名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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投稿できる水準に達したと判断したので、3話目を投稿。

なお章タイトルの追加を行いました。(忘れてた…)

またタグも一部追加しました。

また今回から前作と同じように簡単な解説を入れてあります。
(解説はたまにやる予定。前作みたいに毎回はしないです。それをすると随筆にさらに時間が掛かってしまうため)




_何を背負っているのですか?

Side:瞬詠

 

「…はぁ」

 

瞬詠は、ため息をつく。

 

「…ちっ」

 

瞬詠は独りでに舌打ちをする。

 

それはどうしようもない程の苛立ち。即ち、怒りの感情。

そして溜まりつつあるその怒りの感情の矛先、それをぶつけられるものは目の前にいない。

 

「…瞬詠様」

 

扉の向こうから、とある女性の声が聞こえてくる。

 

「…なんだ?」

 

瞬詠は、その声の主に問いかける。

 

「はい。…あの、お食事は取り終えましたでしょうか?」

 

「…あぁ、もう取り終えた。今、食器等をお前さんに渡してやるよ」

 

そういうと瞬詠は、少し乱雑に自分の机の側に置いてあった、空になった皿が積まれたお盆を持って扉まで歩く。そして扉を開ける。

 

「ほらよ。百暁(ひゃくぎょう)、いや百識(ひゃくしき)、それとも百聞(ひゃくぶん)だったか?まぁ、今はどうでもいいがな。取り合えず、これだ。…一応、礼を言っておく。ありがとよ」

 

「…」

 

瞬詠はぶっきらぼうにお盆を、部屋の前の廊下にいた一人の女性に差し出す。

 

「いえ……、滅相もございません」

 

そしてその目の前にいた赤に紅色の服を身に纏っているおかっぱ頭の女性は、どこか困ったように顔を曇らせながら、お盆を受け取る。

 

「……じゃあな」

 

「……あ、待ってください」

 

瞬詠はそう言うと、目の前の女性に背を向けて自室に戻ろうとする。そしてそれに赤に紅色の服を纏った女性は、お盆で両手が塞がっているにも関わらず、慌てながら瞬詠を呼び止めようとした。

 

「……あ?なんだ?」

 

「いえ、あの…。凝光様が『貴方とお話がしたいから、部屋から出て私の元にくるように』、と。また、仰られているのですが……」

 

「……はぁ」

 

瞬詠は軽くため息を付く。そして目の前に立っている、赤に紅色の服を身に纏った女性を見つめる。

 

「……あの白髪女、凝光のくそ女の奴に言っておけ。『___これ以上、お前さんの話に付き合ってられん。自分の知らない所で、勝手に自分の進退を決めやがって。くたばりやがれ、くそ凝光が。それか、どうしてもそんなに自分と話をしたいなら、凝光の方が自分の部屋にやって来て、土下座でもすれば話をしてやるくらいの事はしてやる___』とでもな」

 

瞬詠は、目の前の女性を軽く睨みつけながら、吐き捨てるようにそう告げる。

 

「……ですが……」

 

「くどい、悪いがとっとと消えてくれ。別にお前さんに恨みがあるわけではないが…。失せろ。さっきから、腹が立ってしょうがないんだ。今すぐ自分の前から、消えろ。分かったか?」

 

「は、はい……」

 

女性は消え入りそうな声で、返事をしながら、そのままその女性は瞬詠に背を向けて離れて行った。

 

「……」

 

そうして瞬詠は自室に戻るとベッドまで行き、横になる。

 

 

 

どうして、こんな事になったのだろうか。

正直、信じられない。

 

まさか北斗の姐さんが、天権の凝光と取引を行い、こうして最終的に自分を、天権凝光の“直属の部下”として働いていく事になるなんて。

 

……こんな事、誰が予想できたただろうか。

 

 

 

「…あぁ」

 

瞬詠は苛立ちを滲ませながら、そう呟く。

 

 

 

本来であれば、これは名誉な事で間違いないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

璃月七星。

 

 

 

それは岩王帝君に次ぐ、実質的な統治者たちの総称でもあり、璃月全土はおろかテイワット大陸の七国にもある程度の影響力を持つ、いわばその国の顔となる存在といっても過言ではないだろう。

 

 

 

そして璃月という国家そのもの、それは強大な貿易国といっても過言では無い。

 

神託により繁栄を謳歌する『神と共にある地』。璃月特有の『契約』という言葉の象徴性。

 

また璃月を治めている岩神モラクスこと、岩王帝君と仙人達の庇護の下、璃月七星と呼ばれる実力者と千岩軍によって治められている軍事力、そして経済力が共に非常に強力であると言ってもいい国家。

 

 

 

そんなその貿易大国たる璃月、その璃月を治めている璃月七星という者達は各国に、その国の象徴として広く知れ渡っているのだ。

 

 

 

 

 

そしてそんな璃月七星の長、“天権”凝光の直属の部下となるという事は、それはとても光栄な事で栄誉な事である。

 

 

 

それは事実だ。

 

 

 

 

七星直属の部下となるなり、もしくは彼らが直接管理する管轄下の者になれ、そうして重用されるようになったのであるのならば、それは将来を約束されたといっても過言では無いだろう。

 

璃月を統治する璃月七星、その七人の誰かに気に入れられたり、彼らの内の一人だけでも取りいる事が出来れば、それだけで、璃月での将来は約束されたようなものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___璃月七星に認められたのならば、曾孫(ひまご)の代まで生活に困る事はない。

 

 

 

 

 

璃月港にいる商人達や璃月港でビジネス等を行う者達が密かに口にする、そんな冗談話。

そんな冗談話が、一部の商人達、商活動やビジネス活動をする者達が酒に酔う度に、その冗談話が現実となる事を夢見て語る者達が、今だに後を絶たない程に。

 

 

 

 

 

「ちっ」

(…くそが___)

 

___そんな事、自分にとって興味はないし、どうでもいい。

 

瞬詠は寝返りをうちながら、苛立たしげに眉をひそめる。

 

だが瞬詠にとって重要なのは、そんな事ではない。

 

「北斗の姐さん…」

(…一体、どうして?)

 

瞬詠は仰向けになりながら、天井を見つめながら、小さく呟く。

 

それは疑問。

そして沸々と湧いて来る形容しがたい程の、深い哀しみ。

 

北斗と凝光が取引を行い、そして自分の身柄を凝光に引き渡した。

 

それはあまりにも突然、前触れもない事であった。

取引を行っているという事から、ある意味では人身売買みたいでもある。

 

「…っ!!あぁ!!」

 

瞬詠はベッドから身を起き上がらせ、床を強く踏みつける。

 

「___っ!!!」

 

そして扉を出て、そのまま群玉閣から脱走しようとする。

 

 

 

いや、しようとした。

 

「…はぁ」

 

瞬詠は怒りが一周回って冷静になり、深くため息をつく。

 

そうして再びベッドで横になって、嫌悪に満ちた表情を浮かべる。

 

 

まただ。

正直、やろうと思えば群玉閣から脱走する事なんて出来る。

 

 

 

だが、何故だろう。

やろうと思えば、出来るのに。

 

 

 

どうして自分は、こうもそれをやろうとしないのだろうか。

 

 

 

「…」

 

自分の中で、全てがぐちゃぐちゃに混じり合って、何が何だか分からない。

 

自分の中にある怒りの感情や、困惑、哀しみ。

 

「…一体、何なんだ?」

 

瞬詠は絞り出すかのよう、小さく呟く。

 

「……」

 

正直、自分が今どんな状態なのかさえ、分からない。

 

自分は一体何なんだろうか?一体、何を求めているんだろうか? もう訳が分からない___。

 

「……」

 

一度、瞬詠は目を閉じ、大きく息を吸って、吐く。

 

そして瞬詠は、自分の意識をゆっくりと遠ざけるかのように、眠りにつこうとした。

 

その時であった。

 

「…っ」

 

瞬詠の扉の部屋が開かれ、誰かが入って来た。

 

「…全く、誰だよ」

 

瞬詠は目をゆっくりと開き、遠ざかっていた意識を、呼び戻す。

 

「…瞬詠さん」

 

「…なんだ、甘雨か」

 

そして瞬詠はその声を聞き、誰が入ってきたのかを悟り、その名を呼ぶ。

 

「…甘雨。勝手に自分の部屋に入るな。さっさと出ていってくれ」

 

「…」

 

瞬詠は顔を苦々しく歪めながら、自分の部屋に入って来た甘雨にそう言う。

 

だが甘雨は無言で瞬詠を見つめている。

 

「……おい、聞いてんのか?」

 

「瞬詠さん……」

 

「…」

 

甘雨の呼びかけに瞬詠は応じない。瞬詠は黙ったまま、甘雨から顔をそむける。

 

「…」

 

甘雨は瞬詠に向かって、一歩を踏み出した。

 

「瞬詠さん」

 

「…」

 

「…あの、一体、凝光さんと何があったのですか?」

 

「…なにも聞いてないのか?」

 

瞬詠は甘雨の目に視線を送り、その問いに答える。

 

「はい。実は私は、先ほど群玉閣に来まして、そうしたら凝光さんに瞬詠さんの様子を見てきて、そして彼と話をしてきなさいと言われて…」

 

「…話をか?」

 

「はい。その、一体どういう状況になっているのか、全く分からず。…それに凝光さんの秘書さん達である百暁さんや百識さん、百聞さん達が悲しそうというか、嘆いているというか……。一体、何があったんですか?」

 

「…」

 

そうして瞬詠は甘雨から目を逸らし、黙り込む。

 

「…」

 

そして甘雨は瞬詠が寝ているベッドの上、瞬詠の顔を見下ろせる位置に腰掛けるように座ると、心配そうに瞬詠を見つめる。

 

「瞬詠さん……」

 

甘雨は心配そうに瞬詠に話しかける。

 

「…っ」

 

瞬詠は少しだけ、悩むかのような表情を浮かべる。

 

「…ただ、凝光のくそ女の奴に、ムカついた。ふざけた事を。そして勝手に自分の事を決められた事を。ただ、それだけだ。…それで、どうしようもないほどにな」

 

そして瞬詠はどこか他人事のように言った。

 

「…凝光さん、そして凝光さんが決めた事に、ムカつき、イラついたという事ですか?」

 

「…あぁ、そうだ」

 

「…あの、凝光さんに一体何を言われ、何をされたのですか?」

 

「…」

 

瞬詠は黙り込む。

 

 

 

「…っ」

 

甘雨に言われて、じっくりと思い出す。そしてまた沸々と“怒り”や“哀しみ”が込み上げてきた。

 

それは瞬詠にとって、あまり思い出したくない事でもある。

 

「……」

 

甘雨は無言で、瞬詠を見つめる。だがその瞳には心配の色が強く宿っていた。

 

「…なぁ、甘雨。やっぱり、部屋を出て行ってくれないか?」

 

「え?なぜですか?」

 

「いいから。早く行ってくれ」

 

「ですが、私は瞬詠さんの事が心配で……」

 

「…っ!!甘雨、お前さん___」

 

「…」

 

「___っ」

 

 

 

瞬詠が甘雨に怒鳴ろうとしたその瞬間、甘雨はそっと瞬詠の手を握る。

 

 

 

甘雨の手は暖かく、とても優しいものであった。

 

 

 

 

 

「…はぁ」

 

手を握られた瞬詠は、諦めたかのようにため息をつく。

 

 

 

「……甘雨」

 

「はい」

 

「……自分は大丈夫だ。だから、離してくれ」

 

「……」

 

甘雨は無言で瞬詠の手を放す。

瞬詠はまた深くため息をつくと、ベッドに横になる。そして甘雨に背を向けるように寝返りをうった。

 

「……瞬詠さん」

 

「……なんだ?」

 

「ごめんなさい、辛い思いをさせてしまって……。あの、でも凝光さんにも何か考えや事情があると思うんです……」

 

「…考え、それに事情か」

 

「…はい、きっとそうです」

 

甘雨は背後から、瞬詠に呼びかける。そして瞬詠は静かに目を閉じ、考え込む。

 

 

 

「……」

(凝光さんの考えや凝光さんが抱えている事情、それに北斗の姐さんと凝光さん、二人のそれぞれの関係…か。そう言えば以前より北斗の姐さんと凝光さんは交友関係があるとも言っていたな)

 

瞬詠は何も言わずに、ただ静かに考え込む。

 

思考の海に沈むかのように、そして自身の心を落ち着けるかのように。

 

 

 

「…」

 

そして甘雨はそんな瞬詠の様子をただ静かに見守る。

 

 

 

「……なぁ、甘雨」

 

そして再びゆっくりと目を開けて、背中越しにいる甘雨に話しかける。

 

「はい」

 

「ありがとう。甘雨、お前さんのおかげで少しだけだが、冷静になれた気がする」

 

「…そうですか、ありがとうございます」

 

瞬詠は静かにお礼を言うと、甘雨は背中越しの瞬詠に向かって微笑んだ。

 

「…あの、すみません、瞬詠さん。個人的に気になった事があるのですが、一つ聞いてみてもいいですか?」

 

甘雨は遠慮がちに、瞬詠に聞く。

 

「あぁ、別にいいが……。何だ?」

 

「それはその……」

 

甘雨は言いよどみ、どこか答えづらそうにしている。

 

「……瞬詠さん、貴方は何を抱え、何を背負っているのですか?」

 

「っ!?」

 

甘雨はまっすぐに瞬詠の後ろ姿を見つめる。

甘雨の瞳には真摯な光が宿っている。

 

「……」

 

瞬詠は少しだけ目を見開かせ、そして考える。

 

「さぁな…。甘雨、どうしてそう思ったんだ?」

 

ベッドの上で横になっていた瞬詠はそう言うと、ゆっくりと体を起こす。

 

「…いえ、その、瞬詠さんから、とても、そして深い哀しみを、そして、そこまでの激しい怒りを感じたからです。…そして」

 

甘雨は俯きながら、言いづらそうにしながら言う。

 

「……そして?」

 

「…何となくですが、似ているような気がして。“私”、それに“師匠”達と」

 

「…は?甘雨、それに甘雨の師匠達とか?」

 

「あ…。あの、い、いえ、今のは忘れてください」

 

瞬詠は甘雨を訝しげな目で見つめる。

 

「……」

 

甘雨は瞬詠から顔を逸らす。

 

「…」

(…いや、さっきのは)

 

瞬詠は一瞬、甘雨は嘘を吐いたのかと考えるが、直ぐに否定する。

さっきの言い方、またその声色は明らかに嘘をついていたものではない。

 

「…あの、私はもう行きますね。瞬詠さん」

 

「あぁ、分かった。甘雨」

 

甘雨は少しだけ気まずそうにそう言うと、瞬詠の部屋の扉を開けようとする。

 

「甘雨」

 

「えっ、どうしましたか?瞬詠さん」

 

そこで瞬詠は甘雨を呼び止める。

 

「…その、なんだ。ありがとうな、心配してくれて。そして悪いが、甘雨、しばらくの間で良いから、自分の部屋に入らないでくれないか?独りになって、色々と考えたいんだ」

 

「…」

 

甘雨は無言で真剣そうに瞬詠を見つめている。

 

「…一度、自分の中で色々と整理したい。今の自分は、もう自分が何なのかさえ、分からなくなってしまいそうだからな。だから、その…。少しだけで良いから、時間をくれ」

 

瞬詠はそう言うと、目を伏せて黙り込む。

 

甘雨はそんな瞬詠をじっと見つめる。

 

「…分かりました、瞬詠さん。私、瞬詠さんを待っていますね。瞬詠さんの事を信じていますから。それと、この事を凝光さんに伝えておきますね」

 

そして甘雨は優しく微笑みながら瞬詠に向かってそう言う。

 

「あぁ、すまないな。ありがとう」

 

「いえ、大丈夫です。それでは失礼しますね」

 

「あぁ」

 

そして甘雨は瞬詠の部屋の扉を開けて、静かに閉める。

 

「…」

 

そうして部屋に独り取り残された、瞬詠は静かにベッドから立ち上がり自分の机の前へと移動する。

 

「…どこだったか?」

(あれは)

 

そして椅子に腰かけた瞬詠は、死兆星号から出る時に持ち出したとある“物”を探し始めたのであった。

 

 

 

 

 

そうしてそれは、瞬詠の中で止まってしまっていた何かが、ゆっくりとではあるが着実に動き始めた瞬間でもあった。

 

 

 




いよいよ海灯際ですね。

海灯際というイベントもそうですが、遂に留雲借風真君もとい閑雲が実装されるので本当に楽しみですね。

またそれだけでなく行秋や申鶴、そして甘雨の新しい衣装も実装されるので本当に楽しみです。

海灯際期間中である2月中までは、更新もなるべく早くできるように更に頑張っていこうと思います。




—————
◎解説
・凝光の三人の秘書(百暁・百識・百暁)について
→百暁(ひゃくぎょう)・百識(ひゃくしき)・百聞(ひゃくぶん)の三人は璃月七星天権“凝光”の秘書となり、凝光の専属の秘書となります。尚、“甘雨”も秘書であるため彼女達とはある意味同僚となりますが、甘雨は七星全体の秘書を担っているため、彼女達のように凝光専属、もしくは刻晴専属の秘書という訳ではありません。
 そして三人に関して簡単な説明になります。
 百暁はきりっとしている女性で、甘雨の伝説任務「雲の海、人の海」にて甘雨に対し、対抗心またはライバル心があることを露にしていました。
 百識は眼鏡を掛けている女性で、確か群玉閣内にいた彼女達のセリフ等から彼女が凝光の衣装などをコーディネートしている人であるとのようです。
 そうして百暁はおかっぱ頭の女性で、以前のVer3.7の期間イベントでありました【「決闘! 召喚の頂!」】にて、璃月に辿り着いた旅人やシャルロット達の前に姿を現しておりました。また今話では瞬詠に夕食を運んでたりしていたのも彼女となります。
 なお余談になりますが、上記の三人の秘書達のビジュアルが実際に気になるのであれば、ホヨバースにてNPC図鑑なるものがあるため、それを確認してみると良いかもしれません。



—————
追記1
・前書きの誤字の修正を行いました。(前回→前作)

追記2
・誤字報告を適用しました。“円周率で猫好き”さん、ご報告ありがとうございます。

追記3
・解説の表記の修正を行いました。
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