名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

今回も前回の続きです。

ただ、今回はあまりにも長くなりすぎたため分割しています。

なお今回は刻晴視点のシーン以外にも、別キャラ達(むしろ、“彼女達”がメイン)のシーンもあります。


_それでは“あの噂”も本当という事か…?

Side:刻晴

 

「えぇ、そう。特に一度決めたら、最後の最後まで意地でも貫き通そうとする所なんか、本当にそっくりよ。それに芯が強いという所もね。あはは、本当に懐かしいわね」

 

夜蘭はそう言うと、懐かしそうに微笑んで刻晴を見つめる。

 

「ふふっ、あの男に、この孫娘があり、とでも言った方が良いかしら?」

 

夜蘭は優し気な表情で、刻晴にそう語る。

 

「っ……!!」

 

刻晴は夜蘭の言葉に思わず息を吞みながら、夜蘭のその微笑みをただ見つめる。

 

「……ふふっ、夜蘭さんの言う通り、本当に“刻晴”さん‘先代玉衡’、特にまだまだ若かりし頃であった‘あの御方’は良く似ていますよ」

 

甘雨も夜蘭のその言葉に同意するかのように、刻晴に向かってそう語りかける。

 

「うるさいわよ、甘雨…。からかってくるんじゃないわよ……」

 

「ふふっ、刻晴さん。今のは本当にからかったつもりはないんですけど…」

 

刻晴は甘雨に向かってどこか気恥ずかしそうにそう呟き、そうして甘雨は甘雨でそんな刻晴の様子に苦笑いを浮かべる。

 

「ふふっ」

 

そんな二人のやり取りを夜蘭は静かに微笑みながら見つめる。

 

 

 

「___そう言えば、刻晴と甘雨。二人はこれからどうするつもりなの?これから二人でどこかに行くのかしら?」

 

そうして夜蘭は刻晴と甘雨に向かって問いかける。

 

「いいえ、私は屋敷に戻るわ。屋敷でやりたい事もあるし。甘雨とは偶々方向が同じだっただけ。それで折角だし、一緒に歩いているというわけよ」

 

「はい、刻晴さんの言う通りですね。夜蘭さん。元々私は『チ虎岩地区』にいる“私の後輩”の事務所に顔でも出そうかと思っていたのですが、偶然にも方向が同じだったのです。なので折角ですので、刻晴さんを自身の屋敷までお見送りでもしようかと思い、こうして同行していました」

 

刻晴と甘雨は夜蘭にそのように返答する。

 

「へぇ、刻晴は自分の屋敷、甘雨はチ虎岩地区に向かうのね…?奇遇ね、実は私は『緋雲の丘地区』に向かおうと思っていたの、甘雨のチ虎岩地区の道中にあるとはいえ、まさか全員方向が同じだったとわね」

 

夜蘭は刻晴と甘雨の返答を聞き、少し驚いたかのように小さく頷き、そうして刻晴と甘雨に向かってそう語る。

 

「夜蘭さんもそうだったんですか?」

 

「えぇ、そうよ。…せっかくだし、同行してもいいかしら?甘雨、それに刻晴?」

 

夜蘭は甘雨と刻晴にそう問いかける。

 

「あら、別に私は構わないわ」

 

「えぇ、私も構いませんよ」

 

「ありがとう、二人共。助かるわ。…ならお礼に、刻晴の屋敷に辿り着くまでに先代玉衡の話でもしてあげようかしら?どう、刻晴?」

 

夜蘭は二人にお礼を言うと、夜蘭を加えた三人は玉京台の夜道を歩き始め、そうして歩き始めたその時に面白い事でも思いついたかのような表情を浮かべながら、刻晴と甘雨にそう語る。

 

「えっ…!?叔父様の……!?」

 

そうして刻晴は夜蘭のその提案に、驚きと興味を示した。

 

「えぇ、そう。私と彼、私達はなんだかんだそれなりに長い付き合いだったからね。色んな話があるのよ?ねぇ、甘雨?」

 

「そうですね、夜蘭さん。生前の先代玉衡様と夜蘭さんが総務司や月海亭で楽しそうにお話しされていたのを何度も見たのを覚えています」

 

甘雨は夜蘭の話を肯定するように頷く。

 

「叔父様の、色んなお話……?」

 

そうして刻晴は夜蘭のその言葉に思わずそう呟く。

 

「ふふっ、えぇ」

 

そして夜蘭は小さく微笑む。

 

「……そうね、ならお願いするわ」

 

刻晴は夜蘭に向かってそう返答すると、夜蘭は頷く。

 

「えぇ、分かったわ。それじゃあ___」

 

そうして夜蘭は歩きながら刻晴に叔父の先代玉衡の話をし始めていき、様々な思い出を刻晴と甘雨に語って聞かせていった。

 

 

そしてそれに刻晴と甘雨は興味深げ、またそうして夜蘭の話を時折相槌を打ちながら、刻晴の屋敷に辿り着くまで興味津々と言った様子で聞き続けていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

Side:甘雨

 

「___ふふっ、まさか夜蘭さんに会えるなんて思いもしませんでした。本当に驚きです…」

 

一人、夜の璃月港の喧騒の道を歩く甘雨。璃月港の夜空に上がった白い月光に照らされながら、甘雨はそう呟く。

 

あの後甘雨達は、刻晴を彼女の屋敷まで送り届けて彼女と別れた後、夜蘭と甘雨は璃月港の街中をまた歩くことになっていき、そうして『緋雲の丘地区』で夜蘭と別れると甘雨は、一人で璃月港の『チ虎岩地区』にある“彼女の後輩”の事務所に向かっていた。

 

 

 

「…さてと」

 

甘雨は足を止める。甘雨の目的地である“彼女の後輩”の事務所、『“煙緋”法律事務所』と書かれた看板が掛けられた事務所の前に甘雨は辿り着く。

 

 

 

 

 

「お邪魔します、“煙緋”さん。今、大丈夫ですか?」

 

甘雨は扉をノックすると、そう扉の向こうに声をかける。

 

「___あっ、甘雨先輩!!待っててください!!今開けます!!」

 

そして数秒後、事務所の扉越しからそんな声が聞こえ、事務所の扉がゆっくりと開かれる。

 

「甘雨先輩…!お久しぶりです…!!まさか、こんな時間に来て頂けるなんて思ってもいなかったですね……!!」

 

甘雨を出迎えてくれたのは“煙緋”と呼ばれた人物。翡翠の瞳に、薄めの朱の髪。そして金の装飾が施された赤い帽子に、璃月の薄着を身に纏った活発的な雰囲気を放ちながら、そうして腰に“炎の神の目”を身に着けている彼女、煙緋は驚いた表情を浮かべながら甘雨に嬉しそうな微笑みを向ける。

 

「えぇ、お久しぶりです煙緋さん。最近、煙緋さんはどうしているのかなと気になりまして。それで貴女に会いに来ました。…勿論、それとは別に、煙緋さんにお願いした“例の件”に関する近況についても聞きに来たのですが……」

 

甘雨は煙緋に向かってそう話す。

 

「そうでしたか。ありがとうございます、甘雨先輩。相変わらず仕事の方は毎日大変ですけど、楽しくやってますね。…そして先輩からお願いされた“頼まれ事”の件ですが、まぁまぁ進捗はありました。正直、予想通り…。いえ、私の予想以上でした……。まぁ、その話については、ここで立ち話できるような内容ではないので、一先ずは中に入ってください。先輩」

 

煙緋はそう言うと事務所の扉を開き、そのまま甘雨を自身の事務所の中に入れる。

 

「はい、ありがとうございます。お邪魔します…」

 

そうして煙緋と甘雨は事務所の中に入り、煙緋と甘雨はそれぞれ相対する形で事務所の椅子に座る。

 

 

 

 

 

 

 

「___これが先輩の“頼まれ事”“今現在の七星八門や月海亭の内情、そして‘今代玉衡’、それらに対する璃月港の各商会の会長達を始めとする民間の有力者達の各々の見解や態度等に関する情報収集、並びに彼らの間で流れている数々の噂の実態に関する調査結果”です。私に法律相談の依頼のあった商会やその関係者達と案件を終えた後にこれに関する雑談をしてきましたが…。本当にどの商会の会長達や有力者達は、この話題やこれに関する噂で持ちきりでした」

 

「やはりですか、煙緋さん…」

 

「はい、甘雨先輩。そしてどの商会の会長達や有力者達もこの事に注視、そしてこの現状に多かれ少なかれ不安視しているようでしたね」

 

「やはり、そうなりますよね…。それでは閲覧させていただきますね、煙緋さん」

 

「はい、どうぞ。先輩、中身の確認をお願いします」

 

「はい、ありがとうございます。煙緋さん…」

 

煙緋は机の上に甘雨から個人的に頼まれていた“甘雨の頼まれ事に関する資料”を広げ、そしてそれを甘雨は一礼をした後にじっくりとそれらを眺める。

 

「…成程、そうですか」

 

そしてそれらを眺めながら甘雨は納得したかのように頷く。

 

「先輩に頼まれ、さり気なくこれの事に関する情報収集を行ってきましたが、正直耳を疑うようなことばかりでした。例えば『認刻晴派と反刻晴派による七星八門や月海亭内の勢力争いが熾烈、そして苛烈になり始めた影響で七星八門の業務や公務に少しずつ支障が出始めている』。___」

 

煙緋は真剣な表情を浮かべながら、その甘雨の前に置いたその資料を見つめる。

 

「___それにまた『認刻晴派が主流派を占める‘和記庁’と、反刻晴派が主流派を占めている“輝山庁”間を中心とする各庁の間で、まるで冷戦状態とも言えるような‘認刻晴派の職員達’と“反刻晴派の職員達”の睨み合いが水面下で行われており、それが月海亭や七星八門という政府機関はおろか、まさかの璃月の軍隊である千岩軍にまでも波及し‘認刻晴派の部隊’と“反刻晴派の部隊”と分裂、これらが拡大してしまっている』…。このような滅茶苦茶な話やこんな信じられないような噂の数々が出てくるとは思いもしなかったですよ、先輩…。甘雨先輩。月海亭や七星八門、そうしてこの璃月、一体全体今の璃月はどういう状況に陥ってしまっているんですか……」

 

そして煙緋は眉を潜めながら、甘雨に向かってそう語る。

 

 

甘雨が煙緋に行った個人的な“頼まれ事”

 

 

その内容というのは、『七星八門や月海亭の現状に対する璃月港の有力者達の見解、またそれに伴って彼らの間で流れている噂、それらに関してを煙緋に調べて欲しい』と言う内容だった。

 

 

そしてその甘雨からのお願いである『頼まれ事』を受けた煙緋は甘雨のそれを引き受けた後、自身の法律に関する仕事をこなす傍らで璃月港の各商会や関係各所へと足を運んで雑談しながら、甘雨の頼まれ事の情報収集を行ってきた。

 

 

「…はぁ」

 

そうして煙緋はため息を吐く。

 

 

 

それは煙緋自身の“想定以上の情報”を数多く手に入れてしまったこと。

 

 

そしてそれは知りたくもなかった“それら”を知ってしまったという事。

 

 

 

「………」

 

“それら”に対して煙緋はまるで頭が痛いと言わんばかりの様相で甘雨を見つめる。

 

 

 

「そうですね、煙緋さん。これらの話や噂の全てを否定しきれないというのが現状です…。全てではありませんが実際に、この資料に記載されているような事が月海亭や七星八門では起こってしまっていますし……」

 

甘雨は煙緋に向かってそう答える。

 

 

 

少なくとも月海亭や七星八門内の‘認刻晴派’“反刻晴派”の対立。

 

この対立がこのまま激化していけばいずれ足の引っ張り合いのような事態や、民間団体への悪影響が出てしまうことは避けられないだろう。そうなればいずれ、___

 

 

 

 

 

「………っ」

 

甘雨は深刻そうな表情を浮かべながら、眉をひそめる。

 

 

 

___璃月という国は機能不全に陥いり、そしてそれは混乱や動乱という名の渦中に飲み込まれていくきっかけとなり、そうしてこの璃月という国家の国力低下という事態を招きかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、とても信じられないな。それでは“あの噂”も本当という事か…?『“今代玉衡”、“刻晴”の暗殺危機が差し迫っている』という、あのとんでもない噂は……」

 

煙緋は信じられないと言わんばかりに、そう呟く。

 

 

 

甘雨が依頼した煙緋の情報収集の中で、この璃月港で特に大きな話題として挙げられていたのが『今代玉衡、“刻晴”の暗殺危機が差し迫っている』という噂であった。

 

 

この璃月港で最も有名な女性の一人である今代玉衡の刻晴が命の危機に晒されているという噂は、当初はこの璃月港内の一部の会長達や有力者達の間だけで駆け巡っていた話題の一つであり、そうしてこの話題が限られた者達から璃月で相当情報に詳しい者、もしくは璃月で一定以上立場が上の者達であれば知る事が出来ると噂へと変化、そして徐々に拡散しつつある噂であった。

 

甘雨もこの噂については“あの日”“初めて刻晴の事を理解、そして刻晴に謝罪をし、そうして‘反刻晴派から認刻晴派に移った一人目の男達’が甘雨にもたらしてくれたそれらの話”を聞いてから初めてその噂を知った。

 

またその噂から派生して、『総務司は中立派が多数ではあるが、不満を募らせたその配下である千岩軍の反刻晴派の兵士達が管区規模に迫る程のクーデターを画策している』という噂や『反刻晴派の兵士達のみならず、璃月の裏社会に属する人間達までもが彼女の命を狙い、暗殺の機会をうかがっている』という噂、また『“今代玉衡”の身の安全を確保する為に、“天権”の命で千岩軍とは独立した彼女秘密の“極秘特務部隊”が刻晴の秘密警護に入った』という噂が水面下で広まっており、これらの噂は刻晴の暗殺危機以外にも様々な憶測や陰謀論を生んでいて、甘雨もそれらの情報に振り回される形となっていた。

 

 

 

「………」

 

そして甘雨は黙ってこくりと頷く。

 

 

 

「まさか、いや、本当にそうだったとは……」

 

そうして甘雨が縦に頷いたことを確認すると、煙緋は腕を組みながらふぅと軽く息を吐いた。

 

煙緋の信じられないとでも言いたげな表情、だが甘雨がこうして縦に頷いてその噂を肯定してしまった事で、その噂を受け入れられなければならなくなった事に、不服とも言えるか苦渋とも取れるような表情を浮かべる。

 

「………」

 

そうして甘雨も再び、そんな煙緋に同意するように頷く。

 

 

 

「___先輩、因みに刻晴殿はこの事を知っているんですか……?」

 

煙緋は甘雨を見つめながらそう問いかける。

 

「そうですね…。実は知りません、煙緋さん。“天権”様の計らいで刻晴さんの耳に一切入らないよう、彼女の周りは徹底的な情報統制がなされているんです」

 

「そ、それは、なんと……」

 

甘雨のその返答に煙緋は驚き、言葉に詰まる。

 

「実際、私は刻晴さんにこの事を伝えなければと思い、そうして先んじて“凝光”さんに広がってしまったその噂を把握しているのか、また凝光さんの方でも何か他の噂や情報を掴んでいるのかを伺ってみたのですが…。その時に凝光さんから、彼女にその噂を伝える事を止められました……」

 

甘雨は「ふぅ」とまた一つ、ため息を吐く。

 

「な、成程…。それはなんというか、驚きだ……。因みに凝光殿はどうして、刻晴殿にこの事をお教えしなかったのかお聞きしても……?」

 

甘雨の話を聞いた煙緋は興味深そうに、甘雨にそう尋ねる。

 

「はい、勿論いいですよ。煙緋さん。___」

 

甘雨も煙緋の問いかけに小さく頷く。

 

 

 

「___凝光さんは、今の時期の刻晴さんを不安にさせる事を極力控えたいという考えの下、この事を伝えなかったようです。…今の刻晴さんの立場や現状を思えば、当然の配慮でしょう」

 

「……うむ、なるほど。確かにそうだな」

 

甘雨のその言葉に煙緋は納得したかのように頷く。

 

 

確かに刻晴が“玉衡”として璃月七星の座に就いたのは、今から数か月に満たない一ヵ月以上前の事。当初の彼女の職員達の評価や評判と言うのは、最低や最悪に近いものだった。

 

だが今の刻晴は彼女が必死に行ってきた様々な努力のおかげで、今では璃月七星の“玉衡”として、またそれらの職務や政務を全うし続けている。そしてそれは彼女の職員達からの評価も全体的に上がり始める事に繋がっており、それは時間が経てば経つほど加速度的にその評価が上がっていく事だろう。

 

そしてそんな刻晴が“璃月七星”の座に就き、そうして本格的に“玉衡”としての軌道が乗り始めた段階という極めて重要な時期かつ、またまだまだ日が浅いが故に彼女の不安定さが残る中で今の刻晴にその噂や情報は、余りにも時期が悪過ぎるのだ。

もしも不用意に刻晴の耳に入ってしまえば最後、今までの彼女の努力や苦労が全て水の泡になってしまう恐れもある。

 

 

「…うむ、これは中々難しい問題ですね。甘雨先輩。神経をとても使うような問題、まるで針に糸を通すような繊細な問題だ…。うーむ……」

 

煙緋は腕を組みながら、その場でぶつぶつとそう呟く。

 

「……確かにそうですね。ですが、幸いにも凝光さんは既にこの事を把握しており、またあの人独自ではありますが、『凝光さんは既に手は打っている』ようです」

 

そうして甘雨は煙緋に向かってそう話す。

 

「ほぉ、成程…。やはり流石は天権、凝光殿だな。既に手を打っているとは……」

 

甘雨の言葉を聞いた煙緋は感心するように腕を組みながら頷く。

 

「はい、本当に良かったです。もしもあの人がこの事を知らなかったとしたら、一体どうなっていた事か……」

 

「お察ししますよ。……まぁ、でもこの璃月七星の天権である凝光殿がそこまで見抜いているのなら、きっと大丈夫でしょう。先輩」

 

「そうですね、煙緋さん。凝光さん、私にあの人は刻晴さんに何をしたのか、何をしているのかを一切教えてくれず、また噂に関する事も一切話してくれませんでした。ですが、___」

 

甘雨はそこまで言うと一呼吸置く。

 

 

 

「___凝光さんの事です。話さない事や話せない事にも何かしらの理由や事情があるのでしょう。…『敵を欺く前に、まずは味方から』という言葉があります。凝光さんも凝光さんの考えで動いている事は分かります。ですので、私は凝光さんを信じます…。ただ、ですが、………」

 

そこまで言うと甘雨は、煙緋に向かって笑みを浮かべる。

 

 

 

「___“信じて待ち続ける”のと、“私が何もしない”というのは別問題なので、私はこうして煙緋さんを頼らせて頂いたのですが……」

 

「ははっ、いえいえ気にしないでください。むしろ私を頼ってくれてありがとうございます。甘雨先輩」

 

そして煙緋も甘雨に微笑み返す。

 

「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございます。煙緋さん」

 

「いえ甘雨先輩。そんなお礼もしないでください、照れますよ。先輩」

 

「あらら、ふふっ」

 

「ははっ」

 

そうして甘雨と煙緋は互いに笑みを零す。

 

 

 

 

 

「___煙緋さん。本当にありがとうございます。月海亭や七星八門、またそれら璃月の公的機関や政府機関に関する職員達の情報収集等は私でも出来ましたが、璃月港の各商会の見解や態度、またそれらと結びつく各商会の会長達や民間団体の代表者や璃月港の有力者達の見解については煙緋さんに頼るしかなかったので……」

 

そうして甘雨は、改めて煙緋に向かって軽く頭を下げる。

 

「いえ、先輩。頭を上げてください。お気になさらないでください。私はただ先輩からの頼み事を遂行しただけです…。むしろ私を頼ってくれてたことが私は本当に嬉しいですし……」

 

それに対し煙緋はそんな甘雨に対して首を横に振ると、笑顔でそう答える。

 

「ありがとうございます、煙緋さん。それではこれの調査資料の結果を踏まえ、___」

 

甘雨は煙緋に対して礼を言うと、そうして自身の机の上に広げられた資料に視線を向け、そして改めて甘雨は真剣な表情を浮かべながら煙緋に視線を向ける。

 

 

 

 

 

「___煙緋さん、貴女に更なる新たな個人的なお願いである“頼み事”、そして私から煙緋さんに“とある依頼”をさせてください」

 

甘雨は静かな口調、そしてどこか力強い意志を感じさせる目で煙緋を見つめながらそう話す。

 

 

 

「ほぉ、甘雨先輩からの“頼み事”、そして私への“とある依頼”ですか…。先輩、その“頼み事”、そうして“とある依頼”というのは……?」

 

煙緋は甘雨の更なる『頼み事』、そして『とある依頼』という言葉に反応するかのようにそう甘雨に問いかけ、甘雨の雰囲気の変化に触発したかのように煙緋も真剣な表情を浮かべながら甘雨を見つめる。

 

 

 

「はい、“頼み事”に関しては引き続き『情報収集』をお願いしたいと思います。ただ情報収集をしてもらう対象を以前の物より変更して『‘反刻晴派’に関わるもの、また彼らの動向に関わる話や噂』を最優先に、この璃月港にいる各商会の会長達や有力者達から情報を集めてもらおうかと思います。どんな与太話であったり、些細な話でも構いません」

 

「『“反刻晴派”に関わるもの、彼らの動向に関わる話や噂』をですか、甘雨先輩?」

 

「はい、そうです。煙緋さんが璃月港の商会や民間団体側から、私が月海亭や七星八門側から、それぞれの方面から情報収集を行って、そうしてそれらの照合を行います。そしてその上で___」

 

甘雨はそう話すと、机の上で組んでいた自身の両手を組み直し、そして改めて煙緋を見つめたのであった。




次回はこの甘雨の台詞の続き。

また次回からいよいよ後編、終盤に突入していきます。

そして前回の予告通り一気に話を進めて行くため、シーンごとに時間も飛びまくっていく予定です。

それでは次回の投稿まで、今しばらくお待ちください。
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