前回の続き、飛雲商会の会長とその息子である行秋の処遇の説明からです。
Side:胡桃
「___胡桃さん、香菱さん。その二人に関してですが大丈夫ですよ。少なくとも、逮捕されたり拘束されるような対象者ではありません」
胡桃の目の前で考え込んでいた代表の者は、長い沈黙の後にそう答える。
「本当!?」
「はい、本当です。先ほど行秋坊っちゃんと言いました会長の次男坊は、最初からあのリストの名前の中にそのような名前は載っていませんでした。そして彼のお父様である会長ですが、彼の場合は確かにリストに名前があったため身柄の確保を行う対象者となっていますが、確保する理由は逮捕や拘束する為ではなく、彼の身を保護するためです」
「保護…?」
「彼を、守るの…?」
胡桃と香菱は代表者のその言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「はい、その通りです。胡桃さん、香菱さん。実は今回の飛雲商会の件なのですが、私達や千岩軍達が取り押さえようとしているのは反刻晴派と協力関係を結んでいた飛雲商会の一部の幹部達とその一派の者達であり、会長はその件とは無関係なのです」
「えっ…?そうなの…?」
「そうだったの…?」
「はい、そうです。ですが会長はその幹部の上司である事から、何かしらの違和感や異常事態に気が付いていた可能性が高いと推測されます。また実際にその対象者達の証拠を押さえていたり、なにかしらの目撃等を行っていた場合、対象者の逮捕を行おうとした際に口止めのために危害が加えられる可能性がありました。そのため飛雲商会の会長である彼の身柄の安全の確保は、反刻晴派に協力した幹部達の身柄の確保と同時に行う必要があったのです」
「身の安全の確保…?」
「身柄の確保ってそう言う事…?」
「はい、そう言う事です。胡桃さん、香菱さん。彼を確保する理由は、彼の身柄の安全を確保するため、彼の身柄の保護を行うためです。そして彼を保護する為に飛雲商会から総務司へと護送を行い、必要に応じて総務司から七星様達一同が集まっています月海亭まで移送する手筈となっています」
「成程…。そう言う事だったんだね。良かった……」
「はぁ…。本当に良かった…」
胡桃、そしてその者の話を聞いていた香菱は代表者の説明に安堵の溜息をこぼす。彼女の友人である行秋、そして彼の父親でもある会長が逮捕や拘束などされる事が無かったことに対して、心の底より安堵した様子であった。
「はぁ、良かった…。本当に良かったよ…。これなら安心だね……」
「そうだな、胡桃殿。行秋殿達に何かがあったという訳では無かったようだからな。安心したな」
先ほどまで激しい焦燥に駆られていた胡桃の姿を間近で見ていた鍾離は、安心しきったように落ち着いた様子を見せる彼女の姿と、彼女の友人である行秋に何も問題が無かったという事実に安堵したような様子を見せる。
「はい、安心してください。胡桃さん、鍾離さん。会長の身の安全は私達七星八門や月海亭、並びに千岩軍が完全に保証いたしますので。今の総務司と言うのは、反刻晴派殲滅作戦に参加している七星八門の職員達や千岩軍の兵士達の指揮所、また反刻晴派に関する情報の民間提供の窓口でもあり、そうして我々職員達や兵士達が集めた情報やその窓口を訪れて提供してくれた民間人達の情報の集約と重要情報の選別を行う一大拠点となっていますので、反刻晴派の者達は総務司に近づく事すらできません」
代表者は落ち着いていた胡桃と鍾離を更に安心させるかのように、そう説明を付け加える。
「へぇ、今の総務司はそうなってるんだ~」
「ほぉ、今の総務司は反刻晴派殲滅作戦の指揮所、それに情報集約と選別の拠点と言った機能を担っているのか。中々凄いことになっているな」
「はい、その通りです。胡桃さん、鍾離さん。今の総務司はそのような一大拠点となっているために守りは万全です。また先ほど述べました通り、彼が持つ情報や証拠によっては総務司から月海亭へと身柄が移されます。そして今の月海亭というのは璃月七星達の方々が一同に集まっている場所だけではなく、あそこは総務司で得た重要情報を精査する拠点でもあり、そうして反刻晴派殲滅作戦の総司令部とも言える場所です」
「え、そうなの?」
「ほぉ、そうなのか…」
「はい、そうです。ですので、仮に彼が月海亭で保護されるとなれば、今の月海亭は璃月で最高レベルの警戒態勢、七星様達を警護している信頼ある千岩軍の精鋭部隊達。また月海亭周辺や、月海亭のある玉京台地区専属の優秀な警備兵を始めとする兵士達が厳重な警戒態勢を敷いているあの場所へと移送されることになります。ですので、仮に月海亭に身柄を移されるのであれば、会長の身の安全は完全に確保されると言っても過言ではありません。ですので、どうかご安心ください」
その者はそのように言い切り、胡桃と鍾離を安心させるかのように自信ありげな様子を見せる。
「そっか~、それなら安心だよ。ね、鍾離さん?」
「そうだな、胡堂主殿。それであれば、会長殿の身は完全に守られる。反刻晴派の者達や彼らに協力している一般人達の手からも、会長殿は完全に守られると思うぞ」
胡桃はその者の言葉に完全に安心したかのように、にこにこと笑いながら鍾離に話を振り、彼もまた安心したかのように深く頷きながら、胡桃の言葉に同意する。
「ふぅ…、良かった。本当に…」
そうして香菱も、安心したかのように安堵の溜息をこぼしながら鍾離と同じように深く頷く。
「___それでは鍾離さん。今現在の璃月港の情勢、反刻晴派とその一般人の協力者達、それに対する璃月七星、私達総務司や月海亭、千岩軍達、また私達に協力している一般人達や民間人達に関する説明は以上となります。何かご不明点やご質問はございますか?」
そうして胡桃と鍾離のやり取りを見ていたその代表の者は、鍾離に対して問いかける。
「うむ、大丈夫だ。俺の疑問や気になる事は全て解消された。胡堂主殿、堂主殿も大丈夫だろうか?」
「うん、大丈夫。鍾離さんの言う通りだよ。私も納得したから」
鍾離はその者の言葉に同意すると同時に、胡桃の方に視線をやりながら彼女にも問いかけ、問いかけられた胡桃もそれに同意する。
「分かった、堂主殿。改めて礼を言うぞ。俺も堂主殿も問題は無い」
そうして鍾離は改めて、その者に向かって感謝を述べる。
「はい、それは良かったです。それでは今度は我々の調査や捜査にご協力をお願いしたいと思うのですが、改めて我々の調査や捜査にご協力をお願いしてもよろしいでしょうか?」
その者は鍾離や胡桃に対して頭を下げながら、改めて協力をお願いする。
「あぁ、勿論だ。問題は無い」
「うん、勿論だよ。断る理由なんて無いもん」
鍾離はその言葉を了承し、胡桃もまた問題は無いと頷く。
「ありがとうございます。それでは調査や捜査にご協力を頂ければと思います…」
「はい、分かりました」
「準備はいつでも出来ています」
その者はそう言い切ると他の職員に目配せをし、目配せを受けたその者達は素早く筆記用具一式や記録用の紙などを取り出す。
「___それでは調査及び捜査協力をお願いしたいと思います…。私達が求めているのは有益な情報、重要な情報です。我らはそれらを求めており、七星達様もそれらを求められております」
その者は真剣な眼差しで、静かにそして淡々とそう説明する。
「ほぉ…。有益な情報、重要な情報……か」
「はい。反刻刻晴派に関する事、反刻晴派の協力者に関する事。どのようなことでも構いません。我々は煙緋様の活躍により反刻晴派の実態をほぼ完全に把握する事ができました。ですが、まだ我々は反刻晴派に協力していた民間人達に関する情報、また反刻晴派が行った悪事の証拠といった物、それらを更に徹底的かつ、迅速に集めていく必要があります。ですのでどのような事、確定性の無い話や真実性の無い噂話と言った情報でも構いません。また反刻晴派の情報だけでなく、その情報を持っていそうな人物を我らにご紹介いただくだけでも構いません。形式や形態はどうであれ何かそのような有益な事をご存知でしたら、どうかお教えください」
その者は静かに、しかし熱のこもった様子でそう説明をする。
「ほぉ…」
「有益そうな情報…。情報を持っていそうな人物……」
「うーん…。さっきも聞かれたけど、やっぱりそういう人物というのは鍾離さん以外に思いつかないなぁ…」
鍾離と胡桃、そして香菱の三人はそれぞれ考え込むような様子でそう呟く。
「___俺は特に総務司職員達殿や月料理職員達殿、それに千岩軍兵士達殿一同が求めているような重要な情報という物は持ち合わせてはいない…。だが、しかしだ」
鍾離はそこまで言うと、続いてその者に向かって静かに言い放つ。
「___一つ、俺は貴殿ら達に提案する事が出来る」
「提案…?」
「なんでしょうか…?」
「そ、それは一体…?」
鍾離のその言葉に、代表とその職員の者は興味津々と言った様子で反応する。
「_提案、それは貴殿ら達は“和裕茶館”を始めとするあの場所らを尋ねてみるべきだという事だ」
「和裕茶館…、ですか……?」
「和裕茶館って、よく講談師が講談をしているあそこですか…?」
「それに確か璃月劇、雲翰社が劇を行う舞台も置かれているあそこだったか…?」
鍾離の“和裕茶館”という言葉に職員達やその言葉を聞いていた兵士達も、不思議そうに反応する。
「和裕茶館…?和裕茶館って、確か“雲菫”がよく劇をやっているあそこだよね……?」
「えっと、和裕茶館…?和裕茶館……。あぁっ!?」
香菱と胡桃は鍾離のその和裕茶館という言葉に対して考え込み、そうして胡桃の方は何かに気づいたのかハッとしたような声を上げる。
「堂主殿は気づいたようだな。俺の考えが」
「うんうん、分かったよ。鍾離さん。鍾離さんが考えていた事が」
鍾離はそんな胡桃の反応に満足そうな様子で小さく頷き、胡桃もそんな鍾離の反応に満足そうに頷く。
「胡桃は分かったの?鍾離さんの考えている事が。…一体どういうことなの?」
そして香菱は胡桃にそう問いかける。
「えっとね、香菱。鍾離さんの考えている事なんだけど…。鍾離さんの考えている事って言うのは前に万民堂で香菱、そして刻晴が自ら私や鍾離さんにご飯を振舞ってくれたあの日の事と関係があるんだよ」
「えっ、あの日?刻晴が万民堂で料理の腕を振るったあの日?その出来事とこの件とは、一体どういう関係があるの……?」
胡桃は香菱に対してそう説明し、香菱はその日の事を思い出すかのように考え込みながら胡桃にそう問いかける。
「う~ん、それはね…。正確に言うとあの日の刻晴達のご飯をごちそうしてもらって、そうして食べている途中で反刻晴派の話をしたでしょ」
「うんうん、あの日はそうしたよね」
「うん、そうそう。そして食べ終わって話も終えて、そうして万民堂から離れて帰路に就いていた途中の出来事だったんだけど、その時に歩きながら鍾離さんと刻晴の事について話していたんだ。その時の出来事なんだよ」
「あぁ、そう言う事なんだね。だったら私が知らないというのも当然だね。だってその場には私はいなかったんだから」
胡桃のその言葉に香菱は納得するかのように頷く。
「うん、そう言う事。それで肝心の万民堂から離れた後の話なんだけど、帰りながら鍾離さんにその反刻晴派の話や噂話はどこで聞いたのかを聞いたんだ。どこでどうやってそんな話を知ったのかって」
「へぇ、そんな事があったんだ…。それでその事が、雲菫の和裕茶館に繋がってくるというわけだね」
「うんうん、そう言う事。香菱」
香菱は胡桃の説明に納得したかのように頷くと、胡桃も頷きながらそんな香菱にそう答える。
「堂主殿の説明通りだ、香菱殿。あの時の帰り道、刻晴殿の事を心配していた堂主殿がその事を俺に尋ねてきたんだ。そしてその時、堂主殿にどこでその話を聞いたのかという話に、こう答えたんだ。『俺がよく色んな講談を聞きに行く時、その講談が始まる前や講談が終わった後のその時に、たまに俺の周りや俺の後ろで刻晴殿に関する噂をしている者達がいる』と」
「そうそう。それでその噂話を聞く事が出来た場所というのが和裕茶館なんだよね。ね、鍾離さん?」
「あぁ、そうだ。堂主殿。堂主殿の言う通り、俺は和裕茶館で刻晴殿に関する噂話を聞く事が出来たんだ」
香菱に説明するように鍾離は彼女に向かってそう言いながら説明を行い、また胡桃もそんな鍾離の説明を捕捉するように説明を行う。
「成程ね…。和裕茶館でそんなことがあったんだ……。確かに万民堂だと刻晴の評価の話とか、彼女の実績とかに関する話をたまに聞く事はあるけど、鍾離さんが教えてくれたような反刻晴派の話は万民堂では聞いた事が無かったかな…」
「うむ、そう言う事だ。香菱殿。また俺が思うに、刻晴にまつわる話というのは場所ごとで流れている話の内容や、聞く事の出来る噂話も異なるのではないかと思う」
「場所によって変わる…?」
香菱は鍾離のその言葉が気になったのか、そう聞き返す。
「そうだ、香菱殿。万民堂と和裕茶館の違い、それは食事を楽しむ大衆食堂と講談師の講談や劇を楽しむ劇場だ。そして集まってくる人物や目的も異なるものだ。万民堂は不特定多数の大勢の人物達が集まる場で食事を楽しむ場。和裕茶館も不特定多数の大勢の人物達が集まる事もある場ではあるものの、実際は談や劇を楽しめる知識人達や趣が分かる上流の者達、その者達が集って講談や劇を楽しむ場だ」
「あぁ…、言われてみれば確かにそうだね。鍾離さん。確かに集まる人物達や目的はそれぞれ違うね」
香菱は納得したかのような表情をして、そう答える。
「あぁ。そして反刻晴派の話に関してだが、言うなれば、この話は非常にデリケートな話でもある。あまりおおっぴらに話していいような内容ではない。だから仮にその話を知っている者が同僚を連れて万民堂で食事を取っている時、刻晴に関する話が話題に上がったとしても当たり障りのない内容で、彼女の評判や今後の展望について話すだろう。だが和裕茶館で刻晴に関する噂話が話題に上がった場合であれば、その場合は別であると俺は思う」
「和裕茶館の場合は別…?」
「うむ。先ほど言った通り、和裕茶館に集まる者達と言うのは講談や劇を楽しめる知識人達や趣が分かる上流の者達だ。この場は不特定多数が集まる万民堂とは違い、知識人達や上流の者達が集まる場だ。そうして反刻晴派の話というのは、どうやら七星八門や月海亭の職員のなかでもかなり上級な職員であったり、一般人であったとしても商会の幹部やそれなり以上の地位を持つ者達の間で密かに知られている話という事。つまりは和裕茶館であれば同じ立場の者達が集まってくるため、刻晴に関する話が反刻晴派に関する話へと展開、飛躍していきやすい。それが故、完全に偶然ではあったが反刻晴派の話を、俺は耳に入れる事が出来たんだ」
「成程ね。そう言う事だったんだ…」
鍾離の説明を聞いた香菱は納得したかのように頷く。
「な、成る程…」
「そ、そう言う事が…」
「これは思った以上に…」
そして香菱と同じく鍾離の説明を聞いていた職員達や兵士達も納得、そして感心したかのように深く頷いた。
「___成程。そういう理由、またそのような事情があったのですか…。今の鍾離さん達の話、しっかりと記録は出来ましたか?」
そうして職員達や兵士達を代表していたその者も感心したかのように頷きながら、隣に立って記録を行っていたその者にそう尋ねる。
「はい、記録しました…。先ほどの鍾離さんが仰っていました話ですが…。話や噂が集まりやすい場所、条件と言うのは今日の調査や捜査で考慮されて無かった筈です。反刻晴派に繋がる決定打となるような重要情報ではありませんが、この事は総務司に伝達し連携を行った方が良いです」
「そうですね。確かに現在の調査方式というのは各地の検問、また無差別に道行く人達への聞き込み調査を行うといった方法が中心の方式です。ですが、鍾離さんが話してくれた話や噂が集まりやすい場所や、情報を持っている人の立場や傾向を考慮すると言った方式を反映させれば、より効率的に、より確実に私達が求める反刻晴派へと繋がる情報が集まりやすくなります。これは直ちに総務司へと報告を行いましょう…。今のを直ちに報告、連携を行ってください」
「こちらの記録紙を総務司までお願いします」
「はっ、承知しました!!では自分はその旨を総務司へと伝えに行き、情報の連携を行ってきます!!」
代表者と記録を取っていた者はそう話し合う。そうして決断したかのように代表の者は頷くと同時に、近くに居た千岩軍の兵士の一人にそう命じ、また記録を取っていたその者も手に持っていた記録紙を千岩軍の兵士へと手渡す。そしてそれを手渡され、命令を受け取った兵士は敬礼と共にその場を早足で駆けて去っていった。
「___ありがとうございます、鍾離さん。また胡桃さんに香菱さん。貴方達のおかげで貴重な情報、また反刻晴派に繋がる重大な手掛かりを手に入れることが出来ました」
駆け去っていく伝令係の兵士の背中を見送った代表の者は、礼を言いながら感謝の言葉を述べて頭を下げる。
「あぁ、いや。礼には及ばないさ」
「うん、全然大丈夫だよ。これで反刻晴派騒ぎが完全に解決してくれそうだし」
「うんうん、これで刻晴の事も完全に安心する事が出来るし、璃月港も平和に戻れそうだしね」
代表が礼を述べた事にその者と同じく兵士の背中を見送っていた鍾離や胡桃達も、代表へとそう言葉をかける。
「はい、本当に感謝致します…。そして申し訳ありませんが、鍾離さん、また胡桃さん達もよろしければ、もう少しの間だけ捜査にご協力をお願いしたいのですが、もうしばらくご協力していただいてもよろしいでしょうか?」
代表は頭を上げて、改めて協力を要請した。
「勿論だ。俺に出来る事であれば、喜んで協力しよう」
「うんうん、勿論だよ!!」
「うん、勿論だよ!!」
鍾離は代表へと協力を申し出て、胡桃と香菱もそれに賛同して頷く。
「ありがとうございます。それでは鍾離さん達三人方は我々と共に和裕茶館までご同行、そして和裕茶館で我々と共に聞き込み調査をお願いしてもよろしいでしょうか?」
代表はそんな三人に礼を言った後、そう協力要請する。
「成程…。あぁ、承知した」
「うん、分かったよ。和裕茶館ね、それにもしかしたら雲菫の協力も得られるかもしれないしね」
「和裕茶館ね…。分かった。それに胡桃の言う通り、雲菫がその場に居れば、もっと色々な事が聞けるかもしれないしね」
鍾離は頷きながらそう言い、胡桃と香菱もそれぞれにそう言いあって代表の申し出に頷く。
「はい、ありがとうございます。鍾離さん。そして胡桃さんと香菱さん。貴方達の協力の申し出、そしてその活躍は必ず天権様へとお伝えします。もしかしますと後日、天権様や七星達様からのお礼状や謝礼金が送られるかもしれません」
代表は三人にそう礼を言った後、そう説明を加える。
「ふっ、礼には及ばない。これは彼女の為だ」
「ふふん。良いよ、良いよ。別にそこまでしなくても。何って言ったって、刻晴のためだし」
「うんうん、私達も刻晴の事を助けたいだけだしね。それに友達を助けるのに理由なんているのかな?」
鍾離は代表へと軽く礼を言い、胡桃と香菱もそんな鍾離に続いてそう言った。
「ありがとうございます…。本当に刻晴様の事をここまで思って下さってくれていたのですね…。彼女もとても良い友人達を持ったものです……」
代表はそんな三者のそれぞれの言葉と、そして心意気に深く感銘を受ける。
「では、鍾離さん、胡桃さん、香菱さん。このまま和裕茶館へと向かいましょう。そして鍾離さん、和裕茶館に到着しましたらその場にいる従業員やスタッフ、もしくは管理人やオーナーがいましたら我らと共に彼らへの事情説明、また私達と共に彼らへの調査協力の要請をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、良いだろう。承知した。確かにその場に居た俺からも説明をした方が、彼らも受け入れやすいだろう」
そうして代表は改めて三人にお礼を言い、また鍾離に対してそのようなお願い事をすると、そのお願い事に対して鍾離は快諾する。
「ありがとうございます。では早速向かいましょう」
「あぁ、行こう。和裕茶館へ」
「行こう、行こう。和裕茶館へ!!」
「うんうん、行こう。和裕茶館に!!」
そして鍾離、胡桃、香菱達三人は代表の者含む職員達や兵士達と、そのまま和裕茶館へと向かうのだった。
___和裕茶館。
そこは璃月港の中心地、『緋雲の丘地区』の市街地にある茶館。璃月の月料理を提供する高級レストランとして知られている新月軒、璃月の海鮮料理である月料理の頂点に立つという評判を受けているその店の上階、そこに和裕茶館は構えられていた。
「___ふぅ、ふぅ」
「___はぁ、はぁ」
「___ふぅ、もうそろそろだね」
その和裕茶館へと続く階段を鍾離、そして胡桃に香菱の三人達は、やや早めの足取りで上っていく。
「___そろそろですね」
「___オーナーが居れば話は早いのですが…」
「___いる事を祈るしかありません。また有力な情報がここで集まる事も」
また鍾離達のその後ろを月海亭や総務司の職員達や千岩軍の兵士達がついて行く。
「「「………」」」
そして三人は無意識に耳を澄ます。
「_~♪」
微かに聞こえてくる甘美で澄んだ歌声。優雅な旋律を響かせるその麗わしき声。
「___ほぉ…。どうやら、今日は彼女がいるようだな」
「___よし…!!今日はここにいたみたいだね!!」
「___やった…!!今日は本当に良い日みたい!!」
聞こえてきたその美しい歌声に、鍾離は僅かにその表情を緩ませながらそう呟き、胡桃と香菱は喜びの声を上げる。そして三人は更にペースを速めながら階段を駆け上がっていき、やがて和裕茶館に辿り着いた彼らは目的の彼女の姿をその目に捉える。
「___~~♪」
そこには膨らんだ長袖の膝丈の濃い紫のドレスに白いアンダースカート。アンダースカートの上には、中央で5つに分かれた濃い紫のオーバースカートが重ねられ、そのドレスには赤いクローバーリーフの結び目で留められた白いマンダリンカラーと、ゴールドをちりばめた黒いコルセットのようなベルトが付いていた姿。またピンクから明るいターコイズ、白までさまざまな大きさのふわふわしたポンポンが縫い付けられている濃い紫色の大きな帽子を被り、そうして肩部分のマントの左側には神に認められし証である‘岩の神の目’を身に着けていた“彼女”がそこにいた。
「___ふぅ…。えっ?胡桃さん…!?それに香菱さん…!?そして鍾離さんも……!?」
そうして丁度歌い終わったのか、目を閉じた状態で劇で使用している槍を手にしながら灰雲の舞台上で立っていた“彼女”。劇の予行演習中であった“雲菫”は一呼吸をしながら、ゆっくりと目を開けると視界に友人達や知り合いの姿が入り、まさかの友人達や知り合いの登場に驚いて彼女は一気に目を見開く。
「___雲菫!!雲菫~!!」
「___雲菫!!ごめん!!邪魔しちゃって!!」
「___久しいな、雲菫殿」
「えっ、ど、どうしたんですか!?」
そうしてすぐさま只事ではないと判断した彼女は手にしていた槍を舞台上に置き、彼らの元へと駆け寄ったのであった。
次回に続きます。
(余談ですが、本来の予定だと「_ようやく、この日。この時、この瞬間が訪れました」の時のアンケート結果の『➁現在案』に基づいて、雲菫は登場させないで和裕茶館関連の話を展開させていこうと思ったのですが、思いのほか自然な流れで登場してしまいました…。ただ懸念点であった『胡桃・鍾離・香菱・行秋・嘉明・雲菫』である『③六名案』の未登場の『行秋・嘉明・雲菫』の三名を登場させる為の、改めての下調べやそれぞれの人間関係等の確認に要する時間が、雲菫を登場させるまでに要した時間が想定以上に少なかったため、まだ未登場の行秋や嘉明の描写も十分可能なのではないかと思いました。そのため、当初の予定ではその二人は直接的な描写、登場はしない方向で進めていましたが、方針を転換させて彼らを登場させる方向で話を進めて行きたいと思います。)
それでは次回の投稿まで、また今しばらくお待ちください。