今回より物語が本格的に動き始めます。
なお今回は前半が刻晴視点、後半はある意味別キャラ視点となります。
Side:刻晴
「…叔父様」
「…どうした、刻晴?そんなに悲しそうな顔を浮かべて……」
「いえ、その…」
(お、叔父様…)
叔父がそう冗談交じりに言うと、刻晴は更に顔を悲しげなものにした。
とある日の暖かい日差しが降り注ぐ中、刻晴は寝具の上で仰向けになっている叔父に、少し心配そうな様子で声をかける。
何度か璃月港の海灯祭、そして迎仙儀式を繰り返してきたことでそれなりの年数や月日が経った…。
刻晴はすくすくと成長し、叔父はそんな彼女の姿を見て楽し気に、そして少し寂しげにしている事が多かった。
そうして刻晴は自身に付けられた多くの教師達の知識や知恵を学び入れ、そして数多の数の書籍を読み、理解し、そして知識として蓄えてきた。
またそして刻晴はそれだけには飽き足らず自分自身に対する修練として、また護身や自衛の手段を得る為の手段として自らが剣の道をも歩み始め、その過程で剣法に関する武芸や武術といったものも学んでいった。
そうして刻晴は貴族のお嬢様に相応しい教養や知識を身に着け、また武芸や武術と言ったものを学び続けて遂には『雲来剣法』なる剣法を自らのものとし、周囲の人間達にも一目を置かれる程の確かな人物へと成長し続けていた。
そしてとある日、遂にその時が来てしまった。
___刻晴様!!失礼します!!緊急の知らせが……!!
____えっ…?なに、どうしたのかしら?
___はい!!その、玉衡様が倒られました…!!
___なんですって!?お、叔父様が!?
その日、刻晴は屋敷の庭で自らの修練の為に剣を振るっていた。
そして使用人の知らせを受けて慌てながら、叔父が運ばれたとされる屋敷の叔父の寝室まで急ぎ駆けつけると、そこには叔父が横たわっており、その傍らには屋敷の使用人達の姿があったのであった。
そうして当初は目を覚ますことなく眠っていた叔父であったが少しした後に目を覚まし、また屋敷を訪れた医者達の検査の結果、叔父は特に身体的な異常等は見られず、またそうして命にも別状は無いという診断結果であった。
だがしかし、叔父は年齢と言う事も相まって念のために暫くの間、自宅で安静にすることになったのであった。
「___叔父様、お身体の方は大丈夫ですか?」
刻晴は叔父の寝室に訪れると、叔父の身体を気遣うようにそう問いかけた。
「身体か…。まぁ、いつも通りだ。特に問題はない……」
叔父はそう言うと、どこか優し気な眼差しで刻晴を見つめた。
「刻晴よ……。そんな心配そうな表情を浮かべる事はない」
叔父はそう言いながら、穏やかな表情で首を横に振る。
「ですが……」
刻晴は心配そうな表情を浮かべ、叔父へと視線を向ける。
「いや、問題ない。刻晴よ、安心してくれ……。それよりもだ」
叔父はそう言って微笑むと、刻晴に再度語りかける。
「刻晴よ。月海亭、並びに総務司等から、今日の分の報告書やわしの判断が必要な案件に関する書類は届いているか?」
叔父はそんな事を刻晴に問いかける。
「はい、叔父様。既に書類は届いています」
「そうか…。刻晴よ。早速だが、今日届いたそれらを___いや、待て」
叔父はそこまで言うと何かを思いついたかのように、言葉を止めた。
「…」
そして叔父は刻晴に視線を向ける。
「…?どうかなされましたか、叔父様……?」
刻晴は叔父が何か言いたげである事を察したのか、叔父の次の言葉を待つ。
「…刻晴。早速であるが、今日月海亭や総務司等から届いた報告書や書類、この場で読み上げよ」
「えっ…!?」
(私が、叔父様宛の報告書や書類を…!?)
刻晴は叔父の突然の言葉に驚き、少し動揺した様子を見せた。
「あぁ、そうだ。わし宛の報告書や書類を読み上げてみよ」
だが叔父はそんな刻晴の様子など気にもかけず言葉を続ける。
「お、叔父様…。ここにある報告書、それに書類を読み上げても…、私が目を通しても良いものなのですか?」
刻晴は恐る恐るといった様子で、叔父にそう問いかける。
「無論だ。問題ない」
「で、ですがこれは叔父様宛のもの、璃月七星の玉衡である叔父様宛の機密書類などではないのですか…?そんな大切な物、機密文書を私が目を通してしまっても大丈夫なのですか……?」
「うむ、確かにそうだ……」
叔父は刻晴の言葉に、少し考え込むように頷く。
「だがな、刻晴よ……。そんな心配はせんでいい。それにわしにはとある考えがあってな……」
「とある考え…?」
刻晴は叔父のその言葉に、少し首を傾げる。
叔父はそんな刻晴の様子に、小さく笑う。
そして口を開く。
「___刻晴よ。じきにわしの考えがわかるさ」
「は、はぁ…。わ、分かりました。叔父様……」
叔父は優し気、また温かみのある表情で刻晴に微笑む。
そうして少し気だるそうながらも、叔父は起き上がって姿勢を正す。
そして身嗜みを軽く整えた後に、真剣な表情を浮かべる。
「さてと、刻晴。早速だが、月海亭や総務司から届いたそれらの読み上げを頼む」
「は、はい。叔父様。えぇっと___」
刻晴は叔父のその言葉に頷くと、月海亭や総務司から届いた書類を読み上げていく。
「___以上が、月海亭や総務司から等の報告、また彼らから叔父様の判断や意見が欲しい案件となります」
「ふむふむ、なるほどな……」
叔父は刻晴からの報告を受けて、神妙な顔で深く頷く。
「…うむ」
叔父は目を瞑り、少し考え込んだ後に目を開いた。
そして叔父は刻晴に視線を向ける。
その視線は、何かを見定めるようなものであった。
「…えっと、あの、叔父様……?」
そして刻晴は見つめられる叔父に、少し不安そうな表情を向ける。
だが叔父はそんな刻晴に対して、優し気な笑みを返し静かに口を開く。
「___刻晴よ。今まで刻晴が読み上げてきた報告書や資料。これらから月海亭や総務司から求められた判断や意見、刻晴はどう考えた……?」
「…どう、考えたですか?」
刻晴は叔父の言葉に、少し戸惑うような様子を見せる。
そしてそんな刻晴に叔父は頷くと、再度口を開く。
「そうだ。もしも刻晴、刻晴がわしと同じ玉衡という立場に立った時…、例えばこの案件、刻晴ならばどのような意見を述べる?」
叔父はそう言いながらとある書類を指さし、そうして刻晴にそう問いかける。
「わ、私がですか……!?」
(私が叔父様と同じ立場になった時……!?)
刻晴はそんな叔父の言葉に、少し考え込む。
叔父のそれはまるで、叔父が刻晴を試すかのような言い方。
だがしかし、その口調の中にどこか刻晴の事を期待しているかのような感情があるように感じられた。
「…」
刻晴は深く考え込むように顎に手を当てて、そして少し眉をひそめる。
刻晴は叔父がそう問いかけてきた以上、もう後には引けない。
そうして少しの間、考え込んだ後に刻晴は口を開く。
「…そうですね、叔父様。私の意見、私の考えを述べるとしたら、まずこのチ虎岩地区の海岸の地盤に関する件に関してですが___」
刻晴は目を通した報告書や書類に記された事項について淡々と纏め、そしてそこから自らの意見や考えを叔父に伝えていく。
「…うむ、…うむ」
刻晴が意見を述べながら、叔父はただただ静かに頷く。
「___です。以上が私の意見、私の考えとなります」
「なるほどな……。刻晴の意見や考え、よく分かった」
叔父はそう言うと、再び目を瞑り考え込むように腕を組んだ。
そして少しして目を開くと、刻晴を再度見つめる。
「刻晴よ。悪くない…な」
「悪くない…?」
叔父は刻晴にそう言うと、小さく頷く。
そして叔父は言葉を続ける。
「そうだ。悪くない……。初歩的な事は元より、事柄事柄の要点をしっかりと抑え、その上で自分の意見をしっかりと持てている……。うむ、やはり悪くないな……」
「そ、そうですか……?」
刻晴はどこか気恥しそうにしながらも、叔父に問いかける。
「うむ、そうだ。自信を持て、刻晴」
そんな刻晴の問いかけに叔父は頷きながら、答えた。
「…さて刻晴、ありがとう。わしはお主の、璃月や璃月港の課題に関する考えを聞けて満足だ。さぁ、もう部屋を出なさい」
そうしてすると叔父は、刻晴にそう促すように声をかける。
「はい、叔父様」
そうして退出を促された刻晴は叔父の言葉に従い、叔父の部屋の扉まで向かった。
「それでは叔父様、お身体に気を付けて……」
そして刻晴がそう言って部屋を後にしようとする。すると___
「___あら?」
「___あっ…」
___刻晴が叔父の部屋の扉から出ようと扉を開けたその時、部屋の扉の前には一人の女性。
金と紫が混ざり合ったかのような独特な色の瞳に、氷のような水色の髪に2本の赤と黒入り交じる角みたいな髪飾りの少女のような女性。そして腰には神に認められた者という証である“氷の神の目”を身に着けた少女が叔父の部屋の扉の前で立っていた。
「___貴女、屋敷の使用人の者じゃないわね…?何者かしら……?」
刻晴は扉を開けた先にいたその少女、“氷の神の目”を身に着けていた彼女に警戒するように目を細める。まるで部屋の中にいた刻晴と刻晴の叔父の会話の全てを盗み聞きでもしていたかのようにその場で立っていたその少女に対して、刻晴は警戒していた。
「え、えっと……」
そしてその少女の様子は目の前に現れた刻晴の姿に少し狼狽えているようにも見え、どこか戸惑っているようにも感じられた。
「___刻晴よ。その者の事は気にするな」
そうしてその時、刻晴の背後から叔父の声が聞こえてきた。
「叔父様…。この方は叔父様のご知り合いの方ですか……?」
刻晴は背後にいる叔父にそう問いかけながら、その女性を見つめる。
「あぁ、そうだ。そこに立っている者、その者は月海亭から来たわしの“秘書”だ」
「“秘書”ですか…?なるほど、そうでしたか……」
刻晴は叔父の秘書と言う言葉に、納得がいったかのように頷く。
「…申し訳なかったわね。謝罪するわ」
刻晴はそう言うと頭を下げる。
「い、いえ、別に気にしないでください…。実際に部屋に入るのを躊躇ってしまった結果、盗み聞きをするような形になってしまったのは事実ですから……」
そうしてその少女はそう言うと、申し訳なさそうに頭を下げた。
「そう…。貴女がそう言うのなら私も気にしないことにするわ。___」
刻晴はそう言って頷くと、改めて叔父の方に振り返る。
「___叔父様、改めて失礼いたします」
「あぁ」
刻晴は扉越しにいる叔父に一礼する。そして叔父も刻晴に頷く。
「…ごめんなさいね、待たせてしまって。私はもう行かせてもらうわ」
そうして刻晴は叔父の部屋から離れる直前、隣に立っていたその少女に軽く視線を向ける。
「は、はい。分かりました…」
「えぇ、それじゃあ…」
そしてその少女も刻晴を見つめて、目を合わせる。そしてお互いに軽く会釈をする。
「……」
そうして刻晴は叔父の部屋から離れて行ったのであった。
「……はぁ」
その少女は刻晴の後ろ姿が見えなくなるまで彼女の背中を見つめ、そうして刻晴の姿が見えなくなった後に小さくため息をついた。
「…」
そして少女は部屋の中にいる刻晴の叔父であるその老齢の男性に視線を向ける。
「ははは___」
「……」
叔父は静かに笑いながら、どこか楽しげにその少女を見つめていた。
それは自慢の愛娘である刻晴の姿を甘雨に見せてやれたからなのか、それとも先ほどまでの叔父の想定を超える刻晴の意見や考えに満足しているからなのか、その少女にはそれはわからなかった。
だがしかし、とにかくそんな叔父の様子はどことなく嬉しそうであるのは間違いなく、少女はそんな叔父の姿を見て少し安堵したのであった。
「…“玉衡”様」
そしてその少女は穏やかな笑みを浮かべていた様子から打って変わって、少女は少し怒っているかのような表情を向けながら刻晴の叔父の部屋に入り、そのまま少女が玉衡と呼んだ刻晴の叔父の方に詰め寄る。
「む?どうしたのだ、“甘雨”よ」
叔父はそんな甘雨の様子に、不思議そうに首を傾げる。
「どうしたもこうしたもありません…。っ!」
そんな甘雨は頬を叔父に対して、少し怒ったかのような表情を向ける。
「うむ…?はて、わしは何か甘雨が怒るようなことでもしてしまったか……?」
「玉衡様…!!まったく、こんな状況でふざけないでくさい!!」
叔父はそんな甘雨のその様子に、少し戸惑いつつも状況を整理する。だが実際は、どうして甘雨が怒っているのかが分かっているような素振りを僅かながらに見せていた。
「…?」
「っ…!!」
そしてその叔父の様子を見て、甘雨はさらに苛立ったように声を上げる。
「玉衡様!!貴方は先ほど、自分が何をやったのか、それを分かっているのですか…!?」
そして甘雨は勢いよく詰め寄りながら口を開く。
「わしのやった事か…?」
「はい、そうです!!私が部屋に入る前までに、何をやっていたかについてです!!」
「ふむ…」
叔父は甘雨の言葉に、目を瞑り少し考え込む。
そして叔父は目を開けて甘雨の方に視線を向けると、口を開いた。
それは先程までのどこか余裕そうな態度とは打って変わって真剣な面持ちで……。
「…うむ。刻晴の考え、そして刻晴の意見を聞いていたな」
「違います!!それじゃないです!!その前です!!」
「ははっ、それでは無かったか。ならば刻晴に今日届いた月海亭や総務司等からの機密文書や機密書類を読み上げさせた事だな」
「そう、それです……!!」
甘雨はそう言うと、心底疲れた様子を見せながらがっくりと肩を落とした。
「玉衡様、どうして彼女にあのような事を…、いえ、どうして彼女に閲覧させたのですか……!?あの機密文書や機密書類の読み上げ以前に、許可も無く部外者である第三者に重要文書や書類を閲覧させてしまう行為…、それは例え事故であったとしても重罪に値してしまう行為です……!!」
「ほう…」
甘雨は叔父に対して、切実に訴えかける。
だがそんな甘雨の様子にも、叔父は動じた様子を見せなかった。
「下手してしまえば、彼女はおろか玉衡様自身までもが国家を揺るがした重罪を犯した罪人として、非常に重い処罰がされてしまう可能性すらもあったのですよ……!?」
「うむ……」
突如、叔父は黙り込む。
「玉衡様……?」
そしてその様子に甘雨は少し不安げな様子で叔父を見つめる。
「…ほう、面白い事を言うな。甘雨よ……」
「面白い事ですか…?」
その時叔父の鋭い視線と口調に、甘雨は一瞬怯む。
「あぁ、そうだ。面白い事…だ。___」
そして叔父は甘雨の様子に構う事なく、そんな言葉をもう一度口にする。
「___甘雨よ、お前はわしが読み上げさせた事を知っていた…。それはつまり、その時にはお前はわしの部屋の扉の前にいたということだ。……違うか?」
「そ、それは……」
甘雨は図星を突かれたかのように、少し狼狽える。
そして叔父はそんな甘雨の動揺を見逃すことなく畳みかけるように、言葉を続ける。
「お前はわしの部屋の扉の前にいた。わしが刻晴の機密文書や機密書類の読み上げを、ただその場で聞いていた。それはつまり、それを甘雨は容認していたという事だ。…違うか、甘雨よ?」
そうして叔父は甘雨にそのような言葉を突き付けたのであった。
今回は、ある意味で「刻晴と甘雨の邂逅」回です。
次回は今回の続き、完全な「刻晴の叔父(先代玉衡)と甘雨」回となります。