ガンダムSEED オーブ連合首長国強化パッチ 作:sunplane
C.E70年 7月15日 ヘリオポリス市 モルゲンレーテ社地上部
オボロがカトウゼミを訪ねてから二か月がたった。日本の文化を色濃く受け継いだオーブ連合首長国らしく、そろそろ1学期を終えて夏休みという時期であった。キラたちカトウゼミ室のメンバーが訪れたとき、モルゲンレーテ社の受付ロビーには他にも何人かの若い学生たちの姿があった。カトウゼミだけでなく、モルゲンレーテ社はいくつものゼミに勧誘をかけていたようだとキラは察した。
カトウ教授のゼミ生たちが併設されたカフェラウンジで思い思いにコーヒーやジュースを注文した。キラたちがオボロに連絡を取ったところ、ここで待つよう言われたのである。
「あの軍人さん、随分忙しそうだったわよね。毎回メールの発信場所が違ったもの」
ゼミ生たちが席に着くとミリアリアが思い出したように言った。
「あっちこっち飛び回ってるみたいだね。オーブ本国だけじゃなくてスカンジナビアとか大西洋連邦とか行ってたみたいだし。詳しいことは直接会ってからって話だけど」
「最近物騒だからねぇ。グリマルディ戦線は連合が勝ったみたいだけど、ほかではZ.A.F.Tが連戦連勝だよ」
「L4宙域の東アジアの資源衛星もZ.A.F.Tが持って行ったんだろ。一時本国へのシャトルが運航見合わせになってたしな」
トール、カズイ、サイが応える。
「状況は激化する一方だけど、オーブ軍はどうするつもりなのかな」
キラは軍人というには威圧感の足りないあの青年を思い出しながら言った。
「地球連合軍に加盟するとか?親父はその方が良いって言ってた」
「そりゃあサイのお父さんならそういうだろね。アルスターさんのこともあるし」
そういいながらキラはサイの家の近隣に引っ越してきた大西洋連邦事務次官のご令嬢、フレイ・アルスターを思い出す。暇を見てはカトウゼミ室にやってくるので、ゼミ生たちは全員顔見知りであった。鮮やかな赤髪と抜群のプロポーションはカレッジ中の噂になるまでに時間はかからず、親同士の縁で婚約者候補となったサイ・アーガイルは現在進行形で学生たちの羨望とやっかみの対象である。キラも彼女に一目惚れした口であるが、彼女の立場を知ると幾重もの意味で叶わぬ恋であると実感せざるを得なかった。
「俺個人としては戦争なんかごめんだけど、フレイに連合に味方しなさいって言われたらどうしようかな」
「彼女自慢ははよそでやってくれよな~」
サイの相談とも惚気ともつかない発言をカズイはやっかみ交じりに受け流す。
「あれ、あそこにいるのフレイじゃない?」
噂をすれば、とミリアリアが目ざとくフレイを発見し、お~いと手を振って彼女を呼ぶ。
フレイの方も彼らを探していたのか、すぐにキラやサイの座っている席に走り寄ってきた。
「ここにいたのねサイ!ゼミの皆もこんにちは!」
「アルスターさんどうしてここに?」
キラは思わず問いかけた。モルゲンレーテ社のフロントエリアは特に従業員でなければ入れない場所ではないが、オーブ国民ではない上何かと目立つ彼女がここにきたことには何かしらの作為を感じられた。
「パパがたまにはサイ君やゼミの皆さんに日ごろのお礼に差し入れしてきなさい、て言ってきたのよ。で、紅茶とクッキーの詰め合わせをゼミ室にもっていったけど誰もいなんだもの。またあとにしようと思ってたんだけどパパから皆ここに来てるから直接手渡ししなさい、ていうからわざわざインターン先の会社まで来たのよ。私ってすごい親切じゃない?」
「はいはい、ありがとうございますフレイ様」
フレイが冗談めかしていうと、サイが応じながら荷物を受け取った。
「フレイもこのインターン参加するのかしら?」
ミリアリアが問うが、フレイは首を横に振った。
「私は声かけられてないわ。もし誘われても断ってたと思うけど」
そして、ジェシカとミーシャと約束があるから、とフレイが去っていったのと入れ替わりに、まるで見計らっていたかのようなタイミングで彼らのもとに近づく革靴の音が響いた。
「カトウゼミの皆さん、待たせてすまない。直接会うのは久しぶりだね。一先ずは執務室に来てもらおうか」
そういって、オボロ・ハズ・アワギ一尉は彼らを社屋の内部へと案内した。
***
「これが、オーブの
「ナチュラルではまだ歩くのも覚束ない、未熟なプログラムしか載っていないけどね」
キラたちはフレイが持ってきた茶菓子の箱を開けながら、社外秘のスタンプが押された資料に目を通していた。『M1アストレイ』と名付けられたそれらは3種類のフレームがあり、それぞれの目的が記されていた。
「現行の
「人体強化!?」
その不穏なワードにゼミ生たちに一瞬緊張が走ったが、
「ああ、君たちを実験体にしよう、て訳じゃないからそこは安心してほしい。人体に危険な手術を施すよりは遠回りでも機械側の性能で解決したほうが将来的に望ましいという方向で上層部も判断している。何より、将来有望な学生たちをそのようなことに消耗させるわけにはいかないからね」
オボロは慌ててその不安を打ち消した。
「後で現物も見てもらうけど、その資料にも書いてある通り、M1計画においては既存のコーディネイター向けのものをアレンジし、特定任務向けにカスタマイズが可能なブルー・フレーム、ナチュラル向けに予めパターン学習をある程度済ませたOSを搭載したレッド・フレーム、そして指揮官兼エース向けのハイエンドモデルであるゴールド・フレームの三種類がある。君たちには主にレッド・フレームのOS作成に協力してもらいたい。具体的には実機を動かしながら必要なコマンドの洗い出しだね。パワードスーツの延長として考えてもらえばわかりやすいはずだ」
オボロはこれからのスケジュールを壁面のスクリーンに示す。そこにはC.E71年初頭までの半年にも満たない期間でレッドフレームの試験量産機をロールアウトするといういささか常軌を逸した要求が示されていた。
「こんなスケジュール無茶ですよ!」
キラは思わず声を上げた。“レッド・フレーム”用のOSがほとんど白紙に近い状態であり、“ブルー・フレーム”のプログラムをナチュラル向けに書き換えるだけでも膨大な時間がかかることが予想されたからだ。他のゼミ生たちも途方もない作成難易度にここに来たことを若干後悔し始めていた。
「なにも全て君たちに組んでもらう訳じゃないよ。並行作業する複数チームがあるし、それにたたき台になりえるプログラムは別に入手できた。その代わり期限に一切の融通は利かせんと上から厳命されたけどね」
そう言いながらオボロはなぜかフレイが持ってきたお菓子の箱をひっくり返し、そこから出てきたデータチップを取り出すとスクリーンに新たなプログラムコードを表示させた。
G eneral
U nilateral
N euro - link
D ispersive
A utonomic
M aneuver
“単方向の分散型神経接続によって自律機動をおこなう汎用統合性システム”
「G.U.N.D.A.M、“ガンダム”ですか」
「“ガンダム”か。いい名前だ。これからはそう呼ぼう。GAT-Xプログラムよりカッコいい」
キラの何とはなしの呟きがオボロに採用された。意図せず悪目立ちしてしまったようでキラはなんとなくむず痒い気持ちになる。しかし次の瞬間、このデータの出どころをに思い至り、冷や汗を流す。
「ある組織でナチュラル向けに研究されていた神経接続式インターフェイスを共同開発の名目で譲ってもらったものになる。これを搭載したアストレイ・レッド・フレームの搭乗データを集めることから始めるよ。あ、言うまでもないと思うけど」
キラ達はフレイの父ジョージが何故強引にお菓子を渡すように言ったのか、そしてこれが特級の機密事項であることを肌で理解した。
「大西洋連邦との裏取引、というわけですね」
皆を代表し、サイがオボロに問う。
「そういうこと。少なくともこの戦争が終わるまでは一切の口外を禁じることになっている。申し訳ないけど、破られたら怖いおじさんたちに連れ去られるくらいは覚悟しておいて欲しい」
わかり切った答えをオボロは返した。ゼミ生たちは想像以上に厳しい状況に置かれつつあることを今更ながら自覚し始めていた。その代わり報酬は弾むよ、という声もキラ達にはどこか遠くに感じられた。
次話は時間を飛ばして無印開始時くらいまで行きたいと思います。多分ダイジェストにしないと話が区切りのいいところまで終わらないので。