名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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投稿できる水準に達したと判断したので、2話目を投稿。

前回の最後の描写からのスタートとなります。


 1幕:「群玉閣、目覚めし男」編
_ようこそ、群玉閣へ。歓迎するわ。


Side:???

 

「…はぁ、良かったです。目が覚めて。かなりうなされていましたから、本当に心配しましたよ…」

 

その女性、氷のような水色の髪に2本の赤と黒入り交じる角みたいな髪飾りの少女のような女性、“氷の神の目”を身に着けていた女性が、目の前の目を覚ました男を見て安堵の表情を浮かべていた。

 

「…」

 

しかし男はゆっくりと起き上がると何の反応を示す事無く、そのまま男は頭を抑えながら、ただ静かに呆然と目の前の女性に視線を向けるだけであった。

 

「…あの?どうかされましたか?本当に大丈夫ですか?」

 

女性はきょとんとした顔をしながら、男を見つめた。

 

「いや……、何でもない。ただ、ボーっとしていただけだ。自分はどうしても、起きたばかりの時は頭がどうしても動かなくてな。おまけに寝起きの時は、たまにどうしようもなく頭が痛いなんて事もあるんだ。…どうやら、心配を掛けさせたようだな。すまなかった」

 

そしてその女性の方に視線を向けながら、そう言った。

 

「…なるほど、そうだったんですね。それなら本当に良かったです」

 

そして女性は納得すると、微笑んだ。

 

「…」

(…ふぅん、成る程。この女、“神の目持ち”か)

 

男はその女性の顔から、その女性の腰に身に着けてある“氷の神の目”に目を向ける。そして少しだけ忌々しそうに、その女性の腰に身に着けてある神に認められた者という証である“氷の神の目”を見つめ続けた。

 

「…あの?どうかされましたか?やはり、どこか具合が悪いのでは?」

 

その女性はまた心配げな表情を浮かべる。

 

「いや、何でもない…。それよりもお前さん、お前さんは誰だ?名前は?」

 

男は彼女の名前を尋ねた。

 

「え?…あ、あぁ、そうでしたね。自己紹介がまだでした。私は“甘雨”と言います。甘雨と呼んでください」

 

彼女、もとい“甘雨”は男に名前を尋ねられた事で、はっと気付き自己紹介をする。

 

「ほぉ、甘雨か。…あぁ、そうか。そういう事か。ようやく、思い出して来たぞ」

 

すると男は何かを思い出したかのような反応を示した後、改めて周囲を見渡す。

 

周囲は高級そうな璃月様式の家具や調度品が置かれた、それはまさしく“豪邸の私室”、もしくは“邸宅の寝室”とも言えるような場所であった。

そして男が眠っていたこのベッドも高級な素材で出来ており、寝心地がとてもいいような上質な造りをしていた。

 

「…お前さん、甘雨は、あの“白髪女”が言っていた秘書さんだな?」

 

「えっ、“白髪女”ですか?…あのそれって、“凝光”さんの事ですよね?」

 

甘雨は男の問いにキョトンとした表情を浮かべるが、すぐにそれが“凝光”の事だと気が付く。

 

「…はっ、この“群玉閣”で白髪女と言えば、他に誰がいるって言うんだ?」

 

男は挑発するかのような笑みを浮かべながら、甘雨を見つめる。

 

「そう言われればそうですね…。それと一つ言わせて頂きますが、“天権”の凝光さんはこの群玉閣の主ですので、群玉閣では凝光さんと呼ぶのが常識かと思いますよ?」

 

甘雨は動じる事なく、男の言う事を訂正する。少しだけ眉をひそめ、また目を細めながら呆れたような口調で言う。

 

「ははっ、そうかい。すまないな、甘雨。…正直、今のこの状況。今でも現実感が無さ過ぎて。こうでもしてないとやっていられなかっんだよ…。正直、自分はまだ眠っていて、ここは夢の中なんじゃないかと思ってしまうんだ…」

 

男はそう言うと、はぁ、と深いため息を吐く。

 

「……」

 

甘雨はそんな男をジッと見つめる。

 

「…もしよろしければ、現実かどうかを確かめるために、“瞬詠”さんの頬に思いっきり平手打ちでもしてみましょうか?そうすれば、夢ではないとすぐに分かるかと思いますよ?」

 

そして甘雨は満面の笑みで、その男___“瞬詠”に提案する。

 

「…冗談だよな、それは?…それに本当にやったとしたら、自分は普通にお前さんの頬に思いっきりやり返すぞ?甘雨?」

 

そんな甘雨の提案に瞬詠は、頬を引きつらせながら苦笑いを浮かべる。

 

全体的にどこかふわふわしているような、独特で不思議であるが穏やかな雰囲気を醸し出している目の前の甘雨に、まさかそういう感じの熾烈な事を言い放つとは夢にも思わなかったのである。

 

「ふふっ、それは怖いですね。でもまぁ、冗談ですよ、申し訳ございませんでした。…さてと、おふざけはこの辺にしておきまして。瞬詠さん、目は完全に覚めましましたか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。眠気も頭痛も消えた。…というよりか、甘雨は既に自分の名前を知っていたんだな?…そうなると、もう凝光さんからは、話を聞いているという事か」

 

「はい、そうです…。それでは早速ですが、凝光さんが瞬詠さんの事をお呼びです。瞬詠さん、貴方寝すぎです。凝光さんが本当に呆れていましたよ?『初日早々、寝坊とは良い度胸しているわね、瞬詠は』と、凝光さんはそう仰っていました」

 

「…それは、悪かったな。まぁ、こっちも色々ありすぎて、疲れてたんだよ」

 

甘雨は苦笑いを浮かべながら、瞬詠に凝光の言葉を伝え、瞬詠も凝光の言葉に苦笑いを浮かべる。

 

「……はぁ」

(本当に色々ありすぎなんだよな)

 

そして瞬詠は頭痛が再発したような気がして、右手で額を押さえる。そして心の中でため息を吐く。

 

「…?どうかされましたか?」

 

「いや、何でもない。取り合えずこれ以上、凝光さんの奴を待たせるわけにもいかないな」

 

瞬詠はそう言うとベッドから降りて立ち上がる。

 

「…」

 

そして瞬詠は、何げなく設置されていた鏡の方に視線をやる。

 

鏡には金と紫が混ざり合ったかのような独特な色の瞳に、氷のような水色の髪に2本の赤と黒入り交じる角みたいな髪飾り、ぴっちりとした薄い布に黒のボディタイツ、そして鼠径部が見えるほど深いスリットの入った衣装に、ほわほわとした優し気な雰囲気を醸し出している女性である“甘雨”の姿。

そして灰色の髪に澄んではいるように見えるが灰色の瞳、また灰色を基調とした一般的な璃月の服装に身を包んだ男。全体的に目立つ事のない印象の男、もしくは目立つことを避けようとしてきたような印象を受ける男で、目つきが少しだけ鋭く感じる男性。そして隣に立つほわほわとふわふわとしている雰囲気を醸し出す鮮やかな容姿の甘雨とは、どこか対極的な雰囲気を身に纏った男性である“瞬詠”の姿。

それぞれの姿が鏡に写し出されていた。

 

「…さて、行こう。甘雨、案内してもらえるか?正直、この群玉閣の内部構造はよく分からん。凝光さんの所に行こうにも、これじゃあ迷ってしまって、凝光さんの元に辿り着かんわな」

 

「ふふっ、そうですね。分かりました、案内させて頂きます。こちらです、瞬詠さん」

 

瞬詠の願いに甘雨は頷く。

 

 

 

そうして二人は瞬詠の部屋から出て、凝光がいる場所に向かう為に広い廊下を歩き始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

Side:瞬詠

 

「___遅いわ」

 

甘雨の案内の元、瞬詠と甘雨が凝光がいる目的の場所に辿り着く。

そして目的の場所に辿り着いた瞬間、とある女性の不満そうな声が聞こえてきた。

 

「すみません、“凝光”さん。遅れました」

 

「いや仕方ないだろう、凝光さん。正直、疲れなんて取れた気もしないしな。…しかも昨日の今日だぞ?こっちは訳も分からず、死兆星号から群玉閣に連れ込まれたんだから。本当に意味が分からないぞ」

 

甘雨は申し訳なさそうに、そして瞬詠は甘雨に続けて顔をしかめながら不満げに文句を言い、不満そうにしている女性を見つめる。

 

「ふふっ、そうだったわね」

 

その女性、気品のある白金の髪に真紅の瞳、そしてその身の貴い身分を際立たせるような白と茶、そして黄金を基調としたドレスのような高貴な璃月服に身を包み、その腰に“岩の神の目”を身に着けている女性、“凝光”が優し気、そして面白い物でも見るかのような微笑みを浮かべていた。

 

「凝光さん。それでは私はこれにて失礼いたしますね」

 

「えぇ、ご苦労様だったわ。ありがとう、甘雨」

 

「甘雨、案内ありがとうな。助かった、礼を言う」

 

「はい、凝光さん、瞬詠さん。それでは失礼します」

 

凝光に一礼した甘雨は凝光と瞬詠からお礼の声を掛けられ、微笑んで一礼した後、そのまま去っていった。

 

 

 

「…さて改めて。ようこそ、群玉閣へ。歓迎するわ。テイワット各地でそれぞれの、様々な異名を持ち、一部の人達の間でそう呼ばれている貴方。例えば『天王』と呼ばれ、そしてまた『仕事人』とうたわれし者。…私は瞬詠を直接こうして、この群玉閣に招き入れる事が出来て嬉しいわ」

 

甘雨が立ち去った後、凝光はまるで旧友を招くかのように、穏やかな雰囲気を醸し出しながら、にこやかに微笑む。

 

「…ははっ、そうかい。あれは招き入れられたと言うよりかは、連行されたというのが正しくないか……?あとそれと___」

 

瞬詠は苦笑いしながら凝光の言葉に対して、ツッコミを入れようとし、そして一度言葉を切ってから___。

 

「___その自分のそれを口にするのは勘弁してくれ。その異名、それはもう捨てたようなもの、あの海に、全てを投げ捨ててきたようなものだからな…。それらの名前、それはもう既に無くしたようなものさ。だからかつての“俺”、それはもうここにはいない…。それに…」

 

「…それに?」

 

「その名前…。それは自分という人間が色んな意味で汚れきった人間、そう言う存在だと実感させられるものでもあるんだ…。良くも悪くも、自分の手が汚れきってしまっているんだなと…」

 

___そうして瞬詠はどこか遠くを見つめるように、自身の両手を見つめながら淡々と呟き、そしてそんな瞬詠を凝光はじっと見つめる。

 

「…ふふっ、まぁ、そう言えばそうだったわね」

 

そうして凝光はどこか懐かしむような、そして寂しい雰囲気を醸し出しながら微笑んだ。

 

「……」

 

そんな凝光を瞬詠は、じっと見つめる。

 

「……それで?そろそろ本題に入ったらどうだ?自分をこうしてこの群玉閣まで連れ込んだのは、まぁそれ相応の理由がある筈だろ?自分を南十字船隊、北斗の姐さんの死兆星号からわざわざ直接引き抜いたわけなんだから。だろ?」

 

瞬詠は凝光に悪態をつきながら鋭い眼光を凝光に向ける。そして凝光に話の続きを促した。

 

「…ふふっ、そうね。ただその前に、改めて自己紹介させてもらうわ___」

 

凝光はそう言うと、その場で優雅に一礼する。

 

「___私の名は“凝光”。岩王帝君に次いで璃月を統治している璃月七星の一員であり、その七星の中でも七星を筆頭している『天権』という座に座っているものよ。私達璃月七星のリーダー的な存在で、この群玉閣の主でもあるわ。これから瞬詠と私達は長い付き合いになると思うけど、改めてよろしく頼むわね」

 

凝光は微笑みを浮かべながら、自らの名前を瞬詠に名乗る。その姿と言うのは天権に相応しい威厳と貫禄を感じざるを得ず、普通の一般人であれば、思わずその場に跪きたくなるほどに。

 

「……」

 

そんな凝光の姿に瞬詠は一瞬、目を丸くし、そして軽く笑い___。

 

「……はぁ、そんなに長い付き合いになるのか?自分の経験則上、お前さんのようなお偉いさんと親密になりすぎると面倒な事しか起きないはずなんだが。ははっ、自分は面倒事が嫌いなんだ…。まぁ、勘弁してくれよ。正直、嫌な予感しかしないんだが?」

 

___頭を搔きながら、どこか面倒そうな表情で凝光に皮肉染みた言葉を返す。

 

「ふふふ、それは残念ね。私は貴方と長い付き合いになるという事実を述べているだけなのだけれど」

 

しかし凝光は全く気にした様子もなく微笑み続け、瞬詠にそう返す。そしてそれは凝光が瞬詠のその反応が返ってくるのが好ましいと感じているのが伝わってくるほどに。

 

そうして凝光はそんな瞬詠に対し、ニヤリと笑いかける。

 

 

瞬詠の行為と言うのは、完全なる凝光に対する不敬そのもの。

璃月においてはある意味では許されない行為かもしれない。

 

 

だが凝光には全く気にした様子はない。

 

まるでこれが平常運転と言わんばかりに、瞬詠のその反応を楽しげに見つめているのであった。

 

「…ま、長い付き合いになるかどうかはともかくとして、取り合えず聞こう。自分に何をさせるつもりなのかを。…んで?用件はなんなんだ?」

 

「用件?そんなものでは無いわよ?」

 

「…なに?」

 

「えぇ、よく聞いて頂戴。瞬詠、___」

 

凝光の言葉に瞬詠は眉を顰める。そして凝光は瞬詠に言い聞かせるかのように、そうして口を開く。

 

「____“船長さん”とのとある取引、それに従って、これからの貴方の人生、頂いたわ。これからは私の意の元で、動いてもらうわね。…これは、決定事項よ?」

 

「……は?」

 

瞬詠は凝光の言葉に思わず首を傾げるのであった。

 




なお暫くの間(あと2話くらい)、瞬詠は群玉閣内に滞在します。

それともうしばらくの間は更新が安定しそうです。
おそらく来月までの間は2週間に一回のペースで投稿出来そうです。

それでは、次回の投稿まで気長にお待ちください。
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