想像以上に長くなってしまったので前半、そして後半と分けて投稿します。
今回はその前半で、結構長いです。
なお今回は“刻晴”視点、そして“甘雨”視点の2人視点です。
Side:刻晴
「えっ…?と、言いますと……?」
甘雨は困惑しながら刻晴にそう答える。
「だから……その、本当にそのままの通り、玉衡様と呼ぶのをやめて欲しいなって……」
刻晴は若干言いづらそうに甘雨にそう言う。
「……それはどういう意味でしょうか?玉衡様」
「だ、だからその……」
甘雨からの質問に刻晴は口ごもる。だが少し意を決したように___
「__だ!だからぁ!!…私は、今の私には、玉衡様と呼ばれる資格や立場なんて無いの!!特に甘雨、甘雨に玉衡様と言われるのは嫌なの!!」
刻晴は意を決したように甘雨にそう伝える。
「えっ?えぇ…、で、ですが…」
そして刻晴のその言葉に甘雨は困惑した。
「ほら、あのさ…。私って……その、まだまだ未熟でしょ?」
刻晴は困ったような表情で甘雨にそう尋ねる。
「えっ?あっ…いや、でも……」
すると甘雨も刻晴の言葉に困惑した表情を浮かべる。
「……はぁ、ごめん、甘雨。いきなり滅茶苦茶な事を言いだして…。でもね、___」
刻晴も困惑したかのような表情を浮かべる。だが次の瞬間、意を決したように甘雨に自身の想いを伝え始める。
「___私にとってのその“玉衡様”という言葉と言うのは、“私の叔父様”の事、そしてそれは“とても立派な方”である事を意味するの」
刻晴は甘雨にそう話す。それは切実な想いであり、真剣な言葉であった。
「今の私、私はそんな叔父様のような立派な人になりたいって思って、日々努力をしているし、私自身の目標としても叔父様のような立派な人になりたいと思っているの」
刻晴は真剣な眼差しで甘雨にそう言う。
「そ、そうだったのですか…」
甘雨は刻晴の心の中に秘めていた想いを知り、少々驚いたような様子を見せる。
「だけど今の私には、そんな“玉衡様”と呼ばれるような資格も立場もない…。むしろ今の私には、そんな資格や立場があってはいけない事なの。正直、今の私が“玉衡様”と呼ばれるのは、何だかもの凄い違和感を感じるのよ……」
刻晴はどこか苦しそうに甘雨にそう話す。
「“刻晴さん”…」
甘雨は刻晴のその言葉を聞き、どこか悲しそうな表情を浮かべる。
「…だからこそ私は……もっと努力しないといけないの。今の私なんて、まだまだ通過点よ。少なくともまずは、私に苦言や嫌味を言ってきた人達全員を私の実力で納得させる事ができるようなくらいにはならないといけない。そして、___」
刻晴は真剣な眼差しでそう甘雨に話し、そして甘雨の目を見つめる。
「___甘雨、私は甘雨を超えるような人になりたい。甘雨のような“立派な人”になりたいのよ」
刻晴は真剣な顔で甘雨にそう話す。
「え、えぇっ…!?わ、私を超える……?私のような人になりたい……?」
すると今度は逆に困惑の表情を浮かべながら刻晴に尋ねる甘雨。だがそれでも刻晴は真剣な眼差しで真っ直ぐと甘雨を見つめていた。
「えぇ、そう。甘雨、君のような人物にね…」
「な、なんで、いきなり、そうなるんですか…?」
「そうね…」
刻晴は軽く考え込む仕草をする。
「それはきっと…、私が甘雨にどこか“憧れ”を抱いてしまったから……、かもしれないからだわ」
刻晴は少し微笑みながらそう答える。
「わ、私に……ですか……?」
甘雨は思わずそう呟く。
「えぇ、そうよ甘雨。…甘雨とはもうこうして数週間の付き合いになるわけだけど。今まで甘雨が私のサポートをしてくれたことを通じて、___」
刻晴は甘雨にそう言いながら頷き、そうして言葉を紡いでいく。
「___なんとなく私が目指すべき方向、目標というもののが分かったような気がするの。そしてその目指すべき方向や目標というのは、不甲斐ない私の代わりに甘雨が見せてくれたその瞬間その瞬間に行う判断や決断、それに甘雨自身の自らの仕事を無駄なく効率的に裁いていく姿、それらとても素晴らしいものが目指すべきものと思ったの」
刻晴は甘雨に対してそう答える。
「そ、そこまで見ていたんですか…?い、いえ、そ、そんな事ないですよ……」
そうして甘雨は刻晴から目線を逸らし、少し照れるようにそう話す。
「いや、そんな事あるのよ、甘雨。…物事を客観的かつ正確に判断して処理を行いながら迅速かつ的確に行動に移して、それでいてその行動は無駄なく効率的に行われていて、そうして先の事先の事を考えて、先手先手を打ちながら仕事を推し進めていく姿……。本当に凄い事だと思うわ」
刻晴は甘雨のことをベタ褒めする。
「そ、そんな大層な事じゃありませんよ……」
すると今度は甘雨が照れくさそうに刻晴から目線を逸らしてそう話す。
「いいえ、大層な事あるわよ」
すると刻晴は甘雨の目をまっすぐ見つめながらハッキリと断言する。
「だから私は甘雨を超えるような立派な人になりたい。今の私に足りないもの。それは判断力や決断力だけじゃない。効果や効率という概念、そして上に立つ者としての推進力という面、それらがまだまだ私にはそれらが全然足りていない。だからこそ私はそれを、甘雨からそれを学びたいの」
刻晴は真剣な眼差しで甘雨にそう話す。その目は本気であり、本気の度合いがうかがい知れる程であった。
「___そしていつか、私は甘雨を超える事で、ようやく“玉衡”という肩書がふさわしいような人になれたと私自身も思えるようになると思うの」
刻晴は本気の眼差しで甘雨にそう言う。
「だから甘雨、私は貴女を超えたい。いえ、超えてみせるわ…。それに、いつまでも甘雨に助けてもらってばかりじゃ、私は嫌だしね」
「…ふふっ」
甘雨は刻晴のその言葉を聞き、思わず笑みを溢す。
「___刻晴さんの、貴女のそういう所、それは既にもう歴代玉衡、いえもしかしたら歴代璃月七星の中でも随一かもしれませんね」
そうして甘雨はそう静かに呟くと、少しだけ面白おかしそうかつ、どこか嬉しそうな表情を浮かべる。
「…?甘雨?」
刻晴はその甘雨の様子が気になり、思わず声をかける。
「ふふっ」
すると甘雨は軽く微笑みながら刻晴にこう話す。
「いえ、なんでもありません……。ただ……」
「ただ……?」
「……ただ、貴女は十分以上に頑張っていますよ」
既に今の刻晴は、十分以上に頑張っている。
それは事実だし、実際に月海亭の中においてもただ表に出てはないだけで、刻晴は自身に降りかかってくる苦言や陰湿な小言、それに嫌味や皮肉を甘んじて受け入れながら、それでもそれらを全てものともせずに次々とやってくる困難に対して勇猛果敢に立ち向かっている。
そしてその姿に当初の月海亭の内情と言うのは、刻晴に対して大なり小なりの悪感情を抱いていたのが主流であったのだが、徐々にではあるが人々のその考えや刻晴に対する感情、そして何より刻晴本人の日々の努力と誠意が伝わり始めていったのか、次第に月海亭の中の半数以上の者達からの少しずつではあるが、確かに好感度が上がり始めている状態であったのだ。
「え…?そう…かしら……?」
甘雨の言葉に少し照れくさそうな表情を浮かべる刻晴。
「えぇ、そうですよ」
甘雨は微笑みながらそう言う。
「……そっか……。それなら良いんだけど……」
そして刻晴は恥ずかしそうに甘雨から目線を逸らす。
「…ふふっ、刻晴さん。貴女は本当に面白い人ですね?」
「…うるさいわね、甘雨。…やっぱり、さっきのは無し!玉衡様と呼びなさい!!そして私を崇めなさい!!」
「えぇ~、刻晴さん。さっき、自分で私に『玉衡様と呼ぶのをやめて』って言ってませんでしたか?」
「あぁもう!!さっき私が言った事は忘れなさい!!甘雨!!」
刻晴は顔を少し赤くしながら甘雨にそう言い放つ。
「ふふっ、分かりましたよ。……それじゃあ刻晴さん」
「……何?甘雨?」
刻晴にそう聞かれると甘雨は満面の笑みを浮かべる。
「___これからもよろしくお願いしますね!刻晴さん!!」
そうして甘雨のその言葉に、刻晴も笑みを浮かべる。
「___ふふっ。えぇ、こちらこそよろしくお願いするわ!甘雨!!」
そうして二人は互いに笑い合う。
そうして二人は再び璃月港の夜景、そして月夜の大空へと視線を移す。
「…」
「…」
___璃月港の空は満点の星々が瞬くそんな夜空であり、その光景と言うのはいつか見た“海灯祭”で数多くの提灯が夜空に放たれ、そうしてその夜空へと放たれられた暖かい提灯の光が璃月港の夜空を彩っている光景にどこか似ているようにも思えたのであった。
「ふふっ」
「ふふふっ……」
そして二人はお互いに顔を見合わせると、お互いに対して親愛の笑みを向けあったのであった。
Side:甘雨
「……ふふっ」
(刻晴さんとのお話が楽しすぎて、思った以上に時間が経過してしまいました……)
月海亭の廊下を歩く甘雨は少し歩くペースを速める。そして刻晴との会話を思い出してしまったのか、ほんの少し笑みを溢す。
璃月港の夜景、そして月夜の大空を見つめていた甘雨と刻晴は、あの後ももう少しだけ刻晴と会話をして刻晴との別れを済ませた後、甘雨は自身のやるべきことを終わらせるために一人月海亭の廊下を歩いていた。
「___良かったです。刻晴さん、もしかしたら、この現状に嫌気が差してしまったのかもしれないと思いましたが……」
甘雨はポツリとそう呟く。そして続けてこう話す。
「良かったです。刻晴さんならきっと大丈夫です。貴女が“玉衡”という道を歩み続ける限り、貴女は必ずや“立派な人”へと成長していきます」
甘雨は少し嬉しそうにそう呟く。
そしてその時であった。
「___ねぇ、あの玉衡の座に座っているあの女。あの女はどれくらい持つかしら?」
「___さぁな、だいたい半年くらいじゃないか?」
「___半年ぃ?長すぎないか?俺はあと二ヵ月、いや一ヵ月だな」
「___おいおい、いくら何でも失礼過ぎるだろ。玉衡様、刻晴様によ…?」
「笑いを堪えながら言っても説得力無いんじゃない?」
「はんっ、まぁ、これはチャンスだ。あの女、刻晴の次は誰が玉衡になるのかをじっくりと見極めて、その者に取り入る。そうすれば、俺の評価が上がるってもんよ」
「へぇ、もう動いてんのか?次はいったい、誰になるんだろうな?」
「まぁな?んで?お前らは、次の玉衡は誰が選ばれると思う?」
「ふふっ、そうね、次は___」
「あぁ、そうだな、次の玉衡は___」
「悩むなぁ。うーん、おそらく___」
「___~~~っぅ!?」
甘雨は立ち止まる。そして曲がり角からそんな会話をする男女の笑い声が耳に入る。
甘雨は思わず顔をしかめ、そうして不快気に顔をゆがめる。
「___成程ね。それじゃあ、そろそろ帰りましょうか?」
「___そうだな。悪いな、夜遅くまで付き合ってもらっちゃって」
「___別に構わんぞ。どのみち今日は忙しくて、夜遅くまで残る予定をしていたしな」
「___あぁ、そうだな。まったく、玉衡様も余計な口出ししてくるなって言うんだ。仕事が増えるだろうが。本当に使えないお嬢様だなぁ」
男女の笑い声が響き渡る。そうして徐々に、少しずつその声が遠ざかって行く。
「___っぅ!」
甘雨はその場で静かに歯噛みをする。
「本当に…、嫌な気分です……!!」
そして甘雨は再び歩き出すと、自身の目指すべき場所へと向かいだす。
「………」
(刻晴さんは大丈夫なはずです……。しかし…)
甘雨は自身の目的である場所へと歩き続ける。
そしてまたもその時であった。
「___はっ、酷い言われようだよな。なぁ、甘雨さん?」
「___……」
さっきの男女が居た場所を通り抜け、そして数歩歩いた先に合った十字路を真っすぐ直進しようとした時、甘雨に向けてそんな声がかけられる。
「___っぅ!?」
甘雨は思わず声のした方を振り向くと、十字路の曲がり角のそこの壁に寄りかかるように腕を組んでいた一人の職員の男とその男の隣で無言でおどおどとした様子で立っているもう一人の男が居た。
「…いったい、なんの用でしょうか、お二人さん?いえ___」
「ひっ…!?」
甘雨はいつものような笑みを浮かべる。だがしかし、今の甘雨は顔こそ笑みを取り繕っているものの、その目はまるで笑っておらず、むしろ不機嫌な様子を隠す気も更々無いという状態であり、そんな甘雨の鋭い眼光を向けられながら話しかけられたおどおどとした様子を見せていた男は、甘雨に対して思わず怯んだ反応を見せる。
「___どうしましたか、“反刻晴派”のお二人さん?何かご用でしょうか?」
甘雨は笑顔を浮かべたまま、されどどこか冷たい雰囲気を纏いながら二人に対してそう問いかける。
「い、いや……えっと……」
おどおどした様子でいた男が口を開く。
「はい、なんでしょうか?」
「えっと、実は……___」
「___おい、俺が言う」
「___えっ……」
そんな気弱そうな男の横に立っているもう一人の男が軽く肘で小突きつつ一歩前に出て、その男の代わりに話し始める。
「なぁ、甘雨さん。丁度いいところに来てくれたな」
「丁度いいところですか…。何のご用ですか……?」
甘雨は笑顔でそう答えるが、その目はどこか笑っておらず冷たい雰囲気を纏いながらその男に返答する。
「あぁ、そうだ。甘雨さんはよくあの女、刻晴と付きっきりだからあいつが今どこにいるのか分かるだろう?…あの女、今どこだ?あいつに言いたい事、そして聞きたい事がある」
「言いたい事、聞きたい事…?なんですか、それは……?」
甘雨はその男の言葉に対してそう聞き返し、そうして更なる警戒をするかのように目を細める。
「はんっ、そんな目で見るなって…」
男は皮肉気な笑みを浮かべながら甘雨に対してそう言う。
「………」
甘雨は笑みを絶やさず、そして警戒した様子を隠すことなくその男を静かに見据える。
目の前のこの男。
この男は刻晴に何度も苦言や文句を隠すことなく堂々と言い放ち、そうして『こんな女を玉衡に就任させるなんて、七星達の目が節穴にでもなったのか?それともまさかだとは思うがあんたは先代玉衡、そして七星達の何かしらの弱みを握った傾国の女か何かか?』などと、刻晴に対して散々な物言いで罵詈雑言を吐き捨てた男であったからだ。
「…ぁ、……あの………」
そしてこの男の隣でおどおどしている男はそんな男の取り巻きであり、彼と行動を共にしているという事は即ち、この者も“反刻晴派”に属する者の一人という事である。
「あぁ、言いたい事、聞きたい事。それはだな。まずはあの女、刻晴に対し…、いや___」
男はわざとらしく間を置く。そして____
「___“玉衡様”に謝罪しようと思ってな」
「___えっ?」
甘雨はそんな間の抜けた声を上げ、そうして一瞬呆けた様子を見せる。
「そんな、驚く事か…?ただ、どうやら自分の目の方が節穴だってことに、月海亭、それに七星八門での刻晴様の立ち振る舞いから分からされた。だから、あの刻晴様に対して暴言を吐いた事を謝罪しようと思っただけだ……それだけだ」
「そ、そうですか……」
甘雨はそう呟きながら、先ほどまでの険しい雰囲気が少し和らぐ。
「あぁ、そうだ。甘雨さんは常に刻晴様の近くに居たんだろ?なら、あの人が日の当たる所、そして日の当たらない所で、あの人は何をしてきたのか分かるだろう?」
「えっ?ま、待ってください。…き、基本的にはそうですけど、ただ常日頃というわけでは無いです。他の七星達の状況によっては、私は他の七星様達の補佐も行わないといけないので、常に刻晴さんの傍にいるという訳にはいきません……」
甘雨はどこか歯切れが悪そうな様子でそう答える。
「そうか…。甘雨さんは玉衡の専属的な秘書ではあるが、その実態はただ優先的に玉衡の補佐を割り振られている秘書という事か……。それならあの人、刻晴様が『する事が何もなくなった時』に何をしているのかは知らないわけだな?」
その男は甘雨に対してそう聞く。
「えっ…、刻晴さんが『する事が何もなくなった時』ですか……?」
甘雨はその男の言葉に完全に困ったような表情を浮かべる。
刻晴が『する事が何もなくなった時』、即ち刻晴の身の回りの仕事や政務が無い時、つまり刻晴が『何にも縛られず自由になった時』。
その時の甘雨はよく、チャンスとばかりに他の七星達の補佐やサポートのため短時間ではあるが、確かに刻晴の元から離れていた。それ故、甘雨はそのような機会の際に刻晴がどのようにして過ごしているのかを知らなかった。
「えっと…、分かりません……」
甘雨は困ったような様子でそう返答する。
「そうか、やっぱり甘雨さんは知らなかったか…」
男はどこか含み笑いをしながらそう答える。
「えぇ、……はい」
甘雨は何処か煮え切らないといった様子で答える。
「……」
(刻晴さんはいったい、その時はなにをしているのでしょうか……?)
そんな疑問が甘雨の中で膨れ上がる。考えても考えても、その疑問の答えは出る事が無かった。
「甘雨さん。実はな?玉衡様、刻晴様は何もする事が何もなくなった時はな。刻晴様は独りでよく、月海亭や七星八門の総務司を始めとする___」
「___っ!?」
甘雨は男の言葉に思わず目を見開いていく。
「___という事だ」
「な、成る程……」
(刻晴さん、私が見ていない所でも本当に、そこまで“頑張っていた”のですね…)
甘雨は男の説明に思わず感心し、感銘したかのようにそう呟く。
「___まったく、あの人は頼りないし、指示は滅茶苦茶だし、時には周りに混乱すらをも引き起こす。嵐のようにとんでもなく無茶苦茶な女だ」
「そ、そうですね……」
甘雨は苦笑いをする。
「あぁ、そうだ。…だが色んな所、あらゆる所で様々な姿を見せる彼女を見てきた事で、ようやくあの女、“今代玉衡”様の本質が分かった気がする」
「……」
甘雨は男の言葉を黙って聞く。
「ようやく理解できたんだ。天権様達、七星達があの方、刻晴様の何に見出したのかをな。あの人は確かにまだまだ未熟で経験も知識も足りていないが、それでもあの人は自分の信念をしっかりと持ち、そしてその上であそこまでの尋常では無い程の行動力を発揮し続けている。この数週間の間、絶やす事が全く無く。むしろ勢いが増しているんじゃないかと思うほどに…」
「えぇ、そうですね……」
甘雨は相槌を打つ。
「今のその行動力は知識、そして経験不足のせいであまりにも危なっかしくて、時には周りを混乱させる事もある。だがいずれ、いずれかは必ず、今のあの人の最大の弱点である絶対的な経験不足が解消される。そしてその最大の弱点が解消されたとしたら…」
「解消されたとしたら…?」
甘雨は男に、そう聞き返す。
「あぁ、そうなった場合。あの人は」
男は甘雨に対してこう答える。
「“化ける”、だろうな。しかも大きく…な。だったら___」
男はそう言うと目を瞑り、そうして目を見開く。
「___俺はあの人を認める。あの人、あの御方は璃月七星、“玉衡様”だ」
男は確信したかのように大きく、そして力強く頷く。
「___っ!?」
(___っぅ!!…つ、遂にこの日、この時が……訪れたのですね………)
甘雨は男の言葉に言葉を失う。そしてほんの少しだけ涙を浮かべそうになってしまう。
今、この瞬間。
月海亭や七星八門の有力者や実力者、役職者達の大半以上があまりにもつたない様しか見せなかった“刻晴”の事を忌み嫌い、彼女から離れて彼女の事を見捨て、そうして“反刻晴派”に回ってしまっていた状況下。
ある意味で真の意味での刻晴の味方は、ほぼ常に傍らにいた甘雨のみという、刻晴の味方がたったの一人しかいないという、とても深く、果てしない孤独の中。
そうして元々は“反刻晴派”に属していた人物ではあるが、それはまるで今のこの現状に反旗を翻すかのように。
甘雨、またそうして先代玉衡であった刻晴の叔父、彼の直属の部下達の彼らしかいなかった刻晴の味方に対し。
「…っ、っぅ……!!」
(___刻晴さん、ようやく報われましたね…。本当に良かったです……!!)
今こうして初めて“刻晴”を“玉衡”として認め、そして新たに刻晴の味方となる者、その最初の一人目が甘雨の目の前に現れたのだ。
「それに甘雨さん。俺が思うに___」
そうしてその男は甘雨に言葉を紡ぎ続けたのであった。
前半はここまでです。
それでは後半(主に“男達の聞きたい事”とそれに関するシーン)の投稿まで今しばらくお待ちください。