名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

今回も前回の鍾離と刻晴とのやり取りの続きからです。


_私は知る必要があると思ったのです

Side:刻晴

 

「えっ?反刻晴派、それに認刻晴派?鍾離さん、それはどういう事?」

 

「鍾離さん?え、えぇっと。刻晴のその、その話は一体?」

 

「~~?」

 

鍾離の話を聞いていた胡桃と香菱の二人、そしてグゥオパァーも何かただならぬ事が起き始めたといった様子を見せながら、鍾離と刻晴の顔を交互に見ながらそう尋ねる。

 

「………」

(反刻晴派、それに認刻晴派…)

 

そして鍾離の話を聞いてしまった刻晴は、思わず自身の心臓をバクバクと高鳴らせていた。完全に寝耳に水と言った様子の刻晴は、酷く動揺し焦燥しきった様子でいた。

 

「………ふむ、そう言う事か」

 

そしてまた鍾離は刻晴が今置かれている状況に対してある一つの予感をしていると、刻晴と胡桃と香菱の三人の混乱や困惑した様子など気にも留めていないように、冷静な様子を崩さない様を見せながら視線を鋭くさせる。

 

 

 

「___刻晴殿。申し訳ない」

 

「えっ、鍾離さん?」

 

そうして鍾離は刻晴に謝罪の言葉を口にすると、刻晴は目を見開いて彼の事を呆然としながら見る。

 

「刻晴殿。今のは完全に俺の思慮不足だった。大変申し訳ない。話してしまった矢先でではあるが、今俺が述べた“反刻晴派”と“認刻晴派”の事は忘れて欲しい」

 

「えっ、えぇっと、鍾離さん?」

 

鍾離は真剣な様子で刻晴にそう謝罪し、刻晴は困惑をした様子で鍾離の事を見る。

 

「そ、それってどう言う事?一体どういうことなの?」

 

「うん、そうだね胡桃。鍾離さん、それってどういうことなの?」

 

「ーー?」

 

そして胡桃は困惑した様子でそう言うと、香菱、そしてグゥオパァーですらも同意見といった様子を見せながら首を縦に動かして頷く。

 

「……うむ、それについてだが」

 

そうして鍾離は二人のその反応に対して頷くと、難しそうな表情を浮かべながら自身の顎に手をやる。

 

「本当に申し訳ない。堂主殿、香菱殿。先ほど述べてしまった刻晴殿の話…、それはおそらく刻晴殿に話をしてはならない事、耳に入れてはならない事柄だった」

 

「えっ?ど、どういう事なの……?」

 

「鍾離さん、そ、それって、一体……」

 

すると胡桃と香菱は困惑した様子を崩さずにそう尋ねる。

 

「いや、そ、それはだな……」

 

そして鍾離は自身の頭を手で押さえながらそう呟くように言い、さり気なく刻晴の事を見つめる。刻晴がこの場にいては、その理由を話すことが出来ないという事を暗にそれを示していた。

 

 

「………」

 

刻晴はそして自身を見つめていた鍾離の目を見て彼のそれを察し、そうして気まずそうな様子で視線を逸らして俯く。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

そして胡桃と香菱とグゥオパァーも、鍾離のその様子を見て何かを察したように黙り込む。

 

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

そうして今この場にいる全員が何とも言えない重い空気になっていく。

 

 

 

「___あの、鍾離さん」

 

そして刻晴が鍾離に話しかける。

 

「…どうした、刻晴殿」

 

刻晴に話しかけられた鍾離はそれに応じる。

 

「………」

 

刻晴のその態度と表情は何か覚悟を決めたかのような様子。それはまるで言うのを決心したかのような様子でいた。

 

「……っ」

 

「刻晴…」

 

「ーーー」

 

そんな様子の刻晴の様子に気が付いたのか、胡桃に香菱やグゥオパァーも少し心配そうな様子で見つめる。

 

 

 

 

そうして刻晴はその重々しい口を開いて話す。

 

「___鍾離さん。その“反刻晴派”、そして“認刻晴派”についてを教えてください」

 

刻晴は声を震わせなから、しかしはっきりとした様子で鍾離に対してそう言った。

 

 

「刻晴殿…。それは……」

 

「お願いします。鍾離さん。その…、私の事を良く思っていない人達がいることや私を利用しようとしている人たちがいる事、それらは既に私もなんとなく気づいていました」

 

「………」

 

「ですがそんな彼らに認められるため、鍾離さんが話してくださったような璃月港に降りてあらゆる労働現場を知ったり、また時間のある時や仕事が終わった時には月海亭や総務司と言った七星八門の資料室や記録室に籠って過去のの璃月七星達、先人の七星達の書き留めた資料や記録書を読み漁って彼らから多くの事を学び取り入れてきました」

 

「……そうだな、刻晴殿。確かにその一心で刻晴殿はここまで努力して成果も着実に出し続けてきた事を知っている。そしてそれは決して悪い事ではないし、むしろ正しい事だと言えるだろう」

 

「はい、そうです。全ては月海亭や七星八門の彼らに認められるため、そして叔父様のような“立派な人”、先代玉衡のような“立派な人物”になるべく、ここまで努力し邁進してきました。ですから……」

 

刻晴はそこで一旦言葉を止める。そして彼女はその重い口をゆっくりと開きながら、しかしはっきりとした様子で話を続けていく。

 

 

 

「___私は“反刻晴派”と“認刻晴派”の人達の事を知りたいんです。私は知る必要があると思ったのです」

 

刻晴は思いつめた表情で、そう自らの気持ちを表す。

 

 

 

「ふむ……」

 

するとそんな刻晴の重々しい様子の訴えを聞いた鍾離は難しそうな表情を見せる。

 

「知る必要がある…。それは刻晴殿の言う“立派な人”、“立派な人物”になるために必要な事という事か?」

 

そうして刻晴のそれに対し鍾離は、刻晴の思いを汲み取ったうえでそう尋ねる。

 

「立派な人、立派な人物…。いいえ、厳密に言えば少し違います……」

 

刻晴はそう言うと真っすぐと自身の視線に視線を合わせてくる鍾離を真っすぐに見返し、刻晴はその思いを素直に話していく。

 

「その…、どう言葉にすればいいのか、それが分かりませんが……」

 

刻晴はそう言うと、必死になって言葉を紡ごうとしていく。

 

「私は、その……、私は……」

 

刻晴はそうして少し言葉に詰まってしまった後、自身の思いをまとめようとし、そして話を続けていく。

 

「私は…___」

 

そうして頭の中を巡る多くの考え、また自身を巡る多くの感情とでも言えばいいのか、刻晴はそんな多くのものに振り回され、しかしそれでも自身の思いを言葉にしていこうとしていた。

 

 

 

「___そう。私は、この国が好きだからです」

 

刻晴は静かに、しかし芯のある確かな意思を持って、鍾離に対してそう言った。

 

「ほぉ…?この璃月がか……?」

 

そして鍾離は刻晴の意外過ぎる発言に思わずそう聞き返してしまう。

 

「はい、そうです。この璃月がです…」

 

刻晴はそんな鍾離の質問に対してはっきりとした様子で答える。そして彼女は続けて話を続けていく。

 

「私はこの璃月、帝君や仙人達、そうして数多くの人々の思いを受け止めながら成長してきた璃月というこの国が好き、この国家が本当に大好きなんです」

 

「…帝君や仙人達、そうして数多くの人々の思いを受け止めながら成長してきた璃月がか?」

 

「はい、そうです。本当に大好きです。璃月の数千年の歴史。その歴史の中で多くの苦難や災難、そして喜びがあって、璃月という国は今日に至るまでの成長と発展を遂げてきた。そしてその璃月を、もっと誇りのある国にしていきたい、胸を張って誇れる国にしたい…。この長い歴史を紡いできた璃月という国家をもっとより良い国にしていきたいと思える程にです」

 

「…ふっ、そうか」

 

刻晴の言葉に鍾離はほんのわずかに笑みを浮かべる。

 

「私はそんな璃月、この国家が本当に大好きだから、だからいつかはもっともっと胸を張って誇れるような立派な国になって欲しい。より良い国として人々に認識されて欲しい。そう願いながら私は、璃月七星の玉衡として日々の政務や公務、そしてこの璃月港におりて多くの現場やその現実と言う物を知り、そうして月海亭や七星八門の記録室や資料室で歴代七星達、過去の璃月七星達がどのような思いで、そしてどのような手腕で璃月の問題や課題に立ち向かってきたのか、そう言った過去の記録書や資料達を読み漁ってきました」

 

刻晴はそう自身の思いを告白する。

 

「ふむ……」

 

鍾離は頷く。刻晴に話の続きを話すよう促すかのように。

 

「だから私、そんな璃月が、誇りのあるこの国が本当に大好きなんです。この璃月という国をもっと良い国にしていきたい、より良くして行きたいと心からそう思える程に……。だからいつか私は、私に不満を持つ者達と直接向き合はねばとも考えてました。そうして彼らと対話を通じて彼らの指摘、また璃月のために必要であるのであれば彼らの要求をも飲み、そしてその上で真に玉衡として全うしていきたいんです」

 

「ふむ……」

 

鍾離はそう唸ると刻晴のその思いにどう返答しようかと考える。

 

 

 

「___それに正直、自分でも“おかしい”と思っていたところもありました」

 

「おかしい…?」

 

「はい、鍾離さん」

 

刻晴は鍾離のその質問に対して頷きながら、そう答える。

 

 

「当初の私、私が玉衡に成りたての頃の私は私の事を良く思ってない人が大多数、言うなれば先ほど鍾離さんが述べました“反刻晴派”の人達に常に囲まれながら玉衡の責務を果たしてきていました。そうして毎日毎日、いつも彼らから心無い苦言や苦情等を受け続けました」

 

「………っ」

 

「うわっ……」

 

「えっ……」

 

「ー!!」

 

刻晴のその言葉に鍾離は引きつったような表情を浮かべ、また胡桃は驚いたような表情、そして香菱は深刻そうな表情で思わず声を漏らし、そうしてグゥオパァーまでもが心配そうな声を上げながら刻晴の方に身体を向ける。

 

 

「私の味方と言うのはかつての叔父様の部下や“甘雨”だけ、またその中でも私に寄り添ってくれた完全な味方と言うのは“甘雨”、ただ一人だけでした。私はとても悲しくて、とても辛かったです。あの時の私は完全に私の無力さ、そして私の不甲斐なさを痛感していました。だから私はそんな私に対する批判や苦言に対して何も言い返せず、ただ黙ってその批判や苦言を聞き続けました」

 

刻晴はそう言うとまた少し悲痛そうな表情になる。

 

「全ての批判や苦言は全て正当なもの…。なにも言い返せず、ただただ黙って受け入れるのみ…。とても悔しくて、悲しくて、辛くて……。でも、このままでは駄目だと思って、先ほどの鍾離さんや香菱の話のように様々な努力をしてきました」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

独白のような刻晴の話、その独白の刻晴の思いに胡桃、香菱にグゥオパァー、そして鍾離の三人はただ黙って聞き続ける。

 

「…そうしてようやく今までの努力が実り仕事ができるようになり始め、そして少しずつではありますが私の事を認め始める声が聞こえ始めた時です」

 

刻晴はそこまで言うと、一度話を止め大きく深呼吸をするかのような様子を見せる。

 

 

 

「___なぜか私の事、特に私の職員達からの評判に関する声が急に一切聞こえなくなりました」

 

「…刻晴の評判に関する声が聞こえなくなっただと?」

 

「はい、鍾離さん」

 

鍾離のその反応に刻晴はそう頷く。

 

 

「さすがにおかしいと思って、元叔父様の配下の者達や私の部下達に尋ねてみたり、また月海亭や総務司等で出会った職員達に私の事をどう思っているのかを尋ねてみたのですが、はぐらかされるかのように何も答えてはくれず、何度も何度も避けられました」

 

「うむ、そうか。それは確かにおかしいな……」

 

そう話す鍾離に対して刻晴は頷きながら答える。

 

「はい、その通りです。ただ甘雨だけは私のその質問にも答えてくれて、『認めてくれる人は増えている』とは言ってくれるものの、ですがどこかその答えを曖昧にしたりごまかしているような所があるとも感じ取れました…」

 

「…なるほど、それが刻晴殿の言う“おかしい”という事か」

 

鍾離は納得したように頷く。

 

「えぇ、そうです」

 

刻晴は頷きながら答える。

 

「ですので、私は反刻晴派についてを知りたいのです。彼らの考え、そして彼らの不満を理解したいのです。私の何が不味いのか、何を直さなければならないのか…。今の私は璃月七星の玉衡。この玉衡という重い責務を果たし続けなけばならない責任があります。そしてその責務を果たすため、私になにか致命的な欠点やどうしようもできない不味い点があるのだとしたら…___」

 

刻晴はそこまで言うと鋭い視線をまっすぐと前に向ける。それはまるで、覚悟なぞ既に決まっていると言わんばかりに。

 

 

 

「___私はこの璃月の為に、私の玉衡という座を降ります。そうして私よりも優秀、そして玉衡としてこの璃月を前に引っ張っていける後任の人物に全てを託そうと思います。私が気づかない間に致命的な何かを犯してしまうその前に…。“璃月七星”という立場に未練がないと言えば嘘になりますが、しかしそれでも私はこの璃月という国をもっと良い国にしていきたいと心から思うからこそ、そんな璃月の国に住む人々のためにも、私は私の座から降りるつもりです」

 

刻晴は鍾離の事を強くまっすぐ見つめながらそう言い放つ。それは彼女自身の強い決意の表れであった。

 

 

 

「刻晴殿……」

 

「刻晴……」

 

「……っ」

 

「ー……」

 

そしてそう話す刻晴の覚悟に満ちたその思いに鍾離は目を見開きながら息を呑み、胡桃と香菱にグゥオパァーはその決意に思わず声を漏らし、押し黙ってしまった。

 

「___刻晴殿」

 

そんな様子の刻晴に、鍾離は彼女の名を呼ぶ。

 

「はい、なんでしょうか?鍾離さん?」

 

そして刻晴はそんな様子の鍾離の呼び掛けに対してそう答えると、彼は少し間を置いた後、こう言葉を続けていったのだった。

 

「…いや…、そうだな……。事態は思った以上に複雑である事がよく分かった。そして刻晴殿に尋ねたい。___」

 

鍾離はそこまで言うと一呼吸を置き、そして真剣な顔つきで刻晴を見つめ直しながら再びこう尋ねる。

 

 

 

 

「___刻晴殿は、自らに知らされていない刻晴殿にまつわる話、刻晴殿の身に関する話を聞きたいか?刻晴殿の耳に入る事を防ぐため、わざわざそれらの話やそれら情報をせき止められていたそれ、言うなれば刻晴殿にとっては有害で毒にもなりかねないようなそんな事実を、刻晴殿は聞きたいか?それを知る覚悟はあるのか…?」

 

「___っ!?」

 

そう尋ねる鍾離に刻晴は目を見開いて驚きを見せる。

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

そんな二人の様子を見て胡桃と香菱にグゥオパァーも息を呑みつつ黙ってその二人の様子を見守る事しかできなかった。それはまさに重い沈黙ともいえる。

 

「……」

 

「……」

 

 

当の二人の様子のその圧のある真剣さと空気感が重々しくなる。

 

 

 

そしてやがて刻晴がその重い口を開いた。

 

「……はい」

 

彼女は静かに、しかし力強く頷きながらそう答える。

 

 

 

「そうか。うむ、刻晴殿のその覚悟、確かに受け取った」

 

そして鍾離はそう言うと、また少し間を置きながら話を続ける。

 

 

「では、始めよう。その話についてだが……、まずは一つ、刻晴殿の誤解を解かなければならない事がある」

 

「誤解ですか…?誤解って一体、何の誤解を私はしているんでしょうか?」

 

刻晴は首を傾げて尋ねる。

 

「ふむ……。それは先ほど俺が述べた“反刻晴派”という者達の事だ」

 

「反刻晴派ですか…?それが一体……」

 

刻晴は鍾離の“反刻晴派”という言葉に怪訝そうに首を傾げる。

 

「刻晴殿」

 

そう呼ばれると彼女は顔を上げ、鍾離の事を真っ直ぐ見つめる。

 

「“反刻晴派”、この者達についてだが俺が聞いて知った限りだと、当初の“反刻晴派”というのはどうやら刻晴殿の言う通りに玉衡になったばかりの刻晴に対して不安を、そうして不満を集まる者達であったのだ。だがその反刻晴派の中に刻晴殿に悪意を持つ者。刻晴殿の玉衡の座を狙っている私利私欲に塗れた者。そういった者達が反刻晴派の中に混ざり込み、そして刻晴殿が害を加えられようと誘導を行う者や、また刻晴殿の足を引っ張って失脚させて玉衡の座から引き摺り下ろそうとする者達が混ざっていたようなのだ」

 

「っ!?私に害を…!?私の足を引っ張って、そして失脚を……!?」

 

鍾離のその言葉に刻晴は驚愕する。

 

「うぇ!?嘘ぉっ!?」

 

「えっ!?う、嘘でしょ!?」

 

「ーーー!?」

 

そして鍾離のその言葉を聞いた胡桃と香菱、またグゥオパァーも同様に驚いた様子で思わずそんな声を上げていた。

 

「あぁ、その通りだ」

 

しかし鍾離はそれを気にも留めず話を続ける。

 

「そうして今の現状は、先ほど刻晴殿の話の中にあった甘雨殿の『認めてくれる人は増えている』と彼女が言った通り、反刻晴派の中の刻晴殿に不満を抱いていた者達は刻晴殿の努力や実績を認め、そうして“反刻晴派”から刻晴殿の事を認める“認刻晴派”に移ったり中立の立場を取る者が大多数現れ始めた。そして当初は月海亭や七星八門で幅を利かせていた巨大派閥とも言える“反刻晴派”だがそれが縮小し弱体化し続け、そうして今の反刻晴派に残っている者達、全員が全員そうだとは言わないが今の反刻晴派の実態は___」

 

 

「___刻晴に悪意を持つ者達、刻晴が持つ玉衡を奪おうとしている者達…って事だね?」

 

鍾離がそこまで話した後、胡桃はそう確認するかのように彼に尋ねる。

 

 

 

「あぁ、その通りだ」

 

そしてそれに鍾離は肯定する。

 

「うぇ…。何それ……。ふざけているのにもほどがあるでしょ………」

 

そんな胡桃は反刻晴派に対してドン引きした様子で声を漏らすと、彼女はその顔を怒りに染めたかのように歪める。

 

「うーん…、えげつないねー……。ちょっと、酷すぎて信じられないなー………」

 

「ーーー」

 

そして胡桃と同じように反刻晴派に対してドン引きした様子で声を漏らす香菱に、香菱のその言葉に同意するかのように頷くグゥオパァー。

 

 

「私に悪意を持つ者達…!?私が持っている玉衡を奪おうとしている者達……!?」

 

刻晴は驚愕に満ちた表情を浮かべながら目を見開かせる。

 

自分に不満を持つ者達の集まりであろうと思っていたら、そうではなくまさかの自分に悪意を持っていた者達。まさかの事実に刻晴は動揺を隠せなかった。

 

 

 

 

「___っ!!」

 

そうして動揺していた刻晴はキリッと表情を引き締め、そして鍾離の顔を見つめる。それは早くその話の続きを聞きたいという彼女の強い思いの表れであった。

 

そして刻晴がそんな様子でいる事を確認した後、鍾離は口を開く。

 

「堂主殿の言った通り、今の反刻晴派というのは刻晴殿に何らかの悪意を持つ者達の集まりだ。そんな彼らが刻晴殿の玉衡の座を奪取しようと、虎視眈眈とその機会をうかがっている。そしてその方法はどうやら多岐に渡っているようで、今はだいぶ潜めたものの、その中でもひときわで衝撃的な話だったのが、___」

 

鍾離はそこまで言うと、少し間を置く。そして刻晴の目を真っ直ぐ見つめながらこう話を続けたのだった。

 

「___“刻晴殿の暗殺”だ」

 

「……えっ?」

 

そうして鍾離のその言葉を聞いた刻晴はそう小さく声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

 

 

「___いやぁ、今日はもう本当にお腹いっぱいだわ~。本当に、色んな意味で」

 

「___ははは、そうだな。堂主殿」

 

太陽が傾き始め、璃月港の青空がほんの僅かに橙色に染まり始めた頃の璃月港。

 

そんな空の下を胡桃、そうして鍾離の二人が自らの往生堂に戻るために歩いていた。

 

「あ~ぁ、もう疲れちゃったよ。まさかあんな話を鍾離さんから聞かされるとは思わなかったからさ。…因みにさ、鍾離さん。それらの話、どこで聞いてきたの?」

 

胡桃はそう鍾離に対して尋ねる。

 

「あぁ、それはだな。俺がよく色んな講談を聞きに行く時、その講談が始まる前や講談が終わった後のその時に、たまに俺の周りや俺の後ろで刻晴殿に関する噂をしている者達がいるのだ。それを耳にしてきたのだ」

 

「へぇ、講談ね…。例えば“和裕茶館”とか?講談だけじゃなく、“雲菫”の劇とかをやっているあそこ?」

 

「あぁ、そうだ。間違いないぞ。講談師の講談だけでなく、雲翰社の劇をやる時の舞台の場所でもあるあそこだ」

 

「へぇ~、そうなんだ」

 

胡桃はそう相槌を打つと、少し間を置いてからこう質問する。

 

「…ねぇ、鍾離さん?」

 

「ん?どうした堂主殿?」

 

鍾離はいつも通りの様子で胡桃に尋ね返す。胡桃はどこか不安そう、そして心配そうな表情をその顔いっぱいに浮かべながら鍾離にこう尋ねる。

 

「___刻晴、大丈夫かな?」

 

胡桃はそう不安げに告げた。

 

「それは分からないな。ただ…」

 

鍾離はそう言うと、少し上を向いて璃月港の大空を見上げる。そしてこう言葉を続ける。

 

「刻晴殿は大丈夫だと俺は思うぞ。彼女は、彼女なら…きっと乗り越えられるはずだ___」

 

鍾離は胡桃にそう告げた。

 

「___それに刻晴の事を守ろうと、既に“彼女達”は刻晴の知らぬところで動き回っていているようだしな」

 

そして鍾離は胡桃に聞こえない程の小さな声でそう呟く。

 

「………」

 

そうして鍾離は何げなく顔を璃月港の港湾の方に向ける。

 

「………」

 

璃月港の港湾は青く澄み切った穏やかな波に揺られ、そして青色と橙色の空によって辺り一面を美しく彩られていた。

 

 

「……」

 

そうして黄昏れ始める璃月港の港湾を静かに見つめ続ける鍾離は何か思う所があるように小さく頷く。

 

「___言うなれば彼女を中心とした璃月人達、人間達の大いなる善意と大いなる悪意のぶつかりあい…。もしも“彼女達”がこのまま刻晴の玉衡の座を守りきる事が出来たのならば、それは善意が悪意を打ち消したという事。そしてそれは璃月の自浄作用、璃月人達には自らの間違いや過ちに対して、自らの手でそれを正して改めるだけの強さがあるという事の証明だと言える」

 

鍾離はそう呟くと、どこか感慨深げな表情を浮かべる。

 

 

 

「___もし今のこれでそれが証明されたならば、俺はそろそろ本格的に帝君の座から身を引くべきかを真剣に検討するべきだろう」

 

そして彼は、どこか独り言のようにそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

Side:??

 

 

 

 

 

 

 

「___ふぅ…」

 

一息、とある女性が一息つくとゆったりと自分の席の椅子に背をもたれかける。

 

 

 

「………」

(はぁ…、夜蘭達は上手くはやってはくれたし、夜蘭達のおかげで私の策も想定通りうまく働いてくれたみただけど……)

 

その女性、気品のある白金の髪に真紅の瞳、そしてその身の貴い身分を際立たせるような白と茶、そして黄金を基調としたドレスのような高貴な璃月服に身を包み、その腰に“岩の神の目”を身に着けている女性は思いつめたかのような表情をしながらそう考え込む。

 

 

「どうしても…、“犠牲”は出てしまったのね……」

 

その女性の名は、“凝光”。璃月七星のリーダー。ある意味で璃月の統治者とも言える“天権”の位を戴く人物。

 

そうして彼女の主室にて、ただ独りで思いつめたかのような表情で考え事をしていた。

 

 

 

「………」

 

改めて凝光の視線が机の上にあった幾つかのとある書類、主に二つの事柄に関する書類の文字列に向けられる。

 

 

「………」

 

一つは“とある極秘任務”関連についての報告。凝光自らが決断し承認、そうして夜蘭達に発令した“とある作戦計画”、それらの成否や成果に関する報告。

 

 

 

「………」

 

そして凝光の視線が鋭くなり、その文字列を凝光は追ってゆく。

 

 

そうしてもう一つの方はそれと連動する形で実行した“とある外交計画”の結果とそれらの是非に関する報告。具体的には、夜蘭達の動きと連動するかのように行動を起こしてくれた“モンドの西風騎士団”、“フォンテーヌの警察隊”、“スメールの三十人団”、“稲妻の天領奉行”と言った各国それぞれの動き、それらの結果を取り纏めた書類であった。

 

 

 




何気に凝光視点に入ったのは今回で初めてとなります。

次回は凝光視点となり、また暫くの間は凝光視点で話が進んでいく事になります。


それでは、また次回の投稿まで今しばらくお待ちください。


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