今年最後の投稿となります。
Side:甘雨
「___っぅ!?」
「___か、甘雨さん…!?や、やはり、貴女は!?」
「___裏切っていたのか…!?甘雨!!な、何故だ!?」
甘雨のその一言に、床にねじ伏せられていた反刻晴派の男達は驚愕の表情を浮かべながら甘雨に向かってそう叫ぶ。
「___なぜ…ですか……。ふふっ、そうですね。何故なら私は最初から反刻晴派の味方などではないからですね」
そして男達のその言葉を聞いた甘雨は、不敵な笑みを浮かべて男達にそう答える。
「なっ!?」
「そんなっ!?」
「っぅ!?」
甘雨のあっさりした答えに、その男達は言葉を失う。そうして憎々し気に甘雨を睨みつける。
「ふふっ、そう睨みつけないでください。それに私を仲間として受け入れてくれたのは貴方達です。それにおかしかったとは思わなかったのですか?」
「っぅ!!な、何がだ…!?」
「何がおかしいんだ…!?」
「何が言いたい!?」
甘雨のそんな問いに、男達はそう叫ぶ。
「はい、それはですね…。元々私は貴方達反刻晴派の皆さんから見て、私は刻晴さんととても仲が親しかったため、実は反刻晴派と同じ考えを持っていた秘密の人物だったと到底思うことができなかったはずです…。なのに何故、私の事を信用する事ができたのか?、という事です。考えてみてください。何とは言いませんが、何かがおかしくありませんか?」
甘雨は目の前で地面にひれ伏している男達に、そう淡々とした口調で問い掛ける。
そうして甘雨のそんな言葉に男達は困惑したような表情を浮かべて顔を見合わせる。
「は…?そんなの、元々は急進派の奴らが甘雨を助っ人だって連れてきたからであって……」
「そうだよな。あいつらがお前を新たな仲間だ。強力な助っ人だって…」
「そうだな。それに俺達の方でも甘雨の噂に関してを色んな所から調べて、そうして信用に値するって判断したからだしな…」
男達は甘雨のその言葉に対して、そう困惑したような表情を浮かべながら言う。
「はい、その通りでございます。それではどうして貴方達は、最終的にこのような目にあっているのでしょうか?」
そんな男達の言葉に甘雨はそう答え、そうして改めて男達にそう問い掛ける。
「はぁ…?そんなのはお前が裏切ったからに決まっているだろうが!!」
「そうだそうだ!!この裏切り者!!」
「甘雨が裏切らなければ、このような事にはならなかったんだ!!」
甘雨のその問い掛けに、男達はそう口々に叫ぶ。
「___っぅ!?」
だが男達の中の一人は何かに気づいたのか、突然目を見開きながら甘雨に向かって叫ぶ。
「___ま、待て!!甘雨!!お前は最初から味方ではないと言ったな…!?ま、まさか、本当の裏切り者というのは急進派の中にいた奴らか!?急進派の中に甘雨を招き入れた協力者がいたんじゃないか!?」
「っ!?」
「っぅ!?」
「あぁっ!?」
気づいた男のその言葉に、それを聞いた他の男達は何かに気づいたかのように目を見開く。
「ふふふ…。まぁそれは、貴方達のご想像にお任せしますね」
「っぅ、くそが…。やはり……!!」
「その反応は…。くそ!!やっぱり…!!急進派どものせいじゃねぇか…!!」
「あいつら、とんでもないことをやらかしやがって…!!誰だよ!!裏切り者は!!」
甘雨は明言する事なく、敢えてその物言いで肯定も否定もしない。そして男達はそんな甘雨の返答に、怒りや憎しみに満ちた表情を浮かべながらそう叫ぶ。
「まぁ、彼らの誰が裏切り者か、また誰が私や私達の協力者なのかは些細な事ですよ。それに急進派の方々は既に捕縛や拘束、逮捕されていますので」
甘雨はそんな男達に向かってそう淡々とした口調で説明する。
「それよりかは、貴方達強硬派の皆さん達にお尋ねしたい事がいくつもあります。後で是非、私や私達千岩軍や月海亭を始めとする七星達の調査に協力して頂けませんか?」
「はっ?何を言って……。俺達にお前達の協力なんかする訳がないだろ」
「あぁ、そうだ。そう言う寝言は寝て言うんだな」
「どうして大人しく協力しなければならないんだ。協力する理由が無いだろ?」
そして甘雨は笑みを浮かべながらそう言い、対する男達はそんな甘雨に向かってそう言い放つ。
そうして男達が甘雨にそう言ったその時であった。
「___まぁまぁ、そうは言わずに。本当に色々と聞きたいんですよ。例えば『貴方達急進派は、どうやって飛雲商会の者達と接触し、そうしてクーデター実行に向けて協力関係を結べた』のか、とか」
「___っ!?な、なぜそれを…!?」
「___っぅ!?は?え?…い、今何て言った!?」
「___ど、どうして!?それは、その話は俺達の間でしか知らないはずのに!!」
甘雨のそんな言葉に、男達は目を見開いて驚きを露わにしながらそう言う。
「さぁ、どうしてでしょう?」
甘雨はそんな男達の言葉に対して、不敵な笑みを浮かべつつそう言い放つ。
男達の反応から見るに千岩軍による庁舎突入直前で渡された『尋問供述書』や『反刻晴派一般人協力者リスト』、別行動中の煙緋が司法取引によって自分達の味方にする事に成功した反刻晴派の急進派中心メンバーのタレコミ、もしくは密告や告発によって明らかとなった事実、それらが真実であったことに甘雨は確信と歓喜に近いものを感じる。
そして煙緋が甘雨にもたらした情報が真実であったという事は___。
「___お、おい!!ま、まさか、俺達の中に裏切り者がいるんじゃないのか!?それは俺達しか知らなかったはずだろ!?」
拘束されていた男達の一人が、そう叫び上げる。
「えっ……!?ま、まさか!!」
「そんなっ!!じゃあ、俺達の中に裏切り者がいるって事か!?」
「いや…。ば、馬鹿な……!?そ、そんなはずは………!?」
「じゃあ!!どうしてその事を甘雨が知っているんだよ!?おかしいだろ!?誰かが裏切ったに違いないだろ!!」
「だ、誰だ!?誰が裏切り者なんだ!?お前じゃないのか!!お前、よく甘雨と話してたよな!?なぁ!?」
「お、俺じゃねえ!!そういうお前じゃないのか!?お前はよく急進派の連中と話してただろ!?お前がそいつに情報を横流ししていたんじゃないのか!?」
男達はそう叫び合い始める。
「………」
そしてそんな男達の様子を甘雨は静かに見据える。
甘雨のその一言で目の前の男達、反刻晴派の強硬派の内部崩壊は決定的となった。
混乱と動揺、そして怒りや憎しみに満ちた視線が地面にひれ伏して、拘束されている男達同士の間で飛び交いあう。
居るはずがない裏切り者、存在しない犯人、そうして仲間のふりをした敵と言う名の幻影。
その幻影を探そうとする男達は互いに互いの事を疑い攻撃しあう。
「___ふふっ」
互いに責めあう惨状に甘雨は静かにほくそ笑むように、僅かにニヤリと口角を上げる。
「…っ」
そして甘雨は隣に立っていた千岩軍の制圧部隊の大隊長に目配せをして合図を行う。
「___成程、“あの者”が我々にもたらした情報と言うのは正しかったようだな」
そうして甘雨の目配せを受けた大隊長は少しだけわざとらしく、地面で酷く言い合う男達の耳に入るようにそう呟く。
「___っ!?」
「___ぇっ!?」
「___なっ!?」
大隊長が呟いた“あの者”という言葉に男達は、動揺と困惑、そして驚愕と言った表情を浮かべながら、男達は一斉に静まる。
「あ、あの大隊長さん…?」
「む…。甘雨様、申し訳ない。ついうっかり口に出してしまった。これは私のミスだ」
甘雨はジト目で大隊長の事を見つめ、大隊長は申し訳なさげにそう言う。
地面にひれ伏した男達の前で行われるちょっとした寸劇。甘雨と大隊長のちょっとした茶番、虚言。
そしてそれは___
「___っ!!だ、誰だよ!?お前だろ!!」
「___うるせー!!俺じゃねぇ!!俺じゃなくてお前なんじゃないのか!?」
「___なんで俺なんだよ!?違う俺じゃない!!そいつだ!!絶対にそいつだ!!」
___男達の言い争いと言う名の火に対し、大量の油を注ぎ込んだ結果となる。
「___ふふっ」
そうしてその光景に甘雨は気づかれない程の小さな笑みを浮かべる。
先ほどの寸劇が決定打になったのだろう。もはや男達の間は完全に仲間と言った関係ではなく、疑心暗鬼の敵同士と言った状況になっている。
甘雨はそんな光景を、内心でほくそ笑みながら眺め続ける。
そしてそのような状況下、甘雨は口を開く。
「___目下で言い争いをなされている強硬派の皆さん、よろしいでしょうか。実は貴方達に“とある方からの御言葉”を預かっております」
甘雨ははっきりとした口調で、地面にひれ伏されている男達に向かってそう言う。
「はぁ…?御言葉だと?ふざけてるのか!?」
「御言葉…?はっ、そんなの知らねぇよ!!」
「言葉?そんなことよりもこの拘束を解けよ!!」
男達は甘雨の言葉を聞いた途端、反抗的になる。
「そうですか…?これは“凝光”様、璃月七星の天権様から承った御言葉なのですが…。残念ですね?」
甘雨は男達のそんな言葉に対して、特に気にするような素振りも見せずにそう言い放つ。
「なっ!?」
「えっ!?」
「て、天権だって!?」
そうして甘雨の口から発せられたその言葉に男達は目を見開いて驚愕し、そうして動揺を露わにする。
璃月七星の天権。
璃月を統治する岩神である岩王帝君の次に位置する璃月七星の天権。璃月の神に次いだ最高権力者である彼女からの“御言葉”。
それを告げようとした甘雨に対して明確に拒否、ないがしろにしてしまった事に対して、男達は今になって後悔し、そして畏怖する。
今のは完全に意図した事ではないとはいえ、今の行為は完全に凝光への侮辱行為に等しい。
もし彼女が今の出来事さえも知れば、ただでさえ酷い事になっている自分達の立場や処遇はどうなる事だろうか。
「あ、ま、待ってくれ!!甘雨さん!!」
「その伝言って、何なんだ!?教えてくれ!!」
「お、教えてください!!甘雨さん!!お願いします!!」
顔が青く染まりつつある男達は、慌てて甘雨に向かってそう叫ぶ。
「ふふっ…。まぁ、良いですよ?」
甘雨は目の前の男達のそんな姿を見て、少し愉快気な笑みを浮かべる。もう完全に男達の反抗の意志や反抗する気力を刈り取れたと確信したのだろう。
甘雨はそう男達に向かって言い、そしてゆっくりと口を開く。
「『貴方達、強硬派。私は貴方達の事を、決して許しはしないわ。___』」
「「「っ!?」」」
それは璃月七星の天権である凝光の、完全なる断罪宣言だった。
璃月七星の天権、凝光からの言葉に男達は一瞬で恐怖に顔を染める。
「『___同じ反刻晴派でも急進派はまだ刑罰の検討の余地や取引による減刑処置は認められるけれど、もう貴方達が行おうとした事、行ったことは完全に認められない』」
「「「…」」」
甘雨が述べていく言葉に、男達は黙り込みうつむく。それはまるで断頭台でギロチンの刃が落ちてくるのを待つ死刑囚のような姿だ。
「『過激派達のように刻晴の暗殺を目論んだり危害を加えようと画策していたわけではないものの、刻晴に多からず少なからず不満を抱いている千岩軍の兵士達を扇動し、彼らがクーデターを引き起こす事によって刻晴が璃月七星の座を降りるようにと暗躍を行っていた事。それは完全に璃月の秩序を搔き乱して璃月を混乱の渦中に陥れようした事に他ならず、そしてそれは私達璃月七星への謀反、璃月への宣戦布告に他ならない。さすれば___』」
「っ…」
「っぅ…」
「ぁ、ぁぁ」
淡々と述べる甘雨の言葉に、男達は絶望に染まった表情でうなだれる。それは完全に天権からの死刑宣告を告げられようとする罪人のようであった。
「『___貴方達の場合、死刑を免れる可能性はあるにしろ、それ以外の極刑はもう避けられない。その身で以ってそれらの罪を贖ってもらうわ』、です」
そう男達に向かって言い放つ甘雨は、そう言いきった所で言葉を区切る。
「「「…」」」
そうして男達は完全に沈黙し、自らの身に訪れようとしている結末に絶望するかのようにその身を震わしていた。
「___ふふっ」
そんな男達の姿を見た甘雨は、静かに笑みを浮かべる。
完全に沈黙した彼ら、この様子であればもう大丈夫だろう。
甘雨はそう確信し、そうして後ろに振り返る。
「___あ、そう言えば私からも一つや二つ、貴方達に言わせてもらわないといけない事がありました」
そして部屋を出ようとした素振りを見せた甘雨は、ふと思い出したかのように足を止めてそう男達に向かって言う。
「「「……?」」」
甘雨のそんな言葉に、男達は顔を上げる。
「___もしも貴方達に“最後の良心”という物が存在しているのであれば、これから行われる千岩軍の捜査や調査に素直に協力してください。ただ、それだけです。それだけで…、多少は貴方達の命運や行く末がよくなるかもしれません」
甘雨は振り返り、一人一人の顔や目を見ながらそう言った。
「「「…」」」
そうして甘雨のその言葉に、男達は互いに顔を見合わせながら困惑と動揺といったような表情を浮かべる。
そこには当初の甘雨に見せていた敵意や反抗的な態度は見られない。
「_____また協力に感謝します。“貴方の勇気や覚悟”のおかげで今日この日を迎える事が出来ました。取引の通り、刑罰の減刑を行います。まずは極刑だけは避けられるように取り計らいますので、ご安心ください」
甘雨は背を向けながら、そう虚言を並べていく。存在しない協力者、そのような言葉は無意味とも言える。
だがその言葉というのは___。
「___ま、待ってくれ!!甘雨さん!!」
背を向けていた甘雨に一人の男がそう叫ぶ。
「どうなされましたか?」
甘雨はその声に反応し、振り返る。
「___い、今からでも間に合うのか…?もしも千岩軍や七星達の捜査や調査に協力すれば…刑が……、いや、それ以上に彼女に対してやってしまった罪滅ぼしになるのか………!?」
「___おい!?何言ってんだ!?」
「___なっ!?お、お前!?」
「___なに言っているんだ!?抜け駆けのつもりか!?」
男は怯えながらも、そう甘雨に尋ねる。そしてその男の発言を聞いた他の男達は一斉に男に向かってそう叫ぶ。
「っ!?別に聞いただけだだろ!!何でもねえよ!!ただ気になっただけだ!!それに、せめて俺は…!!ただ俺は、この“やってしまった事”に対して……!!」
そうして非難を受けた男は、そう叫び返す。
「お、おい!!ふざけるな!!」
「おい!!抜け駆けは許さんぞ!!」
「ふざけんな!!お前だけ抜け駆けするんじゃねぇ!!」
叫び返された他の男達はその男に向かってそう叫び、また___。
「___取引、上手く行けば…」
「___どうせ…。なら協力すれば……」
___一部の男達は、その男に触発されたようにそう呟き始める。
「………」
甘雨は男達を無言で、彼らを観察するかのように見つめる。
甘雨にそう尋ねたその男、そしてその男の発言に触発されたかのように呟いた男達の目や瞳の曇り具合が男達個人個人で程度に差はあれど、その目や瞳の曇りが晴れているのが見受けられる。
つまりそれはそれぞれ、ここは強硬派やその他派閥の者達を見捨てて素直に捜査や調査に協力する事で減刑処置を狙おうとする者。また___。
「___そうだな。せめて…、彼女に対して……」
「___罪滅ぼしにはなることはないが、だったらせめて……」
___甘雨が述べた“最後の良心”。それがギリギリのタイミングでその男達の中で輝き始めた事で、甘雨に尋ねたその男のように自らが犯した罪を見つめてそれらを背負い、そうして純粋にその罪らをその身で以って贖う覚悟を決めた者達。
「___ふふっ…」
甘雨はそんな男達の目や様子を眺めながら少しだけ嬉しそうに、そうして優し気な笑みを浮かながら彼らを見つめる。
反刻晴派に潜入した甘雨、潜入し彼ら一人一人との接触をしていく過程で知り得た彼女が目を付けていた者、急進派の半数、そうして強硬派の一部や過激派の極一部の職員達。
当初は反刻晴派のそれぞれの派閥に属して刻晴への悪意を抱き害を為そう画策していたが、どこまでも真っすぐに璃月や璃月の民達と真摯に向き合い、そうして何も無く、何も出来なかった彼女が急激に結果を出して実績を積み上げ始めた事に対し感銘を受け、そうして彼女への悪意が消え去ったと同時に自分のしている行動に疑問を抱いてしまった者達。
___そうして、本当は反刻晴派の各派閥から抜け出そうとしたが、抜け出そうとしたり抜け出した後のかつての仲間達である各派閥からの報復や口封じ等の危害が加えられる可能性がある事によって身動きが取れず、動くことが出来なかった者達。
「そうですね…。___」
甘雨はそんな男達。
かつての強硬派の仲間達や反刻晴派達からの報復と言った危険性が今でもある中で、自らの罪を直視して覚悟を決めた勇気ある者達に対し___
「___大事なのは“誠意”だと思います。誠意を以って、真摯に貴方達が犯した罪と向き合ってください。見ている人は見ています。必ず、です」
甘雨は男達を見つめながら、真剣な表情でそう言葉を紡ぐ。
「「「…」」」
そうしてその男達も覚悟を決めたような表情を浮かべる。
「___厳罰や極刑と言った判決は避けられないでしょう。但し、これからなにか奇跡でも起こりでもすれば一度だけ“チャンス”があるかもしれません」
甘雨はそう男達に対して言って、穏やかな笑みを浮かべる。
「それでは私は、これにて失礼しますね」
そして甘雨は再び男達に背を向けながらそう言い、そして隣に立つ大隊長に目配せをする。
「___はっ、了解しました。甘雨様。おい、俺は甘雨様としばらく一緒にいる。ここは任せたぞ?」
「はっ!!了解しました!!大隊長!!」
「了解しました!!大隊長!!ここは我々にお任せください!!」
そうして甘雨の目配せを汲み取った大隊長は自身の部下達にそう命令し、彼の部下である千岩軍の兵士達は声を揃えて返事をし大隊長と甘雨に敬礼をする。
そうして甘雨と大隊長は会議室を後にする。
「___見事な手腕でした。甘雨様」
「___ふふっ、ありがとうございます。大隊長さん」
甘雨と大隊長、また甘雨の警護役数人の千岩軍の兵士達がこの庁舎を出るべく階段を下りていく中、大隊長は感服したかのような表情で甘雨にそう言う。
「これであの者達、特に甘雨様に申し出をしたあの者を中心とした強硬派の者達は完全に我らの捜査や調査に対して全面的に協力する事でしょう」
「そうですね。またそれ以外の者達も減刑や司法取引を狙って、積極的に自分達や七星達が把握していない事や知らない事、また聞いてない事等も積極的に話してくれるでしょう」
「えぇ。また最後まで反抗的だったあの者達も、甘雨様とあの者達のやり取りを見て、おそらく考えを変えて我々の尋問や取り調べに応じるかと思われます。これで強硬派は完全に陥落、甘雨様のおかげで彼らを我々側に着けさせることが出来ました」
「そうですね。強硬派は私達の手で、急進派は煙緋さん達の手で、それぞれの派閥が陥落しました。そして残すは“過激派”です。___」
大隊長は甘雨に向かってそう言うと、甘雨も大隊長のその言葉に同意するように頷きながらそう言う。
「___そう、刻晴さんの暗殺を目論んでいた反刻晴派三大派閥の中で、最も危険な派閥です…」
甘雨はそう呟くように言うと目を細める。甘雨が初めて反刻晴派の存在を知ったあの日の事を思い出す。
反刻晴派の中でもより危険な思想に染まり、そうして彼女の強制排除を唱えるほど強硬派以上に何をしでかすのかが分からない存在。
強硬派はあくまでもクーデターによって彼女が玉衡の座を降りたり、七星から退陣するように仕向けていたのに対し、過激派は刻晴を直接排除しようと暗殺さえまでも目論んでいる危険な集団。
「………」
甘雨は何げなく、自身の顎に右手を当てて思案する。
甘雨が反刻晴派に潜入したあの日以降、甘雨は内部から過激派についての情報収集を行っていたが、彼らは急進派や強硬派の者達と違って甘雨の事を警戒、用心するべく甘雨から少し距離を置いていた。
その為、まずは甘雨は過激派の者達と直接やり取りを行う事はせずに自分を味方と認識していた急進派や強硬派達の者達を利用して、彼らから過激派の情報を集める事で過激派の実態や行動指針を探った。
そしてその結果として、過激派はやはり刻晴の暗殺を目論んでいる事が確定した。その手段と言うのは複数あっていずれも刻晴を事故死を装った物から闇討ちして彼女を消したりと、いずれもそれらの具体案を検討中である事が、彼ら急進派や強硬派の者達の証言から判明した。
そうして肝心の___。
「___“先に居る者達”」
甘雨はそう言うと、拳を強く握りしめる。
“先に居る者達”、過激派が実際に刻晴に暗殺等を行う際に実際に実行を行う者達。またそれだけではなく、どうやら過激派が暗殺や事故死を装った暗躍と言った計画を打ち立てる際に彼らに実用的なアドバイスや助言を行い、刻晴暗殺の実現化に向けて導く存在でもあるらしい。
当初の甘雨は“先に居る者達”、その存在を知った彼女はあくまでも過激派に雇われた殺し屋や暗殺者とでも言った者達なのだろうと考えていた。
だが甘雨が過激派に関して情報を集めていくうちに、過激派とその者達の関係性と言うのがあまりにも対等であった事。
またむしろ、過激派が彼らにアドバイスや助言を求めて彼らから様々なそれらを貰っていたという事実より、彼らのアドバイザーや参謀のような存在である可能性が高まっていき、そうして過激派を通じて“急進派”や”強硬派”達にもアドバイスや助言を行っており、各派閥はそれを参考に進めていた事が明らかになった。
そしてそれは当初の甘雨の想定では“過激派”が‘主’で、“先に居る者達”が‘従’と言った主従関係であったのが、“過激派”が‘従’、“先に居る者達”が‘主’であった主従関係である事。
___つまりは、“反刻晴派”は“先に居る者達”によって操られていた可能性が非常に高いという事が明らかになったのだ。
「…ふぅ」
甘雨は目を細めたまま小さく息を吐く。
あまりにも恐ろしすぎる可能性。そしてそれを裏付けてしまった数々の事実。
「___っぅ…!!」
甘雨はそんな現実に改めて身震いを、そうして凝光がこれ以上探るなと厳命した“姿無き彼ら”に対しての怒りを燻らせる。
「___甘雨様、どうかなされましたか?」
その時、甘雨の隣を歩いていた大隊長が甘雨にそう声をかける。
「あっ、い、いえ…。何でもありません」
話しかけられた甘雨はハッと我に返り、大隊長にそう言う。
「そうですか…?分かりました、甘雨様。それにしても___」
大隊長は甘雨の言葉に納得したように頷き、そうして彼はふと会議室での先ほどまでのやり取りを思い出すかのように言う。
「___彼らにもう一度“チャンス”なんてあるのでしょうか…?」
大隊長はそう、ボソッと呟く。先ほどの甘雨が述べた「奇跡でも起こりでもすれば一度だけ“チャンス”があるかもしれません」と言う言葉、その言葉を深く噛み締めるかのように。
「そうですね…。正直、私には分かりかねます。ですが…」
「…その可能性はゼロではないと?」
「はい、そうです」
大隊長の言葉に甘雨は頷き、続いて彼女はこう言葉を続けた。
「___あの人、刻晴さんは、今回の引き起こされてしまったこの事態は当初の不甲斐なかった自分にも責任があると仰っていました。そしてそれ故、自分が直接自分の目と耳で彼らの事をしっかりと知りたいと、そうして彼らの事を理解したいと。その為には一度彼らと対話をしなければならない責務があると仰っていました」
甘雨は思い出すかのように、どこか遠くを見つめながらそう言葉を続ける。
「な、成る程…。彼女はそのように……」
甘雨の言葉に大隊長は納得したように頷く。そしてそれを見た甘雨は頷く。
「はい、そうです。そうしてあの人は___、とまで仰っていました」
「そ、それは…!?な、なんと……」
大隊長は目を見開かせる。彼女のまさかの考えに大隊長は驚く。
「ふふっ、本当にそうですよね。私も大隊長さんみたいに驚きました。この件の指揮を執っている特別検察官の煙緋さんや天権の凝光様も、大層驚きましたよ」
甘雨はそう、クスクスと笑いながら大隊長に言う。
「ま、まさかそのような考えでいるとは微塵も思ってもおりませんでした…。あ、あの御方は、あの御方の事を何と言えばいいのか、度胸があるというべきか、大胆不敵と言うべきか……」
大隊長はそう、頬をポリポリと掻きながら言う。
「ふふっ、本当にそうです。彼女曰く、『私を嵌めようとした度胸やその実行力、それ自体は悪い事ではあるけどそれと同時に目を見張らせるものではある。なら、___』と。そう仰っていました」
甘雨はクスクスと笑いながら、そう大隊長に説明する。
「な、なんですと…!?そ、それはあまりにも……」
大隊長は刻晴が語ったその考え方に、思わず言葉を失い絶句する。
「ふふっ」
甘雨はそんな大隊長の反応に思わず小さく笑みを零す。
「そ、その、凄く、破天荒とでも言うべき御方だと言うべきか、それかあまりにも愚直な考えを持った御方と言うべきか……」
大隊長は甘雨の笑みにハッと我に返った後、そう言葉を絞り出すかのように言う。
「ふふっ……。本当にそうですね」
甘雨はそんな大隊長の言葉に同意すると、同時に前を向く。
甘雨達の目の前には庁舎の正面玄関。先ほど千岩軍の兵士達が突入し、そうしてその後を追うように甘雨達も庁舎に入った時に使った場所だ。
そうして二人はその場所から、庁舎の外へと出る。
「___おらぁ!!強硬派!!歩け!!さっさと歩け!!」
「___一列になってしっかりと歩けよ!!」
「___脱走をしようなんざ考えるなよ!!」
「___もしもやったら、より酷い目に合わされると思え!!」
「___ぐぅっ!?」
「___っぅ!?」
「___どうやら移送作業は順調に進められているようですね。流石です、大隊長さん」
「___ありがとうございます、甘雨様。身に余る光栄です」
甘雨の褒め言葉に大隊長はそう、敬礼をしつつ言う。
甘雨の目の前に広がっていたのは、庁舎の中で拘束した縄や紐で拘束した反刻晴派の職員達を改めて拘束し直した上で彼らをそれぞれ一列に並ばさせ、そうしてその一列の左右を千岩軍の兵士達で固めた上で、その者達を兵士達の監視の元で近場の千岩軍の駐屯地や千岩軍の留置所まで行進させて移送していく光景であった。
「………」
甘雨は無言でそれを眺める。“輝山庁”に立てこもる事で庁舎を占拠していた強硬派はこれで完全に鎮圧された。これで強硬派の者達は金輪際、暗躍等をする事は出来ないだろう。
「……ふぅ、本当に良かったです」
その事に対して甘雨は満足げに頷く。だがその表情は心の底から安心しきったものでは無い。むしろ、ここからが正念場と言ったような決意に満ちたものだった。
そんな時だった。
「___甘雨様!!」
「___っ!!」
呼ばれた甘雨は即座に、声のした方向を振り向く。
「はぁ、はぁ、はぁ」
甘雨の視線の先には一人の千岩軍の兵士が汗を滝のように流しながら、息も絶え絶えと言った様子で甘雨の目の前で止まった。
ここまで全力で走ってきたのだろう。その者は肩で息をしていて、足取りもおぼつかない。
「ここまで全力で走ってきたのですね…。大丈夫ですか?」
甘雨はそんな千岩軍の兵士に心配そうな様子で、そう声をかける。
「はぁ、はぁ……。は、はい。大丈夫、です…。そ…、それよりも、ほ、報告を、ご報告をさせていただきます…!!」
千岩軍の兵士はそう、息を切らしながら言いきり、甘雨に敬礼をする。
「分かりました、報告をお願いいたします」
甘雨は頷きながらその兵士、“銀原庁”方面部隊に所属していた千岩軍の兵士。
“過激派”が集う事になっている“銀原庁”を担当していた伝令役の兵士にそう命じる。
「はっ!!ご報告させて頂きます!!」
そんな甘雨の命を承った伝令役の兵士は敬礼を止め、改めて直立不動で甘雨に向き直る。
「“銀原庁”ですが、あの場に居た過激派達は取り押さえる事に成功したものの全員の拘束に失敗、一部の者達の逃走を許しました!!また過激派の主要メンバー、そうして中心メンバーはあそこには集っておらず、行方が分からない状態です!!」
伝令役の兵士は敬礼しながら、甘雨にそう報告をする。
「なっ!?なんだと!?目標であった主要メンバーや中心メンバーはおろか、過激派メンバー全員を取り押さえられなかっただと!?」
甘雨の隣でその報告を聞いていた大隊長は、思わずそう叫ぶ。
「は、はい!!申し訳ありません!!」
伝令役の兵士はそんな大隊長の反応に恐縮し、叫ぶように大隊長に謝罪をする。
「___いえ、そう簡単に事が進むとは思いませんでした。この程度は想定内です」
そしてそれに対して甘雨は落ち着いた様子でそう、伝令役の兵士に言う。
「それよりも重要なのは逃走を許したという事実。千岩軍は厳重な包囲網を敷いていた筈です…。なぜ、その包囲網から抜け出せたのですか?」
甘雨は落ち着いた様子で伝令役にそう、疑問を問いかける。
「はっ!!どうやら彼ら、銀原庁の地下室から包囲網外にあった建物の地下室までに続く秘密の地下トンネルを開通させていた模様です!!幸いにもそのトンネル内は非常に劣悪でかつ一幅も一人分ぎりぎりしかない為に、ゆっくりと移動していかなければならない制約があったようで、過激派の大勢の人物を取り逃すという事だけは避けられました!!」
甘雨の疑問に伝令役の兵士はそう答えて、報告する。
「成る程……」
甘雨は小さく呟くように言う。やはり彼らはとても狡猾な集団だ。そう簡単にはこちらの思うようにやらせてはくれないようだ。
「___因みに抜け出せたのはやはり、過激派の主要人物や中心メンバーに近い人物達という事でよろしいでしょうか?」
「はい、その通りです!!ただ、全員が全員璃月港内への逃亡に成功したという訳ではありません!!実は銀原庁を占拠していた過激派ですが、その銀原庁の中には過激派とは無関係の職員達も多数おり、千岩軍の突入を開始した際に彼らもそれに合わせて本格的な反抗や抵抗を開始し始めた結果、銀原庁を占拠していた過激派は外からの千岩軍の攻勢や圧力、内部からの反抗や抵抗運動によって内部崩壊を起こし、当初の想定よりも早く銀原庁を彼らから取り戻す事に成功しました!!」
甘雨の問いに伝令役の兵士は敬礼しながら、そう甘雨に報告をする。
「成程、そうですか…。良かったです、本当に」
その報告を聞いた甘雨は心底安堵したように、そう呟く。
___意外とこの状況は悪くないかもしれない。
過激派の主要メンバーや中心メンバーは集まらず、また半数以上の過激派メンバー達は上手い事、銀原庁から逃亡を許してしまうのが、甘雨が想定していた今回のシナリオであり、むしろここからが過激派を取り押さえるための本番と言っても良かった。
だが甘雨が想定したシナリオ、過激派の主要人物や中心メンバーに近い人物達は取り逃したものの、そのシナリオの前提であった半数以上の過激派メンバーの逃亡、それを阻止する事が出来たという事は彼女達にとっては嬉しい誤算だと言える。
「___本当に、良かったです。これであれば、逃亡を許した彼ら全員は……」
甘雨はそう言うと、ふと璃月港の空の方、そうして“群玉閣”の方に視線を向ける。
ここまでは“甘雨の役目”。
そしてここからは“凝光の役目”、正確には“凝光が秘密裏に創設したという、天権直属の___”。
「___甘雨様ぁっ!!」
「___っぅ!?」
___その時、絶叫するような大声で甘雨の名を呼びかけられ、思わず彼女は身体をビクッと震わせる。
「な、何事ですか…!?」
大声で呼び駆けられた甘雨はそちらの方に視線を向ける。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、げほっ、ごほっ」
そこには先ほどまで甘雨に報告していた千岩軍の兵士よりも、疲労しきった様子の別の千岩軍の兵士が荒い息をしながら片膝をついていた。相当以上に急いで走ってきたのだろう、その兵士の額からは汗が滝のように流れ落ち、表情は息切れの影響で苦し気に歪んでいた。
「ど、どうしましたか!?」
甘雨はその兵士の前にしゃがみ込み、問いかける。
「も、申し上げますっ!!」
そんな甘雨の問いかけに対し、千岩軍の兵士は片膝をついたまま敬礼すると、叫ぶように報告をする。
「か、甘雨様!!き、緊急事態が発生しました!!げ、現在______」
「___っぅ!?」
報告を受けた甘雨は目を見開く。今この瞬間、璃月港内で不測の事態が発生したのであった。
「___う~ん?なんだか、今日の璃月港。やっぱりやけに騒がしいよねぇ?」
「___そうだな。なんだか今日は、千岩軍の兵士達が璃月港の街中を走り回っていく姿をよく目にする」
「だよね…。なにか今日、璃月港であったのかな?」
「おそらくそうだろう。それに兵士達があそこまで慌ただしく動いているという事は、何かしらの只事では無い事態が発生したと見るべきだ」
灰雲に染まる曇り空。
いつもは秋晴のような快晴が多い璃月港は珍しい事に、そんな曇り空に包まれていた。
「___急げ!!急げぇ!!向こうの建物の奥側のはずだ!!まだ遠くには行ってないはずだ!!」
「___すみません!!道を開けてください!!千岩軍が通ります!!」
「___おい!!そこ!!真ん中を開けろぉっ!!急いでいるんだ!!」
そうしてあちらこちらから千岩軍の兵士達の声が、璃月港内を木霊する。
珍しい曇り空に、これまたいつもとは違う様相を呈しているのが、璃月港の街中を忙しなく走り回っている千岩軍の兵士達だった。
「___きゃっ!!えっ!?」
「___な、なんだ!?」
「___なんだなんだ!?」
そして、とある通りにて数十人の兵士達が道を開けるように叫びながら璃月港の道のど真ん中を全速力で駆け抜けて行き、そうしてあまりにも普段の様子とかけ離れている兵士達の様子を、道行く人々は驚きの目で見つめる。
そうしてまた、その道行く人々の中には“彼ら”の姿、___。
「一体、何が起きたんだろうね?ね、“鍾離”さん?」
「そうだな、“堂主”殿。一体、この璃月港で何が起きてるというのだ?」
___茶髪の長髪にその髪を二つに結んだツインテール、背中に神に認められた者であるという証である“炎の神の目”を身に着けていた少女の“胡桃”。そしてベージュのドレスシャツに茶色と琥珀色のウエストコートを着こなし、背中側の方に“岩の神の目”を身に着けている男性の“鍾離”が、二人揃って首を傾げながら歩いていたのであった。
次回は今までの煙緋と甘雨と違って、一般人の立場である胡桃と鍾離視点のシーンとなります。
また今までにお気に入り登録してくださいました皆様方や感想をしてくださった皆様方、今年は本当にありがとうございます。
作者は描きたいものを描いていくというスタンスでここまで描き上げて行きましたが、この作品を一年間かけてここまで描き上げられてきたのはそれだけではなく、皆様方のお気に入り登録や感想をしてくれた事も一年間も続けられた大きな要因ではないかと思いました。
改めて感謝します。本当にありがとうございます。
作者の今の現状は先月でも述べました通り、リアルがかなり大変で忙しい事になってしまっているために、中々随筆するための纏まった時間が取れませんが、これからも何とか一ヶ月に一回程度は更新できるように頑張ってみようと思います。
それでは次回、来年の最初の投稿まで気長にお待ちください。
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追記1
・文章表現におかしいところがありましたため、修正を行いました。(「過激派」を占拠していた過激派は→「銀原庁」を占拠していた過激派は)
追記2
・文章表現におかしいところがありましたため、修正を行いました。(地面にひれ伏した男達によるちょっとした寸劇。→地面にひれ伏した男達の前で行われるちょっとした寸劇。)