今回は前回の予告通りに刻晴視点、また独自設定が思いっきり発揮しております。
Side:刻晴
「………」
刻晴は独り、今は亡き先代玉衡であった刻晴の叔父の部屋にて、彼の部屋で彼が集めてきた本を読みながら物思いにふける。
彼女が目にしていたのは、岩王帝君や璃月の仙人達に関する内容が掛かれた古書、また璃月の伝統文化に関する書物。かつて璃月伝統文化の学者という側面を持ち、そうして璃月の文化や伝統、祭事が好きであった叔父が集めたその多くの書物。
「………」
そしてそんな彼女は独り、叔父がよく読み漁っていたそれらの本を読む。
___そうする事で、刻晴が少しでも叔父に近づけるような気がして、そしてまた刻晴のすぐ近くに叔父が居てくれるような気がして。
「___ふぅ」
そうして、刻晴は本を読み終え、その本をパタンと閉じると、彼女は小さくため息を吐いたのであった。
「…さてと、出かけようかしら」
刻晴はそう言うと、彼女は椅子から立ち上がり書斎から出ようと扉の方へと向かう。
そうして刻晴は自分の屋敷を後にしたのであった。
「………」
太陽が真上の辺りまで昇った頃の昼間。
今日も璃月港の住民達に商会に務める者達や港湾を始めとした場所で肉体労働を行う労働者達、月海亭や七星八門の職員達や千岩軍の兵士達、そして璃月港を訪れた外国人の商人達や観光客達、また物資の補給や休息の為に璃月港に立ち寄った冒険者達らと言った者達がそれぞれあちらこちらを歩き回り盛大な賑わいを見せ、璃月港は今日も今日とて多くの者達で賑わっていた。
そうしてそんな璃月港から少し離れた場所。璃月港の郊外にて、決して大きいとは言えないものの璃月港や璃月で生を終えた者達が眠っている墓地が立ち並んでいた。
璃月港の外れ、璃月という国家の中心的な施設や人物達が多く集う区画である『玉京台』から少し離れた小高い丘の上にひっそりと構えているその墓地。
璃月港の美しい景色が望めるその場所は、璃月港の総務司の職員達による管理によって定期的に門や塀の周辺、墓地の敷地内を掃除されていた。またその墓地の敷地内やその周辺は専属の千岩軍の警備兵達によって昼夜問わずに常に巡回されており、墓荒らしと言った危険をも完全に排除されていた。
璃月の民達と言えど、おいそれと気楽には立ち入る事のできない場所。
官民問わず璃月や璃月港の発展に貢献した者達、そして歴代七星の中でも璃月発展の何かしらの改革に成功し実績や功績を遺した者達、そんな彼らが璃月港の行く末を静かに見守り続けた場所。
そしてその者達が眠る墓地。汗と知恵、そうして自らが持ちざる全ての力を以て璃月や璃月人達の黄金と繁栄の為、その力をし尽くしてきた者達が眠る霊廟とも言える場所。
「………」
璃月港を一望できるそんな見晴らしの良い場所、人知れずの隠された美しき霊廟の如しその場所。
その場に小さな花束を携えていた刻晴は、独り訪れていた。
「………」
完全に外界と隔絶されたような静かな空間。その場に足を踏み入れていた刻晴は、かつて璃月に力を尽くして来た者達の墓のそれらを見ながら静かに歩き続ける。
そして刻晴はようやく目的の場所に辿り着く。
「…あら?」
(あれって…)
刻晴は視線の先、先代玉衡であった彼女の叔父の墓の前に“とある人物”が立っているのを発見した。
「………」
その人物はその墓の目の前で目を閉じ、そうしてお辞儀をしていた。
それはまるで、“その墓の主”に対する敬意を示すように。
「___甘雨?」
刻晴は思わず、その人物に向かって呼びかけるように呟く。
「えっ?あっ……」
甘雨は刻晴の声に反応し、慌てて閉じていた目を開けて、そうしてこちらに顔を向ける。
「……これは、奇遇ですね。刻晴さん。こんにちは」
甘雨はニコッと笑いながら、刻晴に挨拶を行う。そんな甘雨の腕の中には“彼”へのお供え物だろうか、刻晴と同じように小さな花束が抱えられていた。
「えぇ、こんにちは甘雨。貴女も叔父様のお参りに来たの?」
刻晴は甘雨にそう問いかける。
「はい、そうです……」
甘雨はそう呟くと、どこか遠い目で刻晴の叔父の墓を見つめる。
「ふぅん…」
(甘雨もね…)
刻晴は甘雨のその呟きを聞き、そして甘雨が叔父の墓地を訪れていたという事実に対して意外そうに、また感心したかのように頷く。そうして改めて先代玉衡であった叔父の人望や人徳、そうして偉大さを知る。
彼がこの世を去ってから、それなり以上の月日は経っているにも関わらずに自分以外の人物が、甘雨が今もなおこうしてここに訪れて叔父の墓参りをしている。
それはきっと、彼女がそれだけこの叔父の事を敬意を抱いていたという事であり、そしてまた今でもまだその想いが強く彼女の心の中に残っているという事だ。
「……ふふっ」
刻晴はそんな甘雨の様子を見て少しだけ嬉しそうな表情を浮かべると、そうしてすぐに刻晴は「ねぇ」と彼女に再び声をかける。
「はい、なんですか?」
甘雨は刻晴にそう問いかけると、刻晴は「えぇ」と言って続ける。
「折角の機会だから、私と一緒に叔父様のお参りをしないかしら…?その方が、きっと叔父様も喜んでくれると思うわ」
刻晴は甘雨にそう提案し、そうして「どうかしら?」と更に続けた。
「えっ…?」
甘雨は刻晴のその言葉にきょとんとする。
「___はい、刻晴さん。刻晴さんさえよろしければ、是非ご一緒させて下さい」
そして甘雨は嬉しそうに笑みを浮かべながら、刻晴に対して頷く。
「えぇ、勿論よ。一緒に叔父様に挨拶を、そしてお参りをしましょう」
「はい、刻晴さん。ただ、先代玉衡様のお墓の周辺にいくつか雑草が生え始めているようなので、まずはそちらの方を片付けましょうか。このまま放っておいてしまうと雑草が生えて、先代玉衡様の墓所が汚れてしまいます…」
甘雨は彼の墓石の周りで生え始めている雑草の様子を見ながら、刻晴に向かってそう話す。
「あら……」
(気づかなかったわ……)
甘雨にそう言われ、刻晴は改めて先代玉衡の墓石とその周辺を見渡す。そして確かに、甘雨が言う通り彼の墓の周囲の地面には小さな雑草が生え始めている事に気付く。
「えぇ、そうね。それはいけないわね。ならまずはこの周りの雑草を片付けましょう。それに草むしりをするのであれば、叔父様の墓石の汚れも落としましょう。すぐそこで雑巾とかを借りてくるわ」
「分かりました。刻晴さん、お願いします」
刻晴は甘雨に対してそう返すと、二人は早速行動を開始する。
そうして二人が始めた草むしりや雑草取り、そうして水かけや雑巾による乾拭き等により、二人の周囲や彼の墓石はすぐに綺麗になっていった。
「これでよし…」
「はい、そうですね。刻晴さん…」
刻晴と甘雨は満足そうに、綺麗になった彼の墓を見つめる。
「叔父様…」
「先代玉衡様…」
刻晴と甘雨はじっと彼の墓を見つめながら、どこか遠い目で彼に語り掛けるように、彼が目の前に居るかのように虚空に向かってそう呟く。
「………」
「………」
そうして刻晴と甘雨はそれぞれの花束を墓前に置くと、二人で一緒に目を瞑る。
そして暫くの間、彼の墓に祈りを捧げるように目を閉じ黙とうを捧げ続けたのであった…。
「___刻晴さん」
そしてその時、甘雨は刻晴にそう呼びかける。
「なに?甘雨?」
刻晴は甘雨が自分を呼んだ事に気付き、甘雨の方に視線を向ける。
「…なんだか、貴女とこうして二人っきりで話したり一緒に歩くのは随分と久しい気がします。こうして二人で話すのはいつぶりでしょうか」
そんな刻晴に甘雨は少し嬉しそうに、そして少し寂しそうに笑いながら刻晴に向かってそう問いかける。
「そうね……。確かに、私もそう思うわ……」
刻晴も甘雨の言葉に同意するように頷く。
「……ふふっ」
刻晴は思わず笑みを浮かべる。なんだか懐かしい気かがしてしまう。実際はそこまで長い間、こうして彼女と会っていなかったわけではない。
けれど何故か、甘雨とこうして二人っきりで話すのは久しく感じてしまう……。そんな気がするのだ。
「___はぁ、本当に駄目ね。私ったら…」
(璃月七星の玉衡として、立派な人物になるためには甘雨に依存してはいけないのに…ね……」
刻晴は困ったような笑みを浮かべながらため息をつく。まだまだ自分には甘い所がある。
玉衡として、秘書の甘雨に頼るのは良いにしろ依存しては駄目だと頭では分かっているのに……。
「どうしたんですか?刻晴さん?」
「いえ、なんでもないわ…。気にしないで、甘雨……」
甘雨に尋ねられ刻晴はそう返す。
___そしてそれと同時に思う。甘雨に関する自分が集めた“あの噂”、あれは確実に間違いであるという事を。
「そう言えば、刻晴さん」
その時、甘雨が刻晴に向かってそう声をかける。
「なに?どうしたの、甘雨?」
刻晴は甘雨にそう返す。
「はい、刻晴さん。刻晴さんはこの後、どうなさるのですか?」
「この後?そうね…」
(今日は特にこれといった用事もないしね……)
刻晴は甘雨にそう尋ねられ、顎に手を当てて考える。
「___今日は特にやる事もないし、どこかに出かける用事もあるわけじゃないから、このまま屋敷に戻ろうかとも考えていたけど…。ただ、そうね……」
(せっかく時間もあるわけだし、せっかくなら…)
刻晴は甘雨にそう返すと、その後に続くようにまた思考する。
せっかく時間を持て余しているのならこのまま屋敷に戻るのも良いが……。
ただ今日は叔父の墓参りを行い、そうして彼の事を思い返したのだ。
ならばせっかくならこの機会を利用し、そしてこの璃月港をあちこちを巡りながら生前の彼との思い出を振り返りつつ、改めて叔父との記憶を振り返るのも良いだろう……。
そう刻晴は考えたのだ。
「えぇ、そうね。せっかくこうして時間もあるのだから……璃月港を少し散歩する事にするつもりよ」
刻晴は甘雨に向かって微笑みながらそう言う。
「散歩ですか?」
「そう。今日はこうして叔父様の墓参りをしたわけだし、この機会に璃月港をあちこち散策しながら、叔父様との思い出を振り返る事にするわ」
刻晴は甘雨に向かってそう話す。
「なるほど…。散歩をする事で刻晴さんと彼の軌跡を辿りながら、彼と共に歩んだ刻を過ごすわけですね……」
甘雨は刻晴に対してそう言うと、彼女は納得したように頷く。
「あの刻晴さん。それだったら私もご一緒してもよろしいでしょうか?私も刻晴さんと一緒に散歩を、そうして彼の面影巡りをしていきたいです。よろしいでしょうか、刻晴さん…?」
甘雨は刻晴に対してそう問いかける。
「えぇ、もちろんよ。甘雨。だけど、大丈夫なの?七星の秘書の仕事は?」
「大丈夫です。刻晴さん。今日の刻晴さん以外の七星様達の予定は、それぞれの全員のスケジュールが忙しくはなく私がいる必要はなさそうであったこと、そして月海亭や七星八門の方でもなにか七星様達への緊急の案件が起きそうなことや起きる気配もなかったこと。それらのその全ての確認を取り終えていますので、安心して下さい」
甘雨は刻晴に向かって、微笑みながらそう言う。
「ふふっ、あらそうなのね?」
(流石、甘雨ね)
刻晴は甘雨のその言葉に思わず笑みが零れる。
「はい、そうです。刻晴さん。それに今日は色々と、“刻晴さんの傍に居た方が都合が良かった”ので…」
また甘雨は刻晴のその言葉に笑みを浮かべつつ、ほんの僅かに含みや意味深な口調でそう話す。
「えっ?私の傍に居た方が都合が良い…?どういうことかしら……?」
そうして刻晴は、甘雨の言葉に対して疑問を持つ。
「ふふっ…。まぁ、それは“秘密”です。後でそれが何なのか。今日、『“それ”が後に分かります』ので」
そんな刻晴に甘雨は少し意味深な笑みを浮かべてそう話す。
「秘密……?」
(どういう事かしら?)
刻晴は思わず首を傾げて、そうして辺りを見渡しながら考える。だが、結局分からずじまいだった。
「…ふーん。まぁ、良いわよ。別に。それが何なのかを楽しみに待つことにするわ」
刻晴は甘雨に向かって、そう返す。甘雨にはぐらかされてしまったが、不思議と悪い気はしていない。むしろなんだか少し楽しみな気すらする…。
「えぇ、そうして頂ければ幸いです。刻晴さん」
そんな刻晴に甘雨はどこか嬉しそうに笑いながらそう返し、そうしてニコリと微笑む。
「へぇ、そう。分かったわ。それじゃあ、甘雨」
「はい、刻晴さん。行きましょう。先代玉衡様の面影巡りです」
甘雨は刻晴に向かってそう言うと、刻晴は甘雨に向かって頷く。
「えぇ、そうね。甘雨、行きましょう。幼い頃の私、そして叔父様との足取りを辿りながら璃月港を散歩する事にしましょう」
「はい、刻晴さん。では行きましょうか。私達のゆっくりとした日常…、かつて刻晴さんが彼と過ごした“在りし日々”を……」
甘雨は刻晴に向かってそう言うと二人は一緒に並び、そうして刻晴の叔父が眠る先代玉衡の眠る墓地に背を向けて璃月港の方へと歩き始める。
刻晴と甘雨の二人っきりの璃月港の散策。それはかつて幼き頃の刻晴、彼女の記憶を辿るかのように…。
「___うわぁ、本当に綺麗な夕日ですね」
「___えぇ、そうでしょう。ここから見える夕日、本当に綺麗で、小さい頃に叔父様に連れられてこの光景を見ていたの」
璃月港の大空が紅葉のように鮮やかな赤に色づいた時間、刻晴は甘雨と共に璃月港の『玉京台地区』、そこのとあるちょっとした高台の場所で沈んでゆく夕日を眺めていた。
「ええ……。本当に綺麗です」
「そうでしょう?」
刻晴は自慢げに話すと、そのまま再び沈みゆく夕日を眺める。
「……ふふっ」
(やっぱり叔父様と一緒に見た時と同じで、この景色はとても綺麗だわ)
刻晴はそう心の中で思いながら、そうしてその夕日を眺め続ける。
刻晴の叔父、先代玉衡である彼の眠る墓地を離れ、刻晴と甘雨は璃月港をゆっくりと歩きながら様々な光景や景色を目にして耳にし、そうして璃月港に吹く風を楽しんでいた。
璃月港の『玉京台』、『緋雲の丘』、『チ虎岩』を中心に散策を、また璃月港を訪れたいくつものの船が停泊する港湾区の景色を、そして璃月港の海を眺めて楽しみながら刻晴と甘雨の二人は歩き続けた。
またその過程で刻晴が玉京台から降りて、身分の偽装等を行ってお忍びで働いていた大衆食堂の“万民堂”や数多くの書籍を取り扱っている“万文集舎”と言った璃月港にある様々な施設にも二人は足を運んだりして、そうして刻晴は叔父との思い出を振り返ったり、自分自身が歩んできた軌跡と言ったものを振り返りながら、璃月港をゆっくりと歩いて回っていた。
そしてそんな刻晴と甘雨が共に、璃月港の散歩路を歩き続けた終着点。
その終着点こそが、今刻晴と甘雨のが二人が立っているその場所。璃月という国家の中心的な施設、そして璃月港の富裕層や大商人達が住まう住宅地でもある『玉京台』の端に位置しているとある一角。
決して広場と言えるほどの大きさではないものの、数台の荷車を停める事が出来る程には広く、またその荷車の停留所として設けられたスペースのすぐ目の前にはほとんど人の気配を感じさせない大きな屋敷が一つ、そしてその周囲にはポツンと小さな屋敷が点在、そうしてそれらを覆うかのように周囲の紅葉の木々によって生み出される幻想的な紅葉の景色が広がっていた。
「………」
「………」
夕刻、沈みゆく夕日の下。刻晴と甘雨は辺り一帯の美しい景色を目にして心を奪われる。
良くも悪くも人々の喧騒が絶えることのない璃月港。そんな璃月港の街中にて、完全に隔離されたかのような静寂な空間、そこにただ一つだけポツンと存在するその屋敷。
まるで人里離れた山奥にポツンと佇む一軒家のような雰囲気を醸し出すその場所は、どこか不思議な空気感が漂っているように思える。
「………」
(風が心地いわね……)
刻晴はふと、そう考える。
辺り一面が紅葉に色づいた木々によって作り出された美しい景色。そしてそんな紅葉の幻想的な光景を彩るかのような心地よい風。
その屋敷を取り囲むようにして生い茂る紅葉の木から吹く風は、まるで刻むかのように優しく刻晴、そして隣に立つ甘雨の頬を掠めていく。
完全なる自然と調和の取れた静寂な世界。
刻晴はその屋敷の事情など詳しくは知らないが、どうやらその屋敷は刻晴の叔父が生前の時から最低限の使用人や管理代行人しかおらず、その場所は必要最低限の管理しかなされていないらしい。
元々は璃月港を訪れた外国の富裕層者向けの別荘や別邸の貸し出し目的で使われていたらしいが、今はもうすっかりその屋敷は半ば放置されているのだとか。
だが、その屋敷は璃月港の外れに位置しているという事もあり、璃月港の人々からはあまり気にされる事もなく、またその屋敷が建っている場所は璃月港でも特に人の往来の少ない場所であった事から、ある意味で璃月港内でありながら璃月港から隔絶されたような場所でもあったのだ。
そうして刻晴と甘雨はそんな場所にて、沈みゆく夕日を眺めながらゆっくりとその景色を目に焼き付けていく。
「美しい景色…。夢幻のようです……」
「そうね。本当に、夢幻のように美しい光景ね」
甘雨のその言葉に刻晴は頷き、そしてそう返すと二人は再び沈みゆく夕日を眺める。
「___叔父様…」
刻晴はふと、叔父の事を思う。
かつての幼き頃の刻晴は、よくこの夕日を刻晴の叔父と共にここから眺めていた。そして幼き刻晴が成長して一人の少女になった頃、彼が亡くなる前の頃の刻晴はたまに一人でこうしてこの夕日を眺めていた。
それは幼き頃に彼と見た絶景な景色を忘れられず、ふと気づいた時にはその道やその坂を無意識に歩いていた記憶。その道、その坂、そしてその高台の地には彼との思い出、そして彼の声が何となく残っているような気がする。
「………」
刻晴は言葉を発する事はせず、ただ璃月港を照らす夕日を眺める。その夕日を眺め続けながら、静かに叔父の事を思う。
改めて刻晴は既に叔父が他界してしまったことに寂しさや哀しさを感じる。もう彼とは言葉をかわす事など出来ないのだと思うと、余計に叔父を恋しく思ってしまう。
だがもう刻晴は悲しくならないし、後悔もしない。ただこうして夕日を眺めながら過去を振り返るだけだ。そしてその思い出は誰にも消されず永遠に彼女の中で残り続けるのだ…。
そしてそれに___
「…っ」
「………」
刻晴は甘雨の方にチラッと視線を向ける。甘雨は目の前の夕日を眺めている。目の前の景色、岩王帝君の元で璃月の民達が築き上げてきた璃月港と言う名の璃月衆人の城、そしてどこまでも広がる大海原を…。
「…ふふっ」
刻晴はほんの僅か、また僅かではあったが、甘雨に向かって小さく笑いかける。
___刻晴の傍らに甘雨がいる。
甘雨は一時期、刻晴の傍から離れてしまったこともあったり、また甘雨の自分に対しての悪い噂等も聞いてしまったこともあったために刻晴は甘雨に対して不安を抱いていたが、だがやはり甘雨は決して刻晴の事を裏切るなんて事はしないし、見捨てたりするなんて事は絶対にしないと確信していた。
それは刻晴と甘雨が月海亭、また七星八門内で共に過ごして来た時間と彼女との様々な触れあい。刻晴は甘雨の事を信頼しているし、それに甘雨もまた自分の事を信頼してくれているということを肌で感じていきたからだ。
「___甘雨、ありがとう。私、甘雨の事を最後まで信じているから…」
刻晴はふと、静かにそう呟く。
それは甘雨との短くとも長い日々、そして今日のこの一日を甘雨と共に過ごした出来事を振り返りながら、刻晴は一人そう呟く。
刻晴は甘雨の事は信じる。たとえ自分が傍に居なくても、きっと甘雨が自分を裏切るなんて事は絶対にない。
だから刻晴は甘雨に対して“ありがとう”と言ったのだ。自分の事を信じてくれて、そして今までずっと傍らで刻晴の事を支えてくれた事に対する感謝として。
「ふふっ」
そうして刻晴は独り、甘雨に向かって笑みをこぼす。
刻晴のその笑みは、甘雨が自分の事を最後まで信じてくれた事に対する喜びから来るものであった……。
「___?刻晴さん、先ほど何か言いましたか…?いえ、何で笑っているのでしょうか?私の顔になにかついています……?」
すると刻晴のその小さな笑みに気づいた甘雨が、不思議そうに小首を傾げながら刻晴に向かってそう問いかける。
「いえ、何でもないわ」
刻晴はそんな甘雨に首を横に振り、そしてそう返す。
「そうですか?」
「えぇ、そうよ。なんでもない。ただ、___」
刻晴はそこまで言うと改めて、目の前にいる甘雨の方を見て彼女は優しく微笑んでからまたゆっくりと口を開き、____。
「___ありがとう、甘雨」
___そしてそれは刻晴の本心からの、甘雨への感謝の言葉であった。
次回に続きます。
それでは次回の投稿まで、今しばらくお待ちください。
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追記1
・甘雨の台詞におかしいところがありましたため修正を行いました。(なにか私の顔になにかついています……?→私の顔になにかついています……?)