今回は前回の予告通り、凝光視点となります。
なお今回は久々に“独自設定(歴代天権関連等)”が発揮しています。
Side:凝光
「………はぁ」
夜空の璃月港の上空に浮遊する群玉閣。
その群玉閣の内部。群玉閣の主である凝光の執務室とも言える主室にて、その執務室の机上に置かれた書類達。夜蘭達の極秘任務に関する報告の書類、夜蘭達の動きと連動するかのように行動を起こしてくれたモンドとフォンテーヌ、スメールに稲妻の各国それぞれの動き、それらの結果を取り纏めた報告書類、それら最終報告書が凝光の机の上に置かれていた。
そうして凝光は、それに目をやりながら思いつめたかのような表情をする。
「策は無事に成功…。これのおかげで前向きに進められる事に繋がったし、また程度の差はあれど各国との関係性も今以上に強化する事に繋がった……」
(特にフォンテーヌとの今まで以上の関係強化は、“彼ら”の警戒度をより引き上げる事ができたし、それが彼らへの牽制に大きくつながる。またそれに、遺瓏埠にて璃月とフォンテーヌ間の政府的な交流や民間的な交流、これをもっと増やしていこうとフォンテーヌは前向きに検討、推し進めていこうとしているしね…)
凝光は以前に外交ルートを通して各国それぞれの統治機関である“西風騎士団”、“フォンテーヌ政府”、“教令院”、“稲妻幕府”宛てに向けて、『質問状』と称した璃月からの“外交文書”の送付を。
丁度“夜蘭達の極秘作戦”を実行したタイミング。璃月の外交ルートを通じて送付し、そうしてその“夜蘭達の極秘作戦の第二段階を終了する前後のタイミング”でそれぞれの四ヶ国のそれぞれの機関の手元に届くように綿密な計算をした上で、夜蘭達の極秘作戦計画と連動するようにその『質問状』を送り出していた。
「………」
凝光は複雑そうな表情をその顔に浮かべる。その顔に浮かび上がるのは策が無事に成功した事による喜び、そうしてその策の成功を支える上で犠牲となってしまった“彼ら”、夜蘭の配下達に対する申し訳なさや悲しみといった感情。
先日、各国からその質問状に対する返答が外交ルートを通じてここ群玉閣の凝光の元に届いた。
“モンド”、“フォンテーヌ”、“スメール”、“稲妻”の各国の返答内容に関してはそれぞれ、稲妻は彼女の想定通り、モンドはやや想定以上、そしてフォンテーヌは想定以上、そうしてスメールは想定よりややずれている所はあるものの概ね想定内の返答内容であり、そうして凝光が求めていた“彼らの行動”をも得られる事ができた。
そして凝光が望んでいたこれらの結果が得られた事により、この璃月の裏に潜んでいる“彼ら”に対して強力な‘圧力’や‘牽制’を与えられた。また彼らに協力していると思われる各国の外国裏勢力というべき“彼ら”に対しても強力な‘警告’を発信する事にも繋がっただろう。
モンドの西風騎士団、フォンテーヌの警察隊、スメールの三十人団、稲妻の天領奉行、これら四ヶ国のそれぞれが璃月からの『質問状』の内容に従って事実確認や調査活動をほぼ同時のタイミングで実行したという事実。これは見方によっては協力している現地の外国勢力一斉検挙への動きと認識したり、璃月の裏側にいる“彼ら”に対する各国共同の包囲網構築の動きと見て取れるだろう。
そうしてそれは璃月七星“天権”、凝光の堅い意志を強く彼らに示す事に繋がり、そうして彼らを委縮させ怯ませる事により、凝光の望み通りに事態が展開していく事に繋がった。
璃月裏社会の彼らが委縮して全体活動が縮小、そうして彼らの刻晴に関連する動きが完全に停止。また彼らに協力していた外国勢力も凝光が送り込んだ璃月の特殊部隊の動きと現地の統治機関の動きによって混乱に陥っていると。
「………」
凝光は目を閉じる。そうして祈るかのように天井を仰ぎ、璃月の夜空に浮遊する群玉閣の主は祈る。
凝光の策、その策を有効に機能させるために尽力した夜蘭の配下達、そうして尽力を尽くしたが末にその命を落としてしまった者達。
彼らの犠牲は決して無駄ではない、その犠牲の先に“彼女”を、そうしてこの“璃月”を動乱から守りきるという結果に繋がるのであろうと。
「___夜蘭…」
凝光は目を開けて、彼女の名を呼ぶ。
“スメール方面隊”の彼ら、帰還予定日になっても誰一人も璃月港に現れず、そうして夜蘭が放った彼女の配下達の調査結果。
___無事にスメールでの任務は果たせたものの、任務を終了し璃月への撤退時に“彼ら”からの壊滅的打撃を受けた。
夜蘭の配下達のその報告、そして璃月に帰還した彼女が放った調査員達の報告で、“彼ら全員”が命を落とした事を知った夜蘭。
「___ごめんなさい、本当に…」
凝光はそう一言呟く。
今でも夜蘭のあの顔、あの姿を忘れる事が出来ない。
いつものように定期報告を行うために夜蘭がこの群玉閣を訪れ、そうして夜蘭と凝光が共に会話を楽しんでいた時。その時に夜蘭がスメールに放った調査員達が璃月に帰還しそのまま急ぎで夜蘭がいる群玉閣まで上がってきて、夜蘭と共に報告を受けた際のそれが判明した際の夜蘭。
その時が唯一、彼女があそこまで酷く取り乱した時だった。あの時の彼女は今まで見た事が無いほどの酷い動揺と焦り、そして自らに対する激しい怒りの感情。
その時の事は今でも鮮明に思い出す事が出来る。
そうして、その調査結果の内容というのは___。
「はぁ………」
凝光はまたも、小さな溜息をつく。
___『行方不明の“スメール方面隊”の彼らは無事に任務を完遂。予定通り帰還の為に撤退を開始したがその撤退中の最中に“彼ら”の襲撃、またその彼らが雇った“傭兵達”の追撃を受けた。そして彼らから逃走を行っていたが、彼らの誘導によって“死域”と呼ばれるスメール領内で見かける異常危険現象、雨林の植物を枯らして動物や人の命を脅かし、そうして凶暴化した魔物達が跋扈している危険領域の死域に誘導されてしまった事。そうして最終的に死域の侵蝕や凶暴化した魔物達の攻撃、また彼らと傭兵達が敷いた包囲網により孤立、壊滅状態となっていき、そしてスメールでの彼らの消息を絶ったという結末が極めて高い』
これが調査結果の内容だ。
そしてその報告に動揺と焦りを隠しきれずにいる夜蘭が酷く歪ませた顔をし、そして夜蘭自身も気づけないほど激しく彼女の配下に詰めるように詳細の説明を求めるという普段の夜蘭とはかけ離れた醜態を晒した。
そうして見かねた凝光が夜蘭を落ち着かせようとした結果、夜蘭と凝光の激しい口論や口喧嘩に発展してしまったのを今でも鮮明に思い出す事が出来る。
「……ふっ」
凝光は自嘲気味に小さく笑う。
夜蘭にすまないという思いがある反面、未だに残る凝光を罵倒した夜蘭へのちょっとした怒りや対抗心、その感情が凝光の笑みを浮かび上がらせる。
「___ふぅ」
(___だけど本当に良かったわ。夜蘭は、無事に璃月に帰って来れて…)
そうして凝光は一呼吸、そしてまた一呼吸すると、落ち着いたかのようにその真紅の瞳を鋭くさせる。
“スメール方面隊”の彼らが壊滅して帰らぬ人達となってしまったことは痛恨の極みである事に間違いは無いが、だが彼らの身を挺した尽力や犠牲のおかげで璃月を取り巻く状況というのは大きく好転し始めている。
それに夜蘭が直接率いていた“フォンテーヌ方面隊”は目的を果たしたうえで無傷で全員無事に璃月に帰還できた。
また“モンド方面隊”の方や“稲妻方面隊”に関しても、モンド方面隊であれば主に『ドーマンポートで活動中に“彼ら”に協力していると思われる闇の住人たちの襲撃』と言ったトラブルがあったり、『璃月への帰還時に謎の人物達による追跡』が。
また稲妻方面隊であれば『潜入調査活動中に高度に組織化された集団だと思われる謎の人物達による尾行や自分達への諜報活動や調査活動』と言った不穏な動き、そして『稲妻で“彼ら”に協力していると思われる闇の住人たちの襲撃』と、全員が全員無傷で帰還とはいかなかった。
だがそれでもその結果と言うのは、モンドであれば少数の軽傷という損害程度でドーマンポートでの目的を果たせられ、帰還時には謎の人物達による追跡、主に“黒のコートに赤い髪の姿で炎の神の目持ちの男性”と“西風教会の修道女の格好をした氷の神の目持ちの女性”の二人組による追跡は確かに受けていたものの、なぜか追跡を受けながらの帰還中に遭遇してしまったアビス教団の魔物や魔術師達の集団をその二人組が引き受け、そうして結果的には自分達はその者達から見逃されたという不思議が散見。
また稲妻であれば稲妻潜入の前期ではその高度に組織化された集団の謎の人物達は璃月の秘密工作員達とは完全な敵対関係であり、何人かの璃月の特殊部隊の隊員達は稲妻の諜報工作員、言うなれば稲妻で言う“忍者”と呼ばれる者達と偶発的な衝突や剣を軽く交える程のちょっとした戦闘行動を行う程度には勃発した。
だが稲妻潜入の中期は彼らはまるで中立的な立場を取る事で、自分達の活動を邪魔するような事は無くなって自分達の行動を黙認でもするかのように見逃されるようになった。
またそうして稲妻潜入の後期や終期に至っては時折に自分達の活動を間接的に支援するような動き、そしてその仕舞には稲妻の“彼ら”の協力者達である闇の住人達の襲撃の際、まさかのその稲妻の忍者達、稲妻方面隊の言葉曰く稲妻の闇の住人達から“終末番”と呼ばれたその忍者達が直接援護したり自分達璃月の隊員達の隣に立って共闘する、という事態も発生してそのおかげで稲妻方面隊もほぼ全員が無傷で璃月まで帰還する事が出来た。
スメール方面隊の面々は確かに壊滅、全滅してしまったためにこれは御の字とは言えないが、だがその結果は決して悪くないものだ。
それ以外の三国方面隊の面々は目的を果たし、そうして全員が璃月港に戻ってくる事ができたのだから思いがけない幸運とも言えるだろう。
「…ふぅ」
凝光はまた一呼吸する。
「本当に…、良かったわ」
そしてそう呟くと、凝光の顔にはどこか安堵や安息といったような感情が浮かんでいた。
「……ふぅ~」
(これを機に本格的に“創設”を検討した方がいいのかしら…?)
凝光は
璃月港、群玉閣の主である凝光は今現在その主室において一人、煙管を吹かせながら“とある考え事”にふけいる。
「………」
凝光は目を閉じて、思考の海に浸る。
今彼女が行っている思考とは、現在進行形で彼女に降りかかる璃月七星としての政務や公務に関係する内容ではない。だがしかし璃月の今後、特に“璃月の安全保障等に直結するであろう非常に重要な案件”であった。
「………」
今回の凝光が承認した“極秘作戦”と言うのは、彼女にとってある意味で言えば賭けとも言えるような内容でもあった。
今回の目的を達成する為には、千岩軍を動かす事は出来ないという制約があった。千岩軍を動かしてしまうと動きが大きくなりすぎてしまって“彼ら”に勘ずかれてしまう恐れが非常に高い。
そこで凝光はかつて七星達、歴代の天権が試験的に設立、そうして運用を行っていた璃月港や望舒旅館にいる彼女の調査員達や諜報員達の彼ら、そして彼女の配下にいる夜蘭やその彼女の部下。また夜蘭本人や彼女の部下に慕われている者達の数十名を動員し、その“極秘作戦”を遂行するための臨時で即席の『特殊部隊群』を急遽発足させるという方法をとる事とした。
そうして凝光の命令によって夜蘭を中心とするその特殊部隊達は璃月の遺瓏埠、そしてモンドのドーマンポート、スメールのバイダ港、フォンテーヌのルミドゥースハーバー、稲妻の離島にて潜入を行い、各地点の現地を中心に諜報活動や情報工作活動、そうして各国の彼らに協力している彼らへの工作活動を行った。
そしてその結果はというのは、確かな人的損害は出てしまったもののそれ以上の大きな結果、つまりは多大な成果を上げてくれた。
「………」
凝光は目をゆっくりと開けながら、その真紅の瞳を天井へと向ける。
凝光は思考する。
今回の結果や成果を受けて、改めて璃月の特殊部隊的な存在は有益で有効、場合によってはそのような存在が必要となる局面も出てくるだろうし、また可能な限り信頼し信用する事の出来る璃月の諜報員達や調査員達を増やし、そうして璃月の諜報能力の引き上げや強化、それらを積極的に行っていく事も検討するべきだろうかと考える。
情報の重要性。それはあらゆる物事に通ずる最低限の常識のようなもの。
仕事においても、ビジネスにおいても、そして戦場においても情報というのはその重要性が欠かす事の出来ないものである。
情報という武器、それを完璧に扱う事が出来たのであれば、それはある種において“圧倒的な力”とも言える。
そうして古来より情報戦と言う戦場を完全に制する者が、その後に起きるあらゆる戦場を圧倒的優位、圧倒的に有利な立場や状態で戦う事が可能となって勝利する事が出来るというのが定石だ。
___情報は力だ、だから決して軽視してはならない。
「…正式な“天権直属”。ゆくゆくは“七星直属”の___」
(璃月の影の機関たる『秘密諜報機関』を___)
凝光は静かにそう呟く。
今のような凝光が直接指示、そうして秘密調査官達や諜報員達を彼女が直接用いるという形態ではなく、それ専属の機関を設置する事で高度に組織化された秘密調査官達や諜報員達が、より高いレベルの情報収集活動を実行し、場合によっては情報入手のための潜入作戦活動、時には工作活動や必要に応じて武力行使をも行えるような高度に組織化された璃月の影に潜む秘密機関を創設する。
そのような機関があれば、璃月に害を為さんとする者達への強烈な抑止力。またもしもその者達が行動を起こそうとしたその瞬間に、それを事前に察知していた璃月のその秘密諜報機関が差し向けた潜入部隊や特殊部隊の先制攻撃で一気にその者達を鎮圧したり、その者達の企みを阻止したり頓挫させる事が可能となる。
またそれとは逆に璃月港の月海亭や七星八門内に秘密諜報機関の諜報員達を置いておけば、万が一それら内部に間者が潜んでいたとしても監視によって彼らを見つけ出す事が可能となるし、そうしてその者達の行動や活動への阻害に繋がっていくため、いずれにせよ璃月の安全保障関連の能力と言うのは格段的に上がる事だろう。
「………ふふっ」
そうして凝光は小さく笑う。
「私や私達をここまで動かしたのだから、必ず“彼女”には“先代玉衡”を超えるような立派で素晴らしい人物になってもらわないといけないわね___」
凝光はそう呟くとその真紅の瞳を輝かせ、そうして小さな笑みを作る。
「___ね、“刻晴”」
そうして凝光は小さく、璃月港の夜空に浮遊する群玉閣の主は、そう呟く。
そしてその時であった。
「___失礼します。凝光さん」
「あら?___」
独り自分の世界に入っていた凝光の耳に聞き慣れた声。凝光は声のした方向に視線を向ける。
「___“甘雨”」
「凝光さん、今お時間よろしいでしょうか?」
凝光の視線の先には璃月七星全体の秘書を務めている“甘雨”、彼女がそこにいた。
「どうしたのかしら、甘雨?」
凝光は思わず甘雨に気づかれないほどの、ほんの僅かな引きつった顔程度に抑えながら彼女に尋ねる。
正直今の甘雨は、今までのように信用信頼できる秘書という訳ではない。
それは凝光の耳に入ってしまった『甘雨が隠れた反刻晴派の人物。また反刻晴派内に潜んでいる“彼ら”いずれかの勢力と手を組んでいる可能性がある』という情報。
その情報が緊急報告として凝光の耳に入り、そしてまたそれを裏付けるように複数の情報筋からそれに関連する情報が入ってしまったが故。
「………」
凝光の身体が僅かにこわばる。
だが決定的な証拠はない。あくまでもそう言う話や噂が出回っていたということだけ。
それに不可解な点として、それは不自然に急にそのような噂が流れだしたという事であり、その不自然な点を凝光配下の調査員達や“夜蘭”本人から受けた。
そうして甘雨に関しての調査を行おうにも今の凝光が持つ彼女の調査能力や諜報能力と言うのは、先日行われた特殊部隊群による極秘作戦の損害による機能不全や、参加した調査員達や諜報員達の疲労回復や体力回復の為の休息が充分に終えてないがため著しく低下している。
また参加していない者達もその極秘作戦に参加した者達の穴埋めを行ったために負担は大きく、その時に受けた負荷からの回復が満足に終えてない状態で、璃月港内の監視活動に半分無理やり戻していたために、甘雨本人関する調査や甘雨の身辺調査等を未だに行う事すら出来ていなかった。
「………はぁ」
(駄目ね…。夜蘭に甘雨を疑わなくても大丈夫と言われたのに……。甘雨を信じなさいと言われたのに………)
意外と私も疲れているのかしら、と凝光は自己嫌悪に陥る。
だが夜蘭だけは、『今の甘雨は様々な噂や憶測が飛び交っているが、彼女は白で間違いはない』と言い切っていた。
それはやはり不自然にその噂が急速に広まっていったという事。
観察している限りでは確かに彼女自身で言葉で刻晴の事を叩いたり否定しているものの、彼女の態度まで観察するとどうしても彼女に刻晴への完全なる悪意と言う物が感じられなかった事。
そうして今までの刻晴と甘雨の関係と言うのはとても良好で、かつお互いに切っても切れない程の強い信用関係や信頼関係が築け、そうしてそれらによって結ばれていると見て取れる事から、刻晴を裏切るなんてありえないとの事。
むしろ今の彼女の心情や信念、そうして胸の内に秘めているであろう思いを鑑みるに、彼女はとても危ない橋を渡っているのではないか。
それこそもしかしたら周囲の人間に自らは反刻晴派であると言いふらかしたり、彼女の協力者の協力で甘雨の悪い噂や話を七星八門や月海亭内で浸透させる事で、甘雨は刻晴を守るためにわざと反刻晴派の人物へと堕ちたと見せかけ、そうして反刻晴派の影に潜む“彼ら”の接触の機会をうかがっているのではないか。全ては刻晴を守り切るために、と。
もしそうであれば、ある意味彼女は自らの命を懸けて反刻晴派に潜入しているという事になり、刻晴を甘雨が身体を張って守っていると言っても過言ではないという事になる。
「…?あ、あの凝光さん…?どうかなさいましたか……?」
その時、甘雨が凝光の顔を不安そうな表情で覗き込む。
「___!?」
(あっ…!?)
凝光は思考を一旦停止すると、凝光に不安そうな表情を向けていた甘雨に対して“大丈夫”とでも言うかのように笑みを浮かべる。
「……いえ、何でも無いわ」
「……?」
凝光はそう言ってもう一度“大丈夫”だと伝えるが、それでも未だにどこか不安そうにする甘雨に対して凝光は小さく溜息を吐くと、そのまま話を切り出す。
「……それで?何か用かしら?」
「はい、あの、実はその…。今、凝光さんに会って欲しい方がいらっしゃいまして……」
甘雨は言いづらそうにそう呟く。
「甘雨…。今、会わないと駄目かしら?もうこんな夜更けなのだけれど……。仕事はもう終わったとはいえ、今とても疲れてるのよ。甘雨に悪いけど……」
凝光は溜息を吐きながら甘雨にそう言い、そして甘雨から視線を外す。
「え、えーっと……それはその……」
甘雨は凝光のその言葉にたじろぎ、そうして言いづらそうにする。
「とりあえず、客人の対応だったらもう後日に回して頂戴。明日も仕事があるし、それに明日の予定からして午前中はかなり忙しくなりそうだからね…。客人対応なら明後日に回して頂戴……。それじゃあ、甘雨。貴女はもう下がりなさい。私はもうそろそろ寝ようと思うから………」
凝光はそう言うと、甘雨を下がらせようとし___。
「___ほぉ天権殿、いや凝光殿はわざわざこの群玉閣を訪れた私に対してそう冷たく当たるのか?私は凝光殿に“大切な話”があるから、こうして“甘雨先輩”に頼み込んでこの群玉閣まで上がらせてもらったのだが」
___甘雨が下がらせようとしたまさにその時、甘雨の後ろからとある女性の声がした。
「___あら、“貴女”は…?」
凝光は視線を戻し、甘雨の後ろにいる人物を見る。
「___やぁ天権、凝光殿。私は“煙緋”。初めまして、とでも言うべきかな?こうして凝光殿と直接面と面を向かって話すのは初めてだな」
そこには翡翠の瞳に、薄めの朱の髪。金の装飾が施された赤い帽子に璃月の薄着を身に纏い、そして腰に“炎の神の目”を身に着けている彼女、そうしてなんらかの書類を抱えるように手にしていた“煙緋”が凝光に名乗りを上げていたのであった。
遂に璃月の法律を司る七星天権の“凝光”と、璃月港で有名な法律家であり法律家の頂点に立つ者である“煙緋”が邂逅。
次回はそんな二人と甘雨を交えたやり取りのシーンとなります。
なお今回出てきた『秘密諜報機関』、過去に旧作を読んでくださった方であればこれが何を示しているのかが分かると思います。
また今回の刻晴を巡るこの出来事はある意味、本作品の主人公(あまりにも刻晴の過去編が長すぎたため存在感が薄れてしまっていますが。)の瞬詠と夜蘭が深く関わり合いある“その機関”、それがいずれ設立されることになったきっかけの一つという側面もあります。
それでは次回は先ほどの凝光と煙緋、そうして甘雨達のシーンからとなります。
また次回の投稿まで、今しばらくお待ちください。