思った以上に今回の随筆は大変だった…。
なお、今回はかなり長いです。
また今回は思いっきり『独自設定』が発揮しております。
Side:刻晴
「___確かに『契約』に従い、璃月の人々を守り続けた。そして、隣国のモンドの風神のバルバトスのように璃月の岩神のモラクスも、何よりもわしらの民の事を大切に思い、そして璃月に危機が訪れるたびにその姿を現してわしらを守り、またあの方がわしら人間達を率いる事で国家の在り方までの成立、それに今の璃月の繁栄までを導いてくださった……」
叔父はそこまで言うと、苦々しい表情を覗かせる。
「だが……、思うのだ。『民を守る』、これはまだ良い。だが、『世の塵を払う』。この言葉……、これは何を意味するのか……。これはわしの考えだが、果たして『世の塵を払う』というのは、ただただ璃月に対する『外敵』や『脅威』から、璃月やわしらを守るという意味で、本当に良いのか……?」
「……?」
(『外敵』や『脅威』…?)
叔父の言葉に刻晴は首を傾げる。刻晴はどうにかして叔父が言ったその言葉の意味やその真意を探ろうとするが、上手くいかず、そうして刻晴は叔父に対して質問する。
「あの、叔父様……。叔父様の言う『世の塵を払う』。これにどういう考えや違和感を叔父様は抱いているのですか?」
「刻晴よ……」
叔父は刻晴が放った質問に、真剣な眼差しを向ける。
「刻晴よ……。わしが思うに、まず七神、俗世の七執政達というのは、前提としてやり方や考え方には違いがあれど自らの民を、そして人間達を愛しそうして守ろうとする存在だ。そして何より、七執政達は皆、それぞれモンドの『自由』に璃月の『契約』、それに稲妻の『永遠』やスメールの『知恵』、またフォンテーヌの『正義』やナタの『戦争』等と言った理念の元で、自らの民達をそれぞれのやり方で導こうとしているというのは、分かるだろう?」
「はい、存じています…」
そこで叔父は一度言葉を止めると、また真剣な表情で刻晴を見つめる。
「刻晴よ、だからこそ、だからこそなのだ。もちろんわしらの璃月の岩王帝君、岩神モラクスは、わしら民や璃月人達を守り続けるとは思うし、守りきるだけの圧倒的な力をも帝君は持っているだろう…。であるからこそ、外から攻めてくるような『外敵』から守ることに関しては、何も心配はしていない……」
「はい、そうですね。叔父様」
刻晴は叔父の話に頷く。
「だが……。ただ、しかし……。『世の塵を払う』とはその字面通りにただ単純に『外敵から守る』というだけの意味なのだろうか……?いや、そうではない……だろうな………」
叔父はそう言うと何かを考えるかのように顎に手を当てて、視線を逸らす。
「叔父様……」
刻晴はそんな叔父の姿を見て、思わず心配そうな表情を浮かべてしまう。するとそこで叔父が何かに思い立ったかのような表情を一瞬見せると、また刻晴の方を向き直す。
「刻晴よ……。よく、聞け」
「はい、叔父様。何でしょうか……?」
刻晴は叔父の言葉に、真剣な声で応える。すると叔父は重々しく口を開いた。
「わしの考えでは……、恐らく岩神帝君は、帝君は払うべき対象である『世の塵』、それがいずれ『“帝君自ら”を世の塵』とし、『自らが消えるべき存在』だと判断するその時が、いずれやって来てしまうのではないかと思ってな……?」
「自らが消えるべき存在…!?帝君が…!?岩王帝君が自ら消えるべき存在に、ですか……!?」
刻晴は叔父さんが放った言葉に目を見開いて驚く。
「そうだ。刻晴よ」
叔父は刻晴の言葉に頷く。
「い、一体何故そのようなことを……?あ、あの方は、長い間……いえ、もう数千年ほどの長い時の中で璃月を統治してきた岩王帝君ですよ…!?その様な事、あり得るのですか……!?」
刻晴は叔父の言ったことが信じられず、そしてあまりに信じ難く、更に叔父に問いかける。
「刻晴よ……。確かに帝君、わしらの岩神モラクスは長い間璃月を統治してきた。『契約』に従い、そしてわしらの民や璃月人達をいつも思慕し、そして『世の塵』を払う為にも戦ってきた。だが……、だがな……」
叔父は一度そこで言葉を止めると、刻晴の方を真剣な眼差しで見つめ直す。
「帝君は恐らく、岩神帝君こと、岩神モラクスは己の存在を『世の塵』と認識する時が来る。それはいつか、必ず来る事なのだと、わしはそう思ったのだ」
「っ!?」
(ど、どうして…!?)
叔父のその言葉に刻晴は思わず絶句し、思わず思考する。叔父の確信じみたその言い方から、叔父は何かしらの確固たる証拠や根拠を得ているだろう。だが___
「ど、どうしてそんな事が言えるのですか…?叔父様…?岩王帝君は『世の塵を払い、民を守る』という契約に従い、叔父様が仰った通り璃月に対する『外敵』や『脅威』から、璃月と、そして何より璃月の人達を守ってきたのでしょう……?どうしてその帝君が自らを『世の塵』等と思う時が来るなどと言えるのですか……?」
___刻晴はどうしてもその考えに納得出来ず、叔父に反論するように口を開かせた。
「……」
叔父は刻晴の言葉に、ただ沈黙で返す。そしてそこで暫く間を置いてから、またその口を開いた。
「刻晴よ……、先ほど述べた通り岩王帝君、もといこのテイワットの七神達と言うのは自国の民達の事が何よりも大切な存在であり、そうしてそれは岩王帝君も何より自らの民達を愛しておられ、わしらの人間達の事をしっかりと考えてくれている。それは分かっているだろう?」
「は、はい……」
刻晴は少し叔父の言葉に困惑しながらも答える。
「岩王帝君は自らの民達の事を何よりも考えてくれる神である。だからこそなのだ。…今のわしら、璃月の民達、璃月人達は、岩王帝君にとっては、『どのように映っている』のか……。それを考えてみて欲しいのだ」
「どのように映って……?」
刻晴は叔父の言葉に、首を傾げる。するとそこで叔父が、言葉を続けた。
「刻晴よ……。わしは数多くの璃月の歴史書、そして人間と岩王帝君や仙人達について記された文献等を読んできたのだが…。今の璃月人達、昔の璃月人達と比べて随分とだらしなく、そして弱い人間が増えてしまい、璃月人達は弱くなってしまったのではないか…。わしはそう感じるのだ……」
「だらしなく、それに弱い人間が増えてしまった…ですか……?」
(昔よりも、今の璃月人達は弱くなってしまった…?)
刻晴が叔父の言葉に更に疑問を浮かべる。するとそこで、叔父はまた口を開いた。
「あぁ、そうだ。刻晴…、今の璃月、そして璃月港はとても平和で例え貧しかったとしても何とか必要最低限の衣食住は確保されている。それはわしらの岩王帝君のおかげでもあり、帝君の導きによるものである事に間違いない。そして帝君のその導きに従った先人の璃月人達の果てしない努力や、その者達の働きによって支えられてきた事によって、今の璃月港の繁栄があるのも、また事実だろう」
「はい……。そうですね、叔父様……」
刻晴が頷く。そして叔父は言葉を続ける。
「だが……、だが刻晴よ。刻晴も今までに岩王帝君に関する書籍や文献を読んできたとは思うが、昔の璃月人達と今の璃月人達、今を生きる璃月人達の大多数以上が何かを失ってしまっているとは思わんかね?」
「失ってしまっている……?」
叔父のその言葉に、刻晴は思わず呟く。
「あぁ、そうだ。刻晴よ……。今の璃月人達…、今のわしらにはそう、昔の璃月人達と比べて『気迫』がないのだ……」
「『気迫』が、ですか…?気迫……、叔父様、それは一体どういう事なのでしょうか……?」
叔父はまるで呆れかえったかのように、そうして酷く憂慮しきった表情で、刻晴の問いに答える。
「刻晴……。それはな。今の璃月人達は、もっとこう、『自発性』と言った方が良いのか、あるいは『主体性』や『能動性』と言った方が良いのか、とにかく多くの者達からそう言ったものが失われてしまっていると考えたのだ」
「『自発性』、それに『主体性』や『能動性』ですか…?」
刻晴は叔父のその言葉に、思わず首を傾げる。
「そうだ」
叔父は刻晴の言葉に、深く頷きながら答える。
「刻晴よ…。わしは確かに帝君が導いてくれて、今の璃月港があり、平穏があるのは素晴らしい事だとわしは思う……。だが刻晴。___」
叔父はそう言うととある方向に顔を向ける。叔父の顔を向けた先にあるものは、“
「___わしは璃月の多くの文献を読み漁り、そうしてこの璃月の歴史を辿って来たのだが…、例えば昔の璃月人達というのは七星達等ではなくとも、帝君が国家の方針の神託を行って方針を指し示す儀式である神聖な『迎仙儀式』の場において、普通の商人や一般人達が積極的に帝君に質問をしたり、また帝君に意見をしてみたりで、そう言った事が古来から幾度となく、何度も何度もあったようなのだ」
「普通の璃月人達が帝君に積極的に質問をしたり、意見をする…ですか……」
(な、成る程…。言われてみれば確かに、昔の璃月に関する書籍や伝記にはそのような記述があったような気がするわね……。『自主性』、それに『主体性』や『能動性』ね………)
刻晴がそう思考する中、叔父は話を続ける。
「そうだ、刻晴。昔の璃月人達と言うのは、自らがよく岩王帝君に意見を述べたり、また帝君に対して質問を投げかけたりする事が多くあったのだ……。そして岩王帝君もそのような璃月の民達からの意見や問いに真摯に向き合い、そうしてそのやり取りを通じて璃月の民達と岩王帝君は相互に深く理解し合う事が出来ていたのだ……」
「なるほど……、確かに昔の璃月人達と岩王帝君は考えを述べ合い、語り合う事によってお互いの考えを理解し合っていた側面がある…と。うん?叔父様…?」
その時、刻晴は何かに気づいたかのように、叔父に問いかける。
「どうした?刻晴よ」
「いえ……、確か昔の璃月の人達というのは岩王帝君に対しての意見や質問が多くあったんですよね……?」
「うむ、そうだ」
「では、先ほど叔父様が述べた『気迫』が無い。『自主性』や『主体性』、『能動性』が無いというのは…、もしかすると……?」
「…刻晴、刻晴が思い至ったその考え、そしてその結論で正しいぞ。ただそれだけではない…」
叔父は刻晴のその考えに、笑みを浮かべながら肯定すると、更に言葉を続ける。
「刻晴よ…。今の璃月人達はな、『気迫』が無い。それはかつての頃の迎仙儀式で行われていた質問や問いかけ、また採用されることは無く、そうして畏れ多い行為であったにしろ岩王帝君への意見具申といった、璃月の民達と岩王帝君との言葉を交わしたお互いの考えに関する直接的なやり取り、互いの理解の積み重ねを深めるそう言った交流が失われてしまったのだ…」
「…確かに、そうですね。叔父様」
(迎仙儀式…。確かに帝君と直接言葉を交わし合っていたのは、七星達。それもその年の進行役に選ばれたたった一人の七星のみだったわね……)
刻晴は叔父の言葉に頷く。そして刻晴は更に話を続ける。
「…確かに叔父様の仰る通り、昔の璃月人達と岩王帝君との間には、お互いを理解し合うためのやり取りや交流があったように思えます。ですが、今の璃月人達、私達は迎仙儀式のあの場にて完全に多くの民衆や璃月の民達は、ただただ岩王帝君と選ばれた七星の進行役とのやり取りをただ静観しているだけ。そこには叔父様の言う『気迫』、そう言ったものが全くありませんでした」
「うむ…」
刻晴の言葉に叔父は深く頷く。
「…今の璃月人達は迎仙儀式で岩王帝君と七星達のやり取りを静観するだけ、つまりかつての璃月の民達のように迎仙儀式に参加する岩王帝君と言葉を交わすのではなく、七星達を通してただ聞いているだけになっているのです……。つまり『気迫』が全く感じられない……。それはつまり………」
「それは、つまり…。刻晴よ。つまり、それはなんなんだ……?」
叔父は刻晴の言葉に、目を細めながら、そう問いかけた。
「それはつまり…。帝君に、いえ岩神に甘えっぱなしで自発的に人間の、いえ私達の未来を考えない人たちがあまりにも多すぎてしまった…。いえ、今の、璃月人達。私達は『人』としての誇りや尊厳、また『人』としての考えを持つ者が、極端に少なくなってしまっているという事です…。だからこそ、『気迫』がないのだと思います……」
「ほぉ…。そうか……」
叔父は刻晴の言葉に、深く頷く。そしてまた口を開いた。
「刻晴よ……。今の璃人達、わしにはあまりにも『“今”だけ』、『“モラ”だけ』、そして『“自分”だけ』や『“自分達”だけ』、そう言った者や事しか考えられない者があまりにも増えすぎて、そうして心が弱すぎる者があまりにも多くなってしまったとしか思えんのだ……。だからこそ、昔の璃人達に比べて『自主性』や『主体性』や『能動性』、そうしてそれらの『気迫』と言ったものが失われてしまったと感じるのだ……」
「そうですね、叔父様……。それに、叔父様。私は思ったことがあります」
刻晴は叔父の言葉に頷くと、そしてまた話を続ける。
「ん?なんだ?刻晴よ……」
「はい、それは___」
刻晴は目を瞑る。そして次の瞬間には意を決したかのように目を開いた。
「___そのだらしなく弱い考えこそ。それこそが、人類の存在意義を否定する。そして存在意義のない人間達と言うのは、守る意味もなくなる。…そうなのではないかと、私はそう思いました」
「刻晴…!?」
刻晴は恐る恐るでありながらも、だがしっかりとした口調で、そう言葉を続けた。そして叔父は刻晴のその言葉、それはまるで核心を突くかの様で、思わず目を見開く。
「叔父様…。私は思いました……。確かに璃月の歴史は帝君につくことが正しいと証明してくれました。ですがそれは少し違うと思います。私は『人』として生まれたのなら、『人』としての誇り、そして『人』としての考えも大事にすべきだと、私はそう思います。___」
刻晴は叔父に対して、少し震えながらも堂々とそう述べていく。
「___迎仙儀式を通じて帝君が下した政策に璃月の心が左右され、喜ぶ者がいれば悩む者もいます。それ自体には良い悪いは無いと思います。ですが、そうしてただ迎仙儀式に参加する事、帝君の意見にただ従うだけの人達、そして璃月の未来を何も考えない人というのは、果たして存在意義はあるのでしょうか…?そして、帝君にとって守る意味のある存在でしょうか……?そう、私は疑問に感じました……」
そうして刻晴はそのように言い切る。
「そうか…。刻晴……。つまり、それはどういうことなのだ?」
叔父はそんな刻晴の言葉に強く頷き、そして更にそう問いかけた。
「はい…。叔父様……。それは………」
刻晴は頷くと、そしてまた少し考えてから、更に言葉を続ける。
「そうですね……。少なくとも今の璃月と言うのは、かつての璃月とは違いその迎仙儀式を通じて貧しい人はこれを機に大金を稼ごうとし、一方の金持ちは自分の事業が影響されないように祈るという傾向が強いという事は明らかです。…今の璃月の商人達は帝君を信仰する信仰型の投資が中心で、全くもって経済建設と言った点に関して、何の興味も抱いておらず、力を入れる必要性すらも考えていない、帝君の神権に全てを任せれば問題は無いと、私はそう考えました。……そして、___」
刻晴はそう言うと、自分の考えを話していく。
「___そう。そうしてそれは、帝君がこの責任を履行しなくなったら、璃月はどうなってしまうのかという事です。今現在の璃月の繁栄、言うなればそれは砂浜に建てた壮大な砂の城です。そしてその壮大な砂の城の運命を決めるのは人間ではなく、全ての命運は帝君にあります。そして先ほどまでの叔父様の話、『“帝君自ら”が世の塵』であると判断する時がやってくるという話…」
刻晴はそこまで言うと、一度深く息を吸う。そして目を瞑ると、また口を開いた。
「…七神、俗世の七執政はそれぞれの考えに違いはあれど、それぞれの理念に従ったやり方で自らの民達を愛し、そしてその自らの民達のために力を尽くしています。そして『“帝君自ら”が世の塵』であると判断する状況というのは…、おそらく今の璃月人達、しいては私達人間達が帝君の目から見て、『私達璃月人達が完全に堕落してしまったとそう判断された時』なのではないかと、私は思います」
刻晴はそこまで言うと、また大きく息を吸ってから言葉を続けた。
「今の多くの璃月人達というのは帝君がもたらす繁栄にただ浸り、そして今の璃月や璃月の未来のために何かを大きく変えようとする大きな努力をすることも無く、また帝君がもたらす繁栄によってただ金銭を稼ぎ、そうして自らの財産や地位を肥え太らせ続ける事にしか興味が無い、ただそれだけです。それはつまり自らの意志を放棄したという事…。そして私が見てきた璃月の過去に関する文献や書籍を見るに、___」
刻晴は目を細める。そしてまた僅かに身体を震わせる。
「___帝君は民達の意志や考えに深い興味や関心を持っていて、そして帝君が認めたり採用する事は無かったとしてもそれ自体は尊重している。ですが今の璃月の現状から察するに、いつか帝君は『民達は自らの意志を放棄し、そうして完全に堕落してしまった』と感じて失望されてしまってもおかしくない……。そう、私は思います」
刻晴はどこか焦燥感に駆られているかの様子で静かに、だがはっきりとそう言葉を述べた。
「刻晴…、そのお前の考え、おそらく正しい…」
「叔父様……、では、それでは、まさか……!?」
「……そうだ。刻晴よ、お前が考えたその通りだ」
叔父は刻晴の言葉に、深く頷く。
「叔父様…。まさか本当に……、岩王帝君は、私達の為に自らの姿を消すなんて事なんてありえるのですか………?」
刻晴は自らが辿り着いた答えの核心に、恐れを感じながらも問いかける。
「うむ、そうだな…。否定も出来ないし、肯定も出来ない。だが、その可能性は十分あるとわしは見ている……」
叔父はそう言うとまた深く頷き、そして言葉を続けた。
「帝君は長い時の間、気が遠くなるほどの長い時間、この璃月という地を治めてきた。そしてその長い年月の間に帝君はわしらの民達との交流や混じり合いの中で多くの事を知ったり理解してきた過程、また何度か他の国の七執政である七神達との交流の過程の中で、様々なことを思い、そして考えてきた筈だ。帝君は璃月の民達と帝君本人は一体どうあるべきなのかを、___」
叔父はそこまで言うと腕を組み、難しそうな表情を浮かべる。
「___また俗世の七執政の一柱である岩神のモラクスとして、彼は自らの民を愛し、民達を大切にしていこうとしていくその過程で、璃月の民達が幸せである為や幸福である為に、璃月という地に住まう者達や璃月の民達、これからも続いていく璃月のために彼らをどのように導いていくのか、将来的には璃月の民達をどのようにして彼らの為になる未来へと導いていけるのか…。帝君は、長い時の中、悠久の時の中で多くの事を思い、考え続けてきたのだろう……」
叔父はそこまで言うと軽く深呼吸をして、そして刻晴の方に視線をを向けて彼女を見つめた。
「はい、そうですね、叔父様…。そして帝君は、岩王帝君は私達璃月の民達の為になる未来へと導く為、私達にとっては厳しい道になりますが帝君は自身の姿を隠す事で、私達璃月の民達により良い未来へと導こうとしている……。そういう事なのですか……?叔父様?」
刻晴はそんな叔父の言葉に、どこか少し落ち着かない様子を見せる。
「うむ、そうだ…。わしが思い至った可能性…。岩王帝君に守られながらこの璃月が成り立つことが、果たして今の璃月人達、そうしてこの先生の子孫や生まれてくる璃月人達ためにも良いことなのか…という疑問。つまりは、そう言う事だ。…いずれかは、いや___」
叔父は眉をひそめる。
「___もしかしたらもう帝君は、今の璃月や璃月港を取り巻いているこの現状には大きな疑問、そして戸惑いを抱いておられてもおかしくはないのかもしれん。だからこそ帝君は、わしらの未来のためにその自らの存在を消そうと考えていても不思議ではない……」
「…」
刻晴は叔父のその言葉に、無言で顔を伏せた。そしてその表情はどこか悲しげであった。
「刻晴よ……」
叔父はそんな刻晴の肩に手を置く。そして再度口を開いた。
「心配するな…。あくまでもわしの個人的な考えや予感だ……」
叔父は優し気な表情で、刻晴に微笑みかける。
「確かに、そうですが……。ですが、それが的はずれではないとも言い切れません……」
刻晴はどこか悲しげにそう言うと、顔を伏せる。
「刻晴…」
叔父は困ったかのような表情で、刻晴を見つめる。
まだ幼き刻晴には、少し厳しすぎる話をしてしまったのかもしれない……。叔父はそう思っているかのように少し険しい表情であった。
「……」
「……」
暫くの間、二人は沈黙を続けた。
「…刻___」
「___叔父様」
叔父が刻晴に声を掛けようとした瞬間、刻晴が叔父の言葉を遮るように口を開いた。そして顔を伏せていた刻晴は顔を上げた。
「…どうした、刻晴?」
叔父は先ほどまで悲しげな様子を見せていた刻晴が、今度はどこか強い決意や覚悟を宿した表情になっている事に、少し驚きながらもそう問いかけた。
「はい、叔父様……。私は、帝君や岩王帝君の事についてはまだ未熟で何も分かりません……。ですが、帝君本人に一つ、尋ねてみたい事が出来ました……」
刻晴は叔父の顔を真っ直ぐ、決意の眼差しで見つめる。
「うむ……」
叔父はそんな刻晴の様子に、何かを感じ取ったのか頷き、彼女の言葉の続きを待った。
「……それは『_____』です」
「っ…!?」
叔父は刻晴のその言葉に、目を見開く。
「成程…___、か」
だがすぐに叔父はふっと微笑むと、口を開く。
「___刻晴、正気か?それはどう弁明したとしても、岩王帝君に対する完全な不敬だ。言い逃れなど出来はしないぞ?」
叔父は真剣な表情で、刻晴にそう問いかける。
「はい、叔父様……。確かに、帝君に対する完全な不敬です。こんな事、迎仙儀式の場で行ってしまえば最悪、不敬罪として儀式の会場を警備中の千岩軍の者達にとして即刻取り押さえられるでしょう」
「うむ、そうだな…。それどころかもしかすると、いやもしかしなくても璃月七星という立場で発言した者であったとしても無視する事は出来ず、許されることもない重大な事案になるだろう。下手すればそのまま失脚に繋がり、七星の座から引き摺り下ろされるかもしれん…。刻晴よ、凄く愚かだな」
叔父は刻晴にそう告げると、微笑んだ。
「はい……、そうかもしれません」
刻晴は叔父の言葉に否定せずに頷いた。
「ですが…。ですがそれでも、私は帝君にお聞きしたいのです…。私はただ帝君の意志を知りたい、それ以上でもそれ以下でもありません。そして、この璃月を……」
「この璃月を…?わしらの、璃月をどうしたいのだ?刻晴?」
叔父は穏やかな表情のまま、刻晴に問いかける。
「はい、叔父様…。私は、この璃月をもっと、もっと誇りのある国にしていきたい、胸を張って誇れる国にしたい…。この長い歴史を紡いできた璃月という国家をもっとより良い国にしていきたい……。私は、そう…考えました……」
刻晴は叔父の目をまっすぐに見つめ、そして自らの思いを……思い描く国の在り方を叔父へと告げる。
「なるほどな……」
叔父は刻晴のその言葉に、深く頷いた。
「はい…。その、私は、璃月が、この璃月という国が好きです」
「うむ…」
叔父は刻晴の言葉に頷く。そして刻晴の言葉の続きを待つ。
「私は叔父様の書斎の文献や書籍に書かれていた岩王帝君の偉業や逸話と言った話。また帝君に付き従い尽力してきた仙人達だけではなく、それと同等にその岩王帝君の言葉に従い、そうして自分達の誇りや希望を胸にし、迷いなく一心不乱に途方もない努力を行って歴史を刻み続けてきた多くの名も無き璃月人達。そしてそれらに描かれていた彼らの汗や情熱…。そしてそれらを受けて、帝君や仙人達、そうして数多くの人々の思いを受け止めながら成長してきた璃月というこの国、この国家……___」
刻晴はそこまで言うと、どこか吹っ切れたかのような晴れたような表情を浮かべる。
「___私はこの璃月という国が好きです。私は大好きです…!!」
そうして刻晴は満面な笑みを浮かべながら、叔父にそう告げる。
「うむ…、あぁ…、そうか……、刻晴……」
叔父はそんな刻晴の喜びに満ちた表情を見て、微笑む。
「…くくっ、ははっ……。あは、あはははっ……!!」
そして叔父は突然、大きな声で、そして上機嫌そうに笑いだした。
「あっ、叔父様……?」
刻晴はそんな叔父の様子に驚いて、問いかけた。
「あ~……笑った笑った……。いや、すまないな刻晴よ。おぬしの気持ちはよく分かった……」
叔父はひとしきり笑い終えた後、そう言った。
「はい……」
刻晴は少し恥ずかしそうに顔を紅潮させつつ、返事を返す。
「ふむ…、ははっ…、誇れるような璃月を…か。まさか幼いながらにそのような事を言いだすとはな……」
叔父はどこか感慨深そうな様子で、そう呟いた。
「わしの生涯…、案外悪いものでもなかったな」
叔父は静かにそう呟く。
「刻晴様~!!」
その時、屋敷の使用人が刻晴を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あら?」
(一体、何かしら?)
刻晴は直ぐに立ち上がり、叔父に背を向ける。
「叔父様、すみません。ちょっと、行ってきます」
そうして刻晴は、部屋を後にした。
「……あぁ」
叔父はそう返事を返すと、刻晴が出て行った部屋の出入り口に目をやり続ける。
「『_____』……か」
そんな叔父の呟きは、静かな部屋へと響いた。
「___っ!?」
その時、叔父は目を見開かせる。
「ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ…!!」
叔父は激しく咳き込み、そして息を荒げる。
「はぁ……、はぁ……」
そして咳き込んでいた叔父は、咳が落ち着いたところでそっと息を吐いた。
「ふぅ…、やれやれ……。流石に、老齢には叶わんか……」
叔父はそう呟き、そして刻晴が出て行った扉の方に視線を向けたのであった。
今回は「完全な問答回」。
そして刻晴が自分なりの考えと言ったものを確立させるのに至ったきっかけのエピソードの一つ(のつもり…)。
原作の刻晴が持つ璃月や岩王帝君、そして璃月に住まう人間達や璃月人達を通じた人類に対する考え方や彼女なりの信条を確立させるためには、作者的にはこういう「問答」を通じていかないと確立しないんじゃないかと思い、今回は完全な問答回となりました。
次回は一気に時間が飛びます。
次回の投稿まで今しばらくお待ちください…。