名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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完成したので投稿。

前回の予告通り、本幕も終わりに向かって動き始めます。

なお久しぶりに、一部独自設定が発揮しています。

とりあえず今回は、本幕終わりへの前段階となります。


_おい。今、大丈夫か?先ほどよりは話せるか?

Side:胡桃

 

「___えっ!?だ、大丈夫ですか!?」

「___なっ!?大丈夫か…!?」

「___えぇっ!?大丈夫!?」

「___えっ!?ま、待って!?大丈夫!?」

 

階段の方に視線を向けた雲菫、そして鍾離と胡桃に香菱の三人はそこで荒い息を苦しそうに吐きながら膝と手を付いていたとある千岩軍の兵士の姿を目にし驚愕する。そうして四人はすぐさまその千岩軍の兵士の元へと駆け寄った。

 

 

「___はぁ、はぁ、ゴホッ、ゲホッ…。ぐっ…」

 

四人の目の前の兵士はあまりにも全速力でここまで駆けてきたせいか、呼吸は乱れたままで汗が滝のように流れている。また軽い脱水症状でも起きてしまっているのだろうか、身体も少し痙攣しているように見えた。

 

 

「___えっ!?」

「___なっ!?お、おい!!」

「___だ、大丈夫ですか!?」

「___その人、身体が震えてませんか!?」

「___大丈夫か!?しゃべれるか!?」

「___ここじゃ場所が悪いんじゃないか!?この人を移動させた方が良いんじゃないか!?」

 

そうしてここに残っていた少数の職員達や彼と同じ千岩軍の兵士達、またそして雲菫の配下の者達や範二の従業員達も騒ぎに気付いてその男の姿を目の当たりにし、すぐさま彼の身を案じた。

 

 

 

「___っ!!すみません!!今すぐ水を持ってきてください!!それと布でも何でも構いませんので彼の汗などを拭けるものを!!」

 

雲菫はすぐさま近くにいた彼女の配下の者達や、範二の従業員達にそう指示する。

 

「あっ!?は、はい!!」

「分かりました!!」

「お願いします!!皆さん!!そして鍾離さん!!」

 

指示を受けた者達はすぐさま動き出す。そしてそれを確認した雲菫は続いて鍾離の名を呼びかける。

 

「あぁ、雲菫殿!!やる事は分かっている!!」

 

鍾離は頷くとそのままその男の前にしゃがみ込んで、彼の容態を確認する。

 

 

「_よし。動かしても問題は無さそうだな…。すまない!!協力してくれないか!!これから彼をそこの壁の方まで運ぶ!!だからその手伝いをしてくれないだろうか!!」

 

「あ、あぁ!!」

「わ、分かった!!」

「任せてくれ!!」

「今行く!!」

 

そうして鍾離の呼びかけに対し、その場に居た職員達や兵士達はすぐさま応じる。

 

「堂主殿!!香菱殿!!雲菫殿!!そこの壁まで移動するのに邪魔になっているテーブルや椅子をどかしてもらえないだろうか!!道を確保してほしい!!」

 

「うん!!分かったよ!!鍾離さん!!」

「任せて!!鍾離さん!!」

「任せてください!!鍾離さん!!」

 

続いて鍾離は胡桃と香菱と雲菫の三人にそう呼びかけ、彼女達もそれに応じる。

そうして三人は直ぐに駆け出し、テーブルや椅子をどかしてその男の為の道を作りあげていく。

 

「す、すまない…。あ、ありがとう……」

 

「礼はいい。とにかく体力の回復に専念しろ。これから俺達はお前をあの壁まで運んで寄りかかさせる。こんなところで四つん這いになっているよりも、そちらの方が楽だろう?」

 

「あ、あぁ…。そ、そうだな……」

 

鍾離は男の感謝の言葉にそう言い、その男はゆっくりと縦に頷く。

 

「よし!!出来たよ!!鍾離さん!!」

「鍾離さん!!準備できたよ!!」

「準備できました!!鍾離さん!!もう移動しても大丈夫です!!」

 

胡桃と香菱と雲菫の三人は、テーブルや椅子をどかした道の先に出来た空間で鍾離に呼びかける。

 

「分かった!!…よし、お前達も準備は大丈夫か?」

 

「_こっちも準備は出来た」

「_あぁ、大丈夫だ」

「_問題ない、いつでも行ける」

「_鍾離さんの合図さえあれば、いつでも」

 

彼女達に呼びかけられた鍾離はそう答えると、鍾離の手伝いに応じる為にその男を運ぶのに手を貸してくれた職員達や兵士達に声をかける。そうして彼らもまた、それに応じるように頷いた。

 

 

「よし…。おい、聞こえているか?これからお前を移動するが大丈夫か?」

 

「あ、あぁ、だ、大丈夫だ…」

 

「分かった。それと移動中は力は抜いておくと良い。お前は今、脱水症状を起こしていると思われる。それ故に移動する時に力を籠めると、更に状況が悪化すると思う。だから力を抜いたまま俺達に運ばれ、そうして壁に寄りかかって安静するようにしてくれ。いいな?」

 

「あ、あぁ…。分かった……」

 

鍾離の呼びかけに、その男は力無く頷く。

 

 

「よし…。では、行くぞ。せーの…!!」

 

「_ふんっ!!」

「_っぁ!!」

「_っぅ!!」

「_ぐぅっ!!」

 

鍾離と彼に協力している職員達や兵士達はそれぞれその男の腕や脚など持ち、また肩や背中や腰などを支えながらその男をゆっくりと持ち上げていき、そうしてその男を壁の方まで運び始める。

 

 

「だ、大丈夫かな。あの人…。ぐったりとしているけど……」

「多分、大丈夫だと思うけど…。でもやっぱり……」

「おそらく身体の限界を無視して、ここまでやって来たからだと思います。ですのでおそらくは…」

 

そうして鍾離達に運ばれるそこの男の姿に、改めて胡桃達の三人達は心配そうに見つめる。汗が止まらず、身体も僅かに痙攣、そうしてまた少しだけ顔色も悪いように見える。

 

「よし。壁に寄りかからせるぞ!!」

 

「あぁ!!」

「おぅ!!」

「行くぞ!!」

「慎重にな!!」

 

そしてそんな状態の彼を鍾離達はゆっくりと壁まで運び終え、そうして彼を寄りかからせる。

 

 

 

「___よし…。大丈夫そうだな……。お前達、礼を言うぞ」

 

「_いや、こちらこそ。仲間をここまで連れてきてくれてありがとう、感謝する」

「_あぁ、そうだな。お陰で助かったよ、本当にありがとうな」

「_いえ、礼を言うのはこちらです」

「_本当にありがとうございます」

 

鍾離は壁に寄りかからされたその男の様子を確認し、問題ないと確認し終えると彼に協力した者達に礼を述べる。そうしてそれに職員達や兵士達も礼を述べていった。

 

 

 

「_雲菫さん!!持ってきました!!」

「_水、それに拭ける物を持ってきました!!」

 

その時、丁度タイミングよく雲菫の指示を受けた彼女の配下の者達や、範二の従業員達が布や水などを持ってきてこの場に戻ってきた。

 

「ありがとうございます!!それではさっそく、彼に水を飲ませつつ、布で彼を拭いてあげてください!!」

 

「了解です!!」

「分かりました!!」

 

雲菫の指示を受けた彼らは頷くと、彼の前にしゃがみそれぞれを手に取る。

 

 

「すみません、水を持ってきたのでこれを飲んでください。これでだいぶ楽になりますので」

「失礼します。身体の汗をこれから拭きます。不快な思いをするかもしれませんが、どうか我慢してください」

 

彼らはそれぞれ茶器や水筒、タオルになりそうな布、また脱水症状という事からそれを少しでも緩和するための扇子などまでもを手にして彼に呼びかけながら、彼を療養する。

 

「っ、んっ…」

 

男の口元に水を入れた茶器を近づけ、彼に水を飲ませる。またそれと同時に吹き出るように流していた汗を優しく拭きつつ、彼の左右を扇子で仰ぎながら風を送る。

 

「っぅ…。はぁ…、はぁ…、はぁ…」

 

乱れていた呼吸も徐々に整い始め、彼の身体の痙攣も収まり始めていく。

 

 

「…ふぅ。本当に良かったです。鍾離さん。本当にありがとうございます」

 

「あぁ、雲菫殿。雲菫殿もありがとう。雲菫殿が彼らに指示を出してくれたおかげで、彼に適切な水分補給や処置が出来た。雲菫殿、改めて礼を言う」

 

雲菫と鍾離は目の前で壁に寄りかかって安静する彼の姿を見て安堵し、そうしてお互いに感謝し合う。

 

「はぁ…。本当に良かった……。このまま倒れて意識不明に、なんてなってしまったら、それこそ取り返しがつかない事になりかねないからね。いくらこの堂主でも、そんな最期は流石に看過できないよ…」

 

「全くだね、胡桃。いや、本当に良かったよ。なんとか、なりそうで…」

 

胡桃と香菱も、安堵する。

 

「うんうん。これでなんとか一安心だね、鍾離さん」

 

「あぁ、そうだな。胡堂主殿。このまま安静し続ければ、おそらく大丈夫だろう」

 

「そうだね、そうだね。鍾離さん」

 

鍾離は胡桃のその言葉に同意するように頷きながら胡桃にそう言い、胡桃もその言葉に同意するように頷く。そして二人は少しずつ体力や体調を回復しつつあるその男の姿を見て、改めて一安心する。

 

 

「ふぅ…。うん……?」

 

その時、何気なく胡桃は雲菫の方に視線を向けると、そこでふと雲菫の様子がおかしい事に気づく。

 

「………」

 

雲菫の顔がなぜか険しかった。目の前の男は確かに体調や体力を回復しつつあり、男はゆっくりとではあるが自ら茶碗を手にし、自分で水を飲んだりできる程になっていたのにも関わらずにだ。

 

だが雲菫の顔は険しい表情のまま、その男の様子を見続けている。

 

「雲菫…?どうかしたの……?」

 

胡桃はそんな雲菫にそう声をかける。

 

「えっ…?あっ、胡桃さん…。いえ、特に何でもありませんよ……」

 

「えぇ、本当に?何でも無いようには見えなかったけど…。深く考え込んでいた様子だったし…。何か気になる事があるの?」

 

「いえ…。そうですね……。ただ実は、一つ気になった事がありまして……」

 

「気になった事?」

 

胡桃が首を傾げて問いかけると、雲菫はそれに対して答える。

 

「はい…。いま安静していらっしゃる千岩軍の方。この方はどうしてこうなるまでして、ここまで全力で必死になって来られたのでしょうか?それが気になりまして……」

 

雲菫はそう言うと再び安静になっているその男に視線を移す。

 

「言われてみれば確かに…」

 

そうして雲菫の言葉を受けた胡桃も、改めてその男の様子を雲菫と同じように見つめる。雲菫の指摘の通り、この男はこうなる事を承知で、ここまで全力でやってきた。そしてそれにはそうするまでの、何かしらのれっきとした理由があるはずだ。

 

「………」

 

胡桃の顔が徐々に険しくなっていく。彼女なりにその理由を探そうとするが、そのような物は彼女の脳裏に浮かび上がってくることはない。

 

 

 

「___胡桃、どうしたの?」

 

その時、香菱が不思議そうな様子で胡桃にそう声をかけた。

 

「いや…。この人、なんでここまで必死になって走ってきたんだろうって考えてて。さっき雲菫にその事を言われたんだけど、その答えが全然思い浮かばなくて……」

 

胡桃は香菱にそう返す。そして彼女は鍾離の方に視線をやってみる。

 

「………」

 

鍾離も鍾離で、どこか奇妙そうにその男の様子を静かに見つめ続けていた。

 

「…胡桃殿、それに雲菫殿。実は俺も雲菫殿と同じように、少しその事は気になっていた。あまりにも不思議だったからな」

 

「やっぱり、そうだよね。雲菫に言われるまで気づかなかったけど、確かに妙だもん」

 

「そうですよね、鍾離さん。本当に不思議です…」

 

鍾離がそう言うと、胡桃と雲菫もそれに同意するように頷く。

 

「へぇ…」

 

そうして三人の話を聞いていた香菱が興味深そうに呟いた。

 

 

 

「___おい、しゃべれるか?お前、どこの所属だ?どこの部隊、どの大隊の者だ?」

 

「むっ…」

「あっ…」

「あぁ…」

「あら…」

 

そして丁度タイミングよく安静していたその男に対して千岩軍の兵士が声をかけ、鍾離や胡桃を始めとする彼女達は彼らのやり取りに視線を向ける。

 

「答えられるか?どこの所属だ?」

 

「あっ、あぁ…。お、俺は、第9大隊…だ」

 

体力が回復しつつあるとは言えど、息が絶え絶えな様子のその男は自身の所属を明らかにする。

 

「第9大隊?第9大隊って…。それって完全に後方待機の部隊だよな?なにか不測な事態でも起きない限り、特に出番も無いような部隊だったよな?」

「あぁ、そうだな。しかもその部隊は基本的に優秀とは言えども、新兵を中心とする部隊編成だったはずだ。そこに所属しているやつが、ここまで全速力で駆けてきただと…」

「そう言う不測の事態に対処するのは第8大隊の奴らじゃないのか…?第9大隊と言うのは完全に予備の人員が集まっていた部隊だったはずだ。なのに、どうして……」

 

そしてその男の所属を明らかになると、その場に居た千岩軍の兵士達は揃って不思議そうな表情を浮かべる。

 

「はぁ…、はぁ…、はぁ…、俺、は、臨時の、伝令、兵…。伝えに来たんだ…。お前達の任務、またここの職員達、命令の変更、をも……」

 

「なっ…。なに…?任務変更だと……?」

「任務変更、命令の変更…だと?一体、それは…?」

「はっ…?一体、それはどういうことだ?何が起きたんだ?」

 

男のその発言に、その場に居た千岩軍の兵士達は揃って驚いてどよめく。

 

「緊急事態…。至急、‘煙緋様達、甘雨様達の支援’を…。“港湾区全域”…、それに“一部のチ虎岩区”で大変な事に……。急がないと、取り返しが、つかない結果になる………」

 

「なっ!?」

「なんだと!?」

「おい!!それはどういうことだ!?」

 

その発言を聞いた兵士達は揃って驚きの声を上げる。

 

「なに?支援を、だと…?」

「き、緊急事態ですか…?」

「えっ…?どういう事…?」

「ま、待って!!一部とはいえど“チ虎岩地区”って言ったよね!?」

 

そうしてその発言を聞いていた鍾離は眉をしかめて、雲菫と胡桃は目を丸くして驚きの表情を浮かべ、香菱に至っては自身の店がそのチ虎岩地区にある事もあって、より驚きの表情を浮かべていた。

 

「おい!!それはどういうことだ!?説明できるか!?説明できるなら、説明しろ!!」

 

「はぁ…、はぁ…、っ、っ、っぅ」

 

そして驚きの声をあげていた一人の兵士は詰め寄るかのようにその男に問いかけ、その男は自身の耳と口を交互に指し示す。

 

「うん?あぁ、そう言う事か…」

 

そうして臨時の伝令兵と名乗ったその男の意図を理解した兵士は、男の前でしゃがみ込んで自身の耳に手を当てて、伝令兵の男はその男の耳に向かって静かに語り掛ける。

 

「___」

 

「あぁ…。えっ…。なっ…!?はぁ?それだけじゃない…?なんだと……?おいおい、嘘だろ!?なんだそりゃぁ!?分かる事には分かるし自業自得ではあるが、どうしてそんな事になるんだ!?なんでそんな事も同時に起きるんだ!?」

 

伝令兵の男が話し終えた時、その兵士は驚きの声を上げる。

 

「おい、どうしたんだ?」

「なんて言ってたんだ?」

 

他の兵士達は伝令の兵からの言伝を受け取ったその兵士に問いかける。

 

「不味い事になった…!!すぐに隊長達にこの事を伝えないと…!!」

 

その兵士は急いで立ち上がると、すぐさま兵士達を引き連れた範二達が向かった保管室の方へと駆け始める。

 

「あっ!!おい!!どうしたんだ!?一体何があったんだ!?」

「待ってくれよ!!そんな急に!!何があったんだよ!?」

 

そして駆け始めたその兵士を見て、他の兵士達もいよいよなにか洒落にならない大きな事が起きてしまったと察して、焦りながら再度その者に問いかける。

 

「悪い!!時間がない!!説明なら走りながらする!!今はとにかく着いてきてくれ!!」

 

「っ、分かった!!」

「お、おぅ!!」

 

そうしてその場に居た兵士達は急ぎ、その兵士について行く。

 

「………」

「えっ…。い、今のは一体……」

「一体、何が起きてるの?」

 

先ほどのやり取りを見ていた鍾離は訝し気な表情を浮かべながら無言になり、雲菫と香菱は不安そうな表情で呟く。

 

「い、一体何が…」

 

そうして胡桃も雲菫達と同じく不安そうな表情、また璃月港に何かが起きたという事に対して鍾離と同じように訝し気な表情が混ざり合ったかのような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

「___おい。今、大丈夫か?先ほどよりは話せるか?」

 

「あぁ…。まぁ、な……」

 

その時、鍾離はしゃがみ込んでその臨時の伝令兵の男に話しかける。

 

「一体、何が起きたんだ?聞かせてはくれないか?」

 

「えっ…。いや、お前達は、一般人。巻き込むわけには……」

 

「頼む。何かが起きているのだろう?必要であれば、俺達も協力しよう。俺や彼女達はここの千岩軍の兵士達に総務司や月海亭の職員達に協力している身だ。赤の他人というわけでは無いんだ」

 

「なに…?」

 

鍾離の発言に伝令兵は驚きの声を上げる。

 

「…っ。いや、しかし……」

「待って、教えてよ。ここまで来たら私達も無関係なんかじゃないよ」

「胡桃の言う通りだよ。私達は無関係じゃない。お願いだから、教えて」

「私からもお願いします。私達は無関係ではありません。勿論教えてもらった上で下手に手伝い、千岩軍の皆さんや職員さん達の迷惑になりそうというのであれば私達は何もしませんので」

 

伝令兵が躊躇い、鍾離に断ろうかと迷っていると胡桃や香菱、雲菫達もそれに続いてお願いをし始める。

 

「お願いできないだろうか…?無論、無理であるならば、無理強いはしない。だがもし俺達に手伝えることがあるのならば、是非協力させてはくれないだろうか?」

 

そうして迷っている伝令兵の男に対して鍾離は、改めてそう頼み込む。

 

 

 

「………」

 

伝令兵のその男は黙り込み、困ったような表情を浮かべながら彼や彼女達の顔を見つめる。

 

 

 

「「「……」」」

 

そしてそんな男の様子を、胡桃達は固唾をのんで見守る。

 

 

 

「___分かった、良いだろう…」

 

「_っ。そうか、ありがとう」

「_っ!!やった!!ありがとう!!」

「_ありがとう!!本当に!!」

「_ありがとうございます!!」

 

そうして迷っていた男はようやく決断し、鍾離達にそう伝える。それを聞いた彼らは喜びの表情を浮かべる。

 

「すまん。耳を、貸してくれ…」

 

「あぁ、分かった」

 

そして男は鍾離に耳打ちをする。

 

「…っ!!そ、そんな事が起きたのか!?今の璃月港や彼女達はそういう状況に陥ってしまったのか!?」

 

「っ…」

 

伝令兵の男の話、その内容を聞いた鍾離は驚きの声を上げ、その男は肯定するように縦に頷く。

 

「鍾離さん、鍾離さん。一体、この璃月港で何が起きたの?」

「鍾離さん。教えて。璃月港で何が起きているのかを」

「鍾離さん。お願いします、教えてください」

 

胡桃達はそう言って、彼に問いかける。

 

「___急げ!!急げ!!」

「___急ぐぞ、ついてこい!!」

「___くそっ!どうしてこんな厄介な事に!!」

「___なんとしてでも彼らを保護しなければ!!」

 

そしてその直後、大勢の千岩軍の兵士達が和裕茶館の出入り口に駆け込んでいき、そのまま慌ただしく階段を駆け下っていく。

 

「___急ぎましょう!!」

「___我々は我々で加勢しなければ!!」

「___早く行きましょう!!」

「___早く甘雨さん達のところに!!」

 

そうしてそのまま兵士達の後ろを追いかけるように大勢の職員達も慌てて階段を降りていく。

 

「「「………」」」

 

そしてその様を胡桃と雲菫と香菱の三人は不安げな様子で見つめていた。

 

「……」

 

そしてそんな彼女達の様子の傍らで、鍾離は目を細める。駆け抜けて行く大勢の職員達、その中に混じる目的の人物を探すように。

 

「___っ!!代表殿!!」

 

「___っ!?…っ!!」

 

そして目的の人物を見つけた鍾離はその者を叫び、代表は一瞬迷ったが鍾離の方へと駆け寄る。

 

「鍾離さん。まずは、さきほどまでのご協力感謝します。貴方達のおかげで有力な情報を入手する事が出来ました。そして何用でしょうか?手短にしていただけると助かります」

 

「分かっている。単刀直入に言おう。俺はさきほどそこの伝令兵から、今の璃月港の状況を聞いた。その上で、なにか俺達に出来る事はないか?例えば一般人達の誘導とか、また消火用の水の運搬程度であれば、俺達にも出来ると思う。何か手伝えることはないだろうか?」

 

「っ…!?」

 

鍾離のその発言に、代表は驚いた表情を浮かべる。

 

「えぇっ!?消火ってどういうこと!?」

「消火!?えっ、火事が起きてるってこと!?」

「まさか港湾区やそのチ虎岩区にかけて、大規模火災が起きてるって事ですか!?」

 

そして胡桃や香菱、雲菫の三人は驚いた声をあげながら鍾離と代表を交互に見つめる。

 

「い、いえ…、大規模火災が発生しているという訳ではありませんが……」

 

代表は鍾離や胡桃達に対してそう答え、続ける言葉に迷うかのように困惑の表情を浮かべる。

 

「代表殿…」

 

鍾離は困惑する代表に対して、静かにそう語りかける。

 

「………そうですね、分かりました。時間がありませんので端的に説明させて頂きます」

 

そうして少しの間沈黙したのちに、やがて代表は意を決したかのように頷き、そしてその者は口を開いた。

 

「まず港湾区、より正確には港湾区の倉庫群を始めとする多くの建物で不審火騒ぎやボヤ騒ぎが多数発生しました。幸いにも大半以上の初期消火等には成功しているため、惨事に至るという事は避けられましたが油断はならない状況です。今現在は延焼を抑え、また完全な鎮火を行う為に現場に急行している我ら職員達に、周辺にいた協力を申し出た一般人達、そして甘雨様が率いています大勢の職員達や一部の兵士達が消火活動や人命救助に当たっています」

 

「ほぉ…。成程……」

「成程…。そうだったんだ……」

「そうだったんだね…。良かった……」

「良かったです…。最悪な事態には至っていなくて……」

 

代表の説明に鍾離や胡桃達はそれぞれそう感想を漏らし、安堵する。

 

「はい。ですのでそちらの方は問題ありません。最終的には沈静化していける見込み、また連続で発生した火災の原因に関してもその調査や捜査も、そのまま現地の千岩軍達が執り行う予定です。しかしそれよりも、問題となるのは___」

 

代表はそうまくし立てると、難しそうな面持ちを浮かべる。

 

 

 

 

 

「___煙緋様の方なのです……」

 

そうして代表はその一言を、鍾離達に告げたのであった。




次回に続きます。

結局、GW期間中2回しか投稿できませんでした…。

ただ3話目に関しては、ある程度随筆は進めてはありますので今月の中旬の終わり辺りか、遅くとも下旬の中間辺りまでには投稿できそうです。


とりあえず今月中に3話目の投稿は行いますので、気長にお待ちください。
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