ガンダムSEED オーブ連合首長国強化パッチ   作:sunplane

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オーブ編 2話

C.E70年6月3日 オーブ本国 マルキオ導師の孤児院

 

 

 

『……地球連合とプラントとの戦争が始まって以来、我がオーブ連合首長国は中立および非介入の姿勢でありました。しかしながら、とどまるところを知らないこの戦争によって被害を受けた地球圏、およびプラント区域の、ナチュラルとコーディネイターとの区別なく、すべての一般市民の苦境を看過するわけには最早参りません。よって我が国はこれまでの《非侵略、非同盟、非介入》の意志はそのままに、人道主義のもと被害を受けた地域への技術、物資、その他の支援を行うことを、ウズミ・ナラ・アスハの名のもとに宣言いたします……』

 

 

 「お父様はこう言っているが。オボロ、実際のところはどうなんだよ。どうせお前がサハクの姉弟(ミナとギナ)と一緒にあちこち丸め込んだんだろ」

 

 カガリ・ユラ・アスハは子供たちを昼寝させながら、広間に設置されたテレビで義父であるウズミ・ナラ・アスハの演説を聞いていた。彼女を放っておくと何をするかわからないとお付きの侍女マーナに相談された周囲がこれをたらい回しにした挙句、お鉢が回ってきたオボロは紆余曲折あって彼女を孤児院の手伝いに行かせていた。じっとしていられない性質(タチ)のカガリと子供たちとの相性は極めて良く、すっかり孤児たちの姉貴分として慕われていた。

 小さな子供たちの面倒を見る中でいい影響があったのか、カガリは生来の真っすぐさはそのままに注意深さが養われつつあるように周囲からは思われた。

 

 

「そこまでわかっていただけたなら重畳です。母も父も浮かばれましょう」

 

 

「その言い方は卑怯だぞ!」

 

 

「大人は卑怯と相場が決まっております」

 

 

ぐぬぬ、と擬音が聞こえてきそうな表情をカガリはオボロに向けた。

 

 

「大方、地球上の国家に原子力を使わない発電システムを売り込んで、見返りに何か貰ったんだろ。試作品のMS(モビルスーツ)とか不良在庫になったMA(モビルアーマー)とか」

 

「カガリ様、そういう言い方はよくありませんよ。我がオーブは連合所属国と中立国との別なく一般市民の苦境を憂えたウズミ様のお心に沿い、発電システムを民間向けにこの戦争が終わるまで無償で供与するという極めて人道的な国際貢献を行っているんです。序に不用品を引き取るのも、慈善事業の一環。ジャンク屋組合がやってることと大差はありません」

 

 

「そのシステムを軍事転用することに対する制限条項が守られる保障がどこにもないじゃないか!プラントにどうやって納得させるんだ」

 

 

 カガリの懸念は至極全うなものであった。カガリとてオーブに力が無ければいざという時に困ることは承知している。だからと言ってほとんど孤立主義をかなぐり捨てたかのような振る舞いを感情的に受け入れられるかは別問題であった。彼女の立場でもそう思うのだから、プラント評議会やZ.A.F.Tがオーブを敵とみなす可能性は十分にあった。

 

 

「それについては私が手を打たせていただきました」

 

 

「マルキオ導師!」

 

 

足音と杖の音を響かせながら、盲目の僧侶が入ってきた。この孤児院の主である。

 

 

「クライン議長への親書、確かにお渡ししました。お返事も極めて前向きなものでしたよ」

 

 

「導師、貴方のおかげでユニウスセブン追悼事業の件、オーブも関わることができます。これでプラント世論がオーブを敵視する可能性は大いに下がるでしょう」

 

 

「日ごろのご支援を思えば、礼には及びません。そも、ユニウスセブンの食料増産技術の導入にはオーブの秘密裏の支援がありました。貴方の御両親もそのためにプラントへと赴かれた」

 

 

「……プラント評議会が公表したユニウスセブンの犠牲者リストに、父の名はありませんでしたがね」

 

 

刹那、オボロは表情を強張らせたが、何でもないように言った。

 

 

「アワギ殿」

 

 

気遣わしげにマルキオは盲目の眼差しを若い将校にむけるが、

 

 

「嘆き悲しむのは、すべてが終わってからでも。しかし、今動かなければオーブはいずれかの勢力に飲み込まれ、国民は塗炭の苦しみを味わうでしょう。そうなってからでは遅い」

 

 

オーブを護る。その決意が青年の瞳に表れていた。その心を知ってか知らずか、カガリはオボロに告げる。

 

「追悼事業にかこつけて何かするつもりなんだろう?その時は私もついていくぞ。今のお前をフラフラさせたら危なっかしい」

 

 

「お気遣い痛み入ります」

 

 

オボロは敵わない、という風に肩をすくめた。

 

 

 

 

* * *

 

 

「ふぅん?これ、ほんとにタダで貰っちゃっていいんです?これほどまでに高性能なバッテリー技術、人道支援に限るにしても相当なものでしょう。ましてこれがMS(モビルスーツ)開発に転用できるならば戦況は大いに連合側に傾く。それが分からないあなたたちじゃない筈です」

 

 

 そう問いかけるのはムルタ・アズラエル。大西洋連邦中枢に多大な影響力を及ぼす軍需産業の元締めにして、環境保護団体ブルー・コスモスを牛耳る青年実業家である。

 

「タダより高い物はない。あなた方の狙いはどこにあるんですか?ウナト・エマ・セイラン財相」

 

「これは異なことをおっしゃいますなアズラエル殿。我々オーブはこの情勢を憂い、全人類社会の犠牲を悲しみ、一日でも早く戦乱が終結することを願うばかりですぞ。」

 

 

ウナトの白々しい物言いにアズラエルが無言で机を指で叩き、不快感を表明する。この金髪の青年は自分の思い通りにならない現象も、弱みを把握できない人間も基本的に大嫌いなのだ。逆を言えば彼に気に入られる程度に従順かつ有能な人物であれば一時目をつぶる程度の柔軟性は持ち合わせているのだが。

 

 

「お疑いなら仕方ありますまい。お恥ずかしい話ですが、AFC(エイプリルフールクライシス)からこの方、赤道連合や汎ムスリム会議の地域から難民がボートピープルと化して押し寄せてくる可能性が日に日に高まっております。我々は通商と技術力を持って国家の柱としていますからな。技術者ならばともかくこの状況で穀潰しを養う余裕は無いのですよ」

 

 

「……つまり大西洋連邦その他地球連合側の手で難民を抑えろと?簡単に言ってくれますねえ」

 

 

口調とは裏腹に一先ず得心が言った様子でアズラエルはどことなく上から目線の笑みを浮かべた。無論内心ではそれだけで納得するはずもなかったが。オーブの技術供与に表立って語れるカバーストーリーがあるなら乗っかってやろうと言ったところか。

 

「まあいいでしょう。こちらとしても民間支援のカードがあれば中立国を連合側に引き寄せられますし、戦時体制への移行も余裕をもって行えます。そちらの支援は有難く受け取っておきましょう。勿論貴国が心配している難民流入についても対処しますとも」

 

 

「ありがたいことです。我々のような小国がそのような振る舞いをすれば悪目立ちいたしますからな」

 

 

マスドライバーを保有し軌道エレベーターの開発までしていたオーブが小国というのはアズラエルにとっては噴飯ものであったが、あえてそこに物言いをつけることは避ける。なんだかんだ言って技術支援の内容そのものは彼にとっても取引する価値があると判断すべきものであったからだ。最も、アズラエルの心中ではウナト・エマ・セイランが昵懇の間柄であるロード・ジブリール卿ではなく自分(アズラエル)に話を持ってきたことが僅かに引っかかっていた。

 

その疑問はウナトの次の発言で氷解することになった。

 

 

「連合軍のMS開発プラン“GAT-X計画”に協力させていただきたい」

 

 

 

 

 

* * *

 

某日 アメノミハシラ

 

 

「グリマルディ戦線は連合の勝利か」

 

 

「犠牲を顧みなければこうなるというわけだ」

 

 

「Z.A.F.Tはこれから常に連合の自爆の可能性を考慮せねばならんか。少数精鋭の辛いところだな。キルレシオがいかに優れていても磨り潰されれば息切れする」

 

 

「生贄にされる将兵はたまったものではないがな。全力を以て内部の敵と闘い、余力を以て外敵に対処するというわけだ」

 

 

「大西洋、ユーラシア、東アジア、果たして哀れな羊の役回りを引くのはどこになるかな」

 

 

鏡写しの様に並び立つ双子、ロンド・サハク姉弟(ギナとミナ)が地球圏の勢力を示すディスプレイを見やり、木霊の様に会話しながら状況を整理していく。

 

「この戦争、どちらかが殺戮しつくされるまで終わらないのではないか?現状とてもではないが妥協点が見えない」

 

「プラントのコーディネイターどもは迫害から選民思想を拗らせ、連合の有象無象のナチュラルは劣等感からの強迫観念に歯止めがかからない」

 

 

「この戦争をオーブ飛躍の契機としたいところだが」

 

 

「舵取りを誤れば人類諸共オーブが滅ぶ。ここは両者を拮抗させ、疲弊する時を待つか」

 

 

「オーブとていつまでも高みの見物はできんぞ。交戦国が第三勢力を良く思わぬことは歴史が証明している」

 

 

「矛先がオーブに向く前に牙を磨いておく必要がありそうだ。例の交渉はどうなっている」

 

 

ミナが問いかけ、ギナが手元の端末に目を走らせる。

 

 

「キオウの翁が言うには“時間稼ぎと人形の確保は成った”そうだ。あのセイランもフリーハンドでなければ使えるな」

 

「重鎮の睨みが効かぬと売国奴になりかねぬが。ウズミ・ナラ・アスハのシンパに囲まれている現状では滅多なことはせんだろう」

 

 

「カリスマというやつか。コーディネイト技術だけでは得難い資質ではあるな。精々利用させてもらおうではないか」

 

「では我らのMS(モビルスーツ)開発もいよいよだな。」

 

 

「見せてもらおうか、連合のMS(モビルスーツ)の力を」

 

 

 二人は矢継ぎ早に指示を飛ばし、急ピッチでオーブの軍制は整えられていく。その急激な変化のしわ寄せは往々にして現場の苦悩という形で現れ、彼ら姉弟の信頼するオボロは特にその被害を受けるのだった。

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