名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

思った以上に長くなってしまったので、「刻晴の叔父(先代玉衡)と甘雨」回は2つに分割を行いました。

今回はその前半です。


なお今回、若干独自設定(水路関係)が発揮しております。


_“帰離原”

 

「……っ」

 

叔父は甘雨に鋭い視線を向け、甘雨はその叔父の視線を受けて黙り込む。

 

 

 

叔父の指摘は何一つ間違っていない。

 

そう、甘雨が叔父の部屋の扉の前にいたのは事実であり、そして刻晴が機密文書や機密書類を読み上げているのを黙認していた。

 

 

 

それらは紛れもない事実であったのだ。

 

 

 

 

 

「…玉衡様。貴方は本当にずるいお方です」

 

「うむ、そうだな。それがわしだ」

 

「…はぁ、本当に変わらないですね」

 

甘雨の言葉に叔父は短く頷き屈託なく笑う。

 

甘雨はそんな叔父の変わらない態度に、ため息をつくしかなかった。

 

 

 

「玉衡様。彼女がよく貴方様がお話してくれました、玉衡様の娘の“刻晴”様なのですね…」

 

甘雨は部屋を出て行き、そうして刻晴が去って行った方向に顔を向ける。

 

「うむ、そうだ。彼女が、わしの自慢の娘でもある刻晴だ」

 

叔父はそんな甘雨に対して、笑みを浮かべながら頷く。

 

「…して、甘雨よ」

 

「はい、何でしょうか?玉衡様?」

 

そして叔父は甘雨に対して、改めて声をかける。

 

「甘雨…。甘雨は刻晴についてどう思った?」

 

「どう、思ったですか…?」

 

「あぁ、そうだ。刻晴がわし宛ての機密文書や機密書類を読み上げ、そうして刻晴は刻晴なりの意見や考えを述べさせたが、甘雨は刻晴の意見や考えを聞いて、どう思った?」

 

叔父は甘雨に問いかける。

 

 

 

「どう思ったか、ですか……?」

 

「あぁ」

 

「そうですね……」

 

甘雨は叔父の言葉に、少し考えるように俯く。

 

 

 

「…そうですね、玉衡様。___」

 

そして顔を上げた甘雨は叔父に対して、その考えを述べる。

 

 

 

 

 

「___刻晴様、彼女の意見や考え方というのは、玉衡様があの場で仰せつかった通り非常に的を射ているものでした。それに彼女はその機密文書や機密書類に書かれていたそれらの要点を抑えた上で、彼女なりの考えだけでなく柔軟性にも富んでいたと思います…。それに……」

 

甘雨はそう叔父に対して、刻晴の感想を述べる。

 

「それに…?」

 

叔父は甘雨のその意見に頷き、また甘雨に続きを促す。

 

「はい…。彼女は、刻晴様は年齢に見合わない程に深い考察を述べ、とても非常に聡明な方だと私は思いました……。それは、あれは……」

 

そして甘雨は一呼吸おいてから、叔父に対してその考えを述べる。

 

 

 

 

 

「____……彼女は、まだ若い少女には到底思えないような、大人びた聡明な方。そしてそれと同時に芯の強い人物だと私は感じました」

 

甘雨は叔父に対して、刻晴の感想を述べる。

 

 

 

「……そうか」

 

「はい……」

 

叔父は甘雨の言葉に、どこか納得したかのように頷く。

 

「なるほど……な」

 

叔父はそう呟くと、静かに目を閉じる。

 

「…」

 

そんな叔父の様子を甘雨は不思議そうに眺める。

 

 

 

 

 

「___甘雨…。甘雨とわしはかなり長い付き合いだったな……」

 

「…玉衡様?」

 

叔父の突然の言葉に、甘雨は戸惑いを見せる。

 

「うむ…、そうだな……」

 

叔父は目を閉じながら、そう小さく頷く。

 

そして叔父は静かに目を開けると甘雨に向けてその口を開く。

 

 

 

「“玉衡”という座…。この椅子、この席に座ってから、とても長い年月が経っていったな……」

 

「玉衡様…」

 

叔父はどこか懐かしむようにそう呟くと、甘雨にその視線を戻す。

 

 

 

 

 

 

 

「___わしのような老いぼれは、そろそろこの席を誰かに譲らなければならない頃合いやもしれぬ……」

 

 

 

「っ…!?」

 

叔父のその言葉に、甘雨は驚きに目を見開く。

 

そんな甘雨の様子に、叔父は笑う。

 

 

 

「甘雨よ、そんなに驚く事か…?」

 

「い、いえ、そんな事は……」

 

甘雨は少し慌てた様子で、叔父に対してそう答える。

 

「うむ……。まぁ、良い。…甘雨よ」

 

「はい、なんでしょうか。玉衡様…?」

 

叔父は甘雨の目を見据え、甘雨も叔父の態度からして固唾を呑んで次の言葉を待つ。

 

 

 

「わしの後継者、次期玉衡の者についてなのだが、次の玉衡は“刻晴”で進めようと思う」

 

「っ!?」

 

そうして甘雨は叔父の突然の言葉に、僅かに身体を震わせる。

 

 

 

 

 

「ゆ、玉衡様…?そ、その、いくら何でも。そ、それは、急すぎませんか?」

 

「そうか…?わしは本当に、それこそ心の底から刻晴で良いのではないかと思ったのだが…?」

 

「し、しかし…。いくら玉衡様が彼女を推薦するとしても、それはあまりにも……」

 

甘雨は叔父の突然の言葉に、戸惑いを隠せない。

 

確かに刻晴があの場で述べた意見や考えは素晴らしかったし、あの若さであれだけの教養と知識、また近年稀に見ない程の聡明な女性であり、ぶれる事のない芯の強そうな人物でありそうなことは甘雨の目から見ても明らかだった。

 

 

 

だが、しかし……。

 

「あ、あの玉衡様…。確かに彼女はとても素晴らしい人材だと思いますが、彼女はまだ若いですし……。それに何より、まだあの若さが故に多くの事や様々な経験をしていないのも事実です。そんな彼女が本当に玉衡の座に就いても問題ないのでしょうか……?」

 

甘雨は叔父に対して、その考えを改めるように問いかける。

 

「うむ…、そうか。だが、甘雨よ…。お前は刻晴の才覚や才能、そしてあやつの人柄や性格は認める。そう言う事で良いのだな……?」

 

「は、はい……。確かにその点に関しては私は刻晴様の事を高く評価しています。玉衡様」

 

「そうか……」

 

叔父は甘雨に対して、その顔を綻ばせる。それはまるで孫の成長を喜ぶ年老いた老人のようであった。

 

 

 

「…甘雨よ。甘雨に見てほしい物がある」

 

「見てほしい物ですか…?」

 

「あぁ、そうだ」

 

叔父はそう言って頷くと、身体を起こしてとある台の上に置いてあったとある紙に腕を伸ばす。そしてその紙を掴み、そして甘雨に手渡した。

 

「これは…?」

 

「まぁ、読んでみるがよい。甘雨よ」

 

「は、はい。分かりました…」

 

甘雨はその紙、とある書状に目を通す。

 

 

 

 

 

「___っ!?」

 

そして甘雨はその書状に目を通していくと、次第にその顔色を変えていく。

 

 

 

「ゆ、玉衡様……!これは一体……!!私の知らない間にこのような話が進められていたのですか……!?」

 

「甘雨よ……」

 

甘雨が驚愕の表情を浮かべながら叔父の方に視線を向ければ、そこには穏やかな表情を浮かべる叔父の姿があった。

 

 

 

「甘雨よ。実は秘密裏ではあったが、わしは個人的に“凝光”とわしの後継者に関して相談をしていたのだ」

 

「凝光さんとですか…?い、いつの間に……?」

 

叔父の突然の言葉に、甘雨は驚きを隠せなかった。

 

 

 

「うむ。わしが倒れる数か月前、その時から少しずつな。何度か甘雨に群玉閣にいる凝光に書状を持たせて彼女に渡させたり、逆に凝光から私宛ての書状を甘雨に持たさせて私に届けてくれたことがあっただろう…?あの時だ…」

 

「な、なるほど……。そうでしたか……」

 

「あぁ、そうだ…。___」

 

甘雨は納得、そして静かに頷き、そうして叔父は甘雨に語り続ける。

 

 

 

「___わしの後継者、次期玉衡となる者に関しては、かなり慎重にならざる終えないからな。玉衡という席、この席が持つ権限、それは璃月七星の中において果たすべき役割や担当範囲からしてもかなり重要な立ち位置を占める座でもある。凝光の天権と言う座の次かその次には位の高い座になるからな。それ故に、わしの後継者である玉衡になる者を選定するにしても慎重かつ綿密な調査や検討が必要となってくるのだ……」

 

「た、確かにそうですね……」

 

甘雨は叔父の言葉に、ただ納得するように頷く。言われてみれば確かにそうだ。

 

 

 

 

 

璃月七星の玉衡の責務の領域。

 

玉衡は主に璃月領内の土地や生活管理、また建設や不動産関連等であり、それはつまり玉衡という座と言うのは、人々が暮らすのに必要な“衣食住”でいう“住”に直接関わってくる範囲を幅広く手掛けている責任重大な立場だと言えるのだ。

 

 

 

であるからこそ、その責任は非常に大きく、そして重い。

 

「…そうですね、玉衡様」

 

そうしてその責任や重要な役割から考えて、そして叔父の後継者として考えるのなら確かに慎重にならざるを得ない。

 

それ故に甘雨は納得するように小さく頷く。

 

 

 

「…正直、わしが後継者として推薦しようと考えていた信用できる人物、信頼できる人物達と言うのはこの玉衡の責任や義務を果たし切れるほどの才覚や能力が充分に備わっている人物達では無いし、またこれからその者達が才覚や能力を伸ばしてその責務を必ず果たせるようになれるのかどうかと問われてしまえば、答えは否と言わざるを得ないだろう……」

 

叔父はそこで一度言葉を切り、甘雨に真剣な表情を向ける。

 

「……」

 

叔父のその言葉に、甘雨は無言で小さく頷く。

 

そして叔父は言葉を続ける。

 

「そうしてそれ以外の者達、確かな才覚や才能等もあり本物の実力者である者達に譲るという手も考えたが、彼らは余りにも野心が、また何よりも私心も強すぎる。彼らに任せてしまえば公正、公平性を損なわれてしまうかもしれん…。それに___」

 

叔父はそこまで言うと眉を潜める。

 

 

 

「___もしも最悪の場合、玉衡の座が“あやつら達”にでも渡ってしまえば玉衡の権限を恣意的、また私利私欲の為に利用してしまう可能性だってある……。そうなれば璃月七星の玉衡の責務や責任が果たせなくなってしまい、それは璃月の重大な損失に成りかねん……。それだけは絶対に避けなければならぬのだ……」

 

「…確かにそうですね、玉衡様。今の玉衡様の周囲と言う状況と言うのは……」

 

叔父は真剣な表情を浮かべながら、甘雨に対してそう言い、甘雨も叔父が語る“懸念事項”に納得するように頷く。

 

 

 

「あぁ、そうだ…。ここの対応、わしの後継者は絶対に誤ってはならない。もしも選択を間違えてしまえば…、最悪玉衡を巡って水面下での権力争いの発生、もしくはそれらが璃月の裏社会や裏社会の人間達を利用した表立っての権力闘争の勃発。いやもしかすると、場合によっては最悪の場合、彼らの巧みな煽動によって元より大なり小なり不満を持つ者達や不満を抱かせた者達。そして彼ら、___」

 

 

 

その瞬間、叔父は目を細める。

 

 

 

 

 

 

 

「___千岩軍より離脱した一部の兵士達によるクーデター騒ぎだって引き起こしかねんからな…。そうした状況になれば、この璃月の秩序を乱しかねないような事態にもなりかねん……

 

叔父はそう言い放ち、“とある方向”に顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___“帰離原”

 

叔父はそう呟く。

 

 

 

 

 

「…想像もしたくないが、この地でクーデターなど決起されたら、それこそ冗談では済まされない事態になりかねん…。それだけで璃月が大打撃を受ける事になる。いや、なるだろう。確実にな……」

 

叔父は見据えるように、目を細めたまま静かにそう語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ク、クーデター、そ、それに帰離原…で、ですか……?」

 

「あぁ、そうだ。甘雨よ」

 

震える声の甘雨に叔父はそう静かに頷くと、甘雨の方に向き直る。

 

 

 

「…甘雨、どうしてわしはそこまでして、その地を重要視しているか…。その理由が分かるか?」

 

「え……?そ、それは……?」

 

甘雨は叔父からの突然の問いかけに、戸惑いを隠せない。そんな甘雨に叔父は静かに言葉を続ける。

 

 

 

「…そうだな、甘雨。質問を変えよう。璃月港は“貿易港という側面”があるが、他にも“もう一つ別の側面”がある。では、璃月港が持つ“もう一つの側面”とはなんだ…?」

 

「璃月港の側面…ですか……?」

 

甘雨は叔父の突然の問いかけに、戸惑いを隠せない。そんな甘雨に叔父は静かに言葉を続ける。

 

「あぁ、そうだ」

 

叔父は頷く。

 

「うむ…。璃月港とは各国の海を渡ってやってきた交易や貿易をするための船が停泊する港湾都市であり、また陸地を伝ってやって来た各国の商人達や商会達が交わる交易都市でもある。そしてそれは即ち、全てが繋がっている地とも言える。ここまで言えば、甘雨も分かるはずだ……」

 

「港湾都市…、交易都市…、それに全てが繋がっている地……ですか?」

 

甘雨は深く考えるように目を瞑る。

 

 

 

 

 

「………っ!?玉衡様、分かりました…………!!」

 

そうしてその瞬間、甘雨は叔父が言わんとしていることを理解し、目を見開く。そしてそのまま言葉を続ける。

 

 

 

「うむ、それでは璃月港のもう一つの側面はなんだ?」

 

「はい、それはつまり璃月港は“中継地”という側面と言う事でしょうか?」

 

「あぁ、その通りだ。甘雨よ」

 

甘雨の言葉に叔父は満足そうに頷く。

 

 

 

「璃月港とは各国を結ぶ中継地という側面もあるのだ。分かりやすく言えば璃月港を北上すれば石門の先にはモンド、遺瓏埠(いろうふ)の先にはフォンテーヌがあり、璃月港を西進すれば層岩巨淵の先にスメールが、そうして璃月港に停泊している船で南下すれば稲妻があるように、璃月港というのは各国と各国を結んでいる重要な中継地でもあるのだ」

 

叔父はそう静かに語る。甘雨はそんな叔父に対して、小さく頷く。

 

「そうですね。玉衡様」

 

「うむ…。そうして先ほど述べた“帰離原”、実はわしが考えるに中継地の重要度という観点で“総評”を行えば、璃月港より遥かに帰離原の方が重要度が高い」

 

「“総評”ですか…?」

 

「あぁ、そうだ。より正確に言えば“璃月港”、“璃月港北東の岩王帝君の七天神像がある集落の地域”、そしてその先にある“帰離原”と“望舒旅館(ぼうじょりょかん)周辺”の4つの中で、“帰離原”がいずれの中でも群を抜いて重要度が高いと考えている」

 

「“璃月港”、“璃月港北東の岩王帝君の七天神像がある集落の地域”、そしてその先にある“帰離原”と“望舒旅館”……。あっ」

 

甘雨は叔父のその言葉に、頭の中でそれらの地域の名前を並べていく。そして何かに勘づいたのか、甘雨は声を上げる。

 

 

 

「ふむ……。気づいたようだな、甘雨よ」

 

叔父はそんな甘雨にそう静かに言う。

 

 

 

「はい、その4つの地点。いえ、“璃月港”から“望舒旅館周辺”までの道、この通りと言うのはある意味で“璃月の大動脈”、また“璃月経済の生命線”とも言えます」

 

甘雨はそう叔父に対して、頷く。

 

「うむ、そうだな…」

 

叔父はそう言うと、璃月港の港湾の方角に顔を向ける。

 

 

 

「“璃月港北東の岩王帝君の七天神像がある集落の地域”から“望舒旅館周辺”の通り道と言うのは、南端にあるのは海路の稲妻に、海路と陸路それぞれでスメールを結んでいる璃月港。___」

 

そう言うと叔父は今度は、“望舒旅館”の方角に顔を向ける。

 

 

 

「___そして北端には、フォンテーヌとの玄関口とも言える遺瓏埠がある沈玉(ちんぎょく)の谷の東端、そこにある船着き場と望舒旅館にある船着き場で結ばれている水路、すなわち望舒旅館にある船着き場は‘碧水(へきすい)の原’と‘沈玉の谷’を結んでいる“碧玉(へきぎょく)水路”の出入り口だ。そうして望舒旅館より陸路で北上すれば石門で結ばれているモンドがある」

 

叔父はそう言い切ると甘雨の方に顔を向ける。

 

 

 

「いずれにせよ、“璃月港北東の岩王帝君の七天神像がある集落の地域”から“望舒旅館周辺”のこの通りと言うのはテイワットの各国と各国を陸路で結んでいる重要な通り道と言えるのだ」

 

叔父はそのように言い纏める。

 

 

 

 

 

「…確かにそうですね、玉衡様」

 

「…あぁ、そうだな。甘雨よ」

 

そして叔父は甘雨の言葉に静かに頷いたのであった。




なお後半は明日のいつもの時間に投稿予定…。

次回の投稿まで、今しばらくお待ちください。
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