原神も遂にナタに入りましたね…。本当に感慨深いです、4周年ですか……。
それでは今回も前回の続きとなります。万民堂回、彼女達の食事シーンからとなります。
Side:刻晴
「う~ん!!美味しい!!凄く美味しい!!」
「そうだな、堂主殿。どの一品も本当に手が込んでいる。とても美味しいぞ。香菱殿、刻晴殿」
「えへへ、ありがとう。胡桃、鍾離さん」
「ふふっ、ありがとう。胡桃、鍾離さん。そう言われると今日のこの日のために、色んな準備をしてきた甲斐があったわ」
胡桃が料理を美味しそうに食べながらそう言い、鍾離は落ち着いた様子を見せながら香菱にお礼の言葉を伝える。
そしてそんな胡桃や鍾離の感想を聞いた香菱と刻晴は嬉しそうにしながらそう返事をする。
「うん、本当に美味しいよ!!この松茸の肉巻きも黒背スズキの唐辛子煮込み、それにかにみそ豆腐にエビのあっさり炒めにハスの実入り茶碗蒸しも、どれもこれも凄く美味しくて手が止まらなくなっちゃう!!刻晴!!香菱!!」
「ふふっ、ありがとう。そう言ってくれるとここまで頑張って作った甲斐があったわ。それにグゥオパァーもあそこまで手伝ってくれたしね」
「うんうん!グゥオパァーも火を吹いて絶妙な火加減で温めてくれたり、グゥオパァー自身も盛り付けを手伝ってくれたりしね!!本当にありがとう~。グゥオパァー!!」
「~~♪」
胡桃が料理を食べながら香菱と刻晴の料理を褒め称えていく中、香菱は彼女の隣に座っているグゥオパァーの頭を撫で始める。グゥオパァーも嬉しそうにしながら、そんな香菱の言葉に反応して鳴き声を上げていた。
「うむ、堂主殿の言う通り。どの品もとても絶品で、箸が進むぞ。香菱殿、刻晴殿」
「えぇ、本当にそうね。胡桃も鍾離さん」
そして同じく料理を食べながらそう感想を漏らす鍾離に、刻晴は笑みを浮かべて彼に同意する。
「___ふむ、香菱殿。一つ、香菱殿にお聞きしたい事があるのだが、よろしいだろうか」
「うん?どうしたの?鍾離さん」
すると胡桃が料理を食べている間に、鍾離は何か疑問を持った様子で香菱に声を掛ける。
「こちらのハスの実入り茶碗蒸し。このハスの実入り茶碗蒸しで使われている塩、その塩は一体どういった塩なのだろうかと気になってな」
「あぁ、茶碗蒸しの塩ね。それは帰離原の遠浅の砂浜で採って、それを挽いた塩を使っているよ」
「ほぉ、帰離原の砂浜で採った塩か。成程、それでこのような味わい深い風味、深みの味わいになるという訳だな」
「うん、そうそう。鍾離さん、この味が気に入ってくれた?」
「うむ、中々の味わい。気に入ったぞ」
「えへへ、気に入ってくれて良かった~」
そうして茶碗蒸しに入っている塩の事を聞いてくる鍾離と香菱はそんな感想を交わし合う。
「___うむ、帰離原の遠浅の砂浜でこの味わい…。この茶碗蒸しに使う塩…、璃月の“あの地”で採れる塩ならばより一層深みのある味わいになるだろうな……」
そして鍾離は何やら意味深げな事を呟く。
「え、璃月の“あの地”で採れる塩…?鍾離さん、それって一体何処で採れる塩の事?」
そうしてその呟きを聞き逃さなかった香菱は、鍾離に対してそう問いかける。
「あぁ、それはだな…。因みに香菱はどこだと思う?」
「え?…うーん」
香菱に問われた鍾離は、そう彼女に問い返しながら意味深な笑みを浮かべる。
「う~ん……。そうだなぁ……。“地中の塩”とかかな?」
「成程、“地中の塩”か。…まぁ、確かにそれもある。あの辺り、あの領域の砂浜も上質だ。だが、今回のこの茶碗蒸しの場合であればより相応しい塩があると、俺は思う」
そうして香菱は顎に手を当てて考える素振りを見せた後に、そう答える。すると鍾離はそんな香菱の言葉に対して、顎に手を当てながらそう答える。
「うん?あそこの塩じゃないの?じゃあ……、鍾離さんが言う相応しい塩って……」
そしてそんな香菱は口元に人差し指を当てながら考える素振りを見せながら思考する。
「うーん、塩、ね。どこの塩かな」
「塩、璃月で採れる塩、ね」
「~~?」
またそうして香菱と鍾離の話を聞いていた胡桃と刻晴、またグゥオパァーもそれが何なのかを考える様子を見せる。
「うーん、他だと…」
「う~ん、塩でしょ…」
香菱と胡桃は難しそうな表情を浮かべながら、それが何かを考える。
「塩…ね」
(璃月で他にも塩が採れる場所…)
そして刻晴も何かを考える様子を見せ、そうして顎に手を当ててそう考える。
「___あぁっ!!」
(___も、もしかして!!)
その時、刻晴が何か閃いた様子を見せる。
「あっ、刻晴。璃月のどこの塩、それがどこの塩か分かった?」
「おぉ、刻晴。鍾離さんの出した問題、それの答えが分かったの?」
「ーー!!」
そうして刻晴が何か閃いた様子を見せる中、胡桃と香菱の二人は閃いた刻晴に対してそう尋ね、グゥオパァーも尋ねるかのように刻晴の方に顔を向ける。
「刻晴殿は分かったようだな。では、刻晴殿。その答えを教えて頂けるだろうか?」
「えぇ、勿論よ。鍾離さん」
そうして刻晴は自信有りげに、鍾離の言葉に対して答える。
「私が導き出した答えは…、『孤雲閣の浅海』よ」
「あっ!?」
「あぁっ!?」
「ー!!」
刻晴が鍾離の問いにそう答えると、その答えを聞いた香菱と胡桃とグゥオパァーは「はっ」とした様子になる。
「うむ、見事な答えだ。刻晴殿。正解だ」
そうして刻晴が導き出した答えを聞いた鍾離は満足そうに頷く。
「成程、孤雲閣の浅海かぁ…。確かにあそこの海塩も良さそうかも。それにあの塩を茶碗蒸しに入れたら……、う~ん、これは物凄く美味しいかもしれない!!」
「うん!うん!!私もそう思うよ!!刻晴!!鍾離さん!!いやぁ言われてみれば確かに、塩はあそこでも採れるもんね。完全に盲点だったよ」
「~~♪」
そして香菱と胡桃もそう納得しながら刻晴の答えに同意し、グゥオパァーも賛同するかのように頷く。
「うむ、そうだな。香菱殿に胡堂主殿。今回のこの茶碗蒸し、それに豆腐。例えば山椒豆腐と言った豆腐であるのならば、孤雲閣の浅海で作った海塩を使うといいと思う」
「茶碗蒸し、それに山椒豆腐…」
「そうだ、香菱殿。孤雲閣の浅海で作った海塩。それらの品であれば、その塩を使う事で茶碗蒸しや山椒豆腐と言った豆腐の鮮度を高められるだろう」
「成程…。うん、分かった。覚えておくね、鍾離さん。今度試してみるよ」
「うむ、試してみるといい。香菱殿。そして試した結果を是非、今後の万民堂のメニューに取り入れて活かしてみるといい」
「うん!分かったよ、鍾離さん。ありがとう!」
「礼には及ばないぞ、香菱殿」
そうして香菱は目を輝かせながらお礼を言うと、鍾離はそんな香菱に微笑んで応える。
「ふふっ」
そんな二人のやり取りを見ていた刻晴は思わず笑みを零す。
「___いやぁ、流石だね。刻晴。いや、流石は璃月七星の“玉衡”様とでも言えば良いのかな?」
胡桃はそんな刻晴に対し、茶化すようにそう告げる。
「えっ?あ、ありがとう。胡桃…。で、でも“玉衡”様って……」
(私、胡桃に私は玉衡と言った覚えは無いんだけど…。でも胡桃は先代玉衡であった私の祖父の事を知っているから、私が玉衡様であると感づいていてもおかしくはないかしら……)
胡桃の茶化しの言葉に刻晴は呆けたような様子を見せる。そうしてどこか困ったかのような笑みを浮かべながら胡桃の言った言葉に対して、刻晴がそんな考え事をしていると……
「ねぇ、刻晴。どうしたの?」
「えっ、あっ、香菱。べ、別に何でもないわよ…?」
「ふぅ~ん、本当?」
そうして少しおどおどした様子を見せる刻晴に対して香菱は、刻晴にそう声を掛ける。
「えぇ、本当よ」
だが、そんな香菱に対して刻晴はそう言って誤魔化してみせる。
「ふぅ~ん?」
そんな刻晴の様子を見た香菱は少し納得してないような様子でそう言うと……。
「___ねぇ、刻晴。無理しなくてもいいんだよ?私、刻晴の本当の正体、気づいているんだよ?刻晴が、璃月七星の“玉衡”って事」
「___ふぇっ!?しゃ、香菱…?」
刻晴は香菱のいきなりの発言に呆けた様子を見せる。
「え、えっと、ち、ちょっと待って…!?香菱。わ、私は……」
(え、バ、バレてる…!?しゃ、香菱にもバレてるの……!?)
刻晴は慌てた様子を浮かべながら、香菱に対してそう告げようとする。
璃月七星という身分。
この身分というのは基本的に秘匿されるべきものだ。
璃月七星というのは璃月を統治する七人という側面がある事から、この身分を利用しようとしたり狙おうとしている者も少なくはない。
だからこそ、この璃月七星の身分を持つ者はこの身分を公務や政務上の関係で身分を明かす必要のある状況を除いて、その身分を隠す必要があるのだ。
「あ、あのね。香菱…。私は___」
そして刻晴は香菱に対して自身の身分がバレている事に驚きながらも、何とか誤魔化そうとする。だが、刻晴がそう言い終える前に……。
「あっ、大丈夫だよ。刻晴」
「えっ……?」
そんな刻晴の慌てた様子に気が付いたのか、香菱は安心させるように微笑みながらそう言う。
「ふふっ、別に私、刻晴の正体を誰かに言うつもりなんて無いから安心して?」
「う、うん……」
香菱の言葉に安心した様子を見せる刻晴。すると…。
「…刻晴殿。その、何と言えばいいのか分かりかねるが…。刻晴殿の身分。ここにいる万民堂の胡堂主殿や香菱殿、そして俺達はおろか、璃月港の至るどころで刻晴殿の正体が璃月七星の“玉衡”である、もしくは“玉衡”ではないかと感づいている者達、璃月港にいるその者達が決して少なくない数ではない…。と、俺はそう思うぞ……?」
そうして刻晴と香菱のやり取りを見ていた鍾離は、まるで言葉を選ぶかのようにしながら慎重に刻晴にそう告げる。
「え、えぇ…!?う、嘘……!?嘘よね………!?」
(えっ!?香菱どころか!?璃月港の至るどころで…!?)
そして鍾離のその言葉に刻晴は酷く驚いた様子を見せる。
「あ、あの鍾離さん…。そ、その、璃月港の至るどころで私の正体が“玉衡”であるという話って、そ、その、本当ですか…?」
刻晴は恐る恐ると鍾離に尋ねる。もしもこれが本当であれば、ある意味で刻晴にとって一大事であり大変なことである。
「あぁ、本当だ。間違いない」
そして刻晴のその問いに対して、鍾離は即答できっぱりとそう返す。
「そ、そんな……」
(璃月港の至るどころで私が“玉衡”であると感づかれているなんて……!)
刻晴はその事実に酷く動揺しながら心の中でそう呟く。そしてそれはその表情からも分かる事だろう。
「…ま、まぁでも刻晴が璃月七星の“玉衡”だからって別に何も変わらないよ!!」
そんな刻晴を香菱は励ますようにそう言う。
「う、うん、そうよね……」
そんな香菱の言葉に対して刻晴は動揺を何とか抑えようとしながら応じる。
「うむ、そうだな。…刻晴殿。本来、璃月七星という身分は公にする事を控えるものだ。だが“刻晴”殿、そして貴殿が持つ“玉衡”…。それは、この璃月三千年以上の歴史の中でも‘特異’であり、‘例外’であると俺は思う。だからそんなに不安がる必要は無いだろう」
そしてそんな刻晴に鍾離は落ち着いた様子でそう告げる。
「‘特異’、それに‘例外’…ですか?鍾離さん?」
そうして刻晴は鍾離が言ったその言葉について考える様子を見せる。
「うむ、そうだ。刻晴殿…。貴殿の持つ“玉衡”という身分、そうして刻晴殿が玉衡になってしてきた“行動”が相まって、刻晴殿が持つ璃月七星の“玉衡”という身分が“異例な存在”になりつつあると、俺はそう思う」
「えっ…?異例な存在ですか…?それって、どういう事ですか?」
そして刻晴は続けてそう尋ねる。
「あぁ、そうだな。…まず前提として璃月七星という身分は公にする事は極力控え、そうしてその身分を秘匿する事が基本であるが、今までの刻晴殿は……」
そうして少し間を開けつつ鍾離は何を話すべきかを考えるようにしながら、刻晴に対して話を続ける。
「…“玉衡”になったばかりの刻晴殿は圧倒的に経験が足りなかった。そこでその経験不足を解消するため、刻晴殿は身分を隠して偽装を行い、そうして積極的に種別問わずの多種多様な仕事を璃月港、璃月でこなしてきた。それこそ璃月港の港湾の労働者達に混じって荷車を引くと言った力仕事、また鏢師と共に遠方の荷物の護送を行ったりと言った危険な仕事をも積極的に行った……」
鍾離は刻晴に対して、璃月七星になったばかりの頃の刻晴がしてきた事について話し始める。
「えぇっ!?刻晴!?そんなことをしてたのぉ!?」
「えっ!?嘘!?あ、あれらの話、ほ、本当だったの!?」
そして鍾離の話を聞いていた胡桃と香菱の二人は、驚いた様子でそう声を上げる。
「えぇ…、そうね。鍾離さん」
(本当に大変だったわ…。それらは…、でも……)
刻晴は鍾離の話を肯定するかのようにそう答える。
「…また璃月港で仕事をしていく中で刻晴殿は、極力自らの身分や正体が露呈しないように自らの話や自らの名に関する話をする事は無く、様々な労働者達と接しながら璃月港、璃月中の数多くの仕事をこなしてきた。だからこそ刻晴殿は璃月港を回りながら多くの者達と接し、そうしてその仕事をこなす事で己の経験を積み、より生きた幅広い知識やを経験を得る事が出来た」
そして鍾離は続けて刻晴が今までしてきた事についてそう話す。
「また刻晴殿が労働者仲間達彼らに、不自然な程に自らの話や自らの名前の話を避け続けた事。璃月港の現場の労働者達や管理者達の中でも目を見張ったり注目する程にどんなことにも積極的で、また困難等にも怯まずに立ち向かっていく様を彼らに見せ続けた刻晴殿のその姿勢。そして決まって短期間の内にその労働現場を去って離れてしまい、次なる労働現場へと赴いていくような行動を取ってきた…。それはまるで、璃月中のあらゆる労働現場の環境や労働環境を知る事が、自らを語らない彼女の目的であるかのように……」
「へぇ…」
「うんうん。確か、そんな感じの話だったね」
「そうだ。堂主、それに香菱殿…」
「………」
胡桃と香菱の二人の言葉に鍾離の話に頷きながら刻晴の方を見る。すると刻晴はその視線を逸らすかのように顔を少し下げていく。
「___そうしてその話は、少しずつ璃月港の労働者達らの間で密かに広がっていき、そうして囁やかれていく。『あの少女は一体何者だろう?』と。そうしてその噂が璃月港に広がり続けていた時に、とある出来事が起きた……。それは最初はいつだったかは分からないし、どこでその話が出たのかも不明、だが、とある月海亭に属する職員達の会話を労働者達は聞いてしまったようなのだ。…『あの場で労働者達に混じって力仕事をしていたのは間違いなく玉衡様ではないか』と」
「………」
鍾離は胡桃と香菱の二人に語るかのようにそこまで言うと、改めて刻晴の方を見る。また対する刻晴もそんな鍾離の話の続きを聞くために顔を上げる。
「そして『今代玉衡は璃月港の労働環境や労働現場を知り、また理解するために先代玉衡、もしくは先代玉衡以上にその身を扮しながら、様々な労働現場を渡り歩いているのではないか』、そして『本気でこの璃月を前に進めるための政務を行うため、その一環としてわざわざ彼女は璃月港に降りてそこまでしているのではないか』、と。月海亭の者達はそう言っていたのだ」
「へぇ、そうなんだ…」
「刻晴、やっぱり凄いね…」
「ーー。………」
そう言いながら胡桃と香菱、またここまでの話を理解できたのか定かでは無いが、だが称賛をするかのようにグゥオパァーも刻晴の方を見る。
ここまでの鍾離の話から刻晴が今まで黙っていた側面や、刻晴が今までしてきた事等が明らかになった。
そしてそれらは彼女が自ら望んで経験してきた事や体験してきた事であり、そうしてそれらを最後までこなしてきたという彼女の執念とでも言えるような、彼女の“覚悟”のような物が窺えて、二人は感銘を受けたかのような様子でそう呟く。
「え、えぇ…、ありがとう……」
そして胡桃と香菱の二人、またグゥオパァーのその様子や態度に対して刻晴は少し気恥ずかしそうにしながら応える。
「ねぇねぇ、実はね。刻晴。刻晴のそんな感じの噂、この万民堂でも立ってたよ?」
「えっ…。そ、そうなの?香菱?」
そんな刻晴に対して香菱は思い出したようにそう言うと、刻晴は少し驚いた様子を見せる。
「うん!そうだよ!!万民堂に刻晴が居ない時や居なくなった時なんだけど、その時ごくまれに七星八門の人達や月海亭の職員達の格好をしていた人達が『玉衡様に似た少女が料理を持ってきた時は驚いた』とか、『まさか本物じゃないよな?刻晴様に似たあの少女が作った料理は正直、玉衡様が直々に作ってくださった料理だと思ってしまって、畏れ多すぎて凄く食べづらい』って言ったりなんかしてたんだよ?あの時の私、本当にびっくりしちゃったよ!!あの時は危うく、調味料を落としそうになっちゃったもん!!」
「そ、そうだったのね……」
香菱が万民堂でのその噂について話すと、それを聞いた刻晴は驚いた様子を見せる。
「へぇ…!?そんな面白い噂が流れてたのぉ……!?」
「ほぉ…。それは初耳だ。中々興味深い話だな」
そして胡桃と鍾離は香菱が語ったその話について、興味深そうにそう言った。
「うん!面白いでしょ!!あっ、あと他にも、ここに食事をしに来た璃月港の港湾で働いている人たちが『自らの正体を隠して現場にまで降りて自分達と共に汗水を流してくださるなんて、あの方は徹底的な現場主義の方なのかもしれない。璃月港の役人達とは大違いだ』とかも言ってたよ」
「そ、そうなの…?」
「うん、そうだよ。それに『あの方は自分達の真の理解者かもしれない。あの方が現場を去った後、総務司からの命令によって自分達の仕事もやりやすくなったり危険な仕事にも安全措置が取られるようになった。あの人は本物だ。あの人なら信用できるし、もしあの人が自分達の管理者として上に立つならば、自分達は最後まで喜んであの人のために仕事をしてやる』、だなんて言ってたんだよ?もう!!そんな話が聞こえてきて、本当に私、びっくりしちゃったんだから!!」
「そ、そうだったのね…」
刻晴は香菱のその話を聞いて、少し驚いた様子を見せる。
「な、なにそれ…。す、凄いね。現場主義ねぇ、そこまで徹底的にやってきたなんて…。これは刻晴の“亡き叔父様”も喜んでいるんじゃないかな……?」
香菱がそう話すと胡桃は驚いた様子を見せると感心した様子で、そうしてどこかニヤニヤとした様子で刻晴にそう言う。
「うんうん、胡桃!!きっと、刻晴の叔父も喜んでいると思うよ!!刻晴がここまでやれてきたんだからさ!!」
「だよね!!香菱!!あの人は誇りに思っているに違いないよ!!」
「~~!!」
「べ、別にそれは……」
「ふふっ」
「ははは」
「~~♪」
そして香菱に胡桃やグゥオパァー達のそれらに刻晴は恥ずかしそうにしてそう呟くと、胡桃に香菱とグゥオパァーの三者はそんな刻晴の様子を見て微笑む。
「成程…。どうやら俺が思っている以上に、璃月港では刻晴殿の噂が広まっているようだな……」
そうして鍾離は香菱の話から璃月港での刻晴の噂が広まっている事について、刻晴に向かってそう呟くように言う。
「えっ、えぇ…、そうですね…。鍾離さん……」
そんな鍾離の言葉に刻晴はまた気恥ずかしそうな様子で応える。
「………」
(うぅっ……、ま、まさかそんな事になっていたなんて……)
そして刻晴は少し気恥ずかしそうにしながら、心の中でそう思う。
「…まぁ、とにかくだ。刻晴殿。先ほどの香菱殿の話も加味して元の話に戻すと、刻晴殿が今まで行ってきた行動と言うのは労働者達の間や七星八門や月海亭の職員達の間で刻晴殿に対しての尊敬や敬意、また畏敬の念を抱かせたりと刻晴殿に対して好意的な印象を持たせるものばかりだ。それ故に刻晴殿の玉衡は本来の玉衡以上の意味合いを持った七星名となりつつあるわけだ…」
そうして鍾離は刻晴の自身の行動について思い返していきながら、彼は話を進めていく。
「___そうしてその結果、今の玉衡というのはある意味で言えば…、俺個人的には『璃月の民達と身近で寄り添う七星の象徴。璃月の民達と苦楽を共にして彼らを理解し、そしてその上であるべき璃月の姿へと模索し、そうして独り自ら璃月の未来への道を切り拓いてゆく存在』……。という風に思えているぞ。俺はな」
「えっ…?そ、そうですか……?」
刻晴は鍾離の言葉に目を丸くしながらそう呟く。
今までの彼女の努力。
それは全ては亡き叔父のため、そして叔父と話し合って出てきた『立派な人』、即ち璃月の民達を代表する『璃月七星』、その七星の『玉衡』の座に座るのに相応しい人物になるため。
かつての最初の頃のような、『玉衡であるのにも関わらずに大勢の人物達から苦言や陰湿な事を言われ続けるような“中途半端な立場”ではなく、文句や苦言等を言わせないほどの誰もが認める程の人物。そうしてかつてのような中途半端な存在ではなく、確実に璃月七星の玉衡として相応しい存在になってやる』、と、そのような誓いを誓ったのがきっかけであった。
そうしてその誓いを胸に刻晴は今まで璃月港で様々な仕事をこなしてきた。そして、そんな彼女のその想いの結果が先ほどのような鍾離の話にも出た璃月七星、玉衡という噂や話……。
そしてそれら彼女が今までしてきた事の結果が今、鍾離の話にもあったように刻晴自身の評価や印象に強く強く反映されてきたのだ。
「………っ」
(わ、私……)
刻晴はそこまで考えると思わず目頭が熱くなるような感覚を覚えてしまう。
「___おやおやぁ、刻晴。どうしたのぉ~?もしかして泣きそうになってる?」
胡桃はジーンとしていた刻晴の事を茶化すかのようにし、ニヤニヤとした様子で刻晴にそう言う。
「そ、そんな事無いわよ……!?」
「えぇ~?本当かなぁ?」
「も、もう…!!本当に何でもないから……!!」
胡桃はそう言うと刻晴の顔を覗き込むかのようにする。そしてそんな胡桃の行動に対して刻晴は少し恥ずかしそうにしながらそう答えた。すると胡桃は更にニヤニヤとした様子になる。
「ふふっ」
「~~♪」
そんな胡桃と刻晴のやり取りを見て香菱とグゥオパァーは微笑ましそうに笑う。
「ふっ」
そしてそんなやり取りを見た鍾離も思わず笑みを浮かべる。
「うぅっ、そ、そんな事無いってばぁ……!!」
「おやおや、恥ずかしがっちゃってぇ~」
「ふふふ、そう恥ずかしがらなくてもいいのに~」
そんなやり取りに対して刻晴は恥ずかしそうにしながらそう言った。そしてそんな刻晴の様子を見て胡桃と香菱の二人は愉快そうに笑うのだった。
「…ははっ、まぁとにかくだ。刻晴殿。刻晴殿はこうして___」
そうして彼女達とのやり取りに笑みを浮かべていた鍾離は、刻晴の方を見て話しを続ける。
「___今までの働きや行動により、刻晴殿はこの璃月港や璃月の大勢の人達から意識的にも無意識的に玉衡として見られるようになった。そしてそんな大勢の彼らに認められた事によって本来の玉衡以上の意味を持つ事に繋がっていき、七星名を秘匿しなければならない理由も本来のそれよりも薄れた。今の玉衡の名を持つ刻晴殿、彼女を利用しようとしたり悪用しようと近づこう者達がいれば、確実に彼らはその者達に対して強烈な反発をするだろうからな。刻晴様を守れ。玉衡様に悪意ある者達を近づけさせるな、と……」
「そ、そう…なんですか?…わ、私なんかが」
刻晴は少し驚いた様子でそう言う。
「あぁ、そうだとも刻晴殿。例えば___」
そしてそんな刻晴に対して鍾離は頷きながら言葉を紡ぐ。
いや、言葉を紡いでしまった。
「___今の月海亭、そうして七星八門内、それぞれの事情によって刻晴の事を良く思ってない勢力。刻晴殿の事を陰で悪く言ったり彼女を煙たがったりするような者達の集まりである『反刻晴派』達に対して、刻晴殿の事を認めて支持を表明し、刻晴殿の事を玉衡として認めて彼女を守る側に付いた集団である『認刻晴派』と言った者達がな」
鍾離はそのような言葉を紡いでしまった。
「___えっ?」
(私の事をよく思わない“反刻晴派”、それに私の事を認める“認刻晴派”…ですって……?)
刻晴は鍾離が発したその言葉に対して、思わず目を丸くし呆然とした様子を見せる。
それらは璃月七星、“天権”の命令によって刻晴の耳に入らないように情報統制されていた事柄。
彼女の為、決して知らせたり、または知る事の無いようにと固く口止めをされていた事柄だった。
「___うん、刻晴殿?そのまさかだとは思うが、刻晴殿はこのような話…。自分の身に関わるこのような噂や多くの話。……まさかとは思うが、今まで知らなかったのか?」
刻晴のその呆然とした様子に疑問を感じたのか、鍾離は少し不思議そうな表情をしてそう刻晴に尋ねる。
「___は、はい。鍾離さん…。その全く知りませんでした」
刻晴は少し声を震えさせながら、そう鍾離に答える。
「___な、なに?」
そうして鍾離はまさかと言った様子で少し驚いた様子を見せ、そして真剣な表情を浮かべながら今の刻晴のその事に関して、それら様々な考えを巡らせ始めたのであった。
遂に月海亭や七星八門の裏側で起きていた『反刻晴派』と『認刻晴派』の存在を知ってしまった“刻晴”。
いよいよ第6幕(より正確には第4幕から続いていました「“刻晴”過去編」)も徐々にクライマックス、また終局へと動き始めていきます。
次回も鍾離と刻晴の続きからです。
それでは次回の投稿まで今しばらくお待ちください。