名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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明けましておめでとうございます。
作者の“久遠とわ”です。

ようやく投稿できるレベルに達したと判断したので、ちょっとテストも兼ねて投稿してみようと思います。


今回はちょっとしたプロローグです。


第1章「縛られた者と解き放つ者達」
_起きてください、目覚めてください。


Side:???

 

「___はぁ、ぁぁ、はぁ」

 

早まったままの心臓の鼓動。

自分自身でもうるさいと感じてしまう程、この身は息を荒くしている。

そして身体中が悲鳴を上げている。

それを示すかのように身体から心臓が飛び出そうな程、激しく脈打っているのを感じ取る事が出来る。

 

「まずい…かもしれないな」

 

しかも気づけば、下半身の感覚もほとんどがないではないか。

別に足腰が消し飛んだとか、そういった即死レベルの深刻な身体的障害を負ってしまったという事では無い。ただ単純に感覚を感じる事が出来ないという事。

つまりは疲労が溜まり過ぎて、一時的に麻痺しているだけなのだろう。

おまけに視界も悪くなってしまっていると思えば、気づけば意識もより朦朧としてきている。

 

「はっ」

 

だが、まだ許容範囲。

まだ風や気流を感じ取る事が出来るし、周囲の変化に気付く為の感覚や、不測の事態に気付く為の勘もまだまだ生きている。死んじゃあいない、まだ生きている。

 

 

「…ははっ、光だ」

(…雲が開けて、光が差し込んで)

 

男は笑った。

 

この状況で笑うのはいささかおかしいのかもしれない。

だが、今は気分が悪いのが逆に清々しく思えてしまう程だった。

 

「…ぁぁ」

(白い光だな…)

 

それはとても神々しい光景だった。

そしてそれは正真正銘、悪夢で地獄のような海戦が終わったという証。

 

 

 

我らが“死兆星号”を旗艦とする南十字武装船隊、ひいては我らの船長である“北斗”の姐さんの言葉や“俺”の言葉によって感化し集った各国で知り合った命知らず達、最終的には話を聞きつけた命知らずの船乗り達が自分達の自慢の船を以って、最終的にはスメールのオルモス港に集結した事により編成された、北斗や自分達の挑戦に賛同した者達が集った自分達の艦隊。

 

この艦隊、規模的に大艦隊とも言えるかもしれない規模であろう、知り合いの七国各国の腕の良い命知らずや、腕に自信のある命知らず達、彼らの用いるそれぞれの大小バラバラな簡易的な武装を施した船から、七国それぞれの国家の特色や特徴のある造船技術や造船様式を施した本格的な軍船や軍艦とでも言うべき武装船の数々の船やそう言った艦船が集結し、そうして南十字武装船隊にそれぞれの船が次々と編入されていき、そして改めて“死兆星号”を総旗艦として編成されていった事で“テイワット連合艦隊”とも言うべき様相と化した数十隻以上にも及ぶ大規模艦隊。

 

そうして北斗や俺達の艦隊があの“クソッタレで図体のでかい海の化け物”、それでいて確かにまるで神のような強大な力を持っていた海の怪物である冥界巨獣の”海山”との戦いに挑む為に集い、気を抜いてしまえば即座に“死”と言う結果が待ち受けている程の一切の気を抜く事は許されない程の激闘、また数日間に及ぶ程に繰り広げられていった死闘。

 

そして先ほど総旗艦である死兆星号を先頭にし、また生き残りの航行可能な船の全艦が一斉に艦隊行動を取りながらあの化け物に突撃を敢行し、遂に波の音から海山の動きを読み切った“北斗”の姐さんが、満身創痍なその身体で奴の首を見事に斬り落として奴に引導を渡してやったのだ。

 

 

 

「…ははっ」

(本当にやったんだな、北斗の姐さん…)

 

男は疲労困憊な身体で、だが心の底から込み上げる笑みを零した。

 

先ほどまでの空が絶望に染まったかのように黒い曇天、そしてそこから次々と差し込んでくる淡い白い光、その光を見て引きつりながらも思わず笑みが零れる。

 

 

「…っ」

(___っぅ、くそっ…)

 

すると男は苦虫を嚙み潰したような、そんな複雑そうな表情を浮かべる。

ただでさえ身体中がとっくのとうに限界を迎えている事も相まって、今更になってこの激戦で蓄積していたあらゆる激痛が一気に男に襲って来たのだ。

 

額から血が滴り落ちる。

口の中は未だに腐った鉄のような味で支配されている。

止血は施しているが、あの化け物の攻撃によるかすり傷や切り傷で身体は既に満身創痍だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

(まだ、何とか行けるか…)

 

男は改めて自身の身体を確認する。

あちこちの打撲の跡、浅めから深めの切り傷、そして汚れ切った血に染まった包帯や、自身のボロボロな灰色の服。

 

「___はぁ」

(身体はまだ動く…だが少しでも、気を抜いてしまえばすぐにでも姿勢制御を失って、海へと真っ逆さまだな……)

 

男は己の身体の状態を確認する。

 

血を流し過ぎた。

気力や根性で無理やり身体を動かすのもギリギリ。

そして意識がはっきりとしないせいで、風の音、また風の流れや気流の変化を瞬間的にかつ的確に予測するのが難しくなってきている。

おまけにこの超長時間戦闘による極限状態によって蓄積された精神的な疲労も尋常ではない。

 

「…ちっ」

 

男は自身の背中の方を確認して舌打ちをする。

 

男の“黄金の風の翼”の片翼、片翼の3分の1から半分程度がもがれて無くなっている。

 

 

 

あの冥界巨獣の海山が最後の最期の悪あがきによって放った一撃。

 

それが偶然にも今まで艦隊の総大将であり彼の船の船長である北斗がとどめの一撃を与えるまで囮となり、北斗や仲間達の命、また艦隊の味方の船を守るためにも海山の周囲を飛翔し、海山の視覚部位や聴覚部位に攻撃を加え続けていた男の風の翼を斬り飛ばしてしまったのだ。

 

だが男は咄嗟の判断でまるで風を掴むように右腕を伸ばし、そしてもがれた風の翼による受ける風や気流の乱れの修正を即座に行い、また頭を少しだけ左に傾けるような形で重心等を変えた事で姿勢を何とかギリギリのところで安定させた事により、男は姿勢制御を失わずに墜落を防いでいたのだ。

 

 

 

「ふぅー」

 

男は深呼吸をして息を整える。

 

「……はぁ、はぁ、はぁっ、はぁー」

(なんとか、まだ大丈夫だが…。だがそれでも最悪の場合を考慮して、死兆星号に着艦する直前時には、念のためこれらを外して海に投棄するしかないかもな…)

 

男はそう思考しながら腰の方のそれぞれに視線をやる。

 

 

男の腰の一方には、その男の相棒と言えるかもしれない長い事常に使用してきた“片手剣”。

肌身離さずに使い続けた事で何度も鍛冶職人や武器職人に修繕等をお願いしたり、また場合によっては興味を持った知り合いの七国各国の友人達に持たせてみたり貸し出したりしてきた事で、知り合った人達や友人達との思い出や彼らの繋がり等が染み込まれている男の剣。

 

海山の至近距離を飛翔した際や海山の身体に乗り移った際に斬りつけ続ける際に使用し、死ぬほど酷使してきたが故に折れてはいないものの、もはやボロボロな状態となってしまった片手剣。腕の良い鍛冶職人等に依頼を出してきちんと修繕してもらなわければ使い物にならず、本来の斬るという役割すらも果たせるかどうかが怪しい状態にまで成り果ててしまった男の剣。

 

 

そしてもう一方には、飛翔しながら海山の視覚や聴覚と思われる場所にピンポイントで攻撃を行う為に使用してきたボウガン。

とある技師達の手によって特殊な機構を施した試作品でもある特殊ボウガンであり、取り回しは通常のボウガンと同等でありながら通常のボウガンよりも高い威力や広い範囲の射程距離を誇り、更には特殊機構による反動軽減のおかげで、入り乱れまくる乱気流を巧みに利用、活用してまるで戦闘機のような戦闘機動や回避機動を取りながらも精密狙撃が可能という優れものであった。

そしてその特殊ボウガンが放つ矢にもまた特殊な工夫を施しており、それは通常のボウガンでは発生させることはまず不可能である”元素反応”の発生を意図的に発生させる彼らの工夫が用いられていた。

 

そしてそんな彼らの思いや祈りが籠ったボウガンは、海山との戦いによってその威力を遺憾なく発揮し、ボウガンから放たれる矢によって引き起こされる“過負荷”反応による爆発で幾度となく奴の視界を奪い、また聴覚器官を一時的に潰して見せ、北斗や艦隊の反撃の布石となる時間を稼ぐなど数々の活躍を見せてきた。

そうしてそんな彼らの思いや祈り、そして今では自分自身の魂までをもさえ込めた特注のボウガンも、今となっては見る影もなくボロボロな状態となっていたが、最後の最後まで何とかギリギリまで持ってくれてたのだ。

 

最後には大剣を掲げていた北斗に向かって突っ込もうとした海山の眼球目掛けて放った一発の矢、その矢が奴の眼で爆発を引き起こし、その視界を奪って悶絶させ、そうして海山を激痛に苛まれさせた事により動きを一時的に止めさせることで、それが北斗の海山へのとどめの一撃へと繋げると言った活躍を見せてくれたのであった。

 

だがその代償として、そんな彼らの思いや祈りを籠ったボウガンは、その男にとって大切な人、船長の北斗を守りきるという最後の役目を果たすと同時に丁度矢が尽きて、また矢を打ち出す為のバネの部分の自動機構までもが壊れてしまったのだ。

 

 

「…本当に」

(ありがとうな…。そしてすまない、投棄する事になってしまって……)

 

男は腰に固定されている片手剣やボウガンに視線を、そしてその片手剣やボウガンに宿っているであろう彼らの思いや祈り、そして込められている魂に謝罪の念を送った。

 

果たして赦して貰えるかは分からない、だがそうでもしなければやってられなかった。

 

「…っ」

 

そして同時に彼らに対する感謝の気持ちや彼らとの思い出が男の中で溢れ出そうになり、男の瞳が大きく揺れ動く。

 

 

「…ぁっ」

(いや待て、それよりも___)

 

その時、男は現実に戻るように視線を海の方にへと向ける。

 

「…っぅ!!」

(___こ、これは)

 

そして顔をしかめる。

 

 

男は覚悟はしていた。あの海の化け物、海山と相まみえるという時点で。

 

 

 

 

 

 

 

「おいしっかりしろ!!もう少しだ!!」

「それに捕まれ!!死ぬなよ!!」

「っ!?そいつはもう死んでいる!!放っておけ!!」

「早くしろ!!急がないと助けられる者が助けられなくなるぞ!!」

「誰かロープを持ってこい!!早く!!」

「早く!!包帯を!!止血を!!このままじゃあ、死ぬぞ!!急げぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

男は目下の光景に息を呑む。

 

それは一言で言えば地獄のような光景が広がっていた。

 

 

覚悟はしていた。

なにせ海山に挑戦するという事は、あの海の化け物、海山との戦いを挑んで奴と殺し合いをするという事なのだから。

だがそんな覚悟が足りなかったのか、それとも今までの戦闘による疲労やダメージが蓄積し過ぎていたのか、男は目の前の光景に息を吞む。

 

それは、海が鮮血のように真っ赤に染まっているかのよう。

その鮮血のような海の上では、まるで血みどろの泥の様に絡み合ったり入り混じったように操舵を誤って、互いに派手に衝突し激しく炎上している船や艦船等の船の残骸、また海山の攻撃を諸に受けて轟沈した船の残骸に寄り掛かる船員達の死体に混じる生き残った者達の叫び声や悲痛な叫び、そしてそんな彼らを救おうとしている者達の必死な声があちこちから聞こえており、それらの声で埋め尽くされていた。

 

 

「あ…あぁ」

 

男の背中に冷たい汗が流れる。

そのあまりにも残酷で、凄惨で、それでいて胸が張り裂けそうになる光景に男は飲み込まれていきそうになる。

 

 

 

 

 

数百人どころか、千人、もしくはそれ以上が死んでしまった。

本来、ここまで酷い事になる事は無かった筈だ。

 

 

 

 

 

そしてその地獄の様な光景を生み出している元凶は、その怒号と悲鳴の元凶。

 

それはこの地獄を作りだしたあの海の化け物、海山である事に間違いではない。

 

 

 

だが、それは正確ではない。

 

 

「…は、ははは」

 

男は力なく笑う。

 

 

 

何故なら、その地獄を作りだしてしまった元凶というのは、この男、“自分自身”でもあるというのだから。

 

 

 

そう、これは全て自分自身の“決断”が招いた事なのだ。

 

 

 

だからこそ、その地獄を目の当たりにして男は思い知らされる。

 

最後の最後に男が彼らの背中を押し、大切な仲間達をこの地獄に導いてしまったのだという事を。

 

 

 

彼が最後の最後の決断さえをしなければ、もしかしたら、いやきっとこのような取り返しのつかない事は避けられたのかもしれない。

だが、どうしようもなかったのだ。

そしてその責任から逃れようと、彼らはそんな事を望んでいないとか、仕方がなかった等とこの光景を見て思い込む事、それは簡単だ。

実際に想定外の出来事が、多々重なってしまった。それはそれで、事実として間違いは無い。

 

しかし、そうやって責任から逃れようとすることは決して赦されないだろう。

いや、少なくとも周囲が赦してくれても自分が自分を赦してはいけないのではないのだろうか。

 

 

 

何故なら今までの事を振り返れば、全ては自分の意志によってこの地獄を作り出されたのだから。

 

 

「…っ」

(…俺は、正真正銘の___)

 

そして男はこの艦隊の総大将の北斗が乗っている旗艦の死兆星号へと飛翔しながら、そうして自分を戒めるかのようにその瞳に焼き付けさせるように改めてこの惨状を見つめる。

 

 

 

そしてその時であった。

 

 

 

「___っ!?」

(___しまった!!“これ”は!!)

 

 

 

その次の瞬間、風の音、また男に受ける風や気流が変化する。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

そしてその次の瞬間、男は一気に姿勢制御を失って海へと落下し始める。

 

男が疲労困憊であった事。

自身の身体の限界に近い状態だった事。

自分の犯した罪と責任の重さによって、心が揺らいでしまった事。

また男は片翼を失っている状態と言っても過言では無い状態であり、飛ぶのでさえギリギリな状態であった事。

そしてそのような状態で、微かな風の音の変化からの気流の変化に気付くのが遅れてしまった事。

 

それらが重なってしまい、しかもほんの僅かな隙が出来てしまった結果。

その男は姿勢を制御できずに一気に錐揉み回転しながら、急激に落下していく。

 

「っ……くっ」

 

男は海面へと落ちながら、己の最期を悟るかのようにとある方向に視線を向ける。

 

男の視線に入ったもの。

 

 

 

それは信じられない光景でもみるかのように目を丸くして男を見ている死兆星号の面々。

そして傷だらけでボロボロ、満身創痍な黒い眼帯を付けている女性、船長の“北斗”であった。

 

その北斗の視線に、男は目を合わせる。

 

「_____!!」

 

そして次の瞬間、北斗は目と口を大きく開けて何かを叫んだ。

 

 

 

「…ははっ」

 

男は笑う。北斗の叫び声が聞こえて来るが、何を叫んでいるのかが聞こえてこない。

 

 

 

「…ははっ。今までの日々、そうして冒険の数々、本当に楽しかった。ありがとうな、“北斗”の姐さん___」

(___さようなら)

 

そうして男は静かに呟いでいき、目をゆっくりと閉じる。

 

 

 

 

 

「がはぁっ!?」

 

そして男の身体全体に強烈な衝撃が走り、肺の中の空気が一気に押し出される。

 

「…」

 

男は目を開ける。

そこは海の中。海面には死兆星号の船底が見えた。

そうして徐々に周囲が暗くなっていく。

深海の方へと少しずつ沈んでいっている証拠であった。

 

 

 

 

 

___これでいい、これで良いんだ。大勢の人達を死なせ、そして彼らの大切な人達を悲しませてしまった責任を俺の死と言う形で果たすのだから。

 

 

 

男は己の死を覚悟しながら、一人静かに沈んでいく。

 

 

 

「…?」

(___え?)

 

そしてその時、ふと男の目の前にとある影が男の目の前に映りだした。

男は目を擦りながら、その影を見て目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

___起きてください、目覚めてください

その時、男の脳裏に何者かが語り掛けてくるような気がしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

Side:???

 

「起きてください!!しっかりしてください!!大丈夫ですか!?」

 

「うっ…うぅん…。う、うるさい…。そんな自分の近くで、そういうふうに叫ぶな…」

 

男は耳元で大声で喚くように話しかけられた事に少々迷惑そうな表情を浮かべながらも、ゆっくりと目を開けていく。

 

「…はぁ、良かったです。目が覚めて。かなりうなされていましたから、本当に心配しましたよ…」

 

そうして目覚めた男の目の前には、金と紫が混ざり合ったかのような独特な色の瞳に、氷のような水色の髪に2本の赤と黒入り交じる角みたいな髪飾りの少女のような女性。そして腰には神に認められた者という証である“氷の神の目”を身に着けた少女のような女性が、安心したかのように男を見つめていたのであった。




なお天権こと、“彼女”は次回から登場予定です。

現在作者はリアルな事情で忙しく、不定期更新というよりかは亀更新になりそうですが、少しずつでも続けていければと思いますので、気長にお待ちください。

尚、元旦から大変な事になってしまいましたが皆様方のご無事を、また二次災害等の更なる災害が発生しない事をお祈りいたします。
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