第5幕「雷霆の玉衡『壱』、“刻晴”過去【2節】」編スタートです。
なお最初から、結構かなりシリアスです。
_玉衡様
Side:刻晴
_あんなのが玉衡様とか、本当に大丈夫なのかよ?
_彼女…。ちょっと、頼りないわよね………
_あの年で七星八門の幹部補佐、もしくは月海亭の中堅辺りなら悪くないにしろ。七星はな…
_天権様達、七星達はいったい何を考えてあの女を玉衡にさせたんだよ……
_あの人も大変だな…。あんな無能の補佐をさせられる事になるなんてな?
_玉衡ならこういう状況判断も出来るようになってもらわないと困る…
_こうなったらいっその事、甘雨さんが玉衡を代行した方が良ような気がする…
_甘雨さんは先代玉衡の手腕を熟知しているようだから、あの人の方がまだ良いと思う
_少なくとも、今のあの女は玉衡の器なんかじゃないな。ただのお飾りだよ。彼女は
_彼女が玉衡の座に就くのは時期尚更だったな。必死に頑張っているのは分かるが
_就くのが早すぎて、あまりにも若すぎたよ。あの女。結果が伴わなければ認められんよ
_ある意味、彼女は可哀そうではあるわな。自分の身に合った所に就けてもらえずに…
_あの様子じゃ、このままいけばその内に同じ七星達からも見放されるだろうな
_遠くない内にあの女は玉衡の座から降ろされるだろうな。
_これだと噂は本当だな。あの女の次を巡ってあちこちで色々と動き始めている噂が…
_あの女は次への繋ぎだろうな。ま、あの女はそこまで期待できないから仕方ないな…
「…」
(はぁ、疲れたわね…)
月夜が照らす璃月港。月は空高くまで昇っており、夜は更に深まる。
そしてその璃月港の『玉京台』の一角にあるちょっとした小さな城とでも言えるような、とても大きくて、そしてそれでいて壮麗な璃月様式の建築物である『月海亭』の明かりが、まるで闇夜の璃月港を照らすかのように、その光を周囲に放っていた。
そしてその月海亭の上層にいるとある人物、刻晴はその特徴的な紫の髪を靡かせながら璃月港の夜景の町並みを見つめていた。
「…」
無言の刻晴は改めて実感する。
璃月七星、“玉衡”。その責務の重さを。そうしてその責務を全うし続けた先代玉衡である“刻晴の叔父”の偉大さを。
そうして刻晴はそのまま璃月港を静かに見つめる。
「…」
(叔父様……、貴方は本当に立派な方だったのね……)
刻晴はふとそんなことを思う。叔父の影を、刻晴は璃月港の夜景の中に見る。
そうして刻晴は、叔父の偉大さを改めて実感する。想像を絶するような玉衡としての責務を、叔父はしっかりと果たした。その事を考えると、刻晴は叔父に頭が上がらないのを感じる。
刻晴が何とかこの激務をこなすことができているのは、今までの学び得られた事や努力の積み重ねを総動員し、そうして自分なりに死に物狂いで頑張っているからだ。
だがそれ以上に、叔父が残してくれたかつての叔父の影響力や叔父と多く人達との繋がりとでも言うべき、叔父が残してくれた目に見えない大きな資産が大きな支えとなって、刻晴を支えてくれていたのも事実であった。
「…ふふっ」
刻晴は小さく笑みを浮かべる。
叔父の影響力のおかげもあってか、刻晴はその玉衡としての責務をなんとかこなすことができている。
また璃月七星のリーダーたる天権の采配、また叔父の遺言により一時的に刻晴の専属的な秘書になる事で優先的に自分の補佐をしてくれている“甘雨”の存在も大きい。
これにより刻晴はなんとか玉衡としての責務を果たしつつ、またそれとは別に叔父より引き継いだ不動産関連の事業も運営していき、そうして行く事で正式な璃月七星の一員。
璃月の各分野の業界を牽引する優秀で有能な人物の集まり、そして岩王帝君の神託や彼が下した国家方針に従って璃月七星の傘下にある総務司等の七星八門に指示を出したり指揮を執り行ったり、それを通じて璃月の民衆を導いていくという、岩王帝君に代わって璃月の統治を担う者達である璃月七星としての役目も果たし、刻晴はなんとか“玉衡”としての責務を果たしていた。
「…」
刻晴は身にかかる心地よい風を感じる。刻晴は一人、月が照らす夜の璃月港の夜景を見つめていた。
刻晴が璃月七星、“玉衡”の座に座ってから数週間が経った…。
初日は本当にただの事務作業等の類であり、そして各璃月七星や各七星八門の代表者達との顔合わせが中心であり、また甘雨より簡単な璃月七星の仕事に関する説明や璃月七星の基本的な情報のレクチャーを受け、刻晴は叔父から璃月七星を引き継ぎ、そして玉衡となった初日を無事に終えた。
だがその日の翌日から一気に激動の時を、激務の日々を送ることになった。
「…はぁ」
刻晴はため息を吐く。
それは刻晴の想像を絶するような日々。めぐるましく状況が変わっていく日々。
璃月七星の玉衡という立場が故、数多くの様々な事に関する決断を迫られることが多く、その決断を下すのに刻晴は日々奔走した。また璃月七星の玉衡という立場である故、刻晴は多くの権限を有し、そしてそれに付随する責任や義務をも背負うことになった。
「___本当にだらしなわね……」
刻晴は独りでに嘆く。
若すぎるが故の経験不足、また玉衡に求められる能力や知識がまだ完全に備わっているわけでもなく、そうして先代玉衡の叔父と比較すると思慮不足が目立つという点が各所から指摘され、また刻晴自身もその事を毎回痛感していた。
かつての叔父の直属の部下であった者達からは、刻晴は目の付けどころや仕事のセンス自体は目を見張らせる程のものであったが、逆に思慮深さ、そうして物事の大局観というものがまだ備わっておらず、また経験不足から来る判断力の低さや決断力のなさ、そして思慮深さのなさが、玉衡としての判断を誤らせかねない危うさを秘めている事を見抜き、その事が原因で刻晴を“玉衡”として信頼しきれないでいた。
またそれ以外の者達に関しては、彼らと叔父との関係も相まって叔父の孫娘と見ていたが為に刻晴を多少なり大目に見たり贔屓している者や、そんな彼女や彼らに対して冷めた目で見る者に分かれた。
そうしてその中でも叔父の部下というわけではなく、ただの配下であった者達に至っては実力不足の貴族の娘、血族の繋がりにより玉衡の座に座っただけの娘、そういった刻晴に対しての印象や評価が叔父の部下達の贔屓ぶりも相まって非常に悪かった。
その結果、その者達は刻晴に対し敵意を向けてきたり敵視をするほどではなかったものの、刻晴に対して真正面から苦言を呈したり、また叔父と刻晴の繋がりについて直接的には言及してこないものの、遠回しに叔父との関係や刻晴の血縁を根拠とした贔屓ぶりを指摘してきたり、そういう陰湿な事をしてきた。また一部の陰では、この調子ではいずれかそこまで遠くない内に刻晴は玉衡の座から降ろされると揶揄する者がいたとの話もあった。
「……まだ、まだまだよ」
(もっと頑張らないと……)
刻晴は拳を握りしめる。
初日から既に数週間という時間が経過した。
幸いにも刻晴が並外れた努力家である事か、または刻晴が負けず嫌いな性格が起因している事もあるが故か、刻晴は周囲の人間達が刻晴に対してそういう風に苦言を呈したり陰湿な事をしてきても、そんな周囲の人間達のことなど気にもとめず、日夜真面目に仕事に励み続け、数多くの経験を積み続けていた。
そして刻晴の周囲にいた一部の者達ではあるが、刻晴の実力と言うのは璃月七星という観点でみれば時期尚更で未熟であると言う評価は拭えないものの、それでも月海亭や璃月港の七星八門で働く者と言う観点でみれば、例えば七星八門の一般職員という枠組みであればもう既にこの時点で及第点はおろかその部門の主戦力の一人やエースと言えるほどの人物、もしくは一般職員の中の中心人物であったり幹部候補であると評していた。
そうしてまた、七星八門よりも上級職とも言えるかもしれない月海亭の職員であれば、ちょうど数年前辺りに入った月海亭に入った新人が完全に独り立ちをし、月海亭の中堅として公務に励んでいけるほどであると評価をしていた。
それ故にその者達、特に内心で刻晴の事を見下していた彼ら、そして彼女の秘めていた真価に気づき彼女に直接的に苦言を呈してきてしまった者達を中心とする彼らは___。
「___えぇ…!!」
(私はまだまだこれから……!!)
そうして自分自身を取り巻いているそんな裏事情の事は露知らず、刻晴は改めて決意を新たにする。
全ては亡き叔父のため、そして叔父と話し合って出てきた『立派な人』、即ち璃月の民達を代表する『璃月七星』、その七星の『玉衡』の座に座るのに相応しい人物。
それは今のような玉衡であるのにも関わらず、大勢の人物達から苦言や陰湿な事を言われ続けるような“中途半端な立場”ではなく、文句や苦言等を言わせないほどの誰もが認める程の人物。そうして今のような中途半端な存在ではなく、確実に璃月七星の玉衡として相応しい存在になってみせる、なってやる、と。
「…」
刻晴は空を見上げる。空には青白く光る満月が浮かんでいた。
「…ふふっ」
そして刻晴はその満月に笑みを、どこか好戦的で不敵とも言えるような笑みを一瞬浮かべる。その笑みには一切の恐れなどなく、ただ前へ前へと突き進んでいくような自信や希望に溢れており、むしろ自分に襲い掛かってくる困難や試練に対して、それに対して闘争心や気概を抱いているような様子であった。
「___あ、玉衡様」
「___あら?」
(この声は…)
その時、後ろから刻晴に声を呼ぶ声が聞こえてくる。
「___甘雨じゃないの」
刻晴が振り返るとそこに居たのは甘雨であり、刻晴の専属秘書である彼女であった。
「お疲れ様です、玉衡様」
甘雨は刻晴に恭しく一礼をする。
「お疲れ様、甘雨。今日もこんな夜遅くまで仕事かしら?」
刻晴は甘雨に労いの言葉を投げかける。
「えぇ、そうですね。あとは個人的な勉強ですね」
「成程ね…。まぁ勉強熱心なのは良いことだけど、あまり夜更かしし過ぎてはダメよ?睡眠不足で仕事が捗らなくなったりしたら大変でしょ?」
「ふふっ…。それは玉衡様も人の事を言えないような気がします」
「失礼ね!わ、私はきちんと寝ているわよ!!」
刻晴は甘雨の言葉に思わず反論する。そしてそんな刻晴の様子を甘雨は微笑ましそうに眺めていた。
「…となり、失礼してもよろしいでしょうか?玉衡様」
甘雨は刻晴にそう問いかける。
「えぇ、もちろん。いいわよ、甘雨」
刻晴がそう言うと甘雨は刻晴の隣に立つ。
そうして二人は共に璃月港の夜景を眺める。
「いつ見ても綺麗ね」
刻晴は璃月港の街並みを見下ろしながら、そう呟く。
「そうですね、“玉衡様”」
甘雨も刻晴の言葉に同調する。
「…」
(___“玉衡様”…ね)
刻晴は甘雨に改めて“玉衡様”と言われると、少し微妙そうな表情を浮かべる。
「……どうしましたか?玉衡様?」
そして刻晴のその微妙な表情に気づいた甘雨は、刻晴にそう問いかける。
「いえ……なんでもないわ」
「……そうですか?」
「……」
「…ふふっ、どうしたのですか、玉衡様?」
そして今度は甘雨が苦笑する番であった。
「…」
(…はぁ)
そうして刻晴は何とも言えないような表情を浮かべる。
「…ね、ねぇ、甘雨。ちょっといいかしら?」
すると刻晴は甘雨に呼びかけた。
「はい、なんでしょうか?」
甘雨は刻晴に対して恭しく一礼をしながら返答する。
「その…甘雨……さ。___」
刻晴は少し言いずらそうな様子で甘雨に話しかけるが、そのまま意を決したように…、
「___わ、私のこと“玉衡様”って呼ぶのやめてくれない?」
刻晴はそう甘雨に話しかけたのであった。
なお前回予告していた当初の予定では、玉衡就任後から現在に至る(第3幕:「千岩演習場、演習強制参加」編)までを、大雑把にでも描写して至るまでを描写して行こうと考えていたのですが、これを大雑把とはいえ「玉衡就任直後(今回と次回)」、「玉衡就任後一定期間経過Ⅰ(次々回以降)」、「玉衡就任後一定期間経過Ⅱ」、「刻晴の神の目入手エピソード」、「刻晴の神の目入手後」、「本編1幕・2幕」、「本編3幕」と言った流れで進めて行く予定で進行させていこうかと思っていたのですが、それをそのまま行ってしまうと今回の第5幕はかなり長大な物となってしまって、それに伴ってまた本編も長い間進まなくなってしまいそうだと判断しました。
そのため、それを避ける為に今回のこの【雷霆の玉衡『壱』】においては、上記の「玉衡就任直後」から「玉衡就任後一定期間経過Ⅱ(※正確には、本編で語られている“一年半前”関連で璃月港で起きていた出来事)」までを中心に行い、そこから「刻晴の神の目入手エピソード」・「刻晴の神の目入手後」は一気に飛ばしていきながら、軽く「本編1幕・2幕」においての刻晴視点、そうして一気に「本編3幕」まで進めていければと思います。
(また実は、作者個人的に雷の神の目の考察が思った以上に難しく、難航しているというのもあります…。少なくとも今はクロリンデでの神の目の入手のエピソードを確認したうえで、改めて各雷元素のキャラの特徴の羅列や整理を行いたいです…。)
それでは次回の投稿まで、また今しばらくお待ちください。