名前を無くした、天権の懐刀   作:久遠とわ

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とりあえず完成している投稿できる分まで投稿。

本来であれば一気に事態が進行する所まで行きたかったのですが、既にあまりにものの分量なってしまったため、本来の予定の分は二分割して投稿したいと思います。


_教えて!!今までの経緯、ここまでの全てを!!

Side:胡桃

 

「_あぁっ!!邪魔だ!!どけよ、千岩軍!!これじゃあ、いつまで立っても後ろにいるクズどもに制裁を加えられないじゃねぇか!!」

「_そうだ!!そうだ!!どけよ!!千岩軍!!いい加減にしろ!!この野郎!!本当にお前らはよぉ!!いったい、どっちの味方なんだよ!?」

「_そうだ!!はっきりしろよ!!千岩軍の兵士どもが!!お前ら、いったいどっちの味方なんだ!?刻晴様の味方か!?それとも刻晴様を害そうとしたクズどもの味方か!?どっちなんだ!?この野郎!!」

「_おい!!もう道を開けろ!!そしてそこにいる糞野郎どもを殴らせろ!!」

「_そうだ!!別に殺すわけじゃない!!ただぶん殴って叩いて、分からせてやるって言ってるだけなんだから、さっさと道を開けろよ!!千岩軍!!」

「_刻晴様を!!玉衡様に危害を加えようとしたクズどもを懲罰するだけだ!!なのに何が悪いって言うんだよ!?あぁ!?」

「_そうだ!!このクズどもに自分達が何をしでかそうとしたのか、その身で分からせてやらないと気が済まないんだよ!!」

「_そうだ!!しかも反刻晴派の職員はいざ知らず、俺達を散々こき使って来た現場の上長までもが刻晴様を害そうとしていた協力者だったなんてな!!このクズどもが!!糞野郎どもが!!ふざけんじゃねぇぞ!!この野郎!!」

「_そうだ!!そうだ!!お前ら!!もう絶対に赦さねぇ!!どうせ実刑は確実!!殺すかどうかの最終判断は七星達の判断によるし、死刑になるかは分からないし極刑になるかは分からないが、だがそれ以下の刑は確実だ!!なら、殺さない程度の懲罰を俺達が執行人として代行してやっても問題はない!!」

「_そうだ!!それだ!!俺達が代わりにこのクズどもを徹底的に懲らしめてやる!!俺達が制裁を下してやるんだ!!俺達の怒りを反刻晴派やその協力者達に分からせてやるんだ!!二度とこんなふざけた事が起きないようにな!!」

 

 

 

璃月港、港湾区。船着き場から響き渡る猛り狂う暴徒と化しつつある男達の怒号。

 

 

 

「_ひ、ひぃ!!嫌だ!!やめてくれぇ!!来ないでくれぇ!!」

「_待ってくれ!!嫌だ!!死にたくない!!」

「_謝る!!謝るから!!悪かった!!本当に悪かったから!!」

「_頼む!!許してくれぇ!!助けてくれ!!助けてくれぇ!!」

 

そして猛り狂う暴徒と化しつつある男達の殺意や怒りに満ちた叫びに対し、恐れおののきながら追い詰められている反刻晴派の過激派の職員達とその協力者達は身の危険や命の危機にみっともなく怯え、恐怖に染まった表情を浮かべながら必死に命乞いをする。

 

 

 

 

 

「_だからそんな事は許されないと言っているだろうが!!止まれ!!」

「_それ以上近づくな!!この者達の身柄は我ら千岩軍が確保する!!」

「_この者達を擁護するつもりはない!!だが、この者達は正当な方法で裁かれなければならない!!だから止まれ!!これ以上近づくな!!」

「_この者達が犯した大罪は万死に値するものだ!!しかしだからといって、私刑などは認められない!!いい加減に諦めろ!!」

「_離れろ!!いい加減に解散しろ!!自分達の場所に戻れ!!」

「_お前達!!いい加減にしないか!!解散しろ!!直ちに!!直ちにだ!!」

 

「_うるせぇ!!何を偉そうなことを言ってんだぁ!?お前ら千岩軍はよぉ!?ふざけるのも大概にしろよ!!この野郎!!」

「_そうだ!!そうだ!!そもそもお前達千岩軍がしっかりしていれば、こんな事にはならなかったんじゃないのか!?違うか!?あぁ!?」

「_おぉ!!そうだ!!そうだ!!そもそもお前達千岩軍がもっと毅然としていたら、刻晴様の暗殺計画といったものを見抜けていたんじゃないのか!?」

「_そうだ!!そうだ!!そもそもお前達千岩軍がしっかりしていれば、こんな事になってなかった!!お前らの職務怠慢が引き起こした結果だろうが!!」

「_おぉ!!そうだ!!だからこそ俺達がそこの糞野郎どもに制裁を下さなきゃいけないんだろうが!?俺達の怒りを分からせてやらなきゃよぉ!!」

「_そうだ!!そうだ!!お前ら千岩軍こそ、そこから離れろ!!お前らが仕事をしなかったから、その分俺達がその尻拭いをしているんだ!!だからそこをどけぇ!!千岩軍どもめぇ!!俺達の邪魔をするんじゃねぇ!!」

「_そうだ!!そうだ!!だからそこをどけぇ!!千岩軍っ!!」

「_そうだ!!そこをどけ!!そして、そのクズどもを俺達に引き渡せぇ!!」

 

 

 

そうしてそんな彼らを守ろうと怒り狂う男達との壁になっている千岩軍の兵士達は口々にその男達へと言い放ち、その言葉に喰いかかるように暴徒になりつつある男達も言い返す。

 

 

 

 

 

 

 

「_っ!!くそっ!!本当にやばい事になって来たな…!!」

「_くっ!!どんどん状況が悪化する一方だ…!!」

 

そして目の前のカオスにも等しい状況に対して、嘉明と行秋の二人は苦々しく呟く。

 

「_い、いったいどうすれば…!?」

「_どうしよう…。どうすれば止まるの…!?」

 

嘉明と行秋の二人と同じように、雲菫と香菱の二人も目の前の状況にどうすればいいのか分からず、困惑した表情で立ち尽くしていた。

 

「っ…。堂主殿。まだ、どうにかできる術や策はあるはずだ…」

 

「もちろんだよ、鍾離さん。まだ方法はあるはずだよ…」

(まだ、何とかなるはず…。少なくとも、まだあの男達と兵士達は衝突してない…。まだ間に合う……)

 

そうしてその中、鍾離と胡桃の二人は険しい表情を浮かべながらも、まだ何か方法があるはずだと信じながら必死になって思考を巡らせる。

 

まだ最悪な事態には至ってない。目の前の過激派やその協力者達が大男達によってリンチにされるような事態にはなっていないし、それに痺れを切らした大男達が先に千岩軍の兵士達に襲い掛かって、兵士達が応戦してしまって収拾がつかなくなってしまうなんて事にはなっていない。

 

「………っ」

 

まだ最悪の事態には至っていない。

それは確かな事ではあったのだが、しかし状況が悪化しつつある事には変わりないし、その時と言うのは刻一刻と迫っている。

 

「………」

 

冷や汗をかきながら、胡桃はこの状況をどうにか打破するための策を考え続ける。

タイムリミットは刻一刻と迫ってきている。そしてそれは胡桃の隣に立っている鍾離や、この場にいる雲菫や香菱、それに行秋や嘉明達にも分かっていた。

 

 

 

「___むっ」

 

「___あっ」

(そう言えば…!!)

 

そしてその時、鍾離と胡桃の二人はハッとしたかのように同じタイミングである事を思い出し、そして二人は何をしなければいけなかったのかを思い出した。

 

 

「_嘉明殿!!行秋殿!!」

「_嘉明!!行秋!!」

 

鍾離と胡桃は大声を発しながら、嘉明と行秋の名前を叫ぶ。

 

 

「_っ!?鍾離さん!!胡桃!!ど、どうしたんだ!?」

「_っ!!いったいどうした!?鍾離さん、胡桃!!」

 

自分達の名前を呼ばれた二人は大声で呼ばれたことも相まって、驚いた様子で胡桃と鍾離の方へと振り向く。

 

「嘉明殿、行秋殿。驚かせて申し訳ない。だがどうしても教えてほしい事があったんだ」

「そうだよ!!教えて!!今までの経緯、ここまでの全てを!!できるだけ詳しく!!」

 

鍾離、そして胡桃は迫る勢いで嘉明と行秋にそう問いかける。

 

「_あっ、そう言えば!?嘉明さん!!行秋さん!!私達に教えてください!!知りうる限りで構いませんので!!」

「_そう言えばそうだったね!!嘉明!!行秋!!二人とも!!どうしてこうなったのか、それを教えて!!」

 

そして鍾離と胡桃の二人と同じように、本来の目的を思い出した雲菫と香菱も嘉明と行秋にそう問いかける。

 

「えっ、いきさつか!?」

「こうなったまでの経緯…?」

 

「そう!!いきさつ!!こうなったまでの経緯!!」

 

そうして胡桃達に問いかけられた嘉明と行秋の二人は、胡桃にそう確認を取ると、胡桃は勢いよく頷きながらそう答える。

 

 

「_その通りだ。嘉明殿、行秋殿。こうなった経緯を出来る限り、俺達に詳しく教えてくれないか?そうすれば俺達はこの状況を打破する糸口が見つけられるかもしれないんだ」

「_はい、鍾離さんの言う通りです。嘉明さん、行秋さん。どうかお願いします…!!私達に教えてください……!!」

「_鍾離さんの言う通りだよ!!二人とも!!お願いだから、全てを私達に教えて!!」

 

胡桃のそれに続いて鍾離は補足説明でもするかのように、そしてまたそれに続けて雲菫と香菱は懇願するかのように二人へとそう頼み込む。

 

「お、おぉ…!!分かった!!」

「わ、分かったよ!!皆!!」

 

そしてまた鍾離達にそう懇願された嘉明と行秋は、そんな胡桃達の勢いに圧されながらも頷く。

 

 

 

「_そうだな。まずは俺から説明だな」

 

嘉明はそう言うと、覚悟を決めたかのような表情で息を整え始める。

 

 

 

「___説明とは言っても、俺は完全に巻き込まれた形だ。俺はいつもの護送の仕事の為に璃月港を、いつもの場所目指してその時はチ虎岩の辺りを歩いていたんだが、その際に璃月港で何やら騒ぎになっていて戸惑っていたんだ。千岩軍があちこち走り回ってるし、至る所には検問が築かれていて、通りかかった荷車の中身の確認をしてるしで。それで俺も道端で千岩軍の兵士達に呼び止められて捜査の協力、反刻晴派について何か知らないか、と聞き取り調査を受けていたんだ」

 

「嘉明も聞き取り調査を受けたんだね。私達もだよ」

 

「あぁ、俺達もだ」

 

「うんうん、私達もだよ」

 

「はい、そうですね。私もです。私は呼び止められたのではなく、胡桃さん達が私がいた茶館に総務司の職員さん達や、千岩軍の皆さんを連れてきて彼らの調査を受けたという形式ですが」

 

嘉明の言葉に胡桃、また鍾離と香菱と雲菫の三人も頷く。

 

「おぉ、鍾離先生や香菱、それに雲菫達までもか。それに雲菫のそれは鍾離先生たちが彼らに彼女を紹介したから、という事か?」

 

「はい、それで合っていますよ。嘉明さん」

 

「あぁ、その通りだ。嘉明殿」

 

嘉明のその言葉に雲菫と鍾離は頷きながら肯定する。

 

「成程な。まぁ話を戻すと、それで俺が聞き取り調査を受けている最中に、直ぐ近くを千岩軍が過激派って呼んでいた奴らが走って逃げて行った所に出くわして、そしてそれをまた別の兵士達が後ろから彼らを追いかけていた場面に遭遇したんだ」

 

「なっ…。そんな場面に遭遇したのか?」

 

「えっ…!?過激派の人達が逃げていた所にあったの!?」

 

鍾離と香菱はそんな嘉明の言葉に驚き、また驚愕した。

 

「へぇ…。それで悪人を見かけた嘉明は彼らを捕まえる為にその千岩軍と共に追いかけた、ってことだね?」

 

胡桃は嘉明の今までの説明をそう要約し、そして確認するように尋ねる。

 

「おっ、俺の事をよく分かってんじゃねぇか。胡桃。だが半分正解、半分間違いってところだな」

 

「半分正解で、半分間違い……?」

「むっ…。半分間違いだと…?」

「どういう事です?嘉明さん?」

「えっ…。どういう事…?」

 

嘉明のその発言に胡桃、鍾離、雲菫、香菱は首を傾げながらそう疑問の言葉を口にする。

 

「あぁ、実は当初の俺もそいつらを捕まえようと千岩軍と共に追いかけようとしたが、千岩軍の兵士達に『今は彼らを逃がせ!!絶対に捕まえるな!!』って止められたんだ」

 

「えっ!?千岩軍の兵士達に止められたの!?」

 

「ほぉ…。捕まえるどころか逃がせ、か」

 

胡桃は驚きながらそう声を上げ、そして鍾離は顎に手を当てながら考え込むようにそう呟く。

 

「あぁ、そうさ。俺も最初は困惑したぜ。なんで悪者共を捕まえないんだって、な…。だが、すぐにその理由が分かったぜ……」

 

嘉明はそう言うと顔を過激派達の壁となっている兵士達、そしてその過激派達や協力者達に殺意を放ち怒りの視線を向けているほぼ暴徒な様子の大男達へと視線を向ける。

 

 

 

「_『この場やこの辺りでは捕まえようとするな!!まずは彼らをわざと逃がして出来る限りこの場から遠ざけ、そして安全を確保させるんだ!!』と、その時の千岩軍が叫んでいてな」

 

「遠ざけようとしたの?」

 

「安全を確保させようとしたのか?」

 

「あぁ、そうだぜ。二人とも。そして彼らを追いかけている最中で、すぐになぜ取り押さえはいけないのかが分かったぜ。なぜなら追いかける俺達千岩軍の後ろから怒鳴りながらあいつらを追いかけてくる大男達や、脇道から鬼のような形相を浮かべながら何かを探し回っている他の男達がいて、そいつらがあいつらを見つけた瞬間に叫び声を上げながら襲い掛かるように追いかけ始めたからな。確かにこれは、今取り押さえたら絶対にだめだったぜ」

 

「あー…。なるほどね…」

「ふむ、やはりか…」

「っ…。そう言う事でしたか……」

「えっ…。そう言う事だったの…」

 

嘉明の説明に胡桃と鍾離達は納得したようにそう呟く。

 

 

 

通常であれば、悪人は捕まえるのが当たり前の行為だ。嘉明が当たり前を遂行しようと動くのは至極当然の事。だが今回に限ってはその場で取り押さえてしまえば状況が一気に悪くなってしまう恐れが強く、まずはこの場から遠ざけなければならなかった。

 

それは過激派や協力者達に怒り狂い、そうして制裁やら懲罰の名目で暴行を加えんとしている大勢の男達がここ港湾区内で血眼になってでも探し回っていた事。彼らも彼らで過激派達を捕まえるつもりであったのだから。

 

つまりは猛り狂う大男達がいる港湾区で彼らを拘束してしまえば、後からやってくる男達によって過激派達は袋叩きにされてしまい、最悪命を落とすかもしれないという事。また当然の如く千岩軍よりも彼らが先に捕まえてしまえばそのまま集団リンチの如く、激しい暴行を彼らに加えてしてしまい、最悪勢い余って殺してしまう恐れすらあったのだ。

 

だからこそ千岩軍はあえて彼らの身柄は拘束せず、あえて逃がして泳がせるよう追跡のみに徹した。そうする事でまずは彼らの命を守る事を最優先とし、怒り心頭な港湾区の男達が及ばない安全な場所まで彼らが逃げられるように画策したのだ。

 

 

 

 

 

「………」

 

胡桃は何げなく地面にへたり込むように座っている男達、地面にへたり込んでいる過激派の者達やその協力者達に視線を向ける。

 

 

「_はぁ、はぁ…。誰か……」

「_許してくれ…。お願いだから……」

「_助けて…。死にたくない…。誰でも良いから……」

「_嫌だ…。殺される…。こんな事になるくらいなら、大人しく投降しておけば……」

 

男達は疲れ切った様子で地面にへたり込んでおり、そして弱りきった口調で口々にそう呟きながら震えていた。

 

 

 

ここまで必死になって逃げてきたのだろう。身体中から汗が噴き出ており、また逃げている最中に先回りした大男達や脇道から現れた男達からの不意打ちや強襲を受けてしまったのか、衣服が破れていたり、小さくて細かい擦り傷や切り傷、痣なども確認する事が出来た。

 

出血等はしてはいないものの男達のその格好からして、ここまで逃げおおせるのにかなり苦戦を強いられ、やっとの思いでここまで逃げ出せたのだろう。

 

そして男達の表情が恐怖と絶望に染まったものとなっており、まるで男達の目からは既に生きる希望すら失われているように見えた事から、胡桃達が想像できない程までに地獄のような体験をしたのだろうという事が、嫌でも窺えた。

 

 

 

「………」

 

胡桃は複雑そうな表情を浮かべる。

 

完全に過激派の者達や協力者達の自業自得ではあるのだが、想像を絶するような地獄のような体験をしたであろう彼らに対して、胡桃は憐みを感じざるを得なかった。

 

 

 

「_嘉明、その後の事を教えて」

 

胡桃は男達から視線を逸らすと嘉明にそう頼む。

 

「あぁ、勿論だぜ。そうして俺と千岩軍達はその男達の追跡を行っていたんだが、その男達は先回りしていた港湾区の男達に行く手を阻まれ、いよいよ彼らが男達に捕まってしまうとなって千岩軍の兵士達が彼らを守ろうとした瞬間に、行秋と更に大勢の千岩軍の兵士達、それに“煙緋”っていう女と彼女によって俺達の味方となってくれた同じ港湾区の大男達が割り込んできたんだぜ」

 

「なっ…。煙緋、だと……?」

 

嘉明のその言葉に鍾離が反応する。

 

「あぁ、そうだぜ。鍾離さん。鍾離さん、もしかして煙緋とは知り合いか?」

 

「いや…、知り合いというわけではないが……」

 

鍾離はそう言うと少し考え込む。どう説明すれば良いのか、と言った具合に。

 

「…まぁ、実は彼女のご両親とはちょっとした知り合いの関係であった、とでも言っておこう」

 

「へぇ、そうなのか」

 

そして鍾離は少し濁すかのように煙緋との関係についてそう説明し、その説明を受けた嘉明は特に疑問を抱く事は無く、納得をした様子で頷く。

 

「話を戻すぜ。それで後は激怒していたその大男達は、行秋や大勢の千岩軍達と共に自分達の同僚である港湾区の大男達に妨げられたことに動揺し、そしてその隙を突くように煙緋が彼らのリーダー達にそのまま話しかけたんだ。まぁ、最初は男達に怒鳴られて聞く耳を全く持たないっていう状態だったがな」

 

「ほぉ…。うむ、それで……?」

 

興味深げそうに、そして感心するかのような表情で鍾離は嘉明のその話を聞く。

 

「あぁ、だが煙緋は自分の身分、天権直属の『外部特別顧問検察官』という身分を明かし、そうして自分が千岩軍の将兵達や七星八門や月海亭の職員達の指揮を執り行っていると言った事で彼らの意識を向けさせ、そして興味を抱かせたんだ。そして彼女は彼らと色々と話し合う事で冷静な状態にさせていって、そうして激怒していた彼らを鎮静化させていったんだぜ。そしてあの人はその男達を味方にさせて自分達の元に合流させたんだ」

 

「成程…。煙緋殿、見事な手腕だ……」

 

「あぁ、本当だぜ。まさかあんな鮮やかに奴らを味方にしちまうなんてな…」

 

鍾離は嘉明のその話を聞いて感服したかのようにそう呟き、嘉明もそれに同意する。

 

「まぁ、ともかく煙緋や行秋と合流した俺は、そのまま彼女にここへと向かうように言われたんだ。彼女はこの港湾区で一番騒ぎとなっている場所をそれぞれ回っているようで、時間はかかるが次のその場所を収束させたら、またここに来て俺達と合流するという事だったぜ」

 

「一番騒ぎとなっている場所か?」

 

「あぁ、そうだぜ。鍾離さん。なんでも煙緋の向かったその場所は追い詰められた過激派達を巡って千岩軍の兵士達に港湾区の男達、総勢数百名以上にも上るほどのそれぞれが睨み合いをしている場所とのことだったらしいしな」

 

「なんだと…!?」

「嘘でしょ!?」

「えっ…!?」

「えぇっ…!?」

 

嘉明のその言葉に鍾離と胡桃達は驚愕し、雲菫と香菱は驚いた様子を見せる。

 

「あぁ、本当だぜ。だが彼女曰く、そこが今回の騒ぎの正念場という事みたいだ。な、行秋」

 

「その通りだよ。嘉明」

 

行秋は嘉明の言葉に同意するように頷く。

 

「現状、どうやらその場所が港湾区のこの騒ぎの最大となっている場所のようなんだ。だからそこを収める事さえできれば、この事態の峠は超えられたのも同然、と煙緋がそう言っていたよ」

 

「あぁ、そうだぜ。状況的に千岩軍と男達が衝突してしまう可能性が高いのはそこだけみたいで、そこさえ収められれば残りは散発的な事のみだから、この騒動の騒ぎを沈静化させていく事が出来るという話だったんだが…」

 

嘉明はそう言うと再び目の前で千岩軍達と男達がいがみ合い、そして互いに怒鳴り合っている光景を見ながら首を横に振る。

 

「まさか、ここもこんな事になってるなんて思いもしなかったぜ」

 

「本当にだよ。ここも煙緋が向かった所ほどではないけど、それでも酷いね」

 

嘉明と行秋は目の前の光景にそう感想を漏らす。

 

 

 

「_ふむ、成る程…。だが、どうすればこの局面を打開できるかは分かった」

 

「_そうだね、鍾離さん。煙緋が、彼女がこの場に現れてくれさえすれば…。だけど……」

(彼女がここに来るまでにこの状況を維持、保たせる事が出来るのかな……)

 

だがそんな二人に鍾離は頷きながらそう言い、胡桃もまたそれに同意するように頷きながら難しそうな表情で考える。

 

 

目の前のこの騒動、煙緋が向かった千岩軍と男達が睨み合っている状況と同じではあるが、この場所もこの場所で彼らがいつ衝突してしまってもおかしくはない。

 

煙緋がここに来るまでどれくらいの時間がかかるのかは予測が付かないし、また目の前の彼らが衝突寸前の状況であるが故に、もうどんなに小さくて些細な出来事だったとしても、それがきっかけで一気に事態が最悪の状況へと転がって行ってしまう可能性があった。

 

 

「………」

 

胡桃は無言になる。

 

 

煙緋が向かった総勢数百人以上という大規模な規模には及ばないものの、この場にいる千岩軍の兵士達と港湾区の男達は合わせて百人以上はおり、それなり以上の規模でそんな千岩軍と大男達が互いに睨み合うような膠着状態となってしまっていた。

 

仮にこの場にいる男達が衝突してしまえばその規模からして、そう簡単には収拾がつかない事態になってしまうだろう。

 

だが、それでも煙緋がこの場に来るまでこの状況を保たせなければならない。

 

 

実際に出来るかどうかは分からないが。

 

 

 

「………」

「ま、間に合うのでしょうか…」

「それまで持つのかな……」

 

そして鍾離や雲菫に香菱達も同じ懸念を抱いたのか、彼は独り訝しみ、また彼女達は不安そうな様子を浮かべながらそう呟く。

 

 

 

 

「っ……。ふぅ、はぁ」

 

そうして彼らと同じく不安に襲われていた胡桃は、それを振り切るかのように目をギュッと閉じ、そして大きく息を吸っては吐いて気持ちを切り替えた。

 

 

 

「_ありがとう、嘉明。教えてくれて」

 

「おぅ、胡桃」

 

気持ちを切り替えた胡桃は嘉明にそう礼を言うと、彼は頷きながら彼女にそう言う。

 

 

 

「_行秋。次は行秋の番だよ。行秋のこれまでの経緯を教えて」

 

胡桃は真剣な表情を浮かべながら行秋にそう言う。

 

「うん、分かった。胡桃。ここまでの経緯についてを説明するよ」

 

行秋も真剣な表情で頷いて答える。そうして彼も嘉明と同じようにここまでの経緯を胡桃達に説明し始める。

 

 

「_話は少し長くなるんだけど、まず実は僕の商会の所に多数の千岩軍の兵士達と職員達がやって来て、そして僕の父上や商会の幹部達の身柄を一斉に取り押さえ始めたんだ」

 

「はっ…!?」

 

「えっ、そうだったんですか…!?」

 

行秋が話したその事実に嘉明、また胡桃達からその事を共有されていなかった雲菫も驚く。

 

「あっ。行秋、それ知ってるよ!!…えっと確か、行秋の商会の幹部は逮捕の為の身柄の拘束だけど、お父さんの場合は保護のためでしょ?確か、私の記憶が正しければ」

 

「おや?うん、合っているよ。胡桃。知っていたんだね、胡桃は」

 

胡桃のその言葉に行秋はそう反応する。

 

「うんうん、知っているよ。確か行秋のお父さんが保護の名目で押さえたのは、反刻晴派に協力していた幹部達やその一派達が逮捕されると同時にお父さんを保護しないと口封じのために危害を加えられるかもしれないから、でしょ?」

 

「うん、その通りだよ。胡桃。それでお父さんは千岩軍の人達に連れられて総務司、そして月海亭の方まで連れて行かれたんだ」

 

「へぇ、成る程な…」

 

「そんな事があったんですか…」

 

胡桃の説明に行秋は同意するように頷きながらそう言い、そして彼らの話を聞いていた嘉明と雲菫は行秋のその話に頷きながらそれぞれそう呟く。

 

「あぁ、そうだよ。嘉明、それに雲菫。あの時は本当に驚いたよ。保護とはいえ、いきなり僕の父上が、それに兄上までもが千岩軍に身柄を抑えられたんだから。本当に焦ったよ…」

 

行秋は当時何が起こったのかを胡桃達に話すと、少し疲れたような様子を見せる。

 

 

「…そう言えば、胡桃」

 

「な~に、行秋」

 

「胡桃って、どうして僕の父上や商会の幹部達が千岩軍によって取り押さえられたって言う事を知っていたんだい?」

 

「あー、それ?」

 

行秋は胡桃にそう聞くと、彼女はそのまま答える。

 

「えっとね、実は私達がここに来るまでの間も、私達は職員達や千岩軍の捜査に協力、彼らと同行して共に調査をしていたんだよ」

 

「職員達や千岩軍の捜査に協力?彼らと同行したのかい?」

 

「その通りだ。行秋殿」

 

胡桃の説明に行秋がそう言うと、鍾離はそれに答えるように頷く。

 

「堂主殿の言う通りだ。実は俺達がこの場に来たのも、職員達の代表殿に煙緋殿の支援を、そしてそのために行秋殿と合流してほしいと言われたからだ」

 

「はい、そうです。茶館にやってきた千岩軍の伝令兵さんから鍾離さんは状況を聞き、そして代表さんからお願いされたため、私達この場にやって来ました」

 

「そうだよ。因みに私達の経緯というのは、最初に私が千岩軍と職員さん達の聞き取り調査に協力し、そうして情報を持っている有力そうな人物がいないかと聞かれたらちょうど鍾離さん達が現れて、そこから話の流れで行秋の飛雲商会の話、雲菫の和裕茶館の話、そして千岩軍や職員さん達と共に茶館を訪れて雲菫に協力をお願いして、そうして私達はこの場に来たというのが経緯だよ」

 

鍾離、また雲菫と香菱は胡桃のその説明に補足するかのような形でそう話す。

 

「そうだったのか…」

「成程、そう言う事だったんだな…」

 

そうして行秋、また嘉明も彼らのその説明に納得を示す。

 

 

「うん、そう言う事。行秋。さてと、それでそれで?行秋はそのあとどうしたの?」

 

そして胡桃は行秋にそう尋ねる。

 

「うん。その後の事なんだけど、とりあえず僕は千岩軍による確実な保護を受ける為に総務司への移動を求められた父上と、聞き取り調査の為に総務司までへの同行を求められた兄上と行動を共にするように、父上達と共に千岩軍に連れられて総務司の方まで向かったんだ」

 

「うん、そうだったんだね。それで?」

 

「うん。それで総務司に辿り着いた僕達はそれぞれ別れる事になって、そうして総務司を訪れた僕も別室で聞き取り調査に応じる事になったんだよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

「ほぉ、成る程…。因みにどのような事を聞かれたんだ?」

 

胡桃の相槌の後に鍾離がそう尋ねる。

 

「うん、僕の場合だと反刻晴派に協力していた幹部達の行動範囲、それに普段行っていた場所や訪れていた場所、また逃亡を許してしまった一部の彼ら、僕の商会の彼らが向かいそうな場所についてを尋ねられたんだよ。“煙緋”さんに」

 

「えっ!?煙緋!?」

「なっ…!!」

「えっ!?そうなんですか!?」

「そうなの!?」

「おぉ!?マジか!?」

 

行秋から出た“煙緋”という言葉に胡桃と鍾離達、そして嘉明が驚いたのであった。




次回はこの続き、行秋の煙緋との聞き取り調査の話からです。

とりあえず完成して問題が無い事が確認できたら、そのまま投稿したいと思います。
(尚、今までと今現在の随筆スピードやこれまでの投稿ペースからして、おそらく二週間後辺りになるかと思います)


それでは次回の投稿まで、また気長にお待ちください。
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