名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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とりあえず、完成したので投稿…。

本来の予定であれば次回は投稿後の数日後に続きの投稿を行う予定でしたのですが、一度見直しや書き直しをしてしまったり、リアルな事情(仕事がかなり忙しくなってしまったり、使っていた椅子やエアコンが壊れたり、また寒暖差で体調を崩して風邪を引いてこじらせてしまったり、資格の受験が来年の1月に延期となった関連事情等)により、かなり厳しい状況になってしまっているため、当初の予定のそれは無しにしようと思います。

ただ、最低でも月一更新はなんとなかなりそうであるので、なるべく早めに更新は行おうと思います。


それでは、どうぞ。


 7幕:「反刻晴派殲滅作戦、“刻晴”過去【終節】」編
_外部特別顧問検察官の煙緋が命ずる!!


Side:煙緋

 

「なっ…!?」

「い、一体どういう事だ!?“外部特別顧問検察官”って…」

「『国家反逆罪』に『国家転覆罪』だと…!?そ、そんな…。い、いや待ってくれ……!!」

 

突然の状況に頭が付いていかない男達。天権直属の“外部特別顧問検察官”と名乗った煙緋に『国家反逆罪』や『国家転覆罪』という罪状を突きつけられ、それに対して叫び声を上げながら驚きと動揺で目を見開き、素っ頓狂な声を発する。

 

「ち、違うんだ!!ま、待ってくれ!!」

 

そんな男達は声を荒げて煙緋へと言う。

 

「わ、我々は嵌められたんだ!そうなるように仕組まれていたんだ!」

 

「そうだ……!俺達は悪くない……!!悪いのは俺達じゃない!!」

 

「おっ、俺達じゃない!俺達は何もしていない!!」

 

「ほぉ…?」

(なるほど…?)

 

必死にそう訴えるように叫ぶ男達。そんな彼らの様子に煙緋は呆れかえったかのように冷めた視線を男達へと向ける。

 

 

 

「なるほど、なるほど。『嵌められた』…と。そうして甘雨先輩に確認を取れば無実だと証明できると?」

 

「そ、そうだ!そうだとも!」

 

「この罪状は何かの間違いなんだ!俺達は嵌められたんだ!!」

 

「そうだ!!俺達は悪くない!!」

 

煙緋の言葉に男達が必死にそう叫ぶ。しかし……。

 

「ふむ、『悪いのは自分達ではない』?…なるほど、な。どうやら随分とお前達は往生際が悪いらしいな…?」

 

煙緋はまるで吐き捨てるようにそう言うと、自分の方に視線を向けていた真横に立つ千岩軍の男へと目配せをし、頷くように軽く頭を下げる。

 

 

 

「___はっ、煙緋様!!」

「___了解しました!!特別検察官様!!」

「___おい!!今すぐ跪いて腹ばいになれ!!」

「___お前達を逮捕する!!抵抗は無駄だ!!」

 

そしてその瞬間、千岩軍の男達は互いに頷き合い、改めて半包囲するように展開していた千岩軍の兵士達は再度槍や剣の切っ先を勢いよく向け、そうしてその男達に一歩ずつ迫る。

 

 

「こ、これは何かの間違いだ!!俺達は嵌められたんだ!!」

「そ、そうだ!そうなんだよ!!だから俺達を捕まえないでくれ!!」

 

煙緋の合図とともに迫る千岩軍の兵士達。そんな彼らに男達は半狂乱になりながら、必死に叫ぶように訴えかける。

 

「嵌められたんだ!!俺達は!!頼む!!彼女を呼んでくれ!!甘雨さんを呼んでくれ!!」

 

「はぁ…」

 

そんな男達の必死の叫びに煙緋は冷たい視線を送りながら、彼女は呆れた様子で言う。

 

 

 

「___本当に往生際の悪い奴らだ…。甘雨先輩がお前達の味方だと思っているようだが、実態は違うぞ。むしろ、その逆だ」

 

「なっ……!?」

「は…?」

「え…?」

 

煙緋の言葉に男達は驚きに目を見開き、そうして信じられないと言った様子でそう声を漏らす。

 

そんな彼らに煙緋はさらに言う。

 

「まったく、そこまで信じられないとは…。よく聞け、お前達。先輩の正体、それはお前達“急進派”、“強硬派”、“過激派”に送り込んだ『スパイ』だ」

 

煙緋は目を見開いてうろたえる彼らへとそう告げる。

 

「なっ…!?う、噓だ!!」

「スパイだと!?彼女が!?」

「そ、そんな馬鹿な!?そ、それじゃあ…!?」

 

そんな煙緋の言葉に男達は叫ぶようにそう言う。甘雨の事を完全に味方だと思っていた彼らはそんなまさかの言葉に狼狽える。

 

そして煙緋はそんな男達に冷たい視線を送りながら続ける。

 

「あぁ、そうだ。お前達は甘雨先輩のおかげで刻晴殿達の動きが筒抜けだとでも思い込んでいたのだろうが、実態はその逆だ。甘雨先輩がお前達に潜り込んだおかげで玉衡殿、そして天権殿を始めとする璃月七星達に全ての動きが筒抜けになっていたんだぞ」

 

「な……!?う、噓だ!!そ、そんな訳が……」

 

煙緋の言葉に男達は信じられないと言った様子でそう声を漏らす。しかし、そんな彼らの様子など気にも留めずに煙緋は続けて言う。

 

「あぁ、本当だとも。全くもってお前達はおめでたい奴らだな?まさか本当に甘雨先輩が自分達の味方になってくれたと思い込んでいたのか?だとしたらそれはとんだ間違いだぞ?」

 

煙緋は半狂乱になって叫ぶように言う男へとそう言い放つ。

 

「っ!!…っぅ!?」

「く、くそっ!!ふざけるな!!」

「こ、こんなこと…!!認めないぞ!!」

 

煙緋の言葉にいよいよ追い詰められた事を悟った男達は顔を赤くしてそう叫び、そうして男達の一人は部屋から逃げ出す為に半包囲する千岩軍の兵士達に突進でもするかのように駆け出そうとし、また一人は近場の窓に視線を向けてそこから地上に飛び降りてでも逃走せんと窓から見える外の景色へと目を向け、また別のもう一人は机の角に手を伸ばしてその机を武器にして動き出さんとするかの如く、それぞれがそれぞれ動き出そうとする。

 

___その瞬間であった。

 

 

 

「___だがまぁ、お前達は随分と良い方だと思うぞ。なぜなら、お前達は『天権を始めとする璃月七星達と“取引”を行う事ができる対象者』なのだからな」

 

 

「___は?え?」

「___と、取引?」

「___天権と?それに璃月七星達と?」

 

 

煙緋の“取引”というその一言に思わず男達は動きを止める。

 

 

 

 

「あぁ、そうだ。“取引”だ。お前達がここで抵抗することなく大人しく捕まり、総務司や千岩軍の捜査、また璃月七星達の調査に全面協力するというのであれば“司法取引”が成立。そうしてお前達が最終的に受ける事になるだろう刑罰が最低でも一段階は引き下げられる事となるため、とりあえず命の保証だけはされるだろうな」

 

「なっ…!?」

 

「え、な、なんだと…!?」

 

「そ、そんな事が…!?」

 

煙緋の言葉に男達は目を見開かせる。

 

それはそうだろう。

自分達の罪状が『国家反逆罪』や『国家転覆罪』だ。どう足掻いても死刑等を避ける事は叶わず、そうして自分達にそれが必ず下されると思っていた彼らにとっては煙緋の“取引”の内容に驚きを隠せない。

 

 

「あぁ、特別検察官様の言う通りだ。お前達はその取引可能な対象者だ。だから我ら千岩軍はすぐにお前達を取り押さえる真似なんてしなかったんだ。お前達の様子を確認するためにな」

 

「あぁ、そうだ。取引可能対象者であるお前達に関しては、すぐさま取り押さえにかかると言った手荒な真似はしないようにと、天権様達から厳命されていたんだ。そしてその時のお前達は少なくとも抵抗や逃亡を図らなかった。それ故にお前達は正式に取引が可能な有資格者となった」

 

「そう言う事だ。それ故に七星達、そしてこの件を一任されている特別顧問検察官の煙緋様と取引を行う事ができる。だからお前達が大人しく我らの捜査や調査に協力するのであれば、お前達が受ける刑罰は最低一段階は軽くなる。まずは死刑や無期禁錮と言った極刑だけは免れるだろう」

 

戸惑い動揺する男達にこの場の千岩軍の兵士達がそう説明する。そんな彼らの言葉を受け、男達は更に動揺した様子で互いに顔を見合わせる。

 

 

「な……!?」

「ほ、本当に……?」

「い、いやでも……」

 

男達は困ったように視線を彷徨わせる。それはそうだろう。千岩軍の兵士達や煙緋の言葉を全て鵜呑みにするのであれば、自分達の刑罰は最低一段階以上軽くなると言う。

 

 

正直、男達は千岩軍の兵士達の言ったことや煙緋の言ったことが信じられない。

 

だがしかし、実際に千岩軍はすぐさま取り押さえにかかるという一切手荒な真似をしなかった。そうしてそれは自分達が取引可能な対象者であったからという。

 

 

「___あぁ、本当だ。お前達は璃月七星達と司法取引が出来る対象者、その資格者だぞ。…正直に述べれば、私達はお前達“反刻晴派”の全貌を把握しているという訳ではないからな」

 

「お、俺達“反刻晴派”の全貌を把握していない?」

 

「お、おい。甘雨さんが潜り込んだから、俺達メンバー全員を特定して逮捕に踏み切ったんじゃないのか?」

 

煙緋のその一言に男達は疑問の声を上げる。そんな男達へと煙緋は頷いて答える。

 

「あぁ、そうだとも。だがお前達の定義する“反刻晴派”と私達璃月七星達が定義している“反刻晴派”の範囲と言うのは少し違う。お前達が“反刻晴派”と定義する者達は、‘急進派‘、‘強硬派’、そして‘過激派’と呼ばれる反刻晴派職員達の三派閥であるが、私達はその三派閥職員達に加えてその彼らに協力した一般人達、璃月港の商会の商会員達やそれに準ずる一般団体の団員達、そうして更に“その先に居る者達”だからな…!!」

 

煙緋は目を細め、そうして怒りに肩を振るわせながら、更なる自分達の捜査や調査によって判明した真実を男達へと叫ぶように言い放つ。

 

「な、成る程。そう言う事か…」

 

「俺達だけでなく、璃月港の商会やそれに準ずる者達までもか?」

 

「そ、そこまでするのか…?」

 

男達は煙緋の言葉とその様子に狼狽えたようにそう声を上げる。

 

「あぁ、そうだ。今回の件は璃月七星、特に天権の凝光殿は非常に重く捉えているのだ。それこそ彼女は、今回の件を自分や自分達璃月七星、そして璃月に対する宣戦布告とまでな…!!」

 

煙緋は戸惑う男達に肯定するように頷き、そしてその視線を鋭くさせて彼女はそう男達へと強く言い切る。

 

 

「なっ、そんなことになっているのか…!?」

「なんだって、そこまで…!?」

「そこまで重く捉えてしまっているのか!?あの方は!?」

 

 

そうして煙緋が語る凝光の思惑に男達は目を見開き、酷く恐れおののくかのように言う。

 

 

 

 

 

「___はぁ…。その反応を見るにお前達がしでかした事の重大性、そしてこの事態をとても軽視していた事がよく分かるぞ……」

 

男達の反応に煙緋は心底呆れたように言う。

 

 

刻晴に対して不安や不満は、確かにあった事だろう。

だがやってしまったこと、してしまった事のそれらは全て身勝手な理由に他ならない。

 

 

当初の話ではあるが刻晴の座っていた玉衡の座は、確かに非常に不安定になっていた。

 

そしてこの事に彼らは機を見出だして彼女を上手く玉衡の座から引き摺り下ろす事で自分達、もしくは自分達の上級者である者達が玉衡の座に座れるチャンスを狙った。

 

そうして自分や自分達の関係のある者達が玉衡の座を座った時に得られる七星の権力や特権、それに伴う莫大な利益や利権を享受できるかもしれないと知ったからであり、そのためにまず男達はそれぞれの立場や所属を越えて彼女を引き摺り下ろす事で互いに協力し合い、様々な手段を持って彼女を陥れようとしたのだろう。

 

 

 

 

「___まったくもって、馬鹿馬鹿しい」

(なぜ、そんなに上手く行けると思ったのだ…)

 

 

煙緋はそう吐き捨てるかのように言う。

 

冷静に考えれば考える程、そのような上手い話はどこか出来過ぎているとでも思わなかったのかと、煙緋は心底そう思う。

 

 

そのような話を知った男達、下劣で卑劣な儲け話にたぶらかされてしまい完全に“駒”と化してしまった彼ら。権力欲を始めとする男達の欲望を刺激されてしまい、そうしてそれに男達は夢を見てしまったことで良いように利用されてしまった彼らのその自業自得とも言える結果だ。

 

___そしてそれと同時に思う。

 

 

 

「___人と言うのは、本当に不思議なものだ」

(ここまで極端だとは…)

 

 

煙緋は興味深げに、そして静かにそう呟く。

 

方や璃月の現状を真摯に見つめつつ、璃月の歩むべき未来と向き合って思い悩み、そうして未熟でありながらも前へと歩みを進める“彼女”。

そして方やそんな彼女の足を引っ張るはおろか、彼女を陥れようと画策し、そうして結果的には自覚がないまま璃月の秩序を搔き乱そうとし、こうして七星達の勅令という名の下に逮捕、処罰を受ける羽目になってしまった“愚か者達”。

 

 

 

 

「…さて、話を元に戻そう。お前達、どうするのだ?七星達との取引。天権、凝光殿よりこの件を一任されている私と司法取引を行うか、お前達の答えを聞かせてもらおうか」

 

煙緋は男達へとそう告げる。

 

 

「ど、どうする?」

「まぁ……」

「そうだなぁ……」

 

男達は互いに顔を見合わせながら、どうするかを決めるべく話し合い始める。

 

 

自分達は特別な身分。取引可能な対象者。取引に応じればまずは極刑だけは避けられる身。

であるならば…。

 

 

 

 

「___わ、わかった!その取引に応じる!」

「___あぁ!俺も応じる!」

「___俺もだ!だから頼む!!俺達の刑罰を引き下げてくれ!」

 

男達はそう叫ぶように、そして懇願するかのように煙緋や千岩軍の兵士達に土下座をしながら必死にそう叫んだ。

そうしてそんな男達の様子に煙緋はふっと笑みを浮かべると頷いてそう言う。

 

 

 

「___分かった。取引成立だ。それでは早速だが、私の質問に答えてもらおうか…」

 

「はっ、特別検察官様」

「準備は出来ています。煙緋様」

 

煙緋はそう言うととある兵士達の一員に目配せをし、そうして目配せを受けたその兵士達はこれから行われる煙緋の尋問のやり取りの全てを記録すべく、手早く筆記用具一式を用意した。

 

 

 

「…質問は先ほど述べた通り、お前達に協力した一般人達、璃月港の商会の商会員達やそれに準ずる一般団体の団員達、そうして更にその“先に居る者達”に関することだ。お前達が知りうる限りでいい。それらに関して知っていること全て、洗いざらい話してもらうぞ」

 

「わ、わかった……」

「あ、あぁ…」

 

そして煙緋のその言葉に土下座をしていた男達は煙緋の質問に対して知っていること全てを話すべく、その頭を上げた。

 

 

 

「さてまずは、お前からだ。話を聞かせてもらおうか。お前達反刻晴派に協力した一般人達に関してを包み隠さず、全てを私に話してもらおう」

 

「わ、わかった。そ、そうだな…。お、俺が知る限りだと一般人の中でもかなり身分の高い者として“飛雲商会”のとある幹部やその幹部の一派が強硬派に通じていたようだ」

 

「なっ…!?飛雲商会だと…?あの大商会がか…?あそこにも協力者がいたのか……?」

 

煙緋は男のその言葉を聞いて眉をひそめる。一人目の尋問からいきなりとんでもない情報が出てきたためか、思わず聞き返してしまう煙緋。

 

「あぁ、そうだ。極一部でしか聞かされてない話だが、まずその情報に間違いはないはずだ。強硬派でも主要人物しか出回ってない話だと言うが、偶然俺達も似たような民間業者を仲介させる方法を検討し、そうして具体的な方法を模索していた時にその事を知ってしまってな…」

 

「なるほど。因みに強硬派は具体的に、協力関係を結んだ飛雲商会の幹部達とどのような事をしようとしていたのだ?」

 

「あぁ、それについてはだな…。確か強硬派の連中、実際に扇動を受けて千岩軍より離反した部隊達によるクーデターが引き起こされるまでに、まずはその準備段階として一部の物資の移動、またクーデター計画に関連する詳細な計画書や各部隊の秘密命令書と言った文書関連の移送や配布行う時にも飛雲商会を仲介させることで足が付かないように目論んでいたようなのだ」

 

「物資の移動に各文書の移送…か。成程、民間業者を上手く利用する事で月海亭や七星八門の監視の目を回避し、また飛雲商会に協力者達がいればそれらの移動を露呈することなく完全に隠し通すことが出来るという算段というわけか……」

 

煙緋は納得したかのようにそう呟く。それと同時に良くできた策だなと感心する。

 

 

 

「…その幹部の名前は?そしてその一派に関して、なにか詳しい情報はあるだろうか?」

 

煙緋はそう男に問う。

 

「あ、あぁ。幹部の名前は、たしか___」

 

 

そうしてその男は煙緋に自分が知っている事を全て話をし、またその他の男達も煙緋の質問に素直に答えていく。

 

 

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 

そして煙緋と男達のやり取りを、書記係である千岩軍の兵士の一員達は煙緋と男達の真横で静かに筆を走らせて記録していく。

 

 

 

 

「___と、大体そんな感じだ。もうこれ以上は俺の知っている事は無いぞ」

 

「___そうか。分かった、ありがとう。ならばこの場合、その者は完全に『共謀共同正犯』として罪に問う事が出来るな。今のも記録しておいてくれ」

 

「はっ、煙緋様」

 

「了解しました。特別検察官様」

 

書記を行う千岩軍の兵士達に向かって煙緋がそう言うと、彼らは筆を走らせる。

 

「…はぁ。凝光殿に言われた通り、即座にその場で司法取引を行った上で尋問を行って正解だったな」

 

煙緋はそう疲れたように呟くと、取引を行い全てを供述してくれた男達に視線を落とす。

 

 

 

___反刻晴派の職員達だけを捕らえても事態は収拾しない。彼ら職員以外の協力者達全てを一掃する勢いでなければ、本当の意味での解決には至らないわ。

 

 

 

この日を迎える前の前日、凝光は煙緋にそう述べた。そして当初の煙緋は凝光のその発言に関してそこまで行う必要はあるのだろうかと、そう疑問を抱いていた。

 

 

だがしかし、結果としては凝光のその考えは正しかったと言えよう。

 

 

男達が語った内容、明らかとなった数々の事実。それらは決して見過ごしてはならないものばかりであった。

 

確かにこれらを見過ごしてしまっては、いつか何かしらかがきっかけでまた同じような事や似たようなことを繰り返してしまい、璃月が再び同じような危機に陥ってしてしまう危険性が残ってしまっていただろう。

 

例えば先ほど男達が話した協力関係を結んだ飛雲商会のとある幹部の一派、彼らが強硬派達の意志を引き継いでしまい、そうして機会を見て再び璃月で暗躍や煽動を行う事で千岩軍のクーデターを引き起こすなんて事にもなりかねなかっただろう。

 

 

 

 

それ故に、煙緋は改めて凝光の判断力と対応を高く評価する。

 

 

 

 

 

 

「___だがしかし、“そんな事”は可能なのか?いや、でも、とてもだが信じられん…」

 

煙緋は難しそうな表情を浮かべながら静かにそう呟く。

 

 

___それは男達の一人が語ってくれた凝光が最優先で探し求めていた“情報”。凝光や夜蘭が追っていたという“先に居る者達”に関する情報。

 

 

もしも‘それ’が事実であれば場合においては璃月はおろか、“他国で‘そんな事’を行えばその国すらをも巻き込んだ大問題に繋がりかねない一つの噂話”。

 

 

 

「………」

 

あくまでも噂話程度。信憑性は決して高くなく、とても信じられるような物では到底ない。だが、噂話だとしても衝撃的すぎる代物であった。

 

 

 

 

 

「___煙緋様。拘束対象者のリストが完成しました。それぞれの容疑者とそれに対応する罪状はこちらであっていますでしょうか?」

 

そしてその時、千岩軍の兵士の一人が煙緋にそう声を掛ける。

 

「あぁ、ありがとう。確認しよう」

 

煙緋はそう頷き、千岩軍の兵士から紙の束を受け取るとその内容を確認していく。

 

 

その紙の束は法律家の頂点に立つ煙緋だからこそ成せる業。

 

煙緋は男達の尋問を行いながら、男達の供述内容で出てきた一般人の容疑者達一人一人をそれぞれの璃月の法律や法令、そうして条例や判例等から、その罪状を割り出して彼ら一人一人に割り当てていたのであった。

 

 

 

 

「…うん、大丈夫だ。問題ない」

 

「はい、ありがとうございます。それでは…?」

 

「あぁ、勿論だ…!!」

 

渡された紙の束を確認し終えた煙緋はその兵士へと頷き、燃えるような鋭い眼光を千岩軍の兵士達へと向ける。

 

 

 

「___外部特別顧問検察官の煙緋が命ずる!!直ちにそれらのリストを璃月港の各地で活動中の千岩軍の各部隊、並びに『雷霆計画』に参加中の各職員達にこの情報を伝達、連携せよ!!司法取引で明らかとなった外部協力者達を全員拘束!!彼らを一人残らず逮捕するんだ!!彼らの璃月港からの脱出を、そして璃月からの国外逃亡を決して許すな!!我々は今日この日を以って、反刻晴派が企てたふざけた陰謀を完全に断ち切る!!玉衡殿への悪意を、ここで完全に断ち切るぞ!!」

 

「___はい!!煙緋様!!」

「___はっ!!特別検察官様!!」

「___直ちに伝達致します!煙緋様!!」

「___承知致しました。煙緋様!」

 

煙緋の一声に紙の束を抱えた兵士達は一斉に敬礼すると、彼らは次々と扉の向こうへと飛びだしていき、そうして璃月港中を駆け巡り始めた。

 

 

 

 

 

「___はぁ…。ははっ、やはりこういうのは慣れないな」

 

そして煙緋はため息を吐くと顔を下げ、そうして静かに苦笑いをする。

 

 

法律家の頂点に立つ煙緋ではあるが、普通はただの法律家が千岩軍に命令をしたり指揮を執るなんて事はまずありえない。

 

それなのに今日初めて実際に凝光の対反刻晴派への作戦計画である“反刻晴派殲滅作戦”、通称『雷霆計画』に基づき、名目上ではあるが大勢の千岩軍の将兵達を煙緋の意のままに動かすように彼らに指示を出し、そうして既に数千人規模に及ぶ程の千岩軍の兵士達やそれに付随して璃月の司法を担当する大勢の職員達や検察官達さえをも、数多くの権限を凝光から特例付与された煙緋が、千岩軍の兵士達に七星八門や月海亭の職員達の指揮を執り行うという非現実的な事をしてしまった。

 

 

そのあまりの現実感の無さから来る緊張とプレッシャー、そうして天権の凝光より自らに割り振られた“役割”の主要部分や大部分を果たせた事から、ようやくそれらから解放された煙緋は思わず苦笑いをしてしまったのである。

 

 

 

「___さてと」

 

煙緋は独り呟くと、顔を上げる。

 

 

「___もうそろそろ“最終警告”も終える頃だろう。それでもなお、もしも彼らが立てこもりを選んでいたのだとしたら…」

 

煙緋はそう言うと、静かに目を細める。

 

 

「___いよいよ説得や勧告から、反刻晴派職員達の牙城である七星八門の‘輝山庁’と‘銀原庁’の庁舎を完全包囲している千岩軍の兵士達が彼らを制圧する為に庁舎への突入を開始するというわけか…」

 

煙緋は静かにそう語ると、とある方向へと顔を向ける。

 

 

 

 

「___“先輩”、私の尋問で得られたこの情報。これらを是非、活かしてやってくれ」

 

___そうして静かに煙緋はそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___よし、ようやく扉が開いたぞ!!全部隊、突入を開始せよ!!」

「___くそっ、やっとか!!ちっ、扉の後ろに本棚や机なんかを積み上げやがって!!これが突入までに時間が掛かった原因か!!反刻晴派の奴らめ!!」

「___どおりでここまで扉を破壊するまでやらなきゃいけなかったわけだ!!強硬派の奴らめ!!こんなにも手間取らせやがって!!」

「___バリケードなんかを設置したつもりか!?往生際が悪いぞ!!強硬派の反刻晴派め!!だが今日でお前達の陰謀も終わりだ!!」

「___ここに立てこもっている奴らを全員取り押さえろ!!ここまでの抵抗をしたという事は、この建物は完全に反刻晴派の者達が支配しているという事で間違いないぞ!!奴らを一人たりとも取り逃がすなぁっ!!」

「___突入!!突入!!行け!!行け!!行けぇ!!」

 

 

 

野太い千岩軍の兵士達のその声と同時に、地響きのような大きな音が辺りに木霊する。

 

それは千岩軍の兵士達が庁舎内部へと繋がる正面玄関である大扉を完全に破壊した音であり、立てこもった反刻晴派達に対する千岩軍の兵士達が突入を開始した音でもあった。

 

 

 

 

 

「___ようやく、突入を開始しましたか…」

 

そしてその庁舎、“輝山庁”の庁舎。そして輝山庁の大扉を千岩軍の兵士達がそれぞれ連携しながら特注の岩石を使用した丸太状のそれ。かつての攻城兵器の一種でもある‘破城槌’。

それを用いた庁舎の大扉の破壊に成功し、そうしてそのまま兵士達が一斉に突入を開始する光景を、“氷の神の目を身に着けていた少女”、“甘雨”はそう呟いた。

 

 

 

「___おまたせしました、甘雨様」

「___見ての通り突入部隊が突入を開始されました」

「___我々職員達や検察官達も準備は完了しています」

「___我らも彼らの後を追いましょう。甘雨様」

 

 

甘雨を警護するように隣に立っていた数人の千岩軍の兵士達。またそうして甘雨の後ろに立っていた者達、璃月の司法関連を担う職員達や検察官達が甘雨に向かってそう声を掛ける。

 

 

 

「はい、そうですね。それでは行きましょう。皆さん」

 

そして甘雨は彼らにそう返すと、甘雨を先頭に彼らは建物の中に入っていく。

 

「………」

 

そうして庁舎内に入った甘雨は無言で辺りを見渡す。

 

庁舎内は正面玄関の大扉を補強する為に使われていたと思われる散乱した本棚や机。また突入した千岩軍の進路を塞ぐ形で設置されていた既に破壊済みのバリケード代わりの大きな棚や大机、そしてそれら棚や机の残骸等が散らばっている。

 

甘雨はそれらを静かに観察する。

 

 

そして___

 

 

「___間違いありませんね。これです。この人はここの欄の者です」

 

「___そうですね。それでは貴方を正式に逮捕、まずは千岩軍の留置所まで連行します。罪状は『共謀罪』と『執務上横領罪』です。貴方はクーデター実行に備えた準備活動として横流しを黙認していた容疑、またそれを始めとするそれに関連した幾つもの容疑に問われています」

 

「___く、くそっ…。こ、この野郎……」

 

「___おい、動くんじゃねぇ。大人しくしろ」

 

「がぁっ…!?」

 

「……」

 

___甘雨がふと向けた視線の先には千岩軍の兵士達によって取り押さえられて拘束された反刻晴派のとある職員。

その職員の元へ駆け寄って見下ろすかのように紙の束を見つめる検察官や司法関連の職員達。

彼らが見ていた物は煙緋が纏め上げた反刻晴派の罪状が記された紙の束であり、交互で確認しながらそう淡々と述べていた。

そうして地面に拘束されていた強硬派の者は彼らに抵抗しようと身を捩ろうとし、それを見ていた千岩軍の一人が静かにそう言い放ちながらその者の腕を強く捻り上げている光景が広がっていた。

 

 

甘雨は歩きながらその光景、建物内のあちこちで行われているその光景をただ静かに見つめていた。甘雨が見つめているそれらの光景は、非現実的すぎてまるでフォンテーヌの映影のワンシーンのような光景に思える。

 

 

 

 

「………」

 

そうして職員達や検察官達と別れた甘雨は、彼女の護衛役の千岩軍の兵士達数人と共に庁舎内の階段を上がっていく。彼女の目的の人物達はすぐ上の階にある部屋、中央会議室にその者達が居る。

 

そしてその時であった。

 

 

 

「___おらぁっ!!よし、最後のこの部屋が開いたぞ!!」

「___ようやくか!!手こずらせやがって!!」

「___よし突入だ!!行け!!行けぇ!!」

 

階段を上って曲がり角の先にあった扉、その扉を千岩軍の兵士達がちょうど突破した光景を甘雨は目の当たりにする。

 

 

 

「___覚悟しろぉ!!反刻晴派ぁ!!」

「___この野郎!!往生際が悪いんだよ!!」

「___大人しくしろぉ!!机や椅子なんか武器になるわけないだろうが!!」

「___き、来やがった!!ぎゃぁ!?あがぁっ!?」

「___ひっ!?く、来るなぁ!?来るな!?っぅ!!がぁっ!?」

「___っぅ!!うぐっ!?ぐはぁっ!?野郎!!」

 

 

「………」

 

立てこもっていた会議室から響き渡るそんな男達の叫び声や悲鳴を聞き、甘雨は静かに目を細める。

 

 

会議室の中はとても凄まじい事になっているであろう。

 

取り押さえるために会議室の中に突入をした千岩軍の兵士達と、それに対して必死に抵抗する反刻晴派の者達の乱闘騒ぎのような絶叫や悲鳴の大合唱が、その階の廊下はおろか階段を通じて近くの階にまで木霊する。

 

 

 

 

「………」

 

そうして数分後、会議室から響き渡っていた絶叫や悲鳴は聞こえなくなっていった。

 

 

 

「___どうやら、会議室の制圧が無事に終わったようですね」

 

甘雨は静かにそう呟くと、そのまま兵士達が制圧した会議室の中に足を踏み入れる。

 

 

 

「___ぐっ、くそっ…」

「___いっ、離せよ!!離しやがれ!!」

「___黙れ!!散々手間を掛けさせやがって!!」

「___大人しくしろ!!お前達はもう終わりだ!!」

 

会議室の中は千岩軍の兵士達によって完全に取り押さえられた男達、兵士達が制圧する為に用いられた非殺傷用武器である木剣や木槍で袋叩きにされて地面にねじ伏せられていた反刻晴派の男達で溢れかえっていた。

 

ある者は背中や腹、頭などを木剣で殴られて腫れ上がった部分の痛みに呻き、ある者は口の中を切ってしまったのか、唇から血を垂れ流しながら咳き込み。またある者は鼻から鼻血を垂れ流しながら床に伏せる。

そうしてまた千岩軍の兵士達も何人かは机や椅子で男達に集団で襲われてしまい、その結果として椅子や机で殴られた場所が腫れたり痣となってしまっており、まさに乱闘騒ぎで荒れ果てた様相を呈していた。

 

 

 

「___お待たせしました、甘雨様。無事、この会議室内は完全制圧、そしてこの建物も完全に千岩軍の制圧下に置くことができました」

 

そうして部屋の様相を見渡していた甘雨に対して今回の制圧の指揮を執っていたとある千岩軍の男、制圧部隊の大隊長が敬礼をしながら甘雨に向かってそう報告をする。

 

「ありがとうございます、お疲れ様です。大隊長さん。今回の制圧活動で兵士達に負傷者等は出ませんでしたか?」

 

甘雨はそんな千岩軍の大隊長に対してそう尋ねる。

 

「はっ。幸いなことに今回の制圧活動において軽傷者等は少なからず出てしまっているものの、長期間治療をしなければならないような負傷をした者がいるという報告は上がってきておりません。ご安心を、甘雨様」

 

大隊長は敬礼をしたままそう答える。

 

「そうですか、分かりました。ありがとうございます。さて___」

 

甘雨は安心したかのように小さく頷き、そして千岩軍の大隊長に対して礼を言うと辺りを見渡す。

 

 

甘雨の視線の先に広がるのは完全に制圧された男達、地面に伏せられている反刻晴派の“強硬派”の者達。

 

 

 

 

「___くそっ、離せよ!!離しやがれ!!っぅ!!ぁ…。えっ……?」

 

「___くそがっ!!お前達、ただで済むと思うなよ!!ちぃっ!!ぇっ…?か、甘雨…さん、か……?」

 

「___畜生!!離しやがれ!!っぅ……!!え……?あ、貴女……は……?」

 

そうして地面にねじ伏せられながらも千岩軍に向かって叫んで喚き散らしていた男達の声は、男達の視界に甘雨の姿が入ると同時に驚きと困惑が入り混じったようなものへと変わる。

 

 

 

「___どうも、急進派の中心メンバーの皆さん。この度は様々な理由や事情でお忙しい中、この輝山庁の会議室に集まっていただいてありがとうございます」

 

甘雨はどこか皮肉染みた口調で男達にそう言い放つ。

 

「は……?えっ?あ、あの甘雨……さん……?」

 

「か、甘雨さん…?ま、まさか……!?」

 

「甘雨さん…!?まさか、貴女は……!?」

 

そうして甘雨のその言葉を聞いた男達は何かを察したかのように目を見開く。

 

 

 

 

 

「___偽りの招集依頼、失礼しました。貴方達強硬派、そうして反刻晴派は本日を以って解体、解散させていただきます。理由は、お分かりですね?」

 

___甘雨はどこか面白おかしそうな笑みを浮かべつつも、その瞳にはまるで絶対零度のような冷たい光を宿しながら、そう静かに言い放ったのであった。

 

 

 




次回は甘雨のシーンとなります。

それでは次回の投稿まで、気長にお待ちください。




—————
追記1
・セリフに誤りがありましたため、修正を行いました。(「急進派」の奴らめ!!こんなにも手間取らせやがって!!→「強硬派」の奴らめ!!こんなにも手間取らせやがって!!)
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