子を見て取り、若い軍人は慌てて頭を下げる。何とも軍服に似合わない様子にキラは少し可笑しさを感じた。そしてそしてようやく彼は訪問の目的を語り始めた。

 

 

 「カトウ教授が手掛けていたパワードスーツのデータを見させてもらったんだけど、これがモルゲンレーテの技術部に大層評判が良くてね。ぜひともそのデータを生かしたいと教授に話を聞いてみたら今代の学生たちが粒ぞろいだったからできたといわれてね。そういうことなら我々としても兵は拙速を尊ぶの教えに倣い、君たちを勧誘しようということになった。有り体に言えば、インターンかな」

 

 

「モルゲンレーテでインターン!?こりゃ箔がつくよ」

 

 

カズイ・バスカークがいまいち緊張感のない様子で降ってわいた機会に喜びの声を上げた。キラはやはりか、という気持ちになった。キラの内心を知ってか知らずか、若い将校は続けた。

 

 

「ああもちろん強制的に徴用しようとかいう話ではないよ。君たちはまだ若い。プラントならもうすぐ成人扱いだが、ここはオーブだ。じっくり考えて決めてほしい」

 

 

 強制というわけではない。その言葉はキラを少しだけ安堵させた。先ほどから抱えていた彼の不安を察していたのか、キラの隣でトール・ケーニッヒが手を上げた。オボロはどうぞという仕草をした。

 

 

「トールです。オボロさんはパワードスーツの設計図を見て僕らに声をかけてくれたんですよね。もしかしてその目的はMS(モビルスーツ)を作るため、ですか?」

 

 

 

「概ねその通りだよ。流石に鋭いね」

 

 

 

その返答にキラと、トールの反対側に座っていたミリアリア・ハウの表情が恐怖の色を帯びた。自分たちが携わっていたものは、想像以上に戦争に、人殺しに肉薄していた。その様子を見ながら、若い軍人は言葉を続けた。

 

 

「君たちは《木星探査SAS》て見たことある?ドキュメンタリーの」

 

 

「ありますけど。それがどうかしたんですか?」

 

 

キラは幼少期にデータチップが擦り切れるほど見ていた冒険活劇を思い出しながら答えた。

 

 

 

「Z.A.F.TがMS(モビルスーツ)を兵器として開発運用してしまったからすっかりイメージが変わってしまったけどね。その作品に出てきたように、元々あれはジョージ・グレンが木星探査に使っていた作業機械なんだ。宇宙開発で発展したオーブとしてもいつかは作っておきたいものだったんだよ。神経接続のシステムが複雑でコーディネイターでないと中々扱いきれないから研究が進んでいなかっただけで」

 

 

そういえばそうだった、とゼミ生たちが思い至る中、それでもキラは目の前の将校に言わずにはいられなかった。

 

 

「でも結局、今のMS(モビルスーツ)は兵器だと思われていて。開発してしまったら、戦争に使われるかもしれない。僕たちが戦場に行かなきゃならないかもしれない。それは嫌です。僕も両親も、こんな戦争に巻き込まれないために、ここに来たんですよ」

 

 

 キラの言葉にオボロは神妙な顔をしてしばし沈黙する。

 

 

「君の考えは、きっと正しい」

 

 

慎重に言葉を選んだ様子で、彼は答えた。

 

 

「オーブは地球連合とプラントの戦争には不介入でいたい。ナチュラルとコーディネイターの共存を謳う国家である以上、どちらに味方をするわけにもいかない。オーブに戦禍を呼び込むべきではない。全くその通りなんだ。しかし」

 

 

「しかし?」

 

 

 

キラとオボロの問答を、ゼミ生たちは固唾を吞んで見守っていた。自分たちが戦争にかかわるかもしれないということを、キラの言葉で改めて実感していた。当のキラは自分が初対面の人物、それも軍人にここまで踏み込んでいることに驚いていた。

 

 

 

「この戦争はこのままでは終わらない。少なくとも僕はZ.A.F.Tも連合軍もオーブを巻き込もうとするのは時間の問題だと考えている。だからそうなる前に、オーブを守るために、もっと言えば戦争を終わらせるために、今は力が必要なんだ」

 

 

「でも、力だけがあっても、この戦争は終わらないと思うんです」

 

 

 キラは自分の思いを見つめながら話した。たかだかインターンの誘いをかけてきた軍人にここまで訊くのはお門違いなのかもしれない。もし自分たちが協力しなくても、オーブはMS(モビルスーツ)開発を進めるだろう。自分たちが嫌だといっても、戦争は否応なしにやってくるのかも知れない。だからと言って、むやみに力を追い求めるのは間違っているのではないかという疑念をキラは拭えなかった。

 

 

「力だけでは、確かに終わらないだろうね。そもそもオーブの国力だけで両陣営を押さえつけるなんて無理な話だけども」

 

 

 オボロはキラの言葉を認めるように言う。

 

 

「この戦争を終結させるためにはきっと、人々の心を動かさないといけない。冗談抜きに、世界を変えるほどにね」

 

 

「それは、どうやって?ですか」

 

 

 心を動かす。ナチュラルとコーディネイターがいがみ合う現状を変える。しかしそんな方法があるのだろうか。キラには見当がつかなかった。

 

 

「今はまだ話せない。機密保持のためでもあるけど、そもそもできるかどうかもわからないから。土台雲をつかむような話だよ。ナチュラルとコーディネイター、その溝を埋めるために、今考えているやり方が本当に正しいのかも、時間があとどれくらいあるのかもわからない」

 

 

 若い軍人は悩みを打ち明けるように言った。ゼミ室に沈黙の帳が下りる。キラは何と言ったらよいかわからなかった。

 

 「……辛気臭い話をしてしまって申し訳ない。最初に言った通り、この話を受けるかどうかは君たち次第だ。僕としては是非とも君たちの力を借りたいけどね。何か質問があれば、この連絡先に」

 

 

 そう言って、オボロは懐から自らの名刺を机に置き、席を立つ。外は人口制御された太陽光がオーブ標準時に連動して夕暮れの色に染まっていた。

 

 

「この照明は出来がいいけど、惜しむらくは沈みゆく日に照らされた美しいオーブの海岸の色までは再現できないことだね」

 

 

(海に沈む夕日、か)

 

 

 幼年期を月面で過ごし、ヘリオポリス市で学生をしていたキラにとってそれは未知の景色だった。いつか、戦争が終わった地球に気軽に遊びに行けたらいいなと彼は思った。

 

 

 

***

 

 

 人工照明も、星たちの光も届かないヘリオポリス市の最深部に、モルゲンレーテの工廠はあった。

そこには出所不明のZ.A.F.TのMS(モビルスーツ)たちが数台並べられ、技術者たちが蜜に群がる蜂さながらにリバースエンジニアリングを試みていた。その作業を監督するのは身なりの良い長髪の怜悧な美貌の青年だった。

 

 

 「どうだった、かのスーパーコーディネイターとやらは。使えそうなのか?」

 

 

艶やかな黒髪をなびかせ、MS(モビルスーツ)ジン(ZGMF-1017ジン)シグー(ZGMF-515シグー)の解析結果を注視しつつ、ロンド・ギナ・サハクはオボロに問う。

 

 

「エンジニアとしてならば、すぐにでも。ですが」

 

 

「オーブを守る戦士としては期待できない。そういうことだな?」

 

 

現状ではそうでしょうね、と若い将校は答える。ここまでは互いにわかっていたことでもあった。

事前のプロファイリングからして、かの少年は極めて国家への帰属意識、俗にいう愛国心が薄いであろうことは予測されていた。月面の中立都市と本国から離れたコロニーで過ごした人間にそれを期待するのは無理な話であった。ああいう人間が能動的に動くのは自身の望みのためか、極めて近しい人物の危機であろう、と。

 

 

「ウズミ・ナラ・アスハのお人好しも極まれりだな。あの御転婆娘ではなく、キラ・ヒビキの方を養子に取っておけばよかろうものを」

 

 

「どうでしょう。案外カガリ様の方が人の上に立つという意味では適任かもしれません。運命とまではいいませんが、向き不向きはあります」

 

 

 

「上に立つ?振り回すの間違いではないか?」

 

 

 

物は言いようだな、と言わんばかりのギナの視線にオボロは肩をすくめる。

 

 

「まあいい。兎に角MS(モビルスーツ)開発は急務だ。我がオーブの国防を考慮すればグーン(UMF-4Aグーン)の対抗馬は欲しいところだが。地上のMS(モビルスーツ)はジャンク屋どもの鹵獲には期待できん」

 

 

「案外正面からプラントに言えば売ってくれるかもしれませんよ。なんせうちは()()()ですから」

 

 

「お前にしては面白い冗談だな。だが私はカーペンタリア湾を売り渡した連中(大洋州連合)ほど恥知らずではないつもりだ」

 

 

お互い冗談とも本気ともつかないやり取りをしつつ、ロンド・ギナ・サハクは手にしていたタブレット端末に別の画面を表示させた。

 

 

「地球連合軍の中でもMS(モビルスーツ)開発計画はあるようだが、有力なのはやはり大西洋連邦のG計画だな。最も、NJ(ニュートロンジャマ-)のせいで動力確保に苦戦しているようだが」

 

 

「我が国もそれに一枚噛もうというわけですか。Z.A.F.Tが煩くなりそうですが」

 

 

「一応の方便は考えておく必要があるか」

 

 

一瞬考えるそぶりを見せたギナは結局、目の前の軍人に対策を丸投げすることにした。

 

 

「モルゲンレーテのいくつかの特許を交渉材料にして構わん。外交的に角が立たんように大西洋連邦とのMS(モビルスーツ)開発計画に便乗するのだ。氏族議会の根回しはお前とミナがいれば十分だろう」

 

 

「無茶をおっしゃる」

 

 

「信頼の証と思ってもらおうか。それに外交はアワギ家の本領であろう」

 

 

無様なステップを踏んでくれるなよ、と言わんばかりの茶目っ気と酷薄さの入り混じった笑みをギナは浮かべた。オボロは相変わらずだといわんばかりの苦笑を返し、本国への帰途に就いた。

 

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