名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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新年初の投稿(3か月ぶり)。

本当にお久しぶりです。
ようやく投稿する事が出来ました。

1月の資格の試験のために随筆活動が完全にストップし、そうして試験終了後に少しずつ随筆活動を再開させてようやく投稿にまで至りました。(尚、試験自体には合格できました。)

本来は2月中に投稿予定でしたが、その時には3月も近いという事も相まって想像以上に忙しくなってしまい投稿が遅れてしまい、また2月に腹痛等の体調不良が一時続いてしまいましたが、まずは投稿できるようになれて良かったです。

今回は久しぶりの投稿、またリハビリも兼ねているため、今回の投稿分は現在の璃月港の状況説明回に近いですが、楽しんでいただければと思います。


_本当に良かったよ、刻晴…

Side:胡桃

 

「___そこの荷車!!止まってください!!」

「___荷車の中身の確認を!!我ら千岩軍の検査にご協力ください!!」

「___はぁ!?おいおい!!またかよ!?既に千岩軍の検問は受けたんだぞ!?これ以上何をするつもりなんだ!?」

「___大変申し訳ありません!!現在、璃月七星の天権様によって発令されました“戒厳令”に従い、現在の璃月港内の物資の輸送等に関しては、積荷や身分証明等の検査を厳しくしております!!そのため、ご協力をお願いします!!」

「くそっ…、時間が無いのに!!仕方ねぇ!!ほれ、さっさと終わらせろ!!」

「ありがとうございます!!失礼します!!」

「すみません、失礼します!!手早く終わらせますので!!」

 

 

 

璃月港のとある一角、璃月港の大通り。

 

いつも以上に騒がしい璃月港内にて、とある千岩軍の兵士が大きな荷車に対して訝しみ、そうして仲間の兵士達と共にその大きな荷車を取り囲んで、その荷車の中身を確認し始める光景。

 

 

 

「___えっ、検問?それに戒厳令…?」

 

「___む…」

 

 

そうしてその通りを歩いていた“胡桃”と“鍾離”の二人は彼らのやり取りを目にして、思わず歩みを止める。

 

やはりこの璃月港でただならぬ事態、“何か”が起きているというのはどうやら間違いないようだ。

 

 

「ねぇ、鍾離さん。やっぱり…?」

 

「あぁ、堂主殿。どうやら今のこの璃月港でただならぬ事が起きているというのは間違いではなさそうだな」

 

歩みを止めていた胡桃は歩き始めながら鍾離に目をやりそう問いかけ、対する鍾離は止めていた足を再び前に進めながら、胡桃のそれに小さく頷いてそう返す。

 

そしてそんな時であった。

 

 

 

「___成程。“万民堂”にてそのような話や噂があったのですね」

 

「___その話、どこかで聞いたことはありましたが、そう言う事だったのですね…」

 

「___うん、そうだよ。あと他に店の中で流れていた話や噂は…」

 

胡桃達の目の前に広がるは、数人の月海亭や総務司の職員達に彼らを警護するかのように傍らに控えている千岩軍の兵士達。そして胡桃の友人である___

 

 

 

「___えっ、“香菱”…!?」

 

「___あれは、“香菱”殿ではないか」

 

___万民堂のシェフ、“香菱”が彼らと会話している光景が胡桃と鍾離の目に入り、意外過ぎる人物に二人は思わず目を丸くしてしまう。

 

 

 

 

「___うん?…あっ!!胡桃!!それに鍾離さん!!ちょうど良かった!!来て、来て!!」

 

そして胡桃と鍾離の声が聞こえたのか、職員達と話をしていた香菱が胡桃達の方に振り向き、二人に呼びかける。

 

「え?い、一体どうしたんだだろう…?鍾離さん」

 

「あぁ、堂主殿。行こう」

 

胡桃と鍾離は互いに頷きあうと、香菱達の方へと足を向ける。

 

 

 

「___どうしたの、香菱?香菱達の様子からして、どうやら只事では無い事が起きてるみたいだけど…?」

 

「___堂主殿の言う通りだ。香菱殿。それにそれだけでなく、どうもこの璃月港全体で何かが起きているようだが」

 

香菱の元に駆け寄った胡桃と鍾離は、彼女にそう問いかける。

 

「うん!!そうなの!!ほら、以前に万民堂で鍾離さんが話してくれた“反刻晴派の話”。あれ、覚えてる?」

 

「えっ、“反刻晴派”!?」

 

「なに、反刻晴派だと…?」

 

香菱の“反刻晴派”という言葉に思わず、胡桃は目を見開きながら驚きの声を上げ、鍾離も少しばかり驚いた様子でそう呟く。

 

 

「そう。今、その反刻晴派の件で月海亭や総務司の職員さん達、それに千岩軍の人達から璃月港にいるあらゆる人達に情報提供を求めていて、それに関して私の知っている事を教えていたところなの!!」

 

「成程ね…」

 

「ふむ、そう言う事か…」

香菱の説明を聞き、胡桃と鍾離は納得したように頷く。

 

 

 

 

 

「___香菱さん。失礼ですが、この方達は、香菱さんのご友人達という事でよろしいでしょうか?」

 

そしてその時、香菱の後ろで控えていた職員の一人が胡桃と鍾離の方を見て、香菱にそう問いかける。

 

「あっ。うん、そうだよ!!この二人は胡桃と鍾離さん、私の友人だよ!!それに職員さん達や千岩軍の人達が探し求めている有力な情報を持っているかもしれないっていう人が、ここにいる鍾離さんなんだ!!」

 

「_なっ!?」

 

「_ほ、本当ですか!?」

 

「_それはとても助かります!!」

 

香菱のその言葉を聞いた職員や千岩軍の兵士達は、一様に驚きと期待に満ちた表情をして一斉に胡桃と鍾離の方を見る。

 

「うわっ、しょ、鍾離さん…」

 

「うむ。どうやら彼らは、俺に用があるようだな」

 

一斉に注目を浴びた事により、胡桃は少々驚いた様子で鍾離の方を見つめ、鍾離は腕を組みながら頷く。

 

 

 

「___すみません。今、お時間ありますでしょうか?」

「___是非とも、我らの調査や捜査にご協力をお願いしたいのですが。よろしいでしょうか?」

「___時間はさほどかかりませんので、どうかご協力をお願いします」

「___私からもお願い。胡桃、鍾離さん、この人たちの調査や捜査に協力してあげて」

 

職員達や千岩軍の兵士達はそう頭を下げ、また香菱までもが一斉に胡桃と鍾離にそう頼み込む。

 

「あぁ、勿論だ。構わないぞ。職員達殿や兵士達殿、それに香菱殿。ただその前にいくつか、こちらから質問してもよろしいだろうか?」

 

鍾離は同意するかのように頷くと同時に、職員達らに対してそう問いかける。

 

「はい、勿論です!!」

「勿論です!!一体、なんでしょうか?」

「はい、大丈夫です。質問とは一体どのような事でしょうか?」

 

職員達と兵士達は揃って頷く。

 

「うむ。俺の質問とはとても簡単な内容だ。それは、今、この璃月港で何が起きているのだという事だ」

 

鍾離は職員達や兵士達に向かってそう問いかける。

 

 

「___ふむ。と、言いますと?」

 

「あぁ、俺と堂主殿が往生堂から外出して璃月港へと出た時、普段の璃月港とは違い、いつもとは全く違った様子で戸惑っていたのだ」

 

「そうだね、鍾離さん。外に出た時、本当にびっくりしたよ。いつもの璃月港とは全然違ってたからね。それに検問やら戒厳令やらなんて言葉まで聞こえてきて、本当にびっくりしちゃったよ」

 

「うむ、そうだな。胡堂主殿。ともかく俺と堂主は、今のこの璃月港が一体全体どういう状況になっているのかを知らないし、どういう事態に陥っているのかが全く分からない。だからまずは先に、今のこの璃月港の状況を教えて欲しいのが、俺の質問だ。俺への質問は、その後だ」

 

胡桃と鍾離は互いに頷きあい、今度は職員達や千岩軍の兵士達に向かってそう問いかける。

 

 

 

「___成程、そう言う事でしたか」

「___今の状況を、お二方はよく分かっていなかったのですね」

「___確かに、まずは今の状況をしっかりと把握なさってから質問した方がいいかもしれませんね」

「___へぇ、そうだったんだね。まぁ、そうだよね。私も買い出しに外に出たら、璃月港が凄い状況になっていて不安だったし」

 

そして問いかけられた彼らは一様に頷きそう言いあい、また鍾離のその言葉に対して香菱も共感するかのように、彼女も縦に頷く。

 

 

 

「___分かりました。それでしたら、私が今現在の璃月港の状況をご説明させていただきます」

 

 

 

そうして鍾離達が頷きあっていたその最中、互いに顔を見合わせていた職員達の一人が、彼らを代表するようにその中から一歩前へと出て胡桃と鍾離に対して説明を始める。

 

 

 

「___では、現在の璃月港についてをご説明いたします。まず先ほど胡桃さんが仰っていました通り、現在の璃月港は璃月七星が発令した命令、天権様の命により璃月港は現在戒厳令下におかれています」

 

「天権による戒厳令!?」

 

「ほぉ…」

 

職員からの説明を聞いた胡桃は驚いたようにそう声を上げ、隣にいる鍾離は静かだが興味深そうに声を上げる。

 

そして彼らは改めて実感する。今のこの璃月港は何かしらの不測な事態、香菱が言っていた“反刻晴派”が絡む何かしらの緊急事態が現在進行形で見舞われているのだと。

 

「続けて、続けて!!今、一体何が起きちゃってるの!?」

 

「あぁ、話を続けてくれ。おそらく、香菱殿が話してくれた反刻晴派に関する事だと思うが…」

 

二人は職員に向かって、説明を続けるように促す。

 

「はい、説明を続けさせていただきます。鍾離さんの言う通り、その反刻晴派が原因で戒厳令が発令されました…。失礼ですが、鍾離さん。鍾離さんは反刻晴派のご存じと見受けられますが、どこまでご存知なのでしょうか?それによって補足すべき説明の箇所、また貴方達に伝えるべき情報などを明らかにしたいので」

 

そして職員は頷くと再び説明を再開し、そうして今度は鍾離の方に向き直りそう問いかける。

 

「ふむ…。そうだな。端的に言えば、反刻晴派と言うのは刻晴に悪意を持つ者達、刻晴が持つ玉衡を奪おうとしている者達の集まりという事だ。より正確には反刻晴派という刻晴殿に不満を持っている者達の中に、彼女に悪意を持つ者。彼女の玉衡という座を狙っている私利私欲に塗れた者。そういった者達が反刻晴派の中に混ざり込み、そして刻晴殿が害を加えられようと誘導を行う者や、また刻晴殿の足を引っ張って失脚させて玉衡の座から引き摺り下ろそうとする者達が混ざっているという事だ。そして彼らが刻晴殿の玉衡の座を奪取しようと、虎視眈眈とその機会をうかがっており、一部は彼女の暗殺までをも目論んでいるとの事ぐらいだ」

 

「お、おぉ…!?そ、そこまで…!!」

 

「そこまで把握を…!!」

 

「す、凄い…!!反刻晴派について、そこまで把握しているとは……!!」

 

「うんうん、そうだったよね。万民堂で話してくれた反刻晴派の話は…」

 

鍾離の回答を聞いていた職員達や兵士達は驚きを隠せずに思わずそう呟き、それと同時により、期待に満ちた目で彼を見つめる。そしてまたその話に同意するかのように香菱は腕を組みながら頷く。

 

「な、成程。反刻晴派について、そこまで把握をなさっていたのですね。それでしたら、前提となる基本的な説明は省いても問題は無さそうです。いえ、それでしたら話せるだけの事は話した方が、結果的には私達に取ってより良い結果へと繋がりそうですね…」

 

そうして鍾離のその言葉を聞いていた代表者の者は目を丸くさせながらそう呟き、そして納得したかのように頷きながら彼に何を説明すべきかを決めたかのように再び口を開く。

 

 

 

「___鍾離さんの今の話を聞く限り、反刻晴派の中に潜んでいる真の敵、また真の犯人についてをしっかりと理解しているようです。そうであれば、反刻晴派の一般人達と反刻晴派の中に潜み暗躍する者達との違いの話の部分の説明は割愛しましょう。そして肝心の反刻晴派の中に潜んで暗躍する者達についてですが、まず我々はこの者達をそれぞれ“急進派”、“強硬派”、”過激派”と呼んで、それぞれを区別しています」

 

「“急進派”、“強硬派”、それに“過激派”…?」

 

「成程…。反刻晴派に潜む悪意ある三つの派閥というわけか…。もしや、先ほど俺が述べた刻晴殿の暗殺を目論んでいる者達と言うのは、その“過激派”という者達に属する者達が目論んだものか?」

 

「“急進派”、“強硬派”、“過激派”…。反刻晴派に潜む悪意ある三つの派閥ね……」

 

説明を受けた胡桃と鍾離はそれぞれそう問いかけ、香菱もそのような説明は受けていなかったのか驚いたかのように少しだけ目を見開かせ、そうして真剣そうな表情でそう静かに呟き、その代表者が語る言葉に集中する。

 

「はい、“急進派”、“強硬派”、“過激派”の三つの派閥。反刻晴派の裏にいる三大派閥が刻晴様に悪意を抱き、彼女を失脚させようとしたり害を為そうとしている者達です。そして鍾離さんの指摘の通り、玉衡様の暗殺を目論んでいる者達というのは、その過激派と呼ばれる者達となります」

 

問いかけられた代表者は真剣そうな表情でそう答える。

 

「うそ…。ほ、本当だったの……?い、いや完全に信じてなかったわけでは無かったけどさ…。だけど、本当だったんだね…!!」

 

「ほ、本当だったんだ…。成程ね……!!」

 

「ほぉ、成る程…。それは、実に興味深いものだな……」

 

その説明を聞いた胡桃と香菱は戸惑い、鍾離は静かに興味深げに頷き、その次の瞬間には瞳を鋭くさせて三人は頷く。

 

以前の万民堂で鍾離が刻晴に話した反刻晴派にまつわる噂話。

この噂話が真実であり、また実際に月海亭、七星八門、そして璃月港の裏でその陰謀が渦巻いていたという事。

 

それが今、この璃月港で実際に起きてしまっていたという事を胡桃と鍾離は改めて認識する。

 

 

 

「はい。胡桃さんの言う通り、これは事実です。そして続いて、天権様が戒厳令の発令を行うまでの経緯となりますが…。以前より七星八門や月海亭の異常を察していました凝光様のご命令により秘密裏に調査、最終的には反刻晴派にあの御方の息が掛かった“間者”達、いわゆる“スパイ”達を放って反刻晴派に潜り込ませました」

 

「えっ、スパイ!?」

 

「ス、スパイ…!?」

 

「ほぉ、スパイを…。彼女は諜報員達を潜り込ませたのという事か…。成程、流石は天権。そこまで実行するとは……」

 

その説明に胡桃と香菱はまるで現実感が無いとばかりに目を見開き、鍾離は感心したように頷きながらそう呟く。

 

確かに胡桃が驚きを見せてしまうのは仕方のないことかもしれない。

 

それは七星八門や月海亭、そして璃月港の表舞台では出てくる事が無く、自分達が認知できるはずもない話。

 

その者は明言はしなかったものの、それでも璃月港という表舞台の裏側、璃月港の裏側の影の世界で行われていた凝光と凝光の命令に従い暗躍する間者達、そして反刻晴派の奥深くに潜む刻晴への悪意を持った者達との静かなる闘争が行われていたという事実であり、そして決して表には出ない璃月港の裏世界の話であるからだ。

 

「す、凄い…」

 

胡桃は思わずそう呟く。

 

それぞれ往生堂の堂主と、その相方でもある客卿である彼の彼らも璃月の生と死を扱う職業であるため、彼らも彼らで生と言う表の世界と死と言う裏の世界と言う二つの世界を意識してきたが、それとは違う璃月港の歴史が編んできたその土地の人間社会と言う名の表世界と、人間社会という因果が故にそこで行われている数多の数の個人や組織同士の利権関係や利害関係の激しいぶつかり合いや衝突、激しい綱引き等が行われている人間達の欲望がひしめきあって蠢きあう裏世界。

 

そんな現在の裏世界の光景、玉衡の座を奪わんと刻晴へと迫りくる反刻晴派の悪意達とそれを食い止めようとする凝光の強い意志が刹那的に見えたような気がし、そうして凝光が立って見下ろしている璃月港の裏世界の広さや深さ、そしてそんな彼女の持つ底知れぬ決意や覚悟を胡桃は、そして鍾離は感じ取る。

 

 

 

「_凄いね。鍾離さん」

 

「_あぁ、そうだな。堂主殿。流石は天権、凝光だな。ふっ…」

 

胡桃は思わずそう呟き、そしてそれに鍾離は同意を示して、そうしてまるで彼女の事を認めたかのように、ほんの少しだけ口元を緩める。

 

「…どうやら、あの御方の覚悟と決意を感じ取ってくれたようですね。それはとても嬉しい事です」

 

そうして二人の反応に説明をしていた代表者は、ふと気が抜けたかのように表情を緩め、そして直ぐに気を引き締める。

 

 

 

「___説明を続けさせていただきます。そうして反刻晴派に凝光様が潜めさせたスパイ達は反刻晴派内で情報収集を行い、反刻晴派内で暗躍している各三大派閥のそれぞれのメンバーの実態の把握、また彼らが行った悪事のそれらの証拠をかき集めました。また同時に天権様は彼女が信頼する事ができる外部の民間人達、民間組織や民間団体にも秘密裏に協力を要請し、密かに彼らの力を借りる事にも成功しました。そしてその末に、遂に今日行われている“反刻晴派殲滅作戦”、『雷霆計画』の実行が実現したのです」

 

代表者は真剣な表情、そして凝光を尊敬するかのような眼差しでそう話し、そうして話し終えるとその者は空を見上げる。

 

その者の視線の先は“群玉閣”、璃月港上空に鎮座する空中宮殿であり、天権凝光の住まう城であった。

 

「へぇ…!!す、凄い…!!良かった、本当に良かったよ!!ね、鍾離さん!!これなら刻晴も安心だよ!!」

 

「うむ、そうだな。堂主殿。本当に良かった。凝光殿は俺が思う以上にとても聡明な御仁だったようだ」

 

「うん!!そうだね!!」

 

胡桃と鍾離の二人も群玉閣の方を見つめながら、まるで凝光の事を褒め称えるかのように互いに頷きあう。

 

 

 

「___本当に良かったよ、刻晴…。天権様が彼女の事を守ってくれて……」

 

そうして香菱も安心したかのように強張っていた表情が緩み、また彼女も群玉閣の方を見つめる。

 

 

 

「___成程。今この璃月港で行われているのは、反刻晴派に対する官民共同の捜査、つまりは刻晴に悪意を持つ者達への包囲戦であり、それを官民の壁を越えた総力戦体制で行っているという事か」

 

「はい、その通りです。そして不当に刻晴様が有する玉衡の座を奪おうとしている者達、“反刻晴派”を今日この日で以って一掃する事で彼らの陰謀を完全に断ち切ります。そしてこの璃月港に完全な平和を取り戻させます。それが天権様、そうして七星達様一同の総意でもありますので」

 

鍾離の言葉に代表の者は同意するかのように頷き、そして宣言するかのようにそう言い放つ。

 

「そうか、成る程…。因みにだが、一つよろしいだろうか?」

 

鍾離は静かに頷き、そして代表者に話しかける。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「純粋な興味だが、その凝光殿に協力している民間人というのはどのような人物なのだろうか…?少し気になってな」

 

鍾離は興味深げな表情でそう問いかける。

 

「あぁ、それですか。そうですね…。凝光様に協力した民間協力者達というのは基本的に彼らが自分達の身の安全を守るためであったり、彼らの情報の保護のために協力者達の大半以上の人物が明らかになってはいません。ですが、そうですね…」

 

その者は難しそうな表情を浮かべる。だが直ぐに、名前を出しても問題は無い一人を思いついたらしく、その者の名前を口にする。

 

 

 

「___“煙緋”様。この璃月港、そうして実質この璃月で一番有名な法律家である彼女が凝光様に、協力している民間協力者です。そして彼女を筆頭とした凝光様達が信用できる民間人達が天権様、各璃月七星達様の捜査にご協力してくださっています」

 

「へぇ、煙緋…?う~ん、あの有名な法律家だね。確かに名前くらいは聞いたことあるね~」

 

「煙緋?うん、確かにその名前はよく耳にするね。万民堂で食事をする商人達が彼女に関する話をしていたような気がするな~」

 

「ほぉ、煙緋殿、か…。ふむ、彼女がか……」

 

群玉閣の方から振り返った胡桃、そして香菱と鍾離はそれぞれそう呟く。香菱と胡桃は純粋にそのような人物までもが協力していたという事実に驚き、そして鍾離は興味深げでありながらも、どこか遠い目をしながら呟く。

 

 

 

「___成程、彼らの娘もここまで成長した、という事か…」

 

鍾離は隣に立つ胡桃にも聞こえない程の小さな声、とても感慨深そうにそう言い放つ。

 

それはまるで歳離れた親戚の孫娘の成長を喜ぶかのような声色と雰囲気。

 

 

 

「___ふ~ん、とにかくそんな凄い人までもが協力しているんだね!!」

 

「はい、その通りです。実際彼女はこの璃月港、しいては璃月の法律家の中においては頂点に君臨すると言っても過言ではない御方です。まさかのそんな彼女、煙緋様と凝光様とはお互いの役職や職業の関係から、ある意味最大のライバル同士であるとも言える関係の彼らが、まさかこうして手を取りあって手を組み、そうして刻晴様に迫る悪意達から共に立ち向かおうとするなど思ってもおりませんでした」

 

そうしてそんな鍾離の様子など知らず、胡桃の言葉に代表者は嬉しそうに頷く。

 

 

 

時に法の制定、時に法の改修を行ってきた彼女。璃月の法律の分野を司る璃月七星の天権、凝光。

璃月の有名な法律家。また彼女の巧妙さ故、璃月の法律家の頂点に立つと言わしめる彼女、煙緋。

 

 

 

二人の関係性と言うのは先の代表の者が述べた通りの関係性であり、そうして傍から見て最大の“ライバル関係”と言っても過言では無いのかもしれない。

 

方や法律を制定し、法を運用する彼女、凝光。璃月で貿易や商業等を行う商人達に取って彼女の制定した法というのは、璃月港での商談やビジネスを行う際の足枷や鎖となりうるもの。

 

そんな彼女が構築した法律と言う名の鎖を掻い潜りながら理想的なビジネスを行うため、璃月港でビジネスや商活動を行う商人達は璃月の法に強い者、法曹界出身の者、またそして凝光によって次々と生み出される新たな法律や、改訂された法律に対応できる法律に詳しい者と言った者達が、この璃月港でビジネスをする者達によって求められており、常に高い需要がある。

 

そしてそんな高い需要の中で求められる法律に強い者、即ち璃月港で有力で有名な法律家である煙緋は、ビジネスや商談を行う者達にとっての必需的な存在であり、彼女は常に様々な案件や依頼が彼女の事務所には寄せられるているのだ。

 

それは璃月港で商売等を行う者達が、彼女にビジネス内容に関する法律相談をする事で事前に法律に抵触してしまう危険性を極力低減させて璃月港での商取引をより円滑に行えるようにするためであったり、また商活動で商人同士のトラブルから商会同士の訴訟合戦と言った対立してしまった者達や組織達を治めるためである。

 

それこそ大商人同士や大商会同士での大きな揉め事が起きた際には、彼女は中間の立場に立って彼らの仲裁等を行い、そうして自らの法律の観点から双方納得のできる落としどころを見つけて事態の収拾を行って来たのである。

 

それが故、璃月港でビジネスをしようとする者達にとっては無くてはならない存在であり、璃月港で商売をする者であれば誰でも煙緋の名前を知っている。

 

 

 

あらゆる角度から法律を巧妙に解釈し、それに基づく助言を人々に行ってきた煙緋。そして煙緋の助言を受けた事により、法の制約を回避しながら理想的なビジネスを行う事ができた璃月港の商人達。

 

そうして煙緋の助言を受けた商人達の動きから、自身も気づかなかった法律の欠点や抜け穴を間隙を与えずに修繕を行って、より完璧な法律へと昇華させていく凝光。

 

法律の制定や改善を行い運用する凝光と、彼女の法の抜け穴や欠点を間接的に指摘する煙緋。

 

それが故二人はライバル関係でありながらも、改善され続けられる璃月の法にとっては必要不可欠な二人と言う、そんな不思議な関係性であると言えよう。

 

 

 

 

 

「ともかく今の璃月港というのは凝光様、そうして璃月七星達の命令によって私達月海亭や七星八門は彼らの拘束に向け、また煙緋様達の民間協力者の力を借りながら反刻晴派の殲滅に向けて動いているという事です。現状は凝光様より数多くの権限が付与され、そして凝光様より外部特別顧問検察官と任命された煙緋様が取引によって、味方に引き込むことに成功しました反刻晴派の急進派より反刻晴派に協力していた民間人達の情報の入手に成功しました。またこれにより、反刻晴派に協力していた一般人達をも特定する事に成功しました」

 

代表者の者はそのように纏めると、そのまま言葉を紡ぐ。

 

 

 

「___それに伴い、現在彼らへの拘束命令、そして逮捕命令が煙緋様より出されているため彼らの捕縛や拘束に向け、璃月港内で待機中であった千岩軍の幾つの部隊群も煙緋様の命令を遂行すべく、彼らが所属する商会や彼らの自宅に兵士達が押しかけ、対象者の身柄の拘束、また証拠確保の為に家宅捜索や職場捜索等をも同時進行で行われています。今現在は飛雲商会への大規模な立ち入り調査、並びに商会の会長達の身柄の確保を行っている最中だと思われます」

 

「___えぇっ!?行秋のお父さんが!?」

 

「___飛雲商会…!?飛雲商会って、あの飛雲商会!?行秋の商会じゃないの!?」

 

「___む、飛雲商会も絡んでいたとでも言うのか?」

 

代表者はそう璃月港での現在の状況を胡桃達に説明し、胡桃と香菱はまさかの友人の商会が璃月港で暗躍する反刻晴派の者達に関わっていたという事実に驚き、そして鍾離もそのような大商会が璃月港で暗躍する反刻晴派に協力しているという衝撃の事実に思わず驚きの声を上げる。

 

 

「はい、その通りです…。すみません、胡桃さん、香菱さん。胡桃さん達が先ほど貴女が述べました行秋っていうのはどなたの事でしょうか?また彼のお父様とはどのような立場の者なのですか?今の反応を見るに、どうやら行秋さんや行秋さんのお父様というのは飛雲商会の関係者であるかのように思われますが…?」

 

胡桃と香菱の反応にその者は少しだけ興味深そうに、そうして訝しげに問いかける。

 

 

「えぇっ…?う、うん、行秋は飛雲商会の会長だよ!!そして行秋は彼の次男坊なんだ!!まさかお父さんは、それに行秋坊っちゃんは千岩軍に逮捕されちゃったの!?」

 

「えっ…?そ、そうだよ!!行秋は商会の会長の息子なの!!行秋はどうなったの!?」

 

胡桃と香菱は訝しむ代表者に困惑したような表情、そして行秋に対する心配そうな様子で二人はその者へと問いかける。

 

 

 

「商会の会長、それにその次男坊ですか…」

 

そして胡桃達に問われたその者は思い出すかのように、顔に手をやりながら考え込んだのであった。

 

 

 




次回も今回の続き、そして次回より胡桃達視点の話やシーンも進展していきます。
またいずれ、現在別行動中の煙緋や甘雨達とも交錯、合流していきます。


とりあえず今月中にもう1話は投稿できるように頑張ります。
またそうして今の刻晴過去編も、少なくともゴールデンウイークを迎えるまでには終わらせられればと思います。

それでは次回の投稿まで、今しばらくお待ちください。



—————
追記1
後書きに誤字があったため修正。

追記2
文章表現におかしいところがありましたため、修正を行いました。(そして「胡桃」に問われたその者は→そして「胡桃達」に問われたその者は)
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