名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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第1幕中編前半、開始


 2幕:「“甘雨”同行、璃月港散策」編
_“煙緋法律事務所”?


Side:瞬詠

 

「___瞬詠さん、起きてください。朝ですよ。いい加減にベッドから出てください」

 

「うるせー、とっくのとうに起きているし。早朝の群玉閣は思った以上に寒いからまだ寝てたいんだ。それにこのベッドが滅茶苦茶寝心地が良いんだ。本当に死兆星号の頃の物とは、段違いすぎる…。そんなわけで甘雨、もう少し寝る。どのみち、身体が温まらないと動けんからな…」

 

「…そんな言い訳、私に通じません、よ!!」

 

「うぉっ!?」

 

甘雨が急に瞬詠の掛け布団を剥ぎとり、瞬詠はベッドから転げ落ちかける。

 

「っぅ…。あぶねーな!!甘雨!!お前さん、何を考えているんだ!?というか、なんで甘雨が自分の部屋にいやがる!?」

 

甘雨の手によって無理やり叩き起こされた瞬詠は頭を押さえながら、甘雨に向かって抗議の声を上げる。

 

「……瞬詠さん、私に対してそのような事を言っても意味は無いですよ?」

 

しかしそんな瞬詠の抗議の声に対して、甘雨はどこ吹く風と言った様子で答える。

 

「あ゛ぁ??」

 

甘雨の言葉に、瞬詠はイラっとした表情を浮かべながら甘雨を睨みつける。

 

「瞬詠さん、実はですね…。昨日、“凝光”さんのご命令で、一時的に私は瞬詠さんの“付き人”になったのです」

 

甘雨は満面の笑みで、瞬詠に向かってそう話す。

 

「ん?“凝光”からの命令?“付き人”だと?」

 

瞬詠は何を言っているのか、よく分からないと言った表情を浮かべる。

 

「はい、そうです。そしてその時に凝光さんから、『そう言えば報告によれば、どうやら瞬詠、毎朝、遅くまでベッドの中にいるようね…。これからの事を考えるとこういう生活習慣は考え物、瞬詠の生活習慣を正す必要もあるようね…。というわけで甘雨、彼の付き人の間は貴女が毎朝瞬詠を起こしに行ってあげなさい。起きる気配がないのであれば、容赦する必要は無いわ。叩き起こしてあげなさい』と仰られたのです」

 

「は?えっ?えぇっと、ちょ、ちょっと待ってくれ。…もしかして、甘雨。甘雨は自分の世話役、世話係になったって事なのか?」

 

瞬詠は甘雨の言葉の意味を理解し、困惑しながらそう尋ねる。

 

「はい、そうですね。間違っては無いです」

 

甘雨はニッコリとした笑みを浮かべ、瞬詠に向かって頷く。

 

「あ、う、うん。分かった…。っぅ!!」

(本当にくたばれぇ!!あんのぉ、女ぁっ!!)

 

そうして瞬詠は沸き起こった怒りを何とか抑えながらも、心の中で凝光に対しての怒りをブチ上げていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、凝光さんの奴が自分に、社会見学、社会勉強をしてこいとはな……。本当にあの人、何を考えているのか、さっぱり分からんな」

 

「まぁ、まぁ、瞬詠さん。そう言わないでください。凝光さんは決して悪意があって、そんな事を言ったわけでは無いと思いますし。……それに凝光さんだって、瞬詠さんの事を思っての事なんですよ。そう邪険にしないでください」

 

「うん、まぁ、それは分かっているんだが……」

 

瞬詠は凝光に対して文句を言いたげな表情を浮かべながらも、甘雨のその言葉に同意する。

 

「…だがまぁ、凝光さんに群玉閣に連れ込まれて、半分軟禁に近い生活を送り続けてきて、ようやく解放されたが…、うん、やっぱり外の空気は良いな」

 

瞬詠は太陽が昇った璃月港の空気を肌で感じながら、満足げに頷く。

 

「瞬詠さん、その言い方はどうかと思いますよ?」

 

甘雨は苦笑しながら、瞬詠に向かってそう言う。

 

「いや、だって事実だからな。それに実は何度か、群玉閣から脱走してやろうかと思ったしな」

 

「…えっと、それは本当ですか?」

 

甘雨は驚いたように、瞬詠に向かってそう尋ねる。

 

「…さぁ、どっちだと思う?」

 

「…冗談で言っているのか、それとも本気で言っているのかは分かりかねますが、ですがもしも瞬詠さんが本当に群玉閣から脱走したとしたのならば、私は地の果てまででも瞬詠さんを追いかけ、そして瞬詠さんを群玉閣へと引きずり戻して差しあげますよ」

 

甘雨は力強く、そうして満面の笑みでそう答える。

 

「っぅ……、そ、それは怖いな」

 

瞬詠は甘雨の返事を聞いた瞬間、頬を引きつらせる。

 

「ふふっ、まぁ冗談です」

 

「冗談でもそんな事を言うな。なんだかお前さん、甘雨は本当にやってきそうで怖すぎるんだよ。洒落にならん、だがまぁそれよりも___」

 

瞬詠は冗談を言った甘雨に向かって、呆れたようにそう言い、そうして前を向く。

 

「___改めてこうして、璃月港に降り立ったわけだったが、璃月港の賑やかさは健在だな。璃月港を訪れたのは半年ぶり、いやもっとか?…まぁ、半年以上経っても活気あふれるこれは、変わらないものだな」

 

「はい、そうですね。本当に璃月港の活気は凄いです」

 

瞬詠と甘雨はそう言って、お互いに笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

甘雨が瞬詠を叩き起こし、そうして瞬詠が心の中で凝光に対して激しく罵倒した後。

 

その後、瞬詠は群玉閣でいつものように簡単な身支度を行い、瞬詠の部屋に運ばれてきた朝食を取った後、瞬詠は甘雨と共に凝光に甘雨が瞬詠の付き人になった件の経緯等を確認したり、事情を聴いたりした。

そうしてその過程で瞬詠は、改めて凝光から社会勉強や社会見学に関してを告げられ、そしてその場で正式に甘雨が瞬詠の“付き人”となる事を凝光に宣告された。

 

そしてその後、甘雨と瞬詠は群玉閣を出発し、こうして璃月港へとやってきたというわけであった。

 

 

 

ちなみに、甘雨が瞬詠の付き人になるに当たって、群玉閣に滞在している瞬詠に割り当てられている客室。実質瞬詠の自室と化した客室の隣にあった使われずに空いていたその客室。

その客室が甘雨の部屋として充てがわれる事になったのは余談であり、瞬詠が部屋で運ばれてきた朝食を食べている時に甘雨が瞬詠の目の前に座ってニコニコとしながら、瞬詠が朝食を食べている姿をジッと見つめてきて、瞬詠が少し食べづらい思いをした事も、また余談である。

 

またそして、凝光に激しい怒りや反抗心を覚えていた瞬詠が、凝光に向かって中指を立てたり親指を下に向けるジェスチャーを行おうとした際に、その直前で隣にいた甘雨に勘づかれ、甘雨に無理やり止めさせられようとして瞬詠が甘雨に抵抗してそのままもみくちゃになって、凝光がそんな二人に対して微笑ましいものを見るような表情を浮かべていた事もまた余談であり、そうして瞬詠と甘雨が群玉閣から璃月港へと出ようとした際に、わざわざ凝光本人がお見送りを行った事も、また完全なる余談である。

 

 

 

 

 

そうして今現在。

 

瞬詠と甘雨は二人で璃月港を歩いているという状況なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___おぉ、ここら辺りの通りは覚えているぞ。いやぁ、全く変わらないな、ここは。確かその建物の上層にあるのは“万文集舎(ばんぶんしゅうしゃ)”という書店だったか?」

 

「はい、そうですよ。丁度、あの辺りは璃月の様々な書籍や書物等を取り扱っている書店の万文集舎です」

 

「だよな、だよな!!…いやぁ、本当に、懐かしいな」

 

「ふふっ、そうですか」

 

瞬詠はどこか懐かしそうに、それでいて嬉しそうにそう言い、甘雨も群玉閣にいた時の瞬詠とは違い、今はまるで純粋に子供のようにはしゃいでいる瞬詠の姿を見て、クスクスと微笑みを浮かべていた。

 

「…よし、ちょっと立ち寄るか!!ぐっ!?」

 

「ふふっ、瞬詠さん。何度も言いましたよね?今日は行くところが完全に決まっていて、時間に余裕を持たせるために寄り道は無し…と。私から勝手に離れて、勝手な事をしたら駄目ですよ?」

 

瞬詠が歩みだそうとした瞬間、甘雨が笑みを浮かべながらがっちりと瞬詠の腕を掴む。

 

「っ!!…甘雨、別に良いだろ?5分、いや数分だけだ。別にほんのちょっとだけだ。な?だから、離せよ。そうじゃないと、甘雨を振り解いた時に甘雨が怪我する、ぞ!!」

 

「っ!?…何度やっても、無駄ですよ?私に勝てると、思っているのですか?___っ!!」

 

「っ!!本当にしつこいんだよ!!甘雨!!」

 

「それはこっちの台詞です!!瞬詠さんは子供じゃないんですから、いい加減に私の言う事をちゃんと聞いてください!!」

 

「うっせー!!別に良いだろう!!ほんのちょっとなだけだろうが!!」

 

「駄目です!!いい加減に諦めてください!!」

 

そうして瞬詠も甘雨の腕を掴むと、お互いに腕を掴みあう瞬詠と甘雨はまるで綱引きでもするかのように、腕をそれぞれの方向に引っ張り合う。

 

「っぅ~!!ふんっ!!」

 

「うぉっと!?」

 

そして甘雨が腕を引っ張っていた力が更に一気に強くなり、瞬詠の身体が軽く宙に浮き、その拍子に瞬詠は腕を掴んでいた手を放してしまう。

 

「あぶなっ!?___っ!!」

 

そして空中へと浮いてしまった瞬詠はなんとか空中で体勢を整え、そうして無事に地面に着地する事で横転や転倒と言った事象を未然に防ぐ。

 

「ふふっ、また私の勝ちですね?いい加減に諦めて、おとなしく私に付いてきてください」

 

「…ちっ、どんどん容赦無しになっていくな。本当にお前さん、嫌な奴だ。というか、甘雨の化け物染みた体幹はなんだよ?…それに甘雨のどこからそんな力が出てくるんだよ?」

(甘雨が女であること、それにこいつの見た目的に、そんな馬鹿力を持っているとは思えないんだけどな……。こいつ、本当に人間かよ?)

 

瞬詠は甘雨を不服そうに見つめ、対する甘雨は余裕そうな笑みを浮かべて瞬詠の事を見つめている。

 

「ふふっ、そんな事は別に気にする必要はありませんよ…。さてと、瞬詠さん。こんな所で道草を食っている暇なんてありません。さっさと目的地に行きましょう。……往生際が悪いですよ?」

 

「……はぁ、はいはい、分かったよ。甘雨。行けばいいんだろ、行けば。はいはい」

 

「“はい”は、一回で良いですよ?」

 

「はーい」

 

そうして瞬詠は渋々とそう言い、甘雨と共に歩き始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___あれって甘雨ねぇね、それに、あ、あれって、瞬詠にぃに?えっ、でも…」

 

「…“ヨォーヨ”?どうしたの?」

 

「あっ!ごめん、“七七”!」

 

そしてくりっとした赤茶色の瞳に全体的に黄緑色と茶色の璃月の服を身に着け、彼女の薄茶色の髪を三つ編みに結ったうえで、それをわっか状にしている独特な結びに大きな鈴がついた髪飾りをつけた、“ヨォーヨ”と呼ばれたその身に“草の神の目”を身に着けていた幼女。

そして紙のように白い顔色で赤紫色の瞳に全体的に紫色と水色の格好、そうして彼女の帽子だろうか、頭の上に半円っぽい形の丸々してる帽子を被る事で何故かお札のようなものをおでごに垂らしていた幼女、“氷の神の目”を身に着けていた“七七”と呼ばれた幼女。

それぞれ二人が手を繋ぎながら歩いていたのだが、ヨォーヨが甘雨、そして瞬詠の後ろ姿に驚きの表情を浮かべたかと思うと、七七の言葉によってはっと我に返っていた。

 

「…“七七”、早く薬草を取りに行こう!!」

 

「うん、手伝ってくれてありがとう。“ヨォーヨ”。行こう」

 

そうしてヨォーヨと七七は甘雨と瞬詠の後ろ姿から視線を外し、本来の目的をこなす為に璃月港郊外の方に向かって歩き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Side:瞬詠

 

「___そこです、その建物ですよ。瞬詠さん」

 

「ほぉ、そこなのか。甘雨。どれどれ、___」

 

そうして甘雨の目的地に辿り着いた瞬詠は、甘雨が指さす目の前の建物を見つめる。

 

「___“煙緋法律事務所”?」」

 

そしてその建物には、“煙緋法律事務所”と書かれた看板があったのであった。

 

 

 

 

 




遂にいよいよ、海灯祭が始まりましたね…。
どうなっていくのか、本当に楽しみです。

なお余談になりますが、次回の投稿から暫くの間は投稿がかなり早くなるものと思われます。
というのも、次回の投稿は作者の旧作(【玉衡の元から逃亡したら千岩軍が追いかけて来ていた件について】の【番外編・仙獣の法律家と変動する璃月港】)にあった【煙緋法律事務所と来客者達】の瞬詠視点Verとなります。
現状、既に本文の大半以上は完成している事になりますので、おそらく次回の投稿は一週間以内に行う事が出来そうです。
またそれに伴い、その次の展開の話も同時並行で進めていますので、暫くの間は更新はかなり早くなると思われます。

そのため暫くの間(2月の中旬辺りまで)は、それぞれの次の投稿までの期間が、そこまで長く空く事は無いと思われますので、次の投稿までいま暫くの間お待ちください。


—————
追記1
・後書きにて誤字がありましたため、修正を行いました。(海灯際⇒海灯祭)
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