思った以上に時間がかかってしまいました…。
取り合えず前回の続き、鍾離と胡桃達が捜査協力をお願いする為に雲菫の元へと訪れた所からです。
Side:胡桃
「___雲菫!!雲菫!!ごめん!!劇の練習をしてみたけど、邪魔しちゃって!!でも大事な用があって来たんだ!!協力して、雲菫!!」
「___雲菫!!本当にごめん!!ただ雲菫にお願いしたい事があって来たの!!お願い!!私達に協力して!!」
「___雲菫殿。今、時間は大丈夫だろうか?大事な話があって来たのだが……」
胡桃に香菱、鍾離はそう口々に言いながら雲菫へと歩み寄り、そして胡桃は申し訳なさそうな表情をしながら手を合わせながら頭を下げて謝罪をしながら頼み込み、また香菱も頭を深く下げて謝罪しながら頼み込み、そして鍾離は真剣な表情で雲菫へとそう頼み込んだ。
「___えっ、えっと胡桃さん、香菱さん、それに鍾離さん…?ま、まずは頭を上げてください」
そして胡桃達の元へと駆け寄った雲菫は、三人のあまりにも必死な形相にただ困惑するしかなかった。
「___どうしましたか?あ、貴方はここでよく見かける…」
「___どうしたのですか?あれ、雲座頭と親しい方が…」
「___どうなされましたか?あっ、貴方は雲様に先生と呼ばれてた…」
そうして雲菫が急に駆け寄った事に驚いたのか、和裕茶館にいた従業員達や彼女の配下達が一体何事かと雲菫と胡桃達の方に視線を向ける。そうして胡桃達の中にいる鍾離の存在に気付くと彼の存在に驚き、そうして興味深そうにじっと見つめた。
「___やっと、辿り着きました…。おぉ…!!」
「___こんなに居たとは…!!雲菫さんもいたのですか!?これは助かりました…!!」
「___良かったです。雲翰社の座頭がここにいるのであれば、話も早いかもしれません…!!」
「___よし!!…あとは和裕茶館の支配人、オーナーがいてくれれば完璧なのですが…。ここの支配人、オーナーは、いますか……!?」
そしてまた、胡桃と鍾離達の後を追いかけるように和裕茶館の階段を昇ってやってきた月海亭や総務司の職員達や千岩軍の兵士達が次々とその場に姿を現す。そうして一部の人達は雲菫の存在に気付くと喜びの声を上げ、また一部の者達は和裕茶館の支配人、責任者であるオーナーがいるかどうかを探し始める。
「___えっ、えぇっ!?な、なんですか!?」
「___せ、千岩軍の兵士達!?待ってください!!貴方達は何者ですか!?」
「___い、一体何の用なのですか!?」
そしてまた大勢の職員達や兵士達が現れた事に、和裕茶館の従業員達や彼女の配下達は一斉に驚愕し、驚きの声を上げる。
「___こ、これは…!?い、一体、本当にどうしたのですか…!?」
姿を現した大勢の職員達や兵士達に対し、雲菫は目を見開いて驚いた。
「…雲菫殿、急に大勢で訪れてしまい申し訳ない。だが、改めてよろしいだろうか?俺達は雲菫殿、そして雲菫の雲翰社やこの和裕茶館に大切な話。そして協力をお願いしたく、ここに来たのだ」
そうして目を見開き驚いて固まってしまっていた雲菫に対し鍾離は謝罪をし、そうして真剣そうな表情でそう頼み込んだ。
「えっ…。あ、はい。分かりました、鍾離さん。すみません、私もお見苦しいところを見せてしまって……」
「大丈夫だ、雲菫殿。気にするな」
「大丈夫だよ!!こっちも突然で本当にごめん!!」
「ごめん、雲菫!!急に来ちゃって!!」
そして固まっていた雲菫は鍾離の言葉で我に返り、そして胡桃と香菱は雲菫へとそう謝罪する。
「___雲菫殿。単刀直入に言おう。俺達の調査、七星達の命を受けた月海亭や総務司の職員達、それに千岩軍の者達からの捜査に協力してほしい」
「鍾離さん達の調査、それに職員達や千岩軍の捜査にですか…?」
雲菫は真剣な表情を浮かべている鍾離の言葉に、そう聞き返しながら首を傾げる。
「_はい、そうです。雲菫さん。…雲菫さんは“反刻晴派”という言葉、この言葉をご存じではありませんか?」
「反刻晴派、ですか…!?」
そうしてまた、鍾離の後ろから職員達の代表をする者が現れては雲菫へとそう聞き出し、その言葉を聞いた雲菫は再び目を大きく見開いて驚愕する。
「今、反刻晴派って言いましたか…!?」
「反刻晴派ですって…!?」
「成程…。大事な用っていうのは、それの事ですか……!!」
そして鍾離が雲菫に放ったその言葉に呼応するかのように、和裕茶館の従業員や雲菫の配下達からも驚きの声が上がり始める。
「ふむ…。雲菫殿やここの従業員殿達らのその反応、反刻晴派に対して何かしらの心当たりがあるようだ。やはり雲菫殿の元へ訪ねてみたのは正解だったな」
そうして和裕茶館の従業員達、また彼女の配下達が“反刻晴派”という言葉に驚いた事に、鍾離は顎に手を添えてそう呟く。
「…鍾離さん達はその反刻晴派に関して、私達に聞きたい事があるためにここを訪れたという事ですか?」
目を大きく見開いて驚愕していた雲菫は我に返ると、改めて鍾離や鍾離の後ろから現れた職員達の代表の者に向かって、そう質問をする。
「あぁ、その通りだ。雲菫殿。それと雲座殿、今この場に和裕茶館の支配人はいるだろうか?」
「はい、その通りです。雲菫さん。そして鍾離さんの言う通り、和裕茶館のオーナーはいらっしゃいますでしょうか?この件の説明はオーナーもご一緒でお願いしたいのです」
「オーナーですか…。オーナーでしたら___」
そして鍾離と代表の者は雲菫へとそう聞き、雲菫はそれにそう答えようとする。
「___何事だ。随分と騒がしいが、何かあったのか?」
___その時、とある初老の男の声が和裕茶館に響く。
「あっ、範二さん…!ちょうど良い所に……!!」
「うむ、良いタイミングで来てくれたな…」
「うん、雲先生。おや、それに鍾離先生もいらっしゃるのではないか…。雲先生。一体、どうしたのじゃ?随分と色んな人達が私の茶館に集まっているように見えるが……」
その声の主に雲菫と鍾離は振り向き、そして雲菫が安堵の声を漏らしながらその声の主の名を呼び、鍾離も嬉しそうな様子でそう呟く。彼らの目の前には一人の老人の男が立っており、困惑した様子をみせながら雲菫と鍾離、また胡桃や香菱、そうして先の代表の者を始めとする大勢の職員達や千岩軍の兵士達を見つめていた。
「範二さん。すみません、今、お時間は大丈夫でしょうか?」
雲菫はそんな老年の男、“範二”にそう尋ねる。
「時間だと?雲先生、私は大丈夫だが…。今のこれとの関係か?」
「はい、大いに関係あります。範二さん。実は、“反刻晴派”の件についてなんです」
「なに、“反刻晴派”だと…??前に雲先生が話していたここで客たちが話していた例の噂か…。雲先生、それはまさか本当の事だったのか……?あれは根も葉もないただのでたらめな話だったのでは……?」
「はい、どうやらあれは真実だったようです…。今までの私はそのような噂を信じてはいませんでしたが、流石に鍾離さん達がその事でここを尋ねてきた以上、信じざるおえないと思います」
雲菫は和裕茶館のオーナーであるその男にそう答え、茶館の支配人である範二は雲菫の言葉に顔を顰める。
「…鍾離先生、例の反刻晴派の噂。あの噂は真実だったという事か?」
「あぁ、あの噂は本当だ。範二殿。詳しい事は俺よりも俺の隣に立っているこの者に説明してもらった方が良いだろう」
そして鍾離はそう言うと彼の隣に立つ職員達の代表に目配せし、バトンタッチという意味合いを込めた合図を送る。
「はい、分かりました。鍾離さん。…雲菫さん。それにオーナーの範二さん。まずは大勢の人員を連れてこの和裕茶館をお訪ねしてしまい、申し訳ありません。いらない不安や混乱を招いた事を深くお詫び申し上げます」
そして職員達の代表の者は、まず最初にこの和裕茶館に大勢の者達が押し掛けてしまった事を雲菫と範二に詫び、続いて口を開き始める。
「私達は、璃月七星の天権様を始めとする七星達のご命令により玉衡である刻晴様の座を不当に奪おうと画策、暗躍をしていた反刻晴派の中に潜んでいた悪意や害意を持つ者達を。そうして反刻晴派に協力していた民間人達や一般人達らを逮捕する為に、鍾離さんのご提案に従いこの和裕茶館へと訪れました」
「えっ、反刻晴派は七星八門や月海亭の公的機関だけでなく、民間人達や一般人達にもいたのですか…!?」
「なっ、民間人達や一般人達にも協力者がいたというのか…!?」
そうして代表が続けた言葉に雲菫と範二は驚愕する。
「はい、その通りです。雲菫さん、そして範二さん。そうして今はその反刻晴派に潜んでいたその者達、“急進派”、“強硬派”、“過激派”と呼ばれる私達の中にいた職員達と、そんな彼らに直接的にも間接的にも協力していた民間人達や一般人達らを捕縛、拘束を行うため、現在の璃月港は天権様達が発令いたしました戒厳令下におかれています」
「戒厳令ですか…!?どおりで今日はいつもよりも璃月港が騒がしいなと…」
「なんだと…!?うむ、成る程。これは思った以上に大事のようだ…」
職員達の代表の言葉から璃月港の現状を聞いた雲菫と範二は更に驚愕し、そうして納得したかのように頷く。
そしてそんな二人の反応に、職員達の代表は更に話を続ける。
「はい、雲菫さんの言う通り璃月港が騒がしくなっているのはそれが理由。また範二さんの言う大事と言うのも正しくその通りです。天権様、そうして七星様達は本日を以って、反刻晴派に引導を渡す事を決定いたしましたので」
代表はそこまで言うと、コホンと咳払いしてまた話を続ける。
「反刻晴派に潜んでいた者達や彼らに関わった者達全てを逮捕し、反刻晴派を解体する。そして璃月港の裏で蠢いていた陰謀を断ち切り、この璃月港に真の平和を取り戻す。それが七星様達の総意なのです…。それでは改めて説明をさせて頂きます。まず___」
そうして代表は目の前の雲菫や範二、この場にいる雲菫の配下の者達や範二の従業員達に今回の経緯を説明し始める。
「………」
「………」
説明を受ける雲菫と範二は真剣な表情を浮かべながら、代表の説明に耳を傾ける。
「………」
「………」
「………」
また鍾離や胡桃、香菱の三人は説明を受ける二人の様子を固唾を吞んで見守る。
「「「「………」」」」
「「「「………」」」」
「「「「………」」」」
「「「「………」」」」
そうして月海亭や総務司の職員達や千岩軍の兵士達も説明をする職員達の代表や雲菫達の様子を固唾を吞んで見守り、近くに居た雲菫の配下達や和裕茶館の従業員達も彼らの様子を見守りながら、その説明に耳を傾ける。
「___となります。以上で説明を終わらせていただきます。なにかご質問等はありますか?質問があれば、お答えいたしますが。雲菫さんや範二さん達以外にも何かご質問はございますか?」
代表の者は説明を終えると、そう言って雲菫や範二、また近くに居る雲菫の配下達や和裕茶館の従業員達にもそう尋ねる。
「質問か…。特に……」
「特に、無いかな…」
「あぁ、何が起きているのかも全て分かったしな…」
「そうだな。もう説明は十分だな…」
代表に尋ねられた雲菫の配下達や範二の従業員達は頷きながら、そう代表に答える。
「___はい、大丈夫です。説明ありがとうございます。私から質問はありません」
「___うむ、ありがとう。私からも質問はないぞ」
雲菫と範二もまた代表にそう答える。
「___承知しました。私達の説明を聞いて頂いてありがとうございます。それでは早速、私達の調査や捜査にご協力を頂ければと思います…」
「はっ、分かりました」
「準備は既に出来ています」
代表の者はそう言うと、先ほど鍾離と胡桃達に質問した時のように他の職員達に目配せをする。そうして目配せを受けたその者達は手早く筆記用具一式や記録用の紙などを取り出す。
「それでは先ほど鍾離さん達にも行いましたように、私達の調査及び捜査協力をお願いしたいと思います…。私達が求めているのは有益な情報、重要な情報です。我らはそれらを求めており、七星達様もそれらを求められております」
「有益な情報ですか…」
「重要な情報か…」
代表のその言葉に雲菫と範二は深く考え込みながら、そう呟く。
「はい。その通りです。雲菫さんに範二さん。反刻刻晴派に関する事、反刻晴派の協力者に関する事。どのようなことでも構いません。我々は煙緋様の活躍により反刻晴派の実態を把握する事ができました。ですがまだそれらは完璧とはいえず、反刻晴派が行った悪事の決定的な証拠といった物、そうしてまた反刻晴派に取り纏っていた民間人の協力者達に関する情報、それらを徹底的かつ、迅速に集めていく必要があります。ですので___」
代表の者はそこで言葉を区切ると、改めて雲菫と範二、またこの場にいる雲菫の配下の者達や範二の従業員達を見渡すかのようにゆっくりと視線を動かしていき、そうして最後には真剣な表情を浮かべながら雲菫と範二の二人に向かって言葉を紡ぐ。
「___どのような事、確定性の無い話や真実性の無い噂話と言った情報でも構いません。また反刻晴派の情報だけでなく、その情報を持っていそうな人物を我らにご紹介いただくだけでも構いません。形式や形態はどうであれ、なんでも構いません。ですので、そのような有益な事をご存知でしたら、どうか我々にお教えください…!!玉衡様を…!!刻晴様を守るためにも……!!」
そうしてその者は静かに、だが確かに熱の籠った力強い言葉で雲菫と範二、またその場にいる雲菫の配下の者達や範二の従業員達にそう頼み込む。
「そうですね…。反刻晴派に関する情報……」
「うむ…。反刻晴派の情報を持ってそうな人物……」
雲菫と範二はそう呟き、そして考えるように顎に手を添える。
「………」
「………」
「………」
「………」
そして代表の者、また鍾離だけでなく胡桃や香菱も固唾を吞んで雲菫と範二の二人の様子を見守る。
「「「「………」」」」
月海亭や総務司の職員達、千岩軍の兵士達、雲菫の配下の者達、和裕茶館の従業員達、それぞれが雲菫と範二の二人の様子を見守る中、時間は静かに、だが確かに過ぎてゆく。
「___そうですね」
そうしてどれ程かの時が過ぎた頃。雲菫は何かを決心したかのような表情を浮かべると、静かにその口を開き始める。
「私は反刻晴派の情報を持ってそうな人物を挙げる事は出来ませんが、ただここで流れていた噂の事。ここで話されていた事をお教えすることは可能です。実は私もその噂に関して興味があったので私の方でも少し調べたり、また劇が終わった後に反刻晴派に関して話していたお客さんとその事で、少しお話等をした事がありますので」
「本当ですか!?」
「ほぉ…」
雲菫のその言葉に代表の者は驚きと歓喜が入り混じった声を上げ、鍾離は興味深そうに目を少し開く。
「はい、本当です。反刻晴派、それに刻晴さんの事を巡って様々な噂、それに色んな話がここでは囁かれていましたから。そうですね…。例えば___」
雲菫はそう言うと少し考えてから口を開く、そうしてそれらを語り始める。
「成程…。そんな事が……」
「ほぉ…。ふむ……」
「「……」」
雲菫の話に代表と鍾離は興味深げに耳を傾け、そうして先ほど目配せを受けて雲菫の供述を記録していく者達は静かにかつ、彼女の供述内容を素早く正確に紙の上に記載していく。
「…」
「…」
「「「「…」」」」
そして胡桃と香菱、また職員達や兵士達、雲菫の配下の者達と範二の従業員達一同はただ静かに彼女の供述内容に耳を傾け、雲菫の話に聞き入る。
「___です。今まで話したのが私がこの和裕茶館で聞いた噂、また私の劇を見に来てくださった観客の人達が私に話をしてくれた時の全てです」
そうして説明を終えた雲菫はそのように纏め上げると口を閉じる。
「成程…、ありがとうございます、雲菫さん。ここまで貴重な情報をお教えくださいまして。感謝申し上げます…」
「ほぉ、そうなのか…。雲菫殿。礼を言うぞ。雲菫殿の知りうる全てを俺達に教えてくれて。どの話もとても興味深い物であった…」
代表の者と鍾離は雲菫に感謝の言葉を述べる。そして改めて彼女が話してくれた事について深く考えるように、それぞれが顎に手を添えたり腕を組ませたりしながら静かに思考を巡らし始める。
「雲菫、ありがとう!!私達に教えてくれて!!…う~ん」
「ありがとう、雲菫!!本当に助かったよ!!…それにしても」
そうしてまた雲菫にお礼を言った胡桃と香菱も、代表と鍾離と同じように深く考えるように思考の海に沈む。
「___そんな話が出回っていたとは…。これは思った以上に…」
「___思った以上にこの話は根深いな。璃月外部の協力者、か…」
「___外国にその件の協力者がいるかもしれないという可能性か…」
「___信じられないな…。だが、あり得ないと言い切れるわけでもないな…」
また雲菫の話を聞いていた職員達や兵士達一同、そして配下の者達や範二の従業員達は、雲菫の話に対してそれぞれ思い思いに考えを巡らす。
「___雲菫さん。ありがとうございます。貴女の貴重なお話、大変参考になります。また今後の調査や捜査にも役立つと思います。ありがとうございます」
そして代表は雲菫にそう礼を述べる。
「いえ、ありがとうございます。どの話も突拍子もない話ばかりで、信憑性も薄いものばかりですが…。それでもお力になれたようであれば、本当に良かったです」
雲菫はそう代表に礼を言う。
「いえいえ、突拍子もない話、信頼性の低い噂、これらの情報は大歓迎です。どんなに信憑性や可能性が低い話であったとしても、それらを徹底的に検証、調査等を行った上で判断をしなければなりません。そうでなければ、重大な何かを見落とす事に繋がりかねない危険性もありますので。本当にありがとうございます」
代表の者は雲菫に改めてそう礼を言い、そうして次は範二の方に視線を向ける。
「___それでは範二さん。範二さんは何か反刻晴派に関します情報などはありませんか?何でも構いません。どんな些細な事でも結構です」
「あぁ、そうだな…。私も茶館で聞いてきたことは雲菫が話したものばかりだから、そう言った事であれば役には立てん。だが、私は反刻晴派の捜査に役立ちそうな物を持っているぞ」
「えっ、本当ですか!?」
「ほぉ…」
範二のその言葉に代表と鍾離は思わず声を上げる。
「あぁ、本当だ。雲先生。さっき、雲先生が語ってくれたそれらの話。劇を見に来てくれたお客さん達が教えてくれたというわけだが、そのお客さん達の名前やどこの所属の人物なのか、それは分かるか?」
「あっ…。すみません、範二さん。私、噂話の方に意識が向き過ぎて、そういった事は……」
範二に問われた雲菫は範二のその問いに対して、申し訳なさそうに答える。
「ふむ、そうか…。なら、私の“あれら”が役に立つかもな」
そうして雲菫のその答えに範二はそう呟くと、彼はほんの少しだけニヤリと笑う。
「そ、それは一体?」
「それは一体何なのだ?」
代表と鍾離は興味深げに範二にそう尋ねる。
「ふっ、“運営記録帳”だ。運営記録帳には日々の記録を記載しているのだが、実はその中には雲先生がお客様と何かを話していたという記録を毎回していたんだ。『劇終了後、2番テーブル1番席の客が雲先生と何かの話をしていた』という具合にな」
「ほぉほぉ」
「ほぉ…」
代表と鍾離は範二のその説明に頷く。
「そうしてその席に座っていた客。実は茶館の席というのは常連でかつ特定の席が空いてさえいれば、その客がいつも座っているその特定席に座る事が多いのだ。そして常連であれば、私は既に名前と顔が一致している。だから常連であればその“運営記録帳”を確認すれば、誰が反刻晴派に関する話や噂をしていたかが分かる」
「ほぉ、そういうことですか…!!」
「ふむ、そうか…。む、範二殿。一つよろしいだろうか?常連であれば名前は分かるが、常連でなければ名前は分からないのではないか?」
範二の説明に代表は感激したかのように声を上げるが、鍾離はすぐに冷静に疑問を範二に投げかける。
「あぁ、その通りだ。確かに常連でなければ名前は分からない。そこでその時には“座席管理簿”、そうして“客人名簿”だ」
「“座席管理簿”、“客人名簿”ですか…?」
「“座席管理簿”、“客人名簿”…。ほぉ、成る程。そう言う事か……」
代表の者、そして鍾離は範二の言葉にそれぞれ反応する。
「そうだ。“座席管理簿”と“客人名簿”だ。“座席管理簿”は茶館で劇や講演を行われる際に座席の空席や満席状況を管理しているものでもあるのだが、実は予約に関する管理も備わっているのだ。そしてまた雲先生の劇や有名な講談師の先生方の講談は人気であるが故、事前に予約をする客人もとても多い。だから常連でなければその“座席管理簿”の予約関連の記録を確認すれば、少なくともその席に座っていた者の名前が分かるというわけだ」
「成る程、そう言う事ですか…」
「ふむ、成る程…。そしてその名前を“客人名簿”に紐づければ、その人物がどの七星八門に所属している上級職員、もしくはどこの商会の上級商会員、またはいずれかの幹部なのかが分かるという事か」
範二の言葉に対して代表と納得したかのように頷きながらそう言い、鍾離も頷きながら範二がまだ語っていなかった“客人名簿”について言及する。
「あぁ、そうだ。鍾離先生。あの“客人名簿”には今までにここを訪れた客達の名前や所属、また住所といったものまで記載されている。無論、常連の客も同様に記載されている」
「ほぉ…」
範二は得意気そうに“座席管理簿”と“客人名簿”についての説明をし、そして鍾離もそれに腕を組みながら頷く。
「…範二さん。その“運営記録帳”、“座席管理簿”、“客人名簿”ですが……。これらはこの茶館にとって機密情報を取り扱っていると言っても過言ではない程、とても重要で非常に大切なものであるとお見受けしますが…。そのような物、私達に提供させて頂いてもよろしいものなのでしょうか……?」
代表は範二のその説明に頷きながらも、そう彼に問いかける。
「あぁ、問題は無い。なにしろ玉衡様、刻晴様のためだからな。それで彼女の危機を救えるのであれば、喜んで差し出しても構わない。だが、少し待ってほしい。直近の運営記録台帳と座席管理簿であれば、すぐに見せる事はできるのだが…」
範二はそう言うと、少し複雑そうな表情を浮かべながら顎に手を添える。
「…どうかなされましたか?」
「いや、実は先月以降の運営記録帳と座席管理簿は保管室の奥の方にしまっているのだ。また客人名簿も今まで使っていた名簿が一杯になってしまったから、今ちょうど手持ちにあるのは何も記載されていない真っ白な名簿なのだ。だからまずは探し出さないといけない。申し訳ないが…」
「成程…」
範二の説明に代表は頷く。
「___分かりました。範二さん。それでしたら私達職員共々、その書類の探索に協力させて頂こうと思います」
「なっ…。良いのか?」
代表のその申し出に範二は驚いたようにそう尋ねる。
「はい。善は急げです。反刻晴派に繋がる可能性のあるそれらは、一刻も早く確認しなければなりませんので」
代表ははっきりとした口調でそう範二に告げる。
「___その通りです。反刻晴派に繋がる可能性が高いそれらに関しては、すぐにでも確認をする必要があります。その為であれば、我ら千岩軍も協力を惜しみません」
「___範二さん。私達、雲翰社の者達も協力させてください。一刻も早く見つけ出しましょう」
「___オーナー。私達も手伝います。一緒に探しましょう」
代表の言葉に続くように千岩軍の兵士達、雲菫の配下の者達や範二の従業員達はそう口々に告げる。
「そうか…。なら、お願いしよう。ついて来てくれ。こっちだ」
範二はそう言うと歩き出し、範二の後ろを代表を始めとする大勢の職員達に大多数の兵士達、そしてそれぞれ半数程度の雲菫の配下の者達や範二の従業員達といった面々が続いていった。
「___これで刻晴も大丈夫だね。やっぱり雲菫の元を訪ねて大正解だったよ。ありがとう、雲菫」
そうして彼らの後ろ姿を見送っていた胡桃は満足気に雲菫にそう礼を言う。
「いえ、とんでもないです…。私は大したことはしていませんよ……」
そしてまた胡桃にお礼を言われた雲菫も、胡桃と同じように満足そうな表情を浮かべながらそう呟く。
「ふっ…。雲菫殿。俺からも礼を言わせてもらうぞ。雲菫殿を訪ねて正解であった。正直、俺の想定以上の収穫であった」
「そうだね。鍾離さん。雲菫、本当にありがとう。私達に協力し、そうしてここまで助けてくれて」
そして胡桃のその言葉に続くように鍾離と香菱も雲菫に礼を述べる。
「いえ、そんな…。私はただ彼女…。刻晴さんを助けたいと、そう思っただけです。だから私は私に出来る事、私が知りうる全てをあの人たちに話をしただけです。」
雲菫はそう謙遜しながら、首を横に振る。
「ふーん、そうなんだ~。あっ…」
そうして胡桃はそんな雲菫に笑みを浮かべていると、何かに気がついたかのような声を上げる。
「…どうかしましたか、胡桃さん?何かありましたか?」
雲菫はそんな様子の胡桃にそう尋ねる。
「うんうん、今ふと気づいたんだけどさ~」
胡桃は面白おかし気な笑みを浮かべながら、雲菫への言葉を続けていく。
「___刻晴ってさ。もしかして一時期、雲菫の劇団の団員になってたりしてた?」
「___なっ!?」
そうして胡桃のその言葉に、雲菫はまるで隠し事がバレたかのように激しく驚いたのであった。
次回に続きます。
なるべく早めに次回の投稿をしたいと思います。(一応、ゴールデンウイークも近いので纏まった時間は取れる筈…)
なお、ゴールデンウイーク中の期間中(26日から6日)は、3話か4話程度投稿出来たらと思います。(なお作者は11連休にすることはできず、また仕事や個人的な事情によりある程度時間も割かれています。そのため去年みたいに2日に1日程度の更新は出来ません。それでも出来る限り随筆は行って、そうして来月中に7幕を終わらせられたらと思います)
それでは次回の投稿まで、今しばらくお待ちください。